蛇寮の獅子   作:捨独楽

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ハリー·ポッターと失われた時の秘宝編
ハリー·ポッターと魔法界の闇


 

 ハリーの夏休みは、ハリー自身が覚悟していた通り最悪な形で始まった。ハリーはホグワーツからダーズリー家に収監された。その際、ハリーの魔法界の私物は一時的に取り上げられてしまった。

 

 魔法省職員のユルゲン·スミルノフ氏がダーズリー家にハリーの様子を確認しに来てくれたお陰で、ハリーは夏休みの一週間後から魔法界の宿題に手をつけることができた。そうでなければ、目を盗んで鍵を奪い、強行手段で私物を取り戻すしかなかっただろう。ハリーは親友のハーマイオニー·グレンジャーと同じように、今年から魔法生物飼育学、古代ルーン文字学、数占い学、占い学、そしてマグル学を受講することを決めていた。

 

 ホグワーツの三年生は、新しくこの五科目のうち最低でも二科目は必ず受講することになっている。五科目受講する人間は希で、五科目を合格できる人間はもっと希だとハリーは監督生のガーフィール·ガフガリオンなどから忠告を受けていた。時間をドブに捨てる気かと。ハリーは捨てる気はなかった。たとえ自分に合格する実力がなかったとしても、挑戦できるならそれをやってみたいと思っていた。ハリーは今世紀最高の大魔法使いであるダンブルドアを越えたいという目標があったが、それよりも何よりもハリーの周囲では色々なことが起きる。ハリ-には自衛のために、あらゆる知識が必要だった。

 

 ハリーの親友たちのうち、ロンやザビニは魔法生物飼育学と占い学を受講する。ファルカスはそれに加えて数占いを、アズラエルは古代ルーン文字学とマグル学、そして数占いを受講した。ハリーは、あらかじめ通販で購入した参考書を読み漁って過ごしていた。家にバーノンやダドリーがいないとき、ご近所様と話し込むペチュニアの隙を見て友人に電話をかけることがハリーの楽しみだった。

 

 そんなハリーには、ひとつの試練が訪れていた。ダーズリー家の家長であるバーノンの妹、マージがダーズリー家を訪れたのだ。

 

 ハリーがマグルを嫌いになった原因のひとつが、このマージにもあった。彼女は甥のダドリーと飼い犬をこよなく愛する反面、居候のハリーを疎ましく思っていた。ハリーが過失でマージのブルドッグであるリッパーの足を踏んでしまい、犬に追い立てられたとき、彼女は深夜までハリーを木の上に釘付けにした。

 

 ハリーにとって屈辱的なことに、ハリーはバーノンの妹にとっては『セント·ブルータス更生不能非行少年院』に収容されていることになっていた。マージがハリーを気に入る筈もなく、ハリーはマージの嫌味に耐えながら、愛想よくマージの御機嫌を取らなければならなかった。

 

 

 マージは控え目に言って、ハリーにとっては最低の親戚だった。マージは、兄嫁の姉を出来損ないだと貶めた挙げ句、ハリーの父親を無職のろくでなしだとなじったのだ。

 

(落ち着け。こいつは……知らないだけなんだ。マグルなんか相手にする価値はないんだ……)

 

 ハリーは持ちうる限りのすべての理性を総動員して耐えた。前学期に、ハリーはマグルを嫌いだと言って、殺してもいいと言い放つ屑の姿を見てきた。マグルのなかでも最低の人間のために、自分が同じところに堕ちる必要はまったくないと言い聞かせた。

 

 そもそも、ハリーの家は魔法使いの間でも差別されていた。ハリーの母親はマグルとの間に生まれた魔女で、ハリーの所属する寮ではそういう境遇の魔法使いや魔女を穢れた血と呼んで見下している。マージを殺すならば、ハリーは自分のクラスメートをダース単位で殺さなくてはならなかった。

 

 何よりも、ハリーにはマグル生まれの友達がいた。彼女の顔を思い浮かべ、ハリーは必死で地獄のような時間に耐えた。マグルを傷つけるということは、友達に対する裏切りだった。それはやってはいけないことだ。

 

 マージがやっとダーズリー家を去ったとき、ハリーは自分の部屋に閉じ籠って、愛すべき蛇のアスクレピオスに体を預けながら延々と愚痴をこぼし続けた。

 

『やっぱりさ。こういう考え方はよくないとわかってるけど』

 

『ぼくはマグルなんて嫌だよ』

 

『マージを思いっきり肥え太らせて、どこかに飛ばしてしまえばよかった』

 

『そのうちやり返してやれよ。どうせわかりゃしない』

 

 ハリーの口からこぼれた本音に、ついに賢き蛇は折れた。この蛇はつねづねハリーが過激な言動をする度にハリーを止めてきたが、二年目の月日を共に過ごしたことでハリーを飼い主として認めたのか、ハリーに対して随分と甘くなっていた。

 

『そう言ってくれるのは君だけさ。シリウスだってハーマイオニーだって、僕が受けた仕打ちなんて気にもしないで……』

 

 ハリーは、自分の手元にある『ホグズミード行き許可証』をじっと見つめた。ホグワーツのホグズミード行きの許可をダーズリー家に求めたくなかった。バーノンやペチュニアに自分の行動が見返りがほしくてやったことだと思われたくはなかったし、彼らが自分の訴えを聞いてくれるとも思わなかったからだ。ハリーが頼るべき親はシリウスであって、ダーズリー家ではないとハリーは心の底から思った。

 

 ハリーは怒りを頭の片隅から追いやると、古代ルーン文字で書かれた参考書を読み漁った。そうしなければ、ものにあたって壊してしまいそうだったからだ。ストレスを溜めたとき、ハリーは勉強でそれを発散する癖をつけていた。

 

 勉強を終えたハリーは、溜めておいた日刊予言者新聞の記事を読んだ。日刊予言者新聞には、ロンの父親が宝くじを当てて、エジプトに旅行することになったことに加えて、一つの記事が小さく掲載されていた。記事には反人狼法が議会で否決され、廃案になったとあった。

 

***

 

 ハリーがダーズリー家から解放される瞬間は、思ったよりもあっけなかった。去年のハリーは階段下の物置小屋に収監されていたのだが、今年は客室でダーズリー家から解放されることを聞いた。ユルゲン·スミルノフが、一週間後に、ハリーが後見人であるシリウス·ブラックのもとに行ってもよいというお墨付きを頂いたのである。ハリーはシリウスから事前にその連絡を受けていて、ラムズゲートに行くことを聞かされていた。

 

 シリウスはハリーの後見人だったが、女性関係が非常に派手で、前学期には日刊予言者新聞などでたまに取り沙汰されることもあった。そんなシリウスは、魔法省では闇の物品を取り締まる職員として多忙な日々を過ごしていた。そのため後見人であるにも関わらず、仕事が一段落するまでハリーと暮らす許可がなかなかおりなかったのだ。

 

「何でわしらが貴様らの都合で振り回されねばならんのだ……」

 

 バーノンは魔法使いの世界から上から目線で干渉されることに不満を見せたものの、最終的にはハリーがダーズリー家からシリウスのもとに行くことを了承した。ダドリーからこれで厄介払いができると言われたとき、ハリーは心の底から笑顔になることができた。

 

 ダーズリー家では、どこまで行ってもハリーは居候であって家族ではなかったのだ。ハリーは結局、自分がラムズゲートに行くことをダーズリー家に明かさなかった。自分一人で家に残されたことは幾度となくあったし、ダーズリー家にはダーズリー家の予定がある。彼らは、魔法界や魔法使いと関わりたいとは思わないだろうとハリーは思っていた。

 

***

 

 ハリーはダーズリー家をお暇した後、シリウスにホグズミードの許可証をねだった。

 

「ハリー、どうして……許可証を私に?」

 

「シリウスから許可して貰いたかったんだ」

 

「ダメかな……?」

 

 

 ハリーは自信なく言った。ハリーはシリウスにとって、あんまりいい息子である自信がなかった。ダーズリー家を離れたとたんに自分がシリウスにとって邪魔になるのではないかという不安がぶり返していた。

 

「いや。私をそこまで信じてくれているのが嬉しくてな」

 

 

 シリウスはそう言うと、意外と整った字でホグズミード行きの許可をハリーに与えた。ハリーはシリウスから貰った許可証を見つめながら、小さくシリウスにお礼を言った。

 

***

 

 ハリーはシリウスと共にラムズゲートに行くことができた。ラムズゲートに行くまでは車で移動したが、運転したのはシリウスの婚約者であるマリーダ·ジンネマンだった。

 

「車の運転がお上手なんですね……?」

 

「マグル関連の仕事をしていると、マグル社会で生きていくために一通りのことはこなさなくてはいけなくなるからな。マリーダは運転免許も持っているぞ」

 

「魔法で誤魔化せばいいんじゃないの?」

 

 ハリーがそう言うと、マリーダは笑って言った。

 

「魔法で人の記憶を誤魔化すことができても、ありとあらゆる機械の類いを誤魔化すには膨大な手間がかかる。だから私たち魔法使いも、マグルの社会で生きる術を身に付けるんだ。かくいう私も、卒業してから免許を取った」

 

「みんなそうしてるんですか?」

 

 ハリーは意外だった。ユルゲン·スミルノフ氏のように配偶者にマグルを持つふつうの魔法族ならばそうするのも当然だと思うが、大きなパーティーに出席できるマリーダのような魔女がそうするのは不自然に思えた。

 

「そうだな。あえて大っぴらに言わないだけで、皆そうしている。着いたぞシリウス。起きてくれ」

 

「……ん?もう着いたのか、マリーダ?思ったよりも早かったな」

 

「最近の車は性能が良いんです」

 

 マリーダはシリウスにとって、非常に理解のある魔女だった。彼女はマグルの文化を否定しなかったし、ハリーの見るところバーノンよりずっと車の運転が上手かった。ダーズリー家がマリーダとシリウスを見たとしても、中年の男性と若い女性のカップルが連れ添って浜辺を歩いているようにしか見えなかっただろう。マリーダは、マグルの社会で存在する会社で社長秘書として仕事をしているらしかった。朱色の髪の毛の、運動神経のよさそうな女性だった。

 

 

 ハリーはビーチでハーマイオニーやアズラエル、ファルカス、ルナとその両親に再会した。観光客の中に溶け込んでいたアズラエルたちと違い、ルナはカモメの被り物をしていて目立っていた。

 

 

「……やあ、皆。久しぶり。ねえ、ザビニはどうしたの?まだ来てないの?」

 

 

 ハリーはその中に、自分の相棒がいないことに気付いて周囲を見渡した。ハリーの言葉を聞いたとたんに、四人の親友は暗い顔になった。

 

「久しぶりね、ハリー。あなた、日刊予言者新聞は読んでいないの?ザビニは今日は来ることが出来ないわ」

 

「読んでないよ。どうしたの?ザビニに何かあったの?ザビニは無事なの!?」

 

「それは……」

 

 ハリーの問いかけに答えたのはファルカスだった。彼は言いづらそうにしていたハーマイオニーに代わって、ハリーにあることを伝えた。ファルカスがそうするときは、大抵ろくでもなく、だれも言いたがらないようなことだったのでハリーは身構えた。

 

「……ザビニが悪い訳じゃない。ザビニは無事だよ、ただ、ザビニの母親が捕まったんだ。……その、保険金詐欺の容疑で」

 

「……えっ!?」

 

 どうやらハリーたちの三年目は、やはりろくでもない幕開けとなってしまったようだった。

 




ザビニの母親ァ……
デスイーターとか無関係にろくでもないやつ多いな魔法界!魔法なんて力があるなら当然だな!
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