メリアドール・レストレンジは主治医として主であるベラトリクスの定期検診を終えた。短く切り揃えたブロンドの髪の毛が、メリアドールの黒いローブの隙間から見えた。
「経過は順調です、奥様。胞子の毒は減少傾向にあります。奥様の並々ならぬ回復力には驚嘆するばかりです」
金色の髪を持つブロンドの魔女であるメリアドールは、かつてアグリアス・ベオルブ『だった』。
彼女は長期間に渡ってベラトリクス、そしてドラコからインペリオ(支配)とクルシオ(拷問)の魔法を受け続けた。解放の見込みのない闇の魔術によって与えられた苦痛はアグリアスの魂を破壊し、ドラコ・マルフォイのクルシオから目覚めたアグリアスは己の名前や過去の記憶を失っていた。
呆然とするアグリアスに、ベラトリクスは嘘の記憶を吹き込んだ。自分はベラトリクスの手下である人攫いの一味であったが、ベラトリクスからヒーラーとしての指導を受けていた魔女のメリアドール・レストレンジだと。任務に失敗し記憶を喪ったものの、ベラトリクスの主治医であることに変わりはない、とベラトリクスは優しくアグリアスの手を取った。
己の記憶の一切が喪われたアグリアスは、心を安定させるためにベラトリクスの手を取った。傍らにいたドラコ・マルフォイは己のした所業を呆然として眺めていた。
拉致し、拷問にかけて無理矢理支配した挙げ句不可逆の被害を与えた上で部下として服従させるなどこれ以上の尊厳破壊はない。それに自分も加担してしまったという事実を認識したドラコは徹底的にアグリアス、もといメリアドールとの接触を避けた。
黒いフードとメリアドールという偽の名前を与えられたアグリアスは、ベラトリクスの家臣として病に侵された主を救うという役割に固執した。
ベラトリクスの主治医としての役目を終え、マルフォイ邸で与えられた部屋に戻ったメリアドールは闇陣営としてのローブを脱ぎ、ペンシーブを起動した。そして、己の記憶を探る。
知識として蓄えられたヒーラーの知識。学舎で勉学した記憶。それらを断片的につなげあわせることは、出来た。しかし、己の両親や名前や家族の記憶は取り出すことが出来ない。記憶の中に出てくる人物の顔も名前も朧気で、薄いもやがかかってしまっていた。
(……私は……奥様のように大勢の魔法族を傷付けてきたのだろうか?)
メリアドールは欠落した記憶の断片からかつての自分はどんな人間だったのかと思いを巡らせようとした。しかし、クルシオにかけられた時のような強い頭痛が彼女を蝕み、何も思い出すことは出来ない。
フランク・ロングボトムとアリス・ロングボトムの夫妻はかつてベラトリクス、ロドルファス、ラバスタン、クラウチJr.、そしてもう一人のデスイーターからクルシオによる拷問を受け続けた。複数の魔法使いから与えられる多様な苦痛はかけられた人間の魂に不可逆の傷をつけてしまう。
オブリビエイト系列の魔法に秀でたヒーラーであっても、現在の魔法族に魂の損傷によって破損した記憶を修復する術はない。魔法族にとって真に重要なものが欠けてしまったからだ。
ヒーラーとして自分の記憶を取り戻す術がないことを直感的に理解していたメリアドールは溜め息をついた。
(止すんだ。昔のことを考えるのは。……私はもう悪事に加担してしまっているんだ……)
右も左も分からない状態で目の前に現れ、メリアドールと呼んだたベラトリクスは、彼女にとって親にも等しい存在だった。その言葉に従い、ヒーラーとしてベラトリクスに尽くしている時点で既に自分は罪深い存在なのだとメリアドールは己に言い聞かせた。
(……むしろ私は……自分にとって不都合な殺戮の記憶を消してしまったのではないか?)
そう考えてしまっていた。
記憶とは人格に紐付けられた重要な要素である。魂の欠落を埋めるため、メリアドールとしてアグリアスはベラトリクスにすがり、二週間のあいだベラトリクスに尽くした。その結果、ベラトリクスが残酷極まりない魔女であることも理解させられた。
ベラトリクスに些細なミスでクルシオを受けたとき、メリアドールの心は折れた。ベラトリクスに対しては従順に従うことが唯一自分が生きる道なのだと、メリアドールは自分に言い聞かせる。
しかし、彼女は己の良心には嘘がつけなかった。
(……こんなことをしても意味がないと、解っている。だけど……)
再び漆黒のローブを身に纏い、メリアドールは部屋を出た。目的地に向かう途中、この屋敷の主であるはずのドラコ・マルフォイとすれ違う。メリアドールは恭しく頭を下げたが、ドラコは一瞥もしなかった。
(助かった)
と、メリアドールは安堵した。正式に闇の印を与えられていないメリアドールが屋敷を闊歩することを快く思わないデスイーターは多い。何ならドラコの母親も場違いだと言って嫌がらせを与えてくることはある。メリアドールはドラコに感謝しながら、地下へと続く隠し階段を明らかにすべく杖で床を叩いた。
***
「……また、あんたか……」
メリアドールが訪れたのは牢屋で鎖に繋がれた囚人のところだった。
由緒正しいマルフォイ邸の地下には、強盗犯や罪人をとらえて閉じ込めておくための地下牢が存在する。まだマルフォイ家がマグルと交流を持ち、貴族として領地の罪人に罰を与える権利を有していた頃からの名残である。
アグリアスは捕らえられていた囚人達のもとを一人一人訪れて、彼らの傷を癒した。クルシオにかけられたことによる魂の破損はいかんともし難かったが、ベラトリクスをはじめとしたデスイーター達が拷問のために(或いは己の楽しみのために)与えた傷を、アグリアスはヒーラーとして癒していく。
「……顔につけられた傷は、治療させて頂きます。背中の傷もこのままでは膿んでしまいます。貴女になにかあれば私もただでは済みませんので」
「…………」
黙って治癒を受ける年配の魔女はベラトリクスからクルシオに加えて鞭でうたれる拷問を受けていた。
遠心力を乗せた鞭は魔女の顔の骨を砕き、背中に裂ける程の傷跡を残していた。前線に出ることが出来ないベラトリクスは、貴重な自白剤を捕虜達に使うのは勿体無いと理由をつけて捕縛した魔法族を拷問にかけ、己の鬱憤を晴らしていた。
治癒を受ける魔女や魔法使い達も複雑な顔でメリアドールを見ていた。あるものは嫌悪、そしてあるものは恐怖で。メリアドールの治癒を黙って受けるのは、メリアドールが恐ろしいからであることをメリアドール自身がよく理解していた。自分はベラトリクスと同じく、彼らを虐げる側でしかないのだ。
メリアドールは己と近しい年齢の魔女を発見し、火傷で爛れた皮膚を癒した。
拷問によって顔にⅡ度の熱傷を受けていた魔女は、継続的に治癒魔法をかけなければならなかった。今日で五度目の治癒となり、幾分か癒され痛みが和らいだその魔女は、はじめてメリアドールに感謝した。
「……あ……ありがとうございます……」
他の囚人に聞こえないように囁くように告げられた言葉に、メリアドールは笑みを浮かべ女性の額にキスをした。メリアドールは、周囲の囚人に音が聞こえないように魔法で遮音した。
「……貴女は……私の顔に見覚えはありませんか?私にはここに来るまでの記憶が無いのです。……私と面識があったかもしれません。思い出せませんか?」
メリアドールはそう告げてフードを取り、目の前の魔女に問いかけた。
「……い、いえ。知らないわ。」
その茶髪の魔女は首を横に降った。
「……そうですか……」
メリアドールは残念そうに頷いたが、魔女に与えられた拷問の傷跡を癒した。元々大して期待していたわけでもない。メリアドール自身、藁にもすがるような思いで自分の過去を知る人物を探していたが、都合良く見つかるとは思っていなかった。
実際には、その魔女、アセルス・ディアボーンは記憶を喪う前のアグリアス・ベオルブと面識があった。同年代のグリフィンドール生として、グループこそ違ったがアグリアスが闇陣営に与するような人間ではないことも知っていた。
(……あ、あの子がここまで壊されるなんて……)
アセルスは推定アグリアスに真実を告げることを躊躇った。目の前のアグリアスに何があれば闇陣営に与するようになるのかは到底分からないが、とてつもない目にあったことは想像できた。真実を告げたことでベラトリクスに目をつけられ、酷い責め苦を受けるのではないかと思うととてもではないが本当の名前など言えたものではなかった。
***
メリアドールが自分の記憶を喪っていることは瞬く間に囚人達の間に広まった。メリアドールはその優しい気質から、囚人達に契約魔法をかけたり、脅して口封じをしたりすることはなかったのだ。
「記憶を無くすなんてことがあり得るのか?何かの罠じゃないのか?」
「……いや……レストレンジ達から拷問を受けた魔法使いは廃人に追い込まれたと聞いたことがあります。……彼女もそうなってしまったとしても何もおかしくはありません……」
「闇の魔法使いに拷問されたら……じ……自分の人格も失うって言うのか……」
誰かが呟くと、牢屋はしんと静まり返った。記憶や人格を喪うというのは、ある意味では死に等しい恐怖だったからだ。
メリアドールは牢屋に入れられた囚人達を夜な夜な治癒していった。ベラトリクスという恐怖の鞭と、そしてアグリアスという癒しの飴。その二つが与えられるにつれて、囚人達の中に次第に恐怖が伝搬していった。
***
メリアドールは治癒した魔法使いから感謝の言葉を受けた。その魔法使いは特に酷い拷問を受けていて、左足の刺し傷が緑色に変色していた。
「……見た目だけ治癒せずに残してくれないか?……もう……拷問を受けたくはないんだ……治りきったと分かれば、もっと酷い拷問が待っているだろう……?」
そう男が泣いて頼むので、メリアドールは絆された。変身魔法を使い、瘡蓋の見た目を変化させて化膿しているように見せかける。その工夫のお陰か、男は二日間は拷問を受けることはなかった。
そして三日目の朝、メリアドールはベラトリクスから衝撃的な言葉を投げ掛けらた。
***
「お手柄だよメリアドール。うまい手を考えたものだね」
「……それは……どのような意味でございますか…?奥様」
メリアドールはベラトリクスから上機嫌で言葉を投げ掛けられた。物腰低く主の顔色を伺うように尋ねると、ベラトリクスはワイングラスを片手に上機嫌で言った。
「お前が囚人どもを治癒していることは知っていた。私は知っていてお前の勝手を許していたわけだが、効果はあったよ。ケビンという魔法使いは洗いざらい吐いた。あの男、どうやらお前に気があるようだ」
「……そんな……迷惑でございます。私は純血でない男など……」
ベラトリクスの機嫌を損ねないよう純血主義者としての仮面をつけて言う。
「おやおや。酷い女だねぇ。捕らえた男をろう絡するなんて、お前も魔女らしくなってきたじゃないか」
メリアドールは衝撃を受けた。自分が夜な夜な治癒活動をしていることは既に把握されていた。ベラトリクスはそれを黙認しながら、うまくメリアドールを傀儡として利用したのだ。
メリアドールが治癒した魔法使いは、メリアドールへの思慕の念と人格を破壊される恐怖から闇陣営に屈して、情報を洗いざらい吐くようになったのだという。その魔法使いはケビンと言って、以前は魔法省に勤務し官僚としてファッジを補佐していたらしい。
「あの男……ケビンはファッジの側近だったが、その前はフルーパウダーネットワークの管理・補修もしていたらしい。帝王が魔法省を掌握された暁には、帝王のお役にたつことになるだろう」
「餌でも与えてうまく使ってやりな」
良くやった、とベラトリクスから褒められ、メリアドールは心を閉ざして偽りの歓喜で己を満たし、光栄ですと返した。
(……浅はかだった……)
闇陣営に与している限り、善意や善行で人を救うことは出来ない。ただただそれを利用されて、闇陣営にとって都合がよいように事態が進むだけなのだと彼女は理解させられてしまったのである。
***
ハリーはザビニ達に自分の考えを打ち明けた。ドラコがデスイーターに加入したかもしれないという考えをロンは笑い飛ばした。
「……考えすぎなんじゃねーの。いくら例のあの人でもマルフォイみたいな小者を相手にしねーだろ?」
「だいたい、アイツに何が出来るよ?確かにマルフォイはどうしようもないクズかもしれないけどさ。大それたことなんかできっこねぇだろ」
「ハリー。私もそう思うわ。確かにマルフォイは悪人ではあるけど……小悪党よ。デスイーターになれば後戻りなんて出来ないことは理解しているはずよ。幾らなんでも、そこまで愚かではないはずよ」
「「「……」」」
グリフィンドールの二人組がそう言って笑い飛ばす中、スリザリン組は黙り込んでいた。
「え。何だよ皆……そんなに深刻な顔して?」
「ッあー、まー、何だ。ロン、ハーマイオニー。まずお前らの認識をちょいと正しとく必要がある」
ザビニはガリガリと頭をかいて言った。心の底から面倒くさそうな顔だった。
「お前らの中ではマルフォイは小悪党のバカなんだろうけどな。……正しくは甘やかされた小悪党の大馬鹿でブレーキが存在しねーカスだ」
「丁度僕みたいにね」
ハリーはそう補足した。
「僕のこれまでを見てきた君たちなら解るだろ?スリザリン生がどれだけ面倒くさいかは。マルフォイは身内認定した相手には甘いけど、敵だと思った人間には容赦しない。僕がそうだったように、マルフォイが僕たちへ復讐心を募らせてデスイーターになろうとしても何もおかしくはないんだ」
ロンはきょろきょろとハリーやザビニを見る一方、ハーマイオニーは黙ってハリーの言葉を聞いていた。ハリーはハーマイオニーならば解るだろうと思った。
ハーマイオニーはスリザリン生の良さも、そしてその厄介さもハリーを通して深く理解しているからだ。
「……え……いやハリー。お前そこまで自虐しなくても。つーかザビニ。お前もマルフォイにそこまで言う筋合い……」
「あるんですよ。まー、僕たちはスリザリン生ですから?マルフォイのバカなところはようく知っています。彼が逆恨みした相手に粘着する気質であることもね」
アズラエルもマルフォイに対しては容赦がなかった。
(え……マジで?アイツマジてそこまでアホだったん?)
ロンは似た境遇で、ザビニのような思いやりのあるスリザリン生からここまでボロクソに貶められるマルフォイという男に同情すべきか、それともザビニからすら擁護されないマルフォイを軽蔑すべきか迷った。
(……確かに……確かにアホだけど。狡猾っつーよりは迂闊なやつだったけど!)
縋るようにダフネを見た。ダフネは沈痛な面持ちで言った。
「その……ミスタ・マルフォイは、そして追い詰められて自暴自棄になっているのではないかしら」
ダフネはマルフォイを庇う素振りを見せた。アズラエルの目が鋭く光る。
「お父様が逮捕されて、周囲のスリザリン生達もマルフォイを遠巻きにし出したわ。マルフォイ家の信用は失墜し、社会的には死んだも同然に追い込まれた。だからミスタがデスイーターに与したとハリーが考えるのも不自然ではないの」
「たったそれだけのことでか?どれだけ自分に甘いんだあの馬鹿は」
ロンはダフネの言葉を聞いて、激怒した。
「……マルフォイ家の信用が失墜したのはあいつの敬愛する親父さんのせいだろ。自業自得の報いを受けただけで逆ギレして?そんで殺人犯になる?そんなアホな話があるかよ」
ロンの立場からすれば当たり前の話だった。そもそもウィーズリー家、家が貧乏と言うだけでロン達を迫害してきたのはマルフォイであり、スリザリン派閥だった。周囲からの信頼を失っただけでテロリストに堕ちるというなら、頑張って耐えてきたロンやアーサー氏には百回はテロリストに堕ちる権利があった。
(……うん……ロンの言う通りだな……)
そしてハリーも内心、気落ちしていた。ドロホフを相手に罪の無い人の命を奪い、さらにドロホフの命を奪った自分自身の所業は馬鹿と呼ばれるに相応しいものだ。マルフォイを通して、ハリーは自分自身を見ていた。
「……元々あったものを失うというのは……少なくともマルフォイの視点では辛いことなのよ、ロン」
ハーマイオニーはダフネの肩を持った。そしてダフネににこりと笑いかける。ダフネはハーマイオニーの援護を受けたことで気を良くしたのか、さらに言葉を続けた。
「私はハリーの考えは正しいと思うわ。……けれど……マルフォイの狙いが分からず、彼を追い詰める手段がない以上はマルフォイを刺激すべきでは無いと思うの。危険すぎるわ」
「……確かに闇の印の隠蔽魔法のひとつやふたつはかけられているでしょうね」
アズラエルは苦々しげに言った。
「僕もハリーの言葉通り、マルフォイがデスイーターだと考えます。……しかし、公衆の面前に闇の印つきのマルフォイを出したとして、『遊んでいただけだ』という言葉で切り抜けられる可能性はあります。この時代、人の恐怖心に付け入るような偽のデスイーター達も跋扈していますからね」
「……ああ。オーラーがドラコの尋問に動いていないのはそういうことだろうね」
ハリーはアズラエルの言葉を認めた。
「ドラコの杖腕にはデスイーターの焼き印があると僕は見ている。……スリザリンの更衣室でやつの杖腕を確認してみるよ」
「……もしやつがデスイーターなら……姿は曝さねぇだろうな。まったく、新学期早々厄ネタが転がって来やがった」
ザビニは苦々しげに吐き捨てた。
「マルフォイを刺激しないよう静かに監視しつつ、……証拠を揃えてやつを捕まえる。それが今の僕達に出来る最善だと思う。……ロン、ハーマイオニー。君たちもくれぐれも警戒してくれ。マルフォイが真っ先に狙うとすれば僕かザビニかダフネだとは思うけど、君たちの可能性も捨てきれないから」
「魔法使いはどうしたって攻撃側が有利です。後手に回らざるを得ないのは歯痒いですねぇ。いっそマルフォイの食事に自白剤でも仕込みますか?」
「ドビー達を抱き込めないから無理だろうね。彼らは自分の仕事に誇りを持っている」
「そうですか。残念ですね……」
(……同級生を……)
(……テロリストだって疑う日が来るだなんて……)
「……」
哀しげな顔をするロンとハーマイオニーに、ハリーは微笑んだ。
「そんな顔をするなよ。全部僕の勘違いで、ロンの言葉通りマルフォイはただ自分を強く見せるために虚勢を張っているだけという可能性もあるんだ」
ハリーとロンやハーマイオニーとの間に認識のずれがあるのは、これまでの経験値の差が原因だった。
ハリーは四年生の時、操られた親友によって敵の罠に嵌まった。五年生の時は、信頼関係を構築できなかった仲間の裏切りを受けた。いずれも、それぞれに事情があったのだ。
仲間や友情を愛し、時に許しあうことをハリーは知っている。そしてそれと同じくらい自分が絶対ではないことも知っていた。
ハリーはドラコが自分の身や家族の地位を守るために何かをするのは、ある意味では自分と同じだと知っていたのである。
「……スリザリンにはマルフォイの手がかかった人間もいるわ。けれど、全員がそうというわけでもない。私たちは自分の派閥で身を固めて、自衛しないといけないわね……」
「ダフネの言う通りだ。ここからが正念場だよ」
ダフネは決意を新たにした。ハリーも強く頷いた。
この時ハリー達は読み違えていた。
ハリー達の読み通り、ドラコは自らの意思で志願してデスイーターへと身を落とした。
しかし、ドラコへと与えられた任務はハリー達が想像もつかないほど突飛で、無理難題であったのだ。たとえハーマイオニーがどれだけ優秀であったとしても、学生をテロリストとして養成した上でホグワーツに送り込み、その上で何かをさせるなどということは理解の外であり予測不可能であった。
ハリー・ポッターという光陣営に巣くう悪魔に率いられた裏の集会と、ヴォルデモートという悪魔が支配するデスイーター。スリザリン内に発生した異端児達が潰しあう日が間近に迫っていた。ハリー達はその日を待ち構えながら、グリモールド・プレイスでの日常を噛み締めるのだった。
***
スリザリンに関するマイナスイメージはまぁ……だいたいマルフォイ一族とセバスチャンと呪いの子のスコーピウスと呪いの子のアルバスが悪い。