今週は平和です。
ハリーは目も眩むような光輝くパーティー会場の中にいた。
ハリーは魔法使いのパーティーだというので、てっきりホグワーツの大広間のような、歴史のある魔術的な建物に集まって、ローブを着た魔法使いたちでパーティーをするのかと思っていた。ところが実際のパーティー会場は、マグルの車が止めてある大きく、新しいドームだった。認識阻害の魔法でドームをマグルのイベントとして貸し切ってしまったというのだから驚きだった。アズラエルの一族が持っている経済力がマグルの世界にも及んでいるからできることであり、他の一族に対してそれをアピールするために見栄を張ったのだとアズラエルは言っていた。
ハリーは自分の希望で選んだスリザリン風の緑色のネクタイと、黒いスーツを着ていた。スーツ姿の自分がひどく不格好に見えた。はっきり言って似合っていないにも程がある。
(よし……大人しく壁のしみになろう!)
そんな後ろ向きな決意を新たにしたとき、ハリーは会場に見知った顔を見かけて声をかけた。
「ファルカス!おはようファルカス!」
ハリーの友人であるファルカス·サダルファスは、ブロンドで短髪、かつハリーと同じくらい小柄なスリザリン生だった。彼も灰色のスーツと緑色のネクタイをしている。スーツは着慣れていないのがよくわかり、会場の中で見知った相手を探そうとキョロキョロと周囲を見回していた。
「ハリー、久しぶりだね。僕、自分がこんなところに来てるのが今でも信じられなくて……」
「僕もだよ。魔法使いのパーティーだって言うからローブを着て来るのかと思ったら、スーツなんだもんね」
ハリーはファルカスと一緒に会場の隅から、会場にいる人々を眺めた。アズラエルの一族が経営する会社のなかには、スポーツ用の箒のメーカーもある。今日はそのお披露目のために、大勢の大人たちとその子供たちが会場に集まっていた。広い会場の中で知らない大人が沢山いたが、マグルの社会でも通用するようなスーツを着ているのが不思議だった。ダイアゴン横丁にいた魔法使いは、皆がローブを身に纏っていたからだ。
「僕のスーツはアズラエルに見繕ってもらったんだ。似合ってるかな?君から見て変じゃないかな、ハリー?」
「似合ってるよ。僕に比べたらだけどね」
ハリーはあまり慰めにならない事実を言った。会場にいる人たちのほとんどは明らかに場馴れしていた。それは子供たちも例外ではなく、ハリーやファルカスのような初心者にとっては少し居心地が悪かった。
ハリーは大人たちではなく、ハリーと年が近そうな子供たちを探した。その中にザビニやアズラエルやドラコがいるのではないかと思ったからだ。グリフィンドール生で、シーカーとしてグリフィンドールを優勝に導いたコーマック·マクラーゲンの姿もあった。
「……あそこにいるの、ハッフルパフの人だよね?」
そんなとき、ファルカスがハリーの肩を叩いて言った。
「……誰?」
「バナナージ·ビスト先輩。うちの寮の先輩のリカルド·マーセナスを決闘でぶちのめした人だよ」
ハリーは昨年の終わりごろ、スリザリンの上級生が医務室に担ぎ込まれた事件を思い出した。ハリーの所属するスリザリンは高貴な純血が所属する寮という売り文句だが、寮監督の過剰な贔屓もあり、他の寮生に対して失礼な態度をとる不良も多い。マーセナスはそんな不良の一人で、ビストを侮辱した挙げ句決闘を挑んで返り討ちにあったのだ。
バナナージは黒髪に茶色い瞳をした、今年五年生になる学生だった。どうやらアズラエルの会社の交遊関係は広く、寮を問わずお金持ちの家は数多く招待されているらしかった。
この会場には名家とされる人間が数多く招待されていた。ハリーは他にもグリフィンドールの金髪の女子監督生アグリアス·ベオルブやスリザリンのプラチナブロンドの男子監督生ガーフィール·ガフガリオン等を見つけ、ようやく黒人の美男子が女子と一緒にいるところを発見した。
「久しぶりだねザビニ。相変わらずモテモテそうで安心したよ。トレイシーも、相変わらず元気そうだね」
「ザビニはいつか天罰を受ければいいと思うよ。久しぶり」
「オメーら今までどこに居たんだよ?会場を探してもダサい眼鏡がなくて、また何か変なもんに巻き込まれたんじゃねえかって思ったんだぞ?」
ザビニはファルカスの僻み混じりの冗談を笑って受け流した。ザビニと一緒にいたのは、スリザリン生の女子、トレイシー·デイビスだ。彼女はハリーたちと同い年である。栗色の髪の毛を団子状にセットして、肩の空いたドレスでお洒落をしていた。
(確かデイビスさんって、非常におしゃべりでやかましい女の子だったっけ)
「僕とファルカスは大人しく壁のしみになってたよ」
「そいつは壁の方が御愁傷様だぜ。……トレイシー、後で踊ってやるからちょっと席を外してくれ」
「あら、私が居るとお話の邪魔なの?ザビニったらレディに対して失礼ね!」
「勘弁してくれよ。俺の口は一つしかないんだ。トレイシーと話さずにこいつらとばかり話すのはお前に悪いだろ?」
そう言うとザビニはトレイシーを女子たちの輪に戻して、ハリーとファルカスに向き直った。
「お前ら、折角こういうところに来たんならもっと話せよな。滅多にないイベントなんだし楽しまないと損だぞ?」
ザビニは明らかにファルカスやハリーより場馴れしていて、ジュースで喉を潤した後は中央付近のテーブルを指差した。
「折角お前のシリウスさんが、面倒な奴らの相手をしてくれてるんだからよ」
シリウスは、パーティーに来てから怒涛の歓迎を受けた。よく見るとシリウスを歓迎している人間のなかには、ハリーの同級生であるブルーム·アズラエルの姿もあった。
「シリウスは人気者だからね」
ハリーはそう言った。シリウス本人はこういう集まりは苦手なんだ、とハリーに言っていたが、ハリーにはとてもそうは見えなかった。色々な大人たちと親しげに会話をして、場を盛り上げているように見えたからだ。
「ハリーはそこら辺はぼうっとしてるよね。シリウスさんは間違いなく純血の一族の最後の生き残りだよ?どの家も、シリウスさんと結婚して影響力を持ちたいって必死になってるのに」
「……そうかな?」
確かによく見れば、シリウスに挨拶する大人たちの中には女性も多かった。皆ドレスを着込み、化粧をして見映えのいい格好をしていたが、シリウスは時に笑い、時に驚いたような顔をしながら彼女たちを満足させているように見えた。ハリーはシリウスが誰かと結婚するのだろうかとふと思い、近づいて耳をそばだてた。
「こちらの娘はビスト家の遠縁であるマリーダ·ジンネマンと言います。決闘クラブの元チャンピオンで今は法執行部に所属しているのですよ。歴戦の魔法使いであるシリウス氏には是非、彼女に決闘術を一手ご教授を頂きたい」
「それは素晴らしい。私はあくまで本職の闇祓いの指導を受けたとはいえ、持っている技術の大半は我流にすぎません。貴方のような素晴らしい魔女と知り合えて光栄ですよ、マリーダ」
「ええ、私もです、シリウス」
(……なんだかそういう雰囲気じゃなさそうだな)
ハリーは取り越し苦労だと思い直した。大人の世界にはここから色々とあるのかもしれないが、少なくともファルカスが言うようにすぐに結婚がどうのという話になるとは思えなかった。ハリーは中央のテーブルに近づくと、ほっと一息をついてローストビーフを頬張っているアズラエルの肩を叩いた。
「ブァリー(ハリー)!!」
アズラエルはビックリしてローストビーフを一気に飲みこんでしまったようで、少し涙目になっていた。
「あ~もう、驚かせないでくださいよ、まったく……」
「ごめんごめん。大分疲れてそうだね?」
「さっきまでずーっとマルフォイの愚痴に付き合わされてたんですよ」
アズラエルはうんざりしたように言った。
「やれチキンの味が薄いだのサラダが新鮮じゃないだのと……ハウスエルフが料理するのにも時間がかかるし、新しい味付けをするのにも手間がかかるってことを分かってないんですよ。マルフォイ家を怒らせるわけにはいきませんから、僕がうちのハウスエルフのユーリックに頼んで全力で対応させましたけどね……」
(やっぱりドビーじゃないよね。そうだよね)
ハリーはそれはそうだろうと思った。そもそもアズラエルやドラコにもハリーは手紙で事情を説明していて、アズラエルとは電話でやり取りすらしていた。
「何にせよ、君とシリウスさんが来てくれて良かったですよ、ホントに。君やシリウスさんを招くことができたってことで、うちのパパも大喜びでした」
何せシリウスさん目当てで人が集まってくれましたから、とアズラエルは言った。
「大袈裟だね。まぁ喜んでくれたのは嬉しいけど」
「そもそも、君やシリウスさんはこういう集まりははじめてでしょう?君は事情があったにしても、シリウスさんは名家でありながらこういうイベントは毛嫌いしてるって有名だったらしいんです。それでも参加してくれたってことで、うちの株価は少し上がりますよ。パパの言葉ですけど」
アズラエルはハリーたち四人のなかでは大人びていた。彼は大きな経済力を持つ資本家一族の次男で、グループを支えたいという夢があった。ハリーはいまいち実感がなかったが、その助けになれたのなら良かったと思った。
「っていうかブルームよぉ!マルフォイを誘うんならウィーズリーとグレンジャーは誘うなよ!?ぜってえ酷いことになるのが目に見えてんだろ!」
「……うん。まぁ確かに、もしロンとハーマイオニーが来ていたら酷いことになっていたね」
ザビニは大喜びするアズラエルに突っ込みを入れ、アズラエルを現実に引き戻した。
「いや、マルフォイを誘ったのは兄さんとパパのほうですから……僕は彼が来るなんて知らなかったんですよ。……でも。もしも二人が来ていたとしても、最低限の常識があればこういう場所で相手の顔を潰すような真似はしないでしょ?」
「アズラエルは頭はいいんだけど……人間はもっとバカだってことを知るべきだね」
ハリーははじめてアズラエルの欠点を見つけた。アズラエルは社交的で常識人で、良識もある。スリザリン的な考え方と一般常識を照らし合わせて、時と場合を選ぶことができる。しかし、多くの人にとってはそれはそう簡単にできることではないのだ。
「いやぁいくらドラコでも……」
「そのドラコに今さんざんいびられてたんだよね、ブルームは」
ファルカスの指摘に、アズラエルは黙るしかなかった。彼は苦笑して、
「まぁいいでしょう」
と言った。
「後は、皆でダンスして新製品をお披露目するだけです。ちゃんと踊る準備はできてますか?」
「踊ってくれる相手を探してくるよ」
「待ってハリー。僕も行くよ」
ハリーはファルカスと一緒に、ダンスのパートナーを探しに行った。
***
ハリーたちがパートナーを探して悪戦苦闘している中、会場の中央に、二人の大人が冷たい目で向かい合っていた。周囲の大人たちは、緊張感を持ちながらそれを見守っていた。アルベルト·ビストのように保身に長けた大人は、そそくさと中央から距離を取っていた。
「君が名家の当主としての立場を自覚してくれたのは、本当に嬉しいことだ、シリウス。こうして互いに平和な戦後を迎えられたこと、心から嬉しく思うよ」
口調は気だるげに、言葉だけなら友好的に、そして目は全く笑わずに、ルシウス·マルフォイは形だけの握手を求めた。シリウスは嫌悪感を必死になって抑え、己の手を差し出して握手に応じた。
「互いに命があったことは幸いだったと思う。子供たちの為にもな」
だが、とシリウスは付け加えた。
「私は自分の家を名家だと思ったことはない。今日ここに来たのは、あくまでも息子の保護者としてだ」
シリウスは挑発とも取れる発言でルシウスを牽制した。シリウスはこの会話の中でも、ハリーの位置を把握してハリーが無事であることを確認していた。ハリーのスーツにはあらゆる防御魔法を施していたし、それはシリウスのスーツも同様だ。仮にルシウスが何らかの誓約魔法をシリウスに仕込もうとしても、無駄になるよう守りを固めているし、今この瞬間も警戒を緩める気はなかった。
「なるほど、なるほど。友の忘れ形見を守ろうとするその心、本当に健気なものだ……」
実際のところ、ルシウスはこの場でハリーやシリウスをどうこうする気はなかった。単に彼は、その目でハリーを観察し、闇の帝王が復活しない間、闇の勢力を纏める旗印になるかどうか見極めに来ただけだった。
(今はまだ表の顔を演じてやろう。この顔を演じるようになって長い……刑務所暮らしの長い親戚をいびるのも悪くはない)
ルシウスは内心でそんなことを考えながら、シリウスを挑発するように教育談義を始めた。
「君がそれほど高潔であるだけに、私は誠に残念でならないよシリウス。君がグリフィンドールの勇気とやらに絆され、間違った道を進んだことがね」
シリウスはハリーの身に危害がないことを確認すると、ルシウスとの談笑に応じた。
「ほう。ルシウスはグリフィンドール的な価値観に疑問がある、と?」
「私はホグワーツの理事をしている身でね。常々ホグワーツの教育方針に疑問を感じていた。
中でもグリフィンドールは……勇気の名のもとに、友を裏切るような教育をしているらしい。私は君がグリフィンドール的な価値観から抜け出せていないことが残念でならないのだよ」
「なるほど、一理ある」
「……ほう?」
シリウスがルシウスの言葉を一部分だけとはいえ肯定したことで、ルシウスははじめて驚いた顔を見せた。
「我々グリフィンドール生の徳目は勇気、そして騎士道精神だ。我々は時として、勇敢であろうとするあまりに臆病さを嫌悪し、それに理解を示さないことはあった」
「子供の成長を阻害する要素だとはおもわないかね、シリウス?」
「……だが、その勇敢さは、時として未知に対する好奇心や冒険心に通じるものもある。大人の保護のある環境で、失敗しても次があるという環境でしか許されない挑戦もあるものだ。そういうものが許される環境こそ、子供には必要だと思うがな」
シリウスの返しに、ルシウスは意味深に頷いた。今度はシリウスが驚く番だった。
「確かに、君の言わんとすることはわかる。適切な管理下で、安全が担保されている環境で。そう。そうでなければ。子供の勇気など大人は許すべきではないのだ」
ルシウスの目を見ながら、シリウスはルシウスの内面を読み取ろうとした。しかしルシウスの閉心術は、その内面を明かすことはなかった。
ルシウスとシリウスの教育論争の是非に関しては読者の皆様のご想像にお任せします。