蛇寮の獅子   作:捨独楽

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ザビニは果たしてスラグクラブに誘われるのでしょうか。

ハグリッドの魔法生物飼育学ですが、原作だと誰一人として六年生は取らなかった……みたいに言われてましたがこの二次創作だと受講者は居ます。ハリー以外はオリキャラですが。


スラグクラブ

 

「ハリー、少しだけ付き合ってくれないか?キメラの躾について君に聞きたいことがあるんだ」

 

「ザムザ、わかった。ハグリッド。キメラの小屋を掃除させてくれ」

 

 キメラとの激闘を経て、キメラは血を飲んで(比較的)大人しくなり、こちらに牙を向けることはなくなった。

 

 授業の終わりを告げる鐘の音が鳴るや否やその場を去ろうとするデボラとは異なり、ザムザやハリーは残ると言い出した。

 

「グリフィンドールとは思えないくらいに魔法生物に熱があるんだねぇ。キメラなんて人生で一度お目にかかればいいほうだよ。そう思わない、グラン?」

 

 キメラの毒で滲んだ爪を受ければ命はない。ドラゴンの尾は子供のキメラであろうとも分厚い鉄板を破壊してしまうほどのパワーがある。そんな怪物と関わろうという度胸はデボラにはなく、ザムザやハリーの熱意を茶化してとなりに居たリュカに囁く。

 

「いいや?……どうしてそう思ったの?」

 

「……勿論、大抵その一度で見たヤツが死ぬからだね。子供のキメラだって危険度評価XXXXXに変わりはないんだ。勇気と無謀を履き違えてると死ぬよ~」

 

 軽口を叩きながらデボラは全力でハリーから遠ざかった。

 

 デボラ・カロー。フローラやヘスティアと年が近い彼女は、スリザリンではないもののカロー家の末席である。

 

 家の都合や社交界よりも本人の享楽を優先させてしまう思考回路ゆえか、デボラはスリザリンではなくレイブンクローへと組分けされた。そんな彼女の防衛本能は、全力でハリーから距離を取るべきだと告げていた。

 

 子供とはいえキメラはキメラなのだ。およそ見習いの魔法族が相手していい生き物ではない。

 

(あんな化物とは付き合ってらんないね)

 

 ハリー・ポッターを懐柔、或いは接近して情報を剥ぎ取るという考えを持つ純血派閥の保護者は多い。しかし、ハリー周辺で起こる不愉快な事件の数々を見ればそんな気は無くなる。

 

(……普通に強い。強いからこそ、あの強さが自分に向けられたらと思うとゾッとする)

 

 数々の難事件を超えてハリーは強くなった。ホグワーツの教授クラスではないだろうが、少なくともデボラでは太刀打ち出来ないのは確かだ。

 

 交遊関係を育みハニートラップにかけて、光陣営の情報を奪い取れ、とデボラは父親からお達しを受けていた。もちろん、デボラはその指示を全うするつもりはなかった。個人主義者であるデボラは最初からハリーと友人関係になるつもりなどないのである。

 

 

 

 二年前に死んだファルカス・サダルファスの二の舞を演じるのは御免だとばかりに、デボラはハリーと友好を育むことなくさっさと逃げることを選んだ。そして、そのデボラと一緒にホグワーツ城に戻る人間を見てデボラは驚いたように言う。

 

「……」

 

「……アレ。あんたは残らないの?てっきり残るもんかと思ったけど」

 

「はい。キメラがベオルブに対して心を開きかけていたのもありますが、何となく……」

 

「……ザムザはポッターと二人で話をしたそうだったので」

 

「あんたは何故かそういう部分で察しが良いのよねぇ。ハッフルパフの文化なの?」

 

 レイブンクロー生にはハッフルパフ生を見下す風潮がある。下に見ているのだ。その例に漏れずデボラもリュカをからかった。

 

「はい」

 

 が、あっさりとリュカはからかいをいなした。慣れているのか、それともよほど自分に自信があるのか。デボラは意地悪く笑いながら言った。

 

「マジで?」

 

 リュカはにっこりと笑った。軽いジョークを交えながらカロー家の魔女はハグリッドの小屋から遠ざかってゆく。デボラはカロー家である自分に対してもハリーと態度を変えないリュカのことを認めつつ、あえて軽んじるような態度を取ってみた。

 

 リュカオーン・グランバニラ。魔法生物学者志望であり決闘クラブ部員である彼は、後に三股疑惑でホグワーツの社交界を沸かせることになる。

 

***

 

 ハリーはザムザと共にキメラの小屋を掃除し終えた。キメラは血の桶を舐め終えて、ザムザが持つブラシによって毛繕いされる間体を伸ばして横になっている。

 

(猫の遺伝子を持っているだけはある……)

 

「どうやらキメラは機嫌のいい時はとことん大人しいようだね。ザムザの世話がいいのかもしれないもう少しで眠りそうだよ」

 

 ハリーはくつろぐキメラの姿を見てハーマイオニーの飼い猫であるクルックシャンクスを思い出した。クルックシャンクスは頭がよく時折こちらを試すような振る舞いをするが、警戒に値しない相手には割りきって接する。

 

 キメラから見たハリーやザムザは、自分を脅かす敵ではなく食事を給仕してくれる召使のようなものなのだ。

 

 炎で脅し、鉄の板で攻撃を阻んだこともキメラにとっては何ら問題にはならない。頑強な肉体と有り余る狂暴性を収めるためにはむしろ丁度良かったくらいなのだ。

 

「だったら良かった。信頼関係の第一歩は踏めたらしいね」

 

 ザムザはキメラの毛繕いを終えると、キメラの全身をアグアメンティによって洗った。大量の水を浴びたキメラはグルグルと気持ち良さそうに鳴いていた。ハリーがテルジオ(拭え)で湿気を落とし乾かしてやると、キメラは一声、満足そうに吠えた。

 

 ハリーとザムザはキメラの世話を終えると、キメラの小屋に鍵をかけて小屋を出る。ハグリッドはよくやったとハリーとザムザを労うと、なにかを察したように小屋に引っ込んだ。

 

「ありがとう、ハリー。君が居てくれて助かったよ。正直に言うと……グリフィンドール生としては恥ずかしいことだけど、俺一人だと恐ろしくて世話は出来そうになかった」

 

「そうかな?僕はザムザが言うほどザムザは悪くないと思ったよ。僕も一人だけだとキメラ相手にスムーズな世話は出来なかったと思う」

 

 ハリーはザムザを褒めた。しっかりとハグリッドの指示を聞いて即座に実践し、成功させた。その時点でザムザは十分に優秀なのである。

 

「ありがとう。……ねぇ、ハリー。今日の授業では大丈夫だったけど、僕は少なくともデボラ・カローは信用できないと思うんだ。彼女はカロー家で……」

 

 信用できない、と言おうとしてザムザは踏みとどまった。ハリーの視線に咎めるような色が入ったからだ。

 

「あ、いや。違うんだ。デボラは授業でも一番腰が引けていたし、何か問題を起こすかもしれない」

 

 ザムザは慌てて訂正した。酷い言い種ではあったが、ハリーはそれを咎めなかった。今回のキメラの飼育作業において、デボラは邪魔こそしなかったが能動的に何かしたことはなかったからだ。

 

「デボラ・カローみたいな子は苦手だから、何かあったときフォローを頼めるかな」

 

 含みを持ったザムザの言葉に、ハリーは笑って頷いた。

 

「解った。僕に任せてくれ。キメラに何かあったら大変だからね」

 

「ハリーに相談しておいて良かったよ」

 

 ザムザは笑ったあと、その笑い顔に陰りを見せた。ハリーはザムザと並んでホグワーツ城に帰るまでの間、ザムザが話すのを待った。

 

 

「ハリー。実は……キメラの世話以外にハリーに話しておきたいことがあるんだ」

 

「……俺の姉さんは、7月の途中からずっと行方知れずなんだ。もしかしたら、神秘部の一件で闇陣営に目をつけられたのかもしれない……」

 

 ザムザが言ったのは、自分の姉が行方不明になっているという事実に関してのことだった。

 

「……君の姉さん?姉さんがデスイーター達に拉致されたってことかい?」

 

 ハリーはあえて聞き返した。新聞を読んで行方不明者の欄にザムザの姉が居ることは知っていたが、ザムザは誰かに姉のことを相談したくてたまらないのではないかと思ったからだ。

 

 こういう時は、聞き手に徹する方がよいとハリーは経験上解っていた。ザムザが誰彼構わず悩みを相談するタイプには見えなかったこともある。

 

「……可笑しいかな。でも……タイミングから言ってそうとしか思えなかったんだ。デスイーター達は、見せしめのために姉さんを殺害したか、浚ったのかもしれないって……俺は思うんだ……」

 

「……ザムザが僕らの仲間だってことはあまり有名じゃない。考えすぎかもしれないよ」

 

 ハリーの言葉にザムザも頷いた。しかし、その表情には姉を心配する気持ちがありありと浮かんでいた。

 

「それならある日突然仕事がいやになって失踪した?それこそあり得ないよ。姉さんはそんなことはしない」

 

 そういい放つザムザの姿を見て、ハリーは掌に汗が滲むのを感じた。

 

(……まさか。僕はまた疫病神になったのか?)

 

(……護る、護ると言いふらして、戦うべきだと言いながら。被害を拡大させているだけなのか?)

 

 ハリーの心には、親友であるファルカスの死後からある思いが産まれていた。

 

 自分は誰にとっても厄介者でしかないのではないかという不安と絶望感である。

 

 そもそもハリーは根っからの自己肯定が出来る環境ではなかった。ダーズリー家の虐待でまず尊厳を破壊され、スリザリンで得た思想は世間一般的に到底受け入れられるものではなかった。そして自分が生き残るために足掻けば足掻くほど、ロンやザビニやダフネといった愛すべき者達の家庭が崩壊していくのだ。

 

 これ程恐ろしく絶望感のあることもそうはなかった。ヴォルデモートへの尽きることのない殺意と、ダンブルドアによって与えられた使命感があってなお自責の念がハリーに沸き上がる。

 

 しかし、それをザムザに見せるわけにはいかなかった。ザムザは弟から見た姉の姿を語った。

 

「……姉さんは卒業してからは家を出たけど。……誕生日には帰ってくるんだ。ケーキ目当てでね。……失踪したのは、誕生日の2日前だったんだ」

 

 ザムザは腕を組み、切り株に腰掛ける。ハリーは大樹にもたれてザムザの話を聞いた。

 

「……姉さんは立派で、とてもパワフルな人だよ。しっかりと試験に合格して難関のヒーラーになったし、その事も誇りにしていたんだ。……だから、患者を見捨ててどこかに消えるなんてことはあり得ないし、自分の菓子を逃すなんてこともあり得ない」

 

「……お姉さんのことを尊敬しているんだね」

 

 そう聞くと、ザムザは微妙な顔をした。それは、兄たちについて語るジニー・ウィーズリーの姿にもよく似ていた。

 

「とんでもない。めちゃくちゃ横暴だよ。だって姉さんは……」

 

「俺の取っておいた菓子とかジュースとかはいつの間にか消えてるし」

 

「うん」

 

 

「何故か休日にボウリングだの映画だのに付き合わされるし」

 

「……うん」

 

(仲がいい姉弟じゃないか?)

 

 ハリーはそう思うと同時にやるせなくなる。少し疎ましく思うと同時に大切にも思っているからこそザムザは苦悩しているのだ。

 

「父さんの扱いも俺ばかり軽いし……姉さんのことは、正直に言えばそんなに好きでもなかったんだ」

 

(ロンもそんなことを言ってた気がする……家族のなかで自分だけヒエラルキーが低いって)

 

「……そう思うこと自体は誰にだってあるよ」

 

 ハリーはそう言ってザムザをフォローしようとした。

 

「……兄弟が居ない僕がこんなことを言うのはおかしいかもしれないけど…」

 

「……君がそうやって葛藤出来るってことは、君は姉さんのことを大切に思っているということだよ。君の悩みは嘘じゃないけど、君が姉さんのことを大切に思っていることも本当だ」

 

(……少なくとも、僕はダドリーのためにここまで思考を割けないだろうし)

 

 人は喪わなければ手にしたものの大きさに気が付かない生き物だ。産まれた時から先に居た兄や姉が、不意に居なくなるということは弟や妹にとっては葛藤があるのだろうとハリーはフラーをいびるジニーや目の前のザムザを見て何となく想像する。

 

 その上で、彼らは自分よりよほど愛に満ちているとハリーは思った。単純に、羨ましかった。

 

「……君は兄弟は居ないだろう。どうしてそう言えるんだい?」

 

 ザムザの返しには切れがあった。ハリーも切れ味鋭く言った。

 

「十年一緒に過ごした従兄に対して、僕はそこまでの情が持てなかったからね」

 

「……………ハリー、君は…………?」

 

「親戚の家で過ごした。けど、……人として好きにはなれなかった。僕にとってはホグワーツの仲間が家族だよ」

 

 ハリーはロンやハーマイオニーにはダーズリー家のことを話したことはなかった。

 純粋に己の弱みや過去を明かすのが憚られたということもあったが、秘密の部屋や純血思想の一件もあり二人には伏せておいた方がいいと思ったのだ。

 

 しかし、目の前のザムザは自分の葛藤や弱みをハリーに打ち明けていた上、純血思想だのマグル生まれだのというものを話したことは一度もなかった。ハリーが歩み寄れたのは、めぐり合わせの問題だった。

 

「……わかった。……誰にも言わないことを杖に誓うよ」

 

「ありがとう」

 

 ハリーの言葉が慰めになったのかはわからない。わからないが、ザムザは何かを決意したように言った。

 

「……姉さんが生きているのか、死んでいるのかはまだわからないんだ。だけどハリー。……デスイーター達との戦闘になったら、彼らを生け捕りにすることも視野に入れることは出来ないかな」

 

「どうして?」

 

「姉さんが生きているのか死んでいるのか。デスイーターの上役にやられたのか、下っ端にやられたのか。……そもそも無関係なのか。詳しいことはなにもわからない。姉さんの足取りを掴むためには、これから戦闘した闇陣営を生かして捕えて尋問するのが手っ取り早いと思うんだ」

 

 ザムザに対して、ハリーは歩み寄った。が、約束はしなかった。というより、出来なかった。

 

「君の意見はもっともだと思う。……お姉さんを探すためにも、敵を生かす努力はする。だけど約束は出来ないよ」

 

「……それでいいよ。……話を聞いてくれてありがとう、ハリー」

 

 ハリーはかつてのトム・リドルのように知己を増やしていったが、そのやり方は異なっていた。リドルの信奉者達がスリザリンに偏っていたのに対して、ハリーは寮を問わなかった。

 

 ハリーは裏の集会のリーダーである。押し付けられたわけでもなく、自分の意思で進んでリーダーに就任したのだ。

 

 だからこそ、ハリーには義務があった。友人達の望むリーダーを演じ、この地獄を生き抜くために戦うのだとハリーは自分を定義していた。

 

 最後にザムザは、自分の父親は研究者だからハリーの力になれるかもしれないと言った。

 

「性格は最低のクズだけど、学者としてはそれなりなんだ。……例の永遠の炎みたいな研究中の魔法に対してもいい助言をくれるかもしれない」

 

「わかった。どうしようもなく行き詰まったらそのときは取り次ぎを頼むよ、ザムザ」

 

 こうしてハリーは味方を増やした。今回の出来事は、ザムザがグリフィンドールらしい稀な勇敢さを発揮したと同時に、戦時下にあって生じうる憎悪の連鎖の一例でもあった。

 

 闇陣営が厄災を振り撒き家庭を不幸に導けば導くほど、英国魔法族は闇陣営やそれを信仰する純血主義者に怒りと憎しみの目を向けるのだ。ザムザがレイブンクロー生であるカロー家にすら疑念と憎しみを隠せなかったように、大多数の被害者達は納得できない葛藤を抱えながら日々を過ごさねばならないのである。

 

***

 

「ホエール教授。……その……どうして女子トイレに集まるのですか?」

 

 ハリーは三階の女子トイレの前で生徒達の疑念を代弁するかのようにそう言った。

 

(……マルフォイが居ませんねぇ。ヤツの性格なら考古学は取っておくものと考えていましたが)

 

 ハリー、アズラエル、そしてダフネは考古学を受講していた。当然のようにハーマイオニーも参加している。ホエール教授はターバンをずらしハリーを見た。

 

「さて。どうしてだろうなポッター。それから、考古学者の卵達。その優秀な頭脳でここへ来た理由ってのを述べてみろ」

 

 ホエール教授がぐるりと視線を巡らせる。考古学の受講要件は、魔法史の授業でOを取得することである。生真面目なハッフルパフ生のアーニーやスーザン、ジャスティンやスリザリン生のノット、レイブンクロー生からはアンソニーら三人組らを含めた多くの生徒が参加していた。四寮で最も受講者が多かったのはスリザリンであり、反対に受講者が最も少なかったのはグリフィンドールであった。

 

「記念すべき第一回の考古学の授業は歴史的遺物の保全・修復についてだ。テキストは読んできたっつー前提でガンガンいかせて貰うぞ」

 

「このホグワーツにおいて、過去の歴史的遺物と言うと何がある?挙手。……んー、ミス……」

 

「グレンジャーです、教授。ホグワーツ城そのものがそれに当たります」

 

 真っ先に挙手し解答したハーマイオニーを見て、パンジーがクスクスと笑った。が、追従する人間は誰もいなかった。

 

「正解だ。俗な言い方になるが、築千年を越える物件ってのはそうはない。ホグワーツに比肩するものはマグルの世界・魔法界を問わずかなり限られる。英国が誇る遺産であると言えるだろう」

 

 ホエール教授は若いながらリップサービスにも長けていた。他国出身かつ、ホグワーツ出ではない教授ということで生徒達(特にパンジー)のなかにはホエール教授を侮る人間も居る。が、ホエール教授はホグワーツや先人を立ててそれを尊重するという姿勢を崩さなかった。

 

「俺が見た中でもホグワーツ間違いなくトップクラスだ。で、だ。記念すべき第一回は、ホグワーツに伝わると言う秘密の部屋を観察することにする」

 

「待ってください」

 

 待ったをかけたのが、セオドール・ノットだった。

 

「秘密の部屋はスリザリンの継承者が開くべきものです。それをみだりに開けることは、ホグワーツの歴史と伝統に反します」

 

「その件については俺も聞いた。現在の継承者であるハリー・ポッターだということもダンブルドアから聞いている。……が。いいか、ノット。秘密の部屋は、二年前の場所発覚から維持のためにダンブルドアと前任者の手で保全活動がなされている」

 

 ノットはあんぐりと口を開けた。ハリーはこれ程面白いものを見たことがなかった。ノットが口を開いて教授に反論するなど六年間ではじめての出来事だったが、ここまで驚愕を表に出すのもはじめてのことだった。

 

 ハリーはダンブルドアが秘密の部屋に入ったと聞いても今さら驚きはしなかった。既に秘密の部屋の侵入方法は解っているのだ。ダンブルドアならばどうとでもなるだろう。

 

「ホグワーツ城の城主であるダンブルドアの許可は得ている。ポッター。部屋に入りたいんでやってくれ」

 

「……解りました。『開け』」

 

 

 ハリーは蛇語を使った。その様子をホエール教授はあくびをしながら見ている。

 

 秘密の部屋の扉が開かれるとき、その場に集まった同期達はおののいた者もいた。魔法界きっての過激派であるスリザリンが残した部屋である。

 

 裏の集会に参加していないジャスティンはどんな恐ろしい罠があるか解ったものではないと息を呑む。アーニーやハナらに続き、ジャスティンはそうっと秘密の部屋の地を踏んだ。

 

「……オーケー。今日の講義はここまでだ。ホグワーツ城の足跡ってやつをこれから皆で見ていくとするか」

 

 ハリー達裏の集会メンバーが好き勝手に使い倒したサラザール・スリザリンの部屋は今、スリザリンとは縁もゆかりもないホグワーツの外から来た魔法使いに侵入された。しかし、現在の継承者であるハリーはそれを不快に思うでもなく笑ってみていた。

 

(バ……バカな。こんな……こんなにあっさりと。こんなことがあっていいのか。スリザリンの、千年の歴史が……)

 

 ダンブルドアがこれを見越していたのだとすれば、とんだ策士だと言わざるを得なかった。スリザリンは今、図らずも時代の転換点を迎えてしまったのである。

 

「魔法界における考古学は、古代に使われていた魔法とそうではない現代の魔法とを区別する上での重要な手がかりとなる」

 

「世間一般の方々に安全な範囲で過去の遺物を見学していただける、というところまで探索し、遺物を保全して始めて完了だと言える。この中に実技が苦手なヤツは居るか?」

 

 周囲の視線がダフネに集中する。ダフネは居心地が悪そうにモゾモゾと動いた。

 

「じゃあ探索の魔法としてこれだけは覚えとけ。スペシアリス・レベリオ、アロホモラ、ポイント・ミー。そしてエクスペリアームスだ」

 

 

「レパロは使わないのですか?」「素人のレパロは雑で逆効果になる場合もある。ま、順番に教えてやる」

 

 ホエール教授の指揮のもと、ハリー達は秘密の部屋をくまなく探索した。探索したとき、ハリーとダフネは悪魔の護りによって焼き払った部屋をホエール教授に発見され羞恥心に苛まれながら沈黙した。

 

***

 

 ハリー、ザビニ、アズラエル、ダフネ。そしてロンとハーマイオニー。気合いを入れて自習するつもりで教科書を持参していたダフネとは異なり、本来ここに来る気はなかったロンとザビニは教室から余った教科書を借りて授業に挑んだ。ロンとザビニは互いに古ぼけた教科書を押し付けあい、クヌート銅貨のコイントスの結果ザビニが敗北して古びた教科書を手にした。

 

「さて。今回の『生ける屍の水薬』の調合おいて最も優れた成果を出した生徒にはフェリックス・フェリシス。……私が服用した時は一匙で十二時間だったが……まさに魔法のような時間だった」

 

 ホラス・スラグホーン教授はスネイプ教授と比較して、とてもやり易い教授だった。少なくともハリーにとってはそうだったし、ザビニにとってもそうだった。ハリーはこれほど生き生きと調合するザビニを見たことがなかった。

 

 スラグホーン教授は生徒達の調合を確認しながら、ロンの大鍋を覗き込む時気の毒そうな顔をする。しかし、スネイプ教授のようにハラスメントまではしない。

 

 スラグホーン教授は報酬型の教育者であった。生徒達の前に餌をぶら下げ、まずは生徒達の現在の全力を推し量ることにしたのだ。アーニーやダフネはもちろん、まんまとスラグホーン教授の目論みに釣られたのか、あのマルフォイでさえ必死に調合を進めている。

 

(……時間ジャストか。火加減を間違えれば全て台無しだな……)

 

 ハリーも大鍋の火の管理を徹底し、時間内にようやく調合を完了できそうだと思ったとき、スラグホーン教授は感嘆の声をあげた。

 

(ハーマイオニーか?アズラエル?……まさかノットか?)

 

 視線の先に居たのは、その誰でもなかった。ホラスは立ち上る湯気にも構わず一人の端正な顔立ちの生徒を褒めちぎっていた。

 

「ほう、ほほう!素晴らしい、いやはや素晴らしい!学生でこのレベルに達するとは!フェリックスの瓶を手にするのは、どうやら君をおいて他に居ないようだ!」

 

「いや、いや~。全然大したことはありませんよ、教授。先生の御指導のお陰です」

 

 スラグホーン教授の目に留まったのは、ブレーズ・ザビニであった。アズラエルとロンが疑惑の目でザビニを見るなか、スラグホーン教授はザビニのことをいたく気に入り、第一回のスラグ・クラブにハリー、ハーマイオニーとともにザビニを招いた。

 




秘密の部屋でいちゃついたバカップルだけが考古学者に謝罪しなさい。保全とか大変なんだぞ。魔法は普通に劣化するし。
スラグクラブにはオリキャラ達は選ばれません。ホラスの基準は厳しいのです。
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