蛇寮の獅子   作:捨独楽

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スリザリンの魔女の末路

 

(……ここ最近の流れは、良くないわね……)

 

 ハーマイオニー・グレンジャーは懸念を抱いていた。

 

 フレッドとジョージというハーマイオニーも手を焼いた双子が居なくなり、ホグワーツの水面下に潜んでいた不良達はこぞってアンブリッジを愚弄しようと潜伏をやめた。

 

 皆、双子に敗北しあるいは感服して大人しくしていた不良界の銀メダリスト達である。ピーブズの号令を受けて蜂起した不良達は、ドロレス・アンブリッジの支配を打倒する英雄としてホグワーツ生達から歓迎された。

 

 そしてハグリッドのためにアンブリッジに立ち向かったハリーに対する評価は割れていた。

 

 アーニー・マクラミンのような真っ当な自制心を持つ学生達は、ハリーに対して恐れ遠ざかった。アンブリッジ云々とは別に、オーラー達は魔法界における軍人であり、警察である。怒り狂ってオーラー達に突撃していくハリーに恐怖心を抱くのは当然だ。

 

 

 が、一方でハリーに対して好意的になる生徒達もいた。元々ハリーに対して隔意を持っていなかったシノやザムザといった生徒達だ。ハーマイオニーは彼らが何を考えているのかと正気を疑った。

 

「……シノ。あまり目立ちすぎるなよ。君も自分の身は大切にするんだ」

 

 裏の集会において、ハリーはシノをそう注意した。シノもポスト・ウィーズリーの座を狙う者の一人で、アンブリッジ親衛隊のマルフォイにこてんぱんにされ、アンブリッジの体罰を手に受けたからだ。

 

「魔法使いにとって手は命の次に大切にすべきものなんだ。感覚が狂ったら大変だろう?」

 

 マートラップのエキスから煎じた軟膏をシノの手に塗りつけるハリーの様子に別段おかしなところはない。ハーマイオニーから見て普段のハリーそのものだ。だからこそ、ハーマイオニーは違和感を感じていた。

 

(ハリーは何を隠しているの……?)

 

 ハーマイオニーがそう感じたのはグロウプのケアが落ち着いて、裏の集会に顔を出せるようになったからだった。突然ハグリッドが居なくなったことでグロウプは『捨てられた』のではないかと思い塞ぎ込みがちで、そうではないのだとグロウプに言って聞かせるのに必死で他のタスクに気を回す余裕もなかった。

 

 気付いてみれば、DAも裏の集会も様変わりしていた。DAではハリーに対する畏怖が、裏の集会ではハリーへの期待が高まっていた。

 

 グリフィンドールの四年生、シノもその一人だった。

 

「シノはハリーが怖くはないの?」

 

 ハーマイオニーがそう訪ねると、シノはそうっすねと考える素振りを見せた。

 

「そりゃこえーに決まってるじゃねーすか。おっかねーす。先輩も見たでしょ?俺も校舎から見ましたよ、ポッター先輩がかっとんでいくところ」

 

 シノに訊いてみれば即答だ。ハーマイオニーは現在の裏の集会の流れを危惧していた。

 

 ハリーへの信頼と期待が高まるのはいい。しかし、どこかに落とし穴があるような気がする。

 

(……一理はあるわ。けれど……)

 

 ハーマイオニーは危うさを感じていた。

 

(前に進むことしか知らないのは良くないわね……)

 

 ハリーの行動によってハリーの求心力は上がり、裏の集会は結束を強めた。しかしそれが皆の暴走に繋がるのではないか、と。

 

「正直に言えば、ハリー先輩はまともじゃねぇっす。先輩も見たっすよね、突っ込んでいく姿を。」

 

「……ええ。」

 

 ハリーがロンを三対三のチームメイトとして勧誘している間、ハーマイオニーはシノの言葉に頷いた。

 

 天文学の試験場にはハーマイオニーもいた。しかし、ハーマイオニーはハリーを止めることが出来なかった。

 

「あれは本気でやべぇ人の目だと思ったっす。……でも」

 

「俺たちは『例のあの人』に、『デスイーター』っつー、魔法省もスニッチを追うことを諦めるような本気でやべぇのを相手にしてるんすよね?」

 

 

「……ええ、その通りよ。ファッジは無抵抗主義を選んだわ。……そのせいでこんなことになっているの」

 

 ハーマイオニーとしても馬鹿馬鹿しいとしか思えなかった。テロリストに対処すべき立場の魔法省が役割を果たさないばかりか、自分達を追い込んでいく。実質的には敵とすら言って良かった。

 

「ならあんくらいイカレた大将じゃないとやってけねーっすよ。そうでしょ?」

 

 シノはごくごくと備え置いていた水を飲み干す。

 

「……かー、うめぇ。……俺たちは『無理』って思うようなことをやっていってはじめて大人達と同じ土俵に上がれるんす」

 

 口調とは裏腹に、シノの表情は真面目そのものだ。

 

「ポッター先輩ならオーラー相手に立ち回れる。つーことは、ここでのやり方もオーラーを相手にしてるデスイーター相手に通用する可能性が高いってことっす。良いことじゃないですか?」

 

『シノは言動こそ軽いけど、単なる馬鹿でもないんだ、ハーマイオニー。生き残るために何をすべきか考えた結果として、明るいバカを演じているんだ』

 

 ハーマイオニーはハリーがそう言っていたのを思い出した。アンブリッジに対して反抗したのも、ハリーがアンブリッジ相手に反抗したから、という部分はあるのだろう。

 

「そうね。シノの言っていることは正しいわでもね」

 

 分かってはいるのだが、ハーマイオニーも注意をしなければならなかった。浮わついた雰囲気が蔓延するのは困るのだ。

 

 ホグワーツ生の特性として、一人一人では正しい判断が出来るし、考える頭を持っているのだ。しかし、いざ集団となったとき個人の正しい考えは封殺されてしまう傾向にあった。

 

 周囲から浮きたくない、友達と意見を違えたくはないという当然の心理。ハリーにもハーマイオニーにも覚えがある。だからこそ、コントロールは可能にしておきたかった。

 

「普通に出来ることを少しずつ積み重ねていくことが大切なのよ、シノ。ハリーも言ったでしょう。防衛術の基本はまず逃げること。ハリーを基準に考えてはいけないわ」

 

「いざってときにあーやって前に出てくれる大将ってすげぇ頼もしいっすよ?俺はポッター先輩についていくっす」

 

 シノの意見にはハーマイオニーも一部賛成できる。

 

 現場で闇の魔法使いと対峙しているとき、正面から撃ち合えるハリーのような戦力は頼もしい。

 

 自分達はどこまでいっても子供で、オーラーとしての訓練を受けてはいない。覚えているスキルも魔法も本職のそれとは異なる。

 

 が、ハリーがオーラー相手に立ち回ったことはひとつの指標となる。自分達のやり方は一定の強さを持っていると証明されたからだ。

 

 ハリーの行動はハリー本人にとっては暴走そのものであった。が、裏の集会においてはハリーの求心力の強化に繋がった。

 

 なぜなら、いざというときの行動力がある人の方が求心力を得やすいからだ。

 

 人は強いリーダーというものを求める。特に状況が悪いときほど勇気を宣伝し、勇敢さを讃えることで人々を鼓舞しなければならない。それには、分かりやすく強く、仲間を守るというハリーの姿勢は心強く見えるのだ。

 

 平時においては狂犬としか見えないハリーの身内は絶対に守るというスリザリン的思考とグリフィンドール的勇気の合わさったハイブリッドスタイルも、今が平時では無く戦時だと理解しているシノやザムザにとっては狂犬ではない。

 

 頼れる理想のリーダーそのものなのである。

 

 それは好ましいものであると同時に、一抹の危うさもあるのだということをハーマイオニーは伝えたかった。が、そんなハーマイオニーの肩に手が置かれた。

 

「ハーマイオニー、シノ。3対3の戦いでは僕と組んで頂けますか?owlが終わってから気が抜けてしまってましてね。少し自分を戒めたいんですよ」

 

「え、ええ。構わないわ、アズラエル」「オーっす!宜しくお願いします、アズラエル先輩!」

 

 ハーマイオニーは懸念を伝えること無くチーム戦に戻った。

 

 

(……せめてラベンダー達が居てくれたら違った意見も出せたのかしら。……いったいどうしたんだろう。試験が終わってから、二人ともめっきり姿を見せなくなった……)

 

 ハーマイオニーはもどかしい違和感を感じながらも、アズラエル、シノと共にハリー、ネビル、ロンの三人に挑んだ。

 

***

 

(……危ないところでしたね……)

 

 ブルーム・アズラエルは内心ほっと溜め息をついた。『最近は悪役顔が板についてきた』とルナから評される彼の顔は、悪巧みしているかのように笑っている。

 

(ハーマイオニーには悪いですが、折角ハリーを推す流れが出来ているんです。ここでその流れを断ち切るのはよくありませんからねぇ……)

 

 現在裏の集会を支配しているのはハリーであり、この流れを快く思っているのはアズラエルだった。

 

 DAで人を集め、見込みのありそうな人材をスカウトして裏で真の仲間とするという計画は思った通りには進まなかった。

 

 ハリーが後輩たちのためにとアンブリッジの支配下に下ってしまったというのも一因である。しかし、一番の問題は生徒達が戦争に参加したいという意欲がないことだった。当たり前の話だが、ホグワーツ生は士官候補生でも闇祓い志望者の集まりでもない。闇陣営と本気でやり合いたい人間などそうはいないのだ。

 

 ラフタ・フランクやカロー姉妹のようにDAをナンパ会場か何かと勘違いしている者(決闘クラブと違って恋愛禁止ではないので仕方ないのだが)。

 

 ブラウンやパチルのようにハリーに対して過度な期待、あるいはザカリアスのようにうっすらと敵意を向けてくる者。

 

 七年生のタービン達のように、セドリック個人の友人であるだけのノンポリティカル(政治運動に興味がない人々)。

 

 ハリーに立つ悪評を信じ遠ざかるレイブンクロー生のゴールドスタイン達。

 

 そしておそらくリベラル寄りの思考を持ってはいるが、ハリーに関わるほどではないというワルデンやアレイスターのような普通の人々。

 

 DAメンバーの中で仲間になってくれたのはほんの一握りだ。その一握りの士気を保つことが重要だとアズラエルは考えていた。

 

 ネビルの毒草によって足元を覆われ、ハリーの上空からの魔法によってじり貧に追い込まれ、ロンが駄目押しのコンジュレーションで産み出した動物達に包囲されたアズラエル達は健闘空しくハリー達に敗北した。

 

 戦闘後、アズラエルはネビル・ロングボトムと握手を交わした。

 

「本当にやられましたよ。……しかし、こんなに普段の訓練で毒草を使っていて大丈夫なんですか?」

 

「うん。あの毒草は雑草なんだ。使っても使っても生えてくるやつだから……」

 

「毒草が雑草のように生えるってソレ不味くありませんか?」

 

「地中の成分と魔法力と反応して出来てしまうんだ。だから仕方ないよ」

 

 そう言った後、ネビルは毒草について補足する。

 

 

「でも一応、塗り薬の素材にもなるよ。捨て値だけど」

 

「……うーむ、上手くすれば原価ゼロでの薬が作れるわけですか。……怪しい匂いを感じますねぇ……」

 

 アズラエルが高く評価しているのは、ネビル・ロングボトムである。

 

 ネビルの魔法の腕そのものは突出してはいない。基礎魔法とエクスペリアームスを修得こそしたが、それ単体は特筆するものではない。

 

 しかし、ネビルにはヴォルデモートに対抗しようという確固たる動機があった。その一点で、アズラエルはネビルを仲間だと思っていた。

 

「この調子ですよ、ネビル」

 

 アズラエルははじめてネビルを名前で呼んだ。

 

「今ダンブルドアが居なくなり僕たちにとっては逆風です。ですがこういう時こそ、団結を固めてチームとしてのスキルを伸ばさなくてはいけません。……来年度はミカエル達もowlですし、この集会は今後も重要になってくるでしょう」

 

「……デスイーター達に思い知らせるために、僕も出来る限りのことをするよ」

 

 そう言ってネビルは少しだけはにかんだ。

 

「温室で植物や虫達と向き合ってみるのもいいけど……変な気分だよ。DAや裏の集会で皆と一緒に何かをするのは別の楽しさがあるんだ。だからずっと続けるよ」

 

「そうでしょう」

 

 アズラエルは満足そうに頷いた。

 

 アズラエルは恐れていた。ファルカスを失ったことで自分は怒りにかられた。ハリーもザビニも、ロンだってそうだったはずだ。だが怒りに飲み込まれて前に進めていない自分とは違って、周囲の皆はファルカスの復讐を忘れて前に進んでいるのではないかと疑ってしまう。

 

 だからこそ、根底にデスイーターへの憎しみがあるネビルのような友人はアズラエルにとって必要だった。憎しみを共有できる友をアズラエルは欲していたのである。

 

***

 

「今日の自習だけど、ハグリッドの小屋の焼け跡から見つかった卵を使おうと思う。皆はこの卵が何だか分かる?」

 

 ハリーは冷凍された卵を生徒達の前に広げた。ダフネが触ろうと手を伸ばすので、ハリーは視線でそれを止めた。

 

 シェーマス・フィネガンが真っ先に挙手したのでハリーはシェーマスを当てた。シェーマスは意気揚々と語った。

 

「焼け跡ってことはサラマンダーだろ?」

 

「不正解。ノット、どうぞ」

 

「……アッシュワインダー」

 

「その通り。owlのテストでは出なかったけどね」

 

 ハリーはハグリッドが居なくなり教授不在のままの魔法生物飼育学において、自分の授業だけは教師代行を買って出た。ハグリッドが戻ってきたときの負担を減らそうという意図もあったが、ブラウンやパチルがやったことに対するハリーなりの責任の取り方でもあった。

 

「アッシュワインダーの特性を知ってる人は?……あー、全部は言わなくていいよ」

 

「アッシュワインダーは赤い瞳と灰色の体を持つ蛇よ。孵化してから一時間しか生きることが出来ないわ」

 

 ハーマイオニーは流石に的確に答えを出す。ハリーも内心ハーマイオニーがいると進行が楽だと思った。

 

「その通り。流石だね。アッシュワインダーは火の中に卵を産み付けるんだけど、燃え後のなかに生まれた卵は放置すると発火して、新しいアッシュワインダーが産まれるんだ」

 

「……あー、ハリーが凍らせたから……」

 

 ロンの言葉にハリーは顔をしかめた。余計なことは言ってほしくはなかった。

 

「……まぁ単なる偶然だね。産まれてから数分で凍らせない限り、アッシュワインダーの卵は爆発的に燃え広がる。だから取り扱いには注意してほしい。」

 

 ハリーが杖を振ると、受講している生徒一人一人に卵が配られる。

 

「ちょろまかそうとは思わないでね。出欠を取ったときに契約魔法もかけてある。盗んだら焼け死ぬよ」

 

「はぁ!?」「……え」

 

 ハリーの脅しにミリセントとトレイシーが憤慨する中、ハリーはさっさと話を先に進めた。

 

「この卵はある魔法薬の原料になるんだけど、知ってる人は居る?」

 

 ハリーはその魔法薬にあまり良い思い出はなかった。オクルメンシーを使って淡々と話したが、パンジー・パーキンソンの方にだけは視線を向けなかった。

 

 主に女子達が意味深に目配せをしあった。またしても挙手するハーマイオニーのお陰で話は先に進む。

 

「アモルテンシア(愛の妙薬)よ」

 

「その通り。燃えてもいいならスネイプ教授のところに持っていってみるかい?スネイプ教授はきっと皆に薬を煎じてくれるよ」

 

「その前に俺らがスネイプに燃やされるっつーの」

 

 ロンのジョークにグリフィンドール生は爆笑で、スリザリン生はクスクスという含み笑いで答えた。

 

「お陰で今ホグワーツにはアッシュワインダーの卵が有り余ってる。今日はこの卵を使って授業をするよ。危険な授業だから説明はしっかり聞いて、分からなかったら再度聞き返してくれ。owlの締めに相応しい教材だから」

 

 聞いている生徒達がハリーの言葉をどれだけ本気にしたかは分からなかった。が、ハリーの言葉を遮ることはない。

 

「今日皆にはインセンディオで卵を暖め直し、卵を孵化してもらう。産まれたアッシュワインダーに卵を産み付けさせ、卵を凍らせたら成功だ。いくよ、インセンディオ」

 

 ハリーが卵に向けて杖を振ると、赤色の弱い炎が卵を包み込む。メラメラと燃え広がる卵の中から細長いシルエットが浮かび上がると、クラブとゴイルは歓声をあげた。

 

「……アッシュワインダーはより強い炎を好む。だからインセンディオの出力を上げる」

 

 ハリーがさらに杖を振ると、ハリーの杖からは青白い炎が浮かび上がる。細長い蛇はハリーめがけてはいよってくる。

 

『おはよう、綺麗な目の友達よ。この炎の味はどうだい?』

 

『悪くないわ。もう少しだけ熱い方が好きよ』

 

 アッシュワインダーは炎のように赤い瞳をハリーに向けてくる。ハリーはそれに蛇語で返した。

 

『オーケー』

 

 スリザリン生達はハリーの蛇語について何も思わなかった。が、グリフィンドール生達はただただ息を飲んでいた。

 

 ハリーはそんな視線には構わず言った。

 

「青白い炎を好むとされるアッシュワインダーだけど、炎の調整はとても難しい。君たちはそれをクリアして、アッシュワインダーをその気にさせるんだ」

 

 ネビル・ロングボトムをはじめとして何人かは死んだ顔になった。炎の調整でミスをすれば一大事だ。アッシュワインダーの火力と相まって、大惨事を起こしかねない。

 

「……そして。彼らがその気になったら……」

 

「フレイム・グレイシアス(炎よ、凍れ)」

 

 ハリーは燃え広がる炎に産み落とされたアッシュワインダーの卵を凍らせた。

 

「卵を炎ごと凍結させるんだ」

 

『ねぇ、炎を食べてお腹一杯よ。もう少し弱い炎はないの?』

 

『わかった。少し弱めるよ』

 

 ハリーは蛇語でアッシュワインダーとコミュニケーションを取りながら生徒達に説明した。絶句する生徒達を尻目に、ハリーはくれぐれも気をつけてと念を押した。

 

「怪我しないように君たちの身体はプロテゴ・ホリビリスで護らせてもらう。つまらないという抗議は受け付けない。いいね?では、スタートだ。気楽にやっていいよ」

  

 ハリーのパフォーマンスは脅しとしての効果があったらしい。スリザリン生もグリフィンドール生も、ハリーの指示を聞いてよく頑張ってアッシュワインダーを孵化させた。 

 

「フレイム・グレイシアス。……俺も炎の扱いが上手くなったもんだぜ」

 

「感慨深いね、ザビニ。一年生の頃の君に見せてあげたいよ」

 

「うっせ」

 

 炎の扱いに細心の注意を払い、アッシュワインダーが暴走しないように対策して卵を取り出す。この作業は専門の業者がするような仕事である。ハリー達はowlレベルで持てる知識と技術全てを使って、六年生以降に学ぶ専門職、Newレベルの内容をクリアしたのだ。

 

 炎と共に産まれ、燃え尽きて散っていくアッシュワインダーの一生は儚かった。不死鳥と同じく生態として炎と共にありながらも、蛇は炎の中では長くは生きられないのだ。

 

 残念ながら卵を産ませるところまでいかない生徒達もいたが、ハリーが蛇語でアッシュワインダー達を看取りながら卵を回収した瞬間に授業の終了を告げるベルが鳴った時、生徒達はホグワーツ城への帰路についた。

 

 生徒達は蛇語という異様な才能に圧倒されていたが、ハリーの授業で着目すべき点は他にあった。生徒達に怪我人がでないように安全管理を徹底したことである。が、生徒達の大半は蛇語にばかり着目してしまい、安全対策について言及する生徒はほぼいなかった。

 

 結局のところ魔法族の安全意識はルーズであり、ルーズであるからこそ良いのだとハリーは痛感した。そういう前提で対策をすることは間違っていないとも思った。

 

「ルナ・ラブグッドはこの授業に立ち会えなかったことを悔やむわね」

 

 とダフネは言ったが、ハリーは必要ないさと返した。

 

「ルナなら自力で僕のやったことをやってのけるさ。彼女はそういう魔女だ」

 

 そうハリーは言ったが、今回ばかりはダフネが正しかった。次の日、授業が終わったばかりのハリーのもとにルナがやってきた。

 

 ルナにアッシュワインダーを見せて欲しいとせがまれたのだ。

 

「……いや……これは君一人で考えた方が……」

 

 ルナの才能を買っているからこそ自力でたどり着いて欲しいと思いハリーが断ろうとしたとき、コリン・クリービーが駆け込んできた。

 

「大変です、ハリー!オーラーがやってきました!」

 

***

 

 生徒達が自分達で教師のいない穴を埋める中、ドロレス・アンブリッジにとうとう鉄槌がくだろうとしていた。

 

 しかしそれはホグワーツ生が望むような、生徒達の鉄槌ではなかった。

 

「今……何と仰ったの、キシドラ?聞き間違いではなくて?」

 

「いいえ。聞き間違いではありません、ドロレス。貴方には、逮捕状が出ています」

 

「……なぜ?何の容疑で?」

 

「ディメンターをマグルの居住区に解き放った罪です、ドロレス・アンブリッジ」

 

 職務に忠実に淡々と語るキシドラの姿を、ドロレスは見た。つい先日まで自分に従っていたオーラーに逮捕されるなど信じられない。

 

(い、一体なぜバレた?いや。思い当たる節はあった……!)

 

 ドロレスは高速で思考を巡らせながら思案する。ドロレスが巨人の写真をファッジへと報告してから、ほぼ間を置かずにファッジが来たことを。

 

(ファッジは焦っていた。私の提案もほいほいと通した……。それは何故だ?十分に時間をかければ、ハグリッドの一件を理由に理事会を通してダンブルドアを降ろすことは出来た筈なのにだ)

 

 ドロレスは権力を行使できることに対して酔っていたために気がつかなかった。しかし、思い返せばファッジの対応は強引で性急すぎたのだ。

 

 オーラー達への対応を現場に詳しいドロレスに一任したのも常識的に考えれば妥当な判断だ。

 

 しかし、今思えばそれには別の意味が感じられる。

 

 ファッジはドロレスに。すべての責任を被せようとしていたのではないか。

 

(ま、まさか。まさか、ファッジ……!)

 

 ドロレスがディメンターを操っていたことを知ったファッジは、自分を早々に切り捨てたかったのではないか。その可能性にドロレスは思い至った。

 

 ドロレスがやったことはドロレスの独断だ。だからファッジが切り捨てるのはある意味当たり前のことではある。

 

 しかし、ドロレスの主観では違う。ハリー・ポッターやアルバス・ダンブルドアの失墜を願い、彼らの名誉を貶めた時誰より喜んだのがファッジであることをドロレスは知っていたからだ。

 

(……裏切りやがったなぁ!ファッジ!お前と私は一蓮托生だろうがっ……!!誰がワールドカップのお前のスケジュールを組んで支えてやったと思ってやがる……!?)

 

「……では、同行を願います」

 

 若いオーラーのクォーツによってドロレスは教員室から追い出される。ホグワーツの校舎を歩くドロレスは、救いを求めるように視線を彷徨わせた。

 

 ホグワーツの中に、ドロレスに手を差しのべる人間はいない。それは分かっている。

 

 だがふと今になって、ドロレスは話したい相手の顔を思い浮かべた。

 

 一人は生徒であり、一人は管理人であった。

 

「お待ちになって。少しだけ……話をさせてくださいな」

 

 このホグワーツにおいて唯一ドロレスを裏切らなかった男、アーガス・フィルチの忠誠をドロレスは褒めた。他人から褒められるという経験がついぞなかった男にとって、ドロレスの言葉に多少の意味があったのか、それとも、無意味であったのかはドロレスにとってはどうでもよいことである。

 

 

 次にドロレスがにっこりと笑いかけたのは、ハリー・ポッターであった。

 

「……よいお父様とお母様に恵まれましたわね、ポッター?……あなたの蛮行は、普通ならば一発で退学となりアズカバンに収監されるほどのものでしたわ。……退学にならなかったのは、あなたの力ではありませんの」

 

「……どういう意味ですか、校長先生?」

 

 ドロレスは最後の最後に、自分の失墜のきっかけとなった少年に八つ当たりの毒を残すことにした。

 

「シリウス・ブラックとマリーダ・ブラックですわ。経済的に力のあるジンネマン家やビスト家と、ブラック家の権威。皆それを恐れたのです。決しておまえごときを恐れたのではありません、ポッター」

 

(……そう。私のやり方は間違ってはいない!)

 

 ドロレスは崩壊した己の人生を見返していた。どこかで間違ったという思いはドロレスにはない。

 

(ただ……ただ運がなかった。純血に産まれるという運が)

 

 

 ドロレスはそう思った。

 

「……ですから、ね。せいぜい頑張りなさいな。後ろ楯がなくなる恐怖に怯えながら。自分の無力さに絶望しながら、せいぜい長生きしなさいな」

 

 ドロレスは吐いた毒に満足した。が、ハリーは表情を変えなかったものの、ドロレスにこう言い返した。

 

「……では、僕からも一つだけ先生に伺いたいことがあります。……自分のやり方を変える気は無いんですか?」

 

「いいえ。全く」

 

 こうしてドロレス・アンブリッジはホグワーツを去った。デスイーターではなく、官僚として光の道を歩んでいた筈の魔女の道は、どす黒い野心とねじ曲がった性根によって塗装され、泥のような黒で覆われていた。




後ろ楯を失った半純血の寿命は短い。
世知辛い世の中ですねえ。
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