リーマス·ルーピン教授は、ホグワーツの生徒たちの中でたちまち名教師として評判になった。スリザリンの監督生であるジェマ·ファーレイやイザベラ·セルウィンらは、談話室で後輩の女子生徒たちにこんこんと語って聞かせた。ルーピン先生に対しては他の教授たちと接するときのように、一定の敬意は払うようにと。
「これはチャンスよ。DADAの授業では積極的に発言するにこしたことはないわ。寮を問わず加点する先生なら、積極的に貴女たちが得点すればそれだけ他の寮の得点機会も減るわけだし、私たちにとってはプラスになる。だから授業は真面目に受けなさいね?」
「でもイザベラ、あの先生は小汚ないです」
一年生の男子がそう言うと、一年生の女子たちもそれに同調し始めた。
「あんなみすぼらしい先生はホグワーツには相応しくありません!お父様が見たらなんて言うか……」
「アストリア。それを決めるのは貴女じゃないの。貴女たちは分からないでしょうけど、学期のはじめから優秀な教師が防衛術を教えてくれることなんて滅多にないことなのよ?狡猾なスリザリン生なら、その幸運を噛み締めてしっかりとルーピン先生から学びなさい。今が一番大事な時なんだから」
「うう……でも…あんな貧乏そうな先生…」
「でもじゃないのアストリア!あんたまさかルーピン先生に失礼な態度を取ったんじゃないでしょうね!」
「ダフ姉!?」
アストリアは何か後ろめたいことでもあったのか、それとも実の姉から注意されることが恥ずかしかったのかダフネから目をそらした。ダフネは前者だと解釈したらしく、かんかんになった。
「教師に失礼な態度を取るなんてスリザリン生として恥ずかしいと思わないの?!学校ではもう少し聞き分けを持ちなさい!あんたのふるまいが寮の得点や減点にもなるんだから!」
スリザリンの下級生たちも、ルーピン先生が優秀であるということを認めないわけにはいかない。ただし、それを認めるのはそれまで両親から受けてきた教育と相反する。ルーピン教授のように裕福そうでもなく、恐らくはスリザリン派閥でもない先生をすぐに受け入れるということはなかなか難しいようだった。一年生の中でもアストリア·グリーングラスはなかなか納得できないと上級生たちに食い下がり、結局は姉のダフネに叱られてしゅんとしていた。
「……ダフネも姉らしいところがあるんだね。アンネローゼさんと怒り方がそっくりだ」
ハリーは談話室でリディクラスの練習に興じていた。どうすればバーノンを馬鹿馬鹿しく笑える姿に出来るのか分からないが、適当なコメディアンの写真を見てはコンジュレーションでその奇抜な衣装を再現し、バーノンがそれを着た姿を想像しようとしていた。
「だな。……それにしても、一年生たちは典型的なスリザリン生だよなぁ。昔の俺らを見てるようだぜ」
「そう言えば、ザビニはルーピン先生の容姿についてとやかく言わないね。珍しいこともあるもんだ」
ハリーはザビニをそう茶化したが、ザビニは呆れたような目をハリーに向けた。
「命の恩人を見た目だけで貶したらそれはもう単なる屑じゃねぇか……?」
「ごめんザビニ。僕は君のことを誤解していたよ」
ファルカスが感心したようにザビニを見ると、ザビニは肩をすくめて魔法薬の教科書に目を通した。明日は魔法薬の授業があり、スネイプ教授が夏期休暇の間に生徒たちの腕が落ちていないか確認することは必至だった。
「僕たちが一年生の時は、もう少し聞き分けが良かったと思いますけどねえ。ま、ハリーは例外でしたけど」
「そのネタを擦るのはやめてくれよアズラエル……」
ハリーたちはスリザリンの中で過剰に持ち上げられるわけでも、過剰に貶されるわけでもなかった。ホグワーツ特急で倒れたハリーの醜態は知れ渡っていたはずだが、面と向かってハリーを揶揄する生徒はいなかったし、時折ザビニを怖がるような目を向ける生徒たちはハリーが追い払った。
ハリーがガフガリオンの警告を無視してスリザリン生らしくないふるまいをしたことも、笑い飛ばせる雰囲気が今はあった。スリザリンの談話室では、純血を重んじる風潮は残っていたものの、自分たち自身が得をするためによその寮に対しても寛容であろうという雰囲気も生まれつつあった。
***
次の日の放課後、決闘クラブでハリーはアズラエルと合流した。その日タイムターナーを使用してハリーが受けた最後の授業は、冤罪の汚名を晴らし、ケトルバーン教授に代わって新人教師となったルビウス·ハグリッドが担当する魔法生物飼育学だった。ハリーたちのなかでアズラエルだけが、その科目を受講していなかった。
「マルフォイってさあ、やっぱりお前のライバルなだけはあるよな、ハリー。喧嘩は同類しか発生しねえとは言うけどよ」
ザビニの言葉に、もともとマルフォイに好意的ではないファルカスが同調する。
「はっきり言ってバカだよ、あいつは」
「そういう言い方はやめろよ二人とも。ドラコは……プライドが高くて融通がきかなかっただけだ」
ハリーは強く抗議して怒ったが、ザビニとファルカスは呆れたような視線をハリーに向けた。
「それがバカだってんだよ、っとに。動物が人間の事情を考慮してくれるわけねぇだろ」
「皆さん、ハグリッド先生の授業で一体何があったんですか?……ねぇ、ロン、僕にも教えてくださいよ」
ただ一人魔法生物学を受講していないアズラエルは、ロンに対してそう問いかける。ロンは気まずそうにハリーに視線で言ってもいいかと尋ねてきた。ハリーは仕方なく頷いた。
「あー、まぁ、ハグリッドの最初の授業はヒッポグリフだったんだ。最初は良かったんだぜ?ハリーはハグリッドのアドバイスに従ってお辞儀をして、乗馬の経験がないからマルフォイに乗り方を聞いたりもしてさ。『ヒッポグリフは誇り高いけど、ちゃんと礼儀をわきまえて挨拶をすれば誰でも乗せてくれる』ってハグリッドの指示通りに乗りこなしたんだ。けど、まぁ……」
そこから先は言わなくても分かるだろ、とロンはアズラエルに視線を回す。アズラエルは、確認のためにハーマイオニーに問いかけた。
「……ドラコは礼儀を尽くさなかったんですね。まぁ、ドラコはそういうやつです」
アズラエルは平静を装って言ったが、内心は動揺しまくっていた。
(……いやいやいやアホですか?そんなのがうちの寮のトップとか不安しか無いんですが……)
ドラコは成績ではスリザリン寮の中ではトップクラスである。恵まれた家柄と、優秀な成績。そしてハリーとは異なり、スリザリン生らしいスリザリン生としての行動ができるドラコは、スネイプ教授からの受けもよい。ハリーのように将来は監督生か、クィディッチ·チームのキャプテンに任命されてスリザリンの顔となる可能性が高い。
そんな男が、成績がいいだけのアホですというのはアズラエルやザビニたちスリザリン生にとっては困るのである。ロンやハーマイオニーが遠慮がちになるのも無理はなかった。
単純な話、『そんな奴が監督生なんて、他の奴は何をしていたの?』と同学年から評価されてしまうからだ。
「……念のために聞きますけど、ドラコは無事だったんですよね?」
「あーそれは問題ねえよ。ハリーとハーマイオニーがプロテゴで防いだからな」
「へぇ、それは流石ですね二人とも。怪我人がでなくて良かったです」
「大袈裟だよ。僕よりもハーマイオニーの方が呪文の発動は早かった」
「ここはホグワーツだもの。油断していたらいつの間にか石になることだってあるんだからこれくらいは当然だわ」
ハーマイオニーはそう言って胸を張った。ハリーがリディクラスやコンジュレーションの練習をしている間、ルナ·ラブグッドやコリン·クリーピーたちも決闘クラブにやってきて、ハリーたちは勉強の成果を互いに見せあった。コリンは魔法世界から離れていたせいか前学期に教えたこともかなり頭から抜け落ちていたので、ハリーはコリンの復習に付き合いながら魔法の精度を高めていった。
(……今ならハーマイオニーにも勝てそうな気がする)
ハリーはコリンに教える傍ら、自分の目指すべき戦法をイメージしながら魔法の反復練習を繰り返した。夏休みの間にシリウスから教わった魔法や戦法を駆使すれば、無言呪文が使える高学年以外には負けないという自身があった。あとは自分自身の魔法の腕を上げていけば、おもしろく暴れることが出来る筈だった。学んだ理論の通りに魔法を使える楽しさで、ハリーは時間を忘れて魔法を使いまくっていた。
決闘クラブの終わり際に、ルナはハリーに頼みがあると言ってハリーを呼び止めた。彼女の話を聞いてみると、レイブンクローの髪飾りを探したいから捜索を手伝ってほしいということだった。
「着けた人に叡知を授けてくれるアイテムなんだけど。無くなっちゃったらしいんだ。けれど、ホグワーツのどこかにあるかもしれないから探してみるの」
どう考えても見つかりそうもない伝説のアイテム探しである。ハーマイオニーは、早々にいつものルナの狂気的な言動が始まったのかと思って顔をしかめた。
「面白そうだね。……明日はルーピン先生の補習があるから明後日でいいかな?」
「ごめんなさいルナ。私はその日はパーシーさんに勉強を教わる予定なの」
そう言って、ハーマイオニーはなぜかロンの足をこづいた。
「……?……あ、あー、そう言えば俺もパーシーに魔法を教えてもらうんだった。悪いなハリー。宝さがしはまた今度な」
「実はその日は僕も図書館デートの予定でして……」
「相手は?」
「ミリセントですよ。すみませんねルナ。そういう伝説のアイテムを探すのは楽しそうですし、僕も是非参加したいと思います。……もしも明後日に見つからなくて、それでも探したいときは僕も誘ってください」
「ええーっハーマイオニーもアズにゃんも?」
「にゃんって何だよ……俺も行けないんだけどそれはスルー?」
「うん!」
「失礼だな!」
ハーマイオニーやアズラエルが来ないとわかりルナは不満そうに口を膨らませた。ハリーも残念だったが、全員の予定が合うことなどそうそうありはしなかった。
「……そうか、なら仕方ないね。三人は欠席か」
「うーん……皆にも来てほしかったんだけどなぁ」
「どうしてそう思ったの?」
ファルカスが聞くと、ルナは首を傾げて言った。
「そういう伝説のアイテムって、相応しい人のところに転がり込む気がするから。私じゃなかったとしても、この中の誰かじゃないかなあって思って」
「ルナ、そもそもホグワーツに存在しないものだったら手に入りっこないよ……」
ハリーが苦笑していると、つかつかとハリーたちのところに歩いてくるプラチナブロンドの魔法使いがいた。
ドラコだった。引き連れているクラッブとゴイルは仏頂面ではなく、どこか穏やかそうに見えた。
「話は聞かせてもらったぞ、ポッター。人手が足りないんだろう?」
「いや聞いてたんかい!」
ザビニの的確な突っ込みをドラコはスルーした。ドラコの後ろで、クラッブはひくひくと笑いたそうに頬を緩ませた。
「え?うん、足りないけど」
(珍しいな、ドラコがこうやって来るのは)
ハリーは新鮮な気持ちになりながらも素直に頷いた。ドラコはハリーを制止するためにやってくることが多かったが、こうやって、協力して何かを成し遂げようとすることは今までになかった。スリザリンの生徒たちが固唾を飲んで見守る中、ドラコはハリーに手を差しのべた。
「三人分の人手を貸してやる。君がどうしてもと言うならだが」
ハリーの後ろでザビニが呆れたような視線を向けるなか、ハリーはドラコの手を取った。
この時、この場にいた全員が全員、二日後に起きることを想像だにしていなかった。まるで何かに導かれるように、ハリーたちは奇妙な体験をすることになるのである。
ドラコ「勘違いするなよ!ハリーやグレンジャー魔法生物飼育学の一件でできた借りを返すためなんだからな!」
……というわけでハリー一味(ロンハーアズラエル抜き)とドラコ一行も組んで髪飾りの探索開始です。頑張れ。