設定を読み込んでいなかった作者のミスです申し訳ございませんでした。
ハリーはなるべく同年代で踊ってくれそうな相手を探していた。パーティー会場にはホグワーツ生らしき少年少女がちらほらといたが、皆もう自分の相手を見つけていたようだった。ハリーはガフガリオンがアグリアスと、ドラコがパンジーと、ザビニがトレイシーと組もうとしているところを見た。
意を決して声をかけた相手をザカリアス·スミスに奪われ、このままではファルカスと踊るしかなくなるかとおもわれたとき、ハリーに救いの手が与えられた。
「お困りのようね、ポッター」
そんなハリーに声がかかった。振り返ると、自信ありげな表情をした黒髪の女子が、少しだけ背が高い青い髪の毛の女子と共にハリーとファルカスを見ている。
「うん。物凄く困ってた。……ええと。君はダフネ·グリーングラスで合ってるかな?」
ハリーは確信が持てなかった。スリザリン寮でのダフネはどちらかというと控えめで、地味で、目立たない黒髪の女の子という印象だった。今日の彼女は、スリザリンらしい緑色のドレスを身に纏い、長い黒髪を艶やかにたなびかせていた。金色のドレスを身につけたパンジー·パーキンソンほど派手な装飾こそないが、お洒落な装いといえるだろう。
「一年間毎朝見ていた顔を忘れるなんて、その眼鏡は飾りなのかしら」
(特に親しくはなかった気がするんだけど……)
ハリーがダフネとまともな会話をしたのは数回くらいしかない。同じスリザリン生でも女子と男子ということで距離感はあったし、何より彼女がこんなに強気なのははじめてだった。パンジーの前では猫を被っていたのだろうか。
「あの、そちらのかたはホグワーツでは会いませんでしたよね?はじめまして。僕と踊ってくれませんか?ぼ、僕はファルカス·サダルファスといって、ポッターの友人なんです。ホグワーツではスリザリンに所属しています」
「ええ、お察しの通り私はボーバトンのメリアドール·フォルズです。ダフネとは親しくしています。ダンスの相手がいなくて困っていたの」
ハリーはその時、フォルズが意味深にダフネに視線を送ったような気がした。気にしないことにした。女子の間でどんな協定があったのかは知らないが、変に詮索すべきではないこともある。
ハリーが何となく察したように、この流れは仕組まれていた。ダフネは家の両親から、ハリーと親しくなっておくようにとせっつかれていた。
『我がグリーングラス家は、とにかく純血一族の中でも扱いが悪い。繋がりを広く持っておくことにこしたことはない……』
そう父のお墨付きを得たことで、ダフネは晴れてスリザリン生らしさを発揮することができた。パンジーをおだてあげてドラコのパートナーとなるように誘導し、前々からザビニの顔面に惚れ込んでいたトレイシーを『応援』した。今ごろミリセントはアズラエルと楽しい一時を満喫していることだろう。邪魔物は居なくなったと、ダフネは勝利を確信していた。
ダフネにとって誤算だったのは、いつまで経ってもハリーが自分を見つけなかったことだった。普段より大人びて見えるように化粧まで施されたことで、ハリーは最初ダフネをダフネだと認識できず、明後日の人間に声をかけていたのだから。
「じゃあ僕達も踊ろうか。……ええと、僕は相当気が利かないパートナーだから君がリードしてほしいな」
ハリーはプライドをかなぐり捨てて言ったが、ダフネは不満げだった。ハリーは女の子の心というものを全く理解していなかった。
「私はどんなテンポでもついていけるわよ。あなたからリードしないってことがどういうことか、後悔することになるわ」
ハリーはダフネと二人で、魔法界の曲調がめちゃくちゃな音楽に合わせて何曲か、マグルの優雅なクラシックに合わせて一曲踊った。マグルの曲は初心者でも踊りやすいように、スローテンポで回るような動きが多かった。
一方、魔法界の曲はなかなかに難易度が高いものだった。ダフネにとっては見知った曲や、流行のものらしく鼻唄まで歌えるような曲でもハリーにはその知識はない。シリウスにダンスの手ほどきを受けていなければ、ハリーはダフネの足を踏んでいたか、最悪転倒していただろう。ハリーはシリウスに心の底から感謝した。
「ダフネは凄いね。君がここまで運動神経がいいとは思わなかったよ。クィディッチはやらないの?」
ダンスの後、ハリーは笑顔でダフネに言った。ダフネはハリーの言葉に満更でもない様子だったが、クィディッチについては真っ向から否定した。
「ハリー、クィディッチは男子がするものよ。私たちレディが棍棒を振り回したり、ボールを追うなんて優雅さに欠けるわ」
「折角運動神経が良いのに勿体ないね」
スリザリン、ひいては純血主義の一族は、うっすらと男尊女卑的な傾向を残していた。グリーングラス家ではそうでもないが、一族に産まれたとしても女性は家系図に名前が残らなかったり、結婚したら名前が削除される家は少なくない。その風潮のせいか、スリザリンクィディッチチームでは女子は一人もいなかった。
もっとも、ダフネはクィディッチをしたいと思ったことはなかった。純血主義の家で親に厳しくしつけられた少女たちは、自然とそう思うように幼少期から養育されるか、あるいは途中で空への憧れを忘れていったからだ。
ハリーはダフネと軽く踊りながら、周囲を見回した。皆こういった場所に慣れていて、踊りかたを間違えているような子供はいない。
(あ、いた……)
いないというわけではなかった。はじめて社交界に顔を出したファルカスは、踊りの指導を受けたわけではない。彼はパートナーであるフォルズを怒らせて叱られてしまっていた。ハリーは助けに行こうとして、ダフネに腕を掴まれた。
「やめなさい、ポッター。ここは戦場なのよ」
ダフネの目はこれ以上なく冷たかった。
「ここではできない人間が脱落していくの。この世界に残り続けるのは簡単じゃないのよ。だから私たちは、小さい頃から毎日お稽古をしてきたの」
「でもファルカスは僕の友達だよ。僕と同じように、アズラエルの誘いでここに来たんだ」
「アズラエルに頼み込んで踊りの訓練をしなかった彼が悪いわ。後でメリアドールの機嫌を取る私の身にもなってよ、ポッター」
ハリーがダフネに反論したとき、ファルカスに差しのべられる手があった。ハリーはバナナージ·ビストが、アルベルト·ビストにささやいているのを見た。アルベルト·ビストは慣れた杖捌きで無言で魔法をファルカスにかけた。タラントアレグラ(踊れ)の魔法だった。次の曲を、ファルカスは一度も転倒することなく踊りきることができた。
「……甘いわね。ビスト家は」
壁際でその様子を見ていたダフネは苦々しげに言った。
「私たちはちゃんと練習してダンスを習得したのに……」
ハリーは、自分もシリウスの魔法でダンスを練習したことはダフネに言わなかった。その代わりに、ダフネにジュースを差し出した。
「踊って疲れちゃったよ。これで喉を潤そう、ダフネ」
ハリーとダフネはしばらくの間、無言でみんなの踊りを見守っていたが、ハリーはふと疑問に思ったことを言った。
「今、ふと思ったんだけど……ダフネって寮生活はあんまり楽しくなかった?」
「どうしてそう思うの?」
「寮で見るよりも生き生きしてるから」
ハリーは周囲を見回して、いろんなことに気がついた。普段スリザリンだ、グリフィンドールだといがみ合っていたガフガリオンとアグリアスは激しい曲を苦もなく踊っていて楽しそうだった。コーマック·マクラーゲンはスリザリン出身の女子ともいつも通り尊大な態度ではあるが踊っていたし、ハッフルパフを下に見ているトレイシーはザビニの後でザカリアス·スミスとも踊っていた。寮やホグワーツで見たときより、明らかにこちらのほうが楽しげな人もいた。
「ホグワーツでこんな態度を取ってみなさい。周囲から袋叩きにあうわよ」
「それはそうだね」
ハリーは苦笑するしかなかった。明らかにお金持ちの、大人の世界と同じ態度をホグワーツで取れば浮くのはわかりきっていた。
(ホグワーツと今とで全く態度が変わらないのはそれこそドラコくらいだ)
とハリーは思った。
(……でも。じゃあ、どうしてガフガリオンはスリザリンらしくなんて言うんだろう)
ハリーは去年、ガフガリオンからスリザリン生らしくしろと言われたのを思い出した。あれは実は、ガフガリオンはスリザリン生らしくしたくなかったのではないだろうか、と、そんな考えが頭をよぎったのだ。
ハリーが考えている間。ダフネはホグワーツでの愚痴や色々な話をハリーに聞かせてくれた。ハリーはうん、うんと相槌をうちながら話につきあった。ダフネの話は二十分以上も続いた。ハリーは、ダフネが内心でスネイプの贔屓を快く思っていなかったことに驚いた。みんな案外まともなのだ。
「寮で四人一部屋と聞いたときはどうしようって思ったわ。だって私は一人部屋でしか寝たことがなかったんだから。ポッターたちは普段どうして眠れたの?」
「たぶんダフネと変わらないと思うよ。魔法を使ってほどほどに騒いで、疲れたら眠るだけ」
ハリーは冗談めかしていった。実際のハリーたちは、大抵は誰かに関する噂話だとか、先輩の愚痴だとか、クィディッチでどのチームが勝っただのといった下らない話をして寝ていた。
「野蛮ね。聞かなければよかったわ」
ダフネは黒髪を弄っていた。ハリーはダフネに申し訳なくなって、話題を変えることにした。
「でも、スリザリンに入れたのは良かったと思うよ。夏休みに皆と会うことも出来たしね」
「スリザリンが優れているのはこういうところよ。こういう集まりできちんと親睦を確かめあって、来年もまたよろしくねって別れるの。それがスリザリン、そして私たちにとっての普通なのよ」
ダフネはハリーや、他の大勢のスリザリン出身の生徒と同じようにスリザリンに愛情を注いでいた。ハリーはそれがなんだか嬉しかった。
「そうだね。来年も来れると良いけどなぁ」
ハリーは今年学校で無事にいられるか不安だったが、同時に楽しみにもなってきた。一大イベントを無事に終えることができたのだ。学校にどんな闇が待ち構えていようが、恐れる必要はないはずだ。
(何とかなる……いや、何とかしよう)
そうハリーが思っていると、ハリーにファルカスが話しかけた。ダフネは他人の目があるとわかれば、すました顔になった。
「ハリー。僕、バナナージさんからフリットウィック先生が顧問の決闘クラブに誘われたんだ。ほら、僕が学年末パーティーで表彰されたから、良ければどうかなって……」
「スカウトを受けるなんて凄いじゃないか!やったねファルカス!」
ハリーは素直に友人の躍進を喜んだが、ダフネはそうは思わなかった。彼女はバナナージの意図をこう考察していた。
(……どこが。どう見てもハリー目当てだわ。友人のファルカスを誘って、それからハリーを引き込もうって魂胆ね。ハッフルパフ生が誠実で、善良だなんて誰が言ったのかしら?)
恩を着せてから自分の陣営に引き込むというのはスリザリン生が多用するやり口だが、はっきり言って誰でもやることだ。直接ハリーを勧誘するのではなく、ハリーの周辺から引き込むあたり周到だとダフネは思った。
「うん。ありがとう。それで、二年生からは探究会に、行くのは木曜と金曜日だけになりそうなんだ。いいかな?」
「ファルカスがしたいならそっちを優先してよ。僕らも、ファルカスの活躍を応援してるからさ」
こうして、パーティーではいくつかの新しい縁ができた。トレイシーはザビニのガールフレンドの一人になり、ファルカスは決闘クラブに入部し、ハリーはダフネ·グリーングラスを同じスリザリンの仲間の女子から、少しだけ親しい友達として認識した。その他にも、このパーティーではいくつかの縁が生まれていた。
***
ハリーたち男子は、アズラエル一族の経営する会社が新しい箒である『ニンバス2001』を発表したことで沸き立っていた。ニンバス2001はニンバス2000に存在した欠点を設計段階から除去した最新モデルで、その性能は旧式を凌駕している。シリウスはドラコ·マルフォイのような子供がニンバスに試乗し、年齢相応にはしゃいでいるのを見て頬を緩めた。
(……平和、か。いい時代になったもんだ)
ニンバス2001の値段は相応に高い。シリウスの金銭感覚でも、あれは学生向けではなくプロリーグの二軍から使うような代物だと思った。それでも売れると確信して新製品として出せるということは、それだけ魔法界が豊かになったという証明だった。
シリウスとルシウスは、表面上は和やかに、友人のように話を終えた。たとえ裏で杖を向けあっているような関係でも、それが続く限りは『平和』なのだ。
シリウスはそれとなくハリーを狙ったハウスエルフ。ドビーについて話題をふってみたが、ルシウスからは何も情報を引き出すことはできなかった。シリウスはルシウスに対する疑いを持ったままだったが、尻尾を出さない限りは白として扱うことしかできなかった。
今回のパーティーは、シリウスにとっては全く収穫がないというわけではなかった。ハリーの友人たちにねだられて自分のサインを書く羽目になったときはこの世の終わりかと思ったものだが、ハリーの友達が気持ちのいい少年たちであることにシリウスは安堵した。シリウスは彼らの中に、昔の自分たち四人組の姿を見いだしていた。
(ドラコは性格に難があるが……俺が気にしてハリーに何か言うことではない。ハリーも距離感をわかっているようだし)
シリウスはかつて、このような集まりを激しく嫌悪していた。暗黒時代が近づくにつれて、純血主義者たちの集会では遊び半分にそこいらのマグルやマグル生まれにカースをかける狂気がまかり通っていた。
このパーティーは、それとは比べ物にならないほど平和で健全だった。弱者に対する弾圧的な雰囲気を感じ取る場面はいくつかあったが、シリウスはルシウスやその他のハリーにとって害になりそうな大人たちへの対応を優先してそれを見過ごした。そんな自分のことが、シリウスはますます嫌いになっていた。
シリウスはこのパーティーに出席したことで、社交界からの誘いを受ける羽目になった。社交界は決して、富裕層たちの集う優雅な場所ではない。富裕層が富と権力を誇示しあい、競争相手を蹴落とすための場所だ。シリウスに権力欲はなく、その誘いのほとんどを断るつもりでいたが。それでも何人かの参加者の誘いには応じた。ハリーの友人であるアズラエル一族とは、ハリーの保護者として親しくしておくべきだと思ったからだ。
(……ハリーの今後には、特に気を配るべきだな。子供はともかく、背後の大人どもは洒落にならん変な思想を吹き込まれなければいいが……)
シリウスはマルフォイ家をはじめ、パーティー会場で何人かデスイーターを輩出した一族の大人と談笑した。シリウスはパーティーの間中、ルシウスに魔法をかけたくて仕方がなかったが、グリーングラス家を見たときも同じ気持ちになった。
世間では知られていないが、ダフネ·グリーングラスの叔父、フロック·グリーングラスはデスイーターだった。シリウスは騎士団としての活動中、何度かフロックの仮面の下の素顔を目にしていた。フロックは腕そのものは大したことはなく交戦し、撃退したことがあったが、フロックの手にかかったあわれな魔女や魔法使いを見たことがあった。フロックは戦争中にいつの間にか居なくなったためシリウスは気にしていなかったが、どうやらグリーングラス家はフロックを行方不明扱いとし、例のあの人の信奉者の手にかかったのだとして罪を逃れていた。
大した力量のないデスイーターも、ポリジュース薬などの他人に変身する薬を使えば戦力にはなる。シリウスには知る術もなかったが、フロックは死ぬ前の戦闘でポリジュース薬を使い奇襲を試みたが、乱戦の中で死亡の呪いを受けて他人として命を落としていた。フロックが例のあの人直属の部下で、ルシウスをはじめとしたデスイーターたちからも存在を認識されていなかったことで、グリーングラス家は汚名を免れていたのだ。
シリウスはハリーと共にドームを出ると、すぐに本拠地には戻らず、いくつかの場所を巡り、ブラック家の屋敷を訪れてから家に戻った。シリウスはこれから自分をどんどん嫌いになることになる。しかし、嫌いになっていて良かったと思う日が訪れる日が来ることを、このときのシリウスはまだ知らない。
呪いの子でなんとなくグリーングラス家にはいい印象があったけどそもそもいくら金持ちとはいえデスイーター歴のある家に嫁がせる家がまともなわけもなく……
この二次創作ではちゃっかりバレないまま戦死したことでグリーングラス家は世間的にはデスイーターとは無関係になっている(他の家と同じく脅されての資金提供はした)という設定です。