蛇寮の獅子   作:捨独楽

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ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団

 

 ハリーは目の前のラドン・グリーングラスに反射的にステューピファイを撃った。無防備なラドンはステューピスァイを受けきれず倒れる。

 

「……そこまでだ。動くな、ポッター。リベナイト(蘇生せよ)」

 

 ハリーがラドンを気絶させたことは全く無駄になった。その場に現れたルシウス・マルフォイは、デスイーター達を従えてハリーを止める。

 

 さらに、ルシウスの杖から放たれた蘇生魔法によってラドンはあっさりと起き上がってしまう。

 

「失態だな、ラドンよ。大見得を切っておいて情けないことだ」

 

「……返す言葉もない……」

 

 ラドンが立ち上がると、ルシウスは控えていたゴイルの父親にクイと顎で指示を出した。ゴイルから投げ渡された杖を手に、憤怒の形相をハリーに向けるラドン。

 

 しかし、ハリーの遥か後ろに立つダフネを見るやその表情はたちまち喜びの笑みへと変わる。

 

「良い働きだった、ダフネ。穢れた血どもと行動を共にすることはさぞ苦痛であっただろう。……もう演技をする必要はない。こちらへ戻れ。闇の帝王もお慶びになるだろう。」

 

「オーオー麗しい親子愛とは泣かせるねぇ……」

 

「……最初から……裏切っていたんですか……!」

 

 アズラエルがダフネへと噛みついた。ダフネはわなわなと唇を震わせながら言う。

 

「ち……違う……!違うわ、私は!」

 

「アズラエル、まずは黙ってくれ。ダフネとは無関係にここに来たのは僕がきっかけだ。……夢で僕を誘導したのか?シリウスはどこだ?」

 

「『シリウスはどこだ?』……プフッ……聞いたかい?あの阿呆は随分と子供をたらしこんだものだ!笑わせてくれるじゃないか!」

 

 ベラトリクスを皮切りにデスイーター達の哄笑が響く。

 

(未だ!)

 

 ハリーは咄嗟にセドリックに向けてハンドシグナルを送った。左手で1の形を作る。

 

 1は、撹乱して撤退。2は攻撃。3は留まって応戦。

 

 口頭での指示が聞こえないか、聞き漏らしてしまうか、マフリアートなどで伝達が阻害される乱戦を想定してハリー達はハンドシグナルのサインを決めていた。

 

 単純で、ネビルでも忘れずに覚えられるものを。

 

 ドロホフはハリーを指差してこう言った。

 

「前提からしてズレてんだよお前らは。たった一人のために他の全てを投げ出して助けに来るなんざ、オーラーだろうがオーダーだろうが失格!自分勝手なただのゴミだ。俺達の同類だな!」

 

(乗った!!)

 

 デスイーターたちはハリーへの嘲笑に夢中で、まだハリーの小賢しい企みには気がついていない。

 

「貴様……」

 

 セドリックは演技なのか、ドロホフに……正確には、そのとなりに立つマクネアに殺意すら込めた視線を送った。

 

「……やれやれ、子供のヒーローごっこに付き合っている暇は無いのだ。ドロホフ。控えていろ、交渉の邪魔だ。さてポッター。君達の置かれている状況についてわざわざ私から説明するまでもなかろう」

 

「ベイビーが起き上がって~♪夢を現実と思い込みました~♪」

 

 ベラトリクス・レストレンジは歌うようにハリーを嘲る。追従してザビニの母親をはじめとしたデスイーターがバカ笑いをする。

 

(……)

 

 ハリーは耐えた。反撃の機会はまだある。

 

「……思ったほどには悔しがらないねぇ。つまらない。そこの娘を拷問でもしてやればいい顔を見せるかい?」

 

 ベラトリクス・レストレンジは仮面を脱いでハリー達を嘲ろうと前に出てきた。

 

(感付かれたか!?)

 

 そうハリーが思い、内心の動揺をオクルメンシーで静めたとき。

 

「……おまえっ……!!お前を知っているぞ!レストレンジだな!」

 

 ネビル・ロングボトムが激怒した。わなわなと杖を震わせて今にも仕掛けそうだ。

 

「ネビル、止めて。お願いよ。……思い出して!ハリーに従うって『決めたこと』を!」

 

 ハーマイオニーはネビルに懇願する。懇願しながらハリーの合図を思い出せと言っているのだ。

 

 だが、ネビルが仮に怒りに駆られて暴走したとして誰が責められるだろう。両親の敵が、その一味が、雁首を並べて目の前にいるのだ。

 

 

 

「おや?誰だいあの坊やは」

 

「……愚かで哀れなロングボトムの末裔だ」

 

 

 

 ハリー達に杖を構えるデスイーターは14名。ハリーが墓場で見た憎い顔ぶれに加えて、何人か真新しい顔もあった。

 ルシウス・マルフォイ、ノット・シニア、ラドン・グリーングラス、クラブシニア。

 

 ワルデン・マクネアにアントニン・ドロホフ。元神秘部職員のオーガスタス・ルックウッド、スネイプの旧友であるエイブリーとマルシベール。マルシベールの後ろには、一人知らない男性のデスイーターが控えている。

 

 レストレンジ夫妻とラバスタン・レストレンジの側には、さらに……キシリア・ザビニがいた。杖を突きつける姿は、美しかったというかつての容姿のいくらかを取り戻しているかのように見えた。

 

 数の上ではこちらが有利だ。だが、敵には絶対的な優位がある。闇の魔術を使うというアドバンテージが。

 

「へぇ~……。……。……!あのときの?坊や、パパとママはお元気?」

 

 沸点を越えたネビルが飛び出そうとするのを、ロンとザビニが制した。

 

「……お前達の要求は?」

 

「ほう、話を聞く気になったか?」

 

「ハリー!君は何を言ってるんだ!!」

 

「……」

 

「ここに君達を連れてきたのは僕の落ち度だ。……僕には君達を返す義務がある。だから話を聞く」

 

 ハリーが振り帰ると、一瞬ロンがウインクした。

 

 もう一度ロンがウインクする。やるぞという合図だ。

 アズラエルは士気を漲らせている。

 

 ハリーはルシウスへと向き直り、言った。

 

「僕たちは何をすればいい?」

 

 ラドン・グリーングラスは威しのようにハリーへと杖を構える。が、それがはったりであるとハリーにはわかっていた。だから賭けに出ることが出来た。

 

 ラドン達は陳列されているガラス玉をハリーに取らせたいのだ。

 

 

「既に理解しているのだろう?その九十七番目の棚を見ろ」

 

 ハリーは棚を見て胸騒ぎを覚えた。

 

 棚には十六年前の日時が記されている。『S.P.TからA.P.W.B.D 闇の帝王とハリー・ポッター』と記されたラベルがあった。ラベルはくすんでいたが、セドリックとロンも目にした筈だ。

 

(……スコア……ここはスコアの間だ!)

 

 パールヴァティー・パチルがハリーへと伝えた情報がハリーの頭を過る。

 

 世界のどこかには、預言者が下した預言を記録するガラス玉、通称『スコア』があると。

 

「……。……これか?取った。おかしいな。何故この預言が必要なんだ?」

 

「……?ダンブルドアは君にある額の傷痕の理由が神秘部の中にあると教えていなかったのかな?」

 

 ざわっとハリー達はハリーの手にある預言のスコアを見た。

 

(……いや。今考えることじゃない!……ここだ!)

 

 ハリーは0の形を左手の指で作る。

 

 0で決行。作戦実行の合図だ。ハリーはガラス玉を手に取った。

 

 瞬間、ハリーの指から火花が爆ぜた。

 

 ハリーが習得していたワンドレス・マジックである。大量の火花は煙となって部屋全体に広がる!!

 

「小僧が小癪な真似を!!」

 

「!?……う、撃つな!ポッターに当たる!預言が壊れる!」

 

 デスイーターのリーダーであるルシウスは必死になって制止する。預言を記録した水晶がデスイーターにとって最も重要であることは明白だ。

 

(……勝機はある!この水晶!これがあるから奴らは本気を出せない!!)

 

 ハリーはこの窮地にあって、光明を見出だした。

 

 デスイーター達はそれぞれが専門の職を持つか、ルシウスのように貴族としての立場を過ごしながら研鑽を積むか、ドロホフのように殺しや決闘、拷問に長けた殺人者のどれかに分別される。

 

 個人としての戦力でハリー達一人一人を上回っていることは明白だ。だが、こちら側に預言がある以上敵は本気を出せない。預言が壊れればルシウスをはじめとしたデスイーター達の作戦は失敗なのだ。

 

 そこに戦力差を埋める鍵がある。

 

「行くぞ!!」

 

 煙で視界を覆われながら、ベラトリクスはステューピスァイをハリーへと撃ってくる。

 

 預言は一体どういうことなのかと考えている暇はなかった。

 

 ハリー達の逃走作戦は決行された。セドリックがその立役者となった。

 

***

 

 セドリック・ディゴリーがワルデン・マクネアを見たときに感じた感情。それは落胆や失望、哀しみという感情だけではなかった。最も多くを占めたのは、怒りであった。

 

 絶望的な状況で人は走馬灯を見るというが、セドリックも圧縮された時間の中で走馬灯を見ていた。在りし日の記憶を。

 

***

 

 その日、セドリックは家族でキャンプに参加していた。たまの休日で開催されるキャンプは幼い頃のセドリックにとっては楽しみなイベントのひとつだった。

 

「今日は誰が来るの?」

 

「ああ、職場は違うが同じ部署のマクネアさんの家とキャンプだ。粗相のないように気を付けるんだぞ?」

 

「ウィーズリーさん家じゃないんだ……」

 

 その時セドリックは少しだけ残念がった。ご近所のウィーズリー家とならやたらと面白いフレッドとジョージが着いてくるし、チャーリーやパーシー、ビルもいる。セドリックはあの一家とクィディッチでも出来ないかなと期待していたのだ。

 

「そんな顔をしてはいけないわよ、セド。あなた、ワルデンさんはどんな仕事をしておられるの?」

 

「ン、そうだな。セドも来年からはホグワーツに入学するし、教えておいていいかもな」

 

 エイモスはキャンプ用品のピッケルを用意しながらセドリック達に言った。

 

「ワルデンは魔法生物を処刑する仕事をしているんだ。……人を傷つけた悪い生物をだ。処刑人だな」

 

「そうなの。立派な方なのね」

 

「ああ。嫌な仕事だろうに顔色ひとつ変えないし、不満のひとつも溢さない。本当によくやっているよ」

 

 セドリックには父親の言葉が信じられなかった。

 

「……いや、待ってよ。処刑だなんて残酷だよ。もっと他の方法を試してみるべきだよ」

 

 処刑、という言葉の持つインパクトは当時十歳のセドリックにはやはり早かった。魔法生物を殺すなんてとても残酷ではないのかと食ってかかった。

 

「セド」

 

 ディゴリー家の教育方針はのびのびと育てるというものだった。一人息子のセドリックを両親ともに可愛がったが、時にはしっかりと道理を説いた。

 

「ヒトを襲って血の味を覚えた獣は、その後も人を殺す可能性が高いんだ。魔法生物は、群れで情報を共有する。セドも犬を育てたから、子犬がお母さんやお父さんの真似をするのは分かるだろう」

 

「……うん」

 

「だからこそ、責任をもって誰かが、傷つけた獣を駆除しなくてはならない。ワルデンはそういう責任ある仕事をしているんだ」

 

 事実、父親の言葉は正しかったとセドリックは思った。

 

 キャンプ場に現れたマクネア一家はどこにでもいるような普通の家族だった。ライデンは最初セドリックを警戒したが、箒の乗り方を教えるとすぐに懐いてきた。そして、ワルデンはエイモスと何やら酒を交換しながらバーベキューを用意して余暇を楽しんでいた。

 

 そして、キャンプ場に現れたはぐれトロルをワルデンは仕留めた。

 

 トロルが来ているとキャンプ場の客が叫んだとき、セドリックは母親と共にテントの中に避難した。が、どうしても外が気になってそっと外の様子を見た。

 

 そこには、バーベキューセットを使ってトロルを誘き寄せ、簡単に仕留めるワルデン・マクネアの姿があった。ワルデンは出てきたセドリックを厳しく叱りつけたあと、トロルを恨むなよと言った。

 

「……可哀想になぁ。群れからはぐれた弱い個体だ、こいつは」

 

「そう……だったんですか?」

 

「勢力争いに負けて群れを追い出され、餌もなくうろついていたところに……旨そうな匂いを感じ取った。それが命取りになるとも知らずにな」

 

 どこか哀れむように言うワルデンの姿を見て、セドリックは悪い人ではないのかもしれないと思った。少なくとも、自分が思っていたよりずっと思い遣りのある人だと。

 

 ハリーからの話を聞いてハリーの言葉を信じたあとでも、セドリックはまだワルデンを信じたかった。インペリオかなにかで無理矢理従わされたのではないかと思った。家族がいるにも関わらず悪事に手を染めるような人ではないと思いたかったのだ。

 

 

***

 

 そして今。セドリックが抱いた感情は……怒りだった。

 

(騙していたんだな……!父さんを、僕を、ライデンを……!!)

 

 セドリック・ディゴリーは品行方正、成績優秀を地で行く優等生だ。これまでそれを演じてきたセドリックが何故、ラインを超えて魔法省に不法侵入するという愚を犯したのか。

 

 それは、セドリック・ディゴリーが魔法族だからだ。

 

(……許さない。貴方達はここで!僕が止める……!!)

 

 魔法族は一般的なマグルとは違い、魔法によって大概のことを成し遂げられる。

 

 高いところにあるものは引き寄せることが出来、寒ければ火を出し、空腹なら食事を双子の魔法を使って増やすことも出来る。

 

 そんな魔法族だからこそ、超えてはならない一線がある。

 

 ……自分の欲望のために、殺人カルトに所属し。

 

 子供を拐って意のままに操り。

 

 そして用が済めば殺す。

 

 

 ハリーが墓場で語ったことが何一つ偽りのない真実であったからこそ。セドリック・ディゴリーは義憤のままに激怒した。

 

 

 幸せだった頃のキャンプの記憶を糧にして、セドリックは杖から銀色のドーベルマンを産み出す。

 

(エクスペクトパトローナム(パトロナスよ、行け!!))

 コンジュレーションでは、ない。

 

 実体を持つ幸福なエネルギーの塊は突如としてワルデン・マクネアの背後に現れた。ハリー達からのカースを警戒して前方にプロテゴ・マキシマを貼っていたワルデン・マクネアの右腕を、銀色のドーベルマンが噛み砕く。

 

 

「うぐぁあアアアアアアッッッ!!!!?????」

 

「何!?」「ステューピファイ!……効かないだと?」

 

 エクスペクト・パトローナムは。本来は攻撃に使うものではない。気付いたルシウスが撃ち込んだステューピファイも意に介さない。

 

 生物ではないからこそ、生物を失神させるステューピファイは効果がないのだ。

 

 ルシウスたちが意表をつかれている間にも、集まった子供達は扉をくぐっていく。

 

「ノットはワルデンの手当てを!残りはポッターを追うぞ!他は殺して構わん!」

 

 ドーベルマンのパトロナスはルシウスたちがカースを放つと消えた。潜伏したのか消滅したのかも分からず、ルシウス達は神経をすり減らすことになるだろう。

 

「プロテゴ・ホリビリス(全体防御)!体全体にプロテゴを展開しろ!決して切らすな!」

 

 そう言ったルシウスはさらに焦ることになる。ワルデン以外のデスイーターがさらに二人、子供相手にやられていたたのだ。

 

「ラ……ラドンが蛇に!蛇にやられている!ポッターの仕業だ!」

 

 クラブが叫ぶ。指差した方向を見て、ひいっ、とキシリア・ザビニが息を飲んだ。

 

 ラドン・グリーングラスがアッシュワインダーに噛みつかれ、出血多量で失神しているではないか。ラドンの表情には恐怖心の名残が残っていた。

 

 

 あの一瞬でハリーに何かをされたに違いなかった。

 

「役立たずが。ラドンは使いものにならん!放っておけ!」

 

 ルシウスはラドンを放置することにした。ラドンは元々体が弱い。回復させたとして戦力になることはなく、むしろ足を引っ張るに違いなかった。

 

 古株のデスイーター、ジャクソンは飛行魔法が使えるにも関わらず逆さ釣りにされた挙げ句、全身からイボを出し下半身はカニに、杖腕はネコと犬の合の子に変えられていた。こちらもまるで戦力にはならない。複数のコンジュレーションを重ね掛けされた人間をすぐに元に戻すことは難しいのだ。  

 

「何だあれは!話が違う!強いのはポッターだけではないのか?」

 

 マルシベールが驚愕して言った。

 

「ポッターだけではない!本当にただのガキ達なのか!?何故セオリーを知っている!学校では座学しか教えない筈だ!」

 

 エイブリーが狂乱してわめく。弱いもの虐めしかしてこなかったデスイーター内の弱者は、狩られる展開に弱い。複数のコンジュレーションを重ねがけしてくるのは手練れの魔法使いのやり口だった。

 

 ステューピファイ一発あれば魔法族は倒せる。倒せるが、ルシウスがやったようにリベナイト一回で蘇生、復帰も可能だ。

 

 だから乱戦のさい、ムーディのような手練れのオーラーはデスイーターを生物に変えた上で、複数のコンジュレーションを重ねがけしてから失神させる。即時復帰が出来ないからだ。

 

(……ご丁寧に杖腕を狙っている。おそらくブラック辺りが教えたのか。つくづく厄介なことをしてくれる、あの愚か者は……!!)

 

 脳内で検討をつけつつ、集団を鼓舞するためにルシウスは言った。

 

「ここには大勢の学生がいた。単なる偶然に過ぎん!恐れるな、行け!ポッターは殺さずにだ!子供相手にしくじったとなれば、我ら全員帝王の閃光を浴びることになるぞ!」

 

 デスイーター達は震え上がりながら恐怖心から士気を上げた。未知の力を持つ学生と、蛇の力を持つハリーは確かに恐ろしいが、本当に恐ろしいのは主君であると知っていたのだ。

 

***

 

「……シノ、シノ!ヴィゲンヴィルド薬を飲んで!……飲んだ!飲んだわ!もう大丈夫よ!!」

 

 ダフネは必死で大柄な茶髪の少年に話しかける。

 

「……お……俺は……置いてって、下さい……」

 

 ハリー達は予言の間から移動し、水槽の部屋の手前まで来ていた。そこまでしか逃げられなかったのは、シノが倒れたからだ。

 

 シノは逃走の最中、デスイーターの一人が放ったクルシオ(拷問)を受けたのだ。コリンが慌てて浮遊させてここまで来たが、顔色は優れなかった。

 

「このままじゃあ……足手まといになるっす。それよりは、ここで敵の足止めをした方がみんなの役に立てます…………」

 

「残りてー気持ちは山々だけどよ、俺もダフネだって逃げてんだ。おまえがここで死ぬことなんてねぇんだよ!」

 

 ザビニは懸命にシノを励ます。クルシオを直接受けたシノの姿に、皆に動揺が広がらないよう、ザビニも必死だ。

 

「……デスイーターの一人に追加でコンジュレーションをぶっ込んだときはやり過ぎたかと思ったがよ。違ったぜ…………」

 

 オルガはシノの姿を見て涙ぐんでいた。ミカエルは呟いた。

 

「アイツらは死んでいい奴らだから。それより、逃げる方法だよ」

 

「デスイーターがやっていたから試したが、テレポートは無理だ。さっきから試したけど、どうやら制限されてるらしい」

 

 セドリックの報告に、ハリーは分かりましたと了承した。

 

(……入り口は閉ざされている。……戻ってもない可能性は高いが、飛んで上にのぼれば……)

 

「それなら先を急ぐ!最初の間に戻れば出口まですぐそこだ!シノも連れていく!全員でここを出るんだ!」

 

「やりましょう!僕も頑張りますから!」

 

 ハリーが言い皆が士気を上げたとき、焦り声があがった。

 

「アイツらもうパトロナスに対応してきてる!ハリー、移動しよう!」

 

 ロンがそう言う。

 

 ハリーはロンに頷くと、罠の仕込みを終えて部屋を出ようとした。が、そのとき、額の傷がずきりと痛む。

 

(……これはっ!?)

 

「そこまでだぁ~っ!!!!」

 

 ハリーたちが避難した部屋に、間の抜けた声が響く。声を出し慣れていない人が出す声が。

 

「……っ!!」

 

 気がつくと、ハーマイオニーは首を捕まれていた。ハーマイオニーの頭に、男の杖が押し当てられる。

 

「お前、は……」

 

「……最低……」

 

 ロンがうめき声をあげた。ジニーは嫌悪感のままに吐き捨てる。

 

「……う、動くな。動けばこの子の命はない。……預言を渡せ、ハリー・ポッター!!」

 

 元オーダーにして、デスイーター。

 

 親友だったハリーの両親すら例のあの人に売り渡した男、ピーター・ペティグリュー。ハリーの実質的な敵が、ハーマイオニーを人質に取っている。

 

「ハーマイオニーを離せ!」

 

 ロンが食ってかかるが、ピーターは動じなかった。

 

「……こ……この子が大切じゃないと言うならい、いいさ……だが……だがこの子は確実に死ぬ。……仲間の命より世界とやらが大切。……それが君達の本音なんだ……」

 

「……渡した瞬間私たちは皆殺しになるわ。渡しては駄目よ。……ロン、ハリー。皆。……ありがとう」

 

 ハーマイオニーは歯軋りをしていたが、諦めたように笑った。ハリーも絶望感に青ざめた。

 

(駄目だこいつ。隙がない!)

 

 ピーターはバカではなかった。鼠の姿で気取られないようハリー達を追跡したのだ。警戒のルーンも神秘部の中では意味を成さない。鼠をハリー達が罠として仕掛けた魔法生物の中に紛れ込ませながら、機会を伺っていたのだ。

 

 そしていざ決行した時もハリー達に囲まれないよう、一番外にいたハーマイオニーを狙った。

 

 

「ピーター。君を牢屋に追い込んだのは失敗だったらしいね。……外にいたハーマイオニーを狙うなら、僕でもそうする。やられたよ」

 

 ハリーが褒めるとピーターは複雑そうな顔をした。

 

(くそ!くそ……!隙がない!!)

 

 

「父さんが見たら流石ピーターだと今の貴方を褒めるかな?それとも、見下げ果てたやつだと嘲るかな」

 

「……おまえがジェームズを語るなっ!さっさと預言を渡せ!!」

 

 あろうことかピーターはハリーの言葉に激昂した。が、それでも杖はハーマイオニーから1ミリもぶれない。ピーターの時間稼ぎが巧を奏し、デスイーターの足音がすぐそこまで迫っている。

 

「……ハリーに向かってその名を出すな!!」

 

 そのとき。

 

 ピーターの・ペティグリューの額を、赤い閃光が貫いた。ピーターはどさりと地面に崩れ落ち、ハーマイオニーはロンに抱き締められる。

 

 ハリーは入ってきた人の顔をまともに見れなかった。

 

 デスイーターとは。

 

 恐ろしく残酷で、立ち向かえば全てを喪うものた広く知らしめるための組織。所属した時点でヴォルデモートの奴隷であり、それ以外の道はないはぐれものの集まり。

 

 だからこそ。

 

 だからこそ、アルバス・ダンブルドアはそれに立ち向かうために、勇敢なものたちを集めた。

 

 狼人間であろうと。組織において鼻つまみ者であろうと、地位が低かろうと。オーラーであろうと。退役していようとも。

 

 諦めない勇気を持つ者達。それは、ヴォルデモートを殺すためだけのものではなかった。

 

「やったぜ。オーダーだ」

 

 ザビニの言葉に、セドリックは目を丸くした。

 

 人を助けるために我が身を危険に晒す、正真正銘の英雄達。オーダーの最精鋭が神秘部になだれ込んできた。アラスター・ムーディ、リーマス・ルーピン、ニンファドーラ・トンクス、そしてキングズリー・シャックボルト。オーダーを目にしたシノやオルガは、状況が分からないながらも増援だと喜ぶ。

 

「……シリウス……」

 

「まだ気を抜くな。敵が来るぞ!」

 

 シリウスの言葉と共に、部屋にデスイーターが入ってくる。先鋒を務めるのは、ベラトリクス・レストレンジ。闇の帝王最高の忠臣は、喜悦をあげながら襲いかかってきた。




シノ&オルガ&セドリック&ミカエル「オーダー??」
コリン&シュラーク&ルナ「なるほどそういうことね」
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