蛇寮の獅子   作:捨独楽

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二年目の終わりに

 

 

 ハリーが授業に復帰して暫く経ってから、DADAの代役教師が魔法省から派遣されてきた。

 

 ハリーはまたドローレス·アンブリッジ先生のような役人が派遣されたのかと思ったが、そうではなかった。世間的に知名度のあるロックハートが犯罪者だったことで魔法省も本腰をあげたのか、それとも何らかの政治的なやり取りがあったのか、最高の人材が選ばれた。

 

 ロックハートの代役として赴任したのは、キングズリー·シャックルボルトという禿頭の黒人男性だった。キングズリーは現役の闇祓いらしく、的確な指導で男子生徒たちにとっての救世主になった。少なくとも、教師の趣味趣向を問うような授業ではなかった。

 

 

「ロックハート先生の教科書の内容はもう終わってしまったので、今日からは闇の魔法がかけられた物品とその対処法について勉強しよう。闇の魔法がかけられたものと、そうではないものの違いとしてー」

 

 キングズリーが生徒たちの間で教師として受け入れられるまで数日とかからなかった。ロックハート先生がいなくなったことを残念がるハーマイオニーに、ロンが投げ掛ける言葉が印象的だった。

 

「アンブリッジと来てロックハート。んでもって今度はシャックルボルト先生だったじゃないか。顔面偏差値は交互に切り替わってる。次は飛びっきりのイケメンの先生が来るかもしれないよ」

 

「わ、私は先生を顔面で評価したりしないわ、ロン!今すぐに訂正して!」

 

 キングズリーは冷静で理知的な教師だったが、ロックハートのように陽気なイケメンというわけではなかった。

 

 

 ハリーはキングズリー先生に決闘クラブで新しい魔法の指導をしてもらえないか頼んでみたものの、多忙な新任教師はそれを断った。

 

「すまないがハリー。私は五年生や七年生たちの指導をすることになっているから直接指導をする時間がない。決闘クラブはフリットウィック先生の城でもあるし、私が立ち入るべきではないだろう。その代わりに、君の役に立ちそうな魔法を教えよう。クラブで先輩に聞いてみるといい。奥の深い魔法だ。極めてみるのもいいだろう」

 

 シャックルボルト先生は、アクシオ(引き寄せ)の実演をしてくれた。ハリーは図書館でアクシオについての理論を調べながら、それがとても便利で実用的な魔法だと知った。

 シャックルボルト先生のように、実演して見せてから理論を自分で学ばせるやり方は意外とハリーに合っていた。杖の振り方、声の出し方、魔力放出のコツは先生の動きを思い出せば良く、自分の動きをどうやって理想に近づけるか考えるのもよい訓練になった。

 

 決闘クラブでもバナナージからアクシオについて教わり、ハリーはまたひとつ魔法の腕を上げていった。そんな日々のなかで、ハリーと親友の三人のスリザリン生は復活したコリン·クリービーから付きまとわれていた。コリンはカメラを買い換えたらしく、以前よりも軽量で小型のカメラを片手にハリーたちを追いかけてきた。

 

 

「きみはあれですか、学習能力がないんですか?あれだけ酷い目に遭ったのに、良くまたスリザリン生と関わろうなんて思えますね」

 

 アズラエルは呆れたようにコリンを皮肉ったが、コリンは瞳をキラキラと輝かせて言った。

 

 

「パーシーが、ハリーたちが活躍したことを教えてくれたんです!石にされた僕たちのために頑張ってくれたんだよね、ハリー!」

 

「お前、あの話を信じてんの?全部パーシーの功績になってるやつだぞ?」

 

 ザビニはハリーの功績があまりにも喧伝されないことを不満がっていた。だから、ハリーが活躍したことを疑わないコリンに対して多少は心を動かされたようだった。

 

「そのパーシーが本当に活躍したのは自分じゃないって言ってるから。僕はパーシーとハリーを信じます!……ねぇ、だからどうか僕と写真を撮ってください!……おねがいします!」

 

 

「悪いけどサインは断るよ、コリン」

 

 ハリーはあくまでも冷たく言った。

 

「……ただ、写真なら……今回だけならいいよ。きみは僕と関わって酷い目に遭ったしね」

 

 ハリーは同情心からコリンに手を差しのべた。ハリーと記念撮影ができたことでコリンも満足したのか、嬉しそうに新品のカメラを撫でさすっていた。

 

「そうだ、良かったら皆さん四人での写真とかもどうですか?」

 

「……そうか、それなら写真を撮ってもらっていいかな」

 

「ちゃんと四人分もらえるか?」

 

「もちろんです!」

 

 ハリーはコリンのお陰で、友達との記念写真を撮ることができた。コリンから受け取った写真は宝物にしようとハリーは固く誓った。

 

「……僕たちは彼のことを嫌ってだけど、そんなに悪いやつじゃなかったのかもね、クリービーは」

 

「性格は悪くないけど。僕のことをヒーローだって誤解してるのはコリンの頭が悪いね」

 

 ハリーはコリンを見直しはしたが、コリンの態度を好きになったというわけではなかった。ちょっとした軽口を言ってファルカスを驚かせた。

 

「どうしてそう思うの、ハリー?」

 

「だってコリンを助けたのはスネイプ教授だろ。コリンは僕じゃなくてスネイプ教授を尊敬すべきだ」

 

「……ほんとだ」

 

 そう言って笑うファルカスと一緒に、ハリーは決闘クラブの扉を開けた。そこにはロンやハーマイオニーやルナの姿だけではなく、部を去ってしまった人たちの姿もあった。

 

 

***

 

 ハリーはニンバス2001を駆りながら、迫り来るブラッジャーがとても遅く感じていた。

 

 今日はクィディッチシーズンの最終戦。グリフィンドール対スリザリンの優勝決定戦だ。ハリーの左下からフレッド·ウィーズリーが打ち上げてきたブラッジャーは、ハリーにかすることなく空高く舞い上がり、別の獲物を探そうと不規則に軌道を変える。ハリーは自分を止めようと進行方向に立ちふさがって来たアリシアを見向きもせず、この日五本目のシュートを決めた。スリザリンの応援席から歓声が、グリフィンドールの応援席からは悲鳴や野次が上がる。

 

『ああーっと、これで70対40!!スリザリン30点のリード!蛇寮の獅子は手加減はしてくれないっ!やはり箒の性能の差が大きいか!』

 

『ジョーダン!真面目に解説をなさい!』

 

 スリザリン·クィディッチチームは黄金期を迎えていた。オリバー·ウッドという強力なキーパーは、組織的にチェイサーやビーターを動かした強力なディフェンスによって何度かハリーのシュートを止めたが、スリザリンは構わず攻撃的な姿勢を取った。点の取り合いを挑むような攻撃的なスリザリンのフォーメーションに対して、グリフィンドールチームのアリシアなどは幾度かフォーメーションが乱れる。それが綻びとなり点を重ねることができた。

 

 チェイサーは得点によってチームに貢献する選手だ。点取りほど楽しいものはない反面、ディフェンスは地味で難しい。グリフィンドールのチェイサーたちは徐々に陣形を乱していく。

 

 

(点を取りたい)

 

 大観衆の前で得点したいという欲求はチェイサーなら持って当然のことだ。オリバー·ウッドがタイムアウトを取ったとき、スリザリンとグリフィンドールの点差は80点まで開いていた。グリフィンドールチームは得失点差の影響で、40点差以内にした上でスニッチを取らなければ優勝できない。

 

 ウッドは戦術を変えて点取り合戦を挑んできたが、フリントもタイムアウトの間に戦術を変えた。スリザリンチームはリードがあるうちに、スニッチの捜索に全力を注いだ。ハリーがグリフィンドールをおちょくるように飛び回りながらシュートもせず逃げ回る間、ピュシーやフリントがスニッチを探す。

 

 

 この作戦が功を奏した。フリントの誘導に従ってドラコが箒を動かした先にスニッチがいた。ピュシーが巧みにグリフィンドールチームのシーカー、コーマック·マクラーゲンに立ち塞がった。ハリーがフレッドに撃墜されかかったとき、ドラコは黄金のスニッチを手にとって大空を飛び回った。

 

 スリザリン寮はハリーが継承者を倒してからどことなくぎくしゃくしていたが、この勝利がスリザリンのほとんどの生徒の不安や不満を洗い流した。勝利は細かな不満を解消してくれるものだ。純血主義ではないハリーと、純血主義のドラコが同じチームとして活躍したことで、不安定だったスリザリン内の力関係はひとまず落ち着いたように見えた。純血主義過激派のマクギリスが浮かれて花火を打ち上げていたのが印象的だった。ドラコはパンジーから祝いのキスをもらっていた。

 

 しかし、どの派閥にも所属しない一匹狼のセオドール·ノットは、そんな喧騒にも加わらず孤高を貫いていた。

 

 

***

 

 さらに季節は流れ、試験の日が近づいていた。バナナージは試験前の復習として変身呪文やチャームを使い倒し、ハリーらも実技試験のために決闘クラブで復習に明け暮れた。

 

「……そう言えば、コリンは試験を受けても大丈夫かな」

 

 ハリーはハーマイオニーにそう聞いてみた。

 

「学期のはじめから石にされてしまって、勉強についていけたんだろうか」

 

 秘密の部屋事件が早期に解決されたため、試験は通常通りに行われることが決まっていた。ハーマイオニーのように石となった期間が短い生徒はあまり影響はなかったが、コリンはそうではなかった。生徒のなかで誰よりも石にされた期間が長かったのだ。

 

「多分大丈夫じゃないかしら。グリフィンドールは勉強にはあまり力を入れないし……」

 

 そう言うハーマイオニーは、たわしをハリネズミへと見事に変化させていた。ハーマイオニーはコリンにはあまり関心がなく、ロンやネビルの面倒を見るので忙しいようだった。ハリーは内心で、コリンへのフォローが必要かもしれないなと思った。

 

 

 試験前三週間になって、ハリーはコリンを校庭の中庭に呼び出した。コリンは喜び勇んでハリーの前に現れた。

 

「ハリー!!僕に話って何ですか?」

 

「あー、まぁ君が良かったらだけど、試験の過去問はどうかなと思って」

 

「いいの!?いただきます!」

 

「試験が終わったら返してね」

 

 スリザリンの寮生たちは、自寮の後輩に過去問を渡す風習があった。アズラエルたちはそれぞれ後輩に過去問を渡していたし、ハリーもルナに渡しはした。コリンに渡すのはそのついでだった。

 

 笑顔で過去問を受け取るコリンを見ながら、ハリーは苦笑した。

 

(コリンは過去問のからくりに気付くかなー。気付かないだろうなー)

 

「そうだハリー、試験問題のなかでわからない魔法があったら、教えてもらっていいですか?」

 

 

「グリフィンドールの監督生がいるだろ?」

 

「僕はハリーに見てもらいたいんです!」

 

「……わかった。週末に中庭でね」

 

 笑顔で中庭を去るコリンを見送りながら、ハリーは過去問にかけた偽装を解いておくべきだったかと思った。過去問は二段構えになっていて、ただ書いてあることを鵜呑みにしただけでは合格点を取れるかも怪しくなっている。そんなハリーに、後ろから声がかけられた。

 

「…………いい先輩を演ってるじゃねえか、ポッター」

 

 

「ガーフィール先輩」

 

 ガーフィール·ガフガリオンは手に問題集を持っていた。どうやら、相方の女子監督生ジェマ·ファーレイと共に校庭で参考集の問題を解いていたようだ。

 

「校庭じゃ魔法は禁止だぞ?」

 

「そこはどうにかお目こぼしを頂けないでしょうか?」

 

 

 ハリーがそう頼み込んでみたが、ガフガリオンは頷かなかった。

 

「規則は規則だ、例外はねえ。クラブなり人目につかねえ場所で面倒を見てやれよ」

 

「はい、わかりました」

 

 ハリーが素直に頷いたことにガフガリオンは満足げだったが、すぐに顔をしかめて言った。

 

「しかし、本当にいいのか?お前はクリービーを嫌っていたはずだが」

 

「コリンのことは好きじゃありませんが、あの子は僕を嫌ってる訳じゃありませんから」

 

「パンジー·パーキンソンはどうだ?あの子もポッターを嫌っている訳じゃあねぇだろう」

 

「……パンジーにはドラコがいますから。僕なんかじゃ彼女の友人は務まりません」

 

 ハリーは閉心術を使って言った。ハリーの内心は穏やかではなかった。

 

(パンジーと友人になるくらいなら、コリンの方が何十倍もマシだ)

 

 とハリーは思った。

 

 

「なるほどな。お前は出自で区別をしねえというわけか。グリフィンドール的な考え方だな」

 

 ガフガリオンの言葉に、ハリーは素早く反応して訂正した。

 

「……いえ。そういう訳じゃないと思います。僕は学校で浮きたくないから、コリンに優しくしてるだけです。これってスリザリン的な考え方だと思いませんか?」

 

 これはハリーの本心でもあった。

 コリンの人格を見てコリンと友人になりたいと思っているわけではない。コリンに対して失礼な考え方だと思っていた。

 

 ガフガリオンはハリーの言葉に、ひとつため息をついた。

 

「まぁ、そうだな。要するに自分のために人に優しくする。それが俺たちスリザリン生のやり方だ。ポッター、何でそうするか分かるか?」

 

「いえ、分かりません」

 

 ハリーが首を横にふると、ガフガリオンはハリーに教えてくれた。

 

「お前みたいに分け隔てなく誰にでも優しくするってやり方には限界があるからだ。自分の体が一つである以上はな」

 

 この言い方は正確ではなかった。実際には、自分に迫る過酷さや面倒さから逃げるために他人を利用しているだけだった。

 

「……だから俺たちやパンジーみたいな普通のスリザリン生は、スリザリンの生徒を身内として、それ以外の連中とは区別する。そうやって自分のできることと出来ないことをはっきりと分けて、割り切るんだ。そうでねえと身が持たねえからな」

 

 ガフガリオンは穏やかに、諭すようにハリーに語りかけた。

 

「お前がそうなる必要はねぇ。だが、世の中にはパンジーや、普通のスリザリン生みたいな考え方もあるってことだけは理解しておけ。……ほとんどのやつは、余裕を作り出して自分の身内を助けるんだ。自分の身は削らずにな」

 

「……そんな都合のいい話はないと思います」

 

 ハリーの言葉に、ガフガリオンは笑っていった。

 

「ああ。『自分を汚さずに利益を得る』なんて都合のいいことが出来るのは、上から押さえつけてお前みたいな誰かに、自分を犠牲にさせているからだ。……要するにだ」

 

 ガフガリオンは、自分の鞄からテスト用紙を取り出してハリーに手渡した。

 

「スリザリンの仲間はな、お前に犠牲になって欲しくねえってことだよ、ポッター。お前はもうスリザリンの一員だ。時にはグリフィンドールの友人を犠牲にしてでも、自分の身を大事にしろってこった。…そういう生き方もあるンだぜ」

 

 ハリーは二年生の過去問をガフガリオンから受け取りながら、それは無理だと内心で思った。

 

(僕なんかと友達になってくれる子を、犠牲には出来ない)

 

(……それに)

 

(ガフガリオンやパーシーみたいな人たちは、そんなことはしない)

 

 ハリー·ポッターに対して、ガーフィール·ガフガリオンやパーシー·ウィーズリーといった先輩たちもまた影響を与えていた。これからもハリーは己の身を犠牲にするだろう。そしてハリーが己を犠牲にしてでもなにかを守ろうとする限り、ハリーは蛇寮の獅子として、スリザリンのなかであり続けるだろう。それがハリーのなかで、ハリー自身のためにやったことであったとしても。

 

***

 

 試験が終わり、残された日程をすべて消化し終えたハリーたちは、大広間に集まっていた。ホグワーツ校長のアルバス·ダンブルドアは宴を始める前に、まずはザビニ、アズラエル、ファルカスの友を思う気持ちを称えて20点を加点した。ダンブルドアの加点はそれで終わらなかった。

 

「今年は皆も知っての通り、奇妙な出来事があった。ホグワーツにスリザリンの継承者を自称するものが現れ、大勢の生徒を恐怖と混乱に陥れた。しかし、皆も知っての通り、継承者は破壊され、ホグワーツを覆った闇は晴れた。まことに勝手ながら校長としてその功績を表彰したい。パーシー·ウィーズリーくん」

 

 そう言って、ダンブルドアはまずはパーシーを指名した。

 

「規則を遵守するという監督生の職務を放棄したことで、パーシーくんは一度自ら罰則を受けようとした。……しかし、ホグワーツの監督生は、下級生に己の在り方を示し、時には間違えることもあるということを示す必要がある。パーシー·ウィーズリーくんは偉大な間違いを犯した」

 

(そ、そうなんだ……)

 

 ダンブルドアの話が進む度にパーシーの顔が渋くなっていくのをハリーは見た。ハリーはパーシーが思っていたよりも石頭であったことに驚愕した。ロンの話と同じように、パーシー·ウィーズリーは本来規則の鬼であったのだ。

 

「規則に反してでも闇に立ち向かい、下級生を守り抜いた魔法の力量と、その下地になったたゆまぬ努力を称えて、グリフィンドールに200点!」

 

 グリフィンドールのテーブルから大歓声が上がった。たった今、レイブンクローと同じだったグリフィンドールの順位は浮上した。3位から、スリザリンと同じ1位へと繰り上げになり、パーシー本人は渋い顔のまま周囲から祝福されていた。

 

 ダンブルドアがぴたりと手を上げると、グリフィンドールの歓声は止んだ。ダンブルドアはさらに言葉を続けた。

 

「次に。勇気とは、それを持ち続けるものが非常に難しいものだ。勇気を出して行動し、それを続けることが難しいものであるがゆえに、勇気を称賛する人間はそれ以外の行為を時として軽んじる」

 

 ダンブルドアの言葉は、グリフィンドールの寮生たちにも向けられていた。グリフィンドールの一部の生徒たちは顔をしかめながらダンブルドアの話を聞いていた。

 

「しかし真の勇敢さとは、必ずしも己が勇敢であることを誇示するものではない。己の知恵を信じ、悪に立ち向かうこともまた勇気だと私は思う。レイブンクローらしい知謀と、グリフィンドールに劣らぬ勇気を発揮したルナ·ラブグッド嬢に200点を進呈する!」

 

 そのダンブルドアの言葉に、ハリーたちやバナナージ、ロンやハーマイオニーやパーシーらは喜んで拍手した。しかし、ルナを称えるべきレイブンクローの生徒たちは、ルナが称賛されたことに驚きを隠せないようだった。レイブンクローはこの瞬間、あまりのことに動揺を隠せなかったと言っていい。誰もルナが成し遂げたことを信じていなかったのだ。

 

「……そして、ロン·ウィーズリーくん」

 

(来た)

 

 ハリーはわくわくしながらロンが誉められる瞬間を待っていた。ロンの耳は、ダンブルドアに自分の名前を呼ばれた瞬間からみるみるうちに赤く染まっていった。

 

 

「この一年、ホグワーツでは疑念が渦巻いた。あらゆる悪意に満ちた思想が蔓延し、互いの絆を疑うこともあった」

 

「闇の魔法使いの最も恐るべきところは、こうした人々の弱さを利用し、恐怖に付け入るところにある」

 

 大広間はダンブルドアの言葉に静まり返った。気まずそうにダンブルドアから視線を外す生徒も多かった。ハリーもまた、この一年でハッフルパフ生たちから疑われたことを思い出していた。

 

「しかし、彼は友を信頼することによってそれに打ち勝った。友を信じる真心と、闇の魔法道具を破壊した功績を称えて、グリフィンドールに200点を進呈する!」

 

 その瞬間、グリフィンドールのテーブルが爆発した。今この瞬間、グリフィンドールは4寮のトップに立ったのだ。

 

 ロンはフレッドとジョージから頭をくしゃくしゃにされながら、ハリーを見て苦笑した。ハリーはロンの顔が髪の毛と同じくらい赤くなっているのを見てザビニと一緒に笑い転げていた。

 

 

「最後に……一人の生徒について話したい」

 

 ダンブルドアの言葉に、スリザリンのテーブルが一段と緊張した。ハリーは身構えながらダンブルドアの言葉を待った。

 

「今回、私たち大人は一つ間違いを犯した」

 

「皆も知っての通り、本来であれば継承者に立ち向かうべきギルデロイ·ロックハートが、そのつとめを果たさなかった。彼はそのつとめを果たさず、あまつさえ生徒に手をかけようとした。悪質な闇の魔法使いに勝るとも劣らない人の悪意がホグワーツの生徒を襲おうとしていた」

 

 ロックハートファンの生徒たちから悲鳴があがった。ロックハートファンの生徒はホグワーツでは絶滅危惧種となっていたが、ロックハートの顔面と性格、そして文才は本物だった。それに惹かれた生徒たちは、その話を蒸し返されることを恐れていた。キングズリー·シャックルボルトは興味深そうにダンブルドアの話を聞き入っていた。

 

「しかし、一人の生徒が彼を止めた。彼はロックハートの悪意から友人を守ったあと、ロックハートに代わって自らの手で継承者から被害者を取り戻そうと動き……己の身を呈して友と被害者を守った」

 

 

「……その恐るべき精神力と、友を守り抜いた功績を称えて、ハリー·ポッターくんに200点を進呈しよう!」

 

 この瞬間、スリザリンとグリフィンドールの優勝が確定し、スリザリンのテーブルからは歓声があがった。

 ザビニやアズラエルが逃げようとするハリーを捕まえて、もみくちゃにした。ハリーはダンブルドアが、輝くような瞳でハリーのことを見ているのを気味悪く思った。

 

 

(……なんだか全部ダンブルドアの思いどおりのような気がする……)

 

 ファルカスからお祝いのプティングをとり分けてもらいながら、ハリーは宴のなかでアルバス·ダンブルドアの姿を盗み見た。ハリーが越えたいと思っている偉大な大魔法使いは、ハグリッドから渡されたロックケーキに涙目になりながらかぶりついていた。その姿はひょうきんなご老人にしか見えず、ハリーはますますダンブルドアのことが分からなくなった。

 

***

 

 ホグワーツの校長室で、キングズリー·シャックルボルトはアルバス·ダンブルドアと向かい合っていた。彼は代理教師としての功績を称えられ、少しだけはにかんだ。ホグワーツの校長室では、ダンブルドアの愛鳥が今まさに燃え尽きようとしながらキングズリー·シャックルボルトを知性のある瞳で見つめていた。

 

「マッドアイによい土産話が出来そうです。ホグワーツには良い芽が育っている」

 

 キングズリーに対して、ダンブルドアは無理を承知の上で頼み込んだ。

 

「生徒たちから聞こえてくる君の評判はすこぶるよい。出来れば来年も、ホグワーツに留まって欲しいが……」

 

「その要請を受けることは出来ません。私はあくまでも、闇祓いであって教師ではない。これ以上続けても、生徒を導くことは出来ないでしょう」

 

 キングズリーの返答は否である。闇の魔法生物や闇の魔法使いに抗う専門家であっても、己は教師ではないと固辞した。

 

 実際のところ、キングズリーは非常に勤勉で努力家だった。彼は授業で拙い箇所があれば次の授業ではそれを修正したし、ロックハートと違い同僚には敬意を払い続けた。そのため同僚である教師たちの評判も、一人を除いては悪くなかったのである。

 

 

 

「……ならば仕方ない。君の魔法省での栄達を願っている、キングズリー」

 

「こちらこそ、ホグワーツの安寧と、先生方の無事を心から祈っています。我々が来るような事態にならないことを祈ります」

 

 ダンブルドアから差し出された手を握りしめたあと、キングズリーはダンブルドアから一人の生徒についての所見を求められた。

 

「君の目から見て、ハリー·ポッターやパーシー·ウィーズリーらはどう見えたかね?防衛術の専門家としての意見を聞きたい」

 

 キングズリーは就任当初、セブルス·スネイプ教授からハリーが規則違反の常習者であり問題児であることや、闇の魔術を行使したという説明を受け、特に注意するように警告を受けていた。

 

「例の一件で活躍した生徒たちについてですか。正直なところ、私は彼らに対して特別の関心を払ったわけではありませんし、事件前の彼らを知っていたわけでもない。彼ら個人のパーソナリティーに関しては、スネイプ教授やマクゴナガル教授の見解の方が正確でしょう」

 

 キングズリーはあえて明言を避けた。その上で、闇の魔法の専門家としての見解を口に出した。

 

「ロナルド·ウィーズリーに関しては、いたって普通の少年のままです。精神的に不安定な面もなく安定していたと思われます」

 

 

「それは彼の非凡な……いや、よくも悪くも平凡な才能と言うべきだろう」

 

 ダンブルドアはロンにとっては残酷な発言をした。

 

「平凡な人間ほど、非常時においては非凡な戦果を求める。英雄的な活躍と栄誉を求めるものだ。しかし、心の奥底で自分が平凡だと認めている人間は、非常時でなければ平凡に過ごす術というものを心得ている。ロナルド·ウィーズリーは能力的には平凡だが、その一点においては非凡だと言えるだろう」

 

「マッドアイが羨むような資質です」

 

 キングズリーは内心で平凡と断言されたロンに同情しつつ、健全なロンの在り方を羨んだ。

 

「まったくだ。真に平凡な人間こそが、己の幸せというものを受け入れられるのかもしれん」

 

 

 次にキングズリーが言及したのはルナ·ラブグッドについてだった。

 

「ルナ·ラブグッドには奇怪な言動や行動が目立ちます。今すぐカウンセリングが必要かと思われますが……」

 

「彼女の言動は元からだと教授たちから報告を受けている」

 

「……左様ですか。ですが、なぜレイブンクロー生が勇気を重んじるグリフィンドールの剣を取り出せたのです?」

 

 

 キングズリーはいぶかしみながら言った。

 

「彼女が相当に無理をして勇気を沸き起こし、結果として精神に何らかの異常をきたしたのではないかと思ったのですが……」

 

「ルナ·ラブグッドはフリットウィック教授によれば、マイペースで楽天的な生徒だという。その在り方は、事件の前も後も変わってはいないそうだ」

 

 キングズリーはダンブルドアの言葉に疑問を抱いて言った。

 

「ではなぜ、彼女はレイブンクロー生だったのですか?それほどまでに勇敢ならば、グリフィンドールに組分けされているべきだったのでは?」

 

「そこは組分けの妙というべきかな」

 

 ダンブルドアは己の髭を撫でながら言った。

 

「組分け帽子は本人の資質を判断して組分けを行うが、これは正確ではない。本人自身のそうなりたい自分や、重要視している価値観というものを汲み取って、その希望による選択を尊重する場合もある。彼女は入学当初、数秒とかからずにレイブンクローへと組分けされた。それは彼女が入学当時、レイブンクローの叡知や智恵を重んじたからだ。恐らくは今も変わらないだろう」

 

 そこでダンブルドアは言葉を切った。

 

「……だが、彼女はレイブンクロー生でありながらスリザリン生やグリフィンドール生を助けるという選択をした。それは寮の区別を越えた、勇気ある行動だったと言ってよいだろう。組分け帽子が、そこに勇気を見出だしたとしても私は驚かない」

 

「校長先生が何か細工をされたのではありませんか?」

 

「私ごときに細工ができるほど、組分け帽子は甘くはないよ。組分け帽子を細工して騙すことができるのならば、ホグワーツはもっと平和だったはずだ」

 

 ダンブルドアは首を横に振ってキングズリーの推測を否定した。キングズリーはまだ納得できていない様子だったが、ダンブルドアの言葉には頷かざるをえなかった。

 

「正直なところ、彼女がグリフィンドールの剣を抜いたと聞いたときには私も驚いた。子供は時として、理屈に凝り固まった我々大人の予想を越えた成長をするものなのかもしれない。そうは思わんかね?」

 

「……ええ。確かに」

 

 キングズリーはそう言うと、パーシー·ウィーズリーについての話に戻った。

 

「パーシー·ウィーズリーは精神的に不安定な傾向が見られますが、授業には何の支障もありません。むしろ最も優秀な生徒の一人でした」

 

「彼は元々、少し神経質な傾向を持っていたが……」

 

「今回の一件で一番影響があったと言えますね。挫折知らずの若い魔法使いが一度は陥ることです」

 

「……彼が心配ですか、ダンブルドア?」

 

「優秀だと呼ばれている若者ほど、挫けたときは脆い。己の弱さや失敗に目を背け、自分は完璧なのだと思い込もうとする。そういった若者の多くは、他人に頼るということが下手でもある」

 

 キングズリーは無言で頷いた。そういう若者には覚えがある。キングズリー自身もそうだったからだ。

 

 

「……しかし、彼ならば必ず乗り越えてくれるだろう。彼が見せた家族への愛情や善意は、一点の曇りもなく肯定できる素晴らしいものだ」

 

 ダンブルドアはそこまで言うと、何かを考え込んでいる様子だった。

 

「ミネルバも、若く優秀な才能を潰すことはしない」

 

 

「ならばよかった。最後に、ハリー·ポッターに関しては」

 

 そこまでいうと、キングズリーは一旦深呼吸した。

 

「貪欲に知識を求めています。彼も優秀な生徒の一人だったと言えるでしょう。あの年齢にしてはですが、体験を機に向上心を高めたものと思われます」

 

「ポッターは元々、特に意欲的な生徒の一人だった」

 

 ダンブルドアはそこまで言ってから、怜悧に目を光らせた。

 

「ポッターが闇の魔術についての知識を求めたことは?」

 

「ありません」

 

 キングズリーは即答した。そして、少し考えてからダンブルドアに尋ねた。

 

「ずいぶんとあの少年を警戒しておられますね。伝え聞くような体験をしたにしては、健全な精神状態だと思われますが……」

 

「危機にあって力を求める傾向は、スリザリンに限らず人間ならばあって当然のことだ。特に、今年の彼にふりかかった災いは大の大人ですら危機感を覚えるものだった」

 

「バジリスクは私でも相手にしたくはありません。恐らくマッドアイでも、ルーファス局長でもそうでしょう。あらゆる手段を用いることを責めることは出来ません」

 

 キングズリーは正直に言った。

 

「……しかし、闇の魔術は容易に人の悪意と結びつき悪意を肥大化させる。強大な力というものを未熟なまま持った人間に訪れるのは約束された破滅だ。ポッターが闇の魔術に溺れないように、私たち教師は細心の注意を払う必要がある」

 

 キングズリーは、ダンブルドアの言葉を聞きながら目を閉じた。ポッターの未来を案じてのことか、それとも、ダンブルドアの言葉に疑問を抱いてのことか。いずれにせよ、ダンブルドアと視線を合わせないことで、キングズリーは己の内心を隠しきった。

 

 やがてキングズリーは目を開くと、ダンブルドアにある提案をした。

 

「人の悪意を遠ざけるのではなく、それを制御するためにポッターに闇の魔術(あくい)を教えるいう手段は取れませんか?」

 

 およそ真っ当な教師ならばそんな提案はしなかっただろう。仕事柄闇の魔術を自らも行使するキングズリーだからこそ、そう言うことができた。あるいは教師ではなく代役であり、今日にはホグワーツを去るキングズリーだからこそ、その発言が出来たのかもしれない。

 

「それは出来ん。どれほどポッターが優れた精神を持っていたとしても……闇の世界に英雄はいないのだから」

 

 キングズリーの予想通り、ダンブルドアはキングズリーの提案をはね除けた。キングズリーはこの時、ダンブルドアは政治家ではなく一人の教師なのだと確信した。

 

 校長室から出たキングズリーは、ホグワーツ特急へと乗り込む生徒たちを見送った。緑色のローブに身を纏った眼鏡の少年が、深紅や赤、緑色のローブに身を包んだ少年少女と共に手を振っていた。キングズリーはその姿を見送ると、己も箒に乗ってホグワーツを去った。

 




秘密の部屋編はこれで終了です。次はアズカバンの囚人編……ではなくて失われた時の秘宝編です。
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