一体何グホーンなんだ……
***
「ジェームズ……」
ハリーは弟を前にして敗北感を味わっていた。
幼いジェームズはウィーズリー・ウィザード・ウィーズにて購入した動くニーズルのぬいぐるみには興味を示さなかった。が、シリウスが購入したオモチャのミニカーには並々ならぬ興味を示した。動くニーズルのぬいぐるみは子供から相手にされず拗ねたようにとぼとぼとうろつき回っている。
「フフ~ッ!」
ジェームズはミニカーのフォードを左手に持ち、走らせる。そのままミニカーのタイヤの動きに夢中になって、ミニカーを走らせながら部屋を動き回った。
「やりきった感満載の顔だわ……」
ダフネは夢中になって遊ぶジェームズを見て笑っていた。ジェームズはひたすら遊んで遊び尽くした後、糸が切れたように眠る。眠るまでは決してミニカーを手放さないだろう。
「あの玩具のことが滅茶苦茶気に入ったみたいだですねぇ。何が良かったんでしょうね?動きもしないのに」
アズラエルは不思議がる。
「……魔法がかかってなくて勝手に動かないからじゃねぇかな。思い通りに動いてくれるっていうのが楽しいとか?」
俺もマグルの写真とか見てると落ち着くし、とロンが言った。
「何でもかんでも動けば良いってもんじゃねーか、ジェームズ?」
ロンの言葉を証明するかのようにジェームズは玩具のミニカーを運転していた。ロンに抱かれている間もジェームズはミニカーを手放さない。
(……そういうものなのか……)
「うーん盲点だった。……修行が足りないなぁ……」
ハリーはジェームズがミニカーを壊さないかと見張っていたが、杞憂に終わった。ジェームズはミニカーが玩具の城(シリウス特製ホグワーツ城の模型)にぶつかりそうになると器用に魔法でミニカーを浮かせ、手元に戻したのである。
「……もしかして拗ねているの、ハリー?」
「いいや。今後の参考にするよ」
「赤ん坊の好みなんて秒で変わるわよ、きっと。そのうちハリーの買った玩具にも興味を示すわ」
「だといいね。ロン、次は僕に抱っこさせてくれ」
ロンから離れるとき、ジェームズはじわりと泣き出した。
「……お、おい?どうした?」
「……うん。ロン、ジェームズを貸して」
ハリーはジェームズのおしめを取り替えると、ジェームズは満足げにハリーの腕の中に収まった。その間も、ジェームズはミニカーを決して手放さなかった。
***
(……家族……)
ジェームズを抱いて戯れるハリーの姿を見るダフネの心境は複雑だった。ダフネは与えられた部屋で一人、少女の絵を描こうとする。
脳内に思い描くアストリアは籠の中の鳥を出そうとしていた。しかし、ダフネの姿に気付く。そのままを描くうちに手が止まる。
(……アストリアは今どうしているかしら。お母様は……)
魔法の込められていない絵は動くことはない。しかし、下書きのアストリアは無機質な目で責めるようにこちらを見ていた。
(……お母様は……お父様の失態を帝王様に詰問されているかもしれない。……グリーングラス家当主の座は……ギャレス叔父様になるのかしら……)
最後にアストリアと会話をしたのは、ホグワーツから去る前だった。アストリアもお母様も自分とラドンの不始末の尻拭いをしているに違いないとダフネは震える。
(……お父様の失態を帝王様は許さない。……その償いのために……一族の誰かがデスイーターに成らざるをえなくなる?……いいえ。一族の大人達は、もう何人も既にデスイーターである可能性もあるわ……)
(……考えたって仕方がないことよ。思い詰めるべきではないの……)
(……私だって……正しいことをしているのだから……)
ダフネは純血主義者としての側面を抑え込み、自分は光陣営として貢献したいという思いを抱いていた。
当たり前である。そうでなければハリーに着いてきたりはしない。特に目立った功績を挙げられたわけではないが、ダフネは現状を喜んでいた。光陣営の一員として加わっているということも、ハリー達と過ごして英雄との時間を共有しているという事実も、何もかもが恐ろしく、しかし、楽しい。
自分が正しい側にいるという確信があるからだ。
闇陣営の所業は卑劣の極みである。人を操り、人を拷問し、殺し。その恐怖で人を従わせる。純血主義者としての正義とは全く別の人としての部分がその行いを嫌悪する。はっきり言ってとても正当化など出来るはずもなかった。純血主義のため、正義のための行いなのだと言ったところで振り撒く厄災の被害を受けるのはハリーやザビニ達なのだ。到底受け入れられない。
デスイーターと比較したとき、オーダーや闇祓い達が正しいことはダフネの目にも明らかだった。
オーダーの面々や闇祓い達がどう見ても正しいという事実を認識せざるを得なくなる。
そして。楽しいからこそ、余計に妹や母に対しての罪悪感が募るのだ。姉として、純血主義者としての義務を放棄したという葛藤があった。
知らず知らず書き上げたダフネの絵は、歪んでいた。アストリアの顔すらも。
自分はハリーや友人達を選んで家を棄てた。グリーングラス家も、もはや自分を必要とはしていないと分かっているが、ダフネはアストリアを地獄の中に置いてきたという負い目があった。
もちろん、光陣営にアストリアのことを気に掛けられる余裕などあるわけもない。
グリーングラス家をはじめとした純血主義派閥の家は皆敵なのだ。そう考えなければ足元を掬われる。ダフネやザビニが受け入れられているのもハリーとの関係ありきなのだ。
(……駄目よ。皆の前で弱みを見せてはいけないわ。アズラエルが何て言うか分からない。最悪、私のことを排除しようとするかもしれない……)
既に自分の内心の本音や不安はニンファドーラ・トンクスによって暴かれ危険視されているだろう。だが、まだアズラエルには隠している。
強硬派のアズラエルの前で家族を心配するような素振りを見せれば、アズラエルが詰めて来るのは確実だった。自分の立場を守るためにも、アストリアのことを心配するような素振りは見せられない。黙っていなければならない。
そう思っていた時、部屋に軽いノックの音が響いた。
「居ますよ。どなたですか?」
「ハリーだよ。……入ってもいいかな?」
「いいわよ。来て。見てもらいたい絵があるの」
ダフネはハリーを招き入れた。ハリーはダフネが絵を描いていることに驚いて緑色の瞳を輝かせた。
「……このところ屋敷に引きこもっていたから気分転換をしていたのだけれど。良いモチーフが思い浮かばないの。ハリーは何か良いアイデアがあるかしら?」
「……ダフネは動く物体を切り取って絵にしたいんだよね」
「ええ、そうよ。絵を描くために整えられたものではなくて、動きのある物体を被写体にするつもり。……何か良いアイデアがあって?」
ダフネが問いかけると、ハリーは微笑んで言った。
「ロンやザビニとクィディッチのトレーニングをしているんだけど、良かったら見てくれないかな。ダフネにとっても良い刺激になるかもしれないし」
ハリーやザビニ達がクィディッチのトレーニングを屋敷の庭でしていることは知っていた。ダフネは気晴らしにハリー達の訓練を観察した。
ハリー、ザビニ、ロン、アズラエル、ハーマイオニー、そしてジニー・ウィーズリーはランニングや飛行訓練のあと、最後に少しだけ試合形式のトレーニングをした。と言っても、シーカーなしの3対3の試合だ。
ハリーはダフネの落ち込んでいる気持ちを感じ取ったのか、それとも、ダフネに良いところを見せたかったのかは解らないが、ハーマイオニーとアズラエルを抱えてザビニ、ロン、ジニーに勝つという快挙を見せた。
ニンバスに跨がって空を飛ぶ……否、限られた屋敷の範囲内とはいえ楽しそうに空を駆け回るハリーの姿を、ダフネは脳内でアストリアに重ねた。
(……あの子は箒に乗るのは得意では無かったけれど……)
その日の夜、ダフネはアストリアが箒に乗っている絵を描いた。それはダフネ自身の描いた願望だった。
ダフネはあまりにも過分な望みを抱いていた。
彼女はこの時代にあって、純血主義という箱庭の中に居たとしても、反純血主義という箱庭の中に居たとしても、愛する人には幸せで居てほしかった。それが夢だと誰より解っていたからこそ、せめて絵に描いたのである。
***
ロン・ウィーズリーはグリモールド・プレイスの部屋で自分の成績を見返していた。
ブラック家の賓客に与えられる部屋は広く、上等なものだった。何時もであれば九時には寝付くことが出来るロンも、ふかふかのベッドに逆に寝付くことが出来ず、ロンは魔法省から与えられた試験結果を眺める。
魔法薬学……E。そう、Eであった。
「……Eか……」
魔法省は募集する職種に応じて一定の基準を定めている。闇祓いを希望する人間は、魔法薬学のNewt試験において少なくともEの成績を取らなくてはならない。
しかし、ホグワーツの薬学教授セブルス・スネイプは、owl試験でOを取得したものしか受講を認めない。
魔法薬学は求められる知識の量が膨大であるだけではなく、マグルや魔法族を問わず人間そのものに対して多大な影響を与える学問であるからだ。少なくともスネイプはそう主張している。
去年ジニーと一緒になってふざけていたあのトンクスも、薬学のowl試験でOを取得した選ばれた人間だった。しかし、ロンはそうではなかった。
(……わりいな。ファルカス。俺闇祓いにはなれなかった……)
闇祓いになりたいという友達がいた。ロンの中でも、ふんわりとした憧れのまま闇祓いという目標が出来たが、それを本気で目指すことが恐ろしく兄弟にも打ち明けられなかった。フレッドに言えば笑われるのが落ちだからだ。
ロンはもう一度自分の成績を見返す。変身呪文の欄のOを見返す度誇らしい。反面、燦然と輝く魔法薬学……Eの文字が悔しい。闇祓いという夢を諦めざるを得なかったからだ。
(……しゃーねー。こういう時はジニーでもからかうに限る)
いくら眺めても結果は結果。覆ることはない。ロンは妹が自分と同じ失敗をしないようにと、ジニーに与えられた部屋の扉を雑にノックした。
***
「……目標持ってやれって。何で今更そんな当たり前のこと言ってんの?」
「いや、お前は成績は悪くないけど中途半端だろ?なりたい仕事があるなら、そこに向けて今からでも取捨選択するのは悪くねーと思ってよ」
「おあいにくさま。その手の説教はパーシーで間に合ってんの。何?パーシーが居ないから兄貴面?」
「面じゃなくて兄貴だろーが」
「ウザい」
ジニーは特にためにもならないアドバイスをしようとするロンをバッサリと切り捨てた。切り捨てられたロンは妹からの毒舌にも動じてはいない。
ロンは世間一般の兄妹と比較して、ジニーを溺愛していると言って良かった。対してジニーからロンをはじめとした兄たちに向ける視線は複雑だ。
ビルやパーシーまで行くと、頼りになる兄というよりは、もう一人の父のような間隔になってくる。聞けば何でも教えてくれるし、困っているならば助けてくれる。そういう兄であるからこそフランス人に誑かされているのではないかと心配になったりもする。
対してロンは、ジニーにとって負けられない相手であった。
ウィーズリー家のヒエラルキーにおいて、ジニーとロンは常に最底辺を争ってきた。六男、きょうだい最後の子供という立ち位置が災いしてだれも本気で自分達の声に耳を傾けてはくれない。
それだけならまだしも、ビル、チャーリー、パーシー、フレジョはだれもがそれぞれの趣味の範囲においてすこぶる優秀ときていた。ロンが優秀な兄たちに劣等感を抱くのと同じように、ジニーもジニーで焦りを抱えていたのである。
(……ホンット、やってらんないよ。せめてロンより先に産まれてたなら……)
(上から言われることはなかったのに……)
ジニーにとってロンはきょうだいの中で唯一下に見られない、良く言えば舐められる相手であった。
双子のように独創性があるわけでもパーシーのように勉強が得意なわけでもない。普通の兄。クィデッチの練習でも、ロンに勝ち越すことでジニーは自信をつけてきた。
そんなロンがホグワーツに入ってからめきめきと頭角を現してきた。ロンに危ないところを助けられたこともあった。
ジニーにとって、秘密の部屋でリドルの魔の手からロンやパーシーに助けられたことは心の底から安心できる経験であったと同時に、心の底から恥じているトラウマでもあった。
(何よロンまで監督生って。成れなかったわたしがバカみたいじゃん……)
ジニーが殺気だっていたのは、自分はウィーズリー家の落ちこぼれなのだとロンに言われているような気がしたからだ。
つまりは八つ当たりである。八つ当たりの自覚もあるので、ジニーは尚更機嫌が悪かった。
「受験シーズンでピリピリしてるのは解ってるよ。だけど、お前は才能はある方なんだ。解らないとこはハーマイオニーにちゃんと聞いてるか?」
才能はある、という言葉がかえって重荷になることもある。ジニーは舌を出してロンを部屋から追い出した。
「……そういうの気にする前に自分のクィデッチの心配した方が良いんじゃない?去年と同じ調子だと、レギュラーの座を取られるよ」
確かにジニー・ウィーズリーのセンスはロンを凌駕していた。魔法史の試験では特に話を聞いていなくてもAが取れたし、呪文学でもOの常連だった。
しかし、DAや裏の集会で集まった天才達を見るたびにジニーの自信は揺らいだ。確かに自分はロンに比べて才能はある。しかし、一芸に秀でた天才達は同年代の中にすらごまんといて、決して特別ではなかったのである。
***
「……ハリー。そして皆。ホグワーツではくれぐれもダンブルドアの指示に従ってくれ。杖に誓って、ダンブルドアを信じると」
「勿論です」
ハリー、ザビニ、そしてダフネは九と四分の三番線でシリウスに見送られていた。ザビニは真っ先に断言し、ハリーとダフネは無言で頷く。
夏期休暇が終わる3日前にはロン達もハーマイオニーもアズラエルも両親の元に戻った。対して、ハリー、ザビニ、そしてダフネは屋敷に泊まって家族のように過ごした。シリウスは何かを懐かしむように目を細めた後、ハリーを見て言った。
「スリザリンの級友達とは対立することになる。この先の君達にとって、学生生活は辛く苦しい道になるだろう。……だからこそ、俺達のことを忘れるな。この先に何があろうと、俺達はいつでも君達の居場所になるつもりだ」
「そう言ってくれる人が居るというだけで。僕たちは何があっても戦えるよ、シリウス」
ハリーはシリウスに微笑んで踵を返し、ホグワーツ特急へと乗り込んだ。
「ハリーのことは心配要りませんよ。俺が側で見てますんで」
ザビニはジェームズとマリーダに笑い掛け、シリウスと握手をしてからハリーの後に続く。
そしてダフネはシリウスに頭を下げた。
「……私を受け入れて下さって、ありがとうございます。……どうか……どうか」
「……お元気で」
ダフネは言葉を飲み込んでいた。死なないで下さいという本音が溢れそうになり、それを押し込めて再会を誓って汽車に乗った。
ハリー達には知るよしもないが、シリウスが掛けた言葉はかつてジェームズ・ポッターの父からシリウスが掛けられた言葉だった。
「……行ったな。……あっという間だった」
マリーダは寂しそうに言った。
「出来ることなら、この夏が終わらなければ良いとすら思った。……そうすればハリーは戦いになど巻き込まれずに済むのだからと……」
「そうだな。マリーダ」
シリウスはマリーダが自分の気持ちを代弁者してくれたことを喜んだ。その後、気を引き締めるように言った。
「だが……」
「……心配は要らない。……ハリー達にも覚悟は出来ている。それより、俺達も覚悟を決めなくてはならない」
「……ハリー達がこれから成人していく以上。もう……彼らを子供として扱うことは出来ない。……覚悟を決めるんだ、マリーダ」
行く宛もなく親に見放された青年達は、大人になるための準備をしなくてはならない。そしてハリーを大人の立場で見守ってきたシリウスとマリーダもまた、オーダーの他の面々と同じようにハリー達を見なくてはならない。庇護対象としてではなく、一個人、ひとつの戦力として扱わなくてはならない。その日は刻一刻と近づいているのだ。
シリウスは自分の役目が終わりに近づいていることを実感しながら、ハリー達を見送るのだった。
***
汽車のコンパートメントでは、意外なことにハリーは様々な人物達から好意的な視線で見られた。ハリーの姿を一目見ようとしてくる物好きな生徒達は、ハリーの左右にいるザビニとダフネを見て囃し立てた。
「……すげぇ……」「かっこいい……」
ザビニは向けられる好意的な視線に愛想良く返し、ダフネは澄ました顔で平静を装っていた。
「褒められてるね、ザビニ。漸く世間は君の魅力に気付いたらしい」
「状況が状況だからな。今しか味わえないものを楽しむのは悪くねーだろ」
そんなジョークを飛ばしつつ、ハリー達はコンパートメントを一つ一つ通ってアズラエルを捜した。ロンとハーマイオニーは監督生用の車輌にいるため捜す意味がないことは解っていた。
ハリーはアズラエルをさがす途中、見知った人間との再会を喜んだ。
アンソニー・ゴールドスタインやテリー・ブートらはハリーを疑って逃げたことを詫びてきた。ハリーはアンソニーが記憶より幾分か痩せていることに気付いた。
「何かあったのかな、アンソニーは」
ハリーに怯えて遠ざかっていった人間とは思えない豹変ぶりにハリーはアンソニーへの警戒心が沸き上がる。が、ザビニは楽観視していた。
「……彼女に振られたとかじゃねぇかな。……ま、俺らが気にすることじゃねぇ」
そうザビニは言うものの、ハリーに好意的な視線を向けてくる人間のなかには負の感情らしきものを滲ませて居る人間も居た。DAで見たカテジナ・ルーズなどはハリーに対しては好意的に挨拶をしたものの、ザビニやダフネにはおざなりだった。ハリーはそういう人間は信用しないと決めていた。
「……アズラエルかコリンを見なかったかい?……あー、ルナでもいい。特徴的な帽子を着けてる筈だから覚えやすいと思うけど」
レイブンクローのパドマ・パチルはおそらく、と前置きした後で言った
「ここから二つ前の車輌に居る筈。私達がここに来た後、ラブグッドは席を立ったから」
「そうか、ありがとうパドマ」
そして次のコンパートメントを通ろうとしたとき、ハリー達はスーザン・ボーンと顔を合わせた。金髪の巻き毛の魔女の瞳は復讐に燃えていた。ハッフルパフの級友達はスーザンのことを気遣ってか、敢えて彼女を一人残すことにしたらしい。
「ポッター。裏の集会はいつあるんだ?」
「週二回の予定だよ。……例の銀貨で連絡するよ、スーザン」
ハリーから見て、スーザン・ボーンの外見に変化はない。しかし、内面はそうではないだろうと察して余りあった。
「必ず開催してくれ。私は何時でも参加するつもりだ」
「そうか。なぁ、スーザン。俺も隣に座って良いか?久し振りに会えたんだしよ。とっくりと二人きりで話してぇ。良いだろ?」
ザビニはスーザンの様子にただならぬものを感じたのか、その場に残ると言い出し、ハリーはザビニと別れた。
***
「ハリー。ダフ姉。久し振り!」
「遅かったですねぇ。何かあったんですか?」
「少し質問責めにあってね。ほとんど相手にしなかったけど同じやり取りを何回も繰り返す羽目になった」
「ええっ羨ましいですね。ハリーに質問する権利が買えるなら僕は5シックルは出すのに!」
「無駄遣いここに極まれりだね、コリン」
ハリーとダフネはコリン、ジニー、アズラエル、ルナ、ザムザ、シュラ、ネビル、そしてミカエルの居るコンパートメントに辿り着いた。ダフネはコンパートメントを見渡していつもミカエルの側に居る筈のオルガが居ないことに気付く。
「あら?ザルバッグが居ないわね」
「オルガは監督生です。いやぁ随分と出世しましたねぇ」
「まぁ-スリザリンの五年で監督生になるかっていうとオルガかシュラですからねー。僕は驚きませんでしたよ?」
コリンがそうオルガを褒めたとき、ミカエルは誇らしげな顔に、シュラはプライドの高さを感じる満足げな顔になった。天然ゆえのクリティカルな賛辞である。
(良いぞ、コリン)
ハリーがコリンの成長に目を細めたとき、ハリーの眼鏡が一瞬曇った。笑っていたコリンの表情が驚愕で曇る。
「!?」
何かが燃えるような匂いがした。
咄嗟に反応したハリーが反射的に無言アロホモラ(開け)を使う。杖を窓の外に向けると、汽車の窓は解放され煙を部屋の外へと押し出そうとする。。
「フィニート(終われ)!」
「フレイム・グレイシアス(焔よ凍れ)!」
「プロテゴ・ホリビリス(全てを護れ)!」
ハリーに続いてミカエルがまず反応した。煙はフィニートでは止まらない。コリンが火炎凍結時魔法で全員の安全を確保し、シュラとルナはプロテゴで全員を護ろうとする。それぞれが対応しようとした結果、煙はすぐに立ち消えた。
「皆無事か!?煙を吸い込んだ者は動くな!」「私が診るわ!……ミスタ・ベオルブ!今すぐ監督生を呼んで!」
煙の発生から終息まで三十秒とかからなかった。しかし、煙の発生源にいたコリンやジニーは無事かどうか解らない。ハリー達が二人の体調を確認する間、コンパートメントは異様な雰囲気に包まれていた。
「……テロ……なんですか?」
ポツリと呟いたコリンの言葉に、誰かがごくりと唾を飲み込んだ。
***
「……何だったんだあの煙は……?」
結局、コリンやジニーの体調に何ら問題はなかった。ハリーは汽車に残留する魔法物質からも煙そのものは全く毒性の無い無害なものであると結論付けた。事実、レベリオによってコリンの足元にペルー産の噴煙器が隠されていたことがわかった。
「この煙には全く毒性はない。……ただ、即座に対応できなかったことの方が痛いね。想定外だったなんて言い訳だからね……」
即座に換気してもなお、煙は車内に充満し掛けていたのである。幸いにして毒性がなかったとはいえこれが毒であれば、どうなっていたか。コリンは無事では済まなかっただろう。
「……無害な煙だったからまだ良かった。これが毒ガスであってみろ。ホグワーツどころじゃないよ」
「考えすぎだよハリー。こんなの誰かの悪戯だよ。だって……これくらいのジョークグッズは魔法界では良くあることだろう……?」
ネビルはそう言ってハリーの発言をたしなめる。ネビルの言葉は間違いではない。魔法界の基準はマグルのそれとは違うのだ。
「………魔法使いの基準では単なる悪戯ですみます。……しかし、マグルの基準だと質の悪い犯罪です。こういう犯罪をしそうな『誰か』に、僕たちは心当たりがありますね」
アズラエルは苦々しげに言った。
「例えばスリザリン内にいる不穏分子。純血主義者とか、ね」
アズラエルの視線の先にはドラコ達のコンパートメントがあった。ハリーは無言でコンパートメントの扉を見ていたが、確証は無いと言った。
「……この煙を仕掛けたのが誰であれ、悪質な人間であることに間違いはない。……シュラ。アズラエル。僕と一緒に来てくれ」
ハリーはコンパートメントを通り抜けて監督生達の居るコンパートメントを目指した。ザムザがロンとハーマイオニーを連れてくる途中、ハリーはドラコがパンジーから膝枕をされている姿を目にした。ドラコはハリー達の様子を見て、あからさまにほくそ笑んでいた。
***
「……また、一年が始まる」
汽車での騒ぎなどホグワーツにとっては大したことではなかった。オーラ-であるトンクスが現場検証のためにホグワーツ特急に残り、ハリー達はホグワーツのパーティーへと参加することになった。教授席には、見知らぬ顔が二人増えていた。小太りのセイウチのような老人と、精悍な顔のターバンを身に付けた身軽そうな魔法使いが教授席に座っている。
「……こちらのホラス・スラグホーン教授は以前もこのホグワーツにおいて教授として勤めて頂いていた。古き友の帰還に乾杯を上げたい。ホラス教授には、魔法薬学の教授を務めて貰うことになっている」
「次に錬金術教授のアルバス・ダンブルドア。この度希望者がいたので開講することとなった。久しぶりに教壇に立って皆の成長を目にすることが出来とても嬉しい」
「……?」「は?」「え?」
ハリー達は自分の耳を疑った。
「……次いで考古学教授のニッグ=フリークス・ホエール教授。この度前任のニコ・ロビンソン教授が一身上の都合により休職されたので、その代わりを務めて頂くことになった。ホエールはホグワーツに入るのは今日が始めてだ。何かと不都合もあるだろうが宜しく頼む」
パラパラとした拍手が巻き起こった。ホグワーツ出身でない教授と言えば、占い学のフィレンツェ教授などがそれに当たる。ホエール教授はまだ二十代前半の黒髪の若い魔法使いであったが、頭にターバンを巻いていた。
(ターバンか……)
ハリーはかつて殺めたマグル学の教授を思い出してしまった。ホエール教授は考古学者だというが、顔には皺ひとつない。ホラス教授と並ぶとその若さがより際立つ。
(……クィレル先生とは正反対だな……)
ホエール教授はクィレルのようにおどおどとした様子はなく、泰然と構えている。およそターバン以外クィレルとホエールを結びつけるものはない。それでも、ハリーは自分が奪った命のことを思い返してしまいホエール教授から目を背けた。
生徒達はダンブルドアが教えるという話題と、ホラス・スラグホーン教授、そしてスネイプ教授の話題で持ちきりとなった。
「……いよいよ今年でスネイプ教授ともお別れですか。……寂しくなりますねぇ」
「……ゲッマジか。折角顔を見なくて済むと思ったのに。まーた一年間もあの教授のお小言に付き合わされんのか……」
ザビニは苦笑いをして呻く。ハリーと親しいからか、ザビニはスネイプ教授からとばっちりのようなアカデミックハラスメントを受けていたのである。
まさかその原因がハリーをジェームズに、ザビニをシリウスへと重ねたがゆえであるなどハリー達には知るよしもなかった。
***
「……あ。すみません先輩方。スラグホーン教授からの言伝てがあります。なんでも、教授はEでも生徒の面倒を見てくださるようです」
次の日、ハリーはオルガからそう報告を受けた。その日ハリー達に薬学の予定は無かったが、ハリーは驚いて言った。
「そうなのかい?スラグホーンはスネイプ教授より間口は広く取るんだね」
ハリーは少々意外な気がした。才能ある人間を見抜く目に長けているのだから、Oの生徒しか取らないと思っていたのだ。
(……いや……もしかしてEだろうがNEWTの合格レベルまで引き上げられるという自信があるのか?十五年以上のブランクがあるのに?)
ハリーの中に、スラグホーン教授はいったいどんな授業をしてくれるのだろうかという期待が沸き上がる。
「行くわ。行く。文句は言わせないわ。いいでしょ?……伝言ありがとうザルバッグ」
「礼ならスラグホーン教授に言ってください。これくらいはお安い御用です。ではまた今度」
「またな、オルガ。監督生バッジ似合ってるぜ」
「あざっす」
スラグホーン教授の基準とスネイプ教授との基準の違いを聞き、ダフネは大いに喜んだ。それこそ飛行魔法を使えそうなくらいに。
「……っベー。教科書持ってきてねぇや。捨ててはいねーからマリーダさんに送ってもらうか……」
ザビニは頭を抱えていた。スネイプ教授が薬学教授だと思っていたが故のミスである。
「それまでの間はどうします?ぼくの隣の席で確認しますか?」
「……ンー。ま、教室の後ろに余ってるのがあんだろ。それ借りるわ」
「ロンも誘おうか。DAの……また同じ教室で授業できて嬉しいよ」
ザビニは飄々としながら薬学を取ることを決めた。まがりなりにもEを取得しただけはあり、ザビニの調合には無駄がない。ハリーは親友達とまた同じ教室で授業できることを喜んだ。
***
一方、喜びに満ちている生徒達とは別に、教職員は喜びばかりではなかった。占い学教授のシビル・トレローニはフィレンツェ教授と折半して指導することに苛立ちを募らせていた。
そして悲嘆と歓喜に震える教授が一人。
ルビウス・ハグリッド教授である。
魔法生物飼育学のowl課程に合格した生徒のうち、六年生で引き続きハグリッド教授から指導を受けようと残った生徒は……たったの四人。
スリザリンの六年生、ハリー・ポッター。黒髪に翡翠色の瞳、眼鏡を持つ魔法使い。
ハッフルパフの六年生、リュカオーン・グランバニラ。黒髪にターバン、1メートルを越える程の長さの杖を持つ魔法使い。
レイブンクローの六年生、デボラ・カロー。黒髪に毒舌を持つ魔女。
そしてグリフィンドールの六年生、ザムザ・ベオルブ。ブロンドと熱意を持つ魔法使い。
数多いる合格者のなかでハグリッドの授業を取ったのはこの四名のみである。ハグリッドはハリーの顔を見たとき飛び上がらんばかりに喜んだ。
「ハグリッド教授。授業をお願いします…」
ハリーはハグリッドの喜びように苦笑しながら言った。
「私達は教授の指導を受けに来たのであって感謝されに来たわけではありません」
「うむ……うむ。そうだな、ハリー。それから皆……」
「俺の授業を取ってくれたおまえさん達のためにも、最初ということでおもしれえ生き物を連れてきたぞ!キメラだ!」
「……何歳なのか教えて頂けますか、先生?」
「まーだ生まれて2ヶ月だ。心配は要らねぇ。おとなのキメラなんぞを半人前のおまえさん達の授業には使わん」
「名前は?性別はどちらなんですか?」
リュカが聞くと、ハグリッドは笑って言った。
「プックルと言う可愛い男の子だ。背中に乗って撫でてやると喜ぶぞ」
ハリーは冷や汗をかきながら笑った。
キメラは危険度XXXXX。バジリスク、ドラゴン、マンティコアやヌンドゥとも並ぶ闇の魔法生物である。もっとも個体差はあるのだが。
デボラ・カローはハグリッドが話すキメラの対処法を必死にノートに取りながら、指先が恐怖で震えていた。
***
「どうだ、ハリー!美しいだろう?」
キメラはハグリッドが連れてきた素晴らしい魔法生物の一つであった。
まだ2ヶ月のキメラの体躯は、1メートルにも満たない。しかし、子供であっても獅子の頭にヤギの肉体を持ち、尾は竜の強靭な肉体を持っていた。当然のごとく高い魔法耐性を持つため、成人一人のステューピファイごときでは何の痛手にもならない。ドラゴンテールは毒素を持ち、魔法使いを死に至らしめるだろう。
ハリーは手を抜きはしなかった。
「プロテゴ・インセンディオマキシマ(全力の炎の護り)!皆僕の後ろに!」
ハリーは炎でキメラを遠ざけた後、地面を10cm以上の鉄板に変えて浮かせ、キメラとの間に壁として設置する。
「シャオオオオオオオオオオオッ!!」
キメラの硬いドラゴンの尾が鉄板に突き刺さる。鉄板には一撃で大きな凹みが出来てしまう。
「キ……キメラの好物は人間の血液だ!待ってくれ、血液を貯めるからそれまで持たせてくれハリー!ハグリッドォ!このキメラの好みの血液型は!?」
ザムザは想定外の窮地を前にパニックに陥った。
「そこまで拘ってる場合かなぁ!?……オイキメラ!こっちを向け!餌ならここに居るぞ!」
「……血の香りがしたらキメラはこっちを狙ってくる!リュカ、消臭魔法を使ってくれ!」
「……はい。僕なら出来ます。カローさん。血液を受け止めてあげて」
「わ、わかった!……本当にとんでもない授業だね!バニラ!頼むからあんたが死んでもあたしだけは守るんだよ!」
「いいえ。嫌です」
この危機的状況にあって、リュカはどこか余裕があった。ハッフルパフの中にも只者ではない性格の人間は居るらしいとハリーは思った。
「僕が死んだら君を護れないので」
「ハ、ハリー!ごめん!もうすぐだ、もうすぐで出来るから!」
ハリーはそんなやり取りを繰り広げる同期達を置いて、ハグリッドと共にハグリッドが引き連れてきたキメラの討伐……もとい、魔法による打倒からの威圧による飼育を試みるのであった。
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ダンブルドア「新しい錬金術の講師はワシじゃよ」
ハグリッド「授業を取ってくれる生徒が居ておれは……俺は嬉しい」
ハグリッドからハリーへの好感度が上がった(既にカンスト済み)!
ハグリッドから自分の授業を取ってくれた生徒三人への好感度が上がった(カンスト付近まで)!
ハグリッドから自分の授業を取らなかったハーマイオニー達への好感度が下がった(なおハーマイオニーにはグロウプの恩義があるのでカンストのまま)!