ひとつぶんの日だまりに二つはちょっと入らない。
あと描写する意味もないので割愛していますが、ラバスタンとロドルファスの兄弟は現在ロン・ジニー・ルナのチームと同じ部屋で脳みそと格闘中です。ハリー達を追ってテレポートしたら脳みその怪奇現象に遭遇してゴリゴリSanが削られております。
***
「ステューピファイ!!」
ブレーズの杖から放たれる赤い閃光を、デスイーターであるキシリアはすんでのところでかわす。そして怒りと憎悪を撒き散らしながら、実の息子に向けてクルシオ(拷問)を放つ。
ブレーズは敏速……瞬間移動と見まがうほどの高速移動魔法によってそれをかわした。
魔法族の決闘がコンジュレーションによる搦め手や多種多様なヘックス、チャーム、ジンクスを用いることなく閃光系の魔法を撃ち合う展開になる場合、最終的にはフィジカルの優劣や読み合いの上手さが勝負を決める。
魔法族がいかに人間離れしていようと、魔法が思考と身体能力の合わせ技によって放たれるものである以上、肉体というくびきから解き放たれることはできないのだ。
クィディッチを通してコンマ単位での読み合いや反射を鍛えてきたブレーズは裏の集会においてもアジリティにおいてトップクラスを誇っていた。それを発揮した相手が実の母親であったのはブレーズ・ザビニにとっての不幸だったのだろう。
ブレーズは黄金の魔法使いの像をレダクトで砕き、ロコモータ(動け)でキシリアへ投げつける。キシリアはプロテゴで攻撃を防ぎ、激怒した。
「どうして私の邪魔をするの!お前のために何でも買ってあげたでしょう!欲しいものは何だって与えてやったのに!」
「……この親不孝者め!」
ダフネとネビルは親子二人の決闘を止めるための仕掛けを施そうとする。が、キシリア・ザビニが時折撃ってくるアバダケダブラを警戒して容易には近付けない。
ダフネとネビルは決闘巧者ではない。ブレーズやハリー達が習得している『敏速』という高速移動術はまだ使いこなせず、移動しながらのエイムも上手くはない。ネビルに至ってはザビニへの誤射すらあり得る。
だから二人の援護は、ザビニの補助。
ダフネはプロテゴを遠隔からザビニに展開し、攻撃の余波を防ぐ。
ネビルは毒触手草をキシリアの足元に伸ばし、キシリアを空へと追いやる。キシリア・ザビニは飛んだのではなく、飛ばされたのだ。
キシリア・ザビニがデスイーターとして飛行魔法を習熟した期間は短い。飛行魔法の本家本元であるデスイーターの指導を受けていても、実戦経験が圧倒的に足りない。
それこそハリーやセドリックどころか、コリンの方が確実に飛ぶのは上手い。ただ空を飛べばいいというものではなく、敵の動きを予測して不規則に飛ぶというコツが必要になるのだが、キシリアにはその経験が圧倒的に足りない。
ハリー達を相手にしてきたザビニにとってはいいカモであった。
「人を殺せとは……頼んでねぇんだよ!」
ブレーズは怒りのまま無言でエクスペリアームスを放つ。武装解除の魔法は決闘術の初歩であるが、対魔法使いを想定したとき、敵を傷付けることなく勝負を決する最良の魔法となる。
キシリアの飛び先を予測していたブレーズの魔法は、寸分違うことなくキシリアの杖を弾き飛ばす。
キシリアの手を離れた杖はくるくると弧を描いてブレーズの手に収まる。飛行魔法の魔力の媒介となっていた杖を失い、キシリアは地面に落下していく。
複雑な表情のダフネは地面をクッションへと変化させ、キシリアを落下の衝撃から護った。
「…………!っ…………!」
反射的に激怒しそうになるネビルであったが、己を律して言葉を飲み込んだ。
仲間であるブレーズに母殺し、人殺しの重荷を背負わせたくはない。しかし、人を傷つけ殺すデスイーターに対して制裁を加えたいという感情もまたネビルの中でせめぎ合っているのだ。
「……もう止めましょう、ザビニ。無駄な争いは。……ミセス。私達は貴女を見逃します。ですから……もう仲間に手を出さないで」
(…………やっぱりダフネもデスイーターの……だけど……それでも僕たちの味方をしている……)
ネビルにとってもまた、現実は地獄だった。
デスイーターの子息に憎しみと鬱憤をぶつけられたならどれだけ心地がよいだろう。病院で尊厳を喪ったままの父と母を思う度に、デスイーター達がのうのうと罪を逃れている現実に気が狂いそうなほどの怒りをネビルは感じていた。
だが、目の前にいる二人は紛れもなくネビルの仲間であり……デスイーターの子息である。しかし、マルフォイと違って人を悪意をもって傷つけたりはしたことがないのだ。
ダフネの呼び掛けにキシリアは答えない。ただ自分が助けられたことが信じられないでいた。
「……お前とはもう親でも子でもねえ……これ以上俺の人生の邪魔すんな」
吐き捨てるように実の母親に呟くと、ブレーズは背を向けて歩きだした。
「……急ぐぞ!ここで立ち止まってること自体ハリーへの裏切りだ!後でアズのやつにねちっこく詰められんぞ!!」
もうキシリアを一瞥もせずこの場を去ろうとするブレーズ、ネビル、そしてダフネは、漆黒に色づく魔力を感じ取りぎょっとした。
デスイーターのテレポートに違いなかった。
「ステューピファイ(失神しろ)!!」
反射的にブレーズは失神魔法を撃つ。テレポートしたての人間が無防備であれば、直撃しそのまま勝ちが決まる。
しかし、テレポート先の人間は手練れであった。プロテゴの障壁が赤い閃光を阻む。
テレポートという技術は魔法族にとって無くてはならないものである。オーラーやデスイーター達は実戦の中でもこれを使いこなせるよう訓練する。
今回のように戦場へのテレポートを試みる場合、プロテゴを予め展開しておくのも基本である。テレポートした瞬間に流れ弾のステューピファイに被弾し、戦闘の流れで帰らぬに人になった人間もいるのだ。
ベラトリクス・レストレンジは手練れであり、こういう場面で基礎を怠る魔女ではなかった。余裕をもって表れたデスイーター有数の使い手に、ブレーズ達三人の顔が強張る。
「オヤオヤ?ポッターが居ないと思えば……血の裏切り者達じゃあないか。これはお仕置きが必要かねぇ?」
ネビルは無言で敵にモスフングスの粉末を投擲する。モスフングスとは毒キノコの一種であり、吸引した場合少量でも頭痛と胸のムカつきに襲われる危険物だ。
ベラトリクスはモスフングスの粉末を見るや、エバネスコでその全てを消し去った。しかしお喋り好きな気性が災いしてか、粉末の一部を吸い込んでしまう。戦闘に支障はないが、放置すれば後日集中的な治療が必要となるだろう。
「……小賢しい小僧だねえ?え?お母さんはお元気かい?」
ベラトリクスはモスフングスという毒に気付いたわけではない。彼女は薬草学そのものの知識は元々あまりない。長い間投獄されたせいで元々なかった知識がさらに錆び付いてはいるが、危険物であることは本能的に察知できた。
「うっ……?!うわああああっ!?」
ベラトリクスの無言クルシオによってネビルが地に付して転げ回る。ベラトリクスはさらに気分を良くしながら、ザビニの反撃を余裕をもってかわした。
「ス……ステューピファイ!!」
ダフネはガチガチと歯の根が合わなくなる。破れかぶれで出した魔法はあっさりとかわされ、お返しとばかりに放たれたクルシオによってダフネは地獄の苦しみを受ける。
その一瞬が、ダフネにとっては永遠に続く地獄にも思われた。否、人が生きていて死に至るまでの痛みを圧縮した時間の中で与え続けられるのだ。ダフネはこの瞬間、思わず叫んでいた。
「いや……いやぁっ!!助けて!助けてハリー!!」
泣き叫ぶダフネの姿に、ベラトリクスは愉悦と嗜虐心を刺激されたのだろう。シリウス・ブラックと良く似た吠えるような高笑いを響かせながらベラトリクスは笑う。
「……や、止めろ!彼女に手を出すな!」
グリフィンドール生らしき騎士道精神を発揮してネビルが立ち上がるや、ベラトリクスはネビルをクルシオにかけた。悶え苦しむネビルの姿を見て、ベラトリクスはボルテージの最高潮に達した。
英国魔法界においては事実上の王族を自称し、圧倒的権勢を誇っていたブラック家出身の魔女は支配する喜びを覚えていた。
一般人であれば罰され、罪に問われることすら好き勝手に出来る権力と、武力を持つ。純血主義者達がことさらにマグル生まれや裏切り者を標的とし虐げるのは、特権階級としての優越感を感じ取るための行為である。
ドロレス・アンブリッジもまたそういった優越感を感じ取るために権力に固執したが、ベラトリクスは武力に固執した。
テロリストに堕ち、投獄されたことで本来あったはずの名誉全てを喪った魔女は、純血主義の裏切り者を虐げることに格別の喜びを見出だしていた。
「もっともっといい声でお泣きよ裏切り者め。お前が犯した罪は……こんなものじゃあ済まされないんだよ!!」
さらに無言のクルシオをかけながら、ベラトリクスは部屋の中を縦横無尽に飛び回ってブレーズを翻弄する。ブレーズ・ザビニはあまりにも圧倒されていた。
これでもベラトリクスの力量は、全盛期のそれとは程遠かった。ベラトリクスは喪ったかつての力を神秘部での戦いで取り戻そうとしていたのだ。
神秘部にはかつてベラトリクスが求めるもの全てがあった。強力なオーラー達と、オーダーの精鋭部隊。そしてベラトリクスが蹂躙し踏みにじり、戦闘勘を取り戻すには丁度いい、技術と精神のどちらか、あるいは双方が未熟な学生達。
ベラトリクスに主への忠節があることは疑いようもない事実である。しかし、ベラトリクス・レストレンジは感情が昂ると無意味に残虐行為にふける悪癖があった。現在ベラトリクスは喜びを感じながら弱者をいたぶることに満足していた。
ついにベラトリクスの魔法がブレーズを捉えた。ブレーズのプロテゴは間に合わず、デパルソ(吹き飛べ)によって吹き飛ばされる。
「おやもう御仕舞いかい。案外呆気なかったねぇ」
モスフングスの症状はまだまだベラトリクスを蝕んではいない。ベラトリクスは愉悦と喜びを感じながらブレーズへと杖を向けようとした。
そして。
「……何のつもりだい、キシリア?」
両手を広げて立ち塞がる部下を睨み付けた。
ベラトリクスにはアズカバンで衰えた容姿の代わりに、狂気にも近い圧力を得ていた。アズカバンから解放した恩もある部下に向ける視線は苛立ちに満ちている。
「……レ……レストレンジ様……ど、どうか息子は……息子の命だけはお許しください。ど、どうか……」
「……どうか……私の命だけで……この子だけはお許しください……」
(……?!……な……何のつもりだ……?)
庇われたブレーズは何が起きているのかまるで理解が出来なかった。それは敵であるベラトリクスも同じらしい。
「……ああ。ああわかった、わかったよ。可愛い部下の頼みとあらば聞こうじゃないか。下がれ、キシリア。無礼であろう」
「……下がればお前の命は助けてやる」
ベラトリクスは内心の苛立ちを感じながらも、上司としての威厳を見せた。
ほんの気まぐれのような善意と厚意でキシリアを解放したのはベラトリクスである。キシリアはベラトリクスに深い恩義を感じ、今日までベラトリクスの命令に従って罪のない人間をアバダケダブラ殺害し、インペリオで支配し、クルシオで拷問にかけてきた。
そんな自分本意で身勝手な魔女が、たったひとつ。母親として息子だけは見逃して欲しいと頼んでいる。
ベラトリクス・レストレンジの下した命令はキシリアに対する最後の慈悲だった。こうしてキシリアと話をしている間にも、ダフネ・グリーングラスは身を起こしてロングボトムにヴィゲンヴィルド薬を飲ませている。キシリアの行為は任務、ひいては闇の帝王への背信行為にほかならず、これを罰さないことはデスイーターとして罪ですらあった。
それでもベラトリクスは杖を持たないキシリアに対して下がれと命令を与えた。
(これに従えば、この事は内々で済ませてキシリアへのクルシオだけで終わらせてやる)
そんな慈悲の心すらあった。
しかし……しかし。
キシリア・ザビニは我が子を護るためか、ベラトリクス・レストレンジの前から下がらなかった。ブレーズ・ザビニは頭を強くうっていたが、何とか立ち上がろうともがいていた。
「アバダケダブラ(死ね)」
ベラトリクスは裁きを下した。緑色の閃光がキシリア・ザビニの胸元へと突き刺さる。
かつては美しい容姿を誇り、ベラトリクス・レストレンジと同じように数々の異性を魅了した魔女は、年相応の衰えた容姿に恐怖心を貼りつかせながら崩れ落ちた。
「……えっ!?」
ブレーズ・ザビニも、ネビル・ロングボトムも。実際にアバダケダブラによって人が死んだということを認識することに時間がかかった。
「お、おい……嘘だろ?」
当たれば死ぬ。その事実が現実になってしまったことを、キシリアという魔女が息子のザビニを護ろうとしたという事実を頭が認識することを拒否していた。その間にも、怒りを滲ませたベラトリクス・レストレンジの杖がザビニへと向けられた。ザビニは立ち上がることも叶わず、無意識のうちに母親に手を伸ばしていた。
「クルシオ マキシマ(磔)!!!!」
恩を仇で返され激怒していたベラトリクスは、ブレーズへと最大出力のクルシオを撃った。アバダケダブラで終わらせるには、腹の虫が収まらなかった。
ハリー、ハーマイオニー、シリウスがシリウスの魔法のナイフによって壁を切り開いて部屋に突入してきたのは、ベラトリクスがブレーズへとクルシオ・マキシマをかけた瞬間だった。
その時、愛の護りが発動した。ハリー達が目にしたのは、己の撃ったクルシオによって激痛に苛まれるベラトリクス・レストレンジの姿であった。
愛の護りの発動条件には困難な条件がある。それはほとんど達成不可能と言ってよいものだった。
それは庇護対象があるものが、己の敵対者に全くの無抵抗で己の命を差し出し、かつ敵対者が一度はそれを了承しながら約束を反故にして庇護対象を害するというものだ。
デスイーターやヴォルデモートが敵対者を生かすつもりで約束する、という行為はほとんどない。
敵対者は薬品やインペリオで支配したり、拷問で脅すなどして屈服させる。そして殺すと決めたらアバダケダブラで始末する。ヴォルデモートに敵対する勇敢な魔法族もそれが分かっているから、抵抗すべき時に無抵抗で己の命を差し出すことはしない。
ヴォルデモートやデスイーターに敵対した時点で、実質的に尊厳を破壊され人格を殺されるに等しいからだ。
今回愛の護りが発動した。否、してしまったのは、ベラトリクス・レストレンジがその師と同じく、愛について全くの無知であったからだ。
師匠と弟子というものはえてして似てしまうものである。弟子が師を敬愛しそれに倣おうとすればするほど、その美点だけでなく欠点も継いでしまうものである。
師であるヴォルデモートと同じ過ちを、最も忠実な弟子であるベラトリクスが犯すのは必然であると言えた。
ベラトリクス・レストレンジは現代に甦ったデスイーターとして最強の力を持っていた。ドロホフやルシウスですら、単体戦力としては衰えた現在のベラトリクスの方が上だ。
しかし、それを凌駕したのは、身勝手で押し付けがましいたった一人の母親の。
愛である。
アルバス・ダンブルドアが言った通り、万人が持ち得るその感情こそが、最強なのであった。
***
「…………」
ハリーはザビニに何と声をかけて良いかわからなかった。呆然と立ち尽くすザビニを見ていると、ベラトリクス・レストレンジのことなどどうでもよくなってくる。
「お……おのれ!なぜだ、なぜっ!?」
事態が理解できないベラトリクスにハリーはアバダケダブラを撃とうとした。しかし、それより早く二人が動いた。
シリウスとハーマイオニーは、クルシオ・マキシマを受けたベラトリクスに間髪いれずステューピファイを叩き込んだ。ハーマイオニーは淡々と、シリウスは悲壮な決意でもって、これ以上ハリーに殺人を犯させまいと必死になっていた。
「……何でだ?どうしてあんたは……」
我を喪い放心するザビニを見て、ハリーはシリウスを見た。今のザビニはとても動けるような状態ではなかった。
(……眠らせてあげてもいいかな)
シリウスは無言で頷く。ハリーが放心するザビニに無理矢理眠り薬を飲ませたかった。今のザビニに戦闘などさせたくはなかった。
「……ザビニ。回復薬だ。飲んでくれ……」
「要らねえよ!」
ザビニは強引にハリーの手を弾き飛ばした。眠り薬の小瓶が床に転がり、ザビニはハリーを睨む。
そしてネビルとダフネをハマイオニーが治療していたとき。
「いやぁーっ!?」
ダフネの絶叫が聞こえた。ハリーは額の痛みを感じ取って振り返った。
「……全く……全くもって、愚かなことだ……」
この場の全員が凍りつくような声がした。声の主は、失望したような目をベラトリクス・レストレンジへと向けていた。
骸骨のような容姿に、人ではない蛇のように青白い肌。そして血のように赤い瞳を持つ魔法使い。
トム・リドルが、その場に立っていた。神秘部のまさにど真ん中に、闇の帝王ことヴォルデモートが姿を現したのである。
「ベラ……君がいながらこの失態とは、一体どういうことかね?」
複数の失神呪文を受けたはずのベラトリクスは、満身創痍で咳き込みながらも恐れに身を縮めながら、主君に平伏していた。
「お、畏れながら……オーダーが邪魔をしてきたのです!!わ、私は全力で使命を果たそうとしておりました!」
「ほう……では我が忠実なしもべ達は、オーダーが到着するまでの間子供達と戯れていたとー」
ハリーはヴォルデモートの話を聞く義理はなかった。
ハリーの柊の杖から緑色の閃光が迸る。それはヴォルデモートが反射的に出した緑色の閃光と交わって、蛇のように絡み合い、不気味な不協和音を奏でた。
兄弟杖の共鳴である。ヴォルデモートの杖からは再び、喪われた犠牲者達が表れハリーに加勢しようとする。今度はハリーの両親はいない。ただただ拷問され尊厳を奪われ、命を奪われた見知らぬ魔法使いやマグル達の魂がヴォルデモートの死を願っていた。
『頼む、コイツに負けないでくれ……!!』
『殺せ!殺してくれ!あの化物を!!』
『私だけじゃなく、子供達まで……!』
死者の声援に混じって、ザビニが叫ぶ。
「そうだ、殺せ!ハリーっ!!ヴォルデモートを、ぶっ殺してくれぇ!」
ザビニもまた、狂気に呑まれていた。
「止めろ……止めてくれ!ハリー、もう止めてくれ!……止めるんだハリーっ!!」
「魂達よ!この子に重荷を負わせないでくれ!ハリーは……ハリーはまだ子供なんだー!!」
シリウスの絶叫が虚しく響いた。
だが。今のハリーには、彼らの応援が虚しく響いていた。自分に彼らからの激励を受けとる資格など無いと、ハリー自身が一番よく分かっていたからだ。
そして今回ばかりは、ヴォルデモートの側にも加勢する魂があった。ハリーは首を絞められるような感覚に襲われた。
『よくも殺ってくれたなぁ、ポッター……!!』
アントニン・ドロホフの魂が、ヴォルデモートに加勢する。ベラトリクスやレストレンジ兄弟と並んでヴォルデモートの忠臣であり続けた男は、己を殺したハリーに復讐しに舞い戻って来たのだ。
ハリーは笑った。笑いながら、アバダケダブラの出力が上がる。ただただ虚無感と怒りに身を任せる以外にハリーのなす術はなかった。
「ハリーっ……!!」「行っては駄目よダフネ!行けば死ぬわっ!!」
ダフネは自分を抱き締めるハーマイオニーが震えているのに気付いた。
「お願いよ。貴女は……正気で居てよ……」
すがるように呟くハーマイオニー・グレンジャーは、今までダフネが見たこともないほど幼く見えた。ダフネはこの時はじめて、ハーマイオニーが自分と同い年であったことに気付いた。
兄弟杖の共鳴をもってしても、闇の魔法使いとしての力量差は歴然として存在する。ハリーは次第にヴォルデモートに押し込まれていった。
シリウスのコンジュレーションの大群がヴォルデモートを飲み込もうと押し寄せる。
二匹のオカミーと三匹の小型のグラップホーンが、ヴォルデモートを上と下から襲う。しかし、ヴォルデモートは杖すら使わず指1本で疑似生命達をバラバラに分解してしまう。
ハリーがついにヴォルデモートの緑色の閃光に飲み込まれようとした、まさにその瞬間。
上半身が砕け散っていた黄金の魔法使いの像が動いた。
不思議な現象が起きたとしか言いようがなかった。ハリーとヴォルデモート、二名のアバダケダブラの間に割って入った立像は、二名のアバダケダブラを受けてまるで生命活動を喪ったかのように停止したのである。
「……馬鹿な。これはもしや……」
「……ダンブルドアかっ!」
ハリーは目を見開いた。
全身から弾けるようなオーラを立ち上らせた善の魔法使いが、金色のゲートの前に立っていた。ダンブルドアはヴォルデモートを見、そしてハリーを見て、瞳から一筋の涙をつたわせた。
現代最強の闇の魔法使いと。
今世紀最強の善の魔法使いが揃った。
一人は闇の魔術を含めたあらゆる魔法を極めた者が最強であると主張し。
一人は、万人が持ち得る不可思議で制御不能な『愛』こそが真の魔法であると説いた。
互いに相容れない二人がこの場に現れた時、その場の誰もが二人の持つ『何か』に支配されていた。それはハリーも例外ではなかった。痛む額を抑えながら、ハリーは……否、この場の誰もが確信していた。
この戦いでヴォルデモートかダンブルドアのどちらかが倒れれば。
その時点で、この戦争の勝敗も決まると。
『愛』こそ『最強』なのであった(ナガノ風)。