蛇寮の獅子   作:捨独楽

307 / 330
今回は黒子のバスケ帝光編みたいなほろ苦い青春があります。
原作からしてこの話はドロドロしてますけど。


最悪のクリスマス

 

「ナイスプレイ、ライデン。僕にブラッジャーを当てたのはフレッドとジョージくらいだ」

 

「……っす。ありがとうございます」

 

「君ならあの二人を越えるビーターにもなれる。ただ相手に当てようなんて考えなくていい。狙いすましてしっかり強振してくれ」

 

 クィディッチチームの練習後、ハリーはライデン・マクネアに称賛の言葉を贈った。

 

 シーカーであるハリーを仮想敵と見立てての実践訓練において、この日ハリーはライデンの手によって始めて被弾した。実戦を想定した模擬訓練の最中、スニッチにあと3センチというところで、ライデン・マクネアによる狙い澄ましたかのような精密狙撃を喰らったハリーはすんでのところでスニッチを掴むチャンスを逸したのである。

 

 ライデンは一瞬の空白の後、素直にはにかんだ。

 

 

 ハリーが駆っていた箒は愛用のニンバス2001後期改修型(改修したのはアズラエルでアズラエルによる名付けは『レイダー』)ではない。

 

 キャプテンであるアーカートの愛用しているクイーンスイープである。スリザリンチームのレギュラーにはチームにいる間はルシウス・マルフォイが贈ったニンバス2001が贈られるが、チームメイトのほとんどは自分の箒を持っているのだ。

 

 なぜハリーが自分のニンバスではなくクイーンスイープを駆ったのかと言えば、初戦の相手がレイブンクローであるからだ。

 

 クイーンスイープ系は女王の名を冠する由緒ある箒であり、ニンバスシリーズが台頭するまではプロでも一線級だった。

 

 レイブンクローのレギュラー陣の多くはこのクイーンスイープを採用していた。

 

 当然、レイブンクローのシーカー、チョウ・チャンもそうである。ハリーはチョウの動きをイメージしながら飛び回り、スニッチを探して練習用の的になったのである。

 

 クイーンスイープを相手にしたときの感覚を掴ませるためにハリーがクイーンスイープを駆り、ビーターのレギュラー陣にハリーを追わせるという訓練をアーカートは課したのである。

 

 その効果は確かにあった。

 

 クィディッチチームの練習は過酷である。時速100キロをゆうに超える速度で空中を飛び回りながら、ブラッジャーを棍棒で撃ち、風が吹き荒れる空の中クァッフルを自在に操り、掴み。

 

 ……そして、それらの敵味方の位置を的確に把握して、かわし。スニッチを取る。

 

 高い空間認識能力、バランス感覚、全身の筋力、視力や反射神経、そして、何よりもスタミナを要求されるスポーツである。その過酷な練習を共にするということは、プレイヤー達に確かな自信を生むこともある。

 

 ハリーはそれを、ザビニやドラコとの練習を通して知っていた。

 

「ポッター先輩!私、私はどうでしたか!ブラッジャーのキープ率はライデンよりも私の方が上です!」

 

 ザビニは当てろよ、と言いたそうな顔になったものの、あえて言わずに苦笑していた。ハリーはマファルダにも悪くなかったと言う。

 

「マファルダも調子は上がってる。試合の時はガンガンブラッジャーをキープしてくれ」

 

 マファルダは女子としては珍しいビーターである。棍棒を使い鉄球を打ちのめすポジションに女子が就くことは通常珍しいが、前例はごまんとある。マファルダは箒の性能を活かし、ブラッジャーの軌道を先読みしてブラッジャーからスリザリンチームを護る盾役となっていた。

 

「はい!」

 

 盾のマファルダと、矛のライデン。それが新しいスリザリンクィディッチチームのビーターである。

 

「オイオイ、キャプテンであるこの俺に褒められたときより嬉しそうにするんじゃないよ。先輩の面目丸つぶれでしょうが?」

 

「もっと褒めて頂ければ、キャプテンが得点王になれるようアシストします!」

 

 忠犬のように言うマファルダに対してアーカートは適当に笑っていなした。

 

「オーオー吠えるねぇ。それくらい理想が高いのは良いことだ」

 

 アーカートは苦笑いしつつも、チームの雰囲気が良好であることを喜んでいた。

 

(……チビ二人とハリーも順調だ。正直、初戦はグリフィンドールが良かったが……今さら贅沢いっても始まらん。最強の敵相手に勝ち目は充分にある!)

 

 スリザリンとレイブンクローとの初試合を控え、スリザリンは敵シーカーであるチョウ・チャンへの対策を徹底していた。ハリーはシーカーとしての経験が浅かったが、チェイサーとしての経験から、チェイサーの邪魔にならない飛びかたを心得ている。後必要なのは、シーカーがどのようにビーター達から狙われるかの経験と理解であった。

 

 アーカートとしては、スリザリン緒戦をグリフィンドールで飾りたかった。アーカートの見立てでは、現在の四寮において最弱最低のチームが、グリフィンドールクィディッチチームであったからである。

 

***

 

 グリフィンドールクィディッチチーム崩壊の兆しは三つあった。

 

 ひとつは、キャプテンの不在。闇の魔法使いによる干渉によって本来チームをまとめ上げる筈のケイティ・ベルの離脱は、グリフィンドールチームにおいてコーマックの専横を許してしまっていた。

 

 そしてもうひとつは、実力不足のチームメイトの存在である。そのチームメイトとは、新メンバーであるビーターのピークスやクート、ジニーやデメルザ、そして、ケイティの代役であるディーンではない。

 

 キーパーであるロン・ウィーズリーであった。

 

 グリフィンドールチームメンバーの誰一人として与かり知らぬことではある。しかし、ロンはクィディッチ選抜の最終試験をハーマイオニーの補助によって合格していたのである。

 

 ロンは調子が良いときはゴール確定のシュートすら阻む。絶好調時に限れば、オリバー・ウッドすら凌駕するだけのポテンシャルはある。

 しかし、悪いときは簡単なフェイントしかないシュートを阻めず、ゴールを許す。安定感の無さは悪目立ちすることは否めなかった。

 

 チーム崩壊の最後の後押しをしたのは、三点目。メンバー間に男女が存在したことによる人間関係のもつれであった。

 

 その日、グリフィンドールチームの練習は過酷であった。

 

 コーマックのあれこれと口煩い指示に対して、チームメンバーは結託して無視するようになっていた。チームの命運を左右する筈のシーカーがチームメイトからの信頼を失うという危機的状況にあって、チーム内で対策を講じる人間は居なかった。

 

 ケイティの代わりにキャプテンマークを付けるのが誰か、と言えば、七年生であり、チームを勝利に導いたことがあるコーマック以外にはいない。

 

 成功体験は時として足枷になり、呪いになることもある。コーマックにとって……否、グリフィンドールクィディッチチームにとって、過去の優勝経験はこの場合悪い方向に作用した。

 

 チームのリーダーを才能豊かなエースが務めるべきか、それとも、エースではなくともメンバーから慕われていたり、屈強な精神力を持っていたり、メンバー間、OBOGらとの調整役をこなせるだけの精神の柔軟性がある人間にすべきか。

 

 ミネルバ・マクゴナガルが当初コーマックではなくケイティを選んだことからも、ミネルバが後者を優先したことは明らかであった。

 

 

 グリフィンドールチームメンバーの皆コーマックのシーカーとしての実績と実力は認めていた。ただし、コーマックは人間としては全く好かれていなかった。

 

 幸運にもスラグクラブに選ばれ、それを本人も盛んに喧伝していたのだから当たり前であった。

 

 チームの雰囲気が日を追うごとに悪くなっていく中、グリフィンドールチームにおける新ビーターのピークスは、友人にこう呟いた。

 

「……俺さ……クィディッチが嫌いになりそうだよ……」

 

「えっ?何だよ?そんなこと言うなよ」

 

「そうだよ。選ばれなかったやつだっているってのに。贅沢だよ、そんな言葉……」

 

 魔法族にとってクィディッチは憧れのスポーツであり、たとえ学生であろうとクィディッチチームのレギュラーに選ばれることは栄誉である。それだけで就職欄に書け、就職での面接に困らないと言われるほどだ。

 

「練習が厳しいとかなら良いんだよ。でもさー……」

 

(……先輩達の人間関係に振り回されるって正直クソじゃねぇ?俺さ、正直言ってもっと楽しい部活がしたかったんだけど?)

 

 ピークスはそう言いかけてやめた。

 

「……なんでもねっ。ちょっと考えすぎてたのかもな!」

 

 ピークスは友人達に内情を話そうとして話せなかった。友人達からの理解は得られそうになかったからだ。

 

(あの先輩どもと同じになっちゃいけない。耐えろ、耐えろ俺)

 

 勇気ある者が集う寮、グリフィンドール。体育会系の風土が整った寮のなかで、自分が率先してムードを悪くするわけにはいかないとピークスは思い直した。

 

***

 

 その日も、グリフィンドールチームの練習は最低であった。

 

 グリフィンドールチームのコーチ兼監督はミネルバ・マクゴナガルである。しかし、彼女は教職員としての業務がある以上、チームを見れる時間は限られている。

 

 キャプテン代理として声を張り上げていたコーマックは、今日も一言多かった。

 

「……デメルザ!またパスを外してるぞ!パスの動きは習ってるだろう!選抜試験からやり直すか!?」

 

「ロン!何でそのシュートを止めないっ!?おまえはやれば出来るやつだろうがっ!?」

 

「自分のプレーに専念してくれませんか、シーカー?」

 

 冷めた目で毒づくジニーに釣られてディーン・トーマスも笑った。ジニーの掌には、金色に輝くスニッチがすっぽりと収まっていた。

 

 コーマックは他人のプレーに夢中になるあまり、自分の仕事を忘れてしまっていたのである。

 

 シーカーがキャプテンにならず、キーパーがキャプテンになるのはこういった事情が挙げられる。キャプテンの仕事は声出しと指揮ではあるが、肝心のスニッチを見逃せば、最悪、試合を落とすことになるのだ。

 

「試合でもそうやってスニッチを見逃すつもりですか……コーマック先輩?」

 

 ジニーの言葉に、コーマックは言い返せなかった。

 

 その日の練習のうち笑顔を見せたのはディーンくらいで、他は全員がしかめ面のままであった。それほどメンバー間の動きは悪く、雰囲気もぎすぎすしたものになっていた。

 

(……コーマックの前で話したくねぇ……)

 

 と考えていたのはピークスである。威厳あるリーダーであろうとしたコーマックはしかし、指示に専念する余り自分自身のプレーが疎かになるという致命的すぎる欠陥があった。コーマックのたちが悪いところは、素直にメンバーに向けて詫びを入れなかったところにあった。

 

 重苦しいムードの中練習が終わる。グリフィンドールチームに笑顔はない。一刻も早くこの場から離れたいと解散していくビーター陣やデメルザを見送り、ロンは一人シャワーを浴びながら自分のプレーを思い返していた。

 

(……今日……ゴールされた時とキャッチされた時の違いは何だ?何が良かった?)

 

(……相手の動きと自分の動きがシンクロしたみたいな……ゴールのコースが見えるような感覚があった筈だ……それを思い出せば……)

 

 ロンは限られた成功体験の感覚を忘れないようにイメージを繰り返していた。

 

 キーパーは、空中に存在する三つのゴールを、三人のチェイサーから守護しなければならない。

 

 マグルのフットボール、或いはバスケットボールがたったひとつのゴールポストやリングを守護することと比較すれば、キーパーの難易度はとてつもなく高い。コンマ単位の時間感覚の中で、敵の動きを先読みして飛び付く嗅覚と己の動きを研ぎ澄ませる感覚、厳しい練習に裏打ちされた動作の正確さがなければゴールを護ることなど出来ない。

 

 ロンはコーマックに言われるまでもなく、良かったときの感覚を忘れないように自己鍛練を繰り返していた。そして、あと少しで何かを掴みかけていた。

 

(……ジニーにゴールされたとき……俺は……視線のフェイクに引っ掛かった。あまりにも単純なフェイク過ぎて……逆に何かあるんじゃないかと深読みしちまった……)

 

(でも……ディーンのキックシュートは防げた。……あんなシュートが来るとは思わなかったけど、足の動きから軌道は読みやすかった……)

 

(……基本は変わらねぇ。体重移動や目線のフェイク、カバーしてくる敵の有無。……その違いだけで敵の動きのパターンは読めてくるんだ。うまく行ったときとダメだったときの違いは何だ?)

 

(……迷ったかどうかなのか?)

 

 ロンが答えにたどり着きそうだったその時、反射的に身体は寒さを訴えた。ロンはファックボムが破裂したかのような盛大なくしゃみをした。

 

「……っベー。……そろそろ帰るか……」

 

 あまりにも長い間を考え事に費やしてしまったらしいと、ロンはインパーピアス(防水魔法)で身体についた水分を弾き飛ばし、さっさとローブに着替えて帰ろうとした。

 

「レベリオ(現れろ)」

 

 ホグワーツ城に入り、グリフィンドールの談話室への近道を通るためにレベリオを使って白い獅子の描かれた織物のうらの扉を開く。

 

「……ん、ねぇ、もっと……」

 

 扉を開いた先で、ロンが目にしたものは。

 

 五年間寝食を共にした黒人のルームメイトと。

 

 十五年間護ってきた妹が、固く抱き締めあいながら熱烈な口付けを交わしているところだった。

 

「オイ!?」

 

 その瞬間ロンに沸き上がった感情の在りかについて、ロン自身はっきりとは認識していなかった。怒り、困惑、嫌悪、混乱、憎悪。とにかく衝撃でないまぜになったロンの言葉に、好意的な感情がなかったことは確かである。

 

 ロンの声をきっかけに、ジニーとディーンは魔法が解けたかのようにびくりとはねて互いから離れ、ロンを見た。ディーンの唇から一滴のなにかが見えていた。

 

「何よ?」

 

 いっそ挑戦的に開き直ってジニーがロンへと聞き返す。

 

「公共の場で何をしてやがる?お前ら……いや、ジニー?皆の前で、お前がバカみたいにしてるって言われたいのか?!」

 

 

「入ってきたのはロンの方でしょ!?この廊下には誰もいなかったわ!」ジニーが言った。

 

 ディーンは、きまり悪がっているようで、ロンに、ずるそうににやっと笑いかけたが、ロンは知らん顔をしていた。ロンの胸の中で生まれたばかりの怪物は、今すぐディーンを、チームから辞めさせろと吼えていた。

 

「あのさ……ねぇ、ジニー」ディーンが言った。「談話室へ戻ろうよ……」

 

「一人で行って?!」ジニーが言った。有無を言わさぬ口調にディーンはびくりと震えた。

 

「私は、()()()()兄上と話があるの!」

 

 ディーンはその場から離れることができて喜んでいるように去っていった。ロンはその後ろ姿を見ながら思う。

 

(あんなやつにジニーを任せられるか?)

 

(キレてる俺の前に、ジニーだけ残して!?ざけんな)

 

 ジニーを庇って自分の前に立つでもなく、ヘラヘラと笑って誤魔化し、ただ逃げる。ロンは友人がそんな男であったことにも、そんな男にジニーが引っ掛かったことに対して。

 

 ……或いは、実の妹がそんな程度の男を口説いて付き合ったことに対して、無性に腹が立っていた。

 

「この際よ、ブラザー……いえ。ロン」

 

 ジニーが、頭を振って、顔から長い赤毛を振り払い、ロンをにらみつけた。クィディッチには邪魔なデッドウェィトであるにも関わらず、ジニーはチェイサー陣の誰より上手く、速く飛ぶことができた。

 

 ジニーには才能があった。才能を開花させるための努力は惜しまなかったし、ロンよりも速く、才能が結実したことで自信をつけていた。

 

「私が、誰とつき合おうが何をしようが、あなたに関係ない――」

 

「ある!公共の場を乱してる!」

 

 ロンは反射的に言った。ジニーはそのロンの姿が、自分にとって一番嫌いな兄と重なって見えた。

 

(何よコイツ、パーシーみたいに……!)

 

「何でよ!パーシーだって同じことをやってたわ!公共の場?隠れてたのを覗いたそっちが悪いのよ!」

 

「俺はパーシーの話はしてねぇ!お前を心配して言ってんだ!」

 

「心配?何が心配だって言うの?」

 

 ロンもジニーも互いに激怒し、ヒートアップしていた。不幸なことに、この場には争いを仲裁できるような人間は居なかった。

 

「いいか!お前らの馬鹿げた振る舞いを見たら、皆はこう言うだろうよ!『ヘイ、ロン!お前の妹はビッ――」

 

 

「あ?」

 

 ジニーが怒鳴って、杖を引き出した。

 

「言ってみろよ?」

 

 ジニーに杖を向けられ、ロンは口を閉ざした。が、言ったようなものであった。ジニーは振り上げた杖の降ろしかたが分からず、次第に目を潤ませながら言った。

 

「あんた……ロンは……」

 

 

「今までに誰とも抱き合ってキスしたことがないから、私にそんなことが言えるんだ。ミュリエルおばさんくらいじゃない―」

 

 

「黙れ!」

 

「黙らないわっ!ロンが取り消すまでは!」

 

 ジニーも逆上して怒鳴った。この日、兄と妹の絆は粉々に砕け散ったと言っても過言ではなかった。

 

「フルールと一緒にいたとき」

 

 鼻声になりながらジニーは言った。

 

「会うたびにほっぺたにキスしてくれないかなって眼で見てたくせに!ビルの婚約者を!!」

 

「ほんっとに◯◯って可哀想よね!!もし、誰かと抱き合ってキスしたことがあれば、他の人のことなんて気にも留めないのに」

 

 ロンは杖を抜いた。

 

「もう一度言ってみるか?お前……今までで何人と付き合った?どんだけ短期間にとっかえひっかえしてんだ?」

 

 ロンもジニーも互いに屈辱と怒りで頭が真っ白であり、余裕がなかった。誰より身近な兄と妹であったからこそ起きた悲劇であった。

 

「俺が、みんなが見てるとこでキスしないからって!――」

 

 ジニーは、ばかにしたように笑いながら叫び声を上げてロンを煽った。

 

「フクロウとキスしてたの?それとも、ミュリエルおばちゃんの写真?夜中の寂しい時間帯に見てたの?」

 

 ロンの杖から解き放たれた橙色の光線はジニーには当たらず、十センチくらい逸れた。

 

 ジニーは撃たれたことにショックを受けたような顔をした。ほとんど鼻水を垂らしながら叫ぶ。

 

「ハリーはダフネ・グリーングラスとキスしたことある!」

 

「ハーマイオニ―だってクラムとやったわ!ザビニだって付き合った子は大勢いる!私だけあれこれ言われるなんておかしいわ!」

 

 そして、ジニーはロンの心にとどめを刺した。

 

「そういうのを何かすごく嫌なものみたいに言うのはロンだけよ!ロンが十二歳のガキと同じくらいの経験しかしてないからよ!」

 

 走って駆け去るジニーの後をロンは追わなかった。

 

 ロンはその後自分がどうやって部屋に戻ったのか、全く記憶に無かった。ただ、次の日から、必要な時以外でディーンと口をきくことはなくなった。

 

***

 

「……なんつーか……いいんすかね」

 

 クィディッチの練習を終えていち早く寮へと帰っていくハリーを見送って、ライデンはぽつりと呟いた。

 

「何がだ、ライデン?」

 

 アーカートがいち早く尋ねる。彼はキャプテンとして、特に年少のライデンとマファルダのことは気にかけ、ハーパー達の相談にも乗るなどチームの維持に気を遣っていた。

 

「……俺……はっきり言って、ポッター先輩のことは嫌いなんすよ。あの人だけやりたい放題好き勝手やってるし。規則違反とかしまくってるし」

 

(だろうなーっ……)

 

 アーカートは後輩の言葉に無言で頷いた。

 

 アーカートたちホグワーツにおけるスリザリン生にとってハリーは嫉妬と羨望の対象である。なぜなら、スリザリン生でありながらスリザリン生にあるまじき振る舞いを許されているからだ。

 

 それが許されるのも、ハリー達のこれまでの行動あってのことではある。アーカート達上級生はそれを理解して、ハリーは例外枠だと思って心から追い出しているが、下級生がどう思うかは推して知るべきであった。

 

 

「けど。だけど……あの人を追ってプレーしてると、なんか上手くなってることに気付いちまって……」

 

(……思ったよりも面倒くさいなコイツ……しかし、今気付けてよかったと思うべきか……)

 

「上手くなったのなら良いことじゃないか。レイブンクローの試合でも活躍できるかもしれんぞ?」

 

 アーカートはライデンの内心にほっとしつつ、早めに不和の種に気付くことが出来てほっとしていた。

 

「……いや……でもなんか……悔しくて。だってあの人、箒に乗って五年かそこらっすよね。……それなのに、あんなに上手くなってる。……クィディッチに全部かけてるわけでもないってのに……」

 

 ライデンの言葉に、プレーヤーとしてのアーカートは咄嗟に言葉を返すことが出来なかった。

 

 クィディッチチームメンバーの中でも、才能の差と言うものはある。七年生にしてようやくレギュラーの座を勝ち取ったアーカートと、二年生の頃からレギュラーとして獅子奮迅の活躍をしていたハリーとでは雲泥の差と言えるだろう。

 

 

「……良いんじゃねーの?ハリーに嫉妬できるってのはお前に成長の兆しがあるっつーことじゃねーか」

 

「……成長、っすか?これが?」

 

 アーカートに代わって言葉をかけたのはザビニであった。

 

「お前は人としてはハリーのことは好きでも何でもねぇ。だけど、選手としてのあいつのことは認めてるんだろ?」

  

 澄んだ目で問いかけてくるザビニの陽気さには、ハリーを嫌いだとのたまった後輩に対する負の感情は見受けられなかった。

 

「それは……そうです」

 

「スリザリンのシーカーは誰だ?」

 

「……ポッター先輩です」

 

 ライデンは言った。言わざるを得なかった。

 

 良いシーカーと悪いシーカーの違いとはなにか。それは、他の選手のプレーを邪魔しないことである。

 

 シーカーはスニッチを探すために縦横無尽に空を飛び回る。それは言い換えれば、他の選手を無限に邪魔できるということでもある。たちの悪いシーカーは味方にとっての最大の敵にもなりうるのだ。

 

 チェイサー上がりのシーカーであるハリーは、チェイサーがクァッフルを受けとりたいポジション、守りやすい宙域というものを心得ていた。

 

 そんなハリーのシーカーとしての成長は、驚くほどに早かった。ビーターがどうやってブラッジャーを撃ってくるのか、どういう時に撃ちたいのかを読んでいるかのように、鉄の砲弾をかわしていた。

 

「そんだけ分かってりゃ充分だ。ライデン、お前は無理に良いやつにならなくていーんだよ。クィディッチ選手なんてな、ちょいと性格悪いくらいじゃねーとやってけねぇぞ」

 

「……何か……上手いこと纏められたような気がしてハイそうですねとは言いたくないです……」

 

「オーケー。それで良いぜライデン。その反骨精神忘れんなよ」

 

 天邪鬼なライデンの背中をぱんと叩いてザビニもホグワーツ城への道を戻っていった。そんなザビニの背を見送りながら、ライデンはアーカートに尋ねた。

 

「……あの人本当にポッター先輩の親友なんですか?」

 

「……一年の頃から居たのを見たことがあるよ。多分だけど、お前みたいなやつを見すぎてもう慣れちまったんだろうぜ」

 

「…………環境、ってやつっすか」

 

 変人の回りには変人が集まるとはよく言ったものだとライデンは思った。

 

「……ザビニがお前はもっと上手くなれるって言うのは、それだけお前に期待してるんだろう。アイツは才能に関してはシビアだ。俺にはそういうことは言わねーよ」

 

 ライデンは激励された背中の熱を忘れないことにした。ハリーに思うところはあったとしても、クィディッチ選手として上手くなれるかもしれないということは魅力的だった。

 

 スリザリンチームにも不和の種は絶えず燻っていた。しかし、今の今までそれが暴発しなかったのは、ハリーが周囲のチームメイトに恵まれたからと言っても良かった。

 

 

***

 

「お前らもうチームから出ていけよ!マクラーゲンもウィーズリーも!デメルザに構うなっ!」

 

 クィディッチの練習時間中に吠えたのは、グリフィンドールクィディッチチームの新ビーターであるピークスであった。彼はビーターにしては小柄で、身長も小さいながら、棍棒を抱えて自らより大柄なロンとコーマックをそれぞれ睨み付けていた。

 

 ロンは最悪のコンディションのまま練習に望み、ジニーやディーンとの連携に支障をきたすなど、最低の結果を出し続けていた。事情を知らないチームメイトからすればまた調子の悪いときのロンが出たのかと思ったのだが、ロンの機嫌の悪さはずっと続き、プレーの質もけしていいものではなかった。

 

 それだけなら、チームメイトも耐えられたであろう。

 

 しかしロンは、誰彼構わず周囲を敵だと思い、チームメイトに当たり散らすようになっていた。

 

 この日、シュートのためにリングにぶつかる勢いで突入したデメルザとロンが接触した。デメルザのプレーはファウルであるが、故意ではない。マクラーゲンがデメルザを叱責し……さらに、ロンはデメルザに怒鳴り散らしてデメルザを泣かせてしまった。

 

「……あっ……おい、デメルザ。……その……医務室へ行け。ジニー、デメルザに付き添ってやれ……」

 

 しどろもどろになって畏まって指示したコーマックと対照的に、ロンはピークスを睨み付けていた。

 

「何か文句あるのか?」

 

「あるに決まってんだろう!自分のプレーが悪いときに周りに当たり散らすのは止めろよ!……このチームでやってると……クィディッチが楽しくなくなるんだよ!」

 

「……ケッ」

 

 ジニーは不貞腐れたようにガリガリと足で地面に絵を描いていた。

 

 グリフィンドールの雰囲気は最悪のまま。改善されることはなく、試合当日を迎えようとしていた。

 

***

 

 スリザリン・クィディッチチームは、レイブンクローとの試合において最終的に280対40という大差をつけて勝った。

 

 試合は当初レイブンクローが二十点先取し、レイブンクローのペースで進んだ。レイブンクローは高い得点能力を持つザビニを徹底的にマークし、試合開始から五分間スリザリンを無得点に追い込んだ。

 

 試合の流れを変えたのはスリザリンのビーターであるマファルダであった。彼女はブラッジャーの軌道を読み、ブラッシャーの妨害からチームメイトを守り、逆にザビニをマークするレイブンクローのチェイサーへとブラッシャーをお見舞いした。

 

 一度マークが外れたザビニはたがが外れたかのように得点を重ねた。レイブンクローは強いチームであり、タイムアウトを駆使して一度はその流れを絶ちきったものの、ブラッジャーによる妨害や援護が無いままでは追い上げられるだけの得点力はなかった。

 

 ハリーがシーカーとしてはじめての勝利を得ることが出来たのは、ビーターとの信頼関係故のものであった。

 

 ハリーとチョウはほとんど同時にスニッチに気付いた。チョウのほうがスニッチに近く、また、チョウは上空から落下するようにスニッチに近付くのに対してハリーは下から突き上げるようにスニッチへとニンバスを駆った。重力の分だけ、チョウに分があった。

 

 チョウがスニッチまであと十センチというところで、ライデンが横からブラッジャーを撃ち込んだ。クイーンスイープの軌道を知っていたから出来たことだ。

 

 結局スニッチはハリーの手に納まり、スリザリンチームは記念すべき新チームの初陣を勝利で飾った。

 

 ビーターというポジションは、唯一ブラッジャーを使いシーカー、チェイサー、そしてキーパーへと干渉できるポジションである。

 

 そのため、強いチームはビーターをとても丁重に扱うのだ。かつて偉大なビーターであったルード・バグマンが所属していたチームもまた、チャンピオンリングを手にしたことがあるのだ。

 

 

 そして。その日の午後に、グリフィンドールとハッフルパフとの試合が行われた。

 

 グリフィンドール・クィディッチチームは、ハッフルパフとの試合において最終的に230対20という差で敗北した。

 

 

 

 試合が終わった直後、ロンは何も言わずにグラウンドを去っていった。観戦していたスリザリン生の一人が、試合をみて呟いた。

 

「……アイツらなんで味方同士で憎みあってたんだ?」

 

 観客達はグリフィンドールとハッフルパフとで、選手の質に差があったと言えるだろうかと首をかしげていた。

 

 ハッフルパフには、失礼ながら目ぼしい選手は居なかった。偉大なシーカーであったセドリック・ディゴリーが抜け、ザカリアス・スミスはセドリックの後を継ぐのは畏れ多いとシーカーにはならなかった。目ぼしいタレントの居ないハッフルパフはあまり強くないというのが観客の共通認識であった。

 

 ところが、グリフィンドールの動きは精細を欠いていた。ビーターも、チェイサーも、キーパーもシーカーも動きがぎこちなく、能力の半分も出せてはいなかった。

 

 クィディッチは個人技のスポーツであるというのがグリフィンドールの持論である。優れたシーカーさえ居れば、これまでは多少の点差があろうとも何とかなってきた。

 

 しかし、それが通用しない時期に来ていたのである。

 

 

***

 

 ブルーム・アズラエルは緊張を解すため、カチカチにセットした髪を左手で触った。アズラエルは右手にもった杖で床に広げた地図……マローダーズマップをこんこんと叩いた。

 

(……これは……)

 

 ハリーやザビニがクィディッチに興じる間。アズラエルは一人の男の後をつけていた。

 

 その男とは、ドラコ・マルフォイである。

 

 クィディッチのシーカーという絶対的ポジションを棄ててまでマルフォイが成そうとしていることは何なのか。アズラエルはそれを突き止めたいと思い、そして、いつも尾行に失敗していた。後をつけていた筈のドラコの姿を見失い、下級生の女子生徒と遭遇するという事態が二度もあったのだ。

 

 このままでは時間の無駄であると思ったアズラエルは、ついに、最後の手段を取った。

 

 ハリーからマローダーズマップを借りてマルフォイを尾行したのである。

 

 完全にストーカーの所業であり、アズラエル自身いい気はしなかった。しかし、アズラエルは止まらなかった。止まれなかった。

 

 アズラエルは目的の男……ドラコが、必要の部屋に居ることを確かに突き止めた。ドラコの周囲にある黒い点のひとつを、アズラエルは杖でつつく。その点は、グレゴリー・ゴイルという名前を示した。必要の部屋の入り口に立っている少女が、ゴイルなのだ。

 

 アズラエルは、必要の部屋に消える少女の姿を確かに見た。しかし、マローダーズの叡知は少女がゴイルであることを示している。

 

 

(ハリーに伝える……?いや……!奴らがポリジュース薬を使ってまで、隠していることがある筈……!!)

 

 アズラエルははっとした。一刻も早く、この事をハリーへと話さなくてはならないという思いと。

 

(この謎を……!解き明かせば!ダンブルドアも、きっと動いてくれる筈です……!)

 

 ホグワーツを脅かそうとしているかもしれないドラコの悪事の現場を目撃し、ダンブルドアに密告したいという欲求でアズラエルは揺れた。

 

(僕の手でホグワーツを……!ハリーやザビニを守るんですよ……!)

 

 復讐心と、闇陣営への憎悪がアズラエルを動かす燃料である。しかし、その奥には、今だ残った友人への愛情も確かに存在する。

 

 アズラエルはマローダーズマップをしまうと、柱のかどに隠れて高揚する気持ちでチャンスを待った。

 

「……ステューピファイデュオ(失神呪文乱射)!!」

 

 少女の姿をしたゴイルがあくびをかみ殺した瞬間を狙い、アズラエルは失神呪文の赤い閃光を撃ち込む。その勢いのまま、見張りをしていたもう一人の少女……クラブへと、アズラエルは失神呪文を撃ち込んだ。

 

(……見張りは倒しました。これで後は、マルフォイがのところに行けば……!)

 

 必要の部屋の入り口に近付き、達成感に浸るアズラエルは。

 

「ステューピファイ(失神しろ!!)」

 

 自分の背後から赤い閃光を撃ち込むクラブに気がつかなかった。

 

***

 

 ポリジュース薬には欠陥がある。

 

 一時間しか薬効がないことと、スペシアリス・レベリオ(化けの皮よ剥がれろ)の干渉を受けてしまうことである。

 

 そのため、誰かに化ける人間はこのポピュラーな魔法に対しては細心の警戒を払う必要がある。

 

 クラブとゴイルはともかく、ドラコはレベリオによって二人の正体が露見する可能性を承知していた。だから、使用と共に劣化していくものの、ある程度ならレベリオに抵抗できるプロテゴの効果を編み込んだ特別製のローブを二人に与えていたのである。

 

 経年劣化が進んでいたローブは不幸にも、ゴイルには効果を発揮しなかった。しかし、幸運にもクラブには効果を発揮したのである。

 

 クラブは苦々しげにアズラエルの頬に拳を撃ち込むと、ウィンガーディアム・レヴィオーサでアズラエルと、少女の姿の相棒を吊り上げて必要の部屋へと入っていった。

 

***

 

「……よくやった。本当によくやった、クラブ。……その役立たずは放っておけ。……見張りに戻れ」

 

「……褒美をくれよ。ソイツを殴る権利を俺にくれ。ポッターの一味だろ?」

 

 クラブは少女の姿のまま獰猛に提案した。実際にゴイルは全く役に立たなかったから、ゴイルをなじったドラコに異論はない。ゴイルはステューピファイで失神させられ、今もすやすやといびきをかいている有り様だ。

 

 問題はアズラエルであった。

 

 先制攻撃されたという事実は、クラブの敵対心を煽っていた。ただでさえクラブの父親は神秘部で逮捕されていたのだからその怒りも当然と言えた。

 

「少しは頭を使え!こいつの怪我を誰に、どうやって説明する!僕たちは疑われてはならないんだぞ!」

 

「じゃあコイツはどうするんだ!?五体満足にしてそのまま返すのか!?」

 

(ちっ……鬱陶しい……!今は時間が惜しいというのに……!)

 

 ドラコは内心で歯噛みした。自分の仕事はまだまだ難航しており、今は1分1秒が惜しいのだ。ポッターの取り巻きに構っている時間すら惜しかった。

 

「一体いつ僕がお前に口答えすることを許した?クラブ。黙って見ていろ」

 

 ドラコは自分の杖を取り出すと、薄く笑った。氷のように冷たい目だ。 

 

 ゴイルであればそこに恐ろしさを感じ取っただろう。しかし、クラブが感じたのは畏怖であった。

 

「勿論こいつにはつけを支払わせるとも。この僕と、父上に歯向かった罰だ。リベナイト(蘇れ)。インペリオ(従え)」

 

 最低最悪の闇の魔術は、目覚めた直後のアズラエルを包み込んだ。その瞬間アズラエルの脳内はかつて無いほどの喜びで満たされた。

 

***

 

 グリフィンドール寮は華やぐスリザリン寮とは対照的に、どこか重苦しい雰囲気のまま、クリスマスを迎えた。

 

 




そう言えば、この二次創作ではザビニ母の名前はキシリアとしています。
キシリア様の名前を勝手にザビニの母親の名前として拝借して元ネタのキシリア様に申し訳ないなぁと思ってたんですよ。
……元ネタの方が遥かにぶっ飛んでいました。しかも最新作で毒殺もやっている……!!参った、勝てねぇ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。