占い→国語
数占い→数学
魔法生物→生物
マグル→公民等々
ルーン文字→古文
何とは言わないけど一年生からやっとくべき科目がちらほらあるような。
夏休みも残り二週間を切ったころ、ハリーはシリウスに、アントニン・ドロホフについて尋ねていた。ドロホフという男の行方は依然として謎のままで、日刊預言者新聞は次第にドロホフ脱獄を許した魔法省の怠慢や、ドロホフの足取りを掴めない闇祓い局の無能さを叩く論調が強くなってきていた。闇祓いに批判的な記事はリタ·スキータという女性記者が担当していた。
「シリウス。記事に出てるドロホフってどんな奴だったか知ってる?」
「どうした急に。ドロホフについて聞きたいのか?」
「うん。シリウスはドロホフと戦ったこともあるんでしょう?シリウスの活躍を聞くついでに、ドロホフの話でもあればみんなと話せるかなあと思って」
ハリーがそう思ったのは、新聞を読んだからというだけではない。ドラコ·マルフォイが、ハリー宛に手紙を寄越したのだ。
ドラコの手紙には、やたらと形式張った文面で前置きを述べたあと、まずザビニの母親は危険人物だしザビニも危険だから気を付けた方がいいと書いていた。ハリーはその事については気にしないし、ドラコもスリザリンの仲間としてザビニのことを尊重してほしいと返すつもりだったが、ドラコが次に書いた言葉は無視できなかった。
『父上が怯えている。ドロホフの脱獄を知ってからだ。あんな父上は始めてみた』
ドラコの手紙には、恐怖が滲み出ていた。
『君は自分の身辺についてもっと気を付けた方がいい。ドロホフは、闇の帝王の最も忠実な部下だと父上は仰っていた。君のことを憎んでいるはずだ。必ず君の命を狙うだろう。……ああそれから、この手紙は君が読み終えたら燃えるようになっている。火傷しないようにせいぜい気を付けてくれ、ポッター』
この手紙をロンが読んでいれば、お前が言うなと即座に破り捨てただろう。ドラコの父親であるルシウスはかつてデスイーターだった。ルシウスはその方が自分達にとって都合がいいからか、それとも親戚たちを切り捨てるわけにはいかないからか、現在もマグルは排除すべきだという過激な思想を捨てたわけではない。血縁にマグルが混じっていることがほとんどである魔法使いたちの中で、ルシウスは危険人物なのだ。
マグルが嫌いであることはハリーも同じだったが、最近はその考え方を公にすることがどれだけ愚かなのか、親友のおかげで身に染みて理解してきていたし、ルシウスを反面教師にして直そうと努力しているつもりだった。
しかし、ハリーはドラコの父親と、ドロホフについては分けて考えていた。ルシウスを危険人物と見なすことは、スネイプ教授も危険人物と見なすことになる。ドラコが立場を曲げてまで警告を送るということは、本当に危険なことなのだ。ホグワーツの一年目と二年目でハリーはそれを嫌というほど理解している。ドラコの危機を察知する能力は、同年代のホグワーツの生徒の中でも最高レベルだとハリーは高く評価していた。
シリウスの返答を期待して、ハリーはじっとシリウスの言葉を待った。シリウスは何を言うべきか吟味していたようだったが、ハリーにドロホフについて教えてくれた。
「面白い話じゃないぞ」
「いいよ、それでも」
「確かに何度か杖を交えたかもしれんがな。やつの個人的な性格は知らない。何を感じて何に笑い、何に憤るような人間だったのかを知っている訳ではない。だがしいて言うなら」
「面倒な敵だった」
「面倒?強かったの?」
「強い訳じゃない。ドロホフなんぞ単なる人殺しだ。ただただひたすらに厄介な敵だ」
シリウスはドロホフについて悪態をついたが、咳払いをすると気を取り直してドロホフについて話した。
「デスイーターなんて連中は、大半が強いやつの下にへりくだって弱い人間を叩きたい、そんな屑の集まりだった。私の弟も含めてな」
「……」
ハリーは否定も肯定もできず、黙ってシリウスの言葉を聞くことしか出来なかった。
「やつはそうやって集まった屑たちを統率する能力があった」
「まとめ役だったの?」
「そうだ。そういうチンピラどもを闇の魔法使いに仕立て上げて、使い捨ての駒にする。最初は優しく接して下っ端の信頼を得てから、取り返しのつかない悪事を働かせて逃げ道を塞ぐ」
「ブラックだね」
ハリーは笑おうとして、笑えなかった。シリウスの表情が真剣そのものだったからでもあるし、軽々しく誘いに乗ってしまった人たちの末路を想像してしまったからでもある。
きっとろくなことにはならなかっただろう。
もしかしたら、シリウスやハリーの両親に正当防衛で殺されたかもしれない。
ハリーはシリウスやハリーの両親が間違っているとは思えなかった。ただ、シリウスの言葉の端々に、悲惨すぎる過去の内戦のにおいを嗅ぎとってしまった。
シリウスはそんなハリーの様子を観察しながら言葉を紡いだ。
(……子供だからと先延ばしにするより、今話しておいた方がいいこともある。腹をくくらせたほうが、ハリーのためだ)
「ドロホフが指揮すれば、そこらのチンピラでもカースを使い出す。ドロホフに罰されたくないからな。下手をすれば闇の魔術をダース単位で撃ってくる。それだけでも厄介だが、奴が率いていた連中は、他の連中が率いていた奴よりは纏まりがあった。ドロホフの手足となっている奴らをとっちめて闇祓いに引き渡しても、いつの間にか次の手足が補充されてドロホフには届かない。情報を共有して対抗策を考え出して、前回通用した手段も次には通用しなくなる。とんでもなく面倒な組織だっだ」
「もっと強い奴かと思ったけど」
「強いぞ。少なくとも今の君よりはな」
シリウスはハリーに強く言った。
「……ハリー。分かってるとは思うが、ドロホフを捕まえようなんて思うなよ」
「思わないよ。そこまで僕は無謀じゃないし、自惚れてない……って、僕のこと信じてないね」
「そりゃあな。君は私に似ているから。ホグズミードでドロホフが出現したなんて噂を聞き付ければすぐに捕まえたいと思うはずだ。何せあのバジリスクに勝ったんだからな」
ハリーはそれはシリウスの過大評価だと思った。ハリーは、正直に言えばシリウスが言うほどお人好しではない。
しかし、シリウスは年頃の子供の心理を思い出そうとしていた。ハリーはまだホグズミードにも行けない段階で強力な魔法や防衛用の魔法を覚え、実際に怪物を討伐してしまったのである。これで調子に乗るなと言う方が無理な話だ。このタイミングでハリーの行動範囲が広がる三年生になってしまったことが、シリウスの懸念を強くしていた。
「僕はバジリスクの後、真犯人に殺されかけたことを忘れてないよ。返り討ちにあって殺されるかもしれないのに、自分の命を危険に晒すわけないでしょう?」
ハリーはなるべく素直な優等生ぶろうとした。
「君の友人が危険に晒されていてもか?」
シリウスの言葉に、ハリーは眉を吊り上げた。
「シリウスならそういう時、友達を見棄てろって言うの?」
「……すまない。意地悪な問いかけだったな。そういう時は、必ずDADAの教師かマクゴナガル教授か、……スネイプ教授を頼るんだ。魔法省にふくろうを飛ばしてくれる。そして教師たちでもどうしようもない時は、私がいる」
シリウスはそう言うと、古びた手鏡をハリーに手渡した。
「こいつは両面鏡だ。君がピンチの時、ここに顔を覗かせれば私の鏡と繋がる。事情を説明してくれれば、フルーパウダーでもテレポートでも何でも使って、必ず君のもとに駆けつける」
「……ねぇシリウス、それって合法なの?」
「緊急時のやむを得ない場合として処理されるさ」
(絶対嘘だ)
ハリーはシリウスはハリーのためなら、本気でホグワーツへの不法侵入でもドロホフの殺害でも何でもやるかもしれないと思った。何せ十何年も会っていなかったハリーのために夏休みの間ハリーを預かってくれているくらいなのだ。それこそ法律に触れ、有罪になってアズカバン送りになったとしても、シリウスは躊躇わないだろうとハリーは思った。
それはとても頼もしい反面、申し訳ないとも思った。ハリーは嬉しくむず痒くなる気持ちと、そんなむず痒さが受け入れられないような気持ちで揺れていた。出来ればシリウスに頼るような事態にならないことを祈りながら、ハリーはシリウスの言葉を聞いた。
「私が君にコンジュレーション(変身術)を教えて、マリーダがルーン文字の文法や初歩を教えているのは、君が健康で安全に過ごせるようにするためだということを理解してくれ」
「うん」
ハリーはシリウスと約束を交わしたあと、今度はシリウスから質問されることになった。
「さて。私はハリーの質問に答えたから、そうだな……ハリー、私からの質問にも答えてくれるか?」
「うん、いいよ。何?」
「ハリーは、カロー家の男子について何か知っているか?ホグワーツの上級生で、ブロンドでマッチョな青年だった」
「カロー先輩?ちょっと気取ってて空気が読めてないところはあるけど、いい人だよ」
ハリーは本当のことを言わなかった。マクギリス·カローはスリザリン生にとっては好意的ないい監督生だ。ハリーのように、スリザリンらしくない生徒ですら無視したり虐めのターゲットにしたことはなく、スリザリンの下級生にとっては頼もしい先輩である。
しかし、マクギリスは純血主義者でもある。マグル生まれの生徒に対して、純血主義は素晴らしいものだと説くようなその態度は客観的に見ればとても善人とは言えないだろう。マクギリス·カローは、スリザリン以外のほとんどの寮の生徒にとっては、迷惑な嫌われものでもあるのだ。よその寮の生徒でマクギリスをいい人だと思っているのは、親交のある一部の監督生くらいだろう。
マクギリスが純血主義であることを明かせば、シリウスはきっと『いい人』だとは思わないだろう。だからハリーは、マクギリスの個人的な信条に関しては触れなかった。
「ハリーにも優しいのか?」
「まぁね。……ああ、でも僕だけじゃなくてほとんどのスリザリンの後輩に優しいよ。決闘クラブではバナナージ先輩とも仲がいいし」
ハリーはマクギリスが純血主義者であることは黙っていようと思った。マクギリスは純血主義をスリザリンの後輩に布教してはいるが、あれでも一応強要したことはない。マクギリスがスリザリンの監督生としてハリーを気にかけてくれていることはわかっている。ハリーは可能な限り、マクギリスの印象が良くなるように事実を言った。
「ほう、他所の寮の生徒とも交流がある、か。カローはビーターでもやってるのか?ずいぶん鍛えられていたが」
「ううん。カロー先輩は箒はダメだって言ってたよ。……そのカロー先輩がどうかしたの?」
「仕事中に見かけた」
シリウスはコーヒーを啜りながら、何でもないことのように言った。
「……!それって、カロー先輩が何かやったってこと?」
ハリーは一瞬で、あまり良くない想像にたどり着いてしまいシリウスに問いかけた。
シリウスは現在、魔法省で闇の魔術に関する物品を取り締まる仕事をしている。闇の魔術がかけられた魔法道具は強力かつ悪質なもので、人を殺したり、死ぬより酷い目に合わせた上で治療困難になるものも多い。言ってしまえば所持しているだけで違法なものなのだ。
「詳しくは言えないが、いかがわしい場所に出入りしているところを見た。現行犯で捕らえられれば良かったが、直接の取引はしていなかったし、証拠もない……今は、まだ、というだけだがな」
「きっと人違いだよ」
ハリーは素早くそう言った。
「現場で話を聞くと、本人がマクギリス·カローだと言ったんでな」
「ちょっと興味が沸いただけだよ、きっと」
ハリーは胃袋がきつく締まるのを感じた。
(……何か、そう、それこそ、前学期の僕みたいな事情があったのかもしれないじゃないか)
ハリーは内心でそう自分に言い聞かせた。見知った人間が犯罪を犯したかもしれないというのは、思ったよりもショッキングだった。
厄介なことに、マクギリス·カローという先輩が法律のラインを踏み越えるか越えないかで言うと、越えるかもしれないとハリーは思っていた。前学期、スリザリンの教義を粉々に破ったハリーを見ていたマクギリスの顔は、今まで見たこともないほどに輝いていた。もしかしたら、マクギリス先輩が何かとんでもなく駄目な方向に舵をきったという可能性はあった。
「ハリー、念のために聞くが、その先輩は純血主義者か?」
「違うよ」
ハリーは今度こそ明確に嘘をついた。
「あの人は、自分の寮と自分の後輩が好きなだけだよ。他には何も考えてないんじゃないかな」
「確かに、安易なお坊っちゃまではあった」
その言葉はほとんどハリーの願望ではあったが、嘘は事実を混ぜることによって説得力を増す。シリウスはハリーからマクギリスに関する話を聞き、談話室にいるマクギリスの様子や普段つるんでいる二人の親友の話などからマクギリスのプロファイリングを進めてくれたようだった。ハリーはシリウスを見ながら、どうか先輩が犯罪に手を染めていませんようにと願った。
(…………でもこれ、僕がそう考える資格は無いかもしれないなあ)
ハリーはまだまだ、シリウスに隠している秘密があった。ファルカスとの手紙のやり取りは続いていて、ファルカスは、ルーン文字で書かれた闇の魔術の解説をハリーに寄越した。
『爺ちゃんは他人に読まれないようにルーン文字で遺したんだ。数占いの知識を使って、魔法の制御方法を導き出すことは出来たよ。数式の理論に従えば亡者を操ったり、悪霊の火を制御したり出来ると思うけど、ルーン文字の解説は理解しておいた方がいいと思う。ハリー、ちょっと解読を手伝ってくれないかな?』
ファルカスは宿題を早々に終わらせたあと、ハリーと同じように専門科目の予習もしていたらしい。なるほどその理論に従えば、インフェリを操り、気に入らないものを焼き殺すことも可能になるだろう。
ファルカスはどうやら、フィーナというマグルの女子とは続かなかったらしい。文通をしたいと思いマグル学の教科書通りにマグルの形式に則って手紙を出したものの、返信は無かったとファルカスは手紙で残念そうに言っていた。ハリーはファルカスが上手く行かなかったことに安堵していた自分に気がついて、そんな自分に吐き気を覚えた。
魔法使いの世界で忌避されるものに自分達が片足を突っ込んでいると、ハリーは理解していた。数式を理解したあとルーン文字を解読する傍ら、ハリーは強く心に誓い羽ペンを手に取った。
『ルーン文字の解説は七割終わった、亡者が有効な範囲や悪霊の火の対抗魔法について書かれていたよ。悪霊の火の対抗魔法について覚えておきたいし、ルーン文字の解説もまだ残ってるから、イメトレだけにしておこう』
そしてさらに、ファルカス宛の言葉を続けた。
『この力は、将来誰かを守るときのためだけに使おう。僕らは絶対に、これを正しいことのために使うんだ。僕らならそれが出来るはずだ。この事は僕とファルカスの二人だけの約束だよ』
ハリーはこの約束を、ある時振り返ることになる。この約束は将来への誓いであると同時に、ハリー·ポッターとファルカス·サダルファスにとっての呪いとなる誓いだった。
着々と闇の魔法使いのスキルが上がっていきますがファルカスもハリーも呪文学、コンジュレーション(変身術)、チャームの勉強もしています(夏休みなので理論だけですが)。
ハリーはシリウスに言って額の傷を隠すための魔法薬を自作したりもしています。魔法薬の作成は魔法使わなくても出来るんで……