蛇寮の獅子   作:捨独楽

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ドビーはさぁ(呆れ)……


ハリー·ポッターと秘密の部屋編
蛇の子とハウスエルフ


 

 ペチュニア·ダーズリーは、自宅に帰還した甥の様子をつぶさに観察していた。

 

 ハリーがダーズリー家に戻る少し前、刑務所に入っているはずの男……シリウス·ブラックが、弁護士と共にダーズリー家を訪れた。弁護士は魔法の世界だけでなく、現実世界……ペチュニアたちの世界でも弁護士としての身分を持っていた。シリウスはバーノンに過去の経緯を説明した上で、自分は犯罪者ではなくハリーの後見人であり、今までハリーを養育してくれた恩を返すために訪れたと告げた。

 

 シリウス·ブラックは、こちらの世界でも大量殺人を犯した人間として大々的に報道された。記憶力がよく、常日頃から犯罪に関わる刑事であれば、その名前から大量殺人犯に行き着くだろう。しかし十年の歳月が流れた今となっては、シリウスの名前から事件のことを即座に連想することは難しい。バーノンは最初、シリウスがその大量殺人犯として報道された男だとは気がつかなかった。

 

 会話を続けるうちにシリウスの正体……かつて普通の人間を十人以上も殺害した犯罪者であること……が明らかになると、バーノンもペチュニアも血の気が引いた。シリウスは冤罪で、魔法の世界においては彼の無実は証明されたことも説明を受けた。しかしマグルの世界において発行された新聞などのメディアの情報や、人々の記憶全てを取り除くことはできない。

 

 万が一にもないとは思うが、勘のいいご近所様が、シリウスが大量殺人犯であると気付いたら……いや、シリウスとダーズリー家に付き合いがあることが知れたら、ダーズリー家は破滅だ。会社はバーノンの手を離れ、別人が経営することになるかもしれなかった。バーノンは破滅を恐れて恐怖した。

 

 バーノンとペチュニアは、シリウスからの無言の圧力を受けながらハリーを家に迎え入れた。愛しい息子であるダドリーには、ハリーとはなるべく関わらないよう言い聞かせた。

 

 ペチュニアがかつて足を踏み入れることを許されなかった世界へと旅立ち、戻ってきた甥は、表面上は何も変わらなく見えた。指示を与えればペチュニアの命令にも、バーノンの命令にも、そしてペチュニアにとって愛しい息子であるダドリーの命令にもハリーはノーと言わず従った。その姿は一年前までのダーズリー家での『日常』で、表面上は何も変わらなく見えた。

 

 しかし、ペチュニアは甥が自分達に向ける視線の中に、嘲りや蔑みといった負の感情が込められているのを感じ取っていた。それはバーノンも同じで、ハリーの態度が表面上は従順であるだけに、尚更ペチュニアを不安にさせた。

 

 

(あんな子ではなかったのに)

 

 かつて自分の妹が魔女となって帰ってきたとき、妹は完全に魔法の世界に毒されていた。ポケットに蛙を詰め込み、何か訳の分からない言葉を話すようになっていた。それと比べればハリーは『まとも』なのだろうか?少なくともペチュニアたちの前では、魔法使いと分かるような行動は取らない。夜中に何か音を立てていること以外は。

 

 違う。少なくともハリーは、一年前まではバーノンとペチュニアのことを親として見ていたはずだった。今のように、他人行儀な視線を向けるような子供ではなかったはずだった。甥の父であり、ペチュニアの義理の弟に当たる男も、先日顔を見せたシリウスも、あんな……あんな冷たい視線をペチュニアたちに向けることはなかった。

 

 一体魔法界の、ホグワーツで何があったのか。

 

 ペチュニアはそれが気になった。だが同時に、それをハリーに聞くことは、魔法の世界に対して理解を示すことは、ペチュニアの中の何かが許さなかった。

 

 

 ペチュニア·ダーズリーは、表面上はなにも変わりないように見えながら、何かが変わってしまった甥に恐怖していた。それはまぎれもなく、得体の知れない化け物に対して向ける視線だった。

 

***

 

 ハリーはダーズリー家での居候としての生活に耐えていた。ハリーには階段下の物置ではなく、個室が与えられたが、ペットのアスクレピオスとその餌以外の私物は没収され、階段下の物置にしまわれてしまった。鍵がかけられていて、魔法の使えないハリーでは取り出すことはできない。

 

 ホグワーツでは、ハリーは暖かい寝床と信頼できる仲間と共に眠ることができた。しかし、ハリーが住むダーズリー家では、ハリーは個室にいても腫れ物のように扱われていた。ハリーにとっての家族とはダーズリー家ではないと、ハリーは強く思った。

 

 ハリーは居候から一週間が経ったのに、友達に送った手紙が帰ってこないことが気になった。実に六人もの友達……ザビニ(ザビニは友人たちからはザビニと呼ばれたがった)、ブルーム、ファルカス、ロン、ハーマイオニー、そしてドラコと手紙のやり取りをするのは借りたふくろうにとっても大変なのだろうと思い込むことにしたが、ダーズリー家での居候が二週間経っても、ハリーにはなんの返事もなかった。

 

(皆、僕のことを友達だって言ったのに……)

 

 ハリーのなかで友達に対する怒りが沸き上がってきて、ハリーはそんな自分が嫌になり無心で庭の雑草をむしった。前学期にあれだけの冒険を共にして、毎日のように一緒にいた友達を疑うなんて、自分はなんて心が狭い人間なのだろうと。そんなときは、飼っている蛇に愚痴を吐き出した。

 

『僕の友達は君だけかもね、アスク』

 

『……そんなことはねえ。ファルカスとか言う奴は俺にネズミをくれたぞ』

 

 ハリーは夜な夜なアスクレピオスに愚痴を吐き出した。賢き蛇は最近、ハリーにとって友達というものが、つがいよりも大事なものだと理解し始めていた。ハリーはこの蛇が愛おしく、できる限りの愛情を注いでケースを常に綺麗な状態で保った。

 

 

 ハリーは保護者のシリウスにも手紙を出していた。三日経ってもシリウスからの返答がなかったとき、ハリーはさすがにおかしいと思い始めた。シリウスはこれまで、少なくとも二日後にはハリーに返事をくれたからだ。

 

 何かあったのではないかと思った。ハリーはダイアゴン横丁に行きたかった。あそこに行けば魔法使いのためのふくろう小屋がある。ロンの家族にも会えるかもしれない。だが子供のハリーの足では、あの場所まで行くことはできない。バーノンがハリーを魔法界に関わらせることはないし、ハリーはペチュニアから家事……掃除や料理、庭の手入れなどの面倒な労働の一切を押し付けられていた。

 

 それだけならまだしも、ダドリーに自分が一番気にしていること……友達からの連絡がないことを揶揄されるのはハリーの心を傷つけた。ダドリーは下等なマグルで、魔法について何も知らないバカなのだと内心で見下すことで、ハリーは魔法を使わないように耐えることができた。そうでなければ、魔法を使うふりをしてダドリーを脅していたかもしれない。

 

(そうだ。僕はホグワーツで何を学んだんだ?)

 

 ハリーはふと思い立った。自分はどうしてここにこだわっているのだろうか、と。バカ正直に家事をこなすだけなんて時間の無駄ではないか。

 魔法を理解しないマグルに、魔法の素晴らしさを教えてあげればいい。しつこい油汚れを一瞬で取るスポンジや、ピカピカに車をコーティングしてくれるようなグッズが魔法の世界にはあった。それを渡す代わりに、階段下の物置にある教科書を解放して貰わなければならない。家事手伝いにかける時間で、忘れかけている魔法の記憶を取り戻さなければならないとハリーは思った。

 

 ハリーには野望がある。今世紀で最も偉大な魔法使いであるダンブルドアを越えるような発明をして、今世紀で最も偉大な闇の魔法使い、闇の帝王ヴォルドモートを倒すという野望が。その野望のためにも、時間の無駄を続けるわけにはいかなかった。記憶の中の魔法を忘れないように書き取りをしたり、理論の暗唱をするにも限度があるのだ。

 

 

(交渉の材料を手に入れるためにダイアゴン横丁に行けばいい。そこでふくろう小屋に問い合わせよう。そうすれば、どうして連絡が取れないのか分かるはずだ)

 

 横丁のふくろう小屋に問い合わせれば、ハリーが借りたふくろうがどうなっているのか分かるだろう。横丁への行き方は聞いている。ハリーは手早く家事を済ませると、バーノンに提案した。

 

「あのう、バーノンおじさん。僕はダドリーに誕生日プレゼントを買いたいんですけど……お金は魔法の世界の銀行にしかないんです。お金をおろしたいので、連れていってくれませんか?」

 

「……小僧。一体何を企んでいる?」

 

 バーノンはハリーを訝しげに見た。ハリーは愛想良く笑うことを心がけた。

 

「あのふざけた学校で一体何を学んだ?大人を騙そうとするようになるとは。私やペチュニアが、お前がふざけたものに関わることを許すと思うか?お前が何か企んでいることに気がつかないと思うのか?」

 

(糞マグルめ。僕がその気になれば、ダドリーを一日中苦しめることだってできるんだぞ)

 

「僕はただ、ダドリーにプレゼントをしたいだけなんです。その……この間ダドリーと喧嘩をしてしまったから、仲直りしたいんです」

 

「掃除も洗濯も、今まで通りにちゃんとします。ですからどうかお願いします……」

 

 ハリーは頭を下げてお願いした。そんな態度と言葉とは裏腹に、内心でバーノンを罵った。そんなハリーに助け船を出したのは、意外にもペチュニアだった。

 

「バーノン、ブラックが何か言ってくるかもしれないわ。この子の提案をあまり無視するのは……」

 

「む……」

 

 結局バーノンは、シリウスへの恐怖からハリーを横丁に連れていくことを決めた。バーノンとダドリーは横丁には入らず、ペチュニアが横丁についていくことになった。ハリーはこのやり取りの中に愛情を感じ取ることはできなかった。魔法という力を持つ人間と、そうではない人間は分かりあえないんだという気持ちがますます強くなった。

 

 

***

 

 プリベット通りを離れてダイアゴン横丁への入り口までは、バーノンの車で向かう。バーノンはあまり整備されていない道路に悪戦苦闘しながら、目的地まで車を走らせた。

 

 

「ええい、一体どうなっている?!」

 

 だが、おかしなことが起きた。バーノンの車で、ハリーたちは魔法界への入り口まで向かっているはずだ。それなのに、一度通過したはずの道路に気がつけば戻っている。目的地まであと少しというところで、巻き戻ったかのように道路に戻されるのだ。ハリーは何らかの魔法が働いているんだと気がついた。

 

「……バーノンおじさん。車から降ろしてください」

 

 ハリーはそう懇願した。

 

「僕一人で行ってきますから」

 

 

「子供は黙っていろ!」

 

 だが、バーノンはそれを許さなかった。バーノンは車で目的地の近くまで行くことを強く主張した。頑迷なマグルは、自分が明らかに魔法の被害に遭っていても、それを認めようとはしなかった。ペチュニアとダドリーはハリー一人に行かせたがっていたが、バーノンを恐れて何も言わなかった。

 

 ハリーがバーノンに苛立って窓の外を見たとき、ハリーは不思議な生き物を見た。ボロボロの、服とは言えないような薄汚れた布切れを見にまとった小人だった。ハリーがもしも映画を見れる環境にいたなら、その怪物からETを連想しただろう。周囲に人影はなく、その小人は何か手をかざして、バーノンの車に魔法をかけていた。ハリーはクィレル教授が手だけで魔法を使っていたことを思い出した。

 

「パパァ!!」

 

 ハリーにつられて窓の外を見たダドリーが叫んだ。

 

「宇宙人がいる!窓の外に宇宙人がいるよ!!車を止めてよ!」

 

「ダドリーちゃん、近寄っちゃダメよ!!」

 

 ダドリーはハリーと違って、映画を見れる環境にいた。ハリーは内心でそんなダドリーをバカにした。

 

(どう見てもあれは魔法界の生き物じゃないか)

 

 ハリーは昨年、下手をすると人間よりも気高い魔法界の生き物に会っていた。

 

(ケンタウロスのフィレンツェのように、話し合いが通じる相手ならいいんだけど……)

 

 ハリーは内心で不安がり、杖を持っていない自分がひどく頼りなく見えた。車を停車したバーノンは、その小人を一目見るなり小人を恐れて車の中から出なかった。

 

「話を聞いてみます」

 

「待て小僧、勝手な行動は―!!」

 

 

 ハリーはバーノンの怒号を無視して車から降りて、その謎の生き物に話しかけた。

 

「こんにちは。あのう……あなたは誰ですか?」

 

 果たして目の前の生き物に言葉が通じるのか、ハリーは不安だった。魔法生物はヒトの英語だけではなく、その生物独自の言語を持っているものも多い。蛇は蛇語、トロルはトロル語を。言葉が通じなければ、ハリーは目の前の生き物と交渉することはできない。

 

「ハ……ハリー・ポッター!!私は卑しいハウスエルフの、ドビーと申します!!お会いできて光栄です」

 

 その生き物は、ハリーが言葉をかけると感激してむせび泣いた。ハリーはひたすら困惑した。一年前、はじめて魔法界に足を踏み入れた時もここまで感激されたことはなかった。

 

「あのう……立ち話も何ですから……まずは座って話をしませんか?」

 

「座ってなんて!!め、滅相もない!!ドビーはそんな言葉を……これまで一度も魔法使いの方から頂いたことはありません……!!」

 

 ハリーはなるべくドビーを刺激しないように丁寧に、そこらにあるベンチに座って話さないかと提案した。ドビーはそんなハリーに対して過剰に感激してしまった。

 

(な、何なんだこの子……?)

 

「きみはあまり礼儀正しい魔法使いに出合わなかったんだね……」

 

 ハリーは困惑しつつも、少しだけドビーに対して同情心が沸いた。ドビーの衣服はもしかしたらそういう種族で、そういう文化なのかもしれないが、少なくともドビーは自分を虐げる魔法使いを嫌がる心を持っていた。

 

「僕もそうなんだ。あんまりいいマグルとは会わなかったんだよ。君の気持ちは良く分かるよ。だから落ち着いて、事情を話してくれない?君の愚痴を聞くくらいはしてあげられるよ」

 

 ハリーは何となくだが、ドビーの事情を察し始めていた。ハウスの妖精。つまりドビーは、家に住み着く魔法生物なのだ。恐らくは魔法使いの。ドビーは魔法使いの家で良くない扱いを受けているのだろう。

 

 だが、それでどうしてダーズリー家に魔法をかけるのか、ハリーには分からなかった。

 

 ドビーはハリーの言葉にうなずいた。そして突然立ち上がると、アスファルトに頭をぶつけ始めた。

 

「ドビーは悪い子!!ドビーは悪い子!!」

 

 ハリーは驚いてドビーを止めた。ドビーの額からは血が流れている。今のハリーにはハンカチも杖もないので、服の袖でドビーの血を拭ってあげた。

 

 ドビーはまたもや感激して、ハリーに自分が魔法使いの名家に仕えていることを明かした。しかし困ったことに、ドビーは主人に黙って独断で、ハリーを助けようとしているのだという。

 

 

「ハリー·ポッターはホグワーツに戻ってはいけません!」

 

 ドビーは善意からハリーを助けようとしていた。ドビーはホグワーツに危機が迫っていて、その危機はヴォルデモートとも違うことを話してくれた。それはとても貴重な情報だったが、続く言葉はハリーを怒らせた。

 

「君がみんなの手紙を止めていたの?返して!みんなを返してくれ!!」

 

 ドビーは、ハリーの友達六人全員の手紙を持っていた。それなりに雑なザビニの字、丁寧なドラコやハーマイオニーの字、やたら読みにくいファルカスの字、可もなく不可もないロンやアズラエルの字。ドラコを除いて、全員の筆跡をハリーは知っていた。

 

 

 

 ドビーは手紙を返さなかった。それどころか。ドビーはベンチを浮遊させて、浮かし、粉々にしてしまった。ハリーは驚いて飛び退いたが、気がついた時にはドビーは姿を消していた。

 

「戻って……戻ってきてくれ、ドビー!!」

 

 ハリーは叫んだ。

 

「僕のためを思うなら、僕から友達を奪わないで!!」

 

 ハリーは魔法の世界に戻る道を閉ざされた。その日バーノンは何も言わずに急いで車を家に戻したあと、杖と魔法の教科書を階段下の物置に移動させたあと、蛇と一緒にハリーを階段下の物置に閉じ込めた。ハリーには夏休み中に魔法を使ったとして魔法省から警告文が届いた。次同じことがあれば、ハリーは杖を奪われてホグワーツを退学になるだろう。

 

 




親って子供の何気ない仕草から何を考えてるか何となく察するものですよね。
まあダーズリーは分かった上で虐待するんだけどな。
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