蛇寮の獅子   作:捨独楽

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賢者の石編はもう少しだけ続きます。


二人の友情

 

 ハリーはマダム・ポンフリーから、今後二度と自分に杖なんて向けないこと、自分を燃やしたりしないことを固く誓わせられた上で、スリザリンの談話室に戻ることができた。久しぶりのスリザリンの談話室で、ハリーに向けられる視線は今までのものとは少し違っていた。クラッブやゴイルですらハリーの話を聞きたがっていた。ハリーは同級生の前で、クィレルが泥棒で、ハリーはそれに襲われたんだと言うことにした。ザビニたちとはあらかじめ口裏を合わせていた。

 

「……つまり、クィレル教授は泥棒で、僕はたまたまそこに気付いたけど、それだけで何も出来なかったんだ」

 

 

「でも、君がクィレルを倒したという噂があちこちで流れているよ?どうなんだい、ポッター?」

 

 

 噂を流した張本人はアズラエルだった。彼はスリザリン内で生き残るために、全力でハリーを持ち上げることにした。泥棒相手に立ち向かった野心あるスリザリン生ハリーという話をでっち上げ、それとなく女子生徒に話した。

 噂というものは広がるにつれて尾ひれがついていく。ハリーの実像とはかけ離れた強力な魔法使いハリー像(笑)が生まれはじめていたので、急いでハリー自身が訂正しなければならなかった。

 

 ハリーが自分とハーマイオニーしか知らない箒での攻防やトロールとの戦闘を意図的に省略したことでがっかりした顔をする生徒もいたが、中にはしつこくロンやハーマイオニーを含めたあの夜の冒険を聞きたがる生徒もいた。マーセナスやカローや女子生徒も、こっそりとハリーの話に聞き耳を立てていた。ハリーはロンとハーマイオニーとザビニの活躍に関しては隠すこともないと、トロールのこと以外は正直に話した。

 スリザリンの生徒たちは、ハリーたちの冒険を面白がり、ハリーの肩を叩いて笑いながら去っていった。ザビニは自分の活躍を女子たちに誉められて満足そうだった。

 生徒たちが満足して去っていくのを待ってから、ハリーに声をかける人間がいた。監督生のガフガリオンだった。彼はDADAの参考問題集を片手にハリーの話を聞いていた。

 

「ポッター?お前、談話室であんまり騒いでンじゃねえぞ」

 

「ゲ、ガフガリオン!!」

 

「行っていいぞお前ら。ぐっすり寝ろ。……ポッター、お前は残れ」

 

 ザビニたち三人はガフガリオンに恐れをなしていた。ハリーよりも先にしっかりとお説教を受けたらしい。ザビニたちはハリーを置いてきぼりにしてそそくさと部屋に戻った。

 

「お騒がせしてすみません、僕もすぐに部屋に戻ります」

 

 ハリーはガフガリオンにお辞儀をして、部屋に戻ろうとした。正直なところ寝たきりだったのでまだまだ目は冴えていたが、一刻も早くガフガリオンから逃げたかった。

 

「ン?俺がお前を逃がすと思うかポッター?ン?」

 

 

 ガフガリオンはハリーを逃がしはしなかった。彼はハリーが規則違反したことと、ハリーが友人を巻き込んで騒ぎを起こしたことを指摘して、やめるように言った。

 

「規則ってのは守るためにあるンだ。破るためにあるんじゃねえ。くれぐれもそこんとこを履き違えるな」

 

「はい……」

 

 反論を許さない理詰めの説教にハリーがやられたのを見てから、ガフガリオンはポツリと言った。

 

「ま、それでも生きて帰ってこれただけ儲けもんだ。よく帰ってきたな、ポッター」

 

「え、あ……ありがとうございます」

 

 散々なじられ皮肉をいわれた後に優しい言葉をかけられたので、ハリーとしては複雑な気持ちだったが。

 

「……言っとくが、俺はお前とマルフォイならマルフォイを取るぞ。ドラコはスリザリンの模範生で、ポッターお前は……問題児だ」

 

 だが、とガフガリオンは付け加えた。

 

「お前とクィレルなら俺はお前を支持するし守る。なんでかっていうと、お前がスリザリン生で、俺はスリザリンの監督生だからだ。それがスリザリン流だ。わかったな、ハリー?」

 

 ガフガリオンははじめてハリーの名前を呼んだ。彼はスリザリンの監督生らしく、ハリーの人心を掌握するべく飴と鞭を使い分けた。

 

(これが監督生かぁ……)

 

 そしてハリーはその手に引っ掛かった。ハリーは先輩監督生のことを、改めて心から尊敬した。厳しいだけの人ではなく、優しさにはスリザリン生らしい棘がある。それでも、決して残酷な人ではないと、ハリーは思った。

 

「はい!!ありがとうございます!!」

 

 ハリーは先輩監督生の目を見て元気よく返事をし、深くお辞儀をして去った。ガフガリオンはそんなハリーの背中を見もせず、談話室で相方の女子監督生と一緒に勉強して駄弁っていた。

 

「随分とポッターに甘いのね、ガーフィール」

 

 ガフガリオンと同じ五年生の女子監督生のジェマ·ファーレイは、相方のガフガリオンをからかうように言った。

 

「もしかして、ポッターのことを気に入ったの?あんなに不器用な子はうちでは絶滅危惧種だものね。遠くから眺めるだけならあんなに楽しい見世物はないわ」

 

「監督生ともあろうものが後輩を見世物扱いか?胸糞が悪くなるぜ」

 

 ガフガリオンとジェマのじゃれ合いは軽い。二人とも、互いのことをそう悪くは思っていない。二人は一年生の頃から悪事を重ねあった蛇寮の同志だった。

 

「あなたとポッターはお似合いだと思ったわ。だってあなた、双子を止めようと必死に走り回ってるウィーズリーを羨ましそうに見てたじゃない。夢が叶ったんじゃないの?」

 

 クスクスと笑うジェマに、ガフガリオンはにこりともせずに言葉を返した。一年生の頃からつるんでいれば、自分の弱みは大体知られている。ガフガリオンからジェマの弱みを口に出すことはなかったが。

 

「まさか。そんな感傷は監督生になって一週間で捨てたよ。俺は単に監督生としての義務を果たしただけだ」

 

「どうかな?ガーフィールはそう言いながら絆されやすいからなあ。ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」

 

 ジェマが杖をふって問題集の山をどかして次の問題にとりかかるのを見ながら、ガフガリオンは面倒くさそうに言った。

 

「パーシーの奴の気持ちなンざ分かりたくもなかったが、聞き分けのねぇ後輩を持つことがどんだけ大変かは理解したよ。今度アイツには胃薬をくれてやる」

 

「あら。貴方がグリフィンドール生と話すなんて珍しいわね」

 

「アイツから話かけてきたんだ。あの頑固眼鏡は自分の弟と、自分とこの有望な魔女がうちの不良とつるむのを止めたいそうだ」

 

 それを聞いたジェマは面白くなさそうだった。羽ペンを動かしながら、ジェマはパーシーに悪態をつく。

 

「……ふーん、相変わらず糞生意気ねあの石頭。虐めが足りなかったかな?」

 

「家族思いのいい兄貴ってことだ、ジェマ。パーシーに手を出すんじゃねえぞ。奴が壊れたら、誰がウィーズリーの双子を止める?お前がやってくれンなら俺もお前を止めねえが」

 

「……ッチ。分かったわよ」

 

 ジェマは舌打ちをしながらも、渋々と頷いた。

 ガフガリオンはパーシーのことは同じ監督生として信頼していた。ジェマの言う通り融通のきかない石頭で、おまけにウィーズリー家ではあるが、一年生の頃からその能力の高さを疑ったことは一度もない。グリフィンドール生との交渉の糸口を潰したくはなかった。

 

「ポッターのお客様期間は終わったンだよ。この先はあいつも俺らと同じようなスリザリン生として見られるってこった」

 

「同じ?」

 

 ジェマはすとんと問題集を落とした。

 

「ポッターは英雄様でしょう?ピーターを見つけて、ハロウィンでマグル生まれを守ってクィレルを阻止した。正直、異常な成果よ?一年生にしてはだけど、一年生の時に同じことができる奴はいなかったわ」

 

 ガフガリオンは静かに首を横にふった。

 

「能力の問題じゃねえ。今は英雄扱いでちやほやされててもな、すぐに周囲の目も変わるさ。ポッターは生まれから、入学して早くから……あまりにも目立ちすぎた。あまりにもグリフィンドールみてえな行動だったンでスリザリンぽくねえと思ってたが……」

 

 ガフガリオンは自分の声が周囲に漏れないように魔法を唱えて、ジェマだけに聞こえるように伝えた。

 

「ポッターは今回、クィレルを殺しちまった。今はまだクィレルが死んだことは明らかになってねえけどな。時間が経ってから皆知るだろうさ。世間から見たら、危険なスリザリン生が闇の魔法を使ってクィレルを返り討ちにしたってことになる。スリザリンらしい闇の魔法使い予備軍って訳だ」

 

「ちょっと待って。クィレルは聖マンゴ送りになったって聞いたわよ。まさか死んだなんて……」

 

 ジェマの目にはガフガリオンを責めるような色があった。憶測でものを言うほど愚かだとは思っていないが、後輩を人殺しだと揶揄するような発言は聞いていて気持ちの良いものではない。何より、ジェマは自分の寮が例のあの人や、闇の魔術と結びつけられる風潮を好んではいなかった。偏見をあえて自分のために悪用するしたたかさは持っていても、偏見でみられること自体が不快であることに変わりはない。

 

「俺は聖マンゴに親戚が勤めててな。最近、ホグワーツから運び込まれた奴が死んだとふくろうで教えてもらった。どんな高度な医療魔術も効かねえほどに、顔面が焼けただれていたそうだ」

 

 ジェマはごくりと唾を飲み込んだ。

 

「一年生に闇の魔法が使えるわけないわ」

 

 

「ああ。もちろん、実際に殺ったのはダンブルドアか、教授の誰かだろうさ」

 

「ちょっと、やめてよ怖いことを言うのは」

 

「すまねえ」

 

 ジェマを怖がらせ過ぎたことをガフガリオンは反省した。彼はお詫びにジェマに菓子を貢いでから、話を続けた。ジェマは夜だからと菓子には手を出さなかった。

 

「……クィレルはマグル学の教師としてはいいおっさんだった。ジェマもマグル学は取ってるから知ってるだろ?」

 

「……ええ。学期末では簡単なテストで満点をくれるいい教師だったわね」

 

 ジェマは渋々ながらクィレルを認め、そしてこう付け加えた。

 

「防衛術教師になってからは、人が変わったように無能になったけどね」

 

「その人が良かったおっさんがポッターと一緒に姿を消して、ポッターだけが生き残った。ほとんどのやつは、ポッターが運良くとち狂ったクィレルを撃退したって思ってくれるだろうが……」

 

 ガーフィールは防衛術の問題集を閉じて、変身呪文の過去問にとりかかった。

 

「俺らスリザリンにくっついた悪評は並じゃねえ。俺と同程度の知能があって、俺と同程度に悪意のある一部のアホはこう思うだろうよ。スリザリン生らしい闇の魔術で、ポッターがクィレルを殺したんだってな」

 

 ジェマはあえてそれを否定しなかった。人がどう感じ何を考えるかは自由だが、ことスリザリンにおいては、悪意に対しては敏感である必要があった。そしてジェマは人間が集団になると時に悪評に流されるということを、嫌というほど知っていた。

 

「……残酷な話ね。ポッターにとってはだけど」

 

 ジェマはガフガリオンの話を否定しなかった。

 

「ポッターは素直にグリフィンドールでも行っときゃ良かったんだよ。そうすれば変な悪評も立たず、俺がスネイプからお叱りを受けることもなかった」

 

「……そうね。でも……」

 

「あ?」 

 

 ジェマはガフガリオンの言葉を否定はしなかったが、ハリーがスリザリンを選んだことも否定はしなかった。

 

「ポッターの行動を褒めて、ついでにスリザリンの寮を称賛する声の方が今はずっと多い。それはスリザリンと私たちにとってとても喜ばしいことだわ。ポッターには気の毒だけどね」

 

「…………まぁ、そうだな。スリザリンに栄光あれ、だ」

 

 ガフガリオンも、ジェマの言葉を否定しなかった。スリザリンの談話室には、二人の生徒が羽ペンを動かす音だけが響いていた。

 

***

 

 ハリーは復帰して最初の授業で、スネイプ教授のターゲットとなりそれはそれは酷い減点を受けた。ハリーの魔法薬が完成した直後、うっかりとスネイプ教授の手が滑り、薬が駄目になってしまったのだ。薬は一瓶分しかなく。したがってハリーの課題点は0点となった。ハリーはスネイプ教授に感謝の言葉を伝えるために研究室を訪れたが、それはそれは酷い剣幕でのお叱りの言葉を頂いた。

 

 

「…………私の前に姿を見せるとは、いい度胸だなポッター。忙しい私の時間を更に削りに来るとは。それとも君の、……その目には、私が暇を持て余しているとでもいうのか?」

 

「いいえ、思いません先生。先生が僕を守ってくれたと校長先生から聞きました。そのお礼を言いたくて……」

 

 

「何度も言わせるなポッター。私は暇ではないのだ。君は休んだ分の勉強がまだ出来ていないだろう。余計なことを考えず、巨人薬のレポートでも書いていたまえ」

 

 スネイプはハリーに礼を言わせなかった。ハリーはスネイプ教授から追加で魔法薬の課題を頂戴し、すごすごと研究室を後にした。

 

 

***

 

 スリザリン寮に戻ってからの日常はとても穏やかだった。四年生のマクギリス・カローが決闘クラブで同い年のグリフィンドール寮生のガエリオ・アイン・ジュリスに勝利したり、リカルド・マーセナスがハッフルパフのバナナージ・ビストを怒らせて完膚なきまでにボコボコにされるという一幕はあったが、概ね平和だった。ハリーは何気ない日常のありがたさを噛みしめて授業を受けていた。

 

 復帰した週の土曜日に、ハリー、ロン、ハーマイオニー、ネビル、ドラコは再び禁じられた森での罰則を受けることになった。前の罰則が半ばで終わってしまったからだ。今回は前と違って、ユニコーンの遺体や怪物に出くわすことはなかった。

 

 

 森の中の、ケンタウロスが守る聖地にフィレンツェがいた。彼は美しいたてがみを風にたなびかせてハリーたちを待っていた。フィレンツェの横には二匹のトロールもいて、ハリーとハーマイオニーは顔を見合わせた。

 

 

「……お久しぶりです、フィレンツェ。お元気でしたか?」

 

「こんばんは、ハリー、ハグリッド、ファング。そして魔法使いの子供たちよ。私は見ての通り健康そのものだ」

 

 フィレンツェは、輝いていた凶兆は去ったと告げた。

 

「しかし、油断をしてはいけない」

 

 彼は美しい顔に迷いを浮かべながら言った。

 

「闇の兆しを示す星は、光が強まるほど深く、暗く沈む。光と闇は表裏一体だ。光が輝きを失ったとき、闇は再び凶兆を示すだろう」

 

「その時は、また私たちに助言をいただけますか?」

 

 ハーマイオニーの問いに、フィレンツェは分からないと告げた。

 

「私たちは見えない運命の糸によって縛られている。今回はたまたま、私がその語り手に選ばれた。しかし、運命が次に私を選ぶかは分からない。私たちはただ、その時が来る瞬間を待ち、備えることしかできない」

 

「フィレンツェはかなりつまらないことを言うよね……」

 

「ロン、頼むから今は黙って頂戴」

 

「……だが、私は約束しよう。一族を守るため、森の安寧を守るために、必ず子供たちに力を貸すと」

 

「お前さんには苦労をかけるな……」

 

 ハグリッドの労いの言葉は、フィレンツェを確かに癒したようだった。彼はその時はじめて笑ったようにハリーには見えた。

 

「……ありがとう、フィレンツェ。ところで、そちらのトロールは……?」

 

 

 ハリーとハーマイオニーは気まずそうにフィレンツェの後ろで座るトロールたちを見ていた。トロールたちに目だった外傷はなく、健康そのもののようだったが、ハリーは二匹に見覚えがあるような気がした。ネビルとドラコは、ハグリッドの後ろから決して動かなかった。トロールが無事だったことでハーマイオニーの心理的な後ろめたさは軽くなったが、罪悪感もぶり返してきた。

 

「彼らは、石を守る必要がなくなったとして解雇されたトロールだ。自分を倒した子供たちに頼みがあるというので連れてきた」

 

 

「た、頼みですか……?一体どんな?」

 

 ハーマイオニーの声は震えていた。ハリーも不安になった。

 

(まさか、もう一度戦えとか言うんじゃ……)

 

「彼らは解雇される直前、美しい蝶々をどちらが吹き飛ばせるかの勝負をしていたらしい。何か心当たりはあるかな?」

 

「あ、はい。それは僕が出しました」

 

「ならば出してやってくれ。彼らは互いで決着をつけたいのだ」

 

 ハリーが草を青い蝶々に変化させると、トロールたちは蝶々を追って森の中に消えていった。ハリーは、出来ればトロールたちはそのまま健康でいてくれますように、と願った。

 

「……見たまえ。今宵は星が良く見える」

 

 フィレンツェが指し示すまでもなく、夜空には星が瞬いていた。

 

「……シリウス」

 

 ハリーは一等星を見て、シリウスのことを思った。今回の自分の働きは、果たしてグリフィンドール寮生らしかったのだろうか。それとも、スリザリン生らしい狡猾さだったのだろうか。

 

(もしシリウスに嫌われたら嫌だなあ……)

 

 ハリーは六人で星を眺めながら、物思いに耽っていた。そんなハリーを、ドラコはじっと見ていた。

 

***

 

 罰則を終えて、ハリーとドラコはスリザリンの談話室に戻ろうとしていた。ハリーは何となくドラコに話しかけた。

 

「……二人きりになれたね」

 

 ロンもハーマイオニーもザビニもクラッブもゴイルもいない。今ならば本音で話し合えるのではないかとハリーは思った。散々友人の忠告を足蹴にしておいて今さらだが、何か、何でもいいのでドラコと話がしたかった。

 

「黙れ、ポッター。きみは自分が何をしたのか分かってるのか?僕の父上が帝王に取りなしてやったのに。きみは僕の好意を、いつもいつも無駄にする!」

 

 ドラコはハリーに怒りをぶつけてきた。ハリーは真正面から、ドラコの怒りを受け止めた。

 

「僕は、この学校を……て言うか、自分の居場所を守りたかったんだ」

 

 ハリーはドラコにそう言った。それはハリーの本音だった。

 

「もしも例のあの人が戻ってきたら、あの人も僕をスリザリンの子供として扱うって言った。だけど、僕はどうしてもそれが嫌だった」

 

 ハリーはドラコに謝らなかった。それで、ドラコはますます怒った。

 

「あの人に協力すれば良かったじゃないか!そうすれば、きっとあの人は君を褒めた!グレンジャーだろうがなんだろうが、きっと気前良く見逃してくれたんだぞ!!」

 

 ドラコの言葉に、ハリーは首を横にふった。

 

「ドラコはあの人を勘違いしてるよ。あの人は、自分に尽くしたクィレル教授を殺したんだ」

 

 ドラコはうめいて顔を背けた。

 

「……自分の役に立つ人に良くしても、そうでなくなったらあの人は必ず僕を殺す。ハーマイオニーだって、ロンだって、ザビニだって、きっと誰の命だってあの人には何の価値もないんだ」

 

「でも、ドラコは違うんだろう?ドラコは、僕を前に行かせてくれたってアズラエルが言ってたんだ。ドラコは本当は、人の命が大切だって誰より分かってる。誰より優しくなれる……」

 

「死んだらおしまいなんだぞ!」

 

 ドラコはハリーのローブにつかみかかって言った。ハリーは抵抗しなかった。

 

「あの人に逆らったら誰だって……どんな魔法使いだっておしまいだって、父上も母上もずっと僕に言ってたんだ!死んでしまうんだ!だから父上はあの人に従ったって!他にどうしろって言うんだ!何ができたって言うんだよ!それを間違ってるって君は言うのか!」

 

 ドラコは明らかに、例のあの人を怖がっていた。例のあの人が、自分の両親や、ハリーを殺してしまうのではないかと思っていた。

 

「違う!」

 

 だから、ハリーはハッキリとドラコに言った。ハリーの心はヴォルデモートへの怒りで燃えていた。

 

「……僕は……僕は、悪いのはヴォルデモートだと思ってる!あいつが全部悪いんだ!あいつが、人を操って、したくもないことをさせたんだ!あいつが、スリザリンを悪者にしたんだ!」

 

 ドラコはハリーが例のあの人の名前を口に出したことで、驚いて固まった。ハリーは、ドラコの目を見て言った。

 

「……だから僕は、絶対にヴォルデモートを倒す。君に約束する。そうじゃなきゃ、スリザリンはずっとバカにされたまんまだ」

 

「できるもんか、君なんかに」

 

 ドラコは力なくそう言って、ふらふらと自分の部屋まで歩いていった。ハリーはその背中に強く言った。それは自分自身に対する誓いだった。

 

「やるんだ、絶対に!」




友情は時として理屈を超えるんだよなぁ。
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