蛇寮の獅子   作:捨独楽

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これでハリーの暴走を止められる子は居なくなった……


ルビウス·ハグリッドの冤罪

 

 ハーマイオニーが石にされたことで、事態は急展開を迎えた。アーニー·マクラミンはハリーを疑って済まなかったと謝罪した。

 

「気にしないで、アーニー。……君の気持ちが分かったよ」

 

 ハリーは謝ってきたアーニーにそう言った。

 

「きみは友達を守るために必死だっただけなんだろう?……ジャスティンが早く退院できることを祈ってるよ」

 

 ハリーはもうアーニーの事はどうでも良かった。適当に流して謝罪を受け入れたが、ハリーの頭のなかではスリザリンの継承者を潰すことしか頭に浮かんでこなかった。ハリーは冷たい頭で、継承者に対する憎悪を募らせながら継承者への対策を考え続けていた。

 

 ハーマイオニーが石に変えられてから暫くして、ハグリッドが逮捕され、ダンブルドアが学校を追われた。ロックハート先生は事件が解決したと喜んだし、大勢の生徒たちは、ハグリッドがスリザリンの継承者であるはずはないと思いつつも、事件が解決したことにして喜ぼうとしていた。

 

 

(……違う。真犯人は必ずいる。必ず追いつめてみせる……!)

 

 ハリーの頭の中に、ダンブルドアに対する恨みは消え失せていた。ハグリッドを救い、ハーマイオニーやコリンが安心して復学できるホグワーツにできるのはダンブルドアだけだと認めるしかなかった。ルシウスの派閥の純血主義は、マグル生まれを認めていないのだから。

 

 

 

 ハリーは、ハーマイオニーがその手に『パイプ』と書いたメモ用紙を握りしめていたことを思い出した。

 

(ハーマイオニーは、パイプに潜む何かを見たのだろうか)

 

 ハリーはもう怪物の正体にはほとんど辿り着いていた。ハーマイオニーのヒントのお陰でそれを突き止めることは出来ても、なぜ石になったのかという結果がノイズとなる。そのノイズを脇において、ハリーはハーマイオニーが石になった状況を思い出した。

 

(女子トイレの中で、監督生と一緒に石になった……スニーコスコープのお陰でハーマイオニーには対応する時間があったんだ。……問題はどうやって生き残ったか。現場には……そうか、鏡が……)

 

 ハリーはスリザリンの談話室で黙りながら静かに考え事をしていた。アズラエルやザビニは何も言わない。ハーマイオニーの一件があってから、ロンとザビニはそれぞれで会って何かを話し合っていたが、ハリーは誰とも話していなかった。ロンと会うのは後ろめたかった。

 

 

 ハリーは怪物の正体と、被害者たちが怪物から生き残ったカラクリを見破ることが出来た。ハーマイオニーが身を以て証明してくれた。少なくともハリーはそう思っていた。そう思わなければ自分への怒りで頭がどうにかなりそうだった。

 

「……あとは対策だ」

 

 ハリーはその日、決闘クラブを訪れていた。一度クラブを離れた生徒たちは、表向き事件が解決した後でも顔を見せていない。ハリーはバナナージ先輩に、ラジカセを貸してほしいと頼み込んだ。

 

「どうかお願いします、先輩。あのラジカセを使わせていただけませんか?」

 

「別に構わないが……何に使うつもりだ?ちょっとラジオが聞きたいって顔じゃないな、ハリー」

 

「ハーマイオニーが退院したとき、魔法薬の講義の内容を聞かせてあげたいんです。スネイプ教授は大事なことは黒板に書きませんから……僕も時々聞き逃してしまって」

 

「そうか、そうだな。分かった。ハーマイオニーが退院したとき聞かせてやれ。……念のために言っておくけど、壊さないように気を付けろよ?実はそれ、ダンブルドアの魔法のお陰でホグワーツでも動くように出来てるんだ。ダンブルドアがいない以上、壊れたらもう直せないからな」

 

「ありがとうございます、先輩。大切に使います」

 

「おう。俺も試験勉強に専念できる。真犯人はまだ見つかってないが、もうすぐスネイプ教授がマンドレイク薬を作ってくれるはずだ。ハーマイオニーと仲直りできるといいな、ハリー」

 

「……退院したハーマイオニーに何て言えばいいのか分からないんです。喧嘩したあとにあんなことになって、どう謝ればいいのか分からなくなって……」

 

「取り繕うなよ」

 

 バナナージはあえてハリーを突き放した。

 

「……もしも俺だったら、寝起きに辛気臭い顔してる奴がいたら鬱陶しく思うかもしれないが……喧嘩しておいて、しかもその原因が自分なのに謝りもしない奴がいたらそれはそれで腹が立つ。大事なのは誠意だぞ、ハリー」

 

 ハリーは自分がハーマイオニーと仲直りできる気はしなかった。これからやろうとしていることを知れば、きっとハーマイオニーは反対するだろう。怪物の対抗手段にはカースを使わざるをえない。ハーマイオニーが起きてそれを知れば、ハリーのことを良くは思わないだろう。怪物と遭遇して、まだハリーが生きていればの話だが。

 

 決闘クラブの終わり際になり、ザビニもアズラエルもファルカスも、どんよりと落ち込んだロンも寮に帰っていく。そんな中で、ルナはバナナージと一緒に決闘クラブの教室にとどまっていた。

 

「ルナは帰らないの?……送っていこうか?」

 

「ウン。ハリーに言っておくべきかなってことがあって」

 

 ルナはポーカーフェイスで何を考えているのか今一つ分からなかった。ただ、ハーマイオニーが石に変えられてから、ルナは同性の友人がいなくなったことで凹んで魔法に集中できていなかった。

 

「どうしたんだ?ハリーに話があるなら俺は席を外そうか?」

 

「いえ、バナナージ先輩もいてください。ルナ、言いたいことってなに?何かあったの?」

 

「……嘆きのマートルって知ってる?女子トイレに住んでるゴーストなンだけど」

 

「うん。……ハロウィンの時にいたね」

 

「???女子トイレに行ったのか、ハリー?」

 

「去年の話ですよバナナージ先輩」

 

「……ああ、なんだ去年か」

 

 優等生のバナナージは変人を見る目でハリーを見ていた。監督生で男子のバナナージは、女子トイレに足を踏み入れるという発想はなかったのだろう。ハリーだって好きで脚を踏み入れたわけではなかった。

 

「ハグリッドが逮捕されたとき、レイブンクローの子達はみんな真犯人はハグリッドだって言ってたンだ。ハグリッドに怪物を操るような知能はないから、うっかり飼ってた怪物を放しちゃったンだろうって」

 

「レイブンクローの子達はハグリッドの良さを知らないんだよ。……それがマートルと何の関係があるの?」

 

「ハリーはハグリッドの悪さを知らないンだよ。……嘆きのマートルも、昔ホグワーツにいて、秘密の部屋が開かれたときに殺されちゃったらしいンだ」

 

「何だって?!」

 

「それは本当?!」

 

「うん。でもその時にハグリッドが犯人扱いされたのは、アクロマンチュラを飼ってたからなンだってマートルが言ってた。トム·リドルって監督生がハグリッドを追放したんだって。……このことを、大人たちは知ってるのかな?」

 

 バナナージはルナの話に頭を抱えていた。ハリーは心が動かされなかった。闇の魔法を学んだハリーに比べたら、ハグリッドの過去の悪事なんてほんの些細なことだ。その程度でハグリッドから受けた恩を忘れる気はなかった。

 

「ア、アクロマンチュラ……?闇の魔法生物じゃないか!?……いや、ルナ。たぶん大人たちはその事を知ってるはずだ。……知っててあえて無関係なハグリッドの責任にして、事態を沈静化させようとしてるんだな、これは……」

 

「僕もハグリッドのせいじゃないとは思います。蛇語で蛇の声を聞いてますから。……でも、バナナージ先輩がそう言うからには根拠があるんですね?」

 

 ハリーはバナナージが知識と体験に基づいて結論を出そうとする人間だと思った。ハリーの予想通り、バナナージは根拠をもとに推論した。

 

「ああ。アクロマンチュラってのは人も食べてしまうような巨大な蜘蛛なんだ。仮に幼体の小さなアクロマンチュラを校内に放したのだとしても、毒で生徒を石にするメリットがない。アクロマンチュラの習性から言えば、毒で痺れさせたらそのまま食うか、巣に持って帰ってしまうはずだ。種族の特性として、目の前に極上の餌があって我慢できるわけがない」

 

「つまりハグリッドは、少なくとも秘密の部屋事件の犯人じゃない」

 

「違法ではあるけどな。……魔法界は、バレなきゃいいかくらいのノリで犯罪やる奴が多いからなぁ……」

 

 バナナージ自身も、ダンブルドアに断りをいれたとはいえマグル製品をホグワーツに持ち込んでいる。他人に迷惑がかからなければ良いだろうという自分への言い訳で、法で定められたラインを越える人間は多いのだ。魔法が万能であるがゆえに、順法意識というものはなかなか生まれにくいのである。

 

 そんな魔法族ではあるが、明確に悪として定めているものがある。それが闇の魔術や一部のカースを使い、人を攻撃することだった。

 

「ねぇハリー、レイブンクローの談話室でハグリッドの事を言ってもいい?」

 

 ルナはそう言うが、ハリーは首を横にふった。

 

「今はやめた方がいい。ルナは僕と親しいせいで、あんまりみんなから良くは思われていないだろうし。正しいことを言っても、誰も信じてくれないかもしれない」

 

「……そっか。まぁいいや。みんなの話に混ざりたかったなー」

 

(彼女がいまだに孤立してるのは僕らのせいでもあるか……)

 

 ハリーはルナに自分がやろうとしていることを伝えるかどうか迷ったが、結局何も言わなかった。ルナにはムラがあり、調子が良いときはハリーやロンにも勝てるが、悪ければアズラエルにすら負けるくらいにはムラがある。鉄火場に放り込むわけにはいかないと思った。

 

 ただ、ルナが寮の中で孤立しているのではないか、という心配はずっとハリーの頭の中にあった。初めて会ったハロウィンの時から今に至るまで、ルナと一緒にいるレイブンクロー生を見たことがなかった。ハロウィンの後でハリーが継承者だと噂され、とばっちりでますますルナが孤立したことは想像に難くない。ルナにとって寮は帰りたくない家なのかもしれなかった。

 

(……寮に馴染むきっかけを、ぼくが潰したってことになるんじゃないか?)

 

 ハリーはそう想像するとばつが悪くなった。

 

「何かあったら僕とかアズラエルは相談に乗るよ。ファルカスもザビニも、君のことは仲間だと思ってる」

 

「ホントに?」

 

 

「ロンは私のこと変だって言ってたモン。ちょっと前にだけど」

 

 ルナは鳥の嘴のように口を尖らせて拗ねていた。

 

「ウィーズリー流のいじりだよ、それは。ロンも本気で言った訳じゃない」

 

「じゃあ、皆がやろうとしてることに私も混ぜてくれる?」

 

「ああ、必ずね」

 

 

 

 

 ハリーは嘘をついてルナを安心させた。ルナには悪いが、これからやろうとしていることは決していいことではない。ハリーの行動は、一般的には悪とされることだからだ。

 

 

 

***

 

「必要の部屋に集まれって言うから来たぞハリー。……で、何の話があるんだ?」

 

 ハリーはロン、アズラエル、ザビニ、そしてファルカスの四人を必要の部屋に呼び出した。ハリーが信頼できる最高の仲間であり、そして、ハリーが秘密を打ち明けなければならない相手でもあったからだ。

 

「うん。今日集まって貰ったのは、皆に継承者騒ぎについてどうにかする方法を思い付いたから、計画を立てようと思って聞いてほしかったんだ。……それから、ロンにも謝らないといけないことがあって」

 

「……喧嘩のことならザビニから聞いたよ」

 

 ロンは深い悔恨の気持ちを持って言った。

 

「ハーマイオニーがそこまで覚悟してわざと君と喧嘩したふりをしてたなんて、俺は想像もしなかった!そうとも知らずにハリーを責めて、俺……自分が恥ずかしいよ」

 

「!?」

 

 ハリーはぎょっとしてザビニを見た。ザビニはハリーに視線を向けられると、ふいと横を向いた。

 

(ロ、ロンに嘘を吹き込んだのか……!)

 

 油断も隙もないとはまさにこの事である。ザビニは自分達の関係を良好に保つために、ロンに嘘を伝えておいたらしい。

 

(……い、いや……ザビニを責めるのは違うな……そもそも僕も、ザビニたちに原因を伝えていなかったし……)

 

「実はよ、俺たちは森に入る計画を立ててたんだ。まさかオメーも、森に入ろうとか思ってたのか?」

 

 ザビニはハリーからの咎めるような視線を意に介さず、逆にハリーにそう切り出した。

 

 

「どうして森に?」

 

「ハグリッドから手紙を貰ったんだ」

 

 そうハリーに言ったのはファルカスだった。

 

「ハグリッドは蜘蛛の後を追え、っていう手紙を僕らに残してくれたんだ。秘密の部屋の怪物は蛇のはずだから関係ないかもしれないけど、何かしなきゃいけないと思って」

 

「ファルカスがハグリッドと仲がよかったなんて初耳だよ……」

 

 ハリーは驚き呆れていた。そして聞き逃せない情報もあった。

 

「言ったら茶化されると思ってね」

 

 ファルカスが照れ臭そうに鼻をかいていた横で、アズラエルは咳払いしてから畏まって言った。

 

「僕ら四人で、ガーフィール先輩に適当な罰を貰って合法的に森に入ろうって計画を立てたんです。手練れの監督生が護衛についてきてくれますし、ロンは以前森に入ったことがありますからケンタウロスの皆さんの支援も受けられます。ハグリッドの無罪を証明するためなら、ケンタウロスさんも手を貸してくれるのではないかと思ったんですよ」

 

「……そうか。いい考えだと思うけど、森に入る必要はないよ。ルナがいい情報をくれたんだ」

 

 そしてハリーは、五十年前にハグリッドが追放されたという情報を明かした。アズラエルはブラックコーヒーを飲んだときのような顔をしていた。

 

「危うく命を落とすところでしたよ……」

 

「アクロマンチュラの飼育は別の意味でやベーんじゃねえか?」

 

「でも、五十年前だ。今回の一件とは無関係だと思うんだ。ハーマイオニーが残したメモから推理できる」

 

 そしてハリーは自分の推理を皆に語って聞かせた。アズラエルとファルカスは半信半疑だったが、ザビニとロンは乗り気になった。

 

「じゃあ、ハグリッドは白だな!怪物の正体も分かった!……あとは部屋の場所だけか?」

 

「部屋の場所と、継承者の正体を突き止めるための考えがあるんだ。皆、ちょっといいかな?」

 

 そしてハリーは、四人に作戦を打ち明けた。その作戦は荒唐無稽で、勝算は低いものだったが、バレるリスクがないというアズラエルの一言で、四人はその作戦に乗ることにした。

 

(やっぱり皆、内心では禁じられた森に行きたくはなかったんだね)

 

 とハリーは思った。当然の判断だった。

 

 

 

***

 

 その日のホグワーツの朝食の場では、何やらすきま風の音が響き渡っていた。ひゅうひゅう、シューシューという耳障りな音や風の音に生徒たちは首をかしげていた。

 

 ハリーはじっくりとグリフィンドールのテーブルを観察していた。ファルカスはスリザリンのアズラエルはレイブンクローの、ロンは教職員の、ザビニはハッフルパフ、そしてルナには事情を聞かずに、レイブンクローのテーブルで何かおかしな挙動をしている人がいないかを観察していた。

 

 ハリーはペットのアスクレピオスの協力のもと、継承者に対する殺意のこもったあらゆる罵詈雑言を蛇語で話し、それをバナナージから貰ったラジカセに吹き込んだのだ。ラジカセは透明マントで隠しておき、ソノーラス(響け)で出所が分からないように、まんべんなく食堂中に響き渡るように設置した。蛇語使いだけを狙い撃ちにした脅しである。

 

 蛇語使いを炙り出すというハリーの作戦は、継承者が蛇語とは無関係に強力なカースを使えていた場合無意味となる。アズラエルはその点を指摘したが、ハリーは引かなかった。しかしハリーには、継承者は蛇語使いに違いないという強い思い込みがあった。仮に無関係の蛇語使いでも、協力者になって貰えるというハリーの言葉にアズラエルは押しきられ、この無茶な作戦は実行されてしまった。

 

(正体を見せないならこちらからお前を殺すぞ)

 

 ハリーは継承者への敵意を滾らせながらテーブルを観察していた。じっくりとグリフィンドールのテーブルを見ていたとき、ひどく顔色の悪い赤毛の少女がいたのが気になった。

 

(……あの子。もしかして蛇語が分かる?)

 

 ハリーがじっとその少女に目を向けると、ちょうど蛇語の切れ目、罵倒が終わる瞬間にびくりと肩を震わせて怯えていた。ハリーはロンの肩を叩き、少女が誰であるのかを尋ねた。

 

「……誰って。あれは……妹だぜ」

 

 ロンの言葉はハリーにとって衝撃的だった。

 

「俺の妹のジニー·ウィーズリーだよ。ハリーも会ってるだろ?」

 

 

***

 

 ラジカセで蛇語をばらまいた朝食のあと、授業は全て休校になってしまった。ジニー·ウィーズリーが、秘密の部屋に連れ去られてしまったからだ。

 

 

 

 




逃げてー!!ジニー逃げてぇー!!悪い闇の魔法使いに殺されるよー!
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