ロンは祈るような、何かにすがるような気持ちでハリーと共に女子トイレの先に足を踏み入れていた。ロンは必要の部屋にあった眼鏡をかけていた。マートルは驚くほどあっさりとハリーたちが女子トイレに足を踏み入れたことを受け入れて、自分が死んだときの様子を話してくれた。ハリーはマートルにお礼を言って、マートルをその気にさせてしまった。
「本当にありがとう、マートル。蛇の入り口が見つかったのは君のお陰だよ!」
「私……そんな風にお礼を言われたこと無かったわ!」
「この入口から入った先に君の命を奪った化け物がいるかもしれない。ジニーを助けられれば撤退してもいいけど、出来たら君の仇を討ってみる」
マートルが感激で頭から滝のように水を流すのを何とも言えない顔で見ながら、ロンはマートルに増援を頼んだ。
「マートル。きみはその、誰か頼れそうな人を呼んでくれよ。バジリスクにも勝てそうな人を」
ロンの頼みを聞いたからか、マートルはその場から姿を消してしまった。ハリーが蛇語で出現させた秘密の部屋と思われる入り口を、ロンとハリーは進んでいた。ロンは、変身魔法で蜘蛛を出現させて先行させていた。ロンは蜘蛛が大嫌いだったが、皮肉にも、蜘蛛嫌いになったときにフレッドが唱えていた魔法をロンはよく覚えていた。ロンは今回ばかりは嫌悪感を捨てて、蜘蛛にも頼って道を進んでいた。ロンの懐にはスニーコスコープもある。蜘蛛とスニーコスコープの二段構えで索敵し、バジリスクの目を見る前に切り札を叩き込むのだ。
「凄いよロン。この蜘蛛を試験で見せればOだって取れるさ」
ロンに何とか元気になって貰いたいというハリーの賛辞に、ロンは振り返らずに左手をあげて応えたが、ロンの内心はそれどころではなかった。
(頼むから無事でいてくれ、ジニー…………)
ロンにとって、というよりもウィーズリー家にとって、ジニーは自分の命よりも優先すべき大切な存在だった。七人兄弟にやっと産まれてくれた妹。奇跡の子。ウィーズリー家に望まれた救い主。それがジニーだ。そしてその一つ上のロンは、望まれたわけではない微妙な子だった。
ロンが物心ついたときから、ロンには何をしても勝てない兄たちがいた。兄弟たちの中で、ロンはいつもおまけだった。兄弟の誰よりも出来が悪かった。兄弟の誰と比べても、一番になりたい分野で他に誰かがいた。
父さんはいつも忙しく働いていて、母さんはロンたちを毎日食べさせ、家事をするので手一杯だった。ウィーズリー家では自然と、両親の目が届かないときは上の兄たちが下のロンたちの面倒を見るという習慣ができていた。
チャーリーは箒の乗り方を教えてくれたが、ロンは兄弟のなかで誰より箒の扱いが下手だった。それこそ妹のジニーよりも。チャーリーに対しては挑むという気すら起きなかった。単純に年が離れすぎていた。
ビルとチャーリーが実家を出てからは、パーシーがロンにとって一番厄介な兄になった。パーシーには何かときつく注意された。ホグワーツに入る前に勉強の面倒を見て貰えたが、昔のパーシーが簡単に分かった問題でもロンの頭では理解できず、パーシーを苛立たせた。そんなパーシーは当たり前のように十二もの科目で優秀な成績を取ってOWL試験に挑もうとしていた。
フレッドとジョージなら年が近いから勝てるかもしれないと思った。けれど、はじめて貰えたペットのピグミーパプをブラッジャーの代わりにされて殺され、おもちゃのテディベアを蜘蛛に変えられたとき、絶対にあいつらにはかなわないと思った。実際にロンがなにかをしようとした時、いつも二人がロンに立ちはだかった。
勉強で、魔法で、クィディッチで、いたずらで。なにかひとつでも兄弟のなかで優れたものがあればよかった。ロンには何もない。少なくともロン自身はそう思っていた。
ロンはホグワーツに入る前、こう考えて眠れなくなったことがあった。
(自分は要らない子なんじゃないか)
と、ふと思ってしまったのだ。他の兄弟にはこれしかないと言える強みがある。これでいいという何かがある。ロンには何もない。人に誇れるものなど何も。
そんなロンの鬱屈を感じ取ったのか、ビルだけはロンにも、他の兄弟と同じように優しくしてくれた。だがそれでも、ウィーズリー家の中では自分は一番どうでもいい存在なのだと思わざるをえなかった。ロンの中には常に劣等感があった。
そんなロンの鬱屈はホグワーツに入ってから少し変わった。家から飛び出して、知らない奴や嫌な奴も大勢いるホグワーツへくると、兄弟との諍いは些細なことに思えた。少なくとも、パーシーとも双子とも距離を取ることができた。ホグワーツではロンはウィーズリー家の六男ではなくて、ただのロンとして動くことができたのだ。
ホグワーツでできた友達は、兄とロンを比べたりはしなかった。それがロンにとっては何よりも嬉しかった。グリフィンドールの中ではディーン·トーマスやシェーマス·フィネガンだった。ディーンはロンが知らないマグルの知識を知っていて、ロンが思っているよりマグルがずっと栄えていることを教えてくれた。同じ部屋でグリフィンドールの生徒でも、ザムザ·ベオルブやネビル·ロングボトムとは少し距離があった。ザムザはグリフィンドール生らしくない研究オタクで、ネビルはドジだったからだ。
同じグリフィンドールの中でもハーマイオニー·グレンジャーとは特に馬が合わなかった。ことあるごとにロンの魔法が間違っているという彼女と何度も衝突して、ロンは思わず酷いことを言ってしまい、取り返しがつかなくなってしまったと思った。しかし、去年のハロウィンをきっかけに一番の親友になった。
ロンがハーマイオニーと友達になる手助けをしてくれたのはハリー·ポッターだった。ハリーはロンのペットが闇の魔法使いだと暴き、その直後になぜか邪悪な闇の魔法使いを養成しているスリザリンに入ってしまった。だが、それでもハロウィンでハーマイオニーを助けようと駆けつけたハリーを見て、ロンはハリーが真っ当な心を持っている奴だと信じることができた。
ハリーがスリザリン生にしては真っ当な感覚を持った奴なのだとロンはある意味で誤解していたのかもしれない。ロンはハリーと親しくなるまでスリザリン生と交流したことはなかった。だがハリーをきっかけにして冒険を繰り広げたことで、ハリーだけではなく他のスリザリン生とも友達になった。
ロンは自分がスリザリン生と友達になったことに最初は戸惑っていた。話してみてさらに困惑したのは、スリザリン生にもふつうの奴がいるということだ。
ロンが一番いい奴だと思っているのはファルカス·サダルファスだった。ファルカスはロンと同じように家が貧乏で、みすぼらしい身なりをしていた。ファルカスはロンの使い古しの学用品を見ても他のスリザリン生のように笑わなかったし、同情したり上から目線で憐れんだりもしなかった。
ブルーム·アズラエルのことはちょっとだけマルフォイのようないけすかない奴だと思っていた。アズラエルの、手よりも口がよく回り嫌味なところは、ロンは最初嫌いだった。だが後々、アズラエルがハリーを通して知り合ったスリザリン生の中で一番マグルのことを知っていることに気がついた。スリザリン生の全てがマグルやマグル生まれの魔法使いを差別しているというわけではないというのはロンにとっては衝撃だった。そして主義主張と、個人的な性格の一致とは別だというのも新鮮な経験だった。
ブレーズ·ザビニのことは実は最初は嫌いだった。ザビニは授業中によくハリーの隣にいたスリザリン生だった。端正な顔立ちで自信家なザビニはロンの嫌いないじめっ子のような雰囲気がかなりあった。何度か他のスリザリン生徒と一緒にロンの身なりをバカにされたこともあったし、ザビニはその事を忘れていてもロンは未だに少しだけ根に持っていた。それでも、ハリー、ロン、ハーマイオニーと一緒に冒険を超えたときを境に、ザビニはそういうことをしなくなった。人は変わっていけるものなんだとロンは知った。一度打ち解けてみるとロンの冗談にもザビニは笑うようになったし、一緒に悪戯をしたいときはザビニはハリーよりも相性がいい相棒になれた。ザビニと一緒に悪戯をして、ハーマイオニーに叱られたのも楽しかった。
ロンのホグワーツでの生活は最初は散々なものだったが、一年が終わった頃には充実して楽しいものになっていた。そんなロンとは異なり、一年生として入ってきたジニーはとても苦労していた。ジニーには新しい杖が与えられ、私物もかわいい末娘だからとロンよりマシなものが買い与えられていた。それでも他の生徒に比べて貧乏なことと、入って早々に父親のちょっとした犯罪が世間にバレたことで、ジニーは友達を作ることに苦労しているようだった。ロンはジニーが日記帳を片手に談話室でなにかを書き込んでいるところを見た。ジニーの隣には友達がいなかった。あろうことか、それでほんの少しだけ、ロンは妹に勝ったような気になってしまったのだ。年下の妹にである。
ロンはジニーを気遣ってアドバイスをしてみたり、話を聞こうとしたこともあったがうまくいかなかった。ジニーにとってロンは目の上のたんこぶでしかない。もしかしたら、ロンが内心でジニーに嫉妬していたことがジニーにも分かっていたのかもしれない。少なくとも、監督生のパーシーの方がジニーには好かれていた。五つも年が離れていると、パーシーにとってのジニーは嫉妬の対象ではなくて護るべきかわいい妹なのだろうとロンは思った。
自分はどうだっただろう。本気でジニーの身を案じて何かしただろうか。そんなことを考えていたロンに、ハリーが話しかけてきた。
「ロン。こんなときに何だけど、一つだけ聞いていい?」
「何だよハリー?」
「……君の妹さん……ジニーについてなんだけど、最近おかしなところはなかった?」
「ここんとこ、……そうだな、コリンが石に変えられた辺りからジニーはずうっと様子がおかしかったんだ。話しかけても上の空だし、日記に何か書いてばっかりで友達も作ってなかったし」
「……ジニーと親しい友達はいなかったの?」
「たぶんな。まぁいたとしても、俺らからは隠してたのかもしれねえ。兄弟に交遊関係を詮索されんのってウザいしな」
「もしかしたら自分が狙われてるって気付いてたのかもしれねえ。俺がジニーを決闘クラブに誘ってたら……フリットウィック先生なら何か分かったかもしれねえのに……」
そうロンが言うと、ハリーは慎重に言った。
「それは結果論だよ、ロン。フリットウィック先生だって授業でジニーを見てるんだ。ジニーがおかしくなっていたって気が付けるわけがない」
「……それでも……ジニーは何かに気がついていたのかも……俺と違ってあいつは優秀だし……」
ハリーたちの中では、ロンはみそっかすでもなく、いらない奴でもなかった。ザビニやファルカスたちとは少し考え方が違うところはあったが、それだって話し合えばそれなりに折り合えるくらいの違いだった。
それなのに、よりによってハリーが闇の魔術なんかに手を出していた。闇の魔術をうっかり人に使ってしまえば、ハリーはそれだけで退学になってしまうかもしれない。それでもハーマイオニーを護りたいという気持ちだけは理解できた。
ハーマイオニーはお節介で、口煩くて、知ったかぶりで、自分が一番じゃなきゃ気が済まないと思っている子だ。悪魔みたいな奴だと思ったことだってある。
だけどハーマイオニーは、誰よりもロンのことを見てくれていた。ロンにとって他の誰でも代えられない友達だった。
ジニーに決闘クラブのことを教えなかったのは、ジニーにはまだ早いと思ったから、だけではない。
ジニーに自分の居場所を取られたくなかった。
兄や妹に、友達との付き合いのなかに入ってほしくなかった。たとえどれだけ大切だとしてもだ。家でのロンと、学校でのロンとは違う。そうふるまっている部分はあったし、そうでなければホグワーツで生きていけない。ジニーに学校での自分を見せたくはなかった。
「優秀、か。つかぬことを聞くけど、ジニーは蛇語を話せたりしない?」
「話せねぇよ。話せたら親戚中で大騒ぎさ。十年間ジニーと張り合ってきたけど、あいつが蛇どころか動物と話してるとこは見たことねぇ」
「……そうか、ありがとう」
何かを考え込んでいるハリーを見ると、ロンは不安になった。ロンはハリーが蛇語で継承者への宣戦布告をしたとき、ジニーを見ていたことを思い出した。
(こいつ……)
ロンは自分の頭が急速に冷めていくのを感じていた。
「ハリー。お前まさか、ジニーを疑ってるのか?」
ロンは自分の杖を握りしめながら言った。秘密の部屋を探索しているときに、何てことを言うんだと思った。ハリーはロンを刺激しないように、事務的に言った。
「ジニーは蛇語を使えないんだよね。でも、食堂で彼女が蛇語に反応したことが気になってるんだ。もしかしたら、ジニーに蛇語を教えた人間がいるのかもしれない」
ハリーはあくまでも冷静にロンを諭すように言ったが、ロンはハリーを睨み付けた。
(それができるのは自分しか居ないって分かって言ってるのか!?)
蛇語が使えて、闇の魔法を知っているスリザリン生。
該当するのはハリーだけだ。
今すぐその事を指摘してやろうかと思ったが、ハリーがそんなことをするはずはないとロンも分かっていた。ロンはどうしてハリーがそう思ったのか聞いた。
「何でわざわざジニーにそんなことをさせるんだよ!スリザリンの継承者が!」
「……前学期にヴォルデモートがクィレルに取り憑いていたのを思い出したんだ。大人の魔法使いを操っても、変なことをしていたらみんな警戒する。だけど入学したての一年生を操れば、誰も本気で疑いはしないだろ?入学したてで慣れてないんだなって勝手に思ってくれる」
「……!」
ロンが口をつぐむと、さらにハリーは言った。
「ジニーに蛇語を教えたやつは、きっとジニーを操ってバレないように悪事を重ねたんだ。ジニーは操られていたことに気がついて抵抗しているんだと思う。……ロン。この先に、ジニーと、ジニーを操ったやつがいるかもしれない」
「許せねえ……!」
「ロン、もしかしたらジニーも操られて僕たちを攻撃してくるかもしれない。バジリスクはぼくがやる。君はジニーが何かさせられる前に、エスクペリアームスでもいいから、ジニーを止めてあげてくれ」
ロンは無言でしっかりと頷いた。ロンの脳内には継承者に対する怒りがあり、自責の念による焦りは脳内から一時的に追い出された。ハリーはそんなロンを頼もしそうに見た。
「必ずジニーを取り返そう、ロン。大丈夫だよ。君は僕よりずっと勇敢で強い奴なんだから」
「当たり前だ!」
決意を深くしたロンは、偵察に出ていた蜘蛛が戻って来ないことに気がついた。バジリスクを見かけたらすぐに逃げてくるはずの蜘蛛が来ない。
ハリーとロンは顔を見合せ、ハリーが先頭に立って前に進んだ。ハリーは常に自分の正面にプロテゴを展開し、ロンは後ろからルーモスで明かりを灯し続ける。
(蜘蛛が何か見つけた、のか?)
ロンの中で期待が大きくなってきた。トンネルのような暗くて狭い空間を、ハリーとロンは二人で身を寄せあって進んだ。蛇の彫刻が施された壁が見えたとき、ハリーは蛇語の力でその壁に話しかけた。ロンの耳にはただの雑音にしか聞こえなかったが。
『開け』
ハリーの言葉に反応したのか、石造りの壁に刻まれた蛇の瞳の宝石が怪しく光った。何かが動く音がした。目の前の扉が動く。しかし、動いているのは扉だけではない。ハリーの上空のトンネルが、ゆっくりと崩れようとしていた。ハリーはプロテゴの防壁のせいで、それに気付けていない。
「ハリー、あぶねぇ!」
ロンが最後まで言いきる前に、スニースコープがロンの懐で甲高い警告音を出した。ロンはとっさにハリーを突き飛ばした。ハリーのいた空間に岩石が降り注いでくる。
ロンは自分の体に傷がついていないことに気がついた。ハリーのプロテゴは、降り注ぐ岩石からロンの身を護ってくれていた。だが、降り注ぐ岩石の質量はロンとハリーとを分断してしまった。
***
本来の予定であれば、ザビニとファルカスは寮の部屋から透明マントを取って、すぐに三階の女子トイレに行くはずだった。しかし、透明マントを取ったザビニたちは、自分でそれを身につけて隠れながら進むより、一刻も早くハリーたちと合流しようとした。
結果的に、そのせいでザビニとファルカスはハリーと合流することはできなかった。二人が普段ならつけないはずの眼鏡をつけていて、部屋からマントを持って出ていった瞬間をドラコが目撃していたのだ。ドラコは彼らの様子に既視感があった。一年生のとき、賢者の石を護ろうとしていたときと同じだ。
(……まさかあいつら、また危険なことをするつもりか!)
ドラコにとって、ファルカスやザビニはどうでもいい存在ではある。彼らが何か危険なことをしていても、それが自分の不利益にならないのならスリザリンのシーカーとしては静観してやってもいいのかもしれない。
だが、継承者が相手となると話は別だった。スリザリンの継承者には間違いなくドラコの父親、ルシウスの息がかかっていた。彼らが継承者の怒りを買って、継承者
の気まぐれで死なれてはドラコだって寝覚めが悪いのだ。ドラコは彼らが危険なことをする前に止めなくてはならなかった。自分の父親のせいで人が死ぬのは御免だった。
ドラコはクラッブとゴイルと三人で談話室から出た二人を追って、ザビニに不意打ちしようとした。ザビニはすんでのところで不意打ちをかわし、二対三の遭遇戦になった。ザビニとファルカスは決闘クラブで鍛えたお陰か、反射神経が磨かれていてドラコでも一筋縄ではいかなかった。クラッブとゴイルをほぼ捨て石にしてザビニをインカーセラスで拘束し、ファルカスからエクスペリアームスで杖を奪い取った後で石にしたときには、ドラコの息は絶え絶えになっていた。
「……さぁ、君たちが何をしようとしているのか話して貰うぞ?悔しいだろうねぇ。君たちは今回は何もできずに終わりだ」
ドラコは自分の力で難敵に勝利できたことが嬉しく、その余韻に浸っていた。それは致命的な隙だった。
「エクスペリアームス」
間延びしたような気の抜けた女の子の声がした。気がついたときには、ドラコの手にしていたファルカスの杖とドラコ自身の杖は、金髪の少女の手に握られていた。
「ルナ!?何でここにいるんだ!?」
「みんなを探してうろうろしてたら面白いもの見ちゃったンだモン」
ルナは朗らかに言った。ドラコは呆然と立ち尽くしていた。
(あ、あんまりじゃないか……こ、こんなことがあっていいのか……!)
年下の少女に裏をかかれた衝撃で真っ白になっているドラコをよそに、ザビニはルナにインカーセラスを解くように叫んだ。
「おい、こいつを切断呪文で切ってくれ!」
「ごめーん。私それ使えないんだよ、なんだか切るってことが怖くて……」
「オメーそんなキャラだったか!?」
ルナは天才ではあったが、興味のある魔法に挑戦するタイプで広範な魔法を満遍なく使いこなせるわけではなかった。ザビニは仕方なく、床に転がっていた眼鏡をかけて透明マントを着て、マートルのところに行けとルナを急かした。
「急げ!ハリーとロンはもう先に行ってる!継承者からジニーを取り返そうとしてんだよ!」
「な、何だって!?」
ザビニの言葉に、ドラコは覚醒した。それではドラコのやっていたことは何だったのか。ハリーが既に危険のなかにあるというなら何の意味もないではないか?
「私は行くけど、マルフォイも一緒に行く?」
ルナはそんなドラコを見て、杖を返そうとした。ドラコはその杖を受け取らなかった。
「ふ、ふざけるな!スリザリンの継承者にどうしてスリザリン生が歯向かうんだ!」
ドラコの虚勢を見て、ルナは杖を引っ込めた。
「だって友達だモン。友達は助けたいでしょ?……ファルカス、ザビニ、今は置いていくけどごめんね?後で迎えに来るから」
ドラコはブロンドの女子が透明になって駆け出すのを見送るしかなかった。
(…それが出来たら苦労しないんだよ……!僕が関わったってことが継承者にバレたら……)
ドラコは歯噛みしていた。ドラコだって助けられるものなら友人の命くらいは助けたい。
(継承者にバレずにハリーを助ける方法なんて、あるわけ)
(……そんな、都合のいいことが、いや、やってくれそうなやつが……僕に……)
(……いた!!)
ドラコはふと、脳内で思い浮かんだ考えを叫んだ。
「ドビー!!聞こえているか!見ているか!?見ていたら姿を現せ!」
ドラコの言葉と共に、一体のハウスエルフがドラコの前に姿を見せた。その妖精は恐怖に怯えた目で、自分が仕える一族の後継者を見ていた。