蛇寮の獅子   作:捨独楽

48 / 330
この時期のコリン君は色々言われるけど最終的にはハリーが学校カースト最下位になっても信じてくれて命まで捧げたファンの鑑だからよ……
止まるんじゃねえぞ……


コリン·クリービーとスリザリンの獅子

 

 ハリーは次の日から、パンジーとは距離を置くことにした。といっても精神的なものだ。元々ハリーはパンジーとはクラスメイト以上の間柄ではなかった。ハリーの中ではパンジーは、ダーズリー家やヴォルデモートに次ぐほどに嫌悪感が沸く存在になっていた。パンジーがドラコと仲良くしているのを見て、ハリーはなんとも言えない気持ちになった。腹の底からムカムカした。

 

(あいつだけはやめた方がいい……なんて、僕が言いたくなる日が来るなんてね)

 

 ハリーは恋愛については鈍感だった。そもそも自分が人から好かれる筈がないという気持ちもあったが、恋というものがどういうものであるのかすらまだ分かってはいなかった。愛の妙薬の恋は単なる興奮作用であり、麻薬による錯覚だった。結論から言って、ハリーの初恋は最悪の味だった。

 

「お前なあ。惚れ薬くらいで気にしすぎなんだよ」

 

 アズラエルやファルカスはパンジーに対して嫌悪感を示したが、ザビニはそうでもなかった。

 

「油断してまんまと薬を飲んだお前の負けなのさ。さっさと忘れて次行けよ」

 

 魔法界では比較的簡単に愛の妙薬の材料が手に入る。ファルカスによると普通は、好きな相手に告白するために使うか、好きな相手同士でお遊びで使うのだという。その基準でいくとパンジーの行動は礼儀知らずであった。ザビニに言わせれば、薬を盛られた方が悪いということだった。

 

「そもそも僕はパンジーのことをなんとも思ってないんだけどね。今までパグ犬だと思ってた子が、パグ犬に失礼な別の何かだったと知っただけさ」

 

 ザビニがハリーを笑い飛ばしてくれたことは救いだった。ハリーは、惚れ薬を飲んだときに考えたことを頭の隅に追いやった。ハリーの中に友人への差別心などなかった。

 

(あれは僕じゃない。僕は、あんなことを考えない。惚れ薬のせいだったんだ)

 

 探究会でハーマイオニーの少し出っ歯な顔を見たとき、ハリーは心の底から安心した。薬の効果は消え去っていて、ハリーは彼女と友達として接することが出来たのだ。これ程嬉しいことはなかった。

 

 

 ハリーはその日、ドラコとのシーカー決定戦が近づいていたので、その調整のために箒を持ってグラウンドに向かっていた。ファルカスは決闘クラブに呼ばれていたので、ハリーはアズラエルやザビニと共にグラウンドに来ていた。スリザリン·クィディッチ·チームはまだ全体練習を開始しておらず、ハリーたちはアップを取っていた。

 

 グラウンドにはドラコの姿もあった。ドラコもハリーと同じニンバス2001を持ち、シーカー決定戦に備えて着々と準備を進めている。準備運動としてのランニングを終えたハリーたちが箒に乗ろうとしたとき、ハリーの耳に甲高い声が聞こえてきた。

 

「あの、ちょっといいですか?お元気ですか?」

 

 ハリーたち三人が目を向けると、グリフィンドールの赤いローブに身を包んだ小柄な少年がハリーを見ていた。少年はハリーの額を見ようとして、傷がないことをいぶかしがっていた。ハリーはあまりにも皆が額の傷をじろじろと見るので、魔法薬で見た目には傷が見えないようにしていた。

 

「あの……もしかして、眼鏡のあなたがハリー·ポッターですか?」

 

「そうだよ。君の名前は?」

 

「ハリー。僕……僕の名前はコリン·クリーピーと言います」

 

「一体ハリーに何の用件ですか?君はグリフィンドールの子ですよね。練習中に声をかけられても困るんですけど?それと、その手に持ったカメラは何のつもりですか?」

 

 アズラエルはコリンを無視してもよかったのだが、手に持っていたカメラが気になってコリンに声をかけた。カメラでハリーやスリザリンチームのプレイを撮影されれば、グリフィンドール·チームに分析される恐れがあったからだ。

 

「まぁいいじゃねえかアズラエル。こいつ、チビだし一年だろ?大目に見てやろうぜ」

 

 一方のザビニは、相手が一年の後輩ということもあり寛大さを発揮しようとしていた。

 

「あ、ご迷惑だったら謝ります、すみません。ただ僕、どうしてもハリーに頼みたいことがあって」

 

(頼みを聞く義理は無いんだけどな……)

 

 ハリーは内心でコリンのことを迷惑だと思いながらも、話を聞くことにした。聞けない頼みなら断ればいいし、断ればこの子もこの場を去るだろう。クィディッチ競技場には少しずつ人が集まってきていて、その中にはロンとハーマイオニーの姿もあった。

 

「…………君の名前は?」

 

「僕、コリン·クリーピーと言います!!グリフィンドールです!」

 

「そうか、コリン。はじめまして。僕がハリー·ポッターだよ。横のかっこいいお兄さんたちは、」

 

「横のあなたはブレーズ·ザビニで、金髪の方はブルーム·アズラエルですよね!先輩たちが話をしているのを聞きました!!あなたたちはグリフィンドール生くらい勇敢で素晴らしいって!!」

 

「あ、そう……」

 

 ハリーたちはグリフィンドールの寮内でも有名なようだった。ハリーはむず痒かった。知らない人が自分を知っているという居心地の悪さは慣れてきたが、後輩にまで知れているのは何となく嫌だった。

 

 少年……コリンは、それから弾丸のように矢継ぎ早に自分がマグル生まれであり、ハリーに憧れていることを公言した。……よりによって、ドラコの前で。

 

 

(誰か教えておけよ!!グリフィンドールの監督生は、誰もこの子に教えなかったのか?!スリザリン生には気を付けろって!)

 

 ハリーはグリフィンドール生の誰も、コリンに魔法界の予備知識を教えなかったのかと思った。スリザリン生の前でマグル生まれであることを公言するなんて、喧嘩を売っているにも等しい。いずれわかることとはいえ、せめてドラコのような純血の魔法使いの前では、それを隠すようなことを言わせるべきだった。

 

 確かにハリーに差別意識はない。ないが、その周囲にいるスリザリン生が差別意識がないとは限らないのだ。これはグリフィンドールの監督生、ガエリオ·ジュリスがスリザリンの生徒に対する偏見を持っていないという証明ではあった。同時に、グリフィンドールの監督生たちはスリザリンの生徒たちの差別意識を楽観的に見ていて、問題が起こらないようにするという予防意識が欠けているという証明でもあった。

 

 

「あの、あなたたちにお願いがあって……もしよければ、僕と一緒に写真を撮ってくれませんか!?……そして、それから写真にサインしてもらってもいいですか?」

 

「……君、グリフィンドールの勇敢さを命知らずだと勘違いしてませんか?」

 

 アズラエルはコリンを呆れた目で見ていた。スリザリンの生徒にマグル生まれであることを明かすなんて、本来はあり得ないことなのにと。ハーマイオニー一人ならまだしも、自分からマグル生まれであることを公衆の面前で明かされてはスリザリンお得意の見てみぬフリをすることも出来ないではないか。

 

 コリンは、ハリーを完全に都合のいいヒーローか何かのように見ていた。コリンの瞳はきらきらと宝石のように輝いていた。

 

(ダンブルドアを尊敬してた僕にそっくりだ)

 

 ハリーはその姿に、かつての自分やハーマイオニーの姿を見た。コリンに対しては怒りよりも、同情心の方が強かった。

 

 

「君には悪いけど断るよ。ごめんねコリン。僕は、君が思ってるような奴じゃないから。それから、君は今すぐに寮に戻った方がいいよ。今すぐに」

 

「そんなぁ……」

 

 コリンはみるみるうちに元気をなくして萎んでいった。そんなコリンの背中から、嘲るような声がかけられた。

 

「サイン入り写真だって?ポッター。君はグリフィンドールの子にサイン入り写真を配って回っているのかい?」

 

 案の定、ドラコがやってきた。ドラコはコリンの持っているカメラを小馬鹿にしたようにせせら笑ったあと、グラウンドに集まった観客に向けて大声で言った。

 

「みんな、こっち来いよ!!ハリー·ポッターがサイン入り写真を配ってくれるそうだ!」

 

「そんなつもりはないよ、ドラコ。僕はこれから君との試合に向けて忙しいんだ」

 

「自分を慕ってきた後輩に対して、随分と冷たいねえ、ポッター」

 

 ドラコはハリーの回答を聞いて満足したように笑い、そのあとコリンを標的にした。

 

「君のような世間知らずな生徒、グリフィンドールの中ですらすぐに浮くだろうね!かわいそうに、ハリーは君なんかには興味がないそうだ……何処にも居場所がないんだねえ?」

 

「ドラコ、言い過ぎだよ。下級生だぞ」

 

 並の子供ならば、ここで泣いて逃げていたかもしれない。しかし、コリンは並の子供ではなかった。

 

「君、ハリーに嫉妬してるんだ。だからそんな言い方しか出来ないんだ」

 

 

(うわっ……)

 

 アズラエルはコリンの言葉を聞いた瞬間にドラコから目を背けた。

 

(オイオイオイオイ言いやがったよ。こいついつか死ぬぞ……)

 

 ザビニはコリンが根っからのグリフィンドール生であることを知り、組分けの正しさと救えなさを実感した。

 

 スリザリン生の大半が何となく察しつつ、触れないでいる部分はある。人間関係において重要なのは、そういったデリケートな感情の部分にはうまく触れずにおくことだ。

 

 しかし、マグル生まれであるコリンにはそもそもドラコの家の複雑な事情などわからない。コリンにわかるのは、ドラコがハリーに並々ならぬ執着を持っているということだけだ。

 見たものに対してオブラートに包み込んだ表現をする技術を、マグル生まれで入学したてのコリンに求めるのはあまりにも酷だった。

 

 案の定、ドラコは激怒した。ドラコはコリンのことを礼儀知らずのマグル生まれだと罵倒し(差別用語はギリギリ言わなかった)、ロンと口論になりかけた。

 

「おやおやおやおや?いけませんねえ喧嘩などしては?今日は絶好のクィディッチ日和だというのに!」

 

 その場を丸く納めたのは、ギルデロイ·ロックハートだった。彼は白く煌めく歯を輝かせ、満面の笑みで颯爽と場に割って入ると、コリンと記念撮影をしてコリンを満足させた。ドラコとロンも、先生の目の前で喧嘩をするほどバカではない。ハリーは複雑な思いだったが、ロックハート先生に感謝の気持ちを伝えた。ロックハートは爽やかにハリーに言った。

 

 

「君にはまだ、サイン入りの写真を配るのは早いでしょう。私のように偉大な魔法使いになるまで、君は慎みを覚えることをおすすめしますよ」

 

 ロックハート先生のアドバイスと、ロックハート先生がコリンに与えた厚意は、結論から言うと役に立たなかった。コリンはロックハート先生の厚意を受け、写真を撮ってもらえたことで舞い上がり、次の日から箒で飛行中のハリーを撮影し出したからだ。コリンは何度言っても、ハリーを撮影することを止めようとはしなかった。

 

(……こいつ……)

 

 

 

***

 

 ハリーはコリン対策として、マクギリス·カローの伝手でグリフィンドールの新監督生であるガエリオ·ジュリスを紹介してもらった。ガエリオから、コリンを諌めてもらえばいいと思った。マクギリスはガエリオについて、正義感に酔った部分があるとハリーに忠告していたが、ハリーは気にしなかった。

 

(自分の寮の一年生の面倒を見るのが監督生の仕事ですよね)

 

 とハリーは思った。現にマクギリス·カローは、イーライ·ブラウンをはじめとしたスリザリンの子供たちの話をよく聞いて彼らから慕われていた。

 

「お願いします、ジュリス。コリンを何とかしてください」

 

「スリザリン生の言葉を信じるのもなぁ……」

 

 最初は面倒くさそうにハリーの言葉を信じなかったガエリオだったが、実物のコリンを目にした彼の反応は早かった。ガエリオはコリンに対して他人に迷惑をかけるなと注意したあと直接ハリーに謝罪した。

 

「いや、悪かったな疑ってしまって。スリザリンには性格が悪い奴が多いもんで、ついつい俺たちも色眼鏡で見てしまうんだ」

 

「いえ。これで僕も安心です。お世話になりました、ガエリオ」

 

 ハリーはこれで終わったと思った。しかし、コリンの襲撃はこれで終わらなかった。コリンはその二日後。またしてもハリーの写真を撮った。

 

 

 

***

 

「止めるなよグレンジャー。寛大な俺らも流石にキレてんだからよ」

 

「……その……いじめのようになるのは良くないわ……」

 

「いや、ハーマイオニー。コリンは一回痛い目を見た方がいいって。そうすればあいつも何が悪かったのか反省するだろ……」

 

 ロンですら、コリンに思い知らせることに異論はなかった。ハーマイオニーはやり過ぎないようにとハリーに釘をさしたが、ハリーがこういうと流石の彼女も黙った。

 

「じゃあハーマイオニー。僕の代わりにコリンのアフターフォローをしてくれる?僕のこの方法なら、汚名は僕一人で済む。コリンもグリフィンドール生として、日常生活に戻れる筈だよ」

 

 ハリーたちは探究会で、コリン対策について話し合った。ハリーがコリンを問い詰めて詰問したところ、コリンに反省の色が見られなかったからだ。

 

「ハリーはグリフィンドールみたいな人だから」

 

 コリンの目は実際のハリーではなく、肥大化された理想のハリーを見ていた。

 

「僕を差別しないし、許可を取れば許してくれますよね?僕、ロックハート先生に許可を取ったんです。学校の敷地内でカメラを撮影することは校則違反じゃないって先生も仰ってました」

 

 

 反省の色が見られない言動に、ハリーはキレた。コリンの姿は、一年前にガーフィール·ガフガリオンの忠告を全部無視したハリー自身にも重なって見えた。それがまたハリーには嫌だった。

 

(僕がしたことが、全部悪いかたちで返ってきてるみたいじゃないか)

 

 ロンとハーマイオニーの心証を悪くするのは嫌だったので、予め話を通した上で、ハリーは悪事を実行した。

 

 

***

 

 曇りがちな空の隙間にわずかな陽射しが降り注ぐ日。ハリーはコリンと一緒に校庭に出ていた。コリンはワクワクした顔でハリーを見ていた。ハリーは閉心術を使い、コリンに好意的に接した。

 

「僕、ハリーに魔法を教えてもらうなんて光栄です!」

 

「そんなに大層な魔法じゃないよ。コリン、あの木の枝に向かって、ウィンガーディアム レヴィオーサって言ってみて。スペルは難しいけど、発音を意識してね」

 

「はい!ウィンガーディアム レヴィオーサ!!ウィンガーディアム……」

 

 コリンは発音や、杖の振り方に苦戦し、六回ほど魔法が不発に終わった。ハリーは七回目の挑戦を笑顔で待った。

 

「大丈夫。大分よくなってるよ」

 

「ありがとうございます!ウィンガーディアム レヴィオーサ!!……やったー!!」

 

 コリンは七回目にしてついに魔法を成功させた。喜びに震えるコリンに、無慈悲な声がかけられた。

 

 

「おい。誰だ昼寝してた俺に木の枝をぶつけたのは?お前か?校庭での魔法使用は厳禁だぞ。グリフィンドール一点減点」

 

 スリザリン寮の六年生で監督生のガーフィール·ガフガリオンだった。彼は予め、ハリーと打ち合わせた場所に待機していた。ガフガリオンの側にはグリフィンドール監督生のアグリアス·ベオルブもいたが、彼女はコリンを一瞥もしなかった。

 

「え。えぇー?!そんなぁ……!!」

 

「コリン。ここまでは全部仕込みだよ。僕は最初から君を嵌めるつもりでここに呼んだんだ」

 

「え、どうして……」

 

 ハリーは落ち込むコリンに種明かしをして追い討ちをかけた。

 

「君の事が嫌いだったからだよ。僕がスリザリン生らしくないなんて、回りの人が勝手にそう思ってるだけだ。君はもっと現実を見た方がいいよ」

 

 コリンは泣きそうな目でハリーを見たが、くるりとハリーに背中を向けて走り去った。ハリーはこれで良かったのだと思った。ハリーは偉大な魔法使いになりたいと思っているが、それはコリンが望むような、コリンにとって都合のいいアイドルではない。

 

(そういうのはロックハート先生で満足すべきだ)

 

 と、ハリーは思った。そんなハリーを、ガフガリオンはスリザリン生らしくなったと褒めた。

 

***

 

 しかし、ハリーの予想はまたしても覆されることになった。コリンはハリーに教わった呪文でグリフィンドールに十点も加点したと大喜びし、魔法探究会に入れてくれとハリーたち六人の前に顔を見せた。ハリーは頭を抱えた。

 

 




ハリー&ガエリオ&ハーマイオニー&その他大勢の生徒「コリン止まれ、止まって!……止まれっつってんだろうがぁ!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。