ベラトリクス・レストレンジ(言わずと知れたデスイーター最高戦力。あまりにもブラック家。)
ロドルファス・レストレンジ(ベラトリクスの夫。ロドルファス(ルドルフ)とは高貴な狼の意)
ラバスタン・レストレンジ(ロドルファスの弟。名前は蛇の頭という意味を持つ。)
アントニン・ドロホフ(炎系統の魔術に長けた本作ではダームストラング出身のデスイーター。ベラトリクスにビビっている)
エイブリー(スネイプの旧友。トムの旧知のエイブリー・シニアの息子)
マルシベール(スネイプの旧友。エイブリーの親友)
キシリア・ザビニ(ザビニの母)
の以上七名となります。
思ったよりあっさり半減していて作者としてもビックリです。学生にやられたジャグソンとラドンは立つ瀬がない。
オーダー側もムーディは現在気絶中です。マッチアップしていたドロホフにクラウチJr.の件で手の内を暴かれていたのが悪かった。仕方ありません。
義手をロケットパンチのように伸ばしてデスイーター相手に善戦するお爺ちゃんを書きたかった……
「ステューピファイ・デュオ(ステューピファイ乱射)!!……ハリー先輩達はちゃんと先に行ったよなぁ!?俺らを心配して戻ってきたりはしねーよな!?」
シノがステューピファイの閃光をデスイーターに向けて連射する。クルシオを直接的受けたシノにもはや一点の迷いもなかった。仮にステューピファイの影響で敵が入院することになろうが、自分が受けた地獄の苦しみに比べれば何ということもない。
「その心配はない!ハーマイオニーを行かせた!」
セドリックは眼前のデスイーター、エイブリー相手に空中戦を繰り広げながら叫ぶ。セドリックの撃った無言グレイシアス・マキシマによって、エイブリーの右腕は凍りつきそうになる。バランスを崩したエイブリーにシノやオルガ達のステューピファイの集中砲火が浴びせられるが、エイブリーの親友であるマルシベールはプロテゴ・マキシマによって友を救っていた。
フリットウィック教授から習ったというセドリックの飛行魔法はこの場に置いては貴重な戦力だった。ルーピンやトンクスといった主力すら下から敵を迎撃するというお決まりのパターンに終止せざるを得ない中、デスイーター達は自身の頭上を取られるという予想外の動きに困惑し、そのペースを乱していた。
「……ヤバイ、デスイーター二人に逃げられました!」
その時、交戦していたデスイーターのうちレストレンジ兄弟の姿が消えたことにコリンが気付く。コリンはカタバ・ロコモータによって迫り来るグール達をインセンディオでなぎ倒しながら、仲間達に警戒を訴えた。
「テレポートに気をつけて!」
「……不味い……!」
シュラークを含めた生徒達に動揺が広がった。
テレポートによって所在の分からないデスイーターがいるということは、常に奇襲を警戒しなければならないということだ。本来の目的であるハリーの護衛が達成出来ないかもしれないというのもそうだが、いきなり出てきた相手にアバダケダブラを撃たれては対応のしようがない。
リーマスはよく通る穏やかな声で、慌てるな、と生徒達を落ち着かせた。リーマスが放つ無言のプロテゴ・ホリビリスは、セドリックが使うプロテゴ・ホリビリス(全体防御)と合わさってデスイーターの放つカースやその余波をよく防いだ。
「心配しなくていい。ハリー達なら奇襲への備えはしているとも」
「……おうっ!ルナ達も居るし大丈夫っすね!」
シノ達はリーマスの言葉に余裕を取り戻した。残りのデスイーターが何人なのかシノ達には把握できていない。シリウスやムーディと交戦していたデスイーターがテレポートして待ち伏せしてこないとも限らない。それでも、リーマスの声には生徒達を落ち着かせる力があった。
優れた指揮官は、部下達をよく纏めなくてはならない。生徒達に教師として優しく接しつつも時として道理を説いていたリーマスやキングズリーには、光陣営において貴重な中間指揮官としての才覚を有していた。
「ポッター先輩は次のダークロードになれるかもっつー噂のある人だ!デスイーターごときにやられはしねーよ!」
「それはゾッとしない冗談だね!ハリー先輩がダークロードになっちゃったらこの世の終わりだよ!」
オルガ・ザルバッグもまた現場指揮官としての才覚を持つ一人だった。コリンやシノ達はオルガの言葉を聞き流しつつ、どこか余裕をもって死を喰らうものと対峙出来ていた。
「……よし、あの子はもう大丈夫!私と復帰する!」
その時、アズラエルを治療していたニンファドーラ・トンクスも攻勢に加わる。アズラエルはデスイーターへの憎しみを爆発させるかのように果敢に戦ったが、逆に敵の攻撃を受けてしまい瀕死の重傷を負っていた。
トンクスはアズラエルをトランクの中に収納し、そして見事応急処置に成功したのである。
戦局が不利とみたデスイーターの一人がテレポートして逃走を試みる。逃げようとするデスイーターの胸に、リーマスは正確無比かつ無慈悲なステューピファイを叩き込んだ。
「マローダーズが……」
そう呟きながら墜落し気絶したのはリーマスと因縁のある男、エイブリーだった。リーマスはかつてホグワーツで見たことのある不良相手に追撃のコンジュレーションを叩き込み、容赦なく無力化した。
***
ハリーは地獄の中にいた。
自分自身の判断ミスによって仲間を死地へと追いやったという自責の念は絶えずハリーを責め続けていた。この窮地にあって、仲間だけは何としても生きて返したいというのがハリーの本音だった。
しかし、状況は都合よくはいかない。
ハリーが手にしている予言を記録した水晶(スコア)こそ敵の目的そのものであり、この予言が敵の手に渡ればその時点でゲームセット。ヴォルデモートは目的を達成し、オーダーがこの一年予言を護ってきた労力は水の泡になる。
だからリーマスはハリーを先に行かせた。セドリックもオルガも文句ひとついわずにリーマスに従った。
「ハリー!お願いよ止まらないで。貴方が捕まったら今ここに居る皆の頑張りは全て無駄になるのよ!」
「……解ってる!……ごめん。解ってるよハーマイオニー……」
ハリーは思わずハーマイオニーにキレた。我を失うほどに動揺していたのは、視界の端でロンが脳みそに飲み込まれるところを見たからだ。
ハリーは今すぐにロンを助けに戻りたかった。しかし、それはハーマイオニーも同じことだ。むしろハーマイオニーの方がロンを助けに戻りたい気持ちは強い筈だった。
それでもハリーに随行したのは、それが使命だからだ。預言を敵に渡さず持ち帰ることが、唯一自分達が出来ることだったからだ。
ハリー、ハーマイオニー、ダフネ、ネビル。そしてザビニの五人はタイムターナーが陳列された部屋にたどり着いた。
この部屋は神秘部の中でも特に、重要な物品が揃っている。タイムターナーだけではなく、『死』を研究するための危険なベールが存在していた。ハリー達は周囲の物体に触れないよう気を遣いながら行軍速度を落とさなくてはならなかった。
ハリーはレベリオを扉の前で使った。特に不審なトラップは見受けられない。ザビニが一秒も惜しいとばかりに言った。
「この部屋と次を抜ければ最初の部屋だぜ!まずは俺が行く!着いてこいよハリー!」
「……私も……。私も、行くわ……!」
ザビニは危険な先導を買って出た。ダフネもそれに続く。二人は家族がデスイーターであったという事実を前に、前のめりになっていた。ネビルは無言で二人に続く。
「気を付けて、二人とも!」
ハリーはザビニとダフネに言いながら扉を潜ろうとしたとき、扉から蒼炎が燃え広がった。
「……!?……!!敵味方識別の蒼炎だわ!」
ハーマイオニーがその豊富な知識でもって解答を導きだした。ハリーも炎の勢いには見覚えがあった。スネイプが賢者の石を護るために仕掛けた罠の炎に類似している。
「……グレイシアス!!三人とも、こっちには来るな!ぼくたちは大丈夫だ!」
ハリーは咄嗟に扉を凍らせる。その瞬間、ハリーの額が死ぬような痛みと共に警告を発した。
「伏せてハーマイオニー!!」
ハリーはハーマイオニーを抑えて地面に倒れこんだ。ハリーが居たところには、ステューピファイの赤い閃光が突き刺さっていた。
「……こちらか……!どうやら当たりのようだな。ベラには悪いが、俺が手柄を挙げさせて貰おうか」
野太い声がした。
ハリーは声の主を睨みながら無言でステューピファイを撃った。声の主は苦もなく失神呪文の閃光を無言プロテゴで防ぐ。
アントニン・ドロホフ。邪悪な闇の魔法使いがハリーから預言を奪うために、今、ハリーの前に立ち塞がっていた。
***
「ハリー!ハーマイオニー!?……どうする?!ど、どうすれば良いの!?」
「……慌てんな!……ハリー!俺たちは神秘部から上に上がる!そんでもって、魔法省のバカ役人をここに連れてくる!どんなバカでもデスイーターを見れば気付く筈だろ!」
「で、でも信じて貰えないわ!発言を握り潰されてしまうかも……!」
「……僕はザビニを支持する!」
慌てふためくダフネに対して、ネビルは迷わず言った。もう迷っている時間は無いとネビルも解っているのだ。
「ハリー!ハーマイオニー!!僕たちじゃこの炎は突破できない!だから必ず援軍を連れてくる!だから生き残って必ず助けに行くから!!」
悲壮な決意すら滲ませてネビルは神秘部のエレベータに向けて駆け出す。ザビニは苦い表情で言った。
「……今はすべきことをやるしかねぇんだ。行こうぜ、お嬢様」
「……足手まといだと言わないで!」
ダフネもかっかしながらネビルに続いた。その時、漆黒の靄のようなものがネビルとダフネとの間に立ち上る。
「……動かないで。動けば殺すわよ、アバダケダブラを受けたくはないでしょう?……あら?」
「ステューピファイ(失神しろ)!!」
現れたデスイーターは優位を確信したような笑みを浮かべていた。ザビニは迷わずそのデスイーターの胸元にステューピファイ(失神呪文)を叩き込む。
現れたデスイーターはすんでのところで失神呪文を回避した。その顔が驚愕に見開かれる。
「……どうして……いつから親に魔法を向ける子になったの!」
「……男をぶっ殺すどこぞの母親に似たんだろうよ。俺はあんたの子供だからな」
互いに杖を向けあって殺気を撒き散らす親子に、ダフネとネビルは無言で立ちすくんだ。神秘部の一室で、世にも奇妙な決闘が繰り広げられていた。
ザビニの杖からグレイシアスの冷気がほとばしり、キシリアの杖からは拷問のためのクルシオが放たれた。ダフネとネビルは時折キシリアの杖から放たれるアバダケダブラを避けながら仲間に加勢する隙を伺っていた。だがザビニは、加勢を拒否した。
「コイツは俺がやる!行けよ!」
「ダメだよ!君を置いては行けないよ!」
今にも死にそうな……否、今にもキシリアを殺してしまいそうなザビニを止めるために、ネビルは先ほどとは異なる決断をした。仲間に人殺し、ましてや親殺しなどさせるわけにはいかなかったのだ。
***
ハリー、ハーマイオニーの二人はアントニン・ドロホフというデスイーターを相手取り、果敢に攻め立てていた。ドロホフは趣味の悪い髑髏のネックレスを身に付け、呪文の余波で砕けた破片を器用に操作しながらハリー達にぶつけてくる。ハーマイオニーのプロテゴ・ホリビリスがなければ、破片は二人の頸動脈を貫いていたに違いなかった。ハリーは無言フィニートでドロホフの波状攻撃を終わらせると、ハンドシグナルでハーマイオニーへ2のサインを送る。
攻撃だ。
ハリー達は一転して攻撃に転じた。
ハリー達が攻勢を選んだのは、それが最適解であったからだ。ドロホフはハリー達を逃がすまいと神秘部の扉をロックしている。進もうにも、条件付きの蒼炎はフレイム・グレイシアス(炎よ凍れ)すら退ける強力無比な魔法である。この場で術者と思わしきドロホフを倒すことが最適解であるとハリー達は瞬時に理解した。
アントニン・ドロホフは決闘巧者であった。彼が決闘に勝利し殺戮した人間の数は千を超える。マグル、魔法族を問わず大勢の人間を殺戮して経験を積んだドロホフは、数で劣る相手と戦う術を心得ていた。
動きの悪い方、つまりは弱い相手を倒して数を減らす。ドロホフはその基本に忠実に動いた。ハリーはドロホフに攻撃の間を与えたくはなかった。
『ドロホフを襲え!!』
ドロホフの左手に鞭が出現し、鞭に紫色の炎が宿った。鞭はハリーが卵から産み出したアッシュワインダーの群れをなぎ倒し、ハーマイオニーが出したアグアメンティ・マキシマ(水よ)を瞬時に蒸発させてなお炎の勢いを弱めない。そのままハーマイオニーに向けて突撃してくるドロホフとハーマイオニーとの間にハリーは割り込んだ。
(……レジリメンス!!)
ハリーは内心でレジリメンスを発動しながらドロホフと視線を交わした。ハリーはこれまでドロホフと視線を合わせてはいなかった。ドロホフのレジリメンスを警戒したからだ。
(背後からアバダケダブラを撃って小娘を殺してやる)
ドロホフの思考がハリーに流れ込んでくる。ドロホフは衝撃と共にオクルメンシーによってハリーに思考を読まれることを避けた。
『ハーマイオニーの背中を護れ』「アバダケダブラ!!」
ドロホフの死の魔法がハーマイオニーへと着弾する寸前、疑似生命ではない本物のアッシュワインダーがハーマイオニーの背中を護る。
なぜドロホフは正面からハーマイオニーに突撃しながら、ハーマイオニーの背後に死の魔法を撃つことが出来たのか。
それはドロホフの右手が、ヴォルデモート、よって与えられた銀色の義手であったからだ。
ドロホフは主から義手を二つ与えられていた。本人の意思と連動して動く義手は、たとえ片方がドロホフの腕に装着されていようとも腕としての機能を果たす。ドロホフは、一人で二つの杖を操作できる。
だから正面から突撃しながらハーマイオニーの背後を狙い撃てたのである。
「ハーマイオニー!!背後に気をつけろ!ドロホフの杖と腕がある!」
「!?……なっ……何なのこれは!?」
ハリーが警告を発した瞬間、ハーマイオニーも真実に気付いた。人体と接続されていないにも関わらず動く杖がハーマイオニーの背後にある。ハーマイオニーは即座にエクスペリアームスを放つが、杖は器用にプロテゴを展開して武装解除されることを防いでいた。
「ペスティス・インセンディウム・ミニマム(最小出力の悪霊の火よ。敵対者を燃やし尽くせ)」
ハリーの渾身のペスティス・インセンディウム(悪霊の炎)がドロホフの全身を燃やすために柊の杖から放たれた。ハリーにはドロホフへの殺意しかなかった。
ミニマム、というのはマキシマの対となる魔法である。その魔法が発動可能なギリギリの出力で魔法を行使する。高度な魔法であっても、基本的な魔法であっても変わらず必要となる基礎にして王道の技術。
それは制御の難しい悪霊の火をコントロールするには必須のスキルであった。ハリーはザムザやシノ達に魔法を教える時間を有効に使っていると言えた。魔法をただ行使するのではなく、その魔法を使うのに何が必要で何が不要であるのかを改めて学び直し、コントロール技術を向上させたのだから。
ドロホフの杖操作には欠陥があるに違いなかった。同時に2ヵ所で杖を操作するというのは思考の並列作業を必要とする離れ業だ。ドロホフの動きは鈍く、ハリーから撃たれた蛇型の悪霊の火を防ぐのにプロテゴ・マキシマではなくプロテゴ止まりとなった。
ハリーから放たれた殺意の炎は、ドロホフのネックレスを燃やした。が、ドロホフの身体を燃やすには至らない。ドロホフが持つ紫色の鞭は何と、悪霊の火を吸い込んでしまった。
鞭は勢いをなくしたが、ハーマイオニーは驚愕に目を見開く。何とか背後の義手と杖を沈黙させ、腕から武装解除(エクスペリアームス)で杖を弾き飛ばしながらも、ハーマイオニーはドロホフの闇の魔法使いとしての熟練度が想像を超えていたことを悟った。
(……何てことなの。……ハリーにも驚いたけど……あのドロホフ……悪霊の火が効かないなんて!)
そう驚愕するハーマイオニーをよそにハリーは飛行するドロホフへとディセンド(落ちろ)を叩き込もうとする。ドロホフは余裕の笑みを浮かべながらハリーに言った。
「腕を上げたなハリー・ポッター!脱童貞出来て良かったな、ええ?おい」
「何の話だ!」「お前が燃やしたネックレスを見ろよ。俺の仲間が作った自信作だったんだぜ?インペリオ」
ドロホフは話ながらもハーマイオニーへインペリオ(支配)の魔術をかけようとする。ハリーはプロテゴ・ディアボリカ・ミニマムによってそれを防いだ。
プロテゴ・ディアボリカもまた危険極まりない魔法だ。プロテゴ・マキシマすら凌駕する防御力がありながら、下手をすればハーマイオニーや仲間をその炎で焼いてしまう。
だからハリーは、プロテゴ・ディアボリカの範囲と効果時間を徹底的に絞った。ハーマイオニーが動きがのろく、あまり動かないタイプであることも幸いし、一瞬ドロホフの魔法を防ぐと同時に悪魔の護りは消失する。
「……そ、そんな……そ……」
ドロホフが杖で指し示したものを見て、ハーマイオニーは息を飲んだ。
「お前が燃やしたのはなぁ、ポッター!生きた人間だ!ネックレスに加工されていただけの哀れなマグルのご老人よ!」
(……嘘だ)
ハリーはこれまで、アントニン・ドロホフに対して人が抱きうる抱くあらゆる負の感情を持っていた。
実質的な親友の敵であり、自分や友人の命を狙う敵であり。何より、無関係の人々に殺戮を繰り返す悪人だと。
だがその感情がいかに生温く、そしてドロホフという人間に対して向けるには優しすぎるものであったのか。ハリーはまたもや思い知ることになる。
「これでお前も人殺しだ、ポッター!ようこそ『こちら側』へ」
ドロホフはあえてハリーと目線を合わせた。ドロホフの思考は愉悦に染まっている。
地に横たわる骸骨は、正真正銘。つい先ほどまで生きていた人間だ。
(僕ががレベリオをかければ、ネックレスの姿から解放されていたかも……いや……いや違う、違うっ!悪いのはコイツだ!コイツなんだ!!)
アントニン・ドロホフの手によって。
ハリーは、殺人者となった。なってしまったのだ。
ハリーにはもはや迷いはなかった。
「ダメよハリー!挑発よ、きっと……きっと嘘だわ!」
躊躇いなく、無言で緑色の閃光を杖から放つ。
アバダ・ケダブラ。
純然たる殺意から放たれた死の呪いをドロホフは余裕をもってかわす。ドロホフはまたもや愉悦に顔を染めた。
(……よし!!)
ここまではドロホフの作戦通りであった。
ドロホフは主君であるヴォルデモートから密命を受けていた。ハリーと対峙したときは、必ずハリーを挑発して闇に落とすようにと。
全てはハリーの力量を。適正を。そしてその才能を闇の魔法使いに寄らせ、闇の魔法使いとしての箔をつけた上で殺害しようというヴォルデモートの試みであった。どれだけ闇の魔法使いとしての力量をあげようと、闇の魔法使いである時点でヴォルデモートの敵ではない。
なぜなら、トム・リドルはダークロードだからだ。闇の魔法に捧げた時間が違う。才能が違う。他の愛などという下らない感情に起因する得たいの知れない魔法ならばともかく、同系統の闇の魔法使いに負けるヴォルデモートではない。ドロホフは健気にも主のためにその身を呈して危険を請け負い、ハリーをより深い闇に落とすことに成功した。
「止めてハリー!お願いよ、止めて!そんなもの使わないで!」
ハーマイオニーの必死の制止にもハリーは耳を貸さなかった。皮肉にもそれが、ドロホフとハリーとの力量差を埋めることになった。
アバダケダブラという武器は、魔法使いにとっては恐怖の象徴である。
他の魔法には……例えばそれが独自開発されたカースであったとしても、生きてさえいれば復帰の見込みがある。が、アバダケダブラは当たれば死である。
(何、バカな、このガキ……俺より杖捌きが速いだと!?)
ドロホフの誤算は、ハリーが本気でデスイーター達に勝つための研鑽を積んでいたことだ。成長は微々たるものであっても、確実に一年前のハリーより動きの質は上がっている。
ドロホフが作り出した疑似生命のニフラーの盾を、ハリーのアバダケダブラが貫いた。
ドロホフを驚愕させたのはその後もハリーがアバダケダブラを撃ってきたことだ。
チャージタイム無しのアバダケダブラ(息絶えろ)。
それは言わばアバダケダブラ・デュオ。魔力のペース配分も精神力の磨耗も一切考えない、出し惜しみ無しの純然たる殺意。それをハリーは無言でドロホフへとぶつけてきた。
(……!?お……俺が死ぬのか!?この俺が!?)
ドロホフの瞳が明確な恐怖に染まる。ハリーの成長速度はドロホフの想像を越えていた。
アバダケダブラは通常、よほどの闇の魔法使いでも乱射は出来ない。
多くの魔法使いがステューピファイ・デュオ(失神魔法連射)を撃てるのは使用者に連射できるだけの魔法力があり、なおかつ相手への殺意がほとんどないから撃てるのだ。ステューピファイだけなら理屈の上では酷くても入院で済むのだから。
だがアバダケダブラは違う。人殺しに対して嫌悪感を持たない人間でもなければ、即死魔法を連発など不可能だ。すぐに魔力と精神力が枯渇するのだ。
一発撃つだけでクールタイムを必要とする魔法をハリーは十秒と間を置かずに撃った。それが見せかけではなく被弾すれば死を意味する力を持っているとドロホフは直感で悟った。
(殺す。ドロホフは殺す。いまここで必ず。どんな手を使ってでもだ)
ハリーはこの瞬間、己の未来も何もかもを捨てていた。ファルカスの、そして名もないマグル達の敵であり、ハリーを殺人者に追い込んだ人間を殺すためならば他に何も要らなかった。
光の魔法使いとして魔法使いとして大成出来た筈の若者がその才覚の全てをなげうって闇の魔術に手を染める。ドロホフはその瞬間を喜びながらも、迫り来る死の恐怖に怯えていた。
ドロホフが作り出した紫色の炎の鞭から、ハリーはコンジュレーションによってサラマンダーを産み出した。同じ手はくわないと仰け反るドロホフにハーマイオニーが追撃のステューピファイをかける。
ドロホフに一瞬だけ焦りが見えた。ドロホフはここで、撃つべき手を誤った。
決闘巧者らしからぬミスであった。本来であれば、まだドロホフにはハリーを圧倒できる経験の差があった筈なのだ。
しかしドロホフは臆した。闇の魔術を扱いこなし実力差を埋めながら、淡々と迫り来るハリーに異様な圧を感じた。アントニン・ドロホフという男は、自らが産み出した闇の大きさに臆したのである。
「インペリオ(支配)!」「……くそ!コンファンダス(混乱しろ)!!」
ハリーに支配の魔法は通用しなかった。ハリーは何の苦もなくドロホフの支配を退けた。ハーマイオニーは一瞬飲み込まれかけたものの、自分自身の顔面を叩いて支配を退けた。
コンファンダスでハリーとハーマイオニーを操ろうとしたものの、コンファンドは通用しない。ハリーはロンから獅子座の聖石を借り受け、精神操作の類いを受け付けなかった。そしてハーマイオニーも、激しい戦闘で損傷してはいたがウィーズリー・ウィザード・ウィーズのプロテゴリングを装着していたからだ。
追い詰められたドロホフは、タイムターナーが保管されていたキャビネットへと衝突する。神秘部がその誇りにかけて護ってきたタイムターナーはドロホフの杖に当たり、
「や、止めてくれっ!助けて、み……見逃してくれ…お願いだ、……殺さないで……」
「改心する!アズカバン……アズカバンで罪を償う!た、頼む……この通りだ!俺には俺の帰りを待つ子供がいるんだ!」
数多くの人間を殺戮した男についに終わりの瞬間が訪れた。それは無慈悲で、呆気ない幕切れだった。ドロホフはしゅるしゅるとその頭部だけを縮小させ、小さな赤子の姿に変わっていた。変化しながらやがて泣きわめくだけとなるドロホフの姿を見ても、ハリーは可哀想だとすら思わなかった。
「赤ちゃんを殺すなんて、止めて。お願いよハリー……」
ハーマイオニーは目に涙を浮かべながらハリーを止めようと立ちふさがった。ハリーはハーマイオニーをステューピファイで失神させた。
「アントニン・ドロホフ。お前にかける慈悲なんて無い」
ハリーはドロホフに対しては、何一つ情けをかけなかった。
「……あ」
そしてシリウス・ブラックがハリーのもとへと辿り着いたとき。
シリウスはハリーが、アントニン・ドロホフを魔法によって浮かべ。死のヴェールの内側へと突き落とすのをその目で見た。
「……ハリー……」
「シリウス、皆は無事?」
「無事?……無事なものか!」
「ならグズグズしてる暇はないね。ハーマイオニーを起こして皆を助けに行かないと。リベナイト(蘇生)」
ハリーの目にドロホフを殺したことへの良心の呵責や迷いは一切感じられない。ハリーは闇の魔法使いとして完成に近付いてしまったのだ。
シリウス・ブラックは家族を持ち天国のような幸せを味わったあと、地獄の苦しみを味わうことになった。
護りたかった親友の忘れ形見が。愛すべき義理の息子が人を殺した瞬間を、その目に焼き付けることになったのだ。
ハーマイオニー・グレンジャーは目を覚ました後、キョロキョロと周囲を見渡した。そしてアントニン・ドロホフの姿がないことを確認すると、ハリーから距離を取った。
シリウスとハリーの地獄は続くよ何処までも