蛇寮の獅子   作:捨独楽

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正義の在処

 

 

 コリン・クリービーにとって先輩は敬うべき存在であった。

 

 尊敬しているからこそ、愛用のカメラによってその姿を永遠のものにしたい。愛用のカメラに納める被写体はコリンにとって最大級の敬意であり、その一瞬の輝きを写真で永遠にするのは被写体に対するこれ以上ない賛辞なのだ。

 

 繰り返すが、コリンは先輩方のことを心底尊敬しているのだ。ハリーだけではなく自分の寮の先輩であるロンやハーマイオニーも含めて。

 

 ただその敬意の示し方が他人には理解されないというだけで。

 

 たとえばビデオカメラによって納めた映像の中に、クィディッチチームの正キーパーを決める戦いの最中に、キーパー候補に向けてコンファンドを撃っている姿を確認したとしても、コリンのハーマイオニー・グレンジャーへの敬意は変わらない。

 

 動かぬ犯罪の証拠を偶然目撃し、うっかり記録してしまったコリンは焦った。ハーマイオニーがなぜそんなことをしたのかはわからなかったが、ハリーに対して撮影した映像を見せると確約してしまっている。今さら見せないというわけにもいかない。

 

 仕方なくコリンは動画を魔法で編集し、ハーマイオニーがディーン・トーマスを錯乱させた一部始終を隠蔽して渡した。

 

(ばれるかなぁ。いや……落ちた人のプレーまでは見ないよね?……どうかばれませんように)

 

 スリザリンのスコアラー達にとって必要なのはレギュラーであるロンやケイティ達の動きであるため、落ちたディーンのプレーまで注目はしないはず。

 

 そう信じて幾つか偽装工作を重ね、コリンは動画を渡した。

 

 そして無事にビデオカメラはコリンのもとに返却された。

 

 

 つまり、何事もなく隠蔽は発覚することはなかったということである。お礼にコリンはハリーからマンツーマンでowl試験の対策テストを受けられることになっている。

  

 

 コリンは恐る恐るハリーに訊ねた。

 

「どうでしたか?お役にたてましたか?」

 

「うん。特にジニー・ウィーズリーには要注意だね。チームメンバー全員がグリフィンドールの戦力を確認することが出来た。本当にありがとう、コリン。いい動きだったよ」

 

「それなら良かったです!お役に立てて嬉しいですよ!イヤー、ほんと良かったぁ!」

 

(ハリー先輩にもばれなかった……どうしてだろう?)

 

 話ながらコリンは不思議に思った。念のためどうでもいいところでノイズが走るような偽装工作はしたが、なぜその程度で隠蔽できたのだろうと。

 

 スリザリンの人達であれば気付いてしまうのではないかとコリンは内心で不安がっていたのだ。

 

「でも……そのカメラはそろそろ買い換えた方がいいね。古くなっているみたいだよ?見ている最中にも何度かノイズが走った」

 

「いやー、どうでしょう?本来ホグワーツでは現代機器は使えませんし……このカメラはお小遣いを貯めて買ったやつですから、なかなか買い換えるわけにはいきませんよ」

 

「ダンブルドアに調整してもらえるように頼んでみるかい?」

 

「そこまでは……でも、自分で確認しておきます」

 

(良かった~、ホグワーツでほんと良かったっ!皆魔法漬けでビデオカメラに疎くて良かったぁっ!)

 

 コリンは内心でぐっと握りこぶしを作った。

 

 ダンブルドアの補助がなければホグワーツにおいて現代の機器は使用できない。元々ホグワーツにそのような魔法の類いはなかったが、十九世紀以降急速に発展したマグルの科学文明がホグワーツに入り込むことを防ぐため、ホグワーツには科学による産物の動きを阻害する魔法がかけられているのだ。

 

(……でも……本当に良かった……んだよな)  

 

 ハリーと別れ落ち着いて考えてみると、コリンは内心で葛藤が生まれてきた。コリンは自問する。

 

(良かったに決まってるんだ。あんなことがスリザリンの人達にばれたって良いことは一つもないし。本気でやってる選抜試験に水を差したって、グリフィンドール中からハーマイオニー先輩が非難されかねない……)

 

(いや……それでも明らかになった方がディーン先輩のためではあったんじゃないか?)

 

 

 コリンも丸四年もホグワーツで過ごせばグリフィンドールの寮生の人柄はだいたいわかってくる。

 

 ディーン先輩がいかに温厚で理知的でも、試験の邪魔をされてレギュラーを落とされたなど受け入れられるはずもない。

 

 常識的に考えて、ディーン・トーマスとロンやハーマイオニーとの仲は修復不可能なくらいに拗れてしまうだろう。それくらいはコリンにもわかる。

 

 

 

 それだけではない。当事者ではない他のグリフィンドール生だってハーマイオニーと、不正に合格したロンに厳しい目を向けるだろう。二人が村八分をくらうことは避けられない。

 

(……結局僕は……)

 

(隠蔽したんだ。それなら、隠し通すべきだ)

 

 ディーンを取るか、ハーマイオニーやロンを取るか。その二択で自分は正しいはずのディーンを見捨てて、ハーマイオニーとロンを選択したのだ。そう気付いてコリンは居たたまれなくなった。

 

(動画を見返して気がついた時点で訴え出ていれば……いや……でも、どうやって隠し通すかで頭が一杯で、ディーン先輩のことなんて考えもしなかったよな……)

 

(……この事は僕の頭の中だけにしまっておこう……)

 

 そう思い、コリンは寮に戻ることにした。

 

 と、その時。クスクスという笑い声に何かが転げるような音と、水音がした。

 

「まぁ大変ねぇ、こんなところで転んじゃうなんて。床が汚れちゃったじゃない」

 

 女子のねめつけるような刺々しい声が響いた。ぎょっとしてコリンは振り返る。

 

 赤毛のグリフィンドール寮生の女子が、ブロンドのスリザリン生女子に水を被せていた。クスクスと笑う女子グループは全員がグリフィンドールであり、ハッフルパフの生徒達は遠巻きにしており、レイブンクローの生徒達は我関せずとその場を立ち去っていった。

 

 赤毛の女子の杖から立ち上る魔力反応を見れば、ブロンドのスリザリン生へ水を落としたのは彼女だろうことがコリンにはわかった。

 

 あまりにも醜悪な光景であったので、コリンはカシャっとカメラのシャッターを切った。

 

「……何を……」

 

「今の廊下での魔法の無断使用だけど。君がやったってことは監督生に報告しておくからね。言い逃れをしても無駄だよ」

 

 コリンが簡潔に脅すと、赤毛の女子の取り巻きの女子達は雲の子を散らすように逃げ去っていった。

 

 赤毛の女子はわっと泣き出して場を逃れようとする。女子を泣かせたと、事情をよく知らないグリフィンドール生やハッフルパフ生達の非難の声がコリンへと向けられた。

 

(ええー?)

 

 コリンは何だか馬鹿馬鹿しくなり、赤毛の女子は無視してスリザリン生の女子を助け起こそうとした。が、気丈にもスリザリン生の女子はコリンの手をはね除けた。

 

「グリフィンドール生の手なんか借りたくはありませんっ!」

 

「……うん、だよね。でも杖は貸す。インパービアス(防水)。……事情は知らないけど、うちの生徒がごめんね」

 

 コリンはインパービアス(防水)によってその生徒の全身にかかった水は弾かれたが、高価な緑色のローブには転んだことで汚れがついていた。コリンは反射的にやったことについては後悔しなかったものの、ありがとうの一言がなかったことには少々気落ちした。

 

(うーん、ハリー先輩みたいにスリザリン生だったら良かったのかな)

 

 騒ぎを聞き付けてやってきたハーマイオニーに事情を説明したコリンは、ハーマイオニーから聞いた話にじっとりとした疲れを感じていた。

 

「虐めの被害者はアストリア・グリーングラスね」

 

「グリーングラスって……」

 

「……ダフネの妹よ。純血主義者だったらしいわ。……今はどうかは知らないけれど、アストリアを知っている生徒達は皆がそうだったと知っているそうよ」

 

「……うわぁ」

 

 目もあてられない事態であった。

 

 純血主義として育てられた結果、おいそれとそれを変えられなかったのだろうと想像はできる。しかし、マグル生まれとしてレイシストに対する悪感情そのものはコリンにだってある。

 

 アストリアへの虐めは肯定できないが、なぜ周囲の生徒がアストリアを助けなかったのかは想像できてしまった。

 

 ガス抜きである。

 

 皆のやり場のない怒りの矛先が、アストリアに向いたのだ。

 

「そして加害者は……フレイ・アレイスター=クロウリー」

 

(……問題を起こしたって噂は聞かないなぁ……)

 

 コリンはあちこちのグループの会話に首を突っ込んできたが、アレイスターは可もなく不可もない生徒だった。突発的にそんな真似をするのであれば、何か込み入った事情があるはずだった。

 

「……今になってなぜ?原因は何なんでしょう?事情を聞こうとしても赤毛の子は泣くばかりで」

 

「…………フレイのお父様は外交官なのよ。………………デスイーターの襲撃でね……」

 

「……それで……反撃できそうにないグリーングラスを狙ったってわけですか」

 

 正義漢ぶった言葉を出している自分がおかしくなり、コリンは自問自答した。

 

(いや……僕はべつに正しい人間っていうわけでもないけど。これって自己矛盾なのかな?自分の過ちには都合よく目を背けるけど、他人のそれは気に食わないっていうアレかなぁ?)

 

「……復讐……というか八つ当たりですよね。止めはしましたけど、あれで良かったんでしょうかね」

 

(……うーん、でもあのまま続けてたらエスカレートしていたかもしれないわけで。)

 

(…親が殺されて……いやでも、グリーングラスの態度に問題があったとして、それであんな仕打ちをしているのはおかしいよな……)

 

 内心で少し悩むコリンに対して、ハーマイオニーは決然とした態度で言った。

 

「喧嘩の経緯については双方に非があるわ。だけど喧嘩を止めたことは無駄ではなかった。あなたが居てくれて助かったわ、コリン」

 

「ありがとうございます。……あの、先輩……」

 

(何であんなことしたんですか……って言ってられる状況じゃ無いな……)

 

「何かしら、コリン」

 

 コリンはハーマイオニーにクィディッチ選抜試験の件を聞こうとして、やめた。

 

 闇陣営による被害者が増加し、生徒達のなかのスリザリンへの嫌悪感か高まっていくなかで自治しようと思ってくれるハーマイオニーのような存在は貴重なのだ。今ハーマイオニーが居なくなれば、誰もがスリザリン生に対する悪感情を隠しもしなくなるだろう。

 

「……何か必要なことがあれば言ってください。僕も多少はお役にたてますよ」

 

 コリンはそう言って監督生の部屋を出た。グリフィンドール生の一人がボソッと裏切り者とコリンに呟いたが、聞かなかったことにした。

 

***

 

「話は聞いたぞ。随分と活躍したそうじゃないか?」

 

 下級生を泣かせた……或いは純血主義者に味方したというコリンの悪評はグリフィンドール生の女子達を中心に広がっていった。グリフィンドール内部での立場を失っていくコリンであったが、シュラやミカエル、ルナは一貫してコリンの味方であった。

 

 シュラはコリンのことをそれでこそ我がライバルだ、と褒めた上でハグリッドの小屋へと誘った。

 

「そろそろ君も次の段階に進むべき時だ。放課後に小屋で落ち合おう」

 

(次の段階って何だ……)

 

 小屋を訪れたコリンに待っていたのは山程の宿題と、それとは別のowl試験の対策であった。コリンとシュラークは二人でやまほどのレポートに向き合うことになった。

 

「協力してまず宿題を終わらせるぞ。そしてowlの試験問題をやった上で、君にはオクルメンシーの訓練を受けてもらう」

 

「心を閉じる訓練?でもそれはレジリメンスが使える人が……」

 

 視線を向けてみて、コリンは気がついた。

 

「そう。察していると思うが俺はレジリメンスを修得した。オクルメンシーの訓練にはうってつけというわけだ」

 

 そしてコリンはこの日、抱えていた悩みの一つであるハーマイオニーの一件をシュラークに見せることになった。

 

 シュラークは見た記憶について固くクチを閉ざし誰にも明かさなかった。コリンは悩みを共有する親友を得たことで、胸のつかえを取ることが出来た。

 

「君やハーマイオニー先輩を見る限り、グリフィンドール生は勇敢だな。だが……」

 

「……でも、間違わないって訳じゃない。僕たちは見栄っ張りで、とても卑劣なんだ」

 

 コリンはシュラークの言葉を引き継いだ。正義感はある。あるが、それと同じくらい卑劣なこともすると認めなくてはならなかった。

 

「我々スリザリンよりよほど狡猾……いやむしろ、気付いたときには反撃できない高みに立った上で悪事を行なうのは見習うべき狡猾さと言うべきか」

 

 グリフィンドールとスリザリンに関して、ハッフルパフとレイブンクローの生徒はしばしばコインの裏表と彼らを評価する。それは主義主張を除けば、両者が非常に近い性質を持っていると言うことでもあるのだ。




外交官の父親がデスイーターに殺害されたフレイを扇動して憎しみを煽り、アストリアに関する根も葉もない噂を吹き込んで虐めまで誘導したのはフレイの親友のカテジナです。
まぁ暗黒時代だしこんな話はそこら中に転がっています。親世代のマローダーズは言うに及ばず、五巻のネビルとドラコとかもそうだし(あれは全面的にドラコが悪いですが)。
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