蛇寮の獅子   作:捨独楽

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悪魔の罠を突破したハリー、ロン、ハーマイオニーは、ザビニを置き去りにして先へと進んだ。ルーモス(光よ)で部屋を照らし、先へと進む間、ハリーは自分の胃がひっくり返るような感覚に襲われていた。

 

(……ザビニが無事だったのは運が良かっただけだ)

 

 ハリーは石を守るために仕掛けられた罠が、自分達にとってはかなり難しいものだと実感していた。悪魔の罠は暗黒を好み、増殖した蔓はハリーたちの首を絞めるのにも容赦がない。この先に、ハリーたちの手に負えない罠が潜んでいても不思議ではない。

 

「……ちょっと待って二人とも」

 

「どうしたハリー。先に進もうぜ。ザビニだって俺らのことを待ってくれてるんだぞ」

 

 ロンはハリーを急かしたが、ハリーは一度慎重になった。ハリーは悪魔の罠の燃えかすを取り出して、変身魔法で青い羽の蝶々に変えた。

 

「こいつを先に進ませて、戻ってくるかどうか確認する。もしも戻ってこなかったら、この先には悪魔の罠みたいな、厄介な罠があるかもしれない」

 

「焦れったいな……!」

 

 この期に及んで慎重さを見せたハリーに、ロンははじめて苛立ちを見せた。

 

「いいえロン。私もハリーに賛成よ。ハリー、私もいい考えだと思うわ。ロン、レベリオは使える?」

 

「そりゃ俺も使えるけど……レベリオなんて今何に使うんだい?顔の汚れを落とすの?」

 

「レベリオは汚れ落としじゃありません!」

 

 漫才をはじめそうになったロンとハーマイオニーをみて、ハリーは少し笑った。笑い声に反応したロンとハーマイオニーがハリーをじっとりとした視線で見てきたので、ハリーは咳払いして誤魔化した。

 

「じゃあ、蝶がもしも戻らなかったらロンは前方の空間に向けてレベリオして。罠があるか、フラッフィーみたいな怪物がいるかのどれかだと思う」

 

 ハリーは何とか全員無事に先へと進み、賢者の石を、例のあの人の信奉者より先に手に入れたかった。ハリーはこの時グリフィンドール生のような勇敢さではなく、スリザリン生に共通する保身能力を発揮した。あえて速度を落としてでも、誰かが死ぬ可能性は極力減らしたかった。

 

 そして、ハリーたちは無事に次の部屋へとたどり着いた。蝶々は無事にハリーの手元に戻ってきた。ロンは耳を澄ませて、部屋の先から何かの音がすると言った。

 

「……なんか……風をきるような音がするぞ」

 

 部屋に突入したとき、音の正体がなんであるのかはわかった。無数の光輝く鳥が、部屋のなかを自由に飛び回っていた。

 

「蝶々は無事だった。だから、この鳥たちも襲ってはこない……と思う」

 

 ハリーは慎重に言った。

 

「先に進むよ。ロン。ハーマイオニー、鳥が何かしてきたら援護をお願い」

 

 

 ハリーは曖昧な指示を出して、奥の扉へと駆け出した。扉までの間に、ハリーは鳥にすれ違ったが、蝶々と同じようにハリーが攻撃されることはなかった。ハリーは間近で見た鳥は嘴もなく、ただ魔法で動かしているだけの棒に羽がくっついているだけだと気がついた。

 

(……もしかしたら、扉を開けた途端に攻撃してくるかも……)

 

「ハーマイオニー、ロン、気を付けて!!」

 

 ハリーは二人に注意を促して。扉に向けて杖を構えた。

 

「アロホモラ(開け)」

 

 しかし、何も起こらない。ハリーは扉をもう一度よく見て、しっかりと錠がかかっているのを知った。一際大きい鍵が必要だった。

 

「……鍵がない!ロン、ハーマイオニー、鍵がどこにあるか分かる?!」

 

「もしかしてこれ、この中から探せって意味なんじゃないか?箒が置いてある。ご丁寧に五本も」

 

 ロンは部屋を探索して、ロッカーにあった箒を持ち出していた。フーチ教授の飛行訓練のときに使ったものと同じくらい古い。

 

「この中から探すしかないか。二人とも、箒に乗って探そう」

 

「よーし、箒なら俺もハーマイオニーより上手いぞ!」

 

 ハリーとロンが意気込んで箒にまたがったとき、ハーマイオニーは適切な助言を二人に与えた。

 

「ハリー、ロン。私、遠目から小鳥たちを観察していたんだけれど。小鳥たちのなかで大きめの鳥は、時々星座のように模様を描いてとどまることがあるの。今、オリオン座のように動きを変えているわ」

 

「……もしかしたら。一番光る星のところに鍵があるかも?」

 

 ハーマイオニーは小鳥たちの動きのなかに、規則性があることを見抜いていた。ハリーたち三人は半信半疑になりながら鍵を探して飛び回った。

 

「リゲルのところにはないわ!ロン。そこはさっき確認したの!!次は左に飛んで!!」

 

 飛び回りながらハーマイオニーが叫んだ。ハリーも天文学の知識を思い浮かべながら、鍵持ちの鳥を探し回った。

 

「……あった!ベラトリックスのところだ!!ロンは上から、ハーマイオニーは下から追い込んで!!」

 

 ハリーは思わずそう叫んだ。大きな銀色の鍵が、他よりも少しだけ飛びにくそうに空を飛んでいた。ロンとハリーの尽力のもと、ハーマイオニーは加速で息を切らしながら三人で力を合わせて羽を追い込み、ハリーは何とか鍵を捕獲することができた。ハーマイオニーは聡明ではあったが箒の扱いに関しては、ロンやファルカスやザビニのほうが上だった。ハリーはこのときは側にザビニたちがいないことを寂しく思った。

 

 

「よし、上手くいった!完璧だ、そうだろハリー!」

 

「うん。これで罠が終わりだといいんだけど……」

 

 ハリーは扉を開けながら、三人が無事に前に進めることを喜んだ。何はともあれ、五体満足で誰も欠けることはなかったのだ。それで満足すべきだった。

 

「これはフリットウィック教授とシニストラ教授の考案だと思うわ。悪魔の罠はスプラウト教授、フラッフィーはハグリッドだから……」

 

「スネイプ教授やマクゴナガル教授のものもあるはずだね」

 

「絶対俺たちを殺す気でくるやつだ……」

 

 ロンが絶望を知った顔をした。

 

「罠に飛び込んでいってるのは僕らだけどね。心構えができたほうが楽だよ」

 

 

 ハリーは例によって蝶々を扉の先へと進めたが、青い羽はもがれることもなくハリーのもとに戻ってきた。そのことに安心してハリーたち三人は、次の部屋へと足を踏み入れた。

 

 部屋に一歩足を踏み入れると、ルーモスの光ですら意味をなさない暗闇から一転して部屋が明るくなった。目の前に広がる光景を見てハリーはうめいた。

 

「……チェス……!?」

 

 ハリーはチェスは強くなかった。元々遊び相手がいなかったせいもあったが、ザビニたちとチェスをしたときのハリーの勝率は三割を切っている。近頃はそれでも、ハリーの次にチェスが弱いザビニが相手ならいい勝負にはなってきたが。

 

 ロンによると、魔法使いのチェスは自分が駒に乗って戦わなければならないらしい。自分の乗った駒が取られたとき、どんな目にあうのかは考えたくなかった。

 

「これは……一人一人挑戦すべきなのかな?僕がやるよ」

 

 ハリーはいっそ悲壮な決意を固めて言った。ハリーが最初に戦えば、たとえハリーが負けたとしても相手の手筋はある程度わかるはずだ。

 

「いや、待ってくれハリー。俺が全部やるよ。……気を悪くしないでくれよ。これでもハーマイオニーより強いんだ」

 

「思わないよ、凄いじゃないか?!」

 

 ロンはハリーの言葉に何も言わなかったが、耳を少し赤くした。

 

「じゃあ、いくぞ。ハリーはビショップ、ハーマイオニーはルークに乗って」

 

 ロンの指揮のもとで、魔法のチェスは淡々と進んでいった。はじめてロンの駒が相手に取られたとき、相手の駒はハロウィンのとき遭遇したトロル以上の速度で、一瞬にしてロンの駒を粉々に打ち砕いた。

 

「ひっ……」

 

 

 ハーマイオニーは思わず息を飲んだ。ハリーも震えが止まらなかった。もしも、相手の攻撃で自分のビショップが破壊されたら?ロンやハーマイオニーの駒だったら?

 

「二人とも、俺を信じて」

 

 ロンはそう言って、淡々と駒を進めていった。ハリーたちが先の展開を考えるよりずっと早くに、盤上の駒はせわしなく動き回った。そして、ハリーやハーマイオニーが次の手を考えるよりも、ロンと相手の駒が先の手を読み合う速度のほうがずっと早いのは確かだった。

 

「……詰めが近い」

 

 ロンは唐突にそう言った。

 

「ダメよ!!」

 

 ハーマイオニーはそう叫んだ。ハリーも叫びたかった。だが、ハリーには何もできなかった。

 

(ボンバーダでロンを襲う駒を吹き飛ばしてやりたい)

 

 ハリーは心の底からそう思ったが、それをすれば、この魔法でどんな罰を受けるのかわからなかった。何より、それをすれば。ロンのこれまでの戦いを無駄にすることになってしまう。

 

「俺の駒が一歩進むと取られるから、ハリーがキングにチェックをかけてくれ」

 

「ロン……ボンバーダで、相手の駒を吹き飛ばしても……」

 

 ハリーの理性は感情に負けようとしていた。ロンが死ぬかもしれないと思うと、何とかしてロンの駒が取られるのを回避したかった。

 

「ダメだ、ハリー。これがチェスなんだ。……もう、もしかしたら敵が石を奪ったかもしれない。ザビニのところを通り過ぎてこっちに来るかもしれない。どれだけ怖くたって前に進まなきゃ、何も得られないんだ、ハリー」

 

 ロンは蒼白になりながら、誰よりも勇敢だった。ハーマイオニーが目を瞑って何かに祈りを捧げるのを見ながら、ハリーは自分達が魔法使いなんだということを思い出した。魔法使いに神はいない。

 

 無慈悲な鉄槌が、ロンの乗る駒を粉々に打ち砕いた。ハリーはキングにチェックをかけると、ハーマイオニーと一緒にロンのところに駆け寄った。

 

 

 誰よりもグリフィンドールらしいグリフィンドール生は、石のように硬直して瓦礫のなかに埋もれていた。しかし、目だった外傷はなかった。

 

「……きっと失神呪文だわ」

 

 とハーマイオニーは言った。肉体へのダメージを最小限にして意識を刈り取る。そういう魔法がかかっていたらしい。

 

 

「ロン、必ず石を取って帰ってくる」

 

 ハリーは意識のないロンにそう誓って、警戒のために蝶々を、扉の先に進ませた。

 

 蝶々は、ハリーのところへは戻らなかった。

 

 





最後には自己すら犠牲にして前に踏み出せるグリフィンドール。
臆病さゆえに死なないための手段を考えるスリザリン。
どちらも本来は必要なものなんですよねえ……
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