蛇寮の獅子   作:捨独楽

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今回オリジナル設定がありますが似たようなことは原作のハリポタ世界でもあったと思います。


獅子戦争

 

 スリザリン寮六年生のリカルド·マーセナスは、親友のマクギリス·カローが後輩たちに噂を流す様を呆れながら眺めていた。マーセナスの彼女のイザベラ·セルウィンは、興味津々といった様子で後輩たちが去ったあと優雅に紅茶を楽しむマクギリスへと問いかけた。

 

「ねぇマッキー。どうしてあんな根も葉もない噂を流しているの?『ポッターは純血主義に理解を示してる』とか、『闇の魔術に興味がある』とか『純血主義の子とデートした』とか……」

 

 マクギリスは髪の毛を弄くりながら、親友の問いに答えた。

 

「フフフ。良く聞いてくれたね、ベラ。これもひとつの政治的な駆け引きさ」

 

「政治ねぇ……」

 

(それはマッキーには向いてねえんだよなぁ……)

 

 親友であるリカルドは、内心で呆れながらマクギリスを眺める。マクギリスとリカルドの黒歴史は、純血主義を過激に信仰し、他所の寮生に散々迷惑をかけて嫌われたことから始まった。そこから抜け出すことができたのは、普通に友達を作り、学生らしくきちんと勉強して青春したからである。マクギリスはそもそも直情的なタイプで、『政治』というものには向いていないのだ。

 

 しかし、純血主義の一族であるカロー家の後継者とあろうものが『政治に向いていない』では済まされない。学生のうちに経験を積んでおくにこしたことはない。だからリカルドは、マクギリスの稚拙な謀略にも口出しはしなかった。それは、スリザリン生らしいリカルドの親友としての情がゆえだった。

 

「ポッターに根も葉もない噂を流すことが政治?良くわからないんだけど」

 

「昨年度の秘密の部屋の時、ホグワーツ中の人々がポッターを恐れたことを覚えているだろう。あれと同じように、ポッターが純血主義に理解を示し始めているという風潮を作るのだよ」

 

 マクギリスは自信満々に己の計画を話した。

 

「……まぁぶっちゃけ九割の連中は、面白がってその噂を広めるでしょうね。ポッターのことなんてどうでも良い、楽しめればそれで良いっていう奴らがほとんどなんだし」

 

「有名人のそれっぽい噂というものは、たとえ嘘であったとしても気になるものだ。インフルエンサーの目星はついている。彼らは、面白おかしくポッターの噂を吹聴してくれるだろう」

 

「…………それでポッターを純血派閥に引き入れるってことが出来ると思う?本気で?」

 

「可能性はゼロではない。今学期、ポッターはミスタウィーズリーやミスグレンジャーではなく、ドラコと組んで困難を乗り越えた。加えて、ミスグリーングラスとデートしている。これは本当のことだ。噂というものは、九割が嘘であっても一割の真実があることでそれっぽくなるのだよ」

 

 イザベラ·セルウィンはフロバーワームを噛み潰したような表情でじっとマクギリスを見ていたが、やがて意を決したように言った。

 

「……ポッター自身が噂に対して首を縦にふらなければ、なんの効果もないわ。ねぇ、今すぐ噂を止められないの?」

 

「……良い案だと思うのだが、君の気に入らなかったかな、ベラ」

 

「根も葉もない噂を流されて困るのはダフネよ」

 

 イザベラはぴしゃりと言った。

 

「たった一回、出来心でデートしただけでも、ポッターは純血じゃないのよ。あの子が周囲から好奇心の視線にさらされて辛い思いをするって、マッキーだって想像できるでしょう?」

 

「……純血主義の未来のためには、必要なことだよ」

 

 マクギリスの表情に、はじめて陰りが見えた。マクギリスは基本的に後輩思いの男だ。自分の謀略のために後輩の、それも女子が不利益を被ることに良心が痛まないわけはない。

 だが、マクギリスは止まらなかった。

 

「だからって……!!」

 

「……ミスグリーングラスはそこまで愚かな子供ではないと私は思う。こういった噂が立つことも想像していただろう。いや、想定しておくべきだ。無論、ポッターもね」

 

 イザベラはマクギリスの言葉に押し黙った。スリザリン的な価値観から言えば、それは全くもってその通りだったからだ。

 

 

 

 スリザリン寮に入る子供のほとんどは、両親から純血主義について教え込まれる。それは己の交遊関係を、歴史ある家柄の人間か、純血である自分達を尊重してくれる人間かのどちらかにとどめて、両親たちが守ってきた純血派閥の利権を護るためだ。

 

 スキャンダルが怖いのであれば、周囲に発覚しないようあくまでも秘密裏に付き合うべきなのである。

 

(……へえ。成長したじゃないか、マクギリス)

 

 一方で、リカルドはマクギリスを見直した。今まで、マクギリス自身がこうして泥を被ることはなかった。狙った獲物を純血主義に引き込むとき、脅したり立場を危うくするのはいつもリカルドの仕事だった。

 

 

「……私は協力しないわよ。後輩の女子たちには根も葉もない噂だって言うからね」

 

「それで構わないよ、ベラ」

 

 怒りながら去っていくイザベラを見て、マクギリスは寂しそうに呟いた。

 

「友情を失ったかな、私は」

 

「そんな簡単に壊れるような付き合いじゃねえよ。今は頭に血が上ってるだけだ」

 

 リカルドはマクギリスに言った。

 

「……失敗したときは、ベラがグリーングラスをフォローしてくれるさ」

 

「本当に?」

 

 マクギリスの言葉に、リカルドは深く頷いた。

 

「俺が彼女にキスしてでも頼み込むさ。だからお前はそれでいい。迷うなよ、マクギリス」

 

「……私は本当に良い友を持ったな。それも、二人も」

 

 マクギリスは友情に感謝しながら、必要の部屋をあとにした。必要の部屋には、マクギリスが飲み残した紅茶が残されていた。

 

(大人の味がしただろう、マクギリス)

 

 苦くて飲む気がなくなったのだと、リカルドは思った。

 

***

 

 火曜日の一限と二限は、ホグワーツで最もつまらないという評判の授業だった。九割の生徒にとってはその授業は聞く価値がなく、睡眠時間に宛てられていた。

 

 ハリーは魔法史の授業を眠らずに受講する数少ない生徒の一人だった。12科目を受講しているハリーにとって、ビンズ教授の主観を差し挟まない無味乾燥な授業は眠気を誘うこともあったが、ハーマイオニーに負けるものかと踏ん張って授業を受けていた。

 

「……マグルの世界で英仏百年戦争が起きたあと、1403年を境に英国、仏国の魔法使いたちが両陣営に参戦しました。この参戦から終戦までの五十年間を、魔法世界では五十年戦争と呼びます」

 

 ビンズ教授の言葉に対して、ペンを走らせる生徒の数は少ない。ハリーはザビニに見せるため、ノートを二つとっていた。

 

「五十年戦争終結後、英国は慢性的な不況に陥り、また王権の争いにも発展します。マグルの世界では薔薇戦争と呼ばれるこの争いにも、英国の魔法使いたちは参戦し、その多くが内戦で殺しあいました。これを魔法使いの世界では『獅子戦争』と呼びます。混同しやすいので注意して記憶するように」

 

 そのビンズ教授の言葉と共に、授業の終わりを告げる鐘が鳴った。

 

(魔法使い同士で殺しあうなんてな…それも、マグルの戦争で…)

 

 ハリーにとって遠い過去の話で、今を生きるハリーには関係がないことだ。それでもマグルの戦争に荷担して命を落とした魔法使いがいたという事実は、ハリーの心に淀みを生んだ。泥のようなささやかな歪んだ思いを振り払うように、ハリーはファルカスに問いかけた。

 

「でも、どうして『獅子戦争』なんだろう。ファルカスは知らない?」

 

「僕はよく分からない。次の授業の時、ビンズ教授に質問してみなよ」

 

「そうだね。……さ、起きなよザビニ。次はマクゴナガル教授だよ。眠ってたらどやされる」

 

 

 ハリーはザビニの肩を叩いて起こし、次の授業へと向かった。道中、ハッフルパフの生徒やグリフィンドールの生徒がハリーを見て隣の生徒と雑談していた。

 

 

 ハリーはもはや噂話を無視しようと決めていたが、アズラエルは耳をそばだてて噂を聞いていた。その噂を耳にしたとき、アズラエルは表情を曇らせた。

 

(あれ……あっれ??これって不味くないですか……?政治的に……)

 

 アズラエルは、思わぬところでハリーの外堀が埋められていくのを感じ取っていた。そして肝心のハリーは、それに気付いていなかった。ハリーは今週末にもダフネの相談に乗るということで、ホグズミードのカフェに行くとアズラエルたちに話していたのである。

 

 アズラエルは胸騒ぎを感じながら、変身術の教室へと足を踏み入れた。

 

***

 

 その日の変身術の授業の時、ロンはそわそわとハーマイオニーに尋ねた。

 

「あ、ハリーだ。……どうする?俺からあの噂について聞いてみようか?」

 

「きっと根も葉もない噂よ、ロン。あ、ほらハリーも手を振ってくれたわ」

 

 教室に入ってきたハリーが軽くロンへと手をあげ、ロンもそれに応じて軽く手を上げ返す。普段通りの何気ない挨拶だった。

 

(……でも、もしも本当だったとしたら……)

 

 聡明なハーマイオニーは、噂の真偽についてハリーに問おうかどうか迷った。迷った末、今は聞かなくても良いだろうと思った。

 

(……私はあんまりハリーには近づかないほうがいいのかしら。お邪魔になっちゃう)

 

 ハーマイオニーはハリーと、そして噂の女子……ダフネ·グリーングラスの方をちらりと見た。ハーマイオニーの仇敵であるパンジ·パーキンソンと親しげに会話しているその少女のことをハーマイオニーは知らない。しかし友人であるハリーの幸せを祈って、ハーマイオニーはぐっと掌を握りしめた。

 

(頑張ってね、ハリー!)

 

***

 

 ハリーはその日の放課後も決闘クラブで魔法の練習をした。

 

(ドラコも……クラブもゴイルも……今日も来てないか……)

 

 ハリーは胸の痛みを抱えながら、ロンやハーマイオニーと一緒に、今日だけの臨時講師の話をノート取ろうとポールペンとノートを用意した。ハリーがハーマイオニーの隣に座ると、周囲の生徒たちはざわめいた。ハリーは無視した。

 

 そう、この日は決闘クラブにルーピン先生が招かれていたのである。ルーピン先生は、最初にインセンディオでハリーたちの前に炎を出して見せると、ハリーたちに一つの魔法を教えてくれた。

 

「今日はフリットウィック教授に招かれたこともあるし、君たちに魔法の炎に対抗するための魔法を教えようと思う。みんなは『変わり者のヴェンデリン』を知っているかな?マクギリス」

 

 ハーマイオニーとハリーは挙手して答えようとしたが、最前列にいたマクギリス·カローが挙手していたちめ気付かれなかった。マクギリスは自信満々に答えた。

 

「マグルを愚弄するために火炙りの刑を受けた過去の魔女です」

 

「その通りだ。よく勉強しているね、スリザリンに五点。彼女は実に47回も火炙りを受けたが、それを無傷で乗りきるためにある魔法を開発した。 フレイム グレイシアス(炎よ凍れ)という魔法だ」

 

 ルーピン教授が杖を自分の左腕に向けると、杖先から白い光が迸った。ルーピン教授が左腕を火の中に突っ込んだが、ルーピン先生の腕にはなんの変化もなかった。

 

「この呪文をかけるときは、自分自身の体に向けて使うといい。火の勢いはそのままに、炎の影響を無視することができる」

 

「先生、普通に消火するんじゃダメなんですか?アグアメンティ(水よ)で消せると思うんですが」

 

 部員たちがうんうんとルーピン先生の言葉に頷くなか、ファルカスが挙手して聞いた。

 

「いい質問だ、ファルカス。スリザリンに一点。通常のインセンディオならばそうだが、魔法による火災の中には、油や触媒を交えたインセンディオの亜種による火災や、近年ではマグルの電気的設備を利用した火災などがある。それぞれ燃えている物体をエバネスコ(消えろ)で除去したり、二酸化炭素を加えて消火したりととっさの場合において適切な対応が異なるんだ。だからまず、この魔法で自分の身の安全を確保してから対応する消火措置を取る必要がある」

 

 ルーピン先生の臨時講義は、内容で言えば五年生かそれ以上の知識を必要としていた。ハリーは炎系統の魔法を習得するついでにインセンディオの派生も覚えていたが、火災の種類に応じて適切な魔法をとっさに使用するのは難しそうだと思った。そういう意味で、ルーピン先生の教えは理にかなっていた。まず己の身の安全を確保しておけば、パニックで誤った魔法を使用する可能性はぐっと減るからだ。

 

 講義の最後に、ハリーはルーピン先生に一つ質問をした。

 

「より強力で手に追えない火災の時はどうすればいいですか?」

 

 ハリーの想定は闇の魔術による火災だった。ルーピン先生は暗にハリーの言いたいことを理解したようで、腕を組みながら言った。

 

「よく聞いてくれた。スリザリンに一点。その場合も対応は変わらない。……あまりに火の勢いが大きくなりすぎてしまった時は、フレイム グレイシアスの語尾に『マキシマ』をつける」

 

「マキシマ、ですか」

 

「マキシマはほとんどの魔法に対して使用可能な増幅魔法だ。魔法の効用や範囲の拡大、持続時間の向上などさまざまな応用が可能になる。……ただし、出力を込めた魔力以上に増大すれば持続時間が、持続時間を限界以上に引き出せば魔力が拡散して効果は弱まる。あくまでも、術者の制御可能な全力を引き出すための魔法だ。これによって、グレイシアスの効果を最大限に引き出して身を護り、その場から離れるように」

 

 ルーピン先生の講義のあと、バナナージ先輩は立ち上がってルーピン先生に頭を下げ、講義のお礼を言った。ハリーたちはルーピン先生に見守られながら魔法の訓練をしたが、面白い魔法を多く知れたことからか皆はいつもより熱が入っていた。

 

 

 ハリーの目下の目標は、ペスティス インセンディウム(悪霊の火)やプロテゴ·ディアボリカ(悪魔の護り)を使わず、通常のチャームをそれらの領域にまで超えるための魔法、マキシマの習得だった。杖による魔力の増幅作用と魔力の効率のよい運用ができてはじめて習得できるマキシマは、習得できれば闇の魔術に頼らずともそれに近い威力の魔法が使えるようになる。その分、その理論の習得は一筋縄ではいかず、マキシマによって増幅させたい魔法そのものに対しても習熟が必要になる。ハリーは数多くの魔法を習得してはその反復練習を繰り返し、マキシマの習得めざして特訓を続けた。ハリーの顔には自然と笑みがこぼれていた。

 

***

 

 

 そんなハリーの姿を、リーマス·ルーピンはじっと観察していた。生徒たちの杖の振り方や魔法の狙いの付け方、発音の仕方などに関する質問に答えながら、リーマスは気がついたことがあった。

 

 

(………ハリーはあの年にしては実力がありすぎている。ハーマイオニー·グレンジャーもそうだ。昔のジェームズとシリウス程ではないが、戦闘能力に限れば同年代ではすでにトップクラスだろう)

 

 同年代のスリザリン生であるブルーム·アズラエル等と比較すると分かりやすいが、ハリーの腕は三年生にしては優れすぎていた。魔法の発動の早さ、正確さ、射程の長さなども申し分なく、模擬戦でも上級生相手に勝ち星をあげることもあった。

 

 三年前まで魔法について知らなかったにも関わらず、魔法に関して知識があったスリザリンの同級生と比べても遜色ないか、それ以上に魔法を使いこなしている。あそこまで習熟するには、毎日毎日正しい振り方で杖を振らなければならない。正しいというのが問題で、数をこなすだけでは魔法は発動してくれないのだ。魔法に関する異常なほどの熱意があり、適切な知識がなければ、杖捌きを熟すことは出来ないのだ。

 

 ハリーやハーマイオニーがそこまで向上したのは、決闘クラブという基本を習熟できる環境で、フリットウィック教授という適切な指導者のもと、バナナージという理解ある先輩がいたこと、グリフィンドール生と友好的な関係を結べたことも大きかったのだろう。

 

 リーマスは記憶の中の旧友たちがハリーを見れば何を言うだろうかと思った。

 

(……あのときのパッドフットやプロングズなら……あそこまで熱心に魔法をやってるやつは気持ち悪いと言っただろうな。ワームテールはかかわり合いになりたくないと思っただろう)

 

 スリザリン生だろうがグリフィンドール生だろうが無関係に、対等に魔法を習熟できる環境を作り上げたフリットウィック教授に対して、リーマスは改めて尊敬の念を深くした。そういう環境こそ、あのときのリーマスが欲しかったものだった。恐らくは今のハリーたちにとっても、悪いものではないとリーマスは考えた。

 

 ダンブルドアは、ハリーが戦闘能力に傾倒することを好ましくは思っていない。しかしリーマスは、決闘クラブという環境ですくすくと健全に成長するのであればそれは構わないではないかと思った。少なくともここには、寮の違いによる対立はほとんどないと言っていいのだから。

 

 リーマスはクラブが終わったあと、ハリーがマクギリス·カローとバナナージ·ビストに誘われてどこかに行くのを安心した目で見送った。

 

 

***

 

 ハリーとマクギリス、バナナージ、そしてアズラエルは『必要の部屋』に足を踏み入れていた。ことの発端は、ハリーがバナナージにビンズ教授の授業で気になったところを問うたことだった。バナナージは真面目なハッフルパフ生らしくきちんと授業を受けており、OWLの魔法史でもOの成績を納めていた。

 

「俺じゃなくてマクギリスやガーフィール先輩に聞けばいいんじゃないか?」

 

「スリザリン視点の歴史じゃなくて、なるべく客観的な意見が欲しいんです」

 

 ハリーは前年度のスリザリンの継承者の一件もあって、ハリー自身のスリザリンへの愛着とは別にそれを盲信すべきではないと言う結論に至っていた。継承者であるリドルのふるまいは、ハリーの判断の指針とするにはあまりにも危険すぎた。

 

「オーケーだ。じゃ、これから必要の部屋に行こうか?それとも明日にするか?」

 

「良いんですか!?じゃあ今日お願いします!」

 

「待ちたまえ。何やら面白そうな話ではないか、バナナージ。私も混ぜてくれないか?」

 

「俺は別に構わないが……ハリーもそれでいいか?」

 

「はい、ぜひお願いします」

 

「あー、その話ぼくも聞かせてもらっていいですか!!興味がありまして!」

 

 そんなハリーとバナナージに、マクギリスも割り込んできた。ハリーは閉心術でにこやかにマクギリスに対応しながら必要の部屋へと向かった。以前闇のアイテムがあった部屋は、四人が腰掛けるにちょうどいい椅子とテーブルのある部屋へと変わっていた。

 

 ハリーは気がついていないものの、アズラエルが同行を申し出たのはハリーの政治的な立場に配慮してのことであった。マクギリスに連れられて怪しげな会合に参加したと言う噂が広まる前に、アズラエルもそれに参加したあと、バナナージに頼んで純血主義とは無関係の会合だという噂を流してもらうつもりだった。かつてマクギリスの友人に泥棒を強要されたアズラエルにとって、マクギリスとその友人であるリカルド·マーセナスは警戒対象のろくでなしだったのである。最近の不安定なハリーが、彼らの話を真に受けて取り込まれて欲しくはなかった。

 

「んで……獅子戦争についての話だったな、ハリー」

 

「はい。授業ではさらっと流されたんですが、そもそもどうして魔法使いなのにマグルの戦争に参戦なんてしたんですか?」

 

 

「あー、なるほど。今の授業ではそこら辺をやってるのか。話せば長くなるんだが………まず、歴史について考えるときは当時の倫理観は現代のそれとは違うってことを覚えておいてくれよ?」

 

「ええ」「はい」「今と変わらない価値観もあるがね」

 

「マッキー、話の腰を折らないでくれ」「すまんバナナージ。続けてくれたまえ」

 

 バナナージは本棚からアクシオで資料を呼び寄せると、今の主流となっている学説について話し始めた。

 

 

「あの辺りの歴史はいろいろと事情があるんで、まずは百年戦争から話すけど、そもそも当時はマグルの戦争に参加するのは珍しいことじゃなかったんだ」

 

「人を殺すこともですか?」

 

「……いやまぁ……な。グリフィンドールが決闘をしまくってたって話は前にしたよな。グリフィンドール自体昔の人だから、相手がマグルだろうが決闘をして、勝っていた。………そんなグリフィンドールの考え方がホグワーツで根付いてから300年経過して、ルールに則った争いならマグルと戦ってもまぁいいだろうって考える魔法使いは多かった。単純計算で、当時のホグワーツを出たざっと魔法使いの四分の一位だな」

 

「マグルの世界で言う百年戦争が始まったときは、フランスの魔法使いたちも英国の魔法使いたちも呑気なものだった。すぐ終わるだろと思ってたんだな。ちょっと手を貸してやれば終わるとたかをくくってた。……ところが、何十年経っても終わらない。フランス側にも魔法学校があって、その出身者たちは団結してフランスのマグルを支援してたからだ」

 

「……泥沼ですねぇ……考えたくないなぁ、五十年も戦うなんて」

 

「この世の地獄だね、さすがに」

 

 アズラエルの言葉にハリーも頷いた。

 

「マグルへの間接的な支援だけじゃ埒が明かない。なら俺が終わらせてやるって、当時のグリフィンドール出身者たちは思ったんだろう。勇敢で慈悲深い彼らは、疲弊していくマグルたちに杖を差しのべたくなった。かのグリフィンドールと同じように手柄を立てて、英雄として戦争を終結へと導こうとした。フランス魔法使いたちも同じだな。戦争が長引くにつれて、これはどうにかしないと不味いんじゃないかと思い始めて参戦し出した。結果として戦力が拮抗して、百年も続いちまったけどな」

 

「そんで我がハッフルパフ出身者も、マグルと交流を持ってたり親がマグルだったり……そういう事情のある人が多かった。ここで問題だ。自分の親が戦争に駆り出されたとして君ならどうする?」

 

「……!」

 

 ハリーは思わず口に手を当てた。アズラエルは感心したようにバナナージの話に聞き入っていた。

 

「察したか?親を護りたい、知り合いのマグルを助けたいって理由で、俺たちハッフルパフの出身者も大勢参戦したんだ。で、まぁ結末はビンズ教授の言う通りだな。大勢の魔法使いや魔女が命を落とすことになった。大切なものを護るためにな。レイブンクロー出身者も参戦した。彼らは魔法の腕を試すためや、魔法研究のために必要な領地を護るためって理由で参戦したが、フランスの新しい魔法の餌食になる奴らも多かった。レイブンクローは個人主義がいきすぎてて戦争になると連携が取れなかったんだ」

 

「スリザリンはどうだったんですか?」

 

「スリザリンは戦争に直接参戦するって形じゃなくて、王侯貴族といった有力者に近付いて舵取りをしようとした。……まぁ、結果としては上手く行かなかった。スリザリン内部にも派閥争いはあるだろ?だからフランスとの戦争が終わっても、英国国内の内戦……薔薇戦争になっちまったのさ」

 

 マクギリスは眉を潜めたものの、仕方なくといった風に頷いた。

 

「調停に失敗したのは事実だね。魔法使いの間で意思統一をはかれなかった。当時の英国の魔法使いには、魔法省がない。従うべき圧倒的な権威が不足していたのだ。だから権力争いに目が眩み、同族同士で血を流してしまった」

 

 ハリーはなんとも言えない気分だった。マグルと関わったことで魔法使いが悲しむという現実がある。しかしマグルがいなければ、そもそも魔法使いは生まれてすらいないという現実は、今も昔もそう変わらないのだ。そして、理由さえあれば同じ魔法使い同士でも、殺しあう。

 

(……現代は……それよりはマシなのか)

 

 ハリーは何となくそう思いながら、マクギリスとバナナージに尋ねた。

 

「あの、薔薇戦争になったのはスリザリン出身者が舵取りに失敗したのが原因ですよね?なんで獅子戦争になったんですか?」

 

「それは私が答えよう」

 

 マクギリス·カローが、ずずいと名乗りをあげた。アズラエルやハリーは思わず椅子の上で身を引いた。バナナージはニコニコとそれを見守った。

 

「グリフィンドールには勇敢さの他に、もう一つの徳目がある。それがなにか分かるかな、ハリー?」

 

 

「騎士道ですか?」

 

「その通りだ。騎士とは貴族に仕え、報酬を得る身分だ。五十年戦争は、魔法世界としては事実上の英国側の敗北で終わったのだよ、ハリー。いくつかの有名を馳せた魔法族が生まれ、長い戦争のなかで没落していった。それは、マグルの世界があまりにも荒廃してしまったがために魔法使いへの報酬を用意できなかったからなのだ。フランス側も疲弊していたからね」

 

「……それに、参戦した魔法使いたちが怒ったんですね?」

 

 アズラエルは恐る恐る予想を口にした。バナナージとマクギリスはアズラエルを褒めた。

 

「そうだ。マグルと魔法使いとの間で、『対等な取り引き』が成立しなくなったんだ。戦争で友や仲間や家族を失い、報酬も満足にない。それに怒った騎士……つまり、グリフィンドール派閥の魔法使いたちは、自分に報酬を用意してくれるマグルを支援して今度は英国内で殺しあった」

 

「いやおかしいでしょう!?同寮のよしみとかないんですか!?」

 

「戦争で飢え死にかどうかって瀬戸際で、そんなことを気にしている余裕もなかったんだよ。ものが溢れてる現代と違って、当時はマグルの世界も魔法界も今より貧しかった。未開拓の場所は今より多かったんだ」

 

「……そうだったんですか……」

 

 

「結果として、薔薇戦争で一番血を流したのは……グリフィンドール出身者だった。英国魔法界は失った命への敬意と、そして二度と同じことを繰り返すまいという戒めを込めて『薔薇戦争』に『獅子戦争』という名前をつけたんだ。……ま、そういう歴史があったってことだけ覚えとけばいいさ。レポート、頑張れよ」

 

「……はい。ありがとうございました、バナナージ先輩、マクギリス先輩」

 

 なんとも言えない表情で獅子戦争についての話をバナナージから聞き終えたハリーを、マクギリスは穏やかに見守っていた。マクギリスは内心で、必ずハリーを純血主義に引き入れるという決意を強めていた。

 

***

 

 

 




バナナージも言ってますが、グリフィンドールやハッフルパフや一部のレイブンクロー出身者の、『マグルに対して融和的に接する人もOKだよ何ならマグルを護るためにマグル同士の戦争にも荷担するよ』という考え方は当時としては別に悪くないものだということを覚えておいて下さい。
なぜなら国際機密保持法が成立したのは17世紀。当時はマグルとの決闘は合法だったのです。英国中の頭グリフィンドールが参戦していなければ、百年戦争は仏国魔法族が参戦したフランスの圧勝だったでしょう。
あとマクギリスは伏せてますがスリザリンの一族にも親戚が参戦するからうちも参戦するみたいなノリで参戦して、そのまま戦死した魔女や魔法使いはいました。ハッフルパフ出身の闇の魔法使いと同じように喧伝しないから忘れられただけです。
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