この二次創作ではは防衛体制敷く時間?ねぇよんなもんだったので(原作で参戦したマクゴナガルはパニックになりかけた生徒達の収拾で手一杯、フィリウスは原作同様スネイプによる不意打ちで気絶)薬でラリっていた学生達による地獄の防衛戦になりました。
ちなみにこの二次創作においてはダンブルドアは事前にマートルから襲撃を把握していました。
「……ハリー……君は何をしていたんですか?」
「アズラエル……」
ハリーはアズラエルの視線を真っ向から受け止めた。
戦闘が終わり、オーダーの責任者であるマッドアイ・ムーディ、ホグワーツ校長ミネルバ・マクゴナガル、そしてホグワーツに常駐していたオーラーのクランク・ゼファーに対してことの説明を終えたハリーは、クランクから指示された空き教室へと戻った。
ダンブルドアの死亡を受けて、クランク・ゼファーの権限により非常事態による軍事的強権として箝口令が敷かれた。ハリー達学生組は負傷者を除いて男子、女子にわかれ、今日は空き教室で眠りにつくようにと命令を受けたのだ。
魔法省がホグワーツに対して優越的な権力を行使したのは理由があった。
ダンブルドアは魔法省からの干渉を拒んでおり、クランク達常駐の闇祓いに対しては外部の警備を任せていた。クランク達がホグワーツ城内部の警備を申し出たが、ダンブルドアつまりはホグワーツ側がこれを突っぱねたという形になる。
そのせいで対応が遅れ、ホグワーツ内部の学生と、ホグワーツ教授の手でダンブルドアが殺害されることになった。今回に限って言えばホグワーツの側に責任があるのだ。
ダンブルドアが死亡した今、ホグワーツもけして安全ではない。今すぐにヴォルデモートが大軍を率いて来る……という可能性は低いが、ハリー・ポッターがここにいる以上あり得ないとは言えない。
また、ダンブルドア死亡の報を聞いた学生達がパニックを起こせば収拾がつかない。なので、魔法省側の指示にしたがって今日は口を閉ざしてほしい。クランクは至極真面目にそう説明したあと、命令を下したのである。
ミネルバ・マクゴナガルはクランクの提案、否、強制を受け入れた。というよりは、受け入れざるを得なかった。
ホグワーツが体制に対して批判的でいられたのはアルバス・ダンブルドアあってのことである。ホグワーツは私立学校でこそあるが、生徒の親から高額な授業料を取ったりはしていない。にもかかわらず教員達に給与が支払われているのは魔法省がホグワーツに対して資金を提供しているからだ。
今回の事態はそれこそホグワーツの存続すら怪しくなる醜態であった。ホグワーツの長い歴史上でも生徒が在学中にテロリストに与してテロを起こし、教員がテロ活動に加わって校長を殺害したというのは前代未聞である。ホラス・スラグホーンが今後ホグワーツに生徒を通わせたいと思う保護者は居なくなるかもしれないと嘆いたことはけして誇張ではなかった。
マグルの基準に照らせば廃校が妥当。それが現在のホグワーツの立場なのだ。
ミネルバとしても戦闘で興奮しきった状態の生徒達を一般生徒に近づけることは好ましくなく、といって医務室は現在、片足を失ったコリン・クリービーがいる。クランクの指示に従って裏の集会を隔離することに異論はなかったのである。
ハリーの戦闘による傷はすぐに癒えたが、ダンブルドア死亡の衝撃と、責任を抱えたままであった。ハリーは自責の念を抱えたままアズラエルからの突き上げをくらうことになった。
天文台の空き教室には、ロンとコリン以外の裏の集会メンバーの男性陣が揃っていた。ハリー到着するや否やハリーに食って掛かったアズラエルにザビニは眉を潜めたが、オルガやミカエルは説明を求めていた。
負け戦の後というものは悲惨だ。
例えばクィディッチの試合で敗北した後。そうした場合、ハッフルパフを除くどの寮においても『戦犯探し』が活性化するように、敗北というものは勝利によって誤魔化される不満や葛藤を溢れさせ、人の心から自制心を失わせてしまう。
ダンブルドアの死という光陣営の完全敗北がもたらす影響は大きい。
自称『死の飛翔』ことトム・リドルに唯一単独で対抗できたのが、アルバス・ダンブルドアであったからである。神秘部の戦いを伝え聞いた者達にとっては、ダンブルドアこそ光陣営の守護者であったのだ。トム・リドルにとって、もはや恐れるものはないと言っても過言ではないのである。
ダンブルドア敗北によって最も我を失ったのは、オーダーの中ではリーマス・ルーピンである。そしてハリー達学生組の中では、ブルーム・アズラエルであった。
「……アバダケダブラでも……悪霊の火でもかまいやしません。君……マルフォイ達を殺す機会は幾らでもありましたよね?」
アズラエルの瞳にはあらゆる負の感情が込められていた。憤怒のあまりアズラエルには自制心が働いていない。
「君……あいつが……マルフォイが友達だったからって手を抜いたんじゃないでしょうね」
「……違う。……殺したかったけどしくじった。それだけだ」
(……アズラエルはそう言うだろうと……思っていたけど!!)
ハリーは何を言われても仕方ないと思っていたつもりであった。アズラエルが激怒しているの理由も痛いほどわかっている。ハリー自身、何かに当たり散らしたい気分にまみれていた。自分の無力さを認めるのは屈辱的であった。
ハリーは勝つために、生き残るために最善を尽くしてきたつもりであった。
現実は、その努力によってダンブルドアに対しての信頼を損ない、最後の最後でダンブルドアが敗北する原因となり。
挙げ句スネイプに実力負けした。
自分の存在がダンブルドアを死に追いやってしまったようなものだ。ハリーにとっては、これ以上の地獄はなかった。
ハリーは自分にはもは裏の集会のリーダーとしての威厳など何も残っていないことはわかっていた。仲間からの期待や信頼を裏切ってしまったことも、仲間に危険を強いていながらそれに報いることができなかったことも。
そう、わかっていても、親友から詰め寄られるのは堪えた。腹の底に抑えきれない黒いものが貯まっていく不快感がハリーにはあった。アズラエルはハリーの言葉に嘘を感じ取ったのか、不快な笑みでハリーを嘲った。
「へぇ?それはうまい言い訳を考えたものですね。ならどうして先程から、僕の瞳には君の表面的な悔しさしか読み取れないのでしょうね?」
アズラエルはレジリメンスを使用していた。
ハリーがオクルメンシーで隠している『真実』を見抜いたわけではない。
しかし、ハリーが隠し事をしているのは事実。この状況でアズラエルの立場では、ハリーがドラコに対して同情心や後ろめたさ、或いは友情から手を抜いたうえで、その感情を隠しているに違いないと考えるのもおかしくはなかった。
アズラエルの推測が一部分では正しく、しかし、一部分では間違っていた。
ハリーはドラコに対して懐疑的ではあった。だからアズラエルがドラコを追うと言った時はそれを認めた。
しかし一方で、ドラコに関して証拠が見当たらなかったとき、心のどこかで安心している自分がいたのである。
「オイ……それは言い過ぎだ。冷静になれよアズ……」
ザビニがアズラエルの肩に手を置くが、アズラエルは手を払い除けた。
「言い過ぎ?何がですか?……皆こそ、何故なにも言わないんですか?僕達はハリーの指示で戦いの場に立って、そして死にかけたんですよ!?」
「……」
ハリーはアズラエルの背後から、アズラエルに同調してハリーのことを観察する視線を感じていた。ミカエルだ。
否、ミカエルだけではない。オルガもハリーからの納得がいく説明を求めていた。
「……あの戦いで生き残れたのは奇跡でした!……誰が死んだっておかしくなかった!それなのに君……君は。マルフォイに同情でもしてしまったんですか?やつは敵ですよ!クラウチ・ジュニアと同じだ!」
「殺すべき時に手を抜いてデスイーターの連中を生かすってことがどういうことなのか。君は分かってるでしょう?」
「言われなくても……」
ザビニはアズラエルを、ではなく、ハリーを止めるためにハリーとアズラエルの間に割り込んだ
「だから……止めろ!仲間を責めて何のメリットがあるってんだ!」
(マジで止めろ止めてくれ冷静になれお前ら!ッあー何でこういうときに限ってロンが居ねぇんだクソが!)
(わかるだろ!?お前なら、わかるだろ!?言わなくても!!ハリー!!お前が本気でキレたら洒落にならねえって!間違っても杖向けるようなことはすんなよ!?)
ハリーはレジリメンスを使うまでもなく、ザビニの必死の形相からザビニの意図を察した。
(ぐっ……解ってる……解ってるよ……!)
アズラエルに激怒して叩き出せばミカエルやオルガ達の信頼は地に落ちる。ハリーが感情的になって逆ギレを起こし友人を追放するというのは、あのトム・リドルがした部下へのハラスメントにも近しい行為である。
だからこそ、ハリーは怒りのあまり軽率に行動することは慎まなくてはならない。
アズラエルの怒りの根本を理解して向き合うこともハリーが果たすべき責任なのだ。
「この際だからハッキリさせておいた方がいいって言ってるんですよ!」
アズラエルはついに、長い間抱いていたであろう不満をぶちまけた。
「人を殺すのが悪だってことは皆分かってます。ええ言われるまでもなく当たり前の話ですよ。でもね、倒すべき敵に慈悲をかけて『お優しい自分』を演出して。それで?その後被害を出してちゃ元も子もないんですよ!」
アズラエルは止まらない。止まれるだけの余裕などありはしない。
ダンブルドアが光陣営の実質的な切り札であったのは誰の目にも明らかだ。人道的見地を脇に置いて戦略的に状況を俯瞰すれば、ダンブルドアが生きてさえいれば他の誰が代わりに死んだとしても、光陣営のダメージは最小限で済んだのだ。
アズラエルが激怒しているのはハリーがそのダンブルドアを護りきれなかったばかりか、死の原因となった挙げ句、下手人を取り逃がしたからだ。
(……僕に言い返す資格はない。…………でも)
ハリーは少なくとも自分はその批判を重く受け止めるべきだと分かっていた。
しかしそれでも、八つ当たりしたいのは僕だって同じだと叫びたい気持ちを抑えられなかった。
憎しみを糧にして復讐のために殺しも厭わないと散々煽った挙げ句に手を汚せませんなどと宣うのは詐欺師の挙動そのものだ。その後ろめたさがあるからこそ、ハリーはアズラエルの言葉を聞いていた。そして、苛立ちが募っていく。
「そりゃあね。強い人はいいですよ。殺すか殺さないか選べて、死ぬ心配なんてしなくてもいいんですから。……そんな人には、殺されるかどうかの瀬戸際にいる弱者の気持ちなんてわかりっこないんですよ!どうせ君、自分は『選ばれし者』だから死なないとか思ってるんでしょ?」
ハリーはアズラエルのことを初めて本気で、心の底から殴りたいと思った。
「だから、敵を殺さないなんてバカなことが言えるんだ!」
「……もう一度言ってみろ、アズラエル……!」
ハリーはついに耐えられずに杖を捨ててザビニをどかし、アズラエルのシャツの襟首を掴んだ。
「ええ、何度でも言いますよ!君は手を抜いたんだ!君は殺そうと思えば殺せたのに!その後で喪われる人々の命より、自分の手が汚れることを嫌ったんだ!!この偽善者め!」
「……!!」
ハリーは一瞬、絶句した。そして痛烈な皮肉で返した。
「……だったらドラコの暗躍に気付かなかった君は何なんだよ、アズラエル?」
偽善者という批判は、不殺のスタンスで戦う光陣営においては痛烈な批判として突き刺さる。なるべく人を殺したくないという人として当然の感情は、戦場という異常事態においては途端に理想主義的なものへと変わってしまうのだ。
それ以前に、ハリーには責任がある。皆を危険に巻き込み、命を賭けろと唆した人間としての責任がある。だからこのような醜い争いの応酬はとても褒められたものではない。
ハリーは結局アズラエルに杖を向けれなかった。が、言葉のナイフは容赦なくアズラエルの心を刺したことは確かである。
「……僕がろくに言い返さないからって、好き勝手に言ってくれるじゃないか。それなら君はどうなんだ?アズラエル。君は何かやつらに有効な手を打てたって言うのか?僕は君を信じてドラコからマークを外した。けどどうだった?君はドラコが暗躍していることにも気付かなかったじゃないか」
声は荒げずに、しかしハリーは的確にアズラエルの地雷を踏んだ。
ハリーにも、そして、アズラエルにも到達できない事実がある。
アズラエルは一度、本当にドラコの暗躍に気付いたという事実。
そして、その記憶をオブリビエイトによって奪われたという事実である。
真に責められるべきマルフォイに対しての批判を向けようにも、その相手は既にホグワーツにはなく。そういった出来事があったという記憶すらアズラエルにはたどり着けない。だから今度はアズラエルがハリーの言葉に絶句して、目をそらす。
(…………たとえ親友であったとしても、永遠の友情はなく……こうも人は醜い争いを繰り広げるものか…………)
ネビルやザムザと共に口出しをせずに事態を眺めていたシュラは、親友同士の友情が壊れてゆく様を嘆きながら眺めていた。
「……ぐっ……そ……それでも殺ると決めたら殺る。それがハリーだっただろうが!ザムザだってもう人を殺したんです!何で君が!今さらひよっているんですか!」
アズラエルは自分のことは一旦脇に置いて反論するが、その語気は先程までより明らかに弱っていた。
アズラエルの……否、ハリーの闇陣営に対する攻撃的な態度は、弱気の裏返しである。
余裕がなく、希望もない状況に追い込まれたという不安。ファルカスのように自分や友や大切な存在の命が今日明日にも奪われかねないという絶望。それがもはや避けられない事態であると認識したからこそ、アズラエルは攻撃性を抑えられなくなっている。
しかし、それは自信のなさの裏返しなのだ。自分自身の失態をつつかれれば、他責思考は脆く崩れる。ハリー自身が攻撃性が高い上に、アズラエルとの付き合いは長い親友同士であるからこそ、アズラエルの弱みはよくわかっていた。
「……俺はアズラエル先輩の意見に賛成です」
我関せずという態度で事態を見守っていたオルガであるが、この時初めて口を開いた。
「……アズラエル先輩がマルフォイの暗躍に気付かなかった、とか。ダンブルドアの死亡の経緯とか。……そういう問題より、俺ら下っ端にとってはもっと差し迫った重要な問題があります。ハリー先輩が、俺たちにデスイーターを殺せる魔法を黙っていた理由がわからねぇ。……納得いく理由を説明してください」
「……納得するかどうかは俺達が決めます。アズラエル先輩が言う通り、スネイプ相手に使えなかった理由があるのか。あるならどんな理由なのか。それを説明してください」
アズラエルと、そして、ハリー。どちらにも非はあると仮定した上で、アズラエルの批判は的外れであろうか。
否である。そう思い後ろめたい気持ちがあったからこそハリーは感情を堪えきれずに激怒したのである。
少なくとも、前線に立ち自らの命を危険に晒しているという一点でアズラエルはハリー達の同士であり、その言説には重みがあった。だからこそ、ダンブルドアやハーマイオニー、ハリーを支持してきたオルガはここに来てハリーではなくアズラエルについた
ハリーは自らの判断で、仲間に戦えと命令した。その時点でハリーには仲間に対しての責任があり、全力を尽くす義務がある。
(僕だって殺せるなら殺したかった……!!でも……)
ハリーはそう思った。しかし、オルガを見る。
(……そう……そうだ。責任を果たすということは、……暴れることじゃない)
アズラエルの言葉に理があるのは事実だった。
(……くそ……!……わかったよ、アズラエル……!!)
ハリーは仲間に対しての責任を果たしていない。だからこそ、ハリーは仲間に対しては責任を果たす義務があった。ハリーはザムザを見た。ザムザは頷く。
「ハリー……話してくれ」
「サペレ・アウデを皆に教えなかったのと……屋上でスネイプ達に使えなかったのには理由がある。」
そして、ハリーはサペレ・アウデをダンブルドアが禁じたことと、ハリーがサペレ・アウデによって攻撃を受けたことを話した。モルモットによる実験の結果、サペレ・アウデはデスイーターを駆逐するための魔法であるという話を聞いたアズラエル達は青ざめ、ダンブルドアによる命令であったと聞いて、苦々しく口を閉ざした。
ダンブルドアは最後の最後までダンブルドアであった。
故人を悪く言うわけにはいかない。たとえ、どれだけその故人と考えが異なっていたとしても、ダンブルドアは偉大な指導者であり、自分達を護ってくれた人だからだ。
***
「……君は……その魔法を使えば死ぬ。……ダンブルドアは……僕たちに人殺しを望んでいない。……しかし……そうだとしても、ザムザ君は手を汚したんです。」
アズラエル語気は明らかに弱まっていた。
怒りと憎しみを原動力にしているアズラエルではあるが、公然とダンブルドアを批判することには抵抗がある。まだ生きているハリーに対して親友として、下の立場からもの申すことはできても、故人の願いを足蹴にするのは流石に憚られる。そんな葛藤が感じられた。
「ま、待ってくれ、アズラエルくん。落ち着いて聞いてくれないか」
アズラエルを宥めるように言ったのはザムザである。サペレ・アウデによって大勢のデスイーターを殺めたザムザではあるが、その声色は少し落ち着きすぎていた。
サペレ・アウデによってデスイーターを殺戮したザムザに対して、アズラエルは黙りこくっていた。アズラエル自身には大した戦果はなかった。
「俺は……敵を殺したことに関して言い訳をするつもりはない。ただ、自分の信じる正義のためにやったことなんだ。だからその事を理由に他の誰かを責めるのはやめてくれ」
「今回の戦いのことを悔やむ気はないんだ、俺は」
ザムザは見栄をはっているのもあるだろうが、気負いなくそう言った。ハーマイオニーの顔に微かに嫌悪感が見える。
「……しかし……君……」
「見たところ、本音が言えないタイプなんじゃないですか?」
「えっ」
「君は会議の場でも発言したことはないですし。……ハリーに言わされているというか……この場の雰囲気に呑まれてそう言っているんじゃないですか?」
アズラエルがザムザを心配そうに諭す姿は滑稽であった。場に漂っていた緊張感が一瞬緩みかける。が、次のザムザの一言で再び場は凍りついた。
「いや……俺は本当にそう思っている」
「……待てよオイ……」
これ以上奇人変人を増やすなよという目でザビニはザムザを、そして、ハリーを見た。
(コイツこんなやつだったの?)
という目でハリーを見てくるので、ハリーは即座に頷いた。
(うん)
ハリーが頷いた瞬間、ザビニは胃が傷んだような顔になり、真顔になった
「俺は……あの場でのサペレ・アウデは正しい行いだったと断言できる。俺は強制されてそうしたわけではないし、あの状況ではあれが最善だった」
ザムザ・ベオルブはグリフィンドールらしい騎士道精神に溢れた人間であった。平時においては輪を乱すだけの人間であったであろうが、幸か不幸かギリギリのところで生まれる時代と場所を間違えなかったというべきであろう。
「……そうか……強いね。ザムザは」
(……ザムザ……)
「…………そういう経緯だったんだな。俺も混ぜてくれよ」
ザムザの態度に目を丸くしていたアズラエルとハリーは、更に空き教室に入ってきた仲間に驚いた。
燃えるような赤毛はくたびれたようにへたり込み、表情からはどこか微かな安堵が見える。ロンは事態の一部始終を聞いていたのか、よっこらと机に尻を乗せてハリーに尋ねた。
「ジニーは念のために医務室にいるけど、何の問題もねーってさ。……それで、ハリー。……あの宝石って、一体何なんだ。どうしてジニーは生き残ったんだ?」
ハリーがザムザやダフネとの共同研究でモルモットの魂を宝石として錬金し、皆に配ったと聞いたとき、アズラエルは、腕を組みながら言った。
「……そういうことは……もっと早くに説明して欲しかったですね……だったら僕だってもう少し言葉を選びましたよ……」
「えっ……いや……」
どこか弛緩した雰囲気すら漂ってしまったことにハリーは驚いた。しかし、剣呑な雰囲気を漂わせていたオルガやミカエルでさえハリーやザムザに対しては尊敬の視線を向けた。
「……人の魂を使う予定はないのですね?」
わざわざそう念を押してくるシュラークはザビニからあるわけがねぇだろうとヘッドロックをかけられた。
たとえ邪道で褒められた手段でないとしても、人を救うため、仲間を護るために全力を尽くしていたということは、しっかりと説明すれば仲間には伝わる。しかし、何も言わなければ、窮地に立たされている仲間であっても分裂することになる。友情も、そして、信頼も無限ではないのだ。
***
ホグワーツ城内に足を踏み入れた初老のオーラーの隊長、クランク・ゼファーは即座に箝口令を強いた。ハリーは……否、ハリーだけではなくこの場に居る学生達の全てが、事態が全て取り返しがつかなくなってから現れたオーラーに対して冷ややかな視線を向けざるを得なかった。
「……この城内で起きた出来事のうち、ジニー・ウィーズリーが成し遂げた奇跡と……ザムザ・ベオルブの功績については秘匿していただこう。これは『要請』ではなく『命令』だ」
「勿論そのつもりです。しかし」
「我々が口を閉ざしたとしても、闇陣営の生き残りが既にその情報を得て拡散しているでしょう」
「それは百も承知の上。お言葉だがミネルバ、私は子供達の心身を考えて言っている」
クランクが高圧的な態度を取るには理由があった。
クランクは長い間オーラーを勤め生き残ったベテランである。ベテランとして長く働いたが、彼が生き残れたのは強かったからではない。
現実と剥離していると言ってよいほど独自の正義感を持つクランクは、そのあまりの理想主義的な行動から孤立し、ルーファスをはじめとした同僚達からの評価は高くなかった。先の魔法戦争の折も前線には立たず、専ら教官としてオーラーの候補生を育て上げる活動が主であった。
そんなクランクでさえ前線に出さざるをえないほど、魔法省の人材は枯渇している。クランクの部下であるアインはジニー・ウィーズリーのカウンセリングを終え、クランクへと報告した。
「隊長。ジニー・ウィーズリーにはいかなる魔法の影響も見られません。アバダ・ケダブラによる『死』の影響どころか、警備なジンクス、ヘックスの影すらありませんでした」
「……めでたいことだ。にわかには信じがたいことだが……」
「ロウルがアバダ・ケダブラを為損なったという可能性が高いのではありませんか?」
「不詳このビンズが愚考しまするに、アバダ・ケダブラを撃つだけの精神力が枯渇していた。ゆえに牽制として……くしゃみが出る呪いを乱射したのでは?」
「ソーフィン・ロウルに限って、それはあり得ない」
魔法省はロウルがアバダ・ケダブラに関してだけは強いことを認知していた。
闇陣営との交戦中に逃亡してしまったオーラー、クォーツの証言は重要な情報として魔法省のオーラー達の間で共有されていた。魔法省もロウルによる被害を重く受け止め、ロウルと交戦するときはロウルの視界と射線に入らず、徹底的に不意打ちを心掛けるようにとのお達しすらあったほどだ。
「……気に入らないな」
「都合よくハリーさん達を持ち上げて駆り出しておいて、都合が悪いときは子供扱いして功績をぶんどるのかよ」
「恨んで貰って構わんよ。君たちにはその権利があるし、我々は恨まれてしかるべきだ。……戦えず、すまない……」
「……俺は……自分がすべきと思った正しいことをしただけで後悔はしていません。」
「立派な行いだった」
ザムザの肩を持ったのは、オーダーであり元オーラーのマッドアイ・ムーディである。闇祓い達はムーディに厳しい視線を向けた。
「この絶望的な状況で己の勇気と信念を貫く若者が、敵の手から仲間を守った。これを喜ばずして何を喜ぶというのだ?」
「……貴方ほどの方が何を仰いますか!」
「亡くなられたジェームズ・ポッター氏やリリー・ポッター氏もさぞ嘆かれることでしょう!子供を英雄と持ち上げ前線に立たせ、あまつさえ殺人さえ犯させるとは。」
「よさないかアイン。我々にそれを言う資格はないし……もはや……手遅れだ」
クランクはアインを形だけ止めるに留めた。
クランクはクラウチ・シニアによって緊急時における闇の魔術の行使が禁じられていた、いわゆる古い世代のオーラーである。闇の魔術に対しての嫌悪感は人一倍強く、どうしようもない時まで生け捕りに拘ったアラスター・ムーディが考えを翻したことが受け入れがたかった。
(俺は長生きし過ぎた……か。こんな時代になってしまうとは……)
時代の流れにも組織の流れにもついていけない老害であることを半ば自覚しながらも、今更生き方を変えられないクランクは、ムーディに対する軽蔑を止められなかった。
一連の事態において最も責められるべきは、子供が前線に立つことをよしとする風潮であるとクランクは思わずにはいられなかった。そういった風潮を作り上げたダンブルドアや、ホグワーツ、そして、その周囲の大人達はクランクにしてみれば異常者にしか思えなかったのだ。
「……サペレ・アウデとハリー・ポッターについては報告をさせていただきます。……宜しいですね、ミスタ・ムーディ」
「構わん。ルーファスの小僧に伝えろ。現場指揮官の私が殺害を指示した……とな」
ムーディの言動に、クランクからの指導を受けてきたアインは軽蔑の念を強めた。
(……!責任は俺がとると……!!)
が、クランクは軽蔑以外の別の感情を抱いた。
アラスター・ムーディにはオーラー達の間での名声がある。組織の立ち回りが下手くそではあったが一貫して正義を貫き、人を殺すことも最小限にとどめた英雄としての名声が。
それを棄ててでも、子供達の立場を護る。そういう意志を感じ取り、クランクはムーディやマクゴナガルに対して尊敬の念を抱いた。同時に、これからの先行きを想像して暗い気持ちになった。クランクはマクゴナガルと、そしてムーディへと警告のように言った
「……サペレ・アウデについてはわからないことも多い。……作成者本人から話を聞き……もし我々も使えるとなれば……これから多くの血が流れることになるでしょう。」
「……デスイーター側のですか?」
キョトンとした顔でアインが話す。しかし、ミネルバは首を横に振った。
「いいえ。より大勢の人の血が流れることになるでしょう」
ミネルバの言葉は誇張でも何でもなく、ただの予想可能な事実であった。
頑張りとかってさ……
ちゃんとアピールしないとね……周囲はわかってくれないんだよ。