蛇寮の獅子   作:捨独楽

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シリウスおじさんの英才教育はじまるよー!


教育

 

 パーティーが終わって数日が経った。ハリーはパーティーの最後に、ルシウス·マルフォイから声をかけられたときのことを思い返していた。

 

 

『ときにシリウス』

 

 と、ルシウスは尊大にシリウスに言った。シリウスはその時アズラエルの両親と話し込んでいたのに、アズラエルの両親を無視してシリウスに話しかけた。その瞬間、アズラエルの両親は息を合わせてルシウスから逃げた。

 

『私の息子はこう見えて優秀でね。スリザリンでも総合一位の成績を取ったのだよ…そう、ミスターポッターよりも上なのだ』

 

 ルシウスはアズラエルの両親など眼中にないと言わんばかりだった。

 

『ドラコはこれからスリザリンを導く身ではあるが……ポッター君もスリザリン……ひいては我々純血主義を導く存在になってもらわねば困る。どうかね?ドラコと共に学ぶというのは?』

 

 ハリーはスネイプ教授の怒涛のしごきによって薬学で優秀な成績(O)を修めた。クィレル教授に教わり、アンブリッジ先生から問題集を渡された防衛術、シリウスの指導があった呪文学、ファルカスに教わった天文学、ザビニとアズラエルと共に学んだ魔法史でもOを取ることはできた。飛行術については言うまでもなかった。

 しかし、薬草学のテストではつまらないミスを連発しE、変身術もE止まりだった。天文学と魔法史のOはギリギリのOであり、学年でトップクラスの成績を修めたハーマイオニーやレイブンクローの秀才、そしてドラコとハリーの成績とでは明確に壁があった。

 

 ハリーの野望である賢者の石作成のためには、錬金術の習得は必須だ。錬金術は、五年生の授業で全ての科目でOを取らなければ受講することができない。今のままではダンブルドアを超えて例のあの人を倒すなど到底無理な話だった。

 

 シリウスはルシウスの誘いを保護者として丁重に断った。

 

『競い合うライバルが居たほうが二人にとって刺激になるだろう。ハリーは私が責任をもって指導する。箒でも勉強でも、ドラコとハリーが妥協せず全力でぶつかれるようにな』

 

『失礼を承知の上で言うが、君がかね?その道の専門家を呼んだほうが、その子のためになるのではないかな、シリウス』

 

 ルシウスの言葉は一見すると当然のようでいて、実際には明らかにシリウスとハリーの問題に踏み込んでいた。ハリーは何となくルシウスのことを嫌がった。

 

(何でこの人は僕のことに口を出してるんだろう……)

 

 今までいろんな人から同情されたり生き残った男の子だと呼ばれたりはしたが、ルシウスのように自分の正しさを押し付けてくるタイプの人間ははじめて……ではなかった。

 

(ドラコと同じだ)

 

 思えば、ドラコにもそういうところはあった。ルシウスは目をかけた人間には口を出さずにはいられないタイプのようで、それはドラコにもしっかりと引き継がれているのだった。ハリーはきっぱりとルシウスの誘いを断った。

 

『誘っていただいてありがとうございます。けれど、僕はシリウスに勉強を見てもらいたいと思っています』

 

『ルシウス。ハリーがこう言っている。この子には自分の意思がある。私はそれを尊重したい』

 

 ルシウス·マルフォイは残念だと呟いたが、ハリーには全く残念そうには見えなかった。ルシウスはハリーの頑固さを貶したあと、ハリーにはスリザリン生らしく、純血主義を尊ぶことを求めた。

 

『ならば……君のためにこれだけは言っておこう。ハリー・ポッター。君はスリザリンに選ばれた子供だ。スリザリンの子供は、愚かなマグルの血統を尊ぶのではなく、魔法族の血統と高貴さをこそ尊ぶ。君の父上は、薬学に優れたポッター家の出だ……君の父上を見習い、ポッター家の人間として相応しい行動をすることだ。そうすれば、スリザリンは君を偉大にしてくれるだろう』

 

『……ありがとうございます、ドラコのお父さん』

 

 ルシウスはハリーの母親には一言も触れず、ハリーの父親の家と血筋を誉めてその場を後にした。シリウスいわく、マルフォイはああやって人を見下さねば気が済まないのだという。

 

『あれはポジショントークというやつだ。気にするなハリー。自分が相手より優位であることを示さなければ気が済まないというタイプの人間はどこにでもいるが、ルシウスはその極致だ。

ハリー、分かっているとは思うが、あんな誰に対しても失礼な男にだけはなるなよ』

 

 シリウスの言う通りだったが、ハリーはドラコの言葉を思い返していた。ドラコや母親を守るためにあんな振る舞いをしているんじゃないだろうか、という期待を持っていた。ルシウスは昔酷いことをしていた人だとハリーは聞いていた。大それた犯罪者で、昔ハリーの両親とも戦ったと聞いていたのに、不思議とダーズリー家よりは嫌悪感が沸かなかった。何故だろうと思ったが、すぐに理由はわかった。

 

(友達の父さんだもんな……)

 

 ハリーはルシウスの真似をする気持ちも、純血主義を尊ぶ気持ちもなかったが、友達の父さんを尊ぶ気持ちはあった。たぶんドビーはルシウスとは無関係のはずだとハリーは思った。

 

 ハリーはシリウスの言葉に頷きながら、ドラコに勝つための勉強をしようと本気で一年生で習った部分の復習にとりかかった。

 

***

 

 ハリーにとって、シリウスはこれ以上なく立派な教師だった。シリウスはハリーに魔法を使わせなかったが、ハリーに木の枝を持たせて呪文の練習をさせてくれた。

 

「ボンバーダは使えるんだったな、ハリー。ウィンガーディアム·レヴィオーサのように杖を回してボンバーダを撃つと、通常の爆発ではなくて青い花火に変えることができる」

 

「うわぁ、凄い……!」

 

 シリウスは自分で実演しながら杖の振り方を教えてくれた。フリットウィック先生と同じくらいに丁寧で、説明はクィレル教授よりもわかりやすかった。ハリーは夢中になってシリウスに魔法を教わった。シリウスは貴重な休日をハリーのために割いて、薬草の生い茂る山につれていってくれたりもした。ハリーはふと、シリウスにこんなことを言った。

 

「シリウスが先生だったらいいのにね。防衛術とか。毎年変な先生ばっかりだって先輩たちは皆が言ってるよ。シリウスが先生だったら、防衛術で落第する子は居なくなるのに」

 

 

 ハリーは冗談のつもりで言った。自分のゴッドファーザーが先生だというのは色んな意味でやりにくい。シリウスがハリーにとっていい先生だというのは本気だったが。

 

「実はダンブルドアに教職を志願したんだがな……私は教師には向いていないと断られたよ」

 

 実はシリウスは、今年の防衛術の教師としての仕事をしたいと面接を受けていたらしい。ハリーはダンブルドアが断ってくれて内心ほっとした。パーティーの後ですぐにニンバス2001をハリーに買い与えたシリウスのことだ。教師になったらどんな贔屓をするかわかったものではない。

 

 ハリーは、それはそれとしてシリウスを貶したダンブルドアを嘲った。シリウスは少なくともアンブリッジ先生やクィレル教授よりも教え方が上手かったからだ。

 

「ダンブルドアって人を見る目がないよね。シリウスはちゃんと教えてくれるのに」

 

 ハリーはダンブルドアに対して辛辣に言った。ハリーはダンブルドアがハリーや友達を退学にせず便宜を図ってくれたことも、スリザリンを優勝させてくれたことも感謝はしている。それはそれとして、ダーズリー家に放置してなにも教えてくれなかったことは恨んでいた。 

 

 クィレル教授とアンブリッジ先生の名誉のために言えば、ハリー一人に一対一でものを教えるのと、教師として一年生の生徒から七年生までの授業計画を立ててものを教えるのとでは負担がまるで違う。違うのだが、子供であるハリーにはそんな視点は持てなかった。

 

「そんなことを言うもんじゃないぞハリー。ダンブルドアの判断は確かだ。前にも言ったが、私は品行方正な子供じゃなかったからな。子供たちに悪影響を与えることになると判断したんだろう」

 

 シリウスの言葉に、ハリーははーいと頷いた。ハリーはシリウスのことを親のように尊敬していた。

 

***

 

 夏休みの間でハリーは、箒の練習に苦労した。シリウスと住んでいる家の近くには、スミルノフ氏の家やその他のいくつかの魔法使いの家があった。ハリーはスミルノフ氏の子供でレイブンクローの三年生であるアンドレイや、ハッフルパフ生でクィディッチチームのチェイサーをしているセドリック·ディゴリー、奇抜な格好をしたルーナ·ラブグッドというブロンドの女子、その他にもウィーズリー家などの色々な魔法使いの子供たちと会った。ルーナ以外の子供たちと、ハリーはよくクィディッチの練習をした。セドリックの箒はニンバスではなかったが、セドリックにはニンバスの性能差を埋めるほどの技量があり、ハリーはセドリックには一度も勝てなかった。そのため、必死になってセドリックから技を盗もうとした。

 

***

  

 ある時、ハリーとシリウスは休日にユルゲン·スミルノフ氏のお宅に招かれた。クリスティーナというプラチナブロンドでおでこを出した女性と、アンネローゼというハリーより少し年上の、プラチナブロンドの女の子がハリーたちを出迎えてくれた。ハリーとシリウスは歓待を受けた。ハリーは自分のことを助けてくれたスミルノフ氏のことが好きになっていたし、優しいクリスティーナさんや、アンネローゼのことが好きになった。

 しかし、ハリーはクリスティーナが一度も魔法を使っていないことに気がついた。

 

「私が魔法を使えないことが不思議?」

 

 クリスティーナさんはにっこりと笑って言った。

 

「私はマグルなの。今日はユルゲンが魔法使いのご友人をお招きすると言っていたから張り切って作ったのだけれど、お口に合ったかしら」

 

「ああ、最高の料理だったよ。ありがとう、クリス」

 

「……お、美味しかったです。冷やしたサラダのスープはとても……」

 

「それはスイバのシチューよ。作り方を知りたい?」

 

 

 

 アンネローゼはハリーに料理のレシピを教えてくれた。ハリーは親切なアンネローゼやクリスティーナさんに丁寧にお礼を言ったが、内心では困惑していた。

 

(……マグルがどうして……いや、クリスティーナさんはマグルだけどいい人で……でもマグルは、魔法使いを嫌ってるはずで……)

 

 ハリーは目の前の人たちとダーズリー家が同じマグルだとはとても思えなかった。スミルノフ氏の家を出た後でも、ハリーの頭はぐるぐると泥のような思いが回っていた。

 

***

 

「……シリウス。あれは子供にとっては少し酷なのでは?」

 

 後日、職場に向かう途中のシリウスにユルゲン·スミルノフは声をかけた。言うまでもなくハリーのことについてである。

 

「いいや。夏休みが終わる前にハリーは現実を知っておくべきだった。スリザリンの閉鎖環境に行く前にな」

 

 スリザリンでは、魔法使い同士の結婚が望ましいとされる。より過激な純血思想では、先祖代々が由緒正しい魔法使いの家の人間同士でなければ結婚してはならない、とされている。スリザリン出身の魔法使いたちは、その思想を過激にしていった結果、マグルの排斥やマグル生まれへの排斥へと傾倒していった。

 

 この思想は、今の時代においては時代遅れである。ほとんどの魔法使いはユルゲンのようにマグルの異性を配偶者として家庭を持っているからだ。

 

「……ポッター君は確かに、あの家に居た頃より精神は安定していました。紛れもなくあなたのおかげです。マグルへの憎しみも薄れていた。……私はポッター君が承知しているものと思っていましたが……騙してマグルと接触を持たせるようなことは良くありません」

 

 ユルゲンはシリウスを誘ったとき、ハリーがユルゲンの妻がマグルであることを知っているものと思っていた。だからハリーの経過観察も兼ねて自宅へと招待したのだが、まさか話していないとは思ってもみなかったのだ。

 

「それはそうだがな……あの子は放っておくと、一生マグルと関わろうとしないだろうからな。そのまま変な思想をこじらせる前に、まずは『マグルにも善人はいる』と思わせなければならなかった」

 

 シリウスは断固たる決意を持って言ったが、ユルゲンは頭を抱えていた。

 

「……私の妻を善人だと言ってくれたことは、妻の夫としては誇らしいが……シリウス。子供の教育は時間をかけてゆっくりと行うべきだと忠告しておきます。本人の意思を無視した押し付けは、かえって子供の成長に悪影響を招きますよ」

 

 ユルゲンはその道の専門家として、子供を持つ親としてのアドバイスをシリウスに重ねた。シリウスには自分の思想を押し付けるような真似だけはするなと重ねて説いたが、はたしてシリウスがどこまで話を聞いているのか、ユルゲンには分からなかった。シリウスの顔には断固たる決意が滲んでいた。

 

 




シリウスおじさんの英才教育!
ハリーの精神が二回復した!ハリーの知識と魔法の腕が上がった!ハリーの精神に1のダメージが入った!ハリーは困惑している!
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