蛇寮の獅子   作:捨独楽

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マクギリス……純血主義の過激派。純血主義を布教する迷惑な人。
マルフォイ……純血主義の穏健派。純血主義を信仰しているが布教は(一応)しない。


悪化

 

「良くマクギリス先輩の無駄に長い話を我慢できましたね、みんな。僕はそれが一番の驚きですよ」

 

 ハリーはロンとアズラエルと一緒に、ハーマイオニーやルナを送り届けていた。マクギリスによってサラザール·スリザリンが本気でマグル生まれを排除するために秘密の部屋を残したことが明かになったこともあり、特にハーマイオニーが狙われるのではないかと不安になったからだ。アズラエルは帰りがてらにロンとハーマイオニーを称賛した。

 

 

「……うちの兄貴が迷惑をかけたからな。あれくらいは迷惑料だと思って付き合うよ」

 

 ロンはやや不機嫌な顔をしていた。純血主義を称賛するための話に付き合わされた挙げ句、グリフィンドールを貶されたのだから当然だろう。

 

「グリフィンドールがマグルを決闘で殺してたことは、そういう時代だったんだから仕方ないよ。バナナージ先輩もそう言っていたじゃないか」

 

 ハリーは内心でマクギリスの話に驚くと同時に、少し嬉しさを感じている自分を否定できなかった。サラザール·スリザリンがとても酷い魔法使いであることが明らかになったのと同じように、ゴドリック·グリフィンドールも聖人君子ではなかった。ハリーたちスリザリン生にとって、スリザリンを悪く言われることはとても辛いことだった。

 

 だが、近しいライバルであるグリフィンドールが、自分と近いところに落ちてきた。ハリーはロンを励ましていながらも、どこか後ろめたさを感じていた。ハリーはふと、ザビニが言った言葉を思い出した。

 

(『あいつはこっち側だ』)

 

 自分が何かやったわけではなくても、ロンはパーシーやグリフィンドールがやったことで、ハリーたちが感じているような居心地の悪さを感じてくれているのだとハリーは思った。

 

「マクギリスは色々と言ってるけどさ。スリザリンがマグル生まれを差別するのは、マグル生まれが俺たち魔法使いの中で少数派だからだろ」

 

「……ロンはたまに核心をつくね」

 

 ハリーはロンの言葉は正しいと思った。ハリーは自分の考えをロンに打ち明けた。

 

「純血の魔法使いは、純血同士で結婚しなきゃいけないからあんまり増えない。少数派だ。僕らスリザリンの純血の魔法使いたちは、自分が少数派で肩身が狭い思いをしたくないんだ。……だから、魔法使いのなかで縁がなくて、少数派のマグル生まれを差別して自分達が強いんだって思いたいんだと思う」

 

「糞だな」

 

 ロンはそんなスリザリンの身勝手をバッサリと切り捨てた。アズラエルは困ったようにロンに頷きながらも、それをスリザリン生の前で言わないよう頼み込んだ。

 

「僕としては、そういうところには触れないでもらえるとありがたいんですけどね……スリザリンでは色々とあるんですよ、同調圧力とか……」

 

 ロンは一瞬、怒りに歪んだ顔をしたが、渋々頷いた。その代わりに、グリフィンドール生の言い分もハリーたちに聞かせた。

 

「俺らグリフィンドール生がスリザリン生に当たりが強いのは、いじめにはその場で対応しなきゃいけないって分かってるからだ。理不尽な差別には言い返せなきゃ、いじめには即座に対応しなきゃ虐めっ子はすぐ調子に乗るからな」

 

 ハリーとルナはこっそりと目を伏せた。ハリーはロンやグリフィンドール生が眩しかった。コリンをつるし上げた自分がとても薄汚れていて、ロンとは釣り合わないやつだと思った。ハリーもまた、ロンが嫌悪するスリザリン生なのだ。

 

(ああ、とんでもなく嫌なやつだな、僕は……)

 

 ロンにももっと僕たちのようになってもらいたいな、という期待……いや、薄汚れた願望を持っていることに、ハリーは気がついた。

 

(ダドリーに殴られたとき、ロンが居てくれたら)

 

 一瞬そう考えた自分が嫌になったので、ハリーはロンではなくハーマイオニーに話しかけた。

 

「ハーマイオニーも、よくマクギリス先輩と話せたね。怖くはなかったの?」

 

「正直に言うと、怖かったわ。純血主義を主張している人だもの。もしかしたら、スリザリンの継承者かもしれないし、継承者に近い人で、私たちマグル生まれを排除したいと思っていたのかもしれない」

 

 ハーマイオニーは、しかし、決意を携えた目でハリーたちに言った。

 

「……でも、話を聞いてみないとわからないことはあるわ。純血主義の人たちって、マルフォイがそうだけどいつも人がまわりにいて込み入った話しなんてできなかったもの。勇気を出して聞いてみて良かったわ。純血主義の人がどういう考え方をしているのか分かったもの」

 

「ハーマイオニー、あんまり深入りするのは良くありませんよ」

 

 アズラエルはハーマイオニーに警告した。

 

「マクギリス·カローは……まぁ僕たちスリザリンの下級生には優しいいい先輩なんですけど、スリザリンの談話室では純血主義を教えているたちの悪い純血過激派なんです。この間コリンを差別したイーライ·ブラウンも、マクギリスから純血主義を吹き込まれています」

 

「……マジかよ……」

 

「……嘘……」

 

 ハリーも言葉を付け加えた。

 

 

「僕たちの前では優しく見えても、僕やザビニたちスリザリン生の友達だからそうしてるってだけかもしれない。マクギリスが継承者の一派である危険性は消えた訳じゃないよ」

 

「……けどあいつ、バナナージ先輩とも仲が良かったぜ?」

 

「それはバナナージ先輩が純血の一族とも付き合いがある人だからですよ。バナナージ先輩の家は僕の家にも負けないくらいの資産家でもありますからね。仲良くしておくにこしたことはないってことです」

 

「……でも。マクギリス先輩は隠し事ができるタイプには見えなかったわ」

 

 ハーマイオニーはマクギリスとバナナージとのやり取りを思い返して言った。

 

「あの人は裏表がないタイプというか、天然というか……バナナージ先輩も言っていたけれど、隠れて何かをやるには向かない人だと思うの」

 

「辛辣だね、ハーマイオニー。あの人も影で色々と考えているかもしれないよ」

 

 ハリーは茶化したが、ハーマイオニーはハリーを叱った。

 

「正当な評価です!考えてはいても、その底が浅いというか、見通しが甘いというか……想定が甘い人なんだと思うの。でなければ決闘クラブで純血主義について口に出さないわ」

 

「それはまぁ確かにその通りです。ただ、そうなると候補がいないんですよね……スリザリンにはマーセナスっていう先輩もいるんですけど、牙を抜かれてすっかり縮こまってますから」

 

「いっそ継承者からこっちに手を出して来てくれればなあ。返り討ちにしてやれたら……」

 

「ロン。今の僕たちじゃ返り討ちにあうだけだよ。石化できる怪物と言えばメドゥーサだけど、メドゥーサを返り討ちにするには、本職の闇祓いが必要なはずだ」

 

 ハリーたちは必要の部屋にあった年代物の闇の魔法生物図鑑で、石に変えられる化け物について調べた。蛇科の怪物で、かつスリザリンの象徴と言えばバジリスクだが、バジリスクの目を見たならば石化ではなく死んでしまうはずだった。ハリーたちの中では、メドゥーサをどうやって見つからないように匿っているのかが話題にのぼっていた。

 

「敵はおそらくメドゥーサを透明化させているはずです。今まで誰にも気付かれてないんですからね。レベリオを使っても姿が見えるようになるだけじゃあ石にされて終わるだけ……どうにもなりません」

 

 アズラエルもメドゥーサ派で、透明マントによって消えて近づいたのだろうと思っていた。その主張が正しければハリーたちに打つ手はない。運良く石にならずに、レベリオが間に合って姿を明かにできるかどうかをお祈りするしかないのだ。

 

「……これからどうするの?ハーマイオニーはもう寮から出ない方がいいんじゃない?」

 

 ルナは継承者の伝説を聞き、怪物が手に追えないものだと判断して至極真っ当な意見を述べた。継承者から狙われる可能性がある以上、ハーマイオニーはなるべく動き回らずに大人しくしておいた方がいい。

 

「ハーマイオニー、君はそれで我慢できる?」

 

 ハリーは内心で無理だろうなと思った。ハーマイオニーは自分の保身を考えるスリザリン的な傾向や、利口に立ち回ろうとするレイブンクロー的な傾向はない。彼女は根っからのグリフィンドール生なのだ。それこそ、純血主義者相手でも話を聞こうとしてしまうほどに。彼女は迫りくる脅威を知った上で、真相を明らかにするために勇気を発揮することを選んだ。

 

「いいえ。出来ないわ。……それは、継承者に屈したということになるもの。……私、継承者についてもう少し調べてみたいの。あともう少し何か手がかりがあれば、謎に近づくことが出来そうなの」

 

 ハーマイオニーの言葉にルナは頚をかしげていたが、ハリー、アズラエル、ロンは顔を見合わせて笑った。

 

(本当にそういうと思った)

 

「スリザリン生と親しいってところを見せておけば、継承者も僕らを襲ってこない説を提唱します。……スリザリン生は身内には優しいんですよ」

 

「アズラエル、心にもないことを言うのはやめなよ。ハーマイオニーが心配だったんでしょ?」

 

 

「それは僕を過大評価してますよハリー」

 

 アズラエルは悪ぶって冗談を言った。

 

「ハーマイオニーと僕らが親しいってところを見せておけば、学校の連中も僕らをそこまで邪険には扱わないという打算ありきですよ」

 

「パースはハリーのことを疑ってたぞ?」

 

「そういう頭の固い常識人は何もなくてもハリーや僕たちを疑いますよ。僕が言ってる連中は、スリザリン生であっても偏見なくハリーを支持してくれる、ちょっと変わった人たちのことです。そういう層の人たちは、こういう時でも変わらずハーマイオニーと友だちであることを評価してくれるはずです」

 

 アズラエルの考え方はある意味では人気取りに友達を利用しているようなものだ。ロンとハリーは少なからず嫌悪感を抱いた。もちろんアズラエルだって照れ隠しで言っていることは分かっているが。

 

 

「いや……言いたいことは分かるけど……」

 

「そういう考え方なのはちょっと引くね……」

 

 一方で、ハーマイオニーはその考え方を肯定し、それでいいと割りきっていた。

 

「私が友達であることでハリーたちへの疑いが少しでもなくなるならいいことだわ。身の潔白を証明するためにはやっぱり、継承者を突き止めるしかないでしょうけど」

 

 

 アズラエルとのやり取りを見ていたルナは、首をかしげていた。

 

「なんでみんなの顔色を気にするの?人のことなんてそんなに興味ないんじゃない?」

 

「ルナはそう思う?」

 

「だって他人事だし。あたしもハーマイオニーと友達になってなかったら、今回のことも他人事で終わってたと思うな」

 

 ルナはホグワーツに入って数ヶ月であり、個人主義の傾向が強い。集団の意識というものに目を向けるアズラエルの考え方は、ルナにとって新鮮なようだった。

 

「……マグル生まれの生徒はいつ襲われるかわからない恐怖で怯えているのに」

 

 ハーマイオニーはそんなルナに少しだけ不満げだったが、ハリーはルナが羨ましいと思った。

 

「皆に当事者意識を持てなんて無理だよ、ハーマイオニー。はっきり言うと、全員がルナみたいな考え方をしてくれる方が、僕にとってはありがたいけどそうもいかないだろうし。僕たちは僕たちでできることをしようね」

 

「……そうね」

 

「んじゃ、今度は明後日だな。図書館で何か発見があったら魔法で知らせるぜ」

 

「ありがとう。根をつめないでね、ロン、ハーマイオニー」

 

 ハリーはハーマイオニーとロンと別れ、ルナをレイブンクローまで送り届けた。ハリーはすれ違ったレイブンクロー生がルナを小馬鹿にしたような笑みを浮かべていたのに気がついて、その男子生徒を睨み付けた。

 

***

 

 翌日はクィディッチの練習に打ち込み、明後日に決闘クラブに参加したハリーたちは、決闘クラブが閑散としていることに驚いた。バナナージやガエリオやマクギリス、ガフガリオンなどの監督生とハリーたちやマーセナスのようなスリザリン生たちを除くと、ほとんどの人が居なくなっていた。アンジェリーナやセドリックなどもクラブに参加していなかった。レイブンクロー生はルナだけで、グリフィンドール生はロンとハーマイオニーと監督生のアグリアスだけというありさまだ。

 

「……すまない、バナナージ……私はまさかこのようなことになるとは……」

 

 マクギリス·カローは目に見えて落ち込んだ様子で、ひたすらハッフルパフ生の隣にいたバナナージに謝っていた。ハリーはマクギリスがあそこまで誰かにへりくだる姿を見たことがなかった。

 

「今後二度と個人の思想をクラブの中で口に出すな。それで許してやるから。……さ、魔法の練習をしよう、マクギリス」

 

 原因はマクギリス·カローが純血主義について口に出したことにあった。決闘クラブがカルトを広めているのではないかと恐れたまともな生徒たちは、決闘クラブから距離を置くことに決めたのだ。

 

***

 

 しかし、その数日後、事態は急展開を迎える。ギルデロイ·ロックハートが決闘クラブの講師となるといきなり宣言し朝食の席で自分の写真を飾り立てて宣伝したのである。

 

 ロックハートは、著書のなかでこう宣言していた。魔法界とマグルの世界とのハーモニーを何よりも望む、と。彼は教師としては無能の烙印を押されていたが、リベラルな人間であるという一点において評価されていた。皆が継承者に怯えるなかでそれが言えるならと、決闘に興味がない生徒たちも決闘クラブを訪れた。

 

 この一件でマクギリスとバナナージは喜んだが、誰よりも被害を被ったのはハリーだった。ハリーはロックハートのせいで、ドラコ·マルフォイと決闘をすることになってしまったのである。

 

 





ぶっちゃけマグル生まれをスリザリンが狙うのは少数派で反撃されないとなめ腐ってるからだよねって。
グリフィンドールかハッフルパフがないホグワーツはマグル生まれの生徒にとって地獄だと思います。
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