蛇寮の獅子   作:捨独楽

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雪辱戦

 

 ハリーとハーマイオニーは二人で一緒にアロホモラを唱え次の試練……あるいは、賢者の石を狙う犯人がいる部屋に足を踏み入れた。

 

 そこには地獄のような光景が広がっていた。

 

 

 ハリーが魔法で変化させた蝶々を使って、二匹のトロルが遊んでいた。彼らはわざと蝶々に当てないよう、超高速でこん棒を振り回し、どちらがより素早くこん棒を振り回せるかと、遊び相手である蝶々が消えないよう楽しむことに専念しているようだった。遊んでいたトロルたちは、扉から入り込んだ風を受けてぴたりとこん棒を止め、ハリーたち二人を見た。二匹のトロルはハロウィンのトロルより一回り以上も大きく、腕の筋肉はハリーの頭よりも大きく膨れ上がっていて、巨大な筋肉の鎧の上からさらに頑丈そうな鎧を着込んでいた。

 

 ハリーとハーマイオニーはトロルを一目見るなり、扉を閉じた。魔法で錠をかけ、トロルがチェスの部屋に入ってこないことを祈った。

 

「……トロルがいるなんて……!?それも二匹も?!」

 

「どうしましょう……今はロンもいないのに!!」

 

 ロンがいれば、二匹のトロルにさぞ愉快な名前をつけてくれただろう。しかし、ロンは気絶していて、ハリーたちを落ち着かせてはくれなかった。

 

(甘かった……!)

 

 ハリーとハーマイオニーは一時的にパニックになりかけた。ハロウィンのことがあったのに、トロルが学校の中にいて待ち構えているとは思わなかった。心のどこかで、罠を軽んじていた。

 

「……とりあえず、トロルを倒すための何か……何でもいいから武器が欲しい。チェスの駒の残骸が使えないかな。ウィンガーディアム レヴィオーサ(浮遊せよ)!」

 

 ハリーは比較的大きな残骸に浮遊魔法をかけてみたが、残骸はピクリとも動いてくれない。

 

「いいえハリー。トロルは岩を投げ返すことも出来るわ。……武器よりも、トロルの攻撃をどうにかする方法を考えないと」

 

「……でも、倒す方法すら思い付かないのに……」

 

 ハリーはハロウィンのとき、ロンがこん棒でトロルを打倒したことを思い出した。高く、高く舞い上がったこん棒が、トロルの頭上から落下したときのことを。

 

(高く。そうだ!高さだ!!)

 

「ハーマイオニー!鳥の部屋に戻ろう!!あそこの箒を使うんだ!!箒でトロルの攻撃が届かないところに行ってから、ハロウィンの時みたいにこん棒をぶつけてやるんだ!頭に!!」

 

 ハリーはこれならやれるかもしれないと思った。ハーマイオニーも、絶望的な状況から、少しだけ光明を見いだしたようだった。彼女は蒼白になりながら、ぎゅっと自分の髪の毛を握りしめた。

 

「そ、それしか……ないわね。でもハリー、トロルがこん棒を投げつけてくるかもしれないわ。それに、飛び上がって攻撃してくるかもしれない」

 

「こん棒は僕がエクスペリアームス(武装解除)で何とかするよ。シリウスが教えてくれたんだ。トロルを挑発して気をひくから、ハーマイオニーはトロルの頭を後ろから思いっきり叩いて」

 

「ハリー、怖くないの!?そんなことをしたら死んでしまうかもしれないわ!!」

 

 ハリーは怖かったが、自分がロンの代わりにハーマイオニーの前に立つしかないと思った。それはグリフィンドール的な勇気ではなかった。

 

「もう怖がってる場合じゃないんだ!ここに来るまでに、みんなを置いてきてしまったんだ……!!」

 

「……あなたはとても勇敢よ、ハリー」

 

 ハーマイオニーは反論しようとして、その時間が惜しいことに気がついた。代案が浮かばない上、自分はハリーほど箒の扱いも上手くはない。トロルの攻撃を受けずにトロルを倒すという無理難題を攻略する答えがあるとしたら、これしかないのだ。

 

「そんなことはないよ。ハーマイオニー。君が居なければ、僕だってこんなアイデアは浮かばなかった」

 

 ハリーはもう止まるわけにはいかなかった。アズラエルとドラコとファルカス。ザビニ。そしてロンも。友達をみんな置いてここまできたというのに、どうしてここでハリーだけ、立ち止まれるというのだろう。それは勇気ではなく、責任感というものだった。四つの寮の徳目のどれでもなかった。

 

「……ハーマイオニー。行くよ、準備はいい?」

 

 

「いつでもいいわ、ハリー」

 

「……3、2、1、アロホモラ(開け)!!」

 

 

 ハリーとハーマイオニーは、扉が開くなり箒に乗ってトロルの待ち構える部屋に突入した。二匹のトロルはすでに蝶々を粉々にして、臨戦態勢でハリーたちを待ち構えていた。

 

「ハーマイオニー、上だ!上に飛んで!!」

 

 ハリーがそう指示し、ハリーとハーマイオニーは箒の性能に任せた加速で上空に舞い上がる。

 

 直後、先ほどまでハリーたちがいた空間に一匹のトロルが突撃していた。ハリーはそのままトロルがチェスの部屋に入ってしまうのではないかと思ったが、トロルは魔法でこの部屋を出れないようになっているのか、魔法の障壁に阻まれ痛そうに呻き声をあげていた。突撃したトロルではないもう一匹のトロルは、獰猛そうな声ではなく、何かトロルの言葉でそのトロルに話しかけていた。

 

「ハリー、この子は任せて!!ウィンガーディアム レヴィオーサ!!」

 

 ハーマイオニーは突撃したトロルのこん棒を浮かそうと、こん棒に魔法をかける。トロルは左手に握りしめたこん棒が浮かないよう、必死で手を握りしめていた。

 

 ハリーはそちらのトロルをハーマイオニーに任せて、ハリーを狙おうとしていたもう一匹のトロルが握るこん棒めがけてまっすぐに杖を振り下ろした。

 

「エクスペリアームス!!」

 

 ハリーの杖から武装解除の閃光が放たれる。しかし、トロルはその閃光を左に避けてかわした。トロルの獰猛な顔が笑みを浮かべているように見える。

 

(……箒に乗っているから?!)

 

 不安定な箒の上で魔法を使ったことはない。ハリーがトロルのこん棒を奪うには、トロルにもう少しだけ近づかなければいけないようだった。

 

 

 ハリーが箒を加速させ接近したとき、トロルは鎧の肩当てを外した。肩当てを握りしめ、投擲の体勢に入る。

 

(まずい!鎧を武器に使うなんて!)

 

「エクスペリアームス!!」

 

 狙いがハリーならば躱せる。しかし、ハーマイオニーが狙われたら?

 

 ハリーは咄嗟に、こん棒ではなく肩当てに武装解除の閃光を放つ。肩当てはくるくると宙を舞って、ハリーのところに飛んでいこうとする。

 

 しかし、肩当てがハリーのものになることはなかった。トロルは主を裏切った肩当てに、渾身の力を込めてこん棒をぶち当てた。

 

 

 ハリーはトロルがこん棒を振り下ろす直前、咄嗟に全体重を左に傾けて避けた。それは勘に過ぎなかったが、それがハリーの命を救った。

 

 肩当てはトロルの馬鹿力にも原型をとどめたまま、音速以上の速度でハリーが先ほどまでいた位置を通り過ぎ、天井のシャンデリアへとぶつかった。シャンデリアは耳が苛立つ音を立てて揺れ、その破片が部屋中に飛び散った。

 

「ウィンガーディアム レヴィオーサ!!ウィンガーディアム レヴィオーサッ!!」

 

 ハーマイオニーはその喧騒のなかでも、目の前のトロルにだけ専念していた。というより、気にする余裕などなかった。ハーマイオニーはトロルのこん棒を浮遊させ、幾度も幾度も、休むことなくトロルの頭だけを狙い続けていた。声がかれようと、トロルが頭から血を流そうと、止めることはできなかった。ハーマイオニーも必死だった。やらなければ自分もハリーも死んでしまうのだから。

 

 

 ハリーはもう一匹のトロルがハーマイオニーを狙わないよう、反対側の壁際に沿って箒を高速で動かした。ハリーを狙うトロルはトロルとは思えないほど俊敏に鍛え上げられていて、あっという間にハリーとの距離をつめる。ハリーは上空に逃げたが、何とこのトロルは鍛え上げられた真の戦士だった。箒の高さにも負けることなく、跳躍してハリーへと向かってくる。

 

「エクスペリアームス!!」

 

 

 

 ハリーはトロルのこん棒を今度こそ弾き飛ばした。こん棒を飛ばされたトロルは、その勢いで空中で姿勢を崩す。箒に乗って、戦闘の緊張感で高揚したハリーは、トロルの動きがいやにスローに見えていた。トロルの顔の動揺がよくみえる。暗い夜道のようなどんよりとした目が、大きく見開かれていた。

 

「ボンバーダ(爆発せよ)」

 

 ハリーはトロルの眼球を、正確に爆破することに成功した。ハリーはふと、マクゴナガル教授の言葉を思い出していた。

 

『強力な魔法に頼る者は時として、魔法生物の高い耐性に足をすくわれます。ですが、そんな魔法生物にも、目という弱点は存在します』

 

 ハリーはこの一年で学んだことを出しつくし、トロルへの雪辱を果たすことが出来た。友達と飛ぶことで培った箒の操縦技術も、シリウスのアドバイスを受けてフリットウィック教授から教わった呪文学も、マクゴナガル教授の適切なアドバイスとハロウィンの経験、そして、クィレル教授から教わった呪文の理論。どれが欠けていても、ハリーは死んでいた。おそらく戦いにすらならなかったはずだ。

 

 

 トロルを倒すのに、強力なカースは必要なかった。ハリーは目を爆破されたトロルが、痛みでそのまま落ちていくのを見た。トロルは鍛え上げたことで俊敏さを手に入れた代わりに、痛みへの耐性も失ってしまっていたかのようだった。

 

「ウィンガーディアム レヴィオーサ!!」

 

 ハリーは奪ったこん棒を使い、地面へと頭を打ち付けたトロルに追い討ちをかけた。棍棒がトロルの頭へと何度も叩きつけられる。何かが砕ける音がし、気がついたときには、トロルの頭からは血が流れていた。トロルはピクリとも動かない。

 

「ハーマイオニー!無事!?」

 

 ハリーは荒い息で箒に乗ったまま、自分がハーマイオニーを守れていなかったことに気がついた。くるりと方向転換すると、ハーマイオニーは涙を流しながらトロルにこん棒をぶつけていた。

 

「ハーマイオニー、大丈夫!大丈夫だよ!!もう終わったから!」

 

 ハリーはトロルとハーマイオニーとの間に割り込んで彼女を止めた。ハーマイオニーははっとしたように杖を止めると、荒い息のまま箒を地面に降ろし、へなへなと箒から降りた。

 

「……怖かったよね。君を守れなくてごめん、ハーマイオニー」

 

(ごめんじゃないだろ、何やってんだハリー)

 

 

 ハリーは自分の脳内で、ハリーを責めるロンの声を聞いたような気がした。

 ハリーは自分が情けなかった。

 

(こういうとき、アズラエルならハーマイオニーを立ち直らせる言葉をかけられるかもしれないのに)

 

 ハリーにできたのは、なんとなく持ってきたハンカチをハーマイオニーに手渡すことくらいだった。

 

「ち……違うの。私、私……トロルを殺してしまったかもしれない!この子たちは命令を聞いていただけなのに!石を守っていただけなのに!!」

 

 ハーマイオニーは生き物を殺したかもしれない恐怖で震えていた。

 ハリーもハーマイオニーも魔法族だ。魔法薬の材料となる生き物が、時には殺されていることは理解しているし、授業で蛙などの生き物を解剖したこともある。

 

 

 しかし、自分の意思で、何の罪もない生き物を傷つけたのはじめてだった。

 

 ハリーの脳内で、ドラコの、声が響いた。

 

『全部お前のせいだぞ、ポッター!!』

 

「ハーマイオニー。これは君のせいじゃない」

 

 ハリーはしゃがみこんで、同じくへたりこんでいたハーマイオニーに言った。

 

「僕がやれって言ったんだ。トロルを倒したのは君のせいなんかじゃない。やらせた僕のせいなんだ。誰が聞いたってそう言ってくれる。ハーマイオニー、だから……だから君が気にすることはないんだ」

 

 ハリーは悪魔が唆すような言葉をかけて、ハーマイオニーを立ち直らせようとした。それはハリーなりにハーマイオニーを思っての言葉だった。

 しかし、ハーマイオニーは、ハリーの予想よりもずっと強かった。彼女はハンカチでごしごしと目をこすると、涙の跡が残る顔を上げて言った。

 

「……いいえ!!ハリー、それは絶対に違うわ!私は私の意思で、自分の意思でここに来たの!!絶対にハリーのせいなんかじゃない!!前に進みましょう、ハリー!」

 

 ハーマイオニーは、ハリーが止める間もなく次の扉を開けて進んだ。彼女はハリーが思うより、ずっとずっとずっと、強くあろうとしていたのだ。

 




視点を変えてみるとスリザリンの不良とつるんでるグリフィンドールの優等生の図。
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