このままじゃ青春スポコンものになってしまう……!!
せや!本編に戻したろ!
ハリーは医務室でマダム·ポンフリーからきつくお叱りを受けた。
「この短期間に二度も運ばれる子がありますか!」
「申し訳ありません、マダム·ポンフリー」
「怪我は魔法で治るとはいえ、体に悪影響がないわけではありません!今晩はここで眠りなさい。体を休ませなければいけません」
マダム·ポンフリーはあっさりとハリーの腕を治してくれた。ハリーの左腕の骨は砕けて変な方向に曲がり、肉はぐちゃぐちゃで血が滲んでいたが、彼女の杖は何でもないことのようにハリーの腕を治してくれた。筋肉が戻り骨がくっつくときに、少しだけ痛みはあったが。
「結局、ブラッジャーの犯人は分からずじまいでした……」
「虱潰しに怪しい奴がいないか探したけど、怪しそうなやつはいなかったぜ。グリフィンドールの赤毛女がいたと思ったらウィーズリーの妹だったし」
ザビニたち五人はハリーの見舞いに来てくれた。ハリーは五人から称賛と心配の声を受けた。
「あのう……ハリー?」
ハーマイオニーは心配そうな顔で言った。
「あそこまでする必要があったの?あんなことまでしてスニッチを追って、折れた腕で空を飛ぶ必要が……」
ハーマイオニーはハリーを心配して左腕を見た。
「ハーマイオニー、これは理屈じゃないんだよ」
ハリーはハーマイオニーにクィディッチの魅力を説明するということは難しいと思った。空を飛ぶことが出来るなら他に何も要らないという自分の感情は、およそ合理的とはいえないものだったからだ。
「今日一日眠ったら、明日には退院なんだろ?」
ロンはハリーを気遣ってかなるべく明るく言った。
「だったら、ゆっくり休んで疲れを取れよ。明日また図書館で会おうぜ」
「そうだね。ありがとう皆」
そして話題は、ハリーを狙った謎のブラッジャーについての話になった。六人の視線は、隣のベッドのカーテンの中で必死に痛みに耐えている教師に向けられた。
(……クィレルの時の例に習うならロックハートが怪しいけど)
ハリーは右手の人差し指でロックハートを指差し、人差し指を口にあてた。
(疑ってることは知られないほうがいい)
五人はこくりと頷くと、
「俺、スリザリンの上級生がハリーを守ろうとしてたところを見たぜ」
ロンが言った。
「あれはプロテゴよ。大抵の呪文なら防げる筈の魔法だけど……ブラッジャーには通用しなかったわ」
ハーマイオニーはことの深刻さを理解していた。謎の存在は、クィレルと同じようにカース級の魔法を使ってハリーを狙ったのだ。
「もしかしたら……ドビーかもしれないけど……」
ハリーは慎重に考えていった。
「あの子は僕を危険な目に遭わせたくないみたいだった。となると、別の奴が怪しいと思う」
五人はもう一度カーテン越しにロックハートを見ると、ごくりと唾を飲み込んだ。ハーマイオニーは何やら葛藤があるようで、何度もロックハートとハリーを見て首を振っていた。
「俺はここに残るぜ。ハリーを一人にしておけるかよ」
「ザビニ一人じゃ心配だ。俺も残るよ」
ロンとザビニは残ってロックハートを見張ると言い出したが、マダム·ポンフリーはそれを許さなかった。
「バカを言ってはいけません!ここは怪我人が来るところですよ!さぁ、さっさと帰りなさい!!」
「でも先生、ハリーは異常者に狙われてるかもしれないんです」
「ハリーはプロテゴでも防げない魔法で狙い撃ちされたんです」
「つまらない妄想も大概にしなさい!!さぁ、帰った帰った!!」
ザビニたちはしつこく嘆願したものの、マダム·ポンフリーに追い返された。彼女はハリーを休ませるために手段を選ばなかった。
「さぁ。お薬ですよポッター。すぐに眠ることができます。安静にしていなさい」
こうして、ハリーはすぐに医務室に来なかった罰として、左腕をギブスで固定した上で一晩は医務室で大人しくするように申しつけられた。隣のベッドにいたロックハートは、自分の雑な呪文がはねかえったことで片腕の腕の骨がなくなってしまい、それを再生させる痛みにうめいていた。ハリーの中でロックハートに同情する気持ちが生まれかけたが、先輩たちがいなければ痛みで呻いていたのはハリーだ。
(ありがとうございます、カロー先輩、セルウィン先輩。どんなお礼をすればいいのかな……ザビニに相談してみようかな)
(…………ドラコに勝ちたかったなあ…………あそこで回転しなければ……あそこでもう少し箒を早く飛ばせたら……もう少し……)
選抜試験に落ちたザビニの前で泣くことはできなかった。ハリーは悔し涙で枕を濡らした。
薬の影響か、ハリーの思考は曖昧になっていた。ハリーは悔しさで目に涙を浮かべながら、医務室の中で眠りについた。ロックハートの呻き声が子守唄のようにハリーを夢の中に誘ってくれた。
ハリーは自分の顔がむず痒くなる感覚で目を覚ました。覚醒したハリーの鼻先に、誰かの手が見える。しわしわで老人のように萎びているのに、子供のように小さな手だった。
「うわっ?!」
ハリーは飛び起きようとして、左腕がうまく動かないことに気がついた。右手でベッドの脇に置いておいた杖を取ろうとする。
「ハリー·ポッター!ああ、お目覚めですか……!」
ハリーが身を起こすと、両手の指に包帯を巻いたハウスエルフがハリーを見て目を潤ませていた。
「あ、ああ、君か、ドビー。……久しぶりだね。君はもしかしてここで働いているの?」
ハリーは内心で動揺をおさえて言った。少なくとも寝起きでは見たくない顔だった。
「いえ違います。ドビーめは……」
ドビーは自分の主人を明らかにしようとして、はっと口をつぐんだ。ハリーは気分が悪くなった。
(不法侵入じゃないか……いや、去年シリウスもやったけど……)
ハリーはドビーに対しての疑惑が胸の中から沸き上がってくるのを止められなかった。
(何で僕が怪我をしたことを知ってるんだ?)
ハリーはドビーに対して、可能な限り親切に接した。寝起きの頭では閉心術もままならないが、ハウスエルフをあまり怒らせるべきではないと思って優しくした。心の底からのものではなくて打算的だったが、ドビーは涙を流して喜んだ。
そしてドビーは、自分がホグワーツ特急を止めて、ブラッジャーを操ったことを白状した。全てはハリーを護るためにだと言った。その姿がコリン·クリーピーにも重なって、ハリーはドビーに対しての殺意が沸き上がってくるのを感じた。
(僕たちの勝負を君が邪魔したのか?!)
ハリーはドビーへの怒りで頭がおかしくなりそうだった。クィディッチへの敗北も、スリザリンの流儀に従って負けたのだと自分を納得させていたところに、自分のせいで誰も得しない結果になったのだと言われたようなものだった。
「ドビー。今すぐ僕から離れたほうがいいよ。僕の右手には杖があるんだ。君を焼いてしまうかもしれない」
ハリーは今すぐインセンディオでドビーの目を焼きたいと思った。それをしなかったのは、隣にロックハートが眠っていたからだ。ロックハートは先生としてハリーを止めてしまうだろう。医務室という場所も悪い。マダム·ポンフリーに迷惑をかけてしまう。
(…………この子は……!!)
ハリーは必死で怒りをこらえた。ドビーから何でそんなことをするのかと問い質す前に、まずはもうハリーのために何かするのをやめろと諭した。ドビーは頷いたが、ハリーはドビーのことを全く信用できなかった。コリン·クリーピーもその場ではハリーの言葉に頷く。暫くすると、新しい理由を引っ提げてハリーたちに害をもたらしてくるからだ。ハリーの中では、コリンとドビーは同じくらいに迷惑だった。
ハリーがドビーへの殺意を最後までこらえることができたのは、ドビーがハリーの心の底からではない社交辞令のような優しさにすら涙を流して喜んだからだ。その優しさに飢えた姿があまりにも可哀想で、ハリーは杖を出すタイミングを見失ってしまった。
ドビーは最後に、ハリーに警告をした。
「お気をつけ下さい、ハリー·ポッター!秘密の部屋は開かれてしまいました……!!ホグワーツには危機が訪れます!!」
「僕にとっては君のほうがよっぽど―」
危険だよ、というハリーの言葉を聞く前に、ドビーは姿を消してしまった。ハリーは腹の虫が収まらないまま、ドビーの言葉の意味を考えていた。
***
(一体、彼らは何の話をしてるんでしょうね??)
カーテン越しに、ギルデロイ·ロックハートはドビーとハリーの話を聞いていた。ロックハートは骨を生やす痛みのせいであまり眠ることができていなかった。ハリーと五人組の会話も、ドビーとハリーのやり取りも聞いて何か良くないことが起きていることを把握していた。
(ま、さか本当に、ホグワーツに良くないことが起こっているとでも……)
ロックハートは内心で恐怖した。とうとう自分も年貢の納め時になるのかと身を震わせた。
監督生たちにプロテゴで呪文を跳ね返されたとき、ロックハートは自分がDADA教師が受ける呪いにかかってしまったのかと思った。かつてロックハートはOWL、そしてNEWTでいくつもの科目をOでパスした。昔のロックハートであればハリーの腕を治すことなど訳もなかった。しかし、ロックハートは大人になり、既に学生時代の記憶も朧気だ。かつて学んだ魔法の使い方を少しずつ忘却し、腕はすっかり錆び付いてしまっていた。
防衛術の仕事を受けるのであれば、シリウスのように腕を鍛え直し、学び直し、万全の体制で受けるべきだった。しかし名声を得たロックハートは慢心からそれをしなかったのだ。
(ま、まさか……まさか、この私を狙って?!)
ロックハートは恐怖した。ロックハートには誰にも明かせない秘密があった。その過去が、忘れ去った筈の罪が、ロックハートのことを思い出して狙ってきたのではないかと思った。
(こ、こんな筈では……ホグワーツで信頼と名声を獲得し、新しい仕事に向けて若い素材を確認する筈だったのに……!!)
ホグワーツの仕事を望んだのも、次の自分の仕事のために必要な素材を探すためだ。魔法の実力があり、何か功績を立てそうで、かつ魔法以外の才能に乏しい隠れた逸材。そういう人間を見つけ、交流を持っておいて……何年か後に育ちきった後で仕事をするつもりだったのだ。
ギルデロイ·ロックハートの鍍金はわずか一月も経たないうちにはがれ落ちようとしていた。
(……落ち着くのです……私はこんなところで終わる男ではない…ここはホグワーツ。復讐者もダンブルドアの庇護の下にある私を狙う筈がない。…私は何も聞かなかったし知らなかった。そう、秘密の部屋などというものは頭のか弱いスリザリンの子供たちが作り上げた迷信!!ポッターが狙われているというのも、思春期の子供たちの妄想!私は何も聞かなかった!!明日からまた、私の素敵な一日が始まるのです!!)
こうしてロックハートは沈黙を選んだ。彼はドビーというハウスエルフのことも、ハリーたちの会話も、そして己に迫っているかもしれない破滅への恐怖も全て忘却するという道を選んだのである。ロックハートは己に杖を向けて、いつものように無言で魔法を唱えた。
(オブリビエイト(忘れろ))
(…………おや?私はどうして自分に杖を向けているのでしょう。まぁ、忘れていいことだったんでしょうね)
ロックハートは満面の笑みで眠りについた。すやすやと寝息を立てる彼の顔は作り物のようにとてつもなく端正で、そしてとてつもなく歪だった。
***
ハリーはなかなか寝付けなかった。秘密の部屋というのはいったい何なのか、考えても答えは出ない。ドビーはハリーに必要な情報を明かしてはくれなかった。
(ホグワーツのことだから、どんな危険があったっておかしくはないけど……)
ハリーは去年あった出来事を思い返した。学校にケルベロスやトロールを配置し、毒薬を置くことはマグルの基準なら最低だが、魔法の世界であれば防衛上必要な措置なのだとハリーは理解していた。そういうことがあった以上は、あれよりも危険な魔法や、魔法の道具が秘められた部屋があったっておかしくはない。
ハリーがしっかりと眠るために何回か深呼吸をしていると、医務室の外から足音が聞こえてきた。足音はだんだんと医務室に近づいてくる。
ハリーは布団の隙間をあけて入ってきた人間を見守った。ナイトキャップをかぶったアルバス·ダンブルドアや、ミネルバ·マクゴナガル、そしてマダム·ポンフリーだった。彼らは空いているベッドに石像を置いた。ハリーは胃袋が逆転するような思いがした。
(……コ、コリン·クリーピー……どうして君が……?)
ハリーはマクゴナガル教授が、コリンがハリーにお見舞いをしようとしていたのだと言っているのを聞いた。ハリーにはどうして、という思いがあった。ハリーはコリンにあれだけ冷たく接したというのに。
ハリーは先生たちの会話で、コリンが何者かの手で石にされ、持っていたカメラも焼けてしまっていたことを聞いた。どういうことかと首を傾げるマクゴナガル教授に向けて、ハリーは我慢できずに思わず叫んだ。
「秘密の部屋が開かれたんです!!」
「ポッター?!なぜ起きているのですか?眠りなさいと言ったでしょう!」
ハリーの声に、マダム·ポンフリーは激怒した。マクゴナガル教授は驚いてハリーを見た。アルバス·ダンブルドアですら驚いたような顔でハリーを見ていた。ダンブルドアは手で己の白い顎髭を撫でると、静かにハリーに語りかけた。
「落ち着きなさい、ポンフリー。ハリー。何か知っていることがあるなら、話してくれるかね?」
「……はい、先生」
ハリーは閉心術の初歩を使いながら、ダンブルドアにドビーの一件を説明した。話をしている間中、ダンブルドアの深い青色の瞳は、じっとハリーの緑色の瞳を見ていた。
「先生、秘密の部屋というのは何なんですか?」
「それはー」
「あなたが知る必要はありません、ポッター。この一件は、二年生が関わって良いものではありません。……ハウスエルフが二度と悪さをしないように、城の防衛魔法を見直しておきましょう。それはそれとして、貴方は秘密の部屋という情報を話してはなりません。ええ、絶対にです。あなたがすべきことは、まずはマダム·ポンフリーの言い付け通り眠ることですよ、ポッター」
ダンブルドアが発言する前に、ミネルバ·マクゴナガルが厳格な態度でハリーに釘を指した。ハリーは仕方なく頷き、先生たちがいなくなるとベッドに潜り込んだ。隣にいるコリンのことを考えると眠ることなど出来ないと思ったが、クィディッチの疲労がハリーの精神を闇へと誘った。
***
次の日、ダンブルドアはコリン·クリーピーが何者かの手で石にされたのだと全校生徒の前で告げた。ホグワーツの生徒の間に緊張が走った。コリンの石化は、ダンブルドアですら解除できなかったのだから。
ハリーは次の日から、少しずつスリザリン生以外のホグワーツ生から遠巻きにされ始めた。大勢のホグワーツ生たちがハリーが邪魔なコリンを石にしたのだと思い込んで、ハリーに化け物を見るような視線を向けるようになった。
ちなみにコリンはクィディッチ選抜で撮影した写真を現像して依頼者たちに渡してからお見舞いに来ました。
芸術作品はすぐに形にしたいからね、仕方ないね。