学生組がほぼ戦力外としてオーダー五人で倍以上のデスイーターを相手にしなきゃいけないからめっちゃ大変です。原作は。
「プロテーゴ ディーアーボー……」
「させるか!(レダクト)」
ハリー達の居所に突貫し、歌うようにベラトリクスが魔法を詠唱する。ハリーは即座にレダクト(砕けろ)を撃ち込んだ。
頭蓋骨に直撃すれば死は免れない一手。ハリーがそれを選択したのは、この程度で死ぬ相手ではないという予感めいたものを感じたからだ。
事実ベラトリクスは顔をずらすという最低最小の動きだけでハリーの攻撃を避けてみせた。
「チッ。アバダ・ケダブラ(死ね)」
チッチッと鳥の囀りのような舌打ちをして、ベラトリクスは緑色の閃光をコリンへと撃ってくる。シリウスの造り出した梟の疑似生命がなければ、コリンへとアバダ・ケダブラが直撃していただろう。
ベラトリクス・レストレンジはデスイーターの中でも指折りの手練れだ。ハリーだけでなく、この場にいる全員がそれを感じ取る。
「プロテーゴ……」
ベラトリクスは再び悪魔の護りの構えを見せる。
シリウス、トンクスらがフィニートの構えを見せたのをハリーは制して言った。
「シリウス!コイツらは僕が死ぬような攻撃は出来ない!!僕が持ってる預言が必要だからだ!僕はここに残る!」
ハリーがここにいて預言を持っている限り、敵は預言が壊れることを恐れて手を出せない。ハリーはここに残り、シリウスを援護したかった。
「さっさと帰れ!邪魔だ!」
が、この状況でハリーの加勢はシリウスにとっては余計なお世話だった。
そもそも今のハリーの立場はオーダーの戦力ではなく、要救助対象でしかない。シリウスは言外にそう言いきった。
「罠、行きます!」
コリンとネビルが仕掛けておいた罠を起動する。ゾンコのいたずらグッズのひとつ、魔法の花火の集中砲火ががベラトリクスへと放たれる。ハリーたちが撃った閃光と合わせて数十もの集中砲火。オーラー達のチームよりよほど強烈な攻撃の筈だ。
プロテゴが間に合わず、クラブシニアが被弾する。それでも倒れないクラブシニアにルシウスの声がかかる。
「左に避けろ!」
クラブシニアにとって不幸だったのは、彼がルシウスに対して従順で忠実だった、ということだろう。
ルシウスのお陰で先の内戦では事なきを得た。クラブ家はクラウチ家とも交流があったほどの名門だが、それでもマルフォイには返せないほどの借りがある。そう認識していたからこそクラブはルシウスの声に従い……ロンが撃ったステューピファイに被弾した。
追撃でオルガやミカエルが撃ったコンジュレーションによって、クラブシニアの髭は伸び、全身が髭に覆われて身動きが取れなくなった。
「……当たった!?何で!?……いや、これでまた一人捕えた!」
そう確信したようにロンが叫ぶ。
一連の動きにおいてクラブシニアを騙したのは、ニンファドーラ・トンクスだった。
トンクスはメタモルファーガスである。己の容姿を好き放題に弄くることが出来る彼女は、己の声帯をルシウス・マルフォイのそれに変えることも出来る。
当然、練習はした。デスイーターの指揮官がドロホフでもルシウスでも問題なく騙せるようにだ。ベラトリクスだけはムーディ達の記憶の中の声帯が十年以上も前のためにまだコピー出来てはいないが、練習すれば出来るようになるだろう。
デスイーターの弱点は、その組織の稚拙さにある。オーラーはそこをつくことで悪辣なデスイーターを打倒するのである。
ムーディは即座に次の一手をうっていた。
「……!(吹っ飛べ)」
ムーディは何かに気付いた。無言デパルソで扉の周囲を吹き飛ばした瞬間、入ってきたルシウス・マルフォイらの姿が顕になる。マルシベールはベラトリクスの間に入り、プロテゴ・マキシマを展開していたものの、横合いから差し込まれたムーディの追撃に耐えられなかった。そのままハリーたちが撃った十もの魔法を体に受けて、全身からタコのような触手を出して床に崩れ落ちる。
「敵は透明化も使う!はっきり言って学生が相手していい連中ではない!引け!トンクス、ルーピン、行け!」
ムーディがこの場における最高責任者であることは明白だった。
「了解!私についてきなチビ達!ちゃっちゃとしないとすぐ死ぬよ!」
「敵はテレポートが可能です!挟み撃ちにされる可能性もあります!」
指示に従いつつオルガが報告する。ムーディはドロホフと交戦しながら叫んだ。
「リーマス!トンクス!!お前達は子供達を護れ!」
簡潔な指示を出して撤退を促すムーディに従い、ハリー達はトンクスに従い逃げる。最後尾はルーピンがついていた。これで歩みは遅いが、前後どちらからの追撃にも対応できる。
ルーピンの側から来るということは、シリウスとムーディー、キングズリーが負けたということになる。その可能性を頭から追い出しながらも、ハリーの脳裏には悔しさと申し訳なさばかりが滲み出てくる。
「……くっ……」
(……僕のせいだ……!まんまと敵の罠にはまって……!ダ……ダンブルドアはこうなることを見越してオクルメンシーを習得させようとしてくれていたのに……!)
あまりにも不甲斐ない自分自身を責めるのに一杯一杯で、ハリーはダフネやザビニへ声をかけることすらしていなかった。ハリーだけではなく、ロンもハーマイオニーも、目の前の僅かな攻防の間にも敵から放たれたアバダ・ケダブラやクルシオの驚異を肌で感じ取っていた。
これが実質的な初陣となるシノなどは酷いものだった。クルシオを受けたせいか、呼吸は浅く顔色も悪い。クルシオは外傷に現れないことから軽視されがちだが、本質は苛烈な悪意であり、闇の魔法使いのもたらす恐怖そのものだ。立って走っているだけでも大したものだった。
「……あの女……レストレンジ……視線を交わして心を読もうとしましたが……闇ばかりでした。やつは危険です」
走っている間、ハリー達は無言になっていた。が、シュラはルーピンへの報告という体で皆へ注意喚起を促す。
「そんなこと分かりきってるよ」
ネビルは心がささくれ立っていて噛みついた。シュラはええ、と話す。
「闇の帝王への忠誠心があるのか、と思いました。ですが……彼女にあったのは恐怖心と……闇の帝王へのおぞましい感情でした」
「おぞましい感情?」「……あの女は闇の帝王を師のように、あるいは父親のように慕っています。てすが……」
口に出すのも憚られるのか、シュラークは口をつぐんだ。思わせぶりなシュラークに話を聞くべきかどうかハリーは一瞬迷ったが、今はそれどころではないと思い直した。
ルーピンが走りながらハリー達に話しかける。
「ここからテレポートで出ることは出来ない。だが、出口から出ることは出来る。さぁこの場合敵はどうする?」
「出口で待ち伏せをします」「そうだ」
「ムーディーとシリウスはドロホフとマルフォイ……他四名を足止めしている。この時間のうちに、逃げ」
ルーピンが言葉を紡ぐことが出来たのはそこまでだった。乱入してきた物体の対応にかかりきりになったからだ。
乱入してきたのは、グリムである。ただし、死んでいる。
カタバ・ロコモータによって動かされたグリムは本来のグリムを遥かに越える速度を持っていた。インフェリへの対応策として皆がインセンディオを唱えようとするが、ロンが叫ぶ。
「インセンディ……」
「駄目だ!ガソリンを持ってやがる!」
皆がパニックになる一瞬の間にも、グリムはルナの首もとにまで迫っている。
「……カタバ・ロコモータ。……朽ちろ」
ハリーは迷わなかった。
ハリーの杖から放たれたのは闇の魔術だ。正真正銘人の道から外れた闇の魔術は、屍の犬に覆い被さる。
(……僕に従え。終われ。君はもう死んでいるんだ!)
ハリーは術者の迷いのようなものを感じた。恐らくは、何年もカタバ・ロコモータ自体を使っていなかったのではないかと思った。拍子抜けするほどにあっさりと、屍の犬はハリーを主君に変えた。
死体操作の外道な闇の魔術を使い、屍の犬兵を使役し、命令を下すことで壊して終わらせた。
「……お……」
ロンは悲しそうな目でハリーを見てきた。リーマスはよくやった、とハリーに言った。
「先を急ぐぞ。時間が惜しい。ハリー、よくやった。本来なら私かトンクスがすべきだった」
「……気にすることないじゃない」
ダフネがポツリと呟いた。
「生き残れるなら、闇の魔術だって何だって……」
その言葉に答えるものは居なかった。ハリー達は必死で生き残るために足掻くしかない。たとえ闇の中に追い込まれようとも。
***
***
ムーディ、キングズリーと共にデスイーターの足止めを請け負ったシリウスは、指揮官であるルシウス・マルフォイ相手に互角以上の戦いを繰り広げていた。
「……小癪な男め!魔法族としての誇りを知れ!」
ルシウスの苛立ったようなクルシオが放たれる。シリウスは即座に木片の切れ端でクルシオを防ぐ。
無言でクルシオを繰り出せるということそのものが、ルシウスが闇の魔法使いとして大勢の人間を地獄に落としてきたことを雄弁に示している。
シリウスはコンジュレーションで作り出した壁によってクルシオを防いだ。クルシオは人間や生命の魂と痛覚に甚大なダメージを与えるが、無機物には効果がない。秒単位の激しい攻防の間にも、両者はせわしなく動き回って位置を変えている。
キングズリー・シャックボルトが交戦中のデスイーターの隙をついて、ルシウスへとステューピファイを放つ。が、ルシウスはステューピファイの赤い閃光をねじ曲げてキングズリーへと跳ね返す。キングズリーはムーディーによって蘇生(リベナイト)されてしまったが、キングズリーを蘇生させるための手間がムーディにほころびを生み、ドロホフを勢いづかせた。
ルシウスにとってもこの状況はよろしくない。指揮官として指示を出さなければならないからだ。しかし、ルシウスの本能はシリウスとの決闘に安堵してもいた。
シリウス相手ならば負けはない。追撃のためにテレポートしたもの達が手柄を立てるだろう。
そんな舐めた感情がルシウスの本能に沸き起こる。
ルシウス・マルフォイが最優先すること。それは己の保身である。
ルシウスはハリーたちが設置した罠の干渉を嫌ってか、少し浮遊した状態で前後左右に高速移動をしながら魔法を繰り出す。決闘における基本を守りつつも、闇の魔法使いとしてのスキルを十全に備えた磐石の構えだ。
(……ちぃ……このままでは埒があかん)
ルシウスはシリウスと視線を合わせて心を読もうと試みた。しかしそれは失敗に終わる。シリウスのつけた濃い漆黒のサングラスのせいで、ルシウスはシリウスの感情を読み取れない。
対するシリウスは地に足をつけながらも、何処か涼しげな顔をしている。ルシウスは即座にシリウスを挑発することにした。
「息子の教育に失敗したようだな、ブラック!地獄のポッターもさぞ嘆いていることだろう!貴様なぞに息子を託したばかりに、貴様を助けたいなどと思い上がってあっさりと騙されここに来る愚か者になってしまったのだからな!」
シリウス・ブラックが、義理の姉であるベラトリクス・レストレンジ……旧姓ベラトリクス・ブラックと似通った性格であることはルシウスから見れば一目瞭然だ。
魔法使いとして卓越した技能を持ち、冷静な判断能力を有しているにも関わらず、信ずるものを侮辱されればその持てる美点全てをかなぐり捨てた脳筋となる。
ヴォルデモートが神秘部における指揮をベラトリクスではなくルシウスに任せたのは、寝返り組を統率できるのがルシウスだから。家の格と実績からルシウス以外に統率できる人間が居ないからだけではない。
いざというときに冷静に動ける人間だという自己評価がルシウスにはあったのだ。
ベラトリクスやシリウス。そしてついでにいえばハリーは指揮官の器ではないのだ。安い挑発でチームを危険に晒し、あまつさえ本来の目的を見失って預言を壊しかけるなどあってはならない。
シリウス・ブラックは激昂し、我を忘れてこちらに攻めてくる。それを予知していたルシウスの読みはしかし、外れた。
もはや言葉は要らないとばかりにシリウスはこちらへと魔法を撃ってくる。
だが。
(ステューピファイ……何っ!?)
ルシウスの予想を超えてルシウスへとやってきたのはコンジュレーションによって産み出された魔法生物。しかも小癪なことに、魔法生物のオカミーだった。
単なる生物ではなく魔法生物を破壊するには多少の集中力を要する。オカミーは軽度の魔法に対しては優位に立つことが出来るからだ。
オカミーは自身の身体を自在に伸縮させられる。放置していれば厄介な障害になることは間違いなかった。
アバダケダブラを使用すればリチャージには1分を要する。ルシウスは切り札であるアバダケダブラというカードは温存したかった。
「……チッ」
デスイーターのみに許されたテレポートで迫り来るオカミーをかわし、オカミーの上からインセンディオ・マキシマを叩き込む。最大出力の炎は蛇の口に吸い込まれ、オカミーを墜落させていく。
そしてシリウスへと本命のアバダケダブラを叩き込もうとしたとき、ルシウスを驚愕させる一手が叩き込まれた。
***
ルシウスがオカミーの対応にかけた時間は三秒。その三秒の間で、シリウスはルシウスの手の内を解明していた。
シリウスが神秘部に駆けつけた時、ピーター・ペティグリューの命を奪うという選択をシリウスは取らなかった。
そんなことをしている暇はなかった。目の前には命を奪われそうなハリーやハーマイオニー、ハリーを信じてここに来た子供達がいた。今自分がすべきことが何であるのか、シリウスにはよく分かっていた。
ただただ己の感情を排除して、オーダーの一員としての勤めを果たすことだ。
私怨を晴らすのも、過去の因縁にけじめをつけるのも後でいいのだ。
シリウスはハリーによって自由を得てからの四年間、ルシウス・マルフォイを殺そうと思ったことは幾度となくあった。が、今のシリウスには殺意はない。
ただただ純粋に、子供達を護りたい。その使命感だけがシリウスの頭を冴えさせた。
(……アクシオだ。やつはアクシオを使っている!)
シリウスはルシウスの防御について、そうあたりをつけた。
ルシウス・マルフォイがデスイーターの中でも有数の生存能力を持っていることは、先の内戦を生き残ったオーダーであれば誰もが認めるところだった。
シリウス自身、過去にルシウスと交戦した際には何度も閃光をねじ曲げられ逃げられている。
ルシウスの防御の秘密を、キングズリーやトンクスはプロテゴによるものだと言っていた。不可視のプロテゴを自分の周囲に展開しているのだと。
が、そうであるならわざわざオカミーの突撃を避ける意味はない。オカミーの突撃はプロテゴで防ぎ、そのまま倒せばよい筈だ。
が、実際にはルシウスはオカミーから逃げた。ルシウスの絶対防御の真髄は、プロテゴではなかったということだ。
シリウス・ブラックが最も優れている点は、その決断力と行動力であった。自分自身の判断が正しいという保証はなく、間違いであるかもしれない。それでも微かな直感に身を任せ、即断速攻を仕掛けられる才能がシリウスにはあった。
人はそれを、勇気と呼ぶ。
シリウスは右手で魔法を撃ちながら、左手でナイフをルシウスめがけて投擲した。ルシウスは完全に不意をつかれていた。
「……がっ!?」
シリウスはこの数年、マリーダと共に決闘の訓練を積んだ。
衰えきった魔法の腕を熟達させるための訓練だったが、シリウスはその訓練を通して自分自身の行動が縛られていく感覚を味わった。
決闘という行為は、魔法使いがいかに手早く正確に魔法を撃ち敵を打倒するかというゲームだ。そこには制限された範囲内において最適解を見いだせる機能美を感じたが、同時に意識が固定化されてしまう縛りをシリウスは感じ取った。
ルシウスが決闘術を納めていることはシリウスにもわかった。だからこそ、投げナイフというおよそ魔法使いらしくもない行為に不意をつかれ、左手でシリウスのナイフを受けてしまった。
シリウスのナイフは自作した特別製である。施錠された扉ですら容易くこじ開けるナイフには、盗難を防ぐためにアクシオ防止のルーンが刻まれ、戦闘を想定したしびれ薬が塗ってある。
ルシウスの身体が地に落ちようとする。シリウスはすかさずルシウスへとステューピファイを叩き込み、エクスペリアームスで杖を奪う。
しかし、ルシウスの命までは奪わなかった。
それはシリウスの成長であった。そしてその成長が、ルシウス相手に無駄な時間を使わなかったことが、ここでプラスに作用した。
ルシウスとシリウスの一騎討ちの間にも戦局は動いていた。ムーディはドロホフ、ルックウッド、ラバスタンという三人を相手に失神に追い込まれていた。そのままドロホフがアバダケダブラを叩き込もうとしたとき、シリウスはデパルソでドロホフを吹き飛ばした。
「……ポッターを追うぞ!ここでこれ以上居る意味はない!」
ドロホフの号令でラバスタンやロドルファスらはテレポートする。ベラトリクス・レストレンジもいつの間にか姿を消していた。
「ムーディーを頼む!俺はハリー達を護る!」
「……無茶はするなよ、シリウス!」
シリウスはムーディーの蘇生をキングズリーに任せると、キングズリーの言葉も聞かずに駆け出した。子供達を護っているのはリーマスとトンクスなのだ。滅多なことはないだろうが、それでも戦力は多い方がよかった。
(……無茶をするな、と言ったが……心配はしなくても良さそうだな。ここまで落ち着いたシリウスを見ることになるとは思わなかった……)
キングズリーはクラブシニアとルシウスを拘束すると、敢えてさらに先へと進んだ。
キンズズリーは進んだ先にいたノットシニアを奇襲によって打倒した(ノットシニアはマクネアの治療にかかりきりになっていた)。キングズリーはさらにノットシニア、ジャグソン、マクネア、そしてラドン・グリーングラスを拘束することに成功した。
***
ロン・ウィーズリーには悩みがあった。ホルマリン漬けにされた脳みそが浮かぶ水槽がある不気味な部屋で、ロンは走馬灯のように己れの悩みを思い返していた。
(もしかしたらこのまま俺、その他大勢として埋もれていくんじゃねぇかな……)
ロンの中でそんな不安感が広がったのは四年生の時、ハリーがホグワーツの代表選手に選ばれてからだ。
ロンには元々、年相応の英雄願望があった。グリフィンドール生らしく勇敢に戦い、闇の魔法使いを懲らしめて手柄を立てたい。そんな思いを胸に抱くどこにでも居るグリフィンドール生だ。
そしてそんな願望があったからこそ、ハリーに嫉妬した。ハリーには自分にない名声があった。
元々、自分とハリーとで周囲の扱いに差があることは自覚していた。しかしハリーが代表選手に選ばれたことで、ロンの中の不安は増大してしまった。
ハリーと自分は対等な友人ではなくて、いつしか、『ハリー・ポッターとその他大勢』になってしまうのではないか。
勇敢さや勇気を発揮する機会などなく、ウィーズリー家でそうだったように、ぱっとしないまま終わってしまうのではないか。
ザビニやハリーが聞けば、『お前はまず命の心配をしろよ』と突っ込んだことは間違いない。しかし、ロンにとっては何も成せずに今のままで終わることは、死ぬよりも辛いことだったのだ。
決闘クラブの部長に選ばれ、監督生にも選ばれたとき、ロンの中に自尊心が育った。今までやってきた努力は無駄ではなかったし、ハリーとの比較ではなくて自分を評価してくれる人も居ると思えた。しかし、決闘クラブはアンブリッジによって解体され、ロンにとって窮屈な学校生活のままだった。
ザビニ、アズラエル、ファルカス、そしてハリー。スリザリンにいる友人に報いるためにも、親友のハーマイオニーのためにも、ロンは誰より手柄が欲しかった。
そしてロンは今、己の命と仲間の命を天秤にかけることになった。
不気味な水槽の部屋で、ハリー達は襲撃を受けた。デスイーター達はムーディー達を振り切ったようで、ベラトリクスを中心とした面々がテレポートしてくる。デスイーターの一人がハーマイオニーに向けて杖を構えたのをロンは見た。
ロンは考えるよりも先に杖が動いていた。なぜそうしようと思ったのかは分からない。おそらく、何も考えていなかったと思う。ロンは目の前にあった気持ち悪い脳みそが浮かぶ水槽を壊して、脳みそをデスイーターの一人、エイブリーにぶつけた。
脳みそに触れたエイブリーはひきつけを起こして倒れた。が、脳みそから伸びる触手はデスイーターもふつうの魔法族もお構い成しに生け贄を求めて触手を伸ばす。
触手はルックウッドにレヴィコーパスをかけていたルナに向かっていた。
ロンは咄嗟に触手とルナの間に身体を割り込ませた。
「プロテゴ・マキシマ(完全防御)!!!逃げろ、早く!」
ロンの展開した完全防御魔法は、約十秒もの間触手からの攻撃と、デスイーターが撃ったカースの余波を防いだ。が、プロテゴ・マキシマにも限界は来る。完全防御の障壁にひびが入り、音を立てて崩れ落ちる。
ロンが身につけていたフレッドお手製のプロテゴ・リングが触手の干渉を防ぐ。その間にディフィンド(切断)でロンは外に出ようと試みる。
その時、ロンは後頭部を殴られたような衝撃を受けて意識を失った。
***
「…リベナイト!…ン!ロン!しっかりして!」
「……ん……んん?誰だお前?」
目を覚ました時、ロンは目の前に居る女子の顔を見て吹き出した。
(あれ、何で俺笑ってんだっけ。こいつ誰だっけ?……あ)
起きたロンの瞳は狂気に満ちていた。
「あっひゃっ!お前ルーニーだな?……あれ?何処だよ、ここは?」
「神秘部。起きれるなら、走って逃げて!このまんまだと死ぬよ!」
神秘部に展示されている脳みそは当然、単なる脳みそというわけではない。この世のあらゆる狂気を内包した厄災であり、何の備えもなく触れれば重篤な後遺症をもたらす禍々しい闇の一品なのだ。
「あっひゃっ!ならこっちに寄せればいいじゃねーか!レダクト!!アクシオ(来い)!!脳みそ~!悪いやつらはここに居るぞーっ!」
狂気に汚染されたロンは、けたましい笑い声をあげながらデスイーターのもとへと脳みそを引き寄せた。神秘部の一角では、この世のものとは思えない地獄絵図が展開されていた。
もしもロンが、聖石『レオ』をハリーに渡さず自分で所持していればこうはならなかっただろう。しかしロンは自分ではなく、ハリーのためになるかもしれないと思いその選択をした。結果として、ロンは狂気のままに敵味方の区別なく脳みそを振り撒く厄災と化したのである。
頑張れ六男。他のメンツだと同じことやったら死ぬから君がタンクになるんだ。