蛇寮の獅子   作:捨独楽

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サラザール·スリザリンは先の時代の敗北者(ガチ)じゃけえ……


必要の部屋と純血主義談義

 

 ハリーたちがマクギリスとバナナージに連れられてホグワーツ城の七階を訪れたとき、『必要の部屋』から出てきたらしい人たちとすれ違った。らしいというのは、部屋らしきものがなにもない空間から二人の上級生が出てきたからだ。

 

 一人はロンの兄で監督生でもあるあるパーシー·ウィーズリー、もう一人は知らないレイブンクローの女子監督生だった。ルナはその女子に会釈したが、女子は返答しなかった。

 

「……ロン?どうしてロンがこんなところに来ているんだ?これは一体どういうことだ、バナナージ」

 

 パーシーはこの場にハリーたちがいることを疑問視し、マクギリスとバナナージにつめよった。パーシーは明らかにハリーやカローたちと引き離したいように見えた。

 

「俺たちがここに呼んだんです。ちょっと必要の部屋で話したいことがあって」

 

 バナナージは穏便にパーシーに対応しようとしたが、ロンはパーシーに噛みついた。

 

「自分こそ何でこんなとこに来てるんだよ。人にうろつくなって言っておいて、自分はいいのか?」

 

「ロン、そういう言い方は……」

 

 ハーマイオニーが慌ててロンの口を塞ごうとしたが、間に合わなかった。ロンは耳まで真っ赤になっていた。

 

「僕たちは監督生だ。下級生を守るために怪しい場所を検分する権利がある。だが、お前は下級生だ。下手にうろついて怪物に襲われでもしたらどうする?さっさと食堂に行け」

 

 パーシーはほとんど高圧的に権威を振りかざして、ロンやハリーを必要の部屋から引き離そうとした。

 

「待ってください、ウィーズリー」

 

 マクギリスはそんなパーシーに対して、己の胸にある監督生のバッジを指し示した。

 

「貴方は失念しているようですが……私たち二人も監督生です。下級生を守るために動く覚悟は持っているつもりですが、我々のバッジでは信頼に値しないと仰るのですか?」

 

「バナナージはまだいい。だが君はスリザリン生だろう。これまで散々僕たちや他の大勢の生徒に対しても過激な言動を繰り返している。すまないが信頼には値しない」

 

 パーシーはバナナージはともかく、マクギリスのことは信頼しなかった。ハリーはそれも仕方ないと思った。マクギリスはスリザリンの談話室で純血主義について堂々と話し、イーライ·ブラウンのような下級生を純血主義に染めていたからだ。スリザリンの中でならまだしも、あの姿を外でも見せていたのなら他所の寮生に好かれる要素が見当たらないと思った。

 

 その言葉を聞いたマクギリスは明確に顔色を変えて、杖に手を伸ばそうとした。ハリーは思わずパーシーに食ってかかった。

 

「ちょっと待って下さい。スリザリン生だからって理由で理不尽な言い方をされて、僕たちが怒らないと思ってるんですか?訂正してください」

 

 相手はロンの兄だ。昨年のクリスマスの時は、ハリーは蛇寮でありながら獅子寮らしいと高い評価を受けたこともあった。だが、パーシーが内心でスリザリンのことを悪く思っていると分かって、ハリーは反感を持たずにはいられなかった。

 

「君たちの何を信頼しろと言うんだ?」

 

 パーシーは苛立っているように見えた。パーシーの横に立つ女子学生は、先程から一言も発言しなかったが、パーシーを支持するように頷いた。

 

「疑われているのならば、自分が怪しまれているという自覚を持って、大人しくしているべきだ。君たちスリザリン生は普段から些細なことで他所の寮生に虐めをしているだろう。こういった時に疑われるのも、そうした日々の態度が原因なんだぞ」

 

「ハリーは虐めとかしてねえだろ!」

 

 ザビニも怒ってパーシーに反論したが、パーシーは取り合わなかった。ザビニの言葉は正確ではなかったからだ。

 

「クリーピーをつるし上げたのは虐めじゃないのか?彼はポッターに好意を持っていたのに、ポッターは彼を邪険にあつかったと聞いたが」

 

「あれは単に、クリーピーに自分の行動で僕たちが迷惑してるってことを分かってもらいたくて……」

 

 ハリーはコリンの件を持ち出されるとは思わなかったが、パーシーに反論しないわけにはいかなかった。

 

「そうか?クリーピーはマグル生まれだ。君がマグル生まれの生徒に差別感情を持ってしまったんじゃないかと、周囲の生徒が思うのも無理はないことだ。君たちは去年から校則違反をしているんだぞ。自分の校則違反はよくて、コリンに校則違反をさせて虐めるというのは理屈に合わない。君たちが犯人として疑われるのは自業自得というものだ」

 

「だったらクリーピーに付きまとわれたとき、監督生としてクリーピーを止めてくれれば良かったじゃないですか。ガエリオ·ジュリスはやってくれましたよ?」

 

「……僕は多忙なんだ。コリン一人に構っている時間はない。ガエリオが能力不足だっただけだ」

 

「自分はなにもしていないのに他人の評判とか風評を気にして人を判断して後輩の監督生がした仕事にけちをつけるんですね。そういう人のことを世間では屑っていうんじゃありませんか?」

 

 

「言い過ぎだよアズラエル」

  

 アズラエルは露骨にパーシーに失礼な態度を取って挑発した。アズラエルがここまで苛立つのも珍しいことだったのでハリーも驚いた。

 

「言っておきますけど、クリーピーに迷惑をかけられたのはハリーだけじゃありません。僕らだって迷惑してたんですよ?僕らのことをスリザリン生だって枠組みで責めるなら、あなた達もグリフィンドール生で、嫌がらせの加害者だって自覚、あるんですか?」

 

(さすがアズラエルだなぁ…言い訳と屁理屈では誰も勝てない…)

 

 アズラエルも黙ってはいなかった。パーシーは一瞬言葉につまり、監督生に対して礼儀が足りないとアズラエルを批難した。そんなアズラエルを羨ましそうにファルカスが見ていた。

 

「監督生に対してその態度は何だ?」

 

 ついにパーシーは監督生という権威を持ち出した。ロンはゴキブリ豆板を飲み込んだかのような顔をパーシーに見せた。

 

 

 パーシーの正論はハリーに刺さった。コリンに悪意がなかっただけに、結果論ではあるが、もう少し穏当なやり方で対応すべきだったのかもしれないという後悔はあった。

 

「コリンに対しての対応は……確かに軽率だったと思います。でも、つきまとわれた僕らの気持ちも考えてください。いくら僕を慕ってたからって、無限に親切にするなんてできません」

 

 ハリーは監督生に口答えするのはどうかと思ったが、正直に話した。妥協して、延々と変な人に粘着されるわけにはいかなかった。

 

「反省しているならばいい。だが、それはそれとして規則は絶対だ。ここに来たことは非常に疑わしいものだ。

フィルチ氏に報告して君たちを罰しなければならないぞ」

 

 ついにパーシーはフィルチを利用してハリーたちを七階から追い出そうと試みた。しかし、それはマクギリス·カローによって阻止された。

 

「それは不可能です、パーシー先輩。彼らは監督生である私の誘いを受けてここに居るのですから。同じ監督生に、監督生を罰する権限はない。監督生の指示でここに居る生徒を罰することもできないはずだ」

 

「……む……」

 

 パーシーは言葉につまった。もしかしたら、後輩の監督生が先輩監督生である自分に対して反抗するとは思わなかったのかもしれない。

 

 

「先輩の発言のうち、私への批判は私の自業自得として受け止めます。前半は取り消していただきたいものですね。ウィーズリー先輩。我が寮の後輩たちは、獅子寮に対して敵意を持ってはいないのです。あなたの発言は彼らの友情に軋轢を生むものですよ?」

 

「……だが君たちは」

 

 尚もパーシーは反論しようとしたが、有無を言わさずバナナージが話を遮った。

 

「パーシー先輩」

 

 バナナージは静かにいった。

 

「あなたの立場でマクギリスを信じろと言うのは難しいでしょう。マクギリスとリカルドには、あなたは去年散々手を焼かされていましたからね。でも、俺を信じてはいただけないんですか?」

 

「そういうわけではないが……」

 

 バナナージに対してはパーシーも強くは出れないようで、一気にパーシーの歯切れが悪くなった。バナナージはチラリと女子監督生の方を見て言葉を重ねた。

 

「……あなたは俺に……というか決闘クラブに対して借りがあるはずです。それを、今返してくれませんか?」

 

 バナナージは誰に対しても礼儀正しいハッフルパフ生の鑑のような人だったが、パーシーに対しては容赦がなかった。

 

「ねぇ、もう行こうよパース。バナナ君が居るなら大丈夫でしょ?」

 

「……そうだな、バナナージを信じる。弟を頼んだぞ」

 

 七階から去っていくパーシーを睨み付けながら、ロンはハリーたちに謝った。

 

「みんなごめんな。……アイツは出世の鬼なんだ。俺が規則違反をしたら自分が主席になれないかもしれないからってかっかしてるんだ。最悪なやつさ」

 

 

「オメーも大変だな、ロン。大丈夫、お前はこっち側だぜ」

 

「パーシーさんの正論は耳に痛いね……」

 

 ザビニはロンに反りが合わない兄がいると知るや、ロンに対して甘くなった。ハリーは彼の正論を素直に受け止めたが、それはそれとしてパーシーの言葉通りに親切にできるかどうかは難しかった。実害をもたらすコリンやドビーに優しくできるかは別問題だった。

 

 

「貸しって何があったの、バナナージ??」

 

 ルナはバナナージがパーシーに作った貸しについて興味があるようだった。

 

「簡単な話さ。パーシーさんは強かったし、魔法を教えるのにも上手かったからめちゃくちゃモテててね。あの人目当てで入ってきた連中が多かったんだよ」

 

「いやそんなわけ無いじゃん。パースがもてるわけねーよ」

 

 バナナージの言葉をロンは嘘だと信じなかった。そんなロンに対して、バナナージは苦笑した。

 

「長身で成績優秀の監督生、かつ今の六年生の代では文句無しのトップだったからね。パーシーさん目当てで来た冷やかしの対応には苦労させられたんだよ、俺は」

 

「えっと……うちの兄貴がすみません……?」

 

「いいさ。もうあの人には彼女ができて、そういう子たちは決闘クラブを去ったからね」

 

 バナナージの言葉にザビニは口笛を吹いた。ハリーは案外生々しい決闘クラブの事情を聞いてしまって後悔した。

 

(恋愛なんかで決闘クラブをやめるなんて……)

 

 パーシーの回りだけ物凄く不純な気がした。

 

「うちは恋愛は自由だし、部への参加も強制じゃない。だけど、参加したならちゃんと練習はしてくれると嬉しい。パーシー先輩目当ての子たちは、真面目に練習していなかったから苦労したんだ」

 

「君が謝ることはないよ、ロン·ウィーズリーくん。私は去年まで散々醜態を晒したが、その私を止めたのはバナナージであり、君の兄であるパーシー先輩だった。お互い様というわけさ」

 

 

「「「彼女!?」」」

 

 ロン、ルナ、ハーマイオニーは色めきだって誰が彼女なのかと話を聞こうとしたが、バナナージもマクギリスも口を割らなかった。ハリーたちは誰がパーシーの彼女なのかで盛り上がりながら、必要の部屋に足を踏み入れた。

 

 

 

***

 

「秘密の部屋と聞いたとき、ここの存在を知るホグワーツ生は誰もがここがそうだと思ったはずだ」

 

「……私も最初はこの部屋のことかと思ったが、どうやら違うようでね。……ようこそ、『必要の部屋』へ」

 

(……駄目だったか……)

 

 ハリーは気がつかなかったが、マクギリス·カローは落胆のなかにあった。蛇語が使えるハリーと共にこの部屋を訪れれば、『必要の部屋』は『秘密の部屋』となって自分を迎え入れるのではないかという思いがあった。

 

(……ポッターを純血主義の旗印として迎え入れたかったのだが……)

 

 マクギリス·カローには焦燥感にも似た感情があった。純血主義の過激派であるマクギリスにとって、秘密の部屋事件は迷惑なものだった。自分達ではない何者かが秘密の部屋を使い悪さをしていることでマクギリスが喜んだかと言えばそうではなかった。普段から純血主義を掲げていたマクギリスたちに向けられる視線は決して暖かいものではなかったが、今ではそれに恐怖や怒りが込められていた。先程のパーシー·ウィーズリーの視線も、そうだ。マクギリスにとって辛いのは、無関係の後輩たちまでスリザリン生というだけで冷たい視線を向けられることだった。

 

 ハリーと共に秘密の部屋事件を解決し、純血主義過激派としての失点を限りなく小さくしたい、というのがマクギリスの理想だった。あわよくばハリーに純血主義を知ってもらい、純血主義の旗印として担ぎ上げたいという打算もあった。その展望は一瞬にして潰えたが。

 

 マクギリス·カローはそんな内心を出さず、必要の部屋に招き入れたハリーたちを笑顔で迎えた。ハリーたちはなにもないはずの空間から部屋の中に足を踏み入れたことに興奮してそれどころではなかった。

 

「こんな部屋があったなんて!本や魔法のアイテムが沢山ある!!」

 

「私たち全員がくつろいだ話ができるように柔らかな椅子と紅茶も置いてあるはずだ。ここに足を踏み入れる時は、必要だと思うものをイメージして足を踏み入れればいい。そうすれば、部屋が物品を用意してくれる」

 

 マクギリスによると、成績優秀な監督生や親が監督生だった生徒は大体この部屋を使っているとのことだった。

 

「さてバナナージ。純血主義について、君と語り合おうとしようか。ついてきた君たち、興味がなければ、その辺の図書を見て回ってくれたまえ。私が用意したわけではないが、図書館では置けないような面白いものが揃っていると思うよ」

 

 ザビニとアズラエルは図書のあるほうに向かって一目散に駆け出した。いつもなら一目散にそこに向けて駆け出すハーマイオニーは決意を携えた目でバナナージとマクギリスの間の席に座った。その横にロンが座り、ハリーはファルカスと共にロンの対面に座った。バナナージはポツンと突っ立っていたルナを自分のそばの適当な席に座らせた。

 

 

「マクギリス。決闘クラブで政治的な話をするのはやめてくれ」

 

 開口一番、バナナージはマクギリスにそう言いはなった。

 

「ただでさえ純血主義は普通の子達からはあたりが強いんだ。その手の話をされたくない生徒が部を去ってしまう」

 

「すまなかった、バナナージ。私も必死だったのだ。許してくれ」

 

 

「……やけに素直だな?」

 

 

 バナナージとマクギリスが意外にも親しいことにハリーは驚いた。談話室のマクギリスは他所の寮生のことを見下しているのに、ここに居るマクギリスはバナナージに対して頭が上がらないようだった。

 

「こうでもしなければ、君やポッターをここに招き入れることは出来ないと思ったのだよ。スリザリンの寮生の目がない場所の方が、私も本音を明かしやすい」

 

「どうしてポッターまで巻き込んだ?話し相手なら俺がいるだろう」

 

 バナナージの言葉は厳しかった。マクギリスは悪びれずに言った。

 

「彼からはいつも断られているからね。純血主義について知ってもらうために、私も手段を選ばなかった。まさか、マグル生まれの少女が話を聞きたいと言うとは思わなかったのだが……」

 

 

「言っておくけど、ハーマイオニーは歴とした魔女だ!」

 

 ロンは怒りながらどんと机を叩いた。ルナはビックリして隣に座っていたファルカスに抱きついた。

 

「一言でも彼女に失礼なことを言ってみろ、呪いをかけてやるぞ」

 

「……無論、後輩の友人に対して礼を失しないよう気を遣うつもりだ」

 

「ロン。マクギリスは悪意はないんだ。単なる歴史オタクなんだ。……オタクっていうのは、自分のことに夢中で周囲への思慮には少し欠けてしまうものなんだ」

 

 バナナージはそう言ってロンを宥めた。ハリーはちらりとルナを見た。

 

(ちょっと分かる……気がする)

 

「マクギリスは純血主義的な価値観が根底にあって、それを修正できるほど柔軟じゃない。だが、マクギリスなりに彼女とも対話できると思ったからここに呼んだ。そういうことだな?」

 

「そうだ。私としても、スリザリン寮が批判される現在の状況は好ましくないと思っている。私たちの話を聞いて、純血主義について考えを改めてほしいと思ったのだ」

 

 そこからマクギリスは、純血主義の正の側面について話した。

 

「そもそも我がスリザリンは、他の四寮と比べて圧倒的に不利な構造にある。それは何か分かるかな、ハリー?」

 

「……例のあの人を輩出したことですか?」

 

 ハリーは真っ先に思い浮かんだことを話した。例のあの人はスリザリンの汚点だとハリーは思っていたからだ。

 

「いいや。創設の時代から、我々は敗北者としての歴史を歩み続けたことだ」

 

「れ、歴史ですか?」

 

 しかし、マクギリスは首を横にふった。その言葉にハリーは困惑した。

 

「……ホグワーツが創設してから暫くして、スリザリンはグリフィンドールと対立して決闘したの」

 

 ハーマイオニーはさすがに勉強家だった。彼女は水を得た魚のように、歴史上の出来事について話をした。

 

「マグル生まれの生徒を入学させるべきじゃないと言って、スリザリンはグリフィンドールと対立してホグワーツを去った。だから、スリザリンとグリフィンドールは今でも仲が悪い……ということですか?マクギリス先輩?」

 

「グリフィンドールではそう伝わっているのか」

 

 マクギリスは紅茶を口に含むと、深いため息をはいた。

 

「君たちグリフィンドール生は、悪のスリザリンをグリフィンドールが退治したと思っているのだろうね。だが、実際は違うのだ。パーシー先輩やガエリオには、スリザリンが悪だという考え方を改めてもらいたいものだよ」

 

「どう違うって言うんだ……言うんですか?」

 

 ロンは反射的に噛みつこうとして、不味いと思ったのか言い直した。マクギリスは微笑むと、歴史の一端について話し始めた。

 

「グリフィンドールとスリザリンは無二の親友だったという話は聞いているだろう?ポッター、君は何故彼らが友人になれたのだと思う?」

 

「……それは……何となく、一緒にいると楽しいからですか?」

 

 ハリーは自分にあてはめてみてそう言った。昔の人が何を考えていたのかなど分かるはずもなかった。

 

「そうだ。グリフィンドールとスリザリンはよく似ていた。彼らはそれに加えて、マグルを嫌い、嫌悪しているという共通点もあったのだよ」

 

「嘘だ!」

 

 ロンはグリフィンドールの不名誉をマクギリスが捏造したのだと思い言った。しかし、マクギリスは部屋にあった資料をもとにそれを否定した。

 

「当時は現代ほどマグルも発展してはいなかった。無論魔法使いたちもホグワーツでの教育を受けていないものが多く未熟なものが多かったようだ。そのせいで、子供の魔法使いがマグルの手にかかるという事例もあった。その資料も残っている」

 

 ロンは納得できない様子でマクギリスの話を聞いていた。ハリーは、自分がグリフィンドールにも組分けされかけたことや、ダンブルドアから言われたスリザリンとグリフィンドールとは似ているという言葉を思い出した。グリフィンドールがマグル嫌いであったことは、ハリーにとっても嬉しいことだった。

 

(いいぞ。もっと言って下さい)

 

「グリフィンドールがマグルを内心で差別していたのはこの資料にもある通りだ。創始者のなかでマグルへの差別感情が見られないのは、ヘルガ·ハッフルパフだけだ」

 

 そう言って、マクギリスはバナナージに黙礼した。バナナージは黙って話の続きを促した。

 

「ヘルガは魔法使いやマグルの有力者たちと深い繋がりがあった。彼女の助けがなければ、ホグワーツは成り立たなかった。四人の創設者たちは互いに協力しあってホグワーツを設立したが、一つ問題があった」

 

 そう言って、マクギリスは四つの寮のエムブレムを杖で描き出した。

 

「穴熊寮は初期からずっと、学ぶべきものを選ばなかった。ハッフルパフは非常に革新的だったと言えるだろう」

 

「鷹寮は賢いものだけを教えたいと思っていた。賢い人間というと学力を想定しがちだが、学術方面の意欲のある人間であれば受け入れる、という意味合いにもなる。ここもマグル生まれを受け入れると、マグル生まれ肯定派が学内で二つあることになる」

 

 

「グリフィンドールがマグル生まれ否定派なら、ちょうど二対二になりますね」

 

 ファルカスの言葉に、マクギリスは微笑んだ。爽やかな笑みではなく、暗い怨念が滲んでいた。

 

「そうはならなかったのだがな」

 

「……我が蛇寮は、初期からずっと変わらず。一貫して高貴さと、純血であることを求めた。それは思想的なものもそうだ。マグルが魔法使いの世界に影響を与えないように、蛇寮は気を配らねばならなかった。穴熊がマグル生まれの受け皿になる以上、どんどんマグル生まれの魔法使いは増えていく。それが支配的になってしまえば、元からいた魔法使いの価値観や考え方は押し流されてしまうだろう」

 

「そして、グリフィンドール……獅子寮は勇気ある人間を求めた。当初サラザール·スリザリンは、自分とグリフィンドールがマグル嫌いという一点で一致しているものだと思っていたのだろう」

 

 ここで、マクギリスは語気を荒くした。

 

「マグルと決闘しマグルを殺害した経験もあるグリフィンドールはマグル嫌いに違いない。マグル生まれを受け入れるはずはないとスリザリンは信じていたのだろう。だが、晩年になってグリフィンドールは考え方を変えたのだ」

 

「それの何が悪いって言うんだ。ちゃんと自分の間違いを認めて改心したんじゃないか」

 

 ロンは即座に反論したのでハリーは驚いた。グリフィンドールがマグルを殺害していたというのは、ハリーにとっても衝撃的な事実だった。ハーマイオニーは衝撃で顔を覆っていた。

 

「あの……それって本当なんですか?マグルを殺したって……」

 

 ハリーは心臓が脈打つ音を感じていた。マクギリスは静かにそんなハリーを見ていた。

 

「マクギリス。公平性に欠けた言い方は良くないぞ。いいかい、当時は千年も昔で、まだ治安も悪い時代だったんだ。マグルも魔法使いも武力があるものが強いっていう風潮だった。そんな中で、取り決めのもとで決闘によって揉め事を終わらせるというのは画期的だったんだ。犠牲が少なくて済むからね」

 

 バナナージは可能な限りグリフィンドールを擁護した。マクギリスはそれに異論は挟まなかった。

 

「グリフィンドールは、マグルと揉めて決闘することになったときは剣術のみで戦って勝負を決めたんだ。魔法を使わない決闘なら公平な条件だろう」

 

「結果的にマグルを見下していることに代わりはあるまい?」

 

「そんなこと、信じたくありません……」

 

 ポツリと漏らしたハーマイオニーを慰めるようにバナナージはこう言った。

 

「グリフィンドールは最大限マグルを尊重していたんだと思うけどね、俺は。……まぁ決闘なら万が一死ぬことになっても当事者だけで済むし、身代金を取るために殺さずに終わることもある。結果的にグリフィンドールがマグルを殺害してしまったという記録も残っているけれど、それは双方納得の上でのことだ」

 

 ハリーとハーマイオニーが衝撃を消化できないまま、マクギリスの話は進んだ。

 

「グリフィンドールは英雄的行為だと持て囃されるがね。結果的にマグルを殺害したというのならば、我々スリザリンとあまり変わらなかったのではないかと私は思うな」

 

 

「穴熊だけでなく獅子寮でもマグル生まれを受け入れると分かった時の、スリザリンの孤独感を考えて見たまえ。彼は、親友だと思っていた男に裏切られたのだぞ」

 

 マクギリスの主張は、グリフィンドールがスリザリンを裏切ったというものだった。マクギリスの視線がハリーを責めるようになっているのをハリーは知った。ハリーもマグルを嫌いだと公言しながら、マグル生まれであるハーマイオニーに対して好意的だからだろう。

 

「でもそれは……大昔の話でしょう。僕たちに関係はありません」

 

 

 内心でばつの悪さを感じてはいたが、ハリーも引くわけにはいかない。ハリーがそう言うと、マクギリスは微笑んだ。

 

「我々は、歴史の延長線上に立っているのだよ」

 

 マクギリスの話をつまらなさそうに聞いていたルナは、髪の毛を弄くりながらこう呟いた。

 

「友達がいなかったんだね、スリザリンは」

 

「……なに?」

 

「だからグリフィンドールにつきまとって、決闘騒ぎなんて起こしたんだ。ハリーにつきまとったクリーピーみたいに。グリフィンドールに構ってもらいたかったんだね。女々しいね」

 

(め、女々しい……?)

 

「……む、むう……そ、そんなはずは……」

 

「え?でも、マッキーの言ってることってそういう意味なんじゃないの?」

 

「い、いや……しかし、しかしだね……裏切ったのはグリフィンドールであって……」

 

 ルナの言葉にマクギリスは明らかにたじろいでいた。偉大なスリザリンが女々しいぼっちだと言われることは、マクギリスにとっても本意ではなかったのだろう。

ハリーも内心でルナの言葉にたじろいでいた。友達にマグルへの差別感情を分かってほしいと思って暴走したのも、その友達に敵わなくて執着しているのも今のハリーにそっくりだったからだ。

 

(マクギリス……占い学の授業をサボっているから一年生に核心をつかれるんだぞ)

 

 バナナージはたじろいでいるマクギリスに代わって話を先に進めた。

 

「当時のスリザリンがどう思っていたのかは分からないが、グリフィンドールがマグル生まれを受け入れた理由は察することができる。これは歴史学者の言葉じゃなくて、俺の推測に過ぎないけどね」

 

 バナナージはロンを見ていった。

 

「仮にマクギリスの言ったように、グリフィンドールがマグル嫌いだったとしよう。それでも、マグル生まれの魔女や魔法使いをグリフィンドールは教えてきたはずだ。ハッフルパフが受け入れているからね」

 

「マグル生まれの生徒たちは、マグル生まれなだけで優秀な生徒も多かったんだと思う。グレンジャーさんのようにね。仮にマクギリスのいう通り当初はマグル嫌いだったとしても、好きになることは普通にあり得ると思うよ」

 

 バナナージはそう補足し、グリフィンドールをフォローし、スリザリンを擁護した。

 

 

「マグル生まれを受け入れた三寮に対して、スリザリンはずっと一人だった。徐々に肩身が狭くなっていったことは仕方がないことだったのだよ」

 

(う、ううん……それは無理があるような……)

 

 マクギリスはそう言ってルナの言葉に対しての理屈をつけた。しかし、ハリーはスリザリンがずいぶん格好の悪い人間になってしまったと思った。

 

「実際のところ、大の大人がそんな個人的な感情で動くとは思えない。ハッフルパフが対立するスリザリンを疎ましく思って、政治的な圧力をかけて孤立させて言った可能性もあると思うな」

 

「自分の寮の先祖なのにそんなこと言っていいんですか?」

 

 ハリーはジロリとバナナージを見たが、彼は苦笑して肩をすくめた。

 

「俺はハッフルパフの直系じゃないからね。寮を作った恩人ではあるけど、神聖視はしてないよ。仮にこの仮説が間違いでも、グリフィンドールとスリザリンの喧嘩を止められなかったことに変わりは無いんだから」

 

「……ともかく、スリザリンは敗北し、打ちのめされて学舎を去った。その彼がホグワーツに残したのが、秘密の部屋だ。マグル生まれの生徒を排除するために残したそうだがね」

 

「そんなの理不尽だわ!!」

 

 ハーマイオニーは決意を携えた目で叫んだ。

 

「私たちマグル生まれは、スリザリン生を排除しようなんて思っていません!なのにどうして石にされなければいけないんですか?!」

 

「それがスリザリンの思いだからだ、としか言えないな。今回の犯人が何故そうするに至ったのかは私も興味があるがね」

 

 

「落ち着け、ロン、ハーマイオニー。マクギリスに言っても無意味だ」

 

 バナナージはそう取りなしたが、ロンは怒っていた。

 

「こんなふざけた話を言い出すような人の言葉を信じろって言うんですか?明らかにこいつが怪しいじゃないですか!」

 

「マクギリスは秘密の部屋の騒動を起こせるほど狡猾じゃない。本当の継承者は、スリザリンの中でも、一般的な生徒の中でも浮かない程度に周囲に溶け込むか、スリザリン生を利用して騒動を起こしている他寮の純血主義者だと俺は思うよ。この状況で純血主義を表に出すのは、単に自分を疑って下さいって言ってるようなものだからね」

 

「誤解を解いてくれてありがとう、バナナージ。……私としては、スリザリンの悪評を解きたかったのだが……うまくはいかないものだな」

 

 マクギリスは自虐的に言った。レイブンクロー生の客観的なスリザリン評がよほど堪えたらしい。そんなマクギリスを哀れんだのか、バナナージが純血主義、というよりもスリザリンを擁護した。

 

「……あー、まぁスリザリンの悪評はさておいて。君たちはどうしてそんなスリザリンが存続できたと思う?」

 

「単にスリザリンが怖かったからだろ」

 

「そんな言い方はないじゃないか……!」

 

「……あ、いやごめん。つい……」

 

「いいえ、怖かったというのは違うはずよ、ロン」

 

 ロンはそう言ったが、ハリーはそうは思わなかった。ファルカスがロンに反発する中で、ハリーも頭を回して考えた。

 

「……必要だったから?」

 

 バナナージはハリーとハーマイオニーに微笑んだ。

 

「その通り。スリザリンの考え方はね、魔法使いの伝統や文化を守ろうとするもので、大人の世界では保守的な考え方なんだ。反対に、マグルと融和していいところはどんどん取り入れようって考え方を、リベラルって呼ぶんだけど、そういう考え方をする大人はあんまり多くはないっていうか、少数派なんだ。どうしてか分かるかな?」

 

 ファルカスやハリー、ロン、ハーマイオニーの四人は挙手して案を出しあった。その全てにバナナージは回答してくれた。

 

「ハリーはマグルが魔法族のことが好きじゃないからって意見なんだね。まぁこれは正しくないかな」

 

「何でですか?マグルは魔法使いを差別してるんですよ。歴史の授業にも、魔女狩りだって出てくるじゃないですか」

 

「それは過去の話だよ。今のマグルは、正確には魔法族のことを何とも思ってはいない。自分にとって害なら排除するけど、いい結果になるなら受け入れようっていうマグルも多いんだ」

 

「え?でも……」

 

「マグルは俺たち魔法族のことを認識していない。そういう風に記憶を改竄してきたからね。正しくは、俺たち魔法族がマグルのことを好きじゃなくて、距離を取りたがっているっていうところにあるんだ」

 

「どうしてですか?」

 

 ハーマイオニーは目を輝かせてバナナージの話に聞き入った。バナナージは話上手だった。

 

「……まぁマクギリスが説明してくれると思うけど、英国のマグル……特に、政界がやってきたことは誉められたものじゃなかったからだよ」

 

 マクギリスは勢いを取り戻して、マグルの行った植民地支配やジャガイモ飢饉、アヘン戦争やフォークランド紛争、そして核を背景にした冷戦などを話してくれた。バランス感覚に優れたバナナージは、その度に魔法界にもゴブリンの反乱や魔法戦争があったと言ったが、マグルの歴史が血みどろで、悪意に満ちているとは言った。

 

「俺たち魔法使いは、マグルと比べたら頑丈だし個人ができることは多いよ。でも、マグルは集団で、数の力を生かす術を身につけていて、俺たちより大勢の命を操る術を持っている」

 

「俺たち魔法使いの精神が未熟なまま、マグルの形だけを真似して考えなしにそれを取り入れれば破滅するしかないって大人はみんな分かってるんだ。魔法族の誰かが核魔法を撃てるようになったらこの世は終わりだよ。だからこそ、魔法界の中ではスリザリン的な考えが駆逐されずに残ってきたんだ」

 

 バナナージの言葉は説得力があった。ロンですら、父親の言葉を理由にしてバナナージの言葉を受け入れた。

 

「それなら分かるよ。核っていうのがとんでもない爆弾なら、魔法使いがそれを持ったらいけないのは俺でもわかる」

 

「みんな魔法感覚で使いたがるに決まってる」

 

「アーサーさんはリベラル的な考え方なんだけど、その点はバランスが取れているね。だからマグル保護法が成立したんだ」

 

 バナナージの言葉に、ロンとハーマイオニーは確かに頷いた。ハーマイオニーがまた話を聞かせてくださいとマクギリスに言うと、彼は飛び上がるほどに驚いていた。

 

***

 

 マクギリスとバナナージによる純血思想談義が終わったあと、ハリーたちは必要の部屋の書籍をあさっていた。ハリーは、こっそりとバナナージとマクギリスの方を盗み見た。二人は紅茶を飲みながら仲良く駄弁っていた。

 

 バナナージは、何とか純血主義の話題を軟着陸させることに成功した。彼はほっと胸を撫で下ろしながらマクギリスに笑いかけていた。

 

「純血主義が好きなのは分かるけど、今は耐えろよ。事件が終わるまで大人しくしていれば、いつも通りの日常が戻ってくるさ」

 

「……しかし、私は純血主義が誤解されている今こそ正しい純血主義を広めていくべきだと……」

 

「だから時期が悪いって」

 

「そうは言うがなバナナージ。自分から動かなければ、純血主義が受け入れられる時代は来ないじゃないか」

 

 ハリーは二人の話をもっと聞きたいと思って本棚の影からこっそりと近づいた。

 

「……気持ちはわかるが、後輩にエゴを吹き込むのはやめろ。上級生にそういうことをされたら、下級生は困るしかないんですよ」

 

「しかし、ハリーの保護者……シリウス·ブラックは今度見合いをするそうじゃないか。それも純血の令嬢とだ。彼が純血主義を知らないというのは色々と不味いのではないかね?」

 

「そういうのは余計なお世話って言うんですよ!」

 

 マクギリスの言葉にハリーははっとして持っていた闇の魔法生物の本を取り落とした。本の挿し絵に書いてあったバジリスクは、ハリーを責めるようにハリーのことを睨み付けていた。

 

 




パーシーは屑ではありません。
かわいい後輩と冴えない弟を純血主義やスリザリンの不良から守ろうと躍起になっているだけなのです。
過去のマッキーとリカルドが原作マルフォイとは別方向に他の寮の生徒に多大な迷惑をかけていたのでスリザリン生に悪いバイアスがかかっています。
パーシーファンの方々にはお詫びします。
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