蛇寮の獅子   作:捨独楽

69 / 330
今回は短めです。


スリザリンの簒奪者

 

 無事医務室から復帰して、皆と共に授業を受けることができるようになったハリーだったが、復帰してからは色々なことがあった。

 

 ハリーがスリザリン生でありながらスリザリンの継承者を止めた、ということはホグワーツ生徒の間で爆発的に広まっていた。ハリーがそのとき腕を失くしていたことも、医務室にいたカップルのせいでホグワーツのほぼ全ての生徒が知っていた。ザビニによると、ほとんどの生徒は噂に対して半信半疑になっていたという。

 

「他の寮生の間じゃ、ハリーが何かやったってよりは、一緒に行ったパーシー·ウィーズリーが解決したって方向になってるけどな。おいしいところ持ってかれたなー」

 

「闇の道具を壊したのはロンで、壊す道具を出したのはルナで、ロンやルナたちを護ったのはパーシーだよ」

 

「謙遜は嫌味になるよ、ハリー。パーシー·ウィーズリーは君がバジリスクを倒したって言ってる。スリザリンの生徒は皆、君が殺ったって知ってるよ。他の寮の生徒は、パーシーが殺ったって思ってるけど」

 

「パーシーが『自分はギルデロイ·ロックハートになったつもりはない。バジリスクを倒したのはハリーだ』って憤慨する度に、他の寮の皆はパーシーのことを好きになるんだ。ハリーがどうやってバジリスクを殺したのか説明できないから、パーシーがやってくれたって思い込みたいんだよ」

 

 ファルカスは心底残念がって言った。ハリーは内心でパーシーに感謝し、彼が面倒な立場に置かれていることを察した。

 

 

「ロンのお兄さんも大変だなぁ。僕ら、事後処理とか全部あの人に丸投げしちゃったもんなぁ」

 

「ハリーが闇の魔術を使ったことについては公に出来ませんからねえ。生徒の間でモラルハザードが起きるリスクを考えたら致し方なしですが……」

 

 アズラエルもハリーの功績が闇に消えることを残念がった。ハリーは自分の後ろめたい功績についてはどうでも良かった。ハリーにそう言ってくれる仲間が居るだけでハリーは報われた気持ちになった。

 

「ちょっとした喧嘩で闇の魔法を使ったら洒落になんねーからな。ま、たかが喧嘩で闇の魔法を使うバカなんていねーとは思うけどよ」

 

「バジリスクから生き残れただけで儲けものだよ」

 

 ハリーが蛇寮の談話室に入ると、大勢のスリザリン生たちがハリーを待ち構えていた。下級生や同級生や、年の離れた上級生までがハリーのことをみていた。反対に、ハリーが来たとたんに席を外す生徒もいた。ドラコはふかふかのソファに身を預けながら、ハリーの方をチラチラと見ていた。

 

 いなくなったのは、セオドール·ノットだった。これまでハリーとは親しくもなければ敵対していたわけでもなかったが、ハリーが帰ってきてからは露骨にハリーを避けることにしたようだった。

 

(セオドールは、純血主義だったのかな)

 

 ハリーはこれまでセオドールに特別な興味があったわけではなかったが、ぼんやりとそう思った。スリザリンの継承者を純血主義ではないハリーが止めたことは、純血主義の生徒たちにとってはあまり面白くはないだろう。

 

 ハリーは席を外したセオドールにはむしろ好感を持った。パンジー·パーキンソンが例のパグ犬のような瞳を潤ませながらハリーに近づいてきたからだ。

 

「心配したわ、ハリー!ああ、スリザリンの貴方がスリザリンの継承者を止めるなんて!!よその寮の連中と関わらなければこんなことにはならなかったのに!!辛かったでしょう?苦しかったでしょう?マグル生まれなんかのために戦うのはもうやめるべきよ!」

 

(スゲーよこの女、空気読めてねー……)

 

 ハリーの後ろでザビニが呆れ半分、面白半分でパンジーを見た。パンジーはハリーをお茶会に誘った。

 

「ねぇ、今度の日曜にゆっくりとお茶をしないかしら?パパの伝手で、とても良い茶葉が手に入ったのよ。貴方も気に入ると思うわ」

 

(純血主義者の執念を感じますね。ぼくもハリーが居なくなっていたらこうしていたでしょう……)

 

 アズラエルは内心でパンジーに同情した。スリザリンにおける純血主義者たちの肩身が狭くなることは確定事項だったからだ。継承者の恐怖が消えた今、他の寮生の怒りの矛先は、純血主義を誇って過激な言動を繰り返したパンジーやドラコなどの純血主義者に向かうだろう、とアズラエルは先の展開を予想していた。

 

 

 パンジーの芝居がかった言動はハリーを大いに苛立たせた。パンジーに追従する女子たち(その中にはダフネもいた)とパンジーに向けて、ハリーは閉心術を使いながら、にっこりと笑って言った。

 

「僕は継承者に立ち向かったことを後悔してないよ、パンジー。それから、悪いけれど日曜日は別の予定が入ってるんだ」

 

 ハリーは残酷にパンジーをはねのけた。その時のパンジーの顔は、ハリーの苛立ちを解消させてくれた。

 

 

 

 ハリーに対して変わらずに接してきてくれたのはエイドリアン·ピュシーやガーフィール·ガフガリオンだった。彼らは、ハリーを必要以上に持ち上げようとするスリザリン生たちからハリーを遠ざけた。ハリーを持ち上げようとした人間の筆頭が、監督生のマクギリス·カローだった。

 

 

「君たちはかつてのスリザリンの継承者を打ち砕き、スリザリンの新しい時代を作った、というわけだ、ポッター。実に、見事だ」

 

 マグギリスはスリザリンの談話室でそう言って過剰にハリーを持ち上げた。ハリーは今すぐ回れ右して帰りたかったが、人混みはそれを許さなかった。

 

「新しいスリザリンの継承者として、君は今後スリザリンをどうしたい?」

 

 マクギリスの問題発言は場の雰囲気を凍らせた。ハリーはつとめて冷静に言った。

 

「何も。変わらないと思います」

 

「現状維持で、本当に良いのかな?」

 

「今回の一件は、純血主義の方々に原因があったわけではありません。闇の魔法道具が原因でした」

 

 ハリーがそう言うと、カローのとなりにいたリカルド·マーセナスが髪を弄くりながらハリーに聞いてきた。

 

「噂は本当だったのか?古い日記が原因だって他の寮の奴らが話してたが……」

 

「はい。闇の魔法が込められた日記のせいです。スリザリンの純血主義の生徒がやったことならば、その責めをその生徒が負うのは当たり前だと思いますけどそうじゃない。ならぼくを継承者だ何だと言って持ち上げる必要もない。違いますか、カロー先輩?」

 

「しかし、功績は消えない。君がバジリスクを打ち倒したのは純然たる事実だ」

 

 カローはそう言って引かなかった。ファルカスは厳しくカローに言った。

 

「ハリーの後見人になりたいなら、無駄だと思いますよ。ハリーにはシリウス·ブラックが居ますから」

 

 ファルカスは取り繕わず直接的な言動でカローの目論見を看破した。元闇祓いの実家を持つだけあって、ファルカスは元デスイーターの家系に厳しかった。

 

「む……確かにそのとおりだ」

 

 カローは潔くそう言ったが、ハリーには継承者を名乗る権利があると言った。

 

「きみは前の継承者を打倒して生き残った。力あるものが継承者となることはこの世の真理だ」

 

「ならば、君には新しいスリザリンの継承者として何か成すべきことがあるのではないかと思うのだが……」

 

「オイ……マクギリス……それから他の連中。てめぇら退院したての小学生に何言ってやがンだ?ポッターをさっさと部屋で休ませてやれ」

 

「ポッターにはなるべく早くチームに復帰してもらわなきゃならないんでね。そういった話を選手にするのはやめてもらえますか?」

 

 ガーフィール·ガフガリオンが半ば怒りながらマクギリスをこづいた。エイドリアン·ピュシーがマクギリスを引き離しても、それでもマクギリスはめげなかった。

 

 マクギリスは強い目でハリーを見ていた。パンジーにはない目だった。ハリーはマクギリスが、やたらと政治的な主張に熱心だったことを思い出した。

 

(そういうのがやりたいなら事前に打ち合わせでもしてくれないかなぁ……)

 

「それなら」

 

 ハリーは寮生たちの視線にうんざりしていたが、ハッキリと宣言した。

 

「秘密の部屋は閉鎖します。マグル生まれをマグル生まれだからという理由で排斥するのも、マグル生まれを襲うのも僕はやらない。マグル生まれを襲うのがスリザリンの継承者の使命なら、僕は継承者の立場を放棄します。バジリスクは死んだんだ。スリザリンの継承者の歴史はもう、終わったんです」

 

 

 そう言ったハリーの言葉を聞いて、意外なことに、マクギリスは安心したように笑った。

 

「なるほど、これが新しい歴史というわけか」

 

 マクギリスは、純血主義が敗北したことを悲観しているようには見えなかった。ハリーにはマクギリスの意図が読めなかった。

 

(この人はただのバカなのか……それとも大馬鹿なんだろうか)

 

 世の中には、ハリーの物差しでは測定できない人間がいる。マクギリス·カローもまた、ハリーにはわからない価値観で動いている人間の一人だった。

 

「監督生の癖に自分に酔ってんじゃねえっ!さっさと散れ!解散!!」

 

 ソファに座っていたドラコはクラッブとゴイルと一緒にソファに座り続け、ガフガリオンの声を聞いても席を立たなかった。ドラコはふんと鼻を鳴らすと、最後の一人になって自分の部屋に戻った。ハリーはドラコの背中に声をかけた。

 

「ドラコ。……ただいま。また、クィディッチをやろう」

 

 ドラコは返事をしなかった。しかし、小さく右手を上に上げて返事の代わりにした。

 

 

 ドラコが自分の部屋に戻ったあと、ガフガリオンはハリーをソファーに座らせた。彼の視線は、ハリーの左腕に向けられていた。

 

「耳を疑ったぜ、ポッター。お前が左腕を失くしたと聞いたときにはな」

 

「もう問題ありません。左腕で魔法だって使えます」

 

 ハリーが変身呪文を実演して見せると、ガフガリオンは小さく、ン。と頷いた。

 

「……ポッター。お前、パーキンソンが間違ってると思うか?」

 

「?思います。友達を悪く言われたら怒るのは当たり前でしょう」

 

 ハリーが正直に言うと、ガフガリオンは頭を抱えた。

 

「そうだな。そうなんだが……」

 

「あれでもお前のことを心配してるのは確かなンだ。だがまぁ教育の結果として、あれ以外の出力方法を知らねえっつーかな……」

 

「……?」

 

 

「ま、いいか。ポッターには合わねえってことだな。お前は良くやった。本当によーく頑張った。だから頑張った分だけ、もう少しだけでいいから自分のことを大事にしろよ。色々と言いてえことはあるが、今日はゆっくりと休め」

 

 ハリーはいつになくガフガリオンが自分に優しいことを不思議に思いつつ、久しぶりに部屋に戻った。部屋に戻ったハリーはアスクレピオスを左腕にまとわりつかせながら、三人の仲間とゴブストーンに興じた。

 

 




ハリーがバジリスクを闇の魔術で殺したことは公表できないんだ。
流れ弾でパーシーに風評被害が行ってる……パーシーかわいそう……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。