蛇寮の獅子   作:捨独楽

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唐突ですが水星の魔女3話グエルのプライドを見返しました。


ドラコのプライド

 

 

「随分と困っているようだね、ポッター」

 

 スリザリンの談話室で、ハリーはドラコに声をかけられた。何についての話かは聞くまでもなかった。コリン·クリーピーは今でもハリーに付きまとっていたからだ。

 

 

「心配することはない。身の程知らずの穢れた血には、思い知らせてやるさ」

 

「ドラコ。僕は君にそんなことをしてほしくはないよ。それに、そんな言葉を聞きたくもない。かまってちゃんの事なんて僕はもう気にしてない。僕が今興味があるのは、クィディッチのシーカー決定戦のことだけさ。君と最高の勝負ができるんだからね」

 

 ハリーはドラコを注意しながら話題をそらした。クィディッチの選抜は今週の土曜日で、今日はもう木曜日だ。ハリーは選抜への期待と不安でハイになっていた。

 

「君に土をつけてやるぞ、ポッター。僕に楯突いたことを後悔させてやる」

 

「僕は後悔はしないよ。やれるだけのことを全力でやるだけさ」

 

 口とは裏腹に、ハリーは何としてでもドラコに勝ちたいと思っていた。クィディッチ選手として自由に空を飛べるなら、ハリーには何もいらなかった。それはきっと、ドラコも同じ気持ちの筈だった。空の上では、クィディッチ選手は自由なのだから。

 

***

 

 ハリーはコリンの入部志願を部の長としてはっきりと断った。絶望的な顔をしたコリンを見て少し気を晴らしたハリーは、コリンに対して、もう人の嫌がることをするなと釘を刺した。

 

 

 

 ハリーに付きまとうコリンは、次はターゲットをハリーからザビニに変えた。ハリーと一緒にクィディッチの練習をしていたザビニやアズラエルは、飛行中にコリンから撮影される羽目になった。

 

「やベーだろあいつ……グレンジャー、どうにかしてくれよ」

 

 青筋を浮き上がらせながらザビニがハーマイオニーにそう頼んだ。彼女はコリンを止められなかったが、コリンがその暴挙に至った経緯は突き止めた。

 

「どうも一部の女子が、あなたたちの写真を欲しがっていたみたいなの……その、あなたたちは目立つからって……」

 

「人の欲望は恐ろしいね」

 

 ハリーはパンジーを思い出して気分が悪くなった。別に女子がどうこうという訳ではない。人は時として、酷いことを平気で思い付くものなのだ。

 

「寛大な僕らでもキレることはあるんですけどねぇ。有名税の概念にも限度があるってこと、分かってます?いや、グリフィンドールやグレンジャーたちを責めてる訳じゃありませんよ?」

 

 アズラエルは嫌味も込めてロンにそうぼやいた。ファルカスは、ぽろっと不穏なことを言ってロンを怒らせかけた。

 

「駄目だと分かってても虐めたくなるよ、コリンは」

 

「いや……コリンはグリフィンドールだとは俺らの中では認められてねえから。だけど本気で虐めようなんて思うなよ?そうしたら絶交だかんな」

 

(……こいつら、話してみれば普通なとこもあるんだけどな……)

 

 ロンは内心、スリザリンの子供たちではなくアズラエルやファルカスを一人の友人だと思っていた。ただ、スリザリンの子供たちには選択肢の中にナチュラルに『虐め』が入っているところがあった。ロンはその部分だけはいけすかなかった。

 

「ファルカスは本気で言った訳じゃないよ、ロン」

 

 ハリーはひりついた雰囲気の中でも落ち着きを崩さないように心がけた。

 

「監督生もコリンを注意してくれてるんだ。またすぐ復活するだろうけど暫くの間は無事の筈だ。ザビニと僕はクィディッチの事だけ考えよう」

 

「そうだな……」

 

 ハリーとザビニはクィディッチの選抜を受ける予定だった。ハリーはシーカーとチェイサー、ザビニはチェイサーの試験を受ける。ポジション不在のシーカーはドラコをはじめとした強敵が待ち構えており、レギュラーが残っているチェイサーはレギュラーを蹴落とせるほどの実力を示さなくてはならない。コリンに構っている暇などなかった。

 実はザビニよりも、ファルカスの方がクィディッチはうまい。だがファルカスは貧乏で、クィディッチ用品を揃えられないからとクィディッチを諦めていた。そのことについて葛藤はあった筈だが、ファルカスは笑顔だった。ファルカスは最近、決闘クラブで自分の居場所を見つけたようだった。

 

「僕もアズラエルと一緒に応援するよ」

 

「俺、マルフォイじゃなくてハリーががシーカーになることを願ってるよ。ザビニもレギュラーになってくれ」

 

 ロンはハリーにそう言った。ロンもハリーたちだけでなく、ロンなりにスリザリンに対して歩み寄ろうとしていた。

 

「もしお前らがレギュラーだったら……グリフィンドールの試合ではグリフィンドールを応援するけど……スリザリン対レイブンクローとかなら、スリザリンを応援してもいいかなって気になるし」

 

「何か悪いものでも食べたの?」

 

 ハリーは気恥ずかしくなってロンにそう言った。

 

「茶化すなよ!良いことを言ったつもりなんだから」

 

「私たちも応援に行くわ。頑張ってね、ハリー、ザビニ」

 

「いや待て。お前死ぬ気かグレンジャー?」

 

 ザビニは恐ろしいものを見る目でハーマイオニーを見て止めた。ハリーは案を出した。

 

「透明マントを貸すよ。二人は少し暑いだろうけど、マント越しに見てくれると嬉しいかな」

 

「ありがとうハリー。暑さに関してはなんとかするわ。魔法があるんだもの」

 

 こうしてハリーとザビニは、アズラエル、ロン、ファルカス、ハーマイオニーの四人から応援されることになった。ハリーは少し重圧を感じていた。誰かから期待されるのは、ハリーにとってはじめての感覚だった。これほど勝ちたいと思ったのははじめてかもしれない。ハリーは迫り来るブラッジャーをかわしながら、ザビニを相手にして調子を上げていった。

 

 

***

 

「ザビニにも、ハリーにも勝ってほしいね」

 

 ファルカスはハリーとザビニの練習を見ながら、アズラエルと話をしていた。ザビニのクイーンスイープがハリーのニンバスを抜き、丸いリングにゴールを決めていた。

 

「こればっかりは運も絡みますからねえ……僕は地上から見上げながら、二人の勝利を祈るしかできません」

 

 アズラエルは普段通りの笑みを浮かべて練習を見守っていた。アズラエルはハリーのニンバスを見ていた。ニンバスが活躍すればするほど、アズラエルの会社の宣伝になる。アズラエルもまた、ハリーの勝利を望んでいた。

 

「もしも。もしもだよ?もしハリーが勝ったら」

 

 ファルカスは周囲を見回して人がいないのを確認してから、小声でアズラエルに言った。

 

「スリザリンの中で、ハリーがトップに立てるんじゃないかな?」

 

 ファルカスは純血主義を持っている。持ってはいるが、かつては闇祓いを輩出した家の子供だ。スリザリンの中でデスイーターの子供が大きな顔をすることを、あまりよく思っていないようだった。

 

(気持ちは分かりますけどねえ……)

 

 アズラエルは暖かい目でファルカスをなだめた。

 

「そんなに甘い話じゃあありませんよ?去年のシーカーを忘れたんですか?」

 

 去年のスリザリン·チームのシーカーは、グリフィンドールとの試合ではあまり良い結果を残せなかった。スリザリン内部の力関係はそう簡単に覆るものではないことを、アズラエルはよく知っている。

 

 

「……それはそうだけど……ニンバス2001のアドバンテージもあるしさ……」

 

「コーマックもニンバスですよ。勿論ニンバス2001の方が性能は上ですけど、絶対に勝てるとは言えません。何よりも、ドラコはハリーが絶対に勝てるような相手じゃないでしょう。経験値の差を考えれば、ハリーが不利まであります」

 

「何よりも、ハリーにその気が無さそうですからねえ。ハリーは優しすぎますから。ドラコに勝ったとしても、ドラコを立ててトップを任せるんじゃないですかね」

 

「……そうか、それなら仕方ないね……」

 

 アズラエルの言葉に、ファルカスは残念そうに頷いた。それでも、ファルカスの中では期待が渦巻いていた。

 

(ハリーなら、スリザリンを変えられるんじゃないかな)

 

 英雄としての名声、純血名家のブラック家の後ろ楯。ハリー自身は純血ではないし純血主義でもないが、そこにシーカーという地位まで加われば、ハリーの意見を聞く人間も多くなる筈だとファルカスは持論を展開していた。それに相槌をうちながら、アズラエルはハリーやザビニの練習を見守っていた。

 

(でもそれ、ハリーにメリットがありませんよね?)

 

 内心で、そんな面倒くさいことをする奴はこの世にいないだろうと思いながら。

 

***

 

 土曜日の朝、ハリーは自分が何を食べたのか覚えていなかった。味のしない朝食をザビニと共に胃に流し込むと、ハリーはニンバスを抱えてクィディッチ競技場に向かった。競技場にはスリザリン内部のクィディッチ志望者が集まっていた。三十人以上も集まっていた志望者の中には、五年生のリカルド·マーセナスもいた。リカルドの近くには、変身呪文の参考書を握りしめたマクギリス·カローやイザベラ·セルウィン、一年生のイーライ·ブラウンの姿もあった。彼らはクィディッチの趣味はないが、友人を応援しに来ていた。イーライはカローの援助を受けて小綺麗になっていた。その他にも、志望者たちの友人もグラウンドに駆けつけていた。大勢のスリザリン生が、今日の選抜に関心を持っていた。

 

 ハリーがグラウンドの脇を見ると、アズラエルとファルカスがいた。二人の隣には、透明マントに身を包んだロンとハーマイオニーがいる筈だった。

 

 ハリーとザビニは念入りにアップを取った。アップを取っている間、カシャカシャという音がしても無視した。ロックハート先生とコリンは、共にスリザリン·チームのレギュラー選抜を見にきていた。

 

 ハリーやザビニと反対側では、ドラコが入念にアップを取っていた。その表情に普段の高慢さはなく、真剣そのものだった。ドラコの近くにはビーターを志望しているクラッブとゴイル、ドラコの応援に来たパンジーや、それに付き合わされたダフネ、トレイシー、ミリセントなどの姿もあった。

 

 グラウンドを走り回り体があたたまってきたところで、クィディッチ·チームのキャプテンであるマーカス·フリントがやってきた。フリントは体格が大きく、山のような威圧感があった。

 

 

「よく来たな、クィディッチ馬鹿ども!」

 

 フリントは大声で威圧するようにスリザリンの生徒たちに言った。スリザリンのキャプテンでありレギュラーのチェイサーでもある彼は、クィディッチの勝利に並々ならぬ執念を燃やしていた。彼は、大演説をぶちかまして選手たちを鼓舞した。

 

「今日は栄光あるスリザリン·クィディッチ·チームのレギュラーを決める日だ!!普段は小さな恨み辛みを飲み込んで、仲良く寮の仲間として楽しくやってる俺らだが、今日は日頃の恨みを存分にぶつけ合え!!俺たちは全員が敵だ!」

 

 どよめく志望者たちを前に、フリントは杖を背後のグラウンドに向けた。

 

「ウィンガーディアム レヴィオーサ!!」

 

 フリントが呪文を唱えると、グラウンドの土が浮かび上がった。その土に隠されていたものを見て、グラウンドに集まった生徒たちは歓声をあげた。グラウンドには、ピカピカに磨かれた新品の箒が七本隠されていた。

 

「ここに七本の箒がある……!!クィディッチ馬鹿どもに改めて説明は要らねえだろう!ニンバス2001だ!」

 

 大盛り上がりの志望者たちのなかで、フリントは声を張り上げた。

 

「OBのルシウス·マルフォイ氏がこいつをチームに寄贈してくださった!!スリザリンのレギュラーには、こいつを駆る名誉が与えられるッ!!喜べ馬鹿ども!全力でライバルを蹴落とせッ!!そしてこの箒を手に入れて見せろ!!」

 

 クィディッチ競技場の気温は、一気に1℃ほど上昇した。しかしその中で、シーカー志望者たちの熱気は急速に冷めていた。

 

(要するに、ドラコに良いところで勝たせろって訳ね……ハイハイ、分かりましたよフリント先輩)

 

 リカルド・マーセナスをはじめとしたほとんどの選手が、シーカー選抜が形だけの選抜試験だと諦める中、ハリーとドラコだけが闘志を燃やしていた。

 

***

 

「おい。幾らなんでもあれはズルだろ」

 

 ロン·ウィーズリーは透明マントの下から、アズラエルとファルカスに突っ込みを入れた。

 

「あれってどう考えても、マルフォイを勝たせろっていう指示よね?いい箒を揃えてお金の力で勝とうなんて、恥ずかしくないの……?」

 

「僕も選抜を受ければ良かったかなあ…ニンバスかぁ…」

 

 ロンとハーマイオニーが憤慨し、ファルカスが試験を見送ったことを後悔する中で、アズラエルは笑って言った。

 

「勝つためにより強いチームを作るのは当たり前じゃありませんか。箒の性能だけで勝てるほど、クィディッチは甘くありませんよ。スリザリンはあくまでも勝つために全力を尽くしているだけです」

 

(……まぁ。あそこまで露骨なことをするとは思いませんでしたけど……)

 

 アズラエル自身、まさか七本もニンバス2001を揃えてくるとは思わなかった。キーパーやビーターは安定感重視で別の遅めの箒を選ぶだろうと思っていたし、ルシウスが七本、ドラコの分も含めれば八本もニンバスを購入したのは予想外だった。

 

(……まぁ。こうなったら居直るしかありませんねぇ)

 

 アズラエルは二人にスリザリンのやり方を知ってもらおうと思った。気持ちいい筈もない。二人はスリザリンに失望しているだろう。だが、それで友情が壊れるほどではないとアズラエルは思っていた。

 

「やり口が汚えよ……」

 

「そうでしょうか?ニンバスが七本もあるということは、テストでもみんながニンバスに乗れるってことです。みんなの箒を見てください。ハリーやドラコはニンバスですが、他はクイーンスイープでしょう。スリザリンの希望者たちは、限りなく公平な条件で試験を受けることができるんですよ」

 

「慣れ親しんだ箒以外にいきなり乗っても全力を出せるわけないだろ」

 

「それができなきゃレギュラーなんて夢のまた夢、ですよ」

 

「納得いかねぇ……」

 

ロンは透明マントの下でうめいた。グリフィンドールをはじめとしたほとんどのチームは今年、スリザリンへの勝率を著しく下げるだろう。

 

「何とでも仰って下さい。箒の性能で勝ったと言われるなら、うちの会社としてもこれ以上の名誉はありませんよ」

 

「アズラエル、あなた無敵?」

 

 ハーマイオニーはスリザリン的な価値観を好きになることはできなかったが、堂々と居直ったアズラエルには畏怖の念を持った。

 

(こういう面の皮の厚さがなければ、企業の経営なんてやっていけないのかしら……)

 

 清廉潔白とは程遠い社会の縮図を見る思いで、ハーマイオニーたちは選抜試験を見守っていた。

 

 

 

***

 

 当事者であるハリーは、真剣に選抜に挑んでいた。最初の試験は、箒による短距離飛行。次が長距離飛行だ。

 

 短距離飛行開始の合図を告げるのはフリントだ。フリントは杖を空高く掲げると、ボンバーダと唱えた。爆音が響き渡る中を、ハリーは最高のスタートを切った。

 

 ハリーは夏休みの間、セドリック·ディゴリーや双子のウィーズリーらと競いあって、彼らから技術を盗もうと奮闘していた。その全てを盗めたわけではないが、箒をどう傾ければ最も速度が出るのか、ハリーは体感的にわかるようになっていた。

 

 短距離飛行の勝者はハリーだった。ドラコはハリーよりもほんの一瞬遅れてゴールに到達し、そのあとからマーセナスたちが到着した。

 

 

***

 

「やっぱりこれって八百長じゃねえか?」

 

「いや、真面目にやってる人もいますよ。マーセナス辺りは怪しいですけど」

 

「二人ともクィディッチに詳しいのね……」

 

「僕たちは子供の頃からクィディッチの試合を見てるからね。本気か手を抜いているのかは遠目からなら必ずわかるよ」

 

 短距離飛行を遠目で見ていたロンは、一人の生徒が開始の瞬間、わざと出遅れたように見えた。ハリーもドラコも、ロンに比べれば格段に箒の扱いがうまい。その上、ニンバスの扱いには慣れている。ほとんどの選手と比べても優れた選手だとは思う。わざわざ手を抜かれなくても勝っていたかもしれない。

 

 それでも、露骨に手を抜いている人間がいる試験を見るのは胸糞が悪かった。ロンはハリーとマルフォイに同情した。

 

(飛んでて気持ち良くないだろうな)

 

***

 

 

(腐れポッターめ……勝ってるんじゃねえよ……!!)

 

 試験を見守っているマーカス·フリントは気が気ではなかった。良いところまで競り合った上で、気持ちよくドラコに勝たせて自信をつけた上でシーカーとして迎え入れる。それがフリントの作戦だった。そのために、事前にサクラも用意してあった。スリザリンの生徒ならば、本物の挑戦者であってもシーカー選抜がドラコを勝たせるためのものであることは察せる筈だった。

 

 

 しかし、ハリーは違った。ハリーは試験に漂う雰囲気を察しても、あえてその道を選ばなかった。ハリーの頭の中にあるのは飛べることへの喜びと、勝つための飛び方を想定し、それを出力することだった。

 

 

 しかし、フリントにとってはそれでは困るのだ。万が一ドラコが負ければ、ルシウス氏を怒らせるかもしれない。ニンバスを取り上げられるだけならまだしも、キャプテンのフリントがルシウス氏に目をつけられて責められたり、最悪の場合は家族に圧力をかけられる恐れもあった。最悪の最悪はフリントの学友たち……クィディッチ·チームの家族にまでその害が及ぶことだ。

 

(こうなったら……)

 

 フリントは用意しておいたサクラと、いい成績を残していたリカルド・マーセナスに目で合図を送った。

 

(ポッターを潰せ)

 

 リカルド・マーセナスは去年、ハリーに悪事を暴かれてスリザリン内で立場をなくしていた。ハリーには恨みがある筈だった。

 

(どんな手を使うかはどうでもいい。とにかくポッターを潰して、マルフォイを勝たせろ!!)

 

 フリントは必死にそう念じながら、長距離飛行の開始を告げた。

 

「ボンバーダ(爆発しろ)!!」

 

***

 

 

 長距離飛行の序盤は、ドラコの独走だった。ドラコは短距離飛行の敗北を取り返そうと、普段より早いペースで箒を飛ばした。

 

 ハリーは終盤に向けてペースを維持しようとした。しかし、そんなハリーの前には、見知らぬ生徒……フリントの用意したサクラが、後ろにはリカルド・マーセナスがくっついていた。彼らはハリーがスピードを出そうとすると、その動きを妨害し、ハリーに速度を出させないようにした。

 

(邪魔だな。そうだ。風避けになってもらおう)

 

 しかし、ハリーにとっては彼らは驚異ではなかった。双子のウィーズリーやセドリックに比べれば、彼らの動きは稚拙そのものだ。ハリーは箒を操って前の生徒の陰に入り、風による抵抗を極力少なくした。

 

「くそ、ポッター!邪魔なんだよ!!お前はいつも俺の邪魔をしやがる!」

 

 マーセナスはハリーを止められないことに焦り、手でニンバスの先端を掴んでハリーを妨害しようとした。

 

 ハリーはスルリと箒を動かして勝負に出た。彼はハリーの箒を掴みそこね、バランスを崩して箒から落ちた。マーセナスは見学していたマクギリス·カローの浮遊呪文によって事なきを得た。

 

 ハリーは箒を傾け、全速力を出した。序盤から中盤にかけて体力を温存したハリーは、序盤に飛ばしたドラコとの差をみるみるうちに縮めていく。観戦していたアズラエルたちは歓声を、ドラコを応援していたパンジーたちは悲鳴をあげた。

 

 最終的に、ハリーとドラコは同着だった。二人は荒い息をしながら睨みあった。

 

「…………ど素人にしては……やるじゃないか、ポッター!」

 

「勝ったと思ったのに……君は本当に強いね……!!」

 

 互いに睨み会う二人に対して、フリントが声をかけた。

 

「ドラコ。それからハリー。水分補給してしっかり休憩しろ。五分たったら、二人でスニッチ探しをしてもらう。ブラッジャーも出す!!先に見つけた方がシーカーだ。わかったな!」

 

「「ハイ!!」」

 

 二人はほとんど同時に返事をして、すぐに自分の仲間のところに戻った。最後の勝負に向けて、作戦を見直さなければならなかった。

 

***

 

「気を付けろハリー。何か変な妨害をされるかもしれねぇぞ。さっき、金髪の選手がお前の箒を掴もうとしてきた!」

 

「あんな不公平な試験なんてないわ!あなたが勝っていたかもしれないのに……!!」

 

 ハリーはファルカスからタオルを受け取り、レモン入りの冷えた紅茶をザビニから受け取ってお礼を言った。そんなハリーに、ロンとハーマイオニーは警戒を促した。

 

「うん、知ってる。あのマーセナスって人はそういう人なんだ」

 

 ハリーも試験が仕組まれていることには気がついていた。しかし、それを言っても始まらなかった。ハリー側で事前に下準備し、対策をできなかった以上は、どれだけ不服でもその流れに乗るしかない。それがスリザリンの流儀だからだ。

 

「え、そうなのか……?」

 

「一年前に色々あってな。個人的に恨みを買ってるんだよ」

 

 ロンは困惑した様子だった。そんなロンに対してザビニは諦めた声を出した。ファルカスはハリーにプレッシャーをかけないようにと黙ってハリーからタオルを受け取った。

 

「何か細工をするなら、スニッチかブラッジャーか……あるいは、その両方です。ハリー、気をつけて下さいね」

 

「いいや違うね」

 

 ハリーはきっぱりと言った。

 

「僕が警戒すべきなのは、ドラコだ」

 

***

 

 フリントが三度目の花火をあげた。それと同時に金色のスニッチと、暴れるブラッジャーが解き放たれた。

 

 ハリーとドラコは開始と同時にスニッチに飛び付いた。実際の試合とは違い、フィールド上空には他の選手はいない。二人はすぐにスニッチを追いかけることができた。

 

 と、その時、異変が起きた。不規則な軌道を描いていたブラッジャーが、突然ハリーだけを狙い出したのだ。

 

 

「うわっと!?」

 

 ハリーは上空から降り注いだブラッジャーをほとんど勘でかわした。そのすぐあとに、ブラッジャーは軌道を変えてハリーに襲いかかる。

 

 

 ドラコは一瞬、スニッチではなくハリーの声に反応してハリーの方を向いてしまい、スニッチを見失った。そして、ドラコは見るべきではないものを見た。不規則な動きをする筈のブラッジャーが、ハリーだけを狙っているではないか!?

 

(こ……これ、は……)

 

 ドラコは急いでフリントを見た。フリントは手に杖を持っていたが、ブラッジャーを止めようとはしない。フリントの顔は驚愕に染まっていたが、ドラコの位置からはその表情までは見ることができない。ドラコには、フリントがブラッジャーを操ってハリーを襲っているようにしか見えなかった。

 

 

(まさか……もしかしたら、今までの試験も……!?)

 

 ドラコの頭の中で、疑念が一気に膨れ上がった。休憩時、ドラコはスリザリン生たちから激励を受けていた。付き合いの長いドラコには、彼らが本気で言っているかどうかはわかる。パンジー以外の生徒は、どこかドラコに対してよそよそしかった。

 

(先頭にいた僕には分からなくても、試験に何か細工があって、外から見ていた彼らの目にはそれが見えていたのかもしれない)

 

 不幸なことに、ドラコはその考えが思い浮かぶほどに地頭もあった。

 

 ルシウスがレギュラー全員に箒をプレゼントしたことは、ドラコにも予想外だった。ドラコはクィディッチでシーカーになりたかった。ドラコはクィディッチに憧れを持っていた。自分自身の技量で勝利を掴みとるシーカーになり勝てば、ドラコはマルフォイ家のドラコではなくて、ドラコという自分自身を見てもらえるのではないかと思っていた。

 

 どんな手を使っても勝ちたいという気持ちと同時に、自分の実力で勝ってその座を手にしたいという願いもあった。同じニンバス2001を持っているハリーが相手なら。公平な条件での勝負の末に、その願いが叶えられていたかもしれなかった。

 

 しかし、ドラコの目の前にはどこまでも残酷な現実が広がっていた。ドラコは涙のにじむ目でスニッチを探した。父親の期待に、応えるために。

 

***

 

 

 試合を観戦していたマクギリス·カローは、ハリーだけを狙うブラッジャーに不快感を示していた。

 

「誰だか知らないが、なぜ真剣勝負の邪魔をする?どうしてフリントは勝負を中止にしない?」

 

 カローは純血主義の過激派であるが、スリザリンの監督生としてスリザリンと、後輩たちを心のそこから愛していた。彼は、不純な形での決着など望んではいなかった。親友のマーセナスがハリーを妨害しようとしたことにも気がついていなかった。

 

「ええい。誰も止めないならば私が止めよう!!プロテゴ(護れ)!!」

 

 カローの成績は、監督生たちのなかでは悪い。彼もそれを認めていて、自分の成績を誇ることはしない。

 しかし、彼は決闘術に関してはそこそこの実力があり、盾の呪文も習得していた。カローは躊躇なくそれを使い、ハリーを無粋な妨害から守ろうとした。

 

「ちょっと待って。マッキー、空気読んで~!」

 

 イザベラ·セルウィンの制止も聞かず魔法を使ったカローは驚愕することになる。狂ったブラッジャーは、プロテゴの護りをすり抜けてハリーを狙い続けたのだから。

 

***

「ザビニ。君はここで準備運動をしながらウィーズリーたちと一緒にいて。アズラエル。僕らは会場を動き回って、怪しそうな人がいないか探そう!」

 

 

「やりますか、ファルカス!!」

 

 ファルカスとアズラエルは、ハリーを狙う犯人を探して動き回った。しかし必死の捜索も虚しく、ハリーを狙い呪文を使っている相手を見つけることは出来なかった。

 

***

 

 ハリーは大粒の汗を滝のように流しながら、ブラッジャーをかわし、スニッチを探し続けていた。ハリーの頭の中に驚愕はない。覚悟はできていた。今のハリーは、ドラコとスニッチのことしか頭にない。

 

 

 片足で箒からジャンプし、迫り来るブラッジャーをかわしたハリーは、ゴールリングの陰に光を見つけた。

 

(……行くか、いや……!!)

 

 ハリーはドラコを警戒していた。暴れ狂うブラッジャーがある状態でハリーが動いても、ドラコに勝つことはできない。ドラコをスニッチから遠ざけなければ。

 

 ハリーは賭けに出た。スニッチを見つけたふりをして、ハリーはその場から急上昇した。

 

 ドラコはそんなハリーに釣られて上を見た。そして、箒を上空に傾ける。

 

(ここだ!!)

 

 ハリーはドラコの箒が上向いた瞬間、急ブレーキをかけて箒の上昇を止めた。ドラコの箒は上昇しようとする。

 

「うぉおおおお!!」

 

 ハリーは負荷に耐えながら箒を回転させてスニッチのある方向に向きを変える。高い追従性のあるニンバスの性能に頼りきった芸当だ。お世辞にも誉められた動きではない。

 

 スニッチへと向かうハリーを、ブラッジャーが下から狙う。ハリーはとっさに箒を左に傾けて回転しながらそれをかわす。一瞬の間に、スニッチを見失う。

 

(スニッチは!?)

 

 ハリーはスニッチが、ハリーの側を横切ったような気がした。反射的に上を向く。金色の太陽のような玉が、ドラコの手に向かって進んでいく。ブラッジャーはドラコに近づくが、ドラコからは逸れていく。

 

 ハリーは再度箒を急上昇させて、必死で箒を飛ばした。上空で待ち構えていたドラコの顔が驚愕に染まり、自分も箒を傾けてスニッチに向かう。

 

 ハリーの視界が暗転する。ハリーが左手を伸ばした先に、スニッチと……ブラッジャーがある。ハリーは左手の砕ける音を聞きながら、スニッチの羽根を掴んだ。

 

 

「そこまで!!そこまでだ!!し、勝者は……ドラコ·マルフォイ!!」

 

 紙一重の差で、勝利の女神はドラコへと微笑んだ。ハリーの左手には敗北の証である羽根だけがあった。ドラコの右手には、勝利の証である金色の球が握られていた。

 

 歓声の中のドラコの顔は、勝者のものではなかった。ドラコは蒼白な顔で、ハリーと、手の中のスニッチを見返していた。

 

 

「……おめでとう、ドラコ」

 

 

「君の勝ちだ」

 

 敗北したハリーは、敗者としてドラコを讃えた。ハリーの声は震えていた。悔しさで泣きそうになりながら、必死でドラコを讃えていた。そんなハリーやドラコをカシャカシャと撮影していたコリンは、ザビニやアズラエルに殴られそうになっていた。

 

「何がだ!僕をバカにしているのか!こんな、こんな、勝ち方で……!!」

 

 ドラコはハリーに殴りかかりそうな勢いでハリーにつめよった。

 

「君は僕に勝ったんだぞ!!勝ったならそれらしくしろよ!何なんだよその顔は!!勝った方が正しいんだろう!!それが僕らのルールなんだろう!!だったらそんな顔をするなよ!!君に負けた僕は何なんだよ!」

 

 ハリーも怒っていた。八つ当たりにも近いものがあった。

 

 ハリーはドラコに勝ったと思った。全力を尽くして、ドラコを罠にはめたと思った。だがハリーの作戦は失敗し、最後まで諦めなかったドラコの手にスニッチがもたらされた。その結果が全てだった。クィディッチ競技場にいる人間の中で、ハリーだけが本気で敗北を認めて悔しがっていた。

 

(このままじゃ終われない)

 

(まだ僕は飛べる。飛べるんだ!!)

 

 ハリーの頭の中では、自分への怒りとアドレナリンが渦巻いていた。ハリーは断固たる決意で言った。

 

「僕はチェイサーの試験を受ける。退いてくれ、ドラコ」

 

「何を言ってるポッター!お前は今すぐ医務室に……」

 

「クィディッチに退場はないでしょう!!怪我をしたからって、飛べる限りは飛び続けなきゃいけないんだ!!僕は絶対に、試験を受けます!負けたままで終わることなんてできない!!」

 

「……言うじゃねえかクソガキ!!おい野郎共!こいつに負けるんじゃねえぞ!左手が使えないやつに負けたとあっちゃあスリザリンチームの名折れだぜ!!」

 

 

 結局、ハリーは周囲の人間が恐れおののき、チェイサーの面々から敵視される中で、折れた左腕のままチェイサーの試験を受けた。そして、カシウス·ワリントンを精神的に責め立て、執拗に狙って彼からレギュラーの座を奪い取った。ハリーはスリザリンチームの試合を見ていて、フリントやピュシーに比べてワリントンの技量に穴があることを見抜いていた。無論ハリーもそうで、まだまだ向上の余地があった。

 

 

 

 ハリーは自分のレギュラー入りが決まった直後にアドレナリンが切れて倒れかけ、ザビニに支えられて倒れずにすんだ。医務室に向かうザビニとハリーのもとに、ギルデロイ·ロックハート先生が出現した。

 

「全く、君には驚かされましたよハリー!腕はひどいことになっているでしょう?私が直してあげましょう!」

 

「いえ、先生。そのお言葉だけで結構です」

 

 ハリーたちの顔色が一瞬で悪くなった。ロックハートが呪文に成功したところは見たことがなかった。

 

「遠慮するものではありませんよ!それ~」

 

「「……プロテゴ(護れ!)!!」」

 

 ハリーに向けて杖をふったロックハートの呪文を、マクギリス·カローやイザベラ·セルウィンのプロテゴが防いだ。ロックハートは反射された魔法によって骨抜きになった自分の右腕を抱えて、ハリーたちはスリザリン生たちの爆笑の渦の中で、笑いながら医務室に向かった。

 





スリザリンの美徳に従えばドラコにもルシウスにも何の落ち度もない。
しかしそこに思春期少年のスポーツへの憧れと友情をIN!!
ドラコのプライドはもうズタボロ。
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