世はまさにホグワーツの大恋愛時代!!
「実に三年ぶりの決闘大会が近付いている。当日はダンブルドア校長先生や四寮の教授陣も俺たちの勇姿を見てくれる。部員の皆は、日々の勉強の成果を発揮してベストを尽くしてくれ」
バナナージ·ビストは、ある日部員たちにそう宣言した。部員のなかにアストリアはいない。彼女は監督生のジェマのアドバイスに従い、純血主義を表に出さないように訓練中とは姉のダフネの弁だ。
ハリーは決闘大会についてバナナージに尋ねた。
「どうして今まで開催されなかったんですか?」
一年生の時も二年生の時も、決闘大会が開催された記憶がなかった。
「二年前は部員不足で、グラウンドじゃなくてこの教室で開催していたんだ。『わざわざグラウンドを使うくらいならクィディッチの練習をさせろ』ってクィディッチチームの声があったからな」
「だから誰も、大会が開催されたことを知らなかったという訳だ」
パーシー·ウィーズリーがそう発言した。パーシーは首席であり、部長ではないが決闘クラブに所属しているなかでは最も強いのではないかとハリーは見ていた。去年、秘密の部屋に突入してリドル相手に大立ち回りを演じたのもパーシーなのだ。
「そういうことだ。……それで去年は皆も知っての通り秘密の部屋騒動もあったし、開催自体を自粛したんだ。色々とあったからな」
何人かの生徒は居心地が悪そうだった。秘密の部屋騒動で部を一時的に離れ、騒動が収まってから復帰したからだ。バナナージはニッコリと微笑むと、そんな彼らを安心させた。もう怒ってないよ、と言うように。
「無事開催できることになって、俺も嬉しい」
「優勝したら賞品はあるんですか?!」
コリン·クリービーが挙手してキラキラした目でバナナージに尋ねると、大勢の生徒はコリンを暖かい目で見た。コリンは正式に部の一員として加入し、大勢の先輩たちから可愛がられている。
「ホグズミードの一日優待券と、優勝記念トロフィーが授与される。このトロフィーは開催期ごとに作られて、優勝した人が卒業してもずうっと部に残り続けるんだ。いわば、ホグワーツ最強っていう名誉が最大の報酬だな」
その言葉に、男子たちや好戦的な女子たちはざわめき、やる気を出していた。部活とはいえ、決闘をやるからには負けず嫌いで血の気が多くなくてはいけない。最後まで勝てば最強という名誉が得られるのなら、誰だってやる気を見せるというものだ。一部の例外を除いては。
「ま、決闘はクィディッチと違ってメジャーなスポーツじゃない。グラウンドで開催するけど、どうせ観客なんて集まらないさ。気楽に楽しくやろう、皆」
バナナージはそう言ったが、目は笑っていなかった。部長として誰にも負けるつもりはないと、その目が語っていた。そんなバナナージに、マクギリス·カローがひとつの提案した。
「ひとついいかな、バナナージ部長。私は一般からの参加も受け付けるべきだと思う」
「一般参加?部員以外での大会への参加か?」
「どうせ一日グラウンドを貸し切るのだ。参加人数が多い方が盛り上がるだろう?」
「お前にしてはいい意見じゃないか、マクギリス!部長、俺も賛成だ。これをきっかけに決闘の競技人口を増やすべきだ!」
意外にも、マクギリスの意見にガエリオ·ジュリスが賛同した。他の部員たちも否定する様子はなかった。ハリーも、
(ロックハートのような人間が扇動でもしなければ決闘大会にわざわざ参加する物好きはいないだろう)
と思った。
「ふっ……まさか、君に賛同されるとはな、ガエリオ。正直に言えば複雑な気分だ」
「初心者狩りをすることは競技人口の増加には繋がらないんだが……」
バナナージはこのマクギリスの提案に渋い顔をしたが、ハリーも含めた部員たちの多くはマクギリスに賛同した。ハリーはバナナージの了承を得て、ドラコとクラブ、ゴイルに決闘大会への招待状を送った。ドラコたちは髪飾りの一件以来、決闘クラブに姿を見せなくなっていたからだ。
(これを切っ掛けに、また遊びに来てくれれば……)
ハリーはそんな淡い期待を抱きながら、決闘クラブで魔法の練習に打ち込んだ。闇の魔術なしで結果を出すことで、自分自身のやっていることは間違いではないと思いたかった。決闘大会で結果を出せば、ドラコとも和解できるのではないかと思った。ドラコは近頃、クィディッチの練習のときですらハリーと距離を置いていた。
ハリーはドラコのことを頭から振り払うと、隣で黙々とステューピファイの練習をしているハーマイオニーに言った。
「ハーマイオニー。もしトーナメントで当たったら、お互い全力を尽くそう」
「ハリー?……ええ。私も、あなたに勝つつもりで全力を尽くすわ」
ハリーはハーマイオニーに勝つという当面の目標を達成することに躍起になっていた。学年で最も多彩な魔法を使いこなせるのはハーマイオニーなのだ。その彼女に勝てたならば、ハリーも自分自身の力量に自信を持つことができる。
「おいおい、俺らと当たる可能性もあるってことを忘れんなよハリー。うかうかしてたら勝っちゃうぞ。なぁロン?」
「え、俺も?」
「いや、ザビニやロンたちのことも警戒してるよ。ぼくは誰相手でも手は抜かない。呪文が当たったら、その瞬間負けるからね」
ハリーはザビニから小突かれつつ、空中に浮かべていた丸太を土管に変えた。土管は制御を失い落ちていく。変身呪文によって物質が変わった結果、浮遊呪文の効力を失ったのだ。
「皆頑張るなぁ。私はテキトーでいいやー」
ルナはのんびりと杖を回していたが、コリン·クリーピーから挑発されていた。
「あ、ぼく知ってる。そういうのを負けたときの言い訳って言うんだよね!」
「コリンには勝てるけど?」
「ぼくはハリーから魔法を教わったんだよ?ルナには負けないよ!」
「ハイハイ」
やる気の無さそうなルナにやる気を出させるため、ハリーはザビニと相談してひと計らいした。ザビニはルナを釣るなら動物だろうとハリーに提案したのである。
「ルナ。もしも一回戦に勝てたらハグリッドに頼んでユニコーンの赤ちゃんを見せてあげるよ。でも、今回は大勢参加するからなあ。頑張らずにいて一回戦に勝てるかな?」
その言葉を聞いたあとは、ルナは集中して魔法の訓練に打ち込んだ。ハリーは苦笑しながらも、ザビニにグーサインを送った。ザビニはピースサインで返した。
***
決闘大会当日の日曜日、部員以外の参加者は当初予想していたよりは増えなかった。部員以外の参加者はクラブを出禁になっていたフレッドとジョージの双子、運動神経に優れたクィディッチチームのプレイヤー、ホグワーツでの思い出作りとして参加した七年生、OWLを終えて余裕のある六年生という面々だ。ホグワーツ最強(の学生)という肩書きを狙う強者の群れを見て、参加を見送る学生が多かった。
さらに、事前にリー·ジョーダンやフレッドとジョージの双子が大会の開催を喧伝したことで、グラウンドにはクィディッチの時と変わらないほどの観客で満ちていた。ウィーズリーの双子がトトカルチョでも仕切っているのではないかとハリーは疑ったが、自分の組み合わせを見てそれどころではなくなった。ハリーの相手は、レイブンクロー監督生のペネロピー·クリアウォーターだ。ペネロピーは決闘クラブのメンバーで、プロテゴを修得済みの強敵だった。
「これは……相当厳しい戦いになりそうだね……」
「どちらが勝っても修羅の道ですね。お互い頑張りましょう。ミリセントが応援に来てくれている以上、手加減はしませんよ、ファル」
「ぼくもだよブルーム」
ファルカスは厳しい顔でトーナメントの組み合わせを見つめる。ファルカスは一回戦でアズラエルとあたり、アズラエルとファルカスのどちらが勝っても次で六年生のリカルド·マーセナスと戦う羽目になる組み合わせだった。
「六年生や七年生と当たったらアウト、部員同士でも格上ばっか……一回でも勝てたら御の字だなぁ」
ロンは自信なさげに組み合わせを見やると、自分の相手がクラブであることに気付き目を見開いていた。ロンの目に光が宿った。ハリーの顔は優れなかった。トーナメント表にクラブとゴイルの名前はあっても、ドラコ·マルフォイの名はなかったからだ。
「出るからには年齢は関係ないわ。自分の持てる力全てを使うだけよ」
ハーマイオニーの相手はスリザリンの監督生で六年生のイザベラ·セルウィンだ。ハリーたちは各々の対戦カードを見比べながら、試合の行方を見守っていた。
そして、決闘大会が行われた。
一番最初に戦ったのはウィーズリーの双子の一人、ジョージだった。ジョージの相手はレイブンクローの七年生で、誰もが七年生の勝利を疑わなかった。ジョージは五年生でほとんどの魔法を修得しているとはいえ、七年生には無言呪文があるからだ。
しかし、ロンが『天才』と言うウィーズリーの双子は格が違った。双子にとって、単なる秀才はおやつも同然だった。ロンによると、ロンがまだ物心つかないほどの昔から杖を持ったパーシー相手に激闘を繰り広げていたらしいジョージ·ウィーズリーは、無言呪文から放たれる光線を全てかわしきり、余裕をもって詠唱式のエクスペリアームスを使い勝利をもぎ取った。
***
リーマス·ルーピンも、体調に優れないながら決闘大会を観戦していた。リーマスの学生時代、決闘大会などが開催できる状況ではなかった。暗黒時代のなかにあって、優秀な魔法使いは己の技を秘匿することを選んだからだ。
(しかし、現代の子供たちも負けてはいないな……)
リーマスから見て、フレッドとジョージの双子の反射神経は素晴らしいものがあった。あとはもう少し学業に力を入れて知識を身に付ければ、親友二人の再来になる。つまりは手のつけられない悪童になると思い、リーマスは二人がさほど学業に優秀でなくて良かったと思い直した。
「……おや。あの魔法は……」
試合を観戦していたリーマスは、グリフィンドールの男子とハリーの友人らしきレイブンクローの女子の試合を興味深そうに見た。男子の方は、じつに面白い戦法をしている。空中に浮遊しながら魔法を撃っているのだ。機動力を生かして魔法を回避する様は新鮮で、リーマスのみならず多くの観客が男子であるコリン·クリーピーを応援していた。
「隙だらけの戦法だ。全く評価できん」
リーマスの隣の教授席で観戦していたセブルスはそう吐き捨てた。セブルスの隣に座っていたマグル学教授のチャリティーは、楽しそうに試合を見守りながらセブルスに問いかける。
「そうかしら?とても斬新で面白い戦法だと思うわ」
「あの戦法は相手の良心に期待している。呪文を当てたら、当てた相手が死んでしまうかもしれんという心の隙間をついているのだ。とても真っ当な戦術ではない」
リーマスはその言葉を否定しなかった。空中に浮くことで相手の魔法を回避しやすくはなるが、魔法が直撃したときコリンは墜落する。エクスペリアームスですら致命傷になりかねない。もっとも、そういった生徒の事故死を防ぐためにリーマスたちが観戦しているのだが。
「……男子の体力が尽きてきたようだ。そろそろ決まる」
リーマスは、勝者はコリンではないと預言した。リーマスは預言者ではないが、その通りになった。一分後、ルナが放った魔法がコリンに直撃した。
「レヴィコーパス!!」
その魔法の詠唱を聞いたとき、セブルスが殺気を放ち、チャリティーがびくりと殺気に気付いて恐怖した。リーマスは胃が痛くなる気持ちをおさえながら、セブルスをなだめなければならなかった。
***
ルナが浮遊するコリンに魔法を当ててコリンをくるぶしから吊し上げ、勝利をもぎ取った。ハリーは待合室で、ソノーラスによって拡声されたリー·ジョーダンの声でルナの勝利を知った。
「二年生とは思えないハイレベルな闘いでした!!終始優勢に進めたクリーピー、逆転勝利をもぎ取ったラブグッド、双方に大きな拍手が贈られています!!」
(……そうか、惜しかったなコリン。でもこれからだぞ。僕もそうだった)
ハリーは後輩の敗北を惜しんだ。コリンはまだまだ拙いとはいえ、浮遊や炎、武装解除などハリーの得意な魔法を覚えようと頑張っていたからだ。
天才に敵わなくても、積み上げた知識や魔法が無駄になるわけではない。ハリーは自分のそれが通用するかどうか確かめるために、グラウンドに足を向けた。
ハリーの対戦相手は、レイブンクローの監督生であるペネロピー·クリアウォーターだった。
***
(遅い!!ボガートに比べたら何てことない!行けるっ!)
「パルス(沼よ)!!」
ハリーは勝利を確信しながらペネロピーが繰り出した光線をかわしきり、魔法を撃った。ペネロピーは流石と言うべきか、無言呪文のプロテゴを展開している。魔法の光線がペネロピーに当たったとしても効果はない。
しかし、ハリーの杖から撃たれた光線はペネロピーではなく、ペネロピーの手前の地面に直撃した。その瞬間、ペネロピーの両足が沈む。ハリーのコンジュレーションによって出現した沼にはまってしまったのだ。
「エクスペリアームス(武装解除)」
ペネロピーが脱出しようと足に杖を向けた瞬間、ハリーの武装解除によって杖はペネロピーの手から離れる。観客たちが歓声に沸くなか、ハリーは勝利を手にした喜びを噛み締めながらペネロピーにお辞儀をしてつえを返却した。
「……参ったわ。まさか負けるとは思わなかった。……けれどこの先戦う相手は、私よりずっと強いはず。頑張って戦ってね、ポッター」
「こちらこそ、いい勝負ができました。本当にありがとうございました、クリアウォーター先輩」
ハリーがペネロピーと握手した瞬間、スリザリンの応援席がざわめいた。ペネロピー·クリアウォーターがマグル生まれだからだろう。ハリーはスリザリンの応援席を気にせず競技場を去るとアズラエルから満面の笑みで出迎えられた。
「あれでいいんです、ハリー。いい試合でしたよ」
「まだまだだよ。アクシオ戦法はあんまり通用しなかったし」
ハリーはルーンを刻んだローブを着て、身体能力と魔力を向上させ、相手のアクシオ(引き寄せ)を防いだ万全の状態で戦闘に臨んでいた。己の手で刻んだルーンであれば、ルーン付きの戦闘も認められていた。しかし、レイブンクローの秀才であるペネロピーもどうやらルーンを刻んだローブを着ていたらしく、アクシオによって相手を引き寄せるという戦法は不発に終わった。
ペネロピーは無言呪文によってハリーより早く攻撃できる。だからハリーはレヴィオーサで浮遊し、高速移動でペネロピーを翻弄しながら魔法を回避してハリーのペースへと持ち込んだ。おそらくもう一度戦えばハリーが負けるだろうとハリーは思った。
ハリーが腹立たしかったのは、そんなペネロピーの技量をスリザリンの応援席は見ていなかっただろうということだ。大半のスリザリン生にとって大事なのは個人の技量ではなく、その個人の出自。それだけで、魔法使いとしての腕に敬意を払う生徒は圧倒的に少数だった。
「運が良かったよ。先輩がコリンの試合を見ていたら、対策のひとつや二つ思い付いたはずだ」
「運も実力のうちです。……あ、ぼくはそろそろ試合がありますんでこれで」
アズラエルは、ハリーにダフネが近寄ってきたのを見て席を外した。今の決闘場ではロンとクラブが激戦を繰り広げようとしていた。
「頑張ってね、アズラエル」
「ぼくを応援したらファルカスが怒りますよ?」
「聞かれてないさ」
アズラエルを見送ったハリーは、ハリーに近寄ってきたマクギリスから逃れてダフネと共に試合を観戦した。ダフネは決闘にあまり関心はないようだったが、スリザリンの選手の勝利に素直に喜んだ。ロンは大観衆を前に本来の実力を発揮できなかったのか、肝心なところで杖の魔法が発動せずにクラブに敗北していた。
さらにいくつかの試合が続き、ハリーはハーマイオニーの勝利を喜んだ。ハーマイオニーはスリザリンの監督生で七年生のジェマ·ファーレイ相手に、押されながらも、プロテゴで何とか耐え凌ぎ持久戦へと持ち込んだ。ジェマが疲労で魔法を途切れされた一瞬の隙にハーマイオニーは魔法を唱え、どうやったかわからないがジェマを倒すという快挙で勝ち上がっていた。
「あれはなんの魔法かしら……?」
「光線式じゃないね。観衆のせいで詠唱が聞き取れなかったな。流石はハーマイオニーだ」
ハーマイオニーがグリフィンドール生徒から称賛を得るなか、ハリーもぱちぱちとハーマイオニーに大きな拍手を送った。ダフネは拍手しなかった。
ファルカスとアズラエルは二人ともプロテゴを修得していて、二人の戦いは白熱したが、最終的には身体能力の差が勝負を制した。アズラエルが疲労からファルカスのインカーセラス(捕縛)に引っ掛かったことで、親友対決はファルカスの勝利で幕を閉じた。
プロテゴ持ち同士の戦いは、プロテゴを貫通するようなカースを使うか、プロテゴを展開していてもどうしようもない状況まで追い込むというのが鉄則で、ファルカスは見事に後者をやってのけた。
***
ハリーはその後、コーマック·マクラーゲンやアンジェリーナ·ジョンソンを倒して勝ち上がった。二人は無言呪文が使えなかったものの身体能力ではジェマを上回っていて、ハリーは変身呪文で動きを妨害したり、アクシオで引き寄せて倒すという形で自分の手の内を晒さなければならなかった。
決闘大会は大盛り上がりだった。マクギリス·カローとガエリオ·ジュリスとの決闘は熱戦の末ガエリオのオリジナル変身魔法、ダインスレイブ(槍よ射て)をディフィンド(切り裂け)で退けたマクギリスの勝ちに終わり、バナナージ·ビストはエクスペクト パトロナム(パトロナス召喚)でリンクスのパトロナスを呼び出し、アグリアス·ベオルブのステューピファイ(失神)魔法を防ぎきって勝利を手にしていた。
熱戦に沸く決闘場では、マクギリスとガエリオのようなライバル関係がある二人の試合を機にますます盛り上がった。その流れを決定づけたのは、ガーフィール·ガフガリオンとパーシー·ウィーズリーの試合だった。パーシーはフレッドを、ガーフィールはジョージを倒して試合に臨んでいた。
ガーフィールもパーシーも今年で卒業だ。グリフィンドールとスリザリンである二人には何か思うところがあったようで、試合は変身呪文やマキシマ系統の魔法が無言で飛び交うハイレベルなものになった。ガーフィールは闘志をむき出しにしてパーシーに喰い下がった。練習していたのか、パーシーの戦法である鳥召喚をパクり、もとい自分も使用して、パーシーと互角の勝負に持ち込もうとした。
最終的にはパーシーがグレイシアス マキシマ(全て凍結しろ)によって鳥ごとガーフィールを凍結させて勝利した。敗北したガーフィールは、闘志が抜け落ちたような、しかし悔しさを滲ませた顔でパーシーと握手して闘技場を去った。
「……お疲れさまでした、ガーフィール先輩」
ガーフィールはハリーの言葉に、普段の強気な様子を崩して笑った。
「……ま、あいつの戦法の弱点をひとつ暴いてやったンだ。上出来だろう」
ひとしきり笑った後、ガーフィールは言葉を続けた。
「あいつは強いし、とても勝てねえと思った。だから俺は、五年生の途中からあいつと競うことがどこか恐くなってたンだが……諦めずに喰い下がってみて良かったよ。あいつだって人間だ。俺もまだまだ魔法の腕を上げられると分かったンだからな」
そしてガーフィールはハリーやザビニ、ロンなどを見て言った。スリザリン生以外がその場にいることに、ガーフィールは言及しなかった。
「オメーらもちょっと壁に当たったからって諦めんじゃねぇぞ。マジにならねえフリだけの努力なんざ、なんの価値もねえんだからよ」
ガーフィールの言葉を聞いて、ロンは少し表情を曇らせていた。
***
ハリーの次の相手はセドリック·ディゴリーだった。セドリックに勝てば、ハリーの次の相手はハーマイオニーだ。ハリーはセドリックとの闘いで切り札を含めて全てを出し尽くすつもりだった。セドリックは高い身体能力を持ちながら監督生として好成績を維持している強敵で、ハリーが勝てる見込みは薄い。それでも、ここで勝ってハーマイオニーと本気の試合がしたかった。
「部長の言葉を覚えているかい、ハリー?」
試合の前に、向かい合ったとき、珍しくセドリックからハリーに話しかけてくれた。ハリーは驚いたものの、真っ直ぐにセドリックの目を見て言葉を返した。
「勉強の成果を発揮して、ベストを尽くす」
「そうだ。お互いベストを尽くそう、ハリー」
差し出されたセドリックの手には、黄色のリストバンドがある。リストバンドにはアクシオ(引き寄せ)防止と聴力強化、嗅覚強化のルーンが刻まれていた。セドリックには慢心も油断もない。お前を倒す気でここにいるぞという宣言しているようだった。ハリーは心の底から光栄に思いながら、セドリックの手を握り言った。
「僕も、勝つために全力を尽くすよ、セドリック」
セドリックは満足そうに笑い、ハリーたちは向かい合って礼をした。審判であるフリットウィック教授の宣言が、会場に響き渡る。
「三、二、一、始めっ!」
セドリックの無言武装解除がハリーを襲い、ハリーは反射的に飛び退いてそれを回避する。完全な不意打ち、ではなかった。セドリックなら最適解を選んできてもおかしくないと覚悟していたハリーは、十回に一回、たまたま魔法を回避するという幸運を引き寄せた。
ハリーは回避しながらも魔法を唱えた。
「プロテゴ インセンディオ(炎よ護れ)!!」
青色の炎が、セドリックの周囲を取り囲むように展開される。これこそハリーの切り札だった。速攻で呪文を唱えようものならプロテゴの護りに跳ね返され自滅するし、動けば火傷を負う。ハリーの使える魔法のなかでも、相手に当てずとも効果を発揮し続ける魔法なのである。本来は防御用に使うものだが、相手の周囲に展開すれば拘束用の牢獄にもなるのだ。
しかし、セドリック·ディゴリーは強かった。セドリックはハリーが火炎系統の魔法を使うことを知っていた。予めこういった事態になることを予想していたのか、己に杖を向けて呪文を唱える。
「フレイム グレイシアス(炎よ凍れ)!」
ルーピン先生がその魔法を教えてから二週間と経っていないにも関わらず、セドリックは防火魔法を完全に修得していた。
セドリックは自分の呪文が発動したことを疑わず、ハリーが仕掛けた炎の防壁を潜り抜けた。その間にハリーは空に逃げ、セドリックの足元を狙い呪文を放つ。
「パルス(沼よ)!」
「ソーロ(土よ)!」
セドリックの反射神経は素晴らしかった。それだけではなく、ハリーの試合を観戦した後対策を考えていたか、あるいはハリーの戦法を過去に実践した人がいたのかは分からないが、セドリックには足元を狙う手は通用しなかった。ハリーの杖の動きから呪文の着弾地点を予測し、セドリックの杖から放たれた閃光が、生成された沼地を土に戻す。
それでもハリーが空中から呪文を放つ限り、ハリーの優位は揺るがない。セドリックの魔法をかわしながら魔法が使えるからだ。ハリーにはその自信があった。
(空の上は僕の場所だ)
「ペトリフィカス トタル-」
ハリーはペトリフィカス トタルス(石に変えろ)でセドリックか、セドリックの足元の土を石に変えてセドリックを拘束しようとした。
しかし、セドリックの対応はハリーの予測を超えていた。セドリックが目にも止まらぬ早さで杖を振ると、大量の蝙蝠が杖から飛び出てくる。蝙蝠の呪いだが、それをセドリックは無言でやったのだ。
高度なコンジュレーションを無言で行うには、呪文の理論に対する理解と習熟がなければ不可能である。セドリックは五年生でありながら一部の魔法は無言でできるほどに、魔法に精通していた。それは才能では辿り着けない。セドリックの努力による到達だった。
「ボンバーダ デュオ(連続爆発)!!」
ハリーは反射的に魔法を中断し、迫り来る蝙蝠たちを爆発によって撃ち落とした。魔法によって生成された疑似生命体である蝙蝠がいては、呪文の閃光が阻まれてしまうからだ。デュオとは、魔法の効果を拡大させたり、連発させる効果のある魔法だ。これによってハリーはすべての蝙蝠を撃ち落とした。ハリーは視界の端に、動くものを見た気がした。
「……プロテゴ!!」
ハリーは嫌な予感に従い、プロテゴを唱えた。その判断は正しかった。ハリーの杖がハリーの手から離れる寸前で、ハリーの周囲を防壁で覆った。
セドリックはハリーの視界が爆風で塞がった好機に、自分の服にウィンガーディアム·レヴィオーサをかけて急上昇していたのだ。ハリーが無防備な一瞬の隙をついて、射程範囲から武装解除呪文を打ち込むのがセドリックの策だったのだとハリーは一瞬で理解した。
しかしこれは好機に違いなかった。浮遊呪文による飛行は数日の練習ではどうにもならないのだ。
(セドリックは浮いてるだけだ!飛べる訳じゃない!)
ハリーは自由に動くことができ、セドリックは無防備だ。ハリーはセドリックの後ろに回り込もうとプロテゴを解除しようとした。
その瞬間、ハリーは梟に襲われた。セドリックはアヴィホース(鳥になれ)で、リストバンドを鳥に変えて攻撃してきたのだ。
「……インセンディオ!!」
ハリーはプロテゴを唱えたまま、プロテゴ·インセンディオで鳥を迎撃する。それは紛れもなくハリーの得意呪文だからだ。
ハリーは勝利を確信して杖を向けた。鳥を始末した後は、セドリックをアクシオで引き寄せてしまえばハリーの勝ちだ。だが、セドリックは強かった。自由落下し続けるセドリックの呪文の射程はまだ、ハリーに届く。
「……マキシマ(全力で)!!!」
セドリックは呪文の前半部分を省略し、マキシマだけを詠唱する。ハリーにはセドリックが何の魔法を使ったのか分からない。しかし、プロテゴ·インセンディオならば防げると確信していた。セドリックは学校の試合でカースを使う人ではない。プロテゴの防壁なら、カース以外の魔法は遮断できるし、たとえマキシマでその威力が増大されていても防げるとハリーは思っていた。
それが慢心に過ぎなかったと、ハリーは思い知った。
セドリックの杖から放たれた膨大な水流が、勢い良くハリーのプロテゴ インセンディオを貫こうとする。水はみるみるうちに蒸発していくが、ハリーのプロテゴ インセンディオもまた消えていく。そして、ハリーの視界は蒸気に包まれて見えなくなった。眼鏡には曇り防止の魔法をかけてあったが、そんなものが関係なくなるほど大量の水蒸気に覆われたのだ。
そして気がついたとき、ハリーは凍りついて地面に倒れていた。セドリックのグレイシアス(凍れ)だった。
セドリック·ディゴリーは見事に空中戦を制し、ハリー·ポッターに勝ってみせたのである。ハッフルパフ生たちのいる応援席からは、一際大きな歓声があがった。
「……優勝してください、セドリック」
ハリーは悔しさに泪を滲ませながら、セドリックに礼をしてグラウンドから観客席へと戻った。セドリックはハリーの気持ちを受け止めて頷き、観客たちからの歓声を浴びながら観客席を去った。
「惜しかったわね、ポッター」
「惜しいもんか。完敗だよ」
ハリーは悔しさを消化できないままだった。セドリックに勝てるタイミングがあったとすればどこなのか、それを考えることで頭が一杯だった。
「五年生を相手にして本気で悔しがれるだけで大したものよ」
ダフネの言葉を受け入れるのには時間がかかった。ハリーはもう少しで、ハーマイオニーと闘えるところだったのだ。
ハーマイオニーが激闘の末にバナナージ·ビスト部長の無言ペトリフィカス トタルス デュオに敗北したとき、ハリーはダフネの言葉を受け入れることにした。少なくとも表面上は。しかしそれでも、ハリーの心にはまだやれたはずだという霧のような悔しさが残っていた。
***
「……やはり、ポッターはいい。まだまだ伸び代があり、力に飢えている。これで純血主義を教えることが出来れば……!!」
ハリーとセドリックの試合を観戦し、マクギリス·カローは悪魔に魅了されたかのように震えていた。マクギリスはかつての自分を思い出す。
(わたしが三年生のとき、あそこまでやれただろうか。いいや。あのときの私はプロテゴすら使うことはできなかった。だがポッターは違う。あのハーマイオニー·グレンジャーもそうだ。本当に見事だ。彼らの持つ才能を、純血主義のために使うことができたなら……)
マクギリスから見て、ハリーにはマクギリスが持ち得ない力があった。英雄としての名声、スリザリンの継承者足る資格である蛇語、そして、ハリー自身が積み上げた戦闘能力。ハリーにとって皮肉なことに、ハリー自身が積み上げた戦闘能力こそが、マクギリスを最も魅了した。磨き上げ、研鑽し、積み上げた力の尊さをマクギリスは決闘クラブで学んでいたからだ。マクギリスは主義主張とは別として、セドリックやハーマイオニー、バナナージやパーシーといった面々を尊敬していた。彼らの積み上げた力こそ、マクギリス·カローが最も尊敬するものだった。
それは当の力ある者たちからすれば、その心を見ずに力しか見ていない最も軽蔑すべき存在だということも、マクギリスは理解していた。その上で力に魅了されてしまうのがマクギリス·カローという魔法使いなのだった。
セドリックは五年生ではありますが、勤勉な優等生だし簡単な無言呪文なら使えるということでお願いします。
ちなみにファルカスのタロット占い
マクギリス……悪魔(バエル)
セブルス……刑死者(ハングマン)
セドリック……搭(タワー)