白熱したトーナメントも、いよいよ終わりが近づいてきた。ハーマイオニーを倒したバナナージ·ビストは、ハリーを倒したセドリック·ディゴリーとの闘いを迎えていた。
「二人とも、どちらが勝つのかわかりますか?やっぱり部長のビストくんかしら」
試合を観戦していたマグル学教授のチャリティーは、隣のセブルスとリーマスに対して闘いの勝者を尋ねる。セブルス一人に聞くと返事はないが、リーマスに聞いたとき、リーマスの予測が外れていると思うや否やセブルスは猛然とそれを否定した。今のところ、セブルスの予想のほうが一回多く当たっていた。
「私はディゴリーだと思います。彼は勝負どころでの勘のよさがあるし、身体能力でもビストに勝るので」
「どうやら戦闘にかけての見識はないようだな」
「では、ビスト君が?」
「セドリック·ディゴリーではパトロナスは止められん。魔法使いの決闘においては、知識を蓄え知略と魔力に勝るものが勝利を掴む。ディゴリーに勝ち目はない。そんなことも分からんとは……」
そう語るセブルスの仏頂面を見て、リーマス·ルーピンは苦笑していた。チャリティーはこっそりと開かれていたトトカルチョで、バナナージの勝利に2シックルを投じた。
***
ハリーたちはグラウンドの観客席から、セドリックとバナナージの大一番を見守った。ハッフルパフの生徒たちは自分の寮の選手同士の潰しあいということもありどちらを応援すべきか悩んでいるようだったが、僅かにセドリックを応援する声のほうが大きかった。ハッフルパフの生徒たちに混じって、チョウ·チャンとその友人の女子生徒がセドリックを応援していた。
試合は序盤は一進一退の攻防を見せた。
まず、セドリックがコンジュレーションで出現させた犬の群れの対処に追われた。バナナージの杖から放たれたペトリフィカス トタルス デュオ(連続石化)やコンフリンゴという魔法を、セドリックはプロテゴで防いだ。光線系統の魔法は一発でも当たればそれで勝負が決まる。ハーマイオニーも、バナナージの光線連射には押されていた。一回でも当たれば終わりの攻撃は、プロテゴによって防ぐことが出来ても魔力と精神力を消耗するのだ。
バナナージが石化魔法を連射しているのには理由がある。
一撃で勝負を決める魔法として決闘で多用される魔法として、ステューピファイ(失神魔法)がある。もしも相手を失神させたとしても、反対呪文によって即座に蘇生は可能である。しかし、仮にステューピファイ デュオによって連射した光線が全て一人の魔法使いに直撃すれば命に関わるだろう。だからバナナージは、連続して直撃しても体への負担が少ない魔法を連射しているのだ。
セドリックはプロテゴで防ぐばかりでは埒が明かないとみて、コンフリンゴによって地面を爆発させ、幾つもの破片を生み出しながら逃げることで状況を変えようとした。生み出した破片にアクシオ(引き寄せ)を使い、さらにレヴィオーサ(浮遊)とロコモータ(移動)の合わせ技によって幾つもの破片を上空から撃ち下ろしたセドリックの攻撃を、バナナージはエクスペクト パトローナム(パトロナス召喚)でリンクスのパトロナスを呼び出して防ぎ、さらにパトロナスを突っ込ませてセドリックに突撃した。バナナージの生み出した銀色の美しいパトロナスに、観客は興奮して盛り上がった。
パトロナスを攻撃に転用する人間は普通はいない。幽体ではなく実体を持ったパトロナスを出すのは難しく、さらにプロテゴのような頑強さを持たせたまま長時間維持することも難しいからだとハーマイオニーは語った。
「パトロナスを出せるのは本当に優れた魔法使いの証だって『今世紀の魔法使いたち』に書いてあったの。バナナージ先輩は相当に高度なことをやっているのよ」
「どれくらい高度かはピンとこね~けど、自分は幸せだと言いきれるってスゲーことだよな」
ザビ二は腕を組みながら神妙な面持ちで言った。ザビニは残念ながら一回戦で敗退済みである。ハリーたちの中でハリーとハーマイオニー以外で二回戦を闘ったのはファルカスだけで、ハリーの友達は既に全員が応援に回っていた。
「この試合、バナナージ先輩が勝つでしょうか」
「僕はバナナージ先輩が勝つ方にデザートのプリンを賭ける。ハリーはどうする?」
ファルカスは狡猾にもバナナージ先輩の優位が確定したときに賭けを持ち出した。ハリーは真っ直ぐにセドリックだけを見て言った。
「セドリックの勝利にカボチャのスープを賭ける」
ハリーはセドリックの顔を見て、彼が勝利を諦めていないことを悟った。ハリーはセドリックを信じた。
「自分に勝った相手に賭けるなんて、案外分かりやすい性格なのね、ポッターは」
ダフネが呆れたような言葉を漏らした瞬間、グラウンドの地面が動いた。
バナナージの周囲が球状のドームで覆い尽くされる。セドリックはパトロナスではなく、バナナージの周囲を無言呪文で覆い、本体を拘束するという賭けに出た。バナナージの視界は塞がったが、パトロナスは自律式のようだった。銀色のリンクスが目を光らせてセドリックに突っ込む。
「やった!バナナージ先輩の勝ちだ!」
ファルカスが叫ぶ。ハリーはじっとセドリックを見つめていた。セドリックは、自分の勝利を確信しているように見えた。
***
「コンフリンゴ デュオ(連続爆破)!!」
バナナージが自分を拘束したドームを爆破魔法によって破壊したとき、バナナージは違和感を憶えた。
(まずい!!)
即座にその場を飛び退き、体勢を立て直す。バナナージの切り札であるパトロナスが、消えかかっているのだ。消えたパトロナスを即座に召喚することはできないため、バナナージは切り札なしでセドリックと闘うことになる。
セドリックはどうしてバナナージの切り札を無力化できたのか。答えは、セドリックの周囲を覆う銀色の靄にあった。バナナージのパトロナスであるリンクスは、セドリックの幽体のパトロナスを見て攻撃意欲をなくしている。銀色のリンクスはちょこちょことセドリックの周囲を跳ね回り、にっこりと微笑んでから消失した。
セドリックのエクスペクト パトローナムによって、バナナージのパトロナスはセドリックを敵ではないと判断して消えたのだ。
(この土壇場で幽体とはいえパトロナス召喚に成功した……いや、それ以前に、まさかパトロナスにこんな弱点があったなんて……!!)
バナナージのパトロナスは、フリットウィック教授との模擬戦でも圧倒的な質量で押し潰されたり、マキシマ級、カース級の魔法を使われなければ止めることはできなかった。フリットウィック教授もパーシーも、パトロナスでパトロナスを止めるという発想はない。そもそもパトロナスを攻撃や魔法への防御へと転用したのもバナナージくらいだったからだ。バナナージははじめて見る光景に動揺しつつ、無言呪文によるプロテゴで自分の周囲を護った。バナナージには、まだ決闘の手札は幾らでもあった。
***
バナナージとセドリックの決闘は、バナナージのパトロナスが消えたあとも長く呪文の応酬が続いた。
「何なのこれは……?」
決闘クラブの部員ではないダフネのような一般観客は、最初は白熱する魔法合戦に盛り上がっていたが、次第に言葉を失くしていった。当たり前のように無言呪文とプロテゴが飛び交い、変身呪文で秒単位で変化する戦局についていけなくなったのだ。バナナージの懸念は当たっていた。初心者は廃人の闘いにはついていけないと距離を置くこともあるのだ。
セドリックは劣勢でも諦めず驚異的な粘りを見せ、最後の最後に逆転勝利をもぎ取った。こっそりと発動させた変身呪文によって、バナナージの背後にオオワシを忍ばせ、バナナージの杖をもぎ取らせたのだ。ハッフルパフの応援席は、ハッフルパフ同士の決闘を称えて拍手を惜しまなかったし、ハリーたちも熱闘を見て拍手した。
ハリーはチラリと、決勝戦の対戦表を見た。セドリックが勝利した結果、セドリックの相手はマクギリスかパーシーのどちらか勝った方となるのだ。
***
マクギリスには悪いが、パーシーはあまりにも格上だった。マクギリスは試合前、手を差し出したパーシーと握手を交わした。
「君も、監督生としての自覚が出てきたようだな。ガーフィールが喜ぶぞ」
(……しまった)
労うような言葉をかけるパーシーに対して、マクギリスは挑発するように言った。そうしなければならなかった。マクギリス個人がパーシーを尊敬していようと、パーシーはリベラル派閥のウィーズリー家の人間なのだ。監督生しかいない集まりでならばまだしも、スリザリン生の視線がある場所では挑発的な態度を取るべきだったのだ。マクギリスは己の失態を恥じた。
「試合前に目の前の私ではなく他の人のことを考えているなど余裕といった様子ですね。その鼻をあかして見せましょうか」
マクギリスの取り繕った言葉は、パーシーの心を動かさなかったようだ。フリットウィック教授によって開始の合図が告げられた。
残念ながら、マクギリスの言葉が実ることはなかった。
パーシーは試合開始と同時に消えた。いや、無言で撃った変身魔法で地面を軟化させ、地面に潜り込んだのだ。あまりにも一瞬のことで、マクギリスは理解が追い付かなかった。
その様子を観察していたハリーは、高度な変身呪文の使い手を相手にする難しさを見せつけられ、圧倒されていた。
「怖いな」
ハリーはそう呟いた。どう対処すればいいのか考えてみたが、まだ思い付かない。マクギリスは状況を理解するのに必死だ。ハリーが対応策を考えているうちに試合は進んでいく。
(地面に魔法を撃ってパーシーさんを炙り出すか……いや試合形式なんだから、変身呪文でパーシーさん本体を見つけなきゃダメだ。でも、ピンポイントで地面に潜ってるパーシーさんを見つけるなんて出来るのか?)
マクギリスがパーシー以上か、そうでなくてもパーシーに迫るくらいに変身呪文を使うことができれば、地面を硬化させてそのまま勝つことが可能だ。しかし、そうでなければ打つ手がない。
ハリーが考えたように、地中に向けてボンバーダやインセンディオを流し込むという手を許すほどパーシーはバカではなく、即座にプロテゴの光が広がるのをハリーは見た。ハリーは知らなかったが、マクギリスは変身呪文がパーシーほど得意ではなかった。そして、パーシーはその事を知っていたのだ。
プロテゴで身を護りながらパーシーの出現を待つしかないマクギリスの周囲を、グラウンドの雑草が伸びてプロテゴごと覆い尽くす。マクギリスはディフィンド(切断)で雑草を切り裂くものの、雑草の成長速度の方が早い。マクギリスはインセンディオを使った。しかし、雑草の勢いを止めることはできない。
マクギリスのプロテゴが切れた瞬間、マクギリスの杖はパーシーによって武装解除された。あまりにも圧倒的な塩試合に、パーシーに対するブーイングが鳴り止まない。ブーイングした生徒の中にはスリザリン生だけではなく、ロンや双子も含まれていた。
「グリフィンドールからすらブーイングされてる……」
ファルカスはマクギリスではなく、パーシーに同情的な視線を向けた。勝って文句を言われる姿にはどこか哀愁が漂っていた。
「みんな魔法の撃ち合いとか派手な魔法合戦が見たいからな。あそこまで一方的であっさりなのは見ててつまんね-だろ」
「でも観客たちはバナナージ先輩とセドリックとの試合にも引いてたよね。魔法の撃ち合いだったのに」
ハリーが意地悪く言うと、ザビニはやれやれと肩をすくめた。
「当たり前だろ。ガチ過ぎるのは嫌なんだよ。参考にならねーからな……」
「これってホグワーツ最強を決める闘いなんだけどなぁ」
「決闘がクィディッチと比べて興行的に人気が出ないのも分かりますね。勝敗が決するときは一瞬過ぎて地味になっちゃうことがあるし、かといって派手にやりすぎると見てて疲れるというか、ついていけないからなんですねぇ」
「僕は決闘のプロにはなれそうにないなあ。上手く盛り上げるのが大変そうだ」
ハリーは今の闘いを思い返しながら、自分ならどうやってパーシーと闘うだろうかと思った。
(……空に逃げても地面から延々と変身術を使って攻撃されそうな気がするなぁ)
パーシーの戦法は地味ではあったものの、ハリーにとってもあまり勝ち筋がない。光線式の魔法はパーシーを捕捉できなければ意味がなく、変身呪文でパーシーを特定するということも出来そうにないからだ。
光線式の魔法やインセンディオといった魔法が怖いならば、そもそも相手の正面に立たなければいい。当たり前の話である。しかし、当たり前のことをきっちりとやるからこそ強いのだ。
(これが、ホグワーツ最強の戦法か……)
ハリーは、勝つべくして勝つための工夫というものを先輩たちに教えてもらっている気分になった。熟練した魔法使いは、闇の魔法を使わずともここまで幅広い闘いかたが出来るのだ。
それでも、ハリーは、自分に勝ったセドリックにこそパーシーに勝って、ホグワーツ最強になってほしかった。
***
パーシー·ウィーズリーは愛しいペネロピ-におめでとうのハグを受けたあと、次の決勝戦へ臨む前に観客席のロンのもとを訪れた。ロンの近くにはハリーもいた。かつて闇の魔術を駆使した少年が闇の魔術ではなく普通の魔法を地道に鍛えていることを喜びながら、パーシーは弟であるロンに語りかけた。
「今の闘いは見ていたか?」
「はいはい。見てたよ、さすがヘッドボーイだ」
ロンはパーシーが自慢をしに来たのだと思い、気のない対応をした。パーシーはロンに戦法を学んでほしかったのだが、どうやら今のロンには難しかったらしい。
(……まぁ、こんなものだろうな。)
死なないための工夫というのは地味で、勇敢さを信条とするグリフィンドール的ではない。グリフィンドールの信条に正々堂々などというものはないが、『卑怯』あるいは『臆病』、『姑息』と取られかねない手段は疎まれる。仕方のないことだとパーシーは割りきった。ロンの年齢を考えれば、むしろロンの反応は健全そのものだとパーシーは思った。
「あの、どうやって地面の上のマクギリスが分かったんですか?地中からは見えないはずなのに」
一方で、ロンの親友である栗色の髪の毛をした少女はパーシーの戦法を評価していた。その近くにいるスリザリン生の友人たちも、興味津々か、興味はないというふりをしてパーシーの発言を待っていた。
「『ポイントミー(方角を示せ)』という魔法があるんだ。自分の探したいものがどこにあるのか、その方角を杖が示してくれる。もっともこの魔法は難しくてね。慣れるまでは探したいものに魔法で印をつけて分かりやすくしながら練習したほうがいい」
「応用すれば、ダウジングにも使えそうですね。その魔法」
「元々は自分の現在位置を把握したりするための魔法さ。バナナージの闘いを見ていたか?一つの魔法も、使い方次第でちょっとした無茶がきくようになることがある。得意な魔法や好きな魔法があったなら、それを伸ばしてみるといい」
パーシーは後輩たちに一つ魔法を教えると、決勝戦の準備のために控え室に戻った。控え室に戻ったパーシーは、弟や後輩へ向けた柔和な顔から一変して闘うための顔つきに変化していた。
(相手はセドリックか。バナナージかと思ったが……ハッフルパフが羨ましいな。有望な人材が揃っている)
パーシーが決闘大会への参加を決めたのは、後輩たち、出来ればロンに自分の戦法を見せてロンを鍛えるためだった。
ロンは元々真面目すぎる自分のことを疎ましく思っていることは、パーシーも気付いていた。あれこれと喧しく口出ししても聞かないことは分かっている。そこで、パーシーは夏期休暇のエジプト旅行の時に、兄のビルに相談したのだ。
ビルの答えは実にシンプルだった。拍子抜けするほどに。
『ロンの前でかっこいいところを見せてやれよ。ああ、必要以上にかっこつけるのはダメだぞ。ロンはなんだかんだ言って単純だ。お前の闘い方でも見せてアピールしてやれば、少しはお前の言うことも聞くようになるだろ』
ウィーズリー家である以上、スリザリン絡みのトラブルが舞い込んでくることは避けられない。それに加えて、ハリーと友人であるがゆえのトラブルも舞い込んでくるだろう。だからせめてロンが取り返しのつかないことにならないよう、パーシーは自分の技を教えておきたかった。残念なことに、ロンはまだ興味を持ってはくれなかったが。
(……こうなったら次善の策に切り替えるか。次の首席候補に、持てる全てをぶつけておこう)
ロンが緊急事態でも逃げられるように鍛えて魔法を教えるという試みは、うまくいきそうにない。パーシーは仕方なく、決闘大会に参加したもう一つの目的を果たすことにした。
先輩として、後輩監督生の指導と育成である。
ホグワーツ首席は、ホグワーツの全ての生徒の模範となるよう品行方正、成績優秀である必要がある。そして生徒たちに危険が及ぶときは、教師にいち早くそれを連絡して指示を仰ぐ義務がある。必ずしも監督生が選ばれるわけではなく、生徒たちからの人望がある生徒が選ばれる。
パーシーの次に首席となるのは、おそらくはバナナージかレイブンクローの監督生だろうと判断していた。パーシーは自分の寮の監督生で、一年後輩のガエリオには期待していなかった。去年一年間、先輩として監督生の仕事を教えながらガエリオの仕事振りを見守ってきたが、ガエリオは適当な男だった。よくも悪くもグリフィンドールらしく、分かりやすく立派な行いを好むが、面倒になるとさじを投げる。日常業務をこなす監督生としては無難でも、それ以上の仕事や緊急事態における対応は明らかに無理だった。パーシーは試合を見ているバナナージや、これから闘うセドリックに自分が卒業したあとの後輩たちの安全を託すため、ある戦法を実践することを決めた。
パーシーは、秘密の部屋で見たあの悪魔の攻撃を思い返しながらグラウンドへと向かった。グラウンドには、既に待ち人がいた。寡黙なハッフルパフの監督生が、ただ勝利することだけを考えて佇んでいた。
***
ハリーたちも、監督生たちも、フリントやアンジェリーナといったクィディッチ選手たちも、応援に来た生徒も含めたグラウンドにいる観客全てが、決勝戦に釘付けになっていた。試合が始まるまでは、ロンはハーマイオニーから「素直じゃない」「お兄さんが好きなくせに」等とからかわれていたが、試合が始まってからは食い入るようにパーシーの魔法を見つめていた。
「おいおい。……何だあの殺気はよ」
ガーフィールはパーシーを揶揄するように言う。パーシーは、あろうことかセドリックに殺気を向けていた。パーシーの周囲から刺すような魔力が放出されているのを、ハリーも感じ取っていた。
試合開始の合図が終わるや否や、パーシーは幾つもの爆弾を空から産み出した。空気中の窒素と酸素、そして水素を変身術によって変換してぶつける魔法。ボンバーダを使える魔法使いたちにとって、それそのものは大したことはない。しかし、その量と、そして速度は問題だった。
パーシーの産み出した爆弾は、絨毯のような量を誇りながら銃弾以上の速度でセドリックに向けて降り注いだ。セドリックはプロテゴでそれを防ぐが、明らかに対応できない。というより。対応できる生徒など一人もいやしない。セドリックのプロテゴが途切れる前に、爆弾は空中で爆発し、グラウンドは大量の土埃で覆われた。
外で見ていたハリーには、パーシーの魔法の速度に覚えがあった。どんなブラッジャーよりも速く、どう足掻いても対応できない速度。それは、秘密の部屋での闘いをハリーに想起させた。
意外なことに、土埃が開けても勝敗は決していなかった。血みどろになりながら自分の杖を構えるセドリックと、無傷のパーシー。パーシーの周囲には、セドリックの魔法で生み出した疑似生命体であるドーベルマンたちが横たわり、もとの土くれへと戻っていく。ハッフルパフの観客席から悲鳴が上がったが、セドリックは棄権しない。パーシーも攻撃を止めなかったし、審判のフリットウィック教授も止めなかった。
パーシーの容赦ない魔法が、セドリックを撃った。セドリックはプロテゴを展開しながら、迎撃のため魔法を撃ち返すが、あのセドリックが対応で手一杯などころか、パーシーに押されている。バナナージとの闘いでもハリーとの闘いでも、セドリックにはまだ余裕があったというのに。
「セドリックがこうも押されるなんて……」
ハリーは信じられなかった。防戦一方になるだけではなく、反撃の糸口すらことごとく潰されている。パーシーは、秘密の部屋で見たときからさらに強くなっているように見えた。ハリーもあれから腕を上げたつもりだったが、上級者から見ればまだまだ差があるというのだろうか。
(……何か、原因があるのか?)
「一体どうしてなんでしょうか。ガーフィールは何か分かりますか?」
ハリーは後ろの席でふんぞり返っていたガーフィールに尋ねた。ガーフィールはパーシーと同じ七年生なので、何か知っているかもしれないと思ったのだ。
「ハリー。それは、パーシーが『閉心術』を使ってるからだ」
「閉心術ですか。あれって戦闘に応用できるんですか?」
閉心術は、心という器を空にし、己れの感情を他人に悟られないようにするための魔法使いの技術である。ハリーはアズラエルからその初歩を学んでいたが、特に最近はうまく出来ているとは言い難かった。個人的な家庭の事情や、闇の魔法生物を前にして感情を支配下に置くことは困難を極めた。
「理論上は可能だ。感情を外部に放出する必要があるリディクラスや、エクスペクト パトローナムとの併用は無理だが、理論を頭に満たして使う魔法なら、自分の思考を外部に漏らさねーようにコントロールできる」
「え、でもそれって意味あるんですか?使えたって大した意味はないような」
アズラエルは頭に疑問符を浮かべた。
「そう思うだろ?だが俺たち魔法使いには、相手の目を見れば、感情の乱れと魔力の流れを感知できる技術がある。レジリメンスって技術だ。決闘術に優れた魔法使いはその乱れを認識して先手を撃ったりできるわけだ」
「戦闘で無意識になにか来る!ってなるときは、相手の感情の乱れを感じてたってことですか」
ハリーは今までの闘いを思い返していた。ハリーの額の傷がうずくときは、大体が殺意やどす黒い敵意のある闇の魔法使いや闇の魔法生物だった。
「自分を優れていると思い込ンだり、ましてやそれを喧伝するのはやめた方がいいぞ、ポッター、サダルファス。慢心のもとだ。お前らはまだまだ伸びるンだ」
後輩に指導しながら、ガーフィールはパーシーがこんな闘いかたをしている理由を考察した。
(最初にわざわざ魔力全開でセドリックを威嚇したのは、セドリックに防御の構えを取らせるためか……だが、わざわざ闘いが長引くようなことをしてンのは何故だ?まるで自分の技を見せてるような……)
「はい、気を付けます、ガーフィール先輩」
「教えていただいて、ありがとうございます」
ガーフィールは、後輩たちの言葉に思考を一旦やめた。考えても埒のないことだからだ。
「そんでもって、俺の言ってることが分からねーならまだ分からんでもいい。それよりも決闘での立ち回りだったり戦略だったり、優先して鍛えるべき技術はいくらでもあるからな。アズラエル、ザビニ、分かったか?」
「はい!」
ハリーたちはガーフィールに感謝しながら、ガーフィールの言葉に耳を傾けた。
「アズラエルの言う通り、戦術や戦略、基本的な魔術の力量が違いすぎる相手には必要ねぇ技術だが、同格以上の相手には結構使える。相手の手の内がどんなもんか予測できなくても、漏れ出た感情からどんな種類の魔法が来るのか予測はできるからな。逆に外に出す感情を調整すれば、相手にフェイントをかけたりもできるってわけだ」
ガーフィールの言葉通り、パーシーはセドリックを翻弄していた。セドリックの周囲にはタコのような異形がまとわりつき、セドリックの左腕は、タコのような異形の姿に変えられていた。しかし、セドリックは反対呪文で即座に左腕を元に戻した。
「今の攻防だが、パーシーは無言変身呪文と無言失神呪文を交互に撃った。バナナージがやってたように同じ種類の魔法を連射するって手もあるが、ステューピファイは無機物には効果がねえ。なんでセドリックの足元を異形で沈めて動けなくしたあと、失神させるつもりだったんだろう。ステューピファイの殺気を、パーシーは完全には消せていなかった。セドリックはかわしきれねえ変身呪文を防がず、本命のステューピファイを防ぐことに専念した。そんで生き残った。セドリックの奴も流石だな」
ハリーが思っているより、上澄みの魔法使いたちは随分と高度な駆け引きを繰り広げているようだった。
(……つまり、仮に闇の魔術を使おうと殺意を持ったら、目を見て向かい合ってる相手はそれを関知できるってことか……)
ハリーの中でまた一つ知識が増えた間にも、セドリックは意地を見せていた。
土くれたちを五匹のドーベルマンへと変身させ、さらに、セドリックはプロテゴ·マキシマを詠唱してドーベルマンたちを突撃させた。パーシーは、自分の前に迫るドーベルマンを前にしても回避行動を取らない。ハリーは視界のはしで、パーシーが杖を振ったように見えた。それはあまりにも高速で、気がつかないほどに微少な動きだった。
瞬間、パーシーの前に大量の鳥が現れた。ロンはその鳥を見て呻いた。
「うわっ!!あれって……」
「秘密の部屋で見た奴だね。爆発するよ」
ハリーが補足する。ハリーの周囲は爆発という単語にどよめいた。
パーシーが出現させた鳥は分裂しながらドーベルマンたちに突っ込んでいく。
プロテゴ·マキシマの障壁と鳥がぶつかった瞬間、グラウンド中に不協和音が響いた。
プロテゴ·マキシマがかき乱され、圧倒的な火力の爆発によって消されていく。セドリックが自分の体にフレイム グレイシアスをかけているのをハリーは見た。爆発による火の影響を受けることはないが、プロテゴの障壁でも防ぎきれなかった爆風の影響は受ける。
しかし、セドリックの健闘をハリーは最後まで見届けた。ハリーはセドリックが、何かの呪文を詠唱したのを確かに見た。
瞬間、爆発を貫くような大量の水流が発生した。
爆発の炎と水流が合流し、一瞬のうちに水流が蒸発していく。パーシーは自分と、そしてセドリックの周囲をプロテゴで覆った。炎と水は溶け合って蒸気となり、グラウンド全体に湯気を発生させた。ハリーは爆発の余波が観客席に来ないことを不思議に思って周囲を見たが、それはリーマス·ルーピン教授がプロテゴを観客席に張り巡らせていたからだった。冷や汗をかいているルーピン教授の側には不機嫌そうなスネイプ教授や目を丸くして驚いているチャリティー教授の姿があり、ダンブルドアはパチパチと拍手しながらルーピン教授を労っていた。
決闘はつつがなく終わり、勝者であるパーシーは敗者であるセドリックを肩で支えながらグラウンドを去った。ハリーはセドリック·ディゴリーに向けて、惜しみない拍手を送った。セドリックには不本意だっただろうが。
決闘大会には原作キャラのケイティとかフリントみたいなフィジカルエリートの強キャラもいたけど一回戦で潰しあったあとセドリックに負けたり一回戦でパーシーに潰されたりしました。
フィジカルは大事だけどルーンである程度フィジカルが強化できるから学力も大事。中には学力があってもルーン受講してない人もいるけど。