蛇寮の獅子   作:捨独楽

314 / 330
これまでのあらすじ
見事ホラスから記憶を引き出すことに成功したハーマイオニー。ホークラックスの秘密を知り、いよいよダンブルドアの個人授業も終盤に差し掛かるが……?
今回差別的な表現を含みます。悪しからず。


盲目の黒い羊

 

「ダンブルドア先生。俺はやっぱり納得できません。この話、本当に重要なことですよね。……どうしてハリーに話しちゃいけないんですか?」

 

「ちょっと、ロン……!」

 

 

 ハーマイオニーが止めるのも構わず、ロンは鋭くダンブルドアに抗議した。

 

 ダンブルドアは、抗議の内容よりもロンが校長先生に抗議するような度胸があったという方に驚いているような目をロンへと向けていた。そこにはロンに対する微かな称賛も含まれていたのだが、ロンは自分の進言が価値のないものだと思われた気がして焦って言葉を付け加えた。

 

 フィニアス・ナイジェラスはウィーズリー家の発言など取るに足りないものだと決めてかかっているのか、狸寝入りの姿勢を崩さない。ハーマイオニーはロンに怪訝な視線を向けた。

 

「あの……俺の言葉がお気に障ったり、的はずれであったなら謝罪します。……ですけど、ハリーは預言のせいで『例のあの人』に狙われてるんです」

 

「当事者のハリーを差し置いて……一番重要なところを話さないなんてどう考えても馬鹿げていると俺は思います」

 

「ロン!スラグホーン教授はハリーには話さないでほしいと言われたのよ!!」

 

 ハーマイオニーはついにロンを制止した。

 

「スラグホーン教授はハリーには話さないという約束でこの記憶を渡して下さったわ!その約束を反故にしたその日には、教授はホグワーツを出ていくわ!」

 

「その約束にそこまでの意味があんのか!?」

 

 ロンはハーマイオニーに鋭く反論する。

 

「俺たちが気にすべきはナメクジ先生じゃなくてハリーじゃねぇのかよ。……スラグホーン教授はハリーが預言されてるなんて知らねぇからそんなことが言えるんだ」

 

 ハーマイオニーの視線を受けてロンはすぐさまスラグホーン教授への侮辱を訂正した。

 

 ロンにしてみれば……否、英国における魔法族にしてみれば、たまったものではない。

 

 スリザリンの教育が悪かったから学生に闇の魔術を教えて、教わった学生は案の定最低最悪の闇の魔法使いになりました、という結果に終わったとも取れるのだ。

 

 

 

「スラグホーン教授が預言のことを知っていたら、この内戦の趨勢に関わる内容を当事者であるハリーに隠すだなんて口が裂けても言えないと思うぜ」

 

 ロンの意見に対してフィニアスすら異論を差し挟まない。

 

「そうだとしても……」

 

 ハーマイオニーは言葉を選ぶことにした。

 

 ハーマイオニーは内心、ハリーにホークラックスの知識を渡すことでハリーが制御不可能な闇の魔法使いへと堕ちることを恐れていた。

 

 ホークラックスという技術があると知ったところで、肝心要の方法についてはハリーは知るよしもない。だから実践できるはずもない、と考えるのはあまりに創造力が欠けている。

 

 ハリーは卒業したらその瞬間に戦争に参戦する。そして、ヴォルデモートと決着をつけるつもりなのだ。

 

 闇の魔法使いと戦う機会は幾らでもある。言い換えれば、闇の魔法使いの命を使って実験する機会はあるということだ。

 

 ハーマイオニーはしかし、自身の懸念ををロンにそのまま言うことは憚られた。

 

 流石のハリーでもそこまではしないだろう、と一笑に付されることをハーマイオニーは恐れた。

 

「ハリーにホークラックスの知識を渡せば、私は教授を騙したことになるわ。それは闇陣営と同じくらい卑劣な行為よ。看過できない」

 

「何度も言ってるけど、優先順位を考えろって。トレローニの預言では……」

 

 ロンは自分が聞いた預言のことをハーマイオニーに話そうとした。

 

 選ばれなかったもの、選ばれたものの選択が事態に影響を与えるとトレローニは言ったのだ。ロンにしてみれば、ハリーが知っておくべき内容を隠す意味はわからないし、そこに勝つための合理性を見出だせないのだ。

 

「そこまでだ。話が堂々巡りをしているようだ。それは議論とは呼べない。二人とも、少し落ち着きなさい」

 

 ダンブルドアは講義中に議論に夢中になって白熱した学生を止める時のように、柔らかく言った。

 

 

「……いや……殺人して魂を切り裂くだの……ものに魂を込めるだの、俺にはさっぱりわからねぇ。吐き気がするような下種の魔法だってことくらいしかわからねーけど……ようはその七つのホークラックスを壊せば、『例のあの人』は死ぬようになるってことは俺にもわかります」

 

「この情報を知ってるか、知らないかだとハリーが敵に立ち向かうにあたっての精神的なストレスがまるで違うだろ!?……いや、違いますよね?」

 

「それはそうよ。今までは、ヴォルデモートがいつ狙ってくるかという脅威に怯える日々だったわ……」

 

 ハーマイオニーもロンの言葉に一理はあると認めた。

 

「防衛術の基本は受け身。敵の攻撃に対して適切に対応し、反撃によって闇の魔法使いを捕縛することが防衛の基本理念。……でも、魔法族の戦いはあまりにも先制側が有利すぎる」

 

「勝ちの目も見えないのに守れ、守れって言ったって士気が上がるわけねーんだ。『例のあの人』に限って言うなら、監獄に閉じ込めたって脱出しかねないし……そもそも殺す手段があるのかさえ今まではわからなかった。でも……」

 

 ロンはダンブルドアを見て言う。

 

「今は違う。ですよね?」

 

「そのホークラックスさえ全部壊してしまえば……『例のあの人』はもう甦ることはない。この情報があるってことは、勝ち目がゼロだったのが1%になったってことだ」

 

 ロンの言葉をハーマイオニーも否定しない。

 

「じり貧の現状を打破する上では、ホークラックスの知識は価値がある。それはわかるわよ」

 

「それなら……」

 

「ロン。ハーマイオニーがこの情報を伝えることを問題視しているのは、何もスラグホーン教授との約束だけが理由ではないよ」

 

 ダンブルドアはさらりとハーマイオニーの本音を言い当てた。

 

「ハリーはヴォルデモートに心中を覗かれる立場である。これは私たちにとって最大の懸念事項であると言える。ハリーにホークラックスの知識を教え、それが万が一ヴォルデモートに伝わった場合のことを想定しなくてはならない」

 

「……げ……」

 

 ロンははっとした。ヴォルデモート、という単語を使わないで欲しいと抗議したかったが、ダンブルドアを相手に言えるものではない。ロンはハーマイオニー共々黙ってダンブルドアの話を聞くしかなかった。

 

「我々が不死身のからくりに気がついたと、ヴォルデモートが気付いたらどうなるだろうか。ハーマイオニーはどう思う?」

 

「私がヴォルデモートの立場なら……もしも敵にホークラックスの存在を察知されれば、まずホークラックスを回収して手元に置こうとします。どんな馬鹿であろうと自分の勝利の鍵となるものを杜撰に管理したりはしません。二度と一目に触れることがないように隠して、肌身離さず身に付けます」

 

「そう。ヴォルデモートが気付いて対応を講じてしまうとヴォルデモートの不死性を剥がすことは途端に困難となる。残念なことに、彼に単独で対抗できるのは私をおいて他にないからだ」

 

 傲慢でもなく、それはわかりきった事実であった。ロンはその話を聞きながら、ふと疑問に思って口から言葉を紡ぐ。

 

「じゃあ……何で『例のあの人』は最初っからそうしないんす……そうしないんですか?」

 

「……少なくとも神秘部の戦いからこっち、『例のあの人』はハリーの心を読んでいるとは思えないんですけど……」

 

 なるべく丁寧な言葉遣いに直して尋ねると、ダンブルドアは茶目っ気たっぷりにロンへと言葉を返した。

 

 

「トムは大胆だが繊細で、勉強は出来るものの小心な少年がそのまま大人になったような男だ」

 

(ダンブルドアが他人を罵倒しているところを始めて見たぜ……)

 

 ロンは感心してハーマイオニーに視線を送った。ハーマイオニーはダンブルドアの言葉を一言一句聞き漏らすまいとしているので、ロンはハーマイオニーを茶化すことは出来なかった。

 

 ハーマイオニーはダンブルドアがヴォルデモートではなく、トムと呼んだことに気付いていた。

 

(……ダンブルドア先生は、ヴォルデモートとリドルを同一視されているのかしら?)

 

 ハーマイオニーにはダンブルドアがヴォルデモートを哀れんでいるのか、それとも侮っているのか判断がつかなかった。

 

 

「彼はハリーのことを心の底で恐れているのだ。トム自身にその自覚はないだろうが」

 

「ハリーが恐ろしい……預言があるからですね」

 

 ハーマイオニーの推測にダンブルドアは大きく頷き、さらに一言付け足した。

 

「それもある。しかし、神秘部の一件からトムの中のハリーに対する恐怖心は確固たるものとなった。あのとき、ハリーはトムを殺すために己の命を投げ出してみせた」

 

「……」

 

 ロンもハーマイオニーも、複雑な心境のまま押し黙る。

 

 ロンはハリーに生き残って欲しいのであって、何も死んで欲しいわけではない。内心でハリーへの尽きぬ嫉妬心があろうと、友であることに変わりはないからだ。

 

 

 

「トムは自らを殺すためならば己の命すら厭わないというハリーの心根が理解できず、得体の知れない異常者であると考えている」

 

「……何て可哀想な人なの」

 

 ハーマイオニーの嘆きとも取れる発言にロンは複雑な気持ちになった。

 

(……可哀想……確かにそう、だ。そうだけど……いや……?本当に可哀想か?例のあの人に殺される人とかハリーの方が千倍可哀想だろ?)

 

 トム・リドルが自分自身の努力とは無関係に孤児となり親の愛情を受けられなかったことは同情に値するが、だからと言ってハーマイオニーと同じ気持ちにはなれなかった。

 

 つい最近何者かの毒によって死にかけ、一年前にはアーサーが死ぬところだったロンにしてみれば、秘密の部屋でリドルは同情に値しないと言ったパーシーの発言は全くもって正しかったと感じざるを得なかった。

 

 勿論、ハーマイオニーやダンブルドアがヴォルデモート……というよりは、ヴォルデモートになる前のトム・リドルに対する同情心を持つことは理解できる。

 

 罪を憎んで人を憎まず、という言葉はある。マグルの宗教で存在する考え方は、罪を犯した人間の社会復帰を促す上でも重要な意味を持っているとハーマイオニーから聞いたこともある。

 

 それでもロンはトム・リドルに同情する気にはなれなかった。

 

 ハリーに寄った。自分の母親であるモリーが、自分達のことを心配し、アーサーがいつ死んでもおかしくないことを嘆いていることも知っていたからだ。

 

「トムには己が手にしたくとも出来なかった愛を理解しようとせず、愛と共にある憎悪や憐憫や悔恨も理解できない」

 

「……いや……理解など『したくもない』と言った方が正しいだろうか。トムはハリーに干渉しようとは考えないだろう」

 

(……ダンブルドア先生も……トム・リドルのことは気にかけておられたのね)

 

 やはりダンブルドアの推測の中にはトム・リドルへの哀れみが感じられ、ハーマイオニーは複雑な気持ちになった。

 

「そこに我々の付け入る隙がある」

 

 ダンブルドアの言葉にロンは目を輝かせた。

 

「……じゃあ……ハリーに情報を伝えてもいいんですね?校長先生は……それでもハリーを信用して、問題ないと判断されたからこそ、校長先生は一時はハリーに個人指導をすると仰ったんですから」

 

「うむ。ロンの言う通り。私は現状のリスクを考えて、それでもハリーを信じたいと思った。ヴォルデモートがハリーに干渉することを恐れたこのタイミングしか伝えることができない、と言った方が正しいが」

 

「今ここで、二つ目の問題点が浮上してしまった」

 

「……何か問題があるんですか?『例のあの人』がハリーを恐れているうちに情報の共有をして、ハリーにはレジリメンスを頑張って貰うってことでいいじゃないですか」

 

「……」

 

 ロンはハーマイオニーが恐ろしいほど固く口を閉ざしていることが気になった。まるでこの先の理由を口に出したくは無いと言わんばかりだ。

 

 しかし、今更引き下がってよいはずもない。ロンは視線でダンブルドアに尋ねる。いったいなぜハリーに話したくないのかと。

 

「私は正直に言えば、現時点でハリーがホークラックスの詳細を知れば……ハリーがホークラックスに手を出しかねないと考えている」

 

「えっ……え……?」

 

 ロンはダンブルドアと、そしてハーマイオニー見比べた。交互に二人の顔を見返して、今の言葉が聞き間違いであったとわかるのを待った。

 

 しかし、十秒、二十秒と待ってもハーマイオニーはダンブルドアの言葉を訂正しない。気まずい沈黙の中でロンは少し怒って言った。

 

「い、いや……ちょっと待ってください。ハリーが何でホークラックスを使う必要があるんですか?そんなの……いや、あいつは戦うとなったら何でもやるけど、それにしたって酷すぎる言いがかりじゃないですか?」

 

 ロンは必死になって言った。

 

(そりゃ、ハリーは闇の魔術だって使うけどよ……)

 

 そもそも戦闘という行為を行うにあたり、敵の命を奪わないというのは絶対の方針ではなくて、個人個人の心構えにとどめておくべきだという意識がロンにはあった。

 

 

 なぜなら。

 

 ロンには、己の力量の不足を痛感するきっかけがあった。

 

 神秘部の戦いである。あの戦いでロンは追い込まれ、神秘部に展示されていた脳みその攻撃によって発狂したのだ。

 

 神秘部でロンは一度死んでいる。普段意識したことはないし考えたこともないが、実質『詰み』の状況にまで追い込まれたという自覚はあった。

 

 どれだけ鍛えて敵の命に配慮しようと、自分が追い込まれてしまう事態はあり得る。個人として追い込まれた瞬間瞬間に最適解を取ったとしても、詰みまで持っていかれることもある。チェスが趣味であるからこそ、ロンは認めたくはないが、己の限界というものがうっすらと見えていた。

 

 ハリーが追い込まれた状態で闇の魔術を行使したとしてそれを責めるのは間違っている。体感に基づく結論がロンにはある。

 

 そして、戦闘という状況で闇の魔術を使ったからと言ってそれ以外の状況でハリーを疑うのはどうなのだという懸念がロンの中で沸き上がる。

 

 

「今のハリーには心の整理がついてはいない。闇の魔術から遠ざかる覚悟がない」

 

(いやそりゃあダンブルドアくらい強ければそうも言えるでしょうが……)

 

 ダンブルドアは酷く澄みきった目でロンを見据えて言った。言葉の中に一点の迷いもなくそう言いきっていることがロンには恐ろしかった。

 

(……う……)

 

 ダンブルドアに見られると、別に悪いことをしたわけではないのに悪いことをしたような気になるのは何故だろうかとロンは常々思う。

 

 時折ダンブルドアが見せる親しみの中の厳しさが、ロン自身の弱さを浮き彫りにしてしまうからであろうか。

 

 

「言いがかりではないのよ。ロン。ハリーは闇の魔術を開発しているの」

 

「…………は?」

 

 ハーマイオニーから告げられた言葉はロンにとってあまりにも衝撃的だった。呆然とハーマイオニーを見るロンに、ハーマイオニーは複雑な顔で言葉を続ける。

 

「…………私たちに隠れて『例のあの人』とデスイーターにだけ効く攻撃魔法を開発していたの」

 

 

(……ま。おい、ちょっと待て……)

 

「待てよ。あり得ない。開発って。そんな時間はなかったろ!?」

 

 ロンは思わず叫んだ。叫ぶしかなかった。

 

 学業成績において、ロンはハリーには勝てていない。勝った科目こそあるがほとんどの点で負けている。これで魔法の開発にまで時間を割いていて負けたなどロンの中にあるプライドが許せなかった。

 

「去年のアイツはどんだけ忙しかったかは知ってるだろ?DAに試験に裏の集会まであったんだぜ?今年はアンブリッジが居なくなったつっても、ほぼ全部残ってるじゃねぇか」

 

「どんだけ勉強が出来るっていったって。こんな状態で魔法を作るなんか不可能だ。どう考えてもキャパオーバーだろうが……!」

 

「…………ハリーには去年まではタイムターナーが貸与されていた。そして、魔法の開発に関してはミスタ・ベオルブが協力していた」

 

 ダンブルドアはさらりと爆弾を投下した。ハーマイオニーが思わず固まる。

 

「タイムターナーによって休憩の時間を確保し、研究における問題点や課題を洗い出すことが出来るミスタ・ベオルブが居ればそうあり得ない話ではない。魔法の研究とはつまり、現状における課題点を認識しそれを改善するための手段を模索して、ひとつひとつ段を組みながら目標に向かっていく行為なのだ」

 

「…………そ、そうっすか。そうですよね……」

 

 ダンブルドアの言葉にロンは少し落ち着きを取り戻した。

 

 ハリーと並びたい、という意識がロンの中には燻り続けている。そう思っていたし、親友だと信じていたからこそ、嫉妬もする。

 

 自分の預かり知らぬところで闇の魔術を研究していたと聞いて、ロンの心に沸き上がったのは怒りだった。

 

「……でも……それを俺たちに言わなかったのって。……俺たちのことをハリーはダチだとは思ってないってことなんですかね……」

 

 拗ねたようにロンは吐き捨てた。

 

「俺は……少なくともアイツには生き残って欲しいって思ってるのに……」

 

 

 ハーマイオニーが抱いた怒りとはまた違う。親友同士であるはずなのに隠し事をされ置いていかれた怒りと、先を行かれたことに対する嫉妬がない交ぜとなってロンの心を焼いていた。

 

「…ハリーは、危険すぎる」

 

「それが悪しき手段であると理解していたとしたも、勝利のためであればハリーは躊躇なく闇の魔術に手を出してしまう。そうとわかっていながら、何の対策もせずホークラックスの知識をハリーに伝えるのは無責任であると言えるだろう」

 

「責任っていうのは誰に?何に対してですか?」

 

「勿論、私だ。自分自身に対してだよ」

 

「先行きが不透明な状態で考えもなしにただ真実を伝えることを『誠実』だとは私は思わない。曖昧で確定していない……そう、預言のような情報がどれだけの混乱をもたらすかは、君達なら解ってくれると思う」

 

 ロンは思わず頷いた。

 

「……では……ハリーにはどう話せばいいのですか?」

 

 ハーマイオニーはダンブルドアへと恐る恐る尋ねた。

 

「……ロンの言う通りハリーが知らないという状況はよくはありませんが……かといって、ホークラックスの具体的な知識をハリーに持たせるのは……」

 

「嘘はつかない。ただ、全てを明かすことはしない」

 

 

 

 ダンブルドアはロンとハーマイオニーに妥協案を示した。

 

「ホラスの名誉と身の安全のため、情報提供者がホラスであると明かす意味はない。私の友人から得た情報だと説明して欲しい。君達は、ヴォルデモートはホークラックスという魔法によって不死性を獲得するために七つの物品を用意したという情報だけを伝えてくれればそれでいい」

 

「……つまり……どういうことですか?」

 

「ホークラックスの作成方法である『殺人による魂の破損』は伏せる、ということですか?」

 

 ハーマイオニーの声に安堵の雰囲気が混じった。ロンはそれだけでいいのか、と少し安心する。が、ハーマイオニーはさらに言葉を続けた。

 

(……そうだ。ハリーも皆もそれくらいは知る権利があら。ホークラックスの方法なんて知ったっていいことねーだろうし……)

 

「スラグホーン教授は確かに安心なさると思います。」

 

(……スラグホーン教授は自分自身の名誉が穢されることを何より恐れていたわ。けれど、これでなんとか……)

 

(……ハリーも……『正しい道』を歩いてくれるはず……)

 

 ハーマイオニーはダンブルドアの示した妥協案に一定の理解を示した。

 

 

 ハーマイオニーもホラスと気持ちは同じだった。

 

 ホークラックスという闇の魔術をハリーに教えたくはない。いや、ハリーだけではなく、ダフネにも教えたくはなかった。肝心要の『魂を操り付与する技術』をハリー達は知らないだろうとはいえ、闇の魔術に魅入られた人間に不死身の魔法の知識は危うすぎる。

 

 ハーマイオニーとロンは、ザビニ、アズラエル、ダフネ、そしてハリーにはホークラックスという魔法をかつてのトム・リドルが追い求め、完全な不死身の実現のために七つもの物品を作成したと伝えた。

 

 

***

 

「…………ひとつ思うのだがね、アルバスよ」

 

「何かな、フィニアス」

 

 フォークスと

ダンブルドアを除けば生きた者が居なくなった校長室で、フィニアス・ナイジェラスの肖像画がダンブルドアに問いかける。軽い雑談をするときのような口調で。

 

「ホークラックスという『知識』がなくともあの愚かなトム・リドルがそれに到達したように。今出揃った情報からあの若者がホークラックスの作り方に到達しないとは限らないのではないかね?」

 

 

 フィニアスは、ホークラックスという魔法の存在を生前から知っていた。

 

 ブラック家に代々受け継がれる知識の中には闇の魔術に関する書物も当然存在する。純血、名家を自称しその地位を維持し続けるためには財力や名声、権力があることは大前提で、その地位を脅かされないための政治力と、他の名家に遅れを取らないための魔法に関する知識が必要になってくるのだ。

 

 他の兄弟や親戚を押し退けて当主の座についたフィニアスも、この世でもっともおぞましく罪深い魔術の一端を知り、その知識をもつ魔法使いの一人であった。もっともフィニアス本人は受け継いだ知識を鼻で笑い、実行する気はさらさらなかったのだが。

 

 ホークラックスによる不死の知識をブラック家が継承した理由。

 

 それは不死を求める欲を自制させ、反面教師とするためである。

 

 そもそもの話。

 

 ホークラックスによってもたらされる不死身と、ブラック家などの家系がよしとする『家の存続』という概念は相性が悪い。

 

 純血主義を掲げ、純血よ永遠なれと唄ってきたブラック家ではあるが、その思想の価値が時代と共に変容していく。

 

 当主本人が変わらなくとも、当主が構築した人脈はいずれは老い、先細っていくのだ。

 

 だからこそ自分の息子や親戚の息子に教育を施し、ホグワーツにおいてはスリザリンに入れて若く、新たな人脈を育てさせ、次代に引き継がせるのである。

 

 その価値をよく知っているのもブラック家なのだ。

 

 ある時期に優れた当主がおり、その体制で長く続けたとしたも。いずれは時代の変化に取り残されついていけなくなる。それは自然の摂理なのだ。

 

 それは思想的な価値観だけではない。時の移ろいと共に産まれてくる新しい技術を受け入れられず、先見の明がないために没落していくケースは歴史上あまりにも多い。

 

 だから。権力の維持を夢見て不死に手を染めた歴代当主も誰一人として本当の不死には至れなかった。

 

 そのことをダンブルドアには話さず、あくまでも一般論としてフィニアスは言った。

 

 

 フィニアス・ナイジェラスの言葉を受けてダンブルドアは目元の皺を少しだけほころばせた。

 

「フィニアスがハリーを高く買ってくれているようで私は嬉しいよ」

 

 教え子のはぐらかすような解答に、フィニアスは眉間に皺を寄せる。ダンブルドアの瞳はまるで笑っていなかったからだ。

 

 フォークスが爪をダンブルドアの肩に食い込ませた。が、ダンブルドアはフォークスに痛みを訴えはしない。

 

 とうの昔に肩の感覚などなくなっていたからだ。

 

 ダンブルドアはすぐに表情を戻すと、冷静に一言付け加えた。

 

「……ハリーには、ホークラックスを使うまで堕ちることはしない。……いや、出来ない。すくなくとも私はそう信じている」

 

 そう語るダンブルドアの傍らに寄り添えるのは、燃え盛る不死鳥のみであった。フィニアスは疑念を抱いたまま、しかし、ダンブルドアには反論せずに狸寝入りすることにした。

 

***

 

 ハリー、アズラエル、ザビニ、そしてダフネは裏の集会が終わった後でロンとハーマイオニーに呼び止められた。

 

 話を聞くためひそかに透明化の魔法を使って残っていたルナを見つけ、コリンとシュラにレイブンクロー寮まで送るよう言ってから、空き教室でハリーはロンから説明を聞いた。

 

 

「……つまり……『例のあの人』には七つ命の予備がある。けどその七つを破壊しちまえば、『例のあの人』は殺したら死ぬ普通の人間になるってことだ」

 

「マジか……」

 

 そうロンが締め括ったとき、アズラエルとザビニの顔には喜びが、ダフネの顔には畏怖の念が浮かんでいた。

 

(……ホークラックス……か。七つの物体を用意して不死身にする闇の魔術……)

 

「……そのホークラックスという魔法の詳細はわからないのかい?」

 

「説明した通りよ。解っているのは、七つの物体に何らかの魔法を使ったということだけ。具体的にどのような手順を踏むのかは解らないわ」

 

 ハーマイオニーの説明にハリーは少し違和感を持った。

 

「……本当かい?ダンブルドアらしくないな。ホークラックスの詳細が解らないのにそれを僕たちに明かすなんて……」

 

「……闇の魔術だから仕方ないわ。ハリー、ダンブルドアは偉大な魔法使いなのよ?おぞましい闇の魔術を研究しようとは思われないわ」

 

「……そうだね。僕の聞き方が悪かった。ホークラックスの詳細がわかれば、破壊するにあたって有効な魔法を用意できると思ったんだ。でも、そうそう都合よくことが運ぶわけもないよね」

 

 ハーマイオニーの当て付けのような言葉にハリーは皮肉で返した。

 

 ハリーとハーマイオニーはやはり以前のような親友にはなり得ない。ハリーとしてはまだ会話して貰えるだけでもありがたいくらいだと思わなくてはならなかった。

 

「まぁまぁ、いいじゃないですか。でも、現時点でもホークラックスについて解っていることはありますよ。」

 

 場を取り成すようアズラエルはウインクして、黒板にヴォルデモートの能力を書き出した。

 

「『例のあの人』には、他の魔法使いにはない能力があります。それは遠く離れたハリーに干渉する能力や、防衛魔法の教師にかけた呪いなどもありますが……」

 

「他になんかあったか?」

 

 ロンが首を傾げ、ザビニはひとつ案を出した。

 

「飛行魔法とかか?」

 

「それもありますね。ですけど、例のあの人に魂を肉体から分離させる能力があります」

 瞬間、ハーマイオニーとロンは目を泳がせた。

 

「賢者の石のとき、あの人はクィレルに取り憑いたそうですね。それから神秘部では……」

 

 言いにくそうにハリーへと目配せをするので、ハリーは頷いた。

 

「僕に取り憑いた。一瞬身体の自由が効かなくなったから解るよ。アイツは魂を肉体から出して、他人に干渉できる」

 

「おそらくですが……ホークラックスという魔法を使用したことで得た能力だと考えることができますね。普通の魔法使いは魂と肉体を分けることは不可能ですが、あの人はそれが出来る。きっとホークラックスによって不死身になったからですよ」

 

 アズラエルは堂々と持論を語った。

 

 ヴォルデモートが肉体と魂を分離できるという情報はもともとハリーとアズラエル、ザビニとで話し合って推測した情報である。クィレルと一体化してホグワーツに乗り込んだことからも、そう推測することは何らおかしくはない。

 

 それなのに、ロンとハーマイオニー、そしてダフネが動揺しているのがハリーには不可解だった。

 

(……妙だな。……でも、二人に心配していると声をかけるのも悪いか……)

 

 ハリーはアズラエルが持論を語っている最中、ハーマイオニーとロンが妙におとなしいことも気にかかった。

 

 しかし、ハリーは特にハーマイオニーに対しては負い目のある身である。素直に心配していると声をかけられる立場ではなかった。

 

 だからハリーは、帰り道に自分の彼女であるダフネに真っ先に声をかけ、気遣った。ダフネから帰ってきたのは、意外な言葉であった。

 

「……私……ホークラックスという単語に覚えがあるの。……昔……一度だけ……本で見たことがある……」

 

 ダフネから帰ってきたのは、意外な言葉であった。

 

 

***

 

「……本当にいいんだね、ダフネ?」

 

「構わないわ。ポンフリー校医に記憶のバックアップは取って頂いたから……」

 

 

 数日後。

 

 ハリーとダフネは二人で秘密の部屋の中にいた。

 

 ダフネのプロテゴ・ディアボリカによって焼かれた秘密の部屋は、ホエール教授の手で完璧に復元されていらる。ハリーは閉鎖された入り口をパーセルタングによってこじ開け、ダフネとともに秘密の部屋の奥に進んだ。

 

 

 サラザール・スリザリンその人の銅像が飾られた部屋にたどり着いたダフネは、深呼吸をしてハリーに言った。

 

「……お願いよ、ハリー。私の記憶は……貴方にしか見せられないわ」

 

「……任せてくれ。……『ダフネ、ホークラックスについて知っているかい?』」

 

 ハリーはダフネにキーワードを投げ掛けた。ダフネの瞳が揺れたその瞬間、ダフネの瞳を見てハリーは唱える。

 

「レジリメンス(心を写せ)」

 

 ハリーの緑色の瞳がダフネの瞳と重なった瞬間、ハリーは秘密の部屋の大理石から、明るいランプによって照らし出された書斎の中に移動していた。

 

***

 

 ダフネ・グリーングラスは十歳のとき、ホークラックスという知識を知る機会があった。しかし、その内容は途切れ途切れになっており、本人にも思い出すことはできなかった。

 

 人間の記憶とは、本にしまわれた頁のようなものだ。

 

 大まかに何かあったということを自覚していても、その頁の詳細を思い出すことは出来ない。本人が確かに体験したことであっても、本棚にしまい続けていれば時間の経過と共にその詳細は薄れていく。

 

 それは魔法族とて例外ではない。

 

 

 

 ヒーラーは、魔法族やマグルの患者の記憶を改竄することがある。あまりにも辛い体験をした患者のために、事前に同意を得て不要な記憶を修復したり、改竄したりするのだ。

 

 そして逆に、患者から記憶を引き出すこともたくさんある。病の詳細がわからなけらば誤診に繋がり、適切な処置が出来ないこともあるからだ。

 

患者本人にとっても原因がわからないようなとき、ヒーラーはこのように、レジリメンスを用いて記憶を引き出す。

 

 患者の当時の状況と関連する単語を挙げ、患者の心が掬い上げられた瞬間にレジリメンスによってその記憶を写し取る。文字にすれば簡単だが、レジリメンスはオクルメンシーによって防御されることも多い。患者と、ヒーラーとの間の信頼関係がなければ成り立たない芸当であった。

 

 

 ハリーが入ることに成功したダフネの記憶の中にいたのは、酷く取り乱した様子の中年の魔法使いであった。魔法使いらしいローブに身を包んでいたのはダフネの父親のラドン・グリーングラスで、このときの彼は、杖腕に蛇と髑髏の入れ墨を持ってはいなかった。

 

「……容態はどうなのですか?」

 

「危機は脱しました。ご息女は安定しております。……ただ……呪いの影響のせいか熱が下がりません。数日は絶対安静が必要となるでしょう」

 

 そう言った医者の袖を引っ張る子供がいた。ハリーは懐かしい気持ちになった。

 

「……アストリアは……治らないのですか?」

 

「これ!自分の部屋に入っていなさいと言ったのが解らなかったのか!ヒーラーの先生に迷惑をかけるものではない!」

 

 今のハリーより頭三つほども小さいダフネがすがるような目でヒーラーの男性を見ていた。ただ、はじめてホグワーツで見たときのような控え目な雰囲気はなく、どこか積極性を感じるものがあった。

 

「申し訳ありませんお父様。アストリアが心配でいてもたってもいられなかったのです……」

 

「……ま、まぁお待ちください当主様。わたくしは気にしてはおりませんよ。むしろ、妹ぎみ思いのダフネ様のためにも粉骨砕身しなければと思った次第でして……」

 

 ラドンに叱りつけられ、申し訳ありません、と腰を落として淑女の礼を取ったものの、このときのダフネは全くあきらめてなどいないことがハリーにはわかった。ヒーラーの男性が苦笑いしながら取り成す言葉を聞きながら、ハリーの中で心苦しさが沸き上がってきた。

 

(……何だかダフネに申し訳ないな……)

 

 同意のもととはいえ記憶を見ていることに申し訳なさを感じた瞬間。空気が歪み、ダフネの記憶が飛んだ。

 

 ローブの医者とラドンが憔悴したように何事かを話しており、ダフネは自分の部屋で、お付きのハウスエルフの魔法でそれを聞いていた。アストリアの容態は思わしくなく、更なる投薬が必要だと医師のファゼンバーグは語っていた。

 

「……もう我慢できないわ。ラメ、お父様の書斎の鍵を開けて。でないと服を渡すわよ」

 

 自分のハウスエルフを脅し、ハウスエルフの魔法で鍵を開かせてダフネはついに父親の書斎へと足を踏み入れた。

 

 ラドン・グリーングラスは娘思いの父親であったらしい。ラドンの書斎にはうずたかく医療関連の書籍が積み上げられていたが、所々に付箋が貼られていた。つい最近も読み返された跡があり、ラドンが娘のために知識を入れていることが感じられた。

 

 

(……血の呪いか……)

 

 ハリーはラドンの書斎にある書物を眺めて気が重くなった。

 

 書斎にある書物は英国から東洋の医術書がほとんどである。しかし、そのどれもが血の呪いに対してはあまりよい効果はなかったのであろう。ラドンの書物は見回すにつれて、徐々に闇の魔術に関するよう過激な書物になっていた。

 

 重度の血の呪いに対抗するために、重度のカースや闇の魔術についても知らなくてはならない。そういう義務感が、一人の魔法使いを闇に走らせたのは想像にかたくなかった。

 

 ダフネは入り口をハウスエルフのラメに見張らせ、ラドンの机の上に置いてあった書物を手に取った。

 

「……『最悪の魔術とその不死性について』?」

 

 ハリーはダフネの視界から、本の内容を読み取ろうとした。ダフネの記憶は無意識下でもしっかりと文字を認識していたようで、当時のダフネには意味は理解できなくとも言葉の内容は残っていた。

 

 ダフネがラドンが貼った付箋の頁を開くと、細かな字とわずかな解説、魔法による図説が載っていた。ハリーは必死になって字を追っていった。

 

「……ここだ!レベリオ!」

 

 ハリーはレベリオで視界を確保し、本の文字を杖に記憶させる。

 

「ホークラックスについて……?」

 

 幼いダフネの声が響いたとき、ハリーは夢中で本の頁を読み込んでいた。

 

(……死を回避するためのもっとも有効な手段として、魂の分離があげられる。通常、人間は肉体と魂が一致しており、その分離は死を意味する。言い換えれば、魂と肉体が分離してなお存在することが出来れば我々は死という運命を回避することが出来る……)

 

 ダフネが頁をめくった。

 

(……死の回避について……)

 

(……術者は殺人によって生じる魂の分離を利用し、任意の物体にこの魔法によって魂を留め置くべし。留め置いた物体とひもづいた魂がこの世に存在する限り、術者の肉体の消滅は死には至らず……)

 

 ハリーの中で最悪の予感がした。この先は見てはならないと思ったとき、ぎい、と扉が開く音がした。ダフネは驚きから、ホークラックスの記述がある頁を閉じてしまった。

 

「……何を見ている……?いったい何をしている!ダフネ!!」

 

「……あ、あの……お父様……わ、私は、その……」

 

「こんなものを見るな!お前という娘は、妹が死にかけているというのに人の書斎に入り込んで……!」

 

「……そこまでにしてあげてください!」

 

 (ヤバイ)

 

 ハリーは記憶から脱出したかった。ダフネにとっても見られたくない記憶を見たくはない。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!!私、アストリアのために、ヒーラーになりたくて……」

 

「そんなことを考える必要はない!お前は家のために、私の決めたことに従っていればそれでいいのだ!」

 

「女性が活躍する必要などないっ!」

 

「それは違う!……ああ、何で出られないんだ!」

 

(いや……待てよ。もしかしたら……)

 

 スネイプの記憶を見てしまったときと同じことが起きていた。ハリーは記憶の中にいて身動きが取れない。記憶の中にいる限り、主導権は記憶の持ち主にあるのだ。

 

 

 

「……ダフネ!!ダフネ、聞こえるかい!?」

 

 ハリーは記憶の中でダフネに呼び掛けた。

 

「……君のお父さんは闇の魔術に傾倒した訳じゃない!君を傷つけたかったわけでもない!ただただ君達のためになると思って、でもそれが君のためにならなかったんだ!」

 

「……この記憶を見てしまったことを許してくれ!僕は、君のために今すぐに戻りたい!」

 

「……大きな声を出さないでよ……」

 

 ぞっとするように低く、陰鬱な声が聞こえた。

 

「……まさかホークラックスが……お父様が……こんなことだったなんて……思い出さないほうがよかったのに……」

 

 ダフネの呻きは嘆きにも近かった。ハリーは何も言わず、ダフネの頬に手を当てて流れる涙を拭った。

 

「……今の私なら、お父様の気持ちがわかるわ」

 

「……ヒーラーが魔法を極めても、ヒーラーが新しい薬を開発しても。アストリアを救えないかもしれないって……そう考えてしまったんだわ」

 

 始まりは、苦しむ一族を呪いから解放したいという切実な願いだった。

 

 愛する者が呪いによって蝕まれていく姿を見たくはないという願いは叶わず、すがるように追い求めたのは闇の魔術だった。

 

「……君の父さんの言動は褒められたものじゃない。少なくとも、君を道具扱いしたことは許せない」

 

 ハリーはしかし、一概に否定もし切れなかった。

 

「……ただ……君の父さんは君が闇の魔術に手を染めることは望まなかった。……僕とは違って。立派だと思う」

 

 今更になって気付いた事実をどう受け止めるべきかダフネは解らなかったようだった。ただ、秘密の部屋に戻った二人は心が落ち着くまで、ホークラックスのことを確認することはなかった。

 

 再びハリーの杖に記憶した文字を一言一句漏らさず解読したとき、ハリーとダフネはホークラックスという邪悪な魔法の概要を知った。ハリーにとってもダフネにとっても幸運であったのは、ホークラックスの概要は写し取れていても、具体的に魂を付与する魔法理論は次の頁以降にあり、その内容は写し取れてはいなかったことである。

 

 

***

 

「……ハリー・ポッターとダフネ・グリーングラスがホークラックスという魔法について話していました。とても仲良く」

 

 校長室にいるダンブルドアにそう報告したのは、ホークラックス作成の犠牲者となったその人。

 

 マートル・エリザベス・ワレン。のゴーストであった。

 

「……それから……ドラコ・マルフォイはそろそろ限界です。私に泣きつくくらいには追い詰められています」

 

 さらにマートルはドラコの異変についても報告をした。

 

 ホグワーツ中の水道管に息を潜めて盗聴可能なマートルにとって、トップカーストから転落した今のドラコ不憫な観察対象である。不安定な立場に落ちたドラコへの同情はあるが、それはそれとして、契約によって交わされているホグワーツを守るというつとめを放棄することはなかった。

 

(手を差し伸べるか、追い出して牢屋にいれるかしたほうがいいのでは?)

 

 と、ゴーストの身でマートルは考える。

  

 ドラコの不審な点を、これまでもマートルは報告してきた。ほぼ確実にドラコは黒であり、必要の部屋の中でなにかよからぬことをしているのは明白だ。

 

 しかし、ダンブルドアはその報告を受けてなお動くことはなかった。それはドラコという生徒への慈悲か、それとも、甘さを捨てきれない弱さか、ゴーストであるマートルには解らなかった。

 

 




配慮も空しくハリーはホークラックスの知識を得ました。

……と言っても使えるとは限らないんだけどね!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。