バナナージの立場で考えるとマッキー(不良)のせいで元からいた部員がやめてるのでマッキーやハリーにキレて決闘クラブ出禁にしてもおかしくない
でもバナナージは偏見をよしとしない真のハッフルパフ生だから一度目は許すよ……
一度目はね……
ハリーはロックハート先生目当てでごった返す人混みの中をザビニと共に歩いていた。ザビニはロックハート先生目当てに集まった人の中で、満更でもないように笑っていた。
「ロックハートのお陰で盛り上がってきたじゃねーか。あのおっさん、案外役に立つよな」
「数日前の閑散とした決闘クラブが嘘のようだね……」
マクギリス·カローが純血主義について部のなかで話題に出したことでまともな人たちは去っていった。しかし、今はロックハート先生を目当てに新しい人が集まろうとしていた。
「この中の何人がクラブに参加してくれるかは、僕たちにかかってるかな」
「バナナ先輩の手前、新規の奴らには優しくしねぇとな。最初の一発はわざと外して、いいところでわざと魔法を受けて負ける……それが初心者勧誘のコツだぜ。おだてて調子にのせてクラブに興味を持たせるんだ。ま、俺は不細工なやつには手加減しねぇけどな」
ハリーたちも決闘クラブに参加してから日は浅いが、元々魔法探究会という名目でエクスペリアームスをはじめとした一年生や二年生の魔法は習得していた。ルナも含めてハリーたち七人はエクスペリアームスを高い精度で、同年代の相手であれば高い確率で勝つことはできる。
「ザビニは相変わらずだね。僕は今日はほどほどに楽しむよ。またクラブが賑やかになってくれた方がバナナージ先輩も、マクギリス先輩も喜ぶだろうしね」
しかし、決闘において初手でエクスペリアームスを使うということは、出会い頭に銃弾を浴びせる様なものだ。確かに最適解ではあるのだが、初心者にとってはそんなもの面白くない。去年のハリーがインセンディオやボンバーダ、ウィンガーディアムレヴィオーサなどの魔法を多用したように、魔法使いは多彩な魔法を使いこなせる方が面白く、決闘クラブの趣旨にも沿っているのだ。決闘クラブは実践的な魔法を学ぶだけではなく、勉強した呪文を試し会う場所でもあるのだから。
ハリーがザビニと共に会場を見渡すと、ロンとハーマイオニーに混じって丸顔のネビル·ロングボトムの姿もあった。ロックハートはネビルのような子や、ハッフルパフのアーニーやその友達、レイブンクローの下級生、スリザリンのイーライ·ブラウンなどにも人気のようだった。うまくすれば、今日で新規メンバーを大量獲得できるかもしれなかった。
ハリーはドラコがクラッブとゴイルを連れてきていることに気がついた。ドラコはマクギリスから何回か厳重に注意を受けていた。
「ここでは思想を表に出すのは止めた方がいいって、マクギリス先輩がドラコに言ってたよ」
ハリーはザビニに苦笑いして言った。
「よっぽど懲りたみたいだね、あの人も」
「あれがわざとじゃなかった方が驚きだぜ、俺は」
ハリーは新しくクラブに参加したジャスティンというハッフルパフ生と軽い決闘をした。ジャスティンはなぜかひどく緊張していて、ハリー相手に簡単な魔法をミスしたので、ハリーは仕方なくエクスペリアームス(武装解除)でジャスティンの杖を奪い決闘を終わらせた。無意味な勝利だった。
「……はい、どうぞジャスティン。決闘の時は、杖はちゃんと相手に向けた方がいいよ」
そしてハリーは、言うべきかどうか迷ったが一言付け加えた。
「……それと、決闘でわざと負けようとするなら、もう少し方法を考えた方がいい。僕ならもう少しうまく負け方を考えるよ」
ハリーは怯えるジャスティンのもとを離れて、ザビニと合流しようとしたが、ザビニはトレイシーやダフネの相手をしていた。
組む相手がおらず泣きそうになっていたイーライと対戦し、イーライが浮遊魔法を成功させたのを見届けて、ハリーは再度会場をうろついた。スリザリン生たちはこの集まりでも仲のいいスリザリン生か、グリフィンドール生と対戦していたが、ハリーたちのような例外は黄色のローブや青色のローブの生徒とも対戦した。
アズラエルとファルカスも途中まではハリーと同じように色んな生徒と対戦していたようだが、ある時ハリーは二人がルナになぎ払われているのを見た。
二人はルナの相手をしていて、ルナはパパから教わった新しい呪文を試したいと言ってファルカスをひっくり返していた。ファルカスは決闘の杖さばきが正確で動き出しも早いのだが、落ち着いて魔法をかけられたルナの腕もまた見事だった。
バナナージやマクギリスを中心に新規メンバーを獲得しようと躍起になっていた決闘クラブの面々だが、クラブの終盤になって水を差されてしまった。ハリーは一通り見知らぬ顔と対戦したあと、突進しながら魔法を撃ってくる手練れのミリセント·ブルストロードとの楽しい決闘を止められて不満だった。ミリセントは体格もよく、発音も正確で鍛えればまだまだ伸び代がありそうだった。
「いやぁそれまで!皆さんの決闘を拝見しましたが、皆さんは決闘の初歩をご存知ないらしい!どうやら、皆さんに私からお手本を見せなければいけないようですね!!」
ギルデロイ·ロックハートは命知らずにも、スネイプ教授を助手として指名して、決闘のお手本を見せると言い放った。スリザリン生たちは(自分達の担任であるスネイプ教授の勝利を願って)拍手し、ハッフルパフ生やグリフィンドール生、女子生徒たちは(不当な贔屓ばかりする薬学教授の敗北を願って)ロックハート先生に声援を送った。
スネイプ教授とロックハート先生の決闘は、魔法界の保守派とリベラル派の代理戦争と言ってもよかった。
ハリーは内心、『魔法界とマグルの世界との融和』を目指しているロックハートが負けることを願っていた。しかし、ロックハートが怪我をしないか心配しているハーマイオニーを見て、そんな自分が醜く思えた。
(早く終わってくれないかな)
と思いながらハリーは決闘を見守った。すぐにかたはついた。スネイプ先生は開始の瞬間に武装解除に成功してロックハート教授を吹き飛ばした。ロックハート先生はバナナージ先輩に助け起こされたお陰か、どうやら目だった外傷はないようだった。
***
ロックハートが決闘クラブに介入する一日前に、セブルス·スネイプはフィリウス·フリットウィック教授に断りを入れに彼の研究室を訪れていた。
フリットウィック教授はセブルスが在学中から呪文学の教師だった。スネイプにとっても偉大な先任教師であり、魔法使いとしても優れた知見と実力を持っていた。
セブルス自身、ただ己よりも先にその職にあったからといって無条件でその相手を尊敬するほど愚かではない。フリットウィック教授がその分野において己よりも卓越した人間であるからこそ、スネイプは彼に敬意を払っていた。呪文学の権威であるフリットウィックは、前学期にクィレルが使用したオリジナルのカースに対する対抗呪文を開発していたし、万が一それが再度現れたとき、教職員が対応できるよう指導もしてくれたのである。
「……誠に遺憾ながら……ギルデロイ·ロックハートの依頼で、決闘クラブの助手をさせていただこうと思いまして」
セブルスは毒薬を飲んだ後のように苦々しい気持ちをおさえて言った。教師でもない新参者が自分に指図することも苦々しい気持ちの原因だったが、今回ばかりは別の要因が大きかった。
フィリウス·フリットウィックは過去に決闘クラブのチャンピオンだったという経歴を持つ。それはつまり、ホグワーツにおいてその世代最強の魔法使いだったということだ。呪文学という誰もが習熟すべき魔法を極め、更に研鑽を重ねた魔法使いがフリットウィック教授である。
(……当然、闇の帝王も彼を臣下に加えようとしたはずだ)
スネイプが純血主義を掲げるデスイーターに与したのは、力あるものに対する羨望と、力に対する渇望もその理由の一つだ。フリットウィック教授は、スネイプから見て称賛に値するだけの力を持っていた。
それほどの高い実力と、(スネイプとは相容れないとはいえ)高い見識を持つフリットウィック教授の誇りとも言える決闘クラブにおいて、こともあろうにあのロックハートが教えるというのはフリットウィック教授の面目を傷つける行為と言えた。
「話は聞いています」
フリットウィック教授は最近、小柄な顔に皺が増えていた。その原因は言うまでもなくロックハートである。
「私は最初、断ろうとしたのですが。あの男は聞く耳を持ちませんでした」
スネイプはそう言うと、フリットウィック教授に一言だけ確認した。
「その事ですが……私からお願いします、セブルス。ロックハートをこてんぱんに打ちのめしてあげなさい。君にとっては、無駄な時間になると思いますが」
スネイプはフリットウィック教授から予想外の言葉が出たことに驚きを隠せなかった。
「宜しいのですか?私はもとよりそのつもりではありましたが……?」
「ロックハートの授業の評判は私の耳にも入っています。自分なりに工夫していることは認めますが、一部の生徒に負担をかけている。あのやり方をいつまでも続けさせるわけにはいかない。どこかでお灸を据えてやるべきです」
(お優しいことだ。それで止まる男とも思えんが……)
フリットウィック教授の情けということらしい。スネイプは内心でフリットウィック教授の善性を評価しつつも、その思惑通りに進むとは思えず一言確認した。
「では……私のやり方で完膚なきまでに叩きのめしますが。宜しいですね?」
「頼みます、セブルス。あなたに負ければ、彼も自分を見つめ直すでしょう」
***
スネイプ教授に完敗したロックハート先生は、助け起こされながらも自分を心配する生徒たちに白い歯を見せ、いつも通りに笑いかけた。ハーマイオニーや女子生徒たちはロックハート先生の健在ぶりを見て安心したように笑っていた。
(ここまでいくと凄い人だなぁ……)
ロックハート先生とスネイプ教授との決闘は、どちらが先にエクスペリアームスを発動させるかというシンプルな戦闘だった。単純なだけに小手先の誤魔化しがきかず、純粋な杖の操作速度、魔法の発動速度、正確な魔力の操作が必要になる。ロックハート先生は笑顔で取り繕っていたものの、これで、決闘クラブに参加したほとんどの生徒はロックハート先生よりスネイプ教授の方が魔法がうまいと認めざるをえなくなった。
ハリーは、マクギリスやドラコがスネイプ教授の勝利を喜んでいる時に、ハッフルパフやグリフィンドールの生徒たちが少し不安そうな顔をしているのが気になった。
(……何も起こらないと良いけどな……)
ハリーの感じた胸騒ぎは単なる杞憂かもしれないと思っていた。しかし、残念ながらそれは杞憂ではなかった。ロックハート先生の指図によって二人一組の決闘をすることになったのだが、スネイプ教授はハリーとドラコを組ませて決闘をさせようとした。ハリーはその時ザビニと決闘をするつもりだったのだが、ハリーはザビニとではなくドラコと決闘をする羽目になってしまった。
***
ドラコ·マルフォイは青白い顔を緊張で蒼白にさせながら、スネイプ教授のアドバイスを聞いていた。スネイプ教授はどうやらハリーを驚かせたいらしく、ドラコにサーペンソーティア(蛇よ出ろ)の変身呪文を教えてハリーにけしかけろと迫った。
「ええ、任せてください。ポッターも蛇には手が出せませんもんね」
「その通りだ。あの目立ちたがりの自惚れ屋に、敗北を教えてやるがいい、ドラコ」
(……人の気持ちも知らないで……蛇をけしかけて、またポッターに嫌われたらどう責任を取ってくれるんだ?あいつが蛇好きだってことはスリザリン生ならみんな知ってるんだぞ?)
ドラコは内心でスネイプ教授を罵りながらも、閉心術でそんな気持ちはおくびにも出さずに笑って言った。スネイプ教授はルシウスの旧友で、ルシウスと書簡のやり取りをすることもあるという。ドラコがハリーのために反抗的になったと知れば、ルシウスはドラコに口を出してドラコを責めるかもしれない。ドラコはそれを、何より恐れていた。
気が乗らず蒼白な顔のドラコに、パンジーが声援を送りドラコの手を握って励ました。マクギリス·カローは純粋にドラコを応援した。
「良かったではないか、ドラコ。あのシーカー決定戦は君にとっても不本意だったのだろう?」
(……知った口を利いてっ……!)
マクギリスはそう言って、ドラコに全力を尽くすように言ってくれた。だが、あのシーカー決定戦のことはドラコのなかで癒えない傷になっていた。今それを思い出したくはなかった。
「ポッターは決闘の作法をあまり守らない。少々奇抜な戦法を使って君を追い詰めてくるだろう。足を止めず、落ち着いて魔法を行使することだ、ドラコ」
「期待に沿えるように全力を尽くしますよ」
ドラコはカローに生返事をしながら、介添人のゴイルから自分の杖を受け取って状態を確認した。自分の杖に問題がないことを確かめると、ドラコはハリーの側を見た。ハリーの介添人は黒人のブレーズ·ザビニだった。同室のアズラエルやファルカスはハリーの側にいて、何かハリーにアドバイスをしているのを見た。それだけならまだいい。
(……どうしてあいつには、他の寮の友人まで……!)
ドラコが気に入らないのは、ハリーを応援しているのが彼らだけではないことだった。ハリーの側には、ハッフルパフの監督生であるバナナージと、忌々しい思想を吹き込んで血の裏切り者を四人も作ろうとしているロナルド·ウィーズリーと、よりによってマグル生まれでありながらドラコよりも優秀なハーマイオニー·グレンジャーと、奇抜な蛇の帽子を被ったレイブンクローの女子生徒がいた。
(……!?バカな、何なんだアイツは!?何であんな奴がポッターの近くにいる?!)
見知らぬ顔が増えているだけでなく、それがどう考えても正気ではないような生徒であることにドラコは焦り、思わずハリーに話しかけた。
「少し見ない間に、きみはどうやら知人を増やしたらしいね、ポッター」
「そうなんだよ、ドラコ。まだ紹介してなかったかな?あの子はレイブンクローの一年生だ」
「ルナ·ラブグッドだモン」
ルナはドラコが純血主義の家の生まれであることを全く気にしていないかのように、あるいは本当に気にしていないのか、とにかく臆せずにドラコに自己紹介した。
「名前を覚えるつもりはないね。君のような奴がポッターの回りをうろつくのは困るんだ。ポッター、きみは友達を選ぶべきだと僕が前に言ったことを忘れてしまったようだね?きみは脳味噌の代わりに忘却魔法を詰め込んだのかな?」
ドラコは本心からハリーのためを思ってそう言った。その言葉にハリーの友人たちは殺気だった顔をしたが、ドラコにとってはどうでも良かった。当事者のルナは平然としていた。
(ヤバ……)
(……何なんだよあいつら……何で決闘クラブでガチの決闘が始まりそうになってるんだよ)
周囲の生徒たちが息を潜めて見守るなかで、ハリーは苛立ったように言った。
「君がどう思うかはあくまでも君の自由だけどね。ぼくの前で友達を侮辱するのはやめてくれないか?気分が悪いよ」
ハリーはそう言うと、ドラコに背を向けて決闘の準備に入ろうとした。その背中に向けて、ドラコは言葉を放った。
「平行線だねぇ。ならこういうのはどうだい?賭けをしようじゃないか。この決闘で僕が勝てば、きみはウィーズリーやその帽子の女と手を切る」
「ふざけんな!!そんな馬鹿げた話があるか!」
激怒してドラコにつかみかかろうとするロンを、ハーマイオニーとファルカスが必死になって止めていた。
「万が一にもあり得ないけど、そうだね。君が勝てば……シーカーの座を賭けて再試合してもいい」
(さぁ乗ってこい、ポッター!!)
この提案は、ドラコにとっては何の損もないものだった。あの決定戦で掴んだシーカーの座も、それによって得た実際の試合での勝利も、ドラコの心の空白を埋めてはくれなかったからだ。ドラコが勝てば、ドラコは欲しいものを全て手に入れることができる。
しかし、ハリーは冷静に怒っていた。ハリーはドラコを見もせずに、後ろにいたバナナージ·ビストに話しかけた。
「バナナージ先輩。ここでは賭けは御法度ですよね?」
「ああ。もしも賭けのために決闘をするというのなら、マルフォイにはクラブを去ってもらわないといけないな……」
「……!」
「もしも賭けが合法だったとしても、僕は賭けには乗らないよ、ドラコ。友達は賭けられるものじゃない」
結局、ドラコは何も賭けることができず、ただスネイプの言いなりになってハリーと決闘をすることになってしまった。ドラコは半ば自棄になりながら、開始の号令が終わる前に呪文を発動させた。