ロン……魔術師(正位置)
ドラコ……皇帝(逆位置)
「ポッター。何があったのかは知らんが、さっさとドラコと仲直りしろ」
クィディッチの練習後、エイドリアン·ピュシーは珍しくハリーを呼び止めた。ピュシーはリーダーシップを発揮するようなタイプではないが、その彼がわざわざハリーに声をかけたのは、スリザリンチーム内に発生している不協和音が原因だった。
スリザリン·クィディッチチームは、昨年度と変わらない布陣でスタートした。レギュラーを決めるための選抜試験は激戦を極めたが、中でもチェイサーはなかなかのものだった。フィジカルに任せたラフプレーを信条とするモンタギューやワリントンを掻い潜り、腕を上げたザビニを蹴散らしてハリーとピュシー、そしてキャプテンのフリントが正チェイサーとなった。ハリーとピュシーが合格できたのは、ひとえに去年から個人技に優れたグリフィンドールやハッフルパフ(セドリック)、高度な頭脳プレーを仕掛けてくるレイブンクローと戦った経験があったからに他ならない。そうでなければハリーかピュシーのどちらか、あるいは両方がレギュラーを落ちていただろう。
スリザリンチームは昨年と同様、万全の布陣かと言えばそうではない。原因はハリーと、シーカーであるドラコとの不仲にあった。
シーカーとチェイサーは担当する球がスニッチとクァッフルで異なる。そのためポジションの異なる二人がろくに口をきかないほど不仲でもいいかと言えば、そんなことは全くない。
シーカーはスニッチを探しながらも、味方の得点を邪魔しないような動きが求められる。得失点差は優勝争いに直結するからだ。チェイサーは場合によってはシーカーのスニッチ探索をサポートするような動きが求められる。そもそもシーカーがスニッチを取らなければ試合に負けるからだ。七人のチームメイトは、試合中でも頻繁に意志疎通し、互いの位置を絶えず認識し、流れるように箒を動かす必要がある。
……が。
ハリーとドラコは、ほとんど会話らしい会話もなく、義務的なやり取りしか出来ていなかった。それがチーム内の空気を悪くしてもいた。
「どうせお前が何かやったんだろうと
ピュシーは一人の箒乗りとして、勝てる可能性を1%でも下げることに我慢ならない様子だった。その判断は正しい。喧嘩が原因でパフォーマンスが低下し、結果として試合に敗北するなど笑えないからだ。
「ご機嫌取りでもいいからドラコに頭を下げろ。次の試合のプレーに悪影響があったら、キャプテンはお前をチームから叩き出すぞ」
「忠告ありがとう、ピュシー。……ただもしどうにもならなかったら、仲裁をお願いできますか?」
ハリーはピュシーに深く感謝した。チームメンバーとして、そう言ってくれるだけありがたいと思った。ふてぶてしく自分を頼ろうとしてきた後輩を見て、ピュシーは呆れたような視線をハリーに向けた。
「…………マルフォイ家に嫌われておきながらその態度か。俺は、つくづく自分が話してるやつが例外なんだと思い知らされるよ」
ハリーは何としても、ドラコと和解してみせると意気込んでいた。ハリーはピュシーに言われるよりずっと前から、ダフネに協力してもらい、ドラコと二人だけで話す算段をつけていたのだ。
(……大丈夫だ。言い訳は考えたし、頭の中で反復練習もした。ドラコだって話せば分かってくれるはずだ……)
ハリーはシャワーを浴びて汗を流した後、空き教室に足を運んだ。そこには、ハリーの友がいるはずだった。
***
「やぁドラコ。さっきぶりだね。……どうしたの、そんな顔をして?」
「…………」
思わず頭に浮かび上がったハリーに対する下賎な罵倒を、ドラコは自制心によって制御し、飲み込んだ。
ドラコは、自分に相談したいことがあるから来てほしいとダフネ·グリーングラスに言われて、空き教室を訪れていた。彼女がハリーと最近交遊を深めているという噂は、ドラコの耳にも入っていた。ドラコは快くダフネの相談に乗り、そして相談の内容に関わらず彼女に忠告するつもりだった。
ハリーと付き合うのは危険だぞ、と。
そのドラコの考えは、当たらずとも遠からずだったようだ。ドラコは顔に軽蔑の色を浮かべて、ハリーを見下しながら言った。
「ここにいるはずがない人間がいるのを見れば、誰だってそう思うだろう。ポッター、君はいつからミス·グリーングラスになったんだい?」
ハリーはドラコの皮肉に対して反論しなかった。
「僕はミス·グリーングラスから相談を持ちかけられた。彼女は最近、妙な噂が立てられて困っているそうなんだ。そう……たとえば、純血ではない人間と付き合っているとかね」
「ただの噂だよ。彼女が君に相談したいって言ったのは嘘だ。僕がそう言わせた。こうでもしなければ、君は僕と話そうとしなかっただろ?」
ハリーの言葉に、ドラコはますます苛立った。教室を出ていく前に皮肉のひとつでもぶつけてやろうかと思ったが、ハリーはロコモータ(動け)で椅子を動かし、ドラコに座るように促してきた。
「僕から逃げるのか?」
ハリーはドラコを挑発するように、緑色の瞳でドラコを睨み付けてきた。ドラコはその目に怯んだ。
「だれが逃げるって?お前ごときに、この僕が?」
ドラコはなるべく傲慢で、尊大に見えるようにふんぞり返って椅子に座った。ハリーはその対面で、静かに椅子に座り、ドラコと向き合った。誰もいない空き教室で、緑色のローブを身に纏った魔法使いの卵たちが二人対峙している。ドラコは自分の恐怖心がハリーに悟られていないだろうかと不安になりながら、閉心術の知識を総動員して尊大な仮面の表情を浮かべた。
(ポッターめ……いつの間にグリーングラスを誑かすなんていう悪知恵をつけた?アズラエル辺りの差し金か?それともポッター単独で考えたのか?)
ハリーはダフネ·グリーングラスという人間をたぶらかして、ドラコをここへ誘き寄せた。それはスリザリンらしい、狡猾な蛇と言うべき見事な手並みで。ドラコの中で、ハリーに対する虚像は大きくなっていく。
虚像の中のハリーは、ルシウスによく似た闇の魔法使いだった。残酷な手段を取ることを躊躇わず、人の心を弄び、己の身内以外は誰も信用しない。必要の部屋で見たハリーは、一年生の時のハリーとは全く違って見えた。
……今のハリーは、ドラコが友達になりたいと思っていたハリーとは、まるで違っていた。ドラコにとっての理想のハリーは、一年生の頃に、ドラコとそしてハリー自身のために啖呵を切ったハリーだった。
真っ直ぐで、頑固で、自分の意見は曲げず。親の影響ではなく、ドラコ個人を見てくれて。
闇の魔術や、マグルへの暴力や、ましてや殺人なんてものには荷担しない安心できる友。
それこそが、ドラコが心の底から望んだ友達だった。闇の魔術だの親の影響ではなく、ドラコのことを見てくれる友。ハリーは、ドラコの望んでいた理想の友に最も近かった。
「やっと僕の目を見たね、ドラコ」
ハリーは心の底から嬉しそうに笑っていた。ドラコは笑わなかった。
「何の用があって僕を呼びつけた?」
「……ドラコに謝りたかったんだ。必要の部屋で、僕は少しやり過ぎた。それは認める」
「自分で言ったことも守れないようなやつの謝罪なんて価値はないね」
ドラコの言葉に、ハリーは悲しそうな顔で言った。
「確かに僕は最低だよ。君に言ったことを忘れてボガートに暴力を与えたことは取り消せない。……でも」
「もう一度だけチャンスをくれ。ドラコ、僕を信じてくれ。僕は」
「ああやってマグルを傷つけて支配したかった。沿うだろう?」
ドラコはなるべく冷酷に聞こえるように言った。ハリーは反射的にドラコに言い返そうとした。
「それの何が……」
ハリーははっとして口を閉じると、取り繕って言い直した。
「……何か、誤解があると思う。ボガートを倒すことの何が悪いんだ、ドラコ?」
ハリーは開き直ってそう言った。ドラコの言葉を認めたようなものだった。ドラコに感慨はなかった。あるのはハリーに対する恐怖心だった。
ドラコは何度も何度も、過去のハリーとのやり取りを思い返した。そして、あの必要の部屋で見たハリーの姿と、過去のハリーの発言を照らし合わせて、あることに気が付いた。
確かにハリーは、頑固で真っ直ぐで自分の意見は曲げない。しかし。
『ヴォルデモートを殺るんだ、絶対に!!』
一年生のとき、ハリーはドラコにそう宣誓した。闇の帝王を殺害し、ドラコやスリザリンの生徒たちに対して背負わされる悪評から解放すると。
ドラコは自分の浅はかさを知った。ハリーに理想を見ていたのは、ドラコの方だった。
ハリーは最初から、邪悪なもの、自分にとって不要なものを殺すことができる。そういう少年だった。それに気が付いたとき、ドラコはハリーのことがとても恐ろしくなった。何か別の生き物のように思えた。
暴力に酔い、闇の魔術を覚えたハリーは、確かにルシウスの言う通り闇の魔法使いとしての才能があったのだ。純血主義、マグル差別。それらの思想を吹き込んで闇陣営のカリスマとして祭り上げるのがルシウスの思惑だった。しかしドラコは、ルシウスの考えには致命的な誤りがあると気がついた。
このままハリーが暴力衝動に従い、マグルへの差別心を拗らせて闇の魔法使いになったとしよう。例えばダフネを誑かして、表向きは純血主義を尊重するようになったとしよう。
それはルシウスの思惑通りのようにに見えて、そうではないとドラコは思った。ハリーがたとえ闇の魔法使いになってくれたとしても、ハリーは必ず例のあの人を殺そうとするだろうとドラコは気付いたのだ。それは、ハリーがマグルを激しく憎むことになったそもそもの原因が例のあの人だという、当然の事実に思い至ったからだ。
ハリーが闇の帝王に殺意を抱き、それを実行するまでの過程で。ハリーはルシウスや、それ以外の大勢のデスイーターを殺害するだろう。バジリスクを殺したように。あるいは、力及ばずデスイーターに……必要の部屋で見たように、ルシウスに殺されるだろう。
ハリーの姿を見て、ドラコは今さら気が付いてしまったのだ。ハリーに友情を持つことがどれだけドラコの良心を揺さぶり、ドラコの純血主義としての価値観を壊し、そしてドラコの敬愛するルシウスにとって危険かということを。
ハリーたちと冒険をして、クラブもゴイルも本当に楽しそうにしていた。ダンブルドアから労いの言葉をかけられ、ドラコの心も、暖かいもので満たされた。しかし……しかし、暖かな友情が必ず破綻する運命にあると気が付いてしまったのだ。
父親の言葉に支配され、盲目的だったドラコは、ハリーという光を見つけて確かに少し成長した。成長にともなって、ドラコの目で見えるものは少し広がった。そして広がった先にあったものは、また別の闇だったのだ。
ドラコは、ハリーに絆されてはならないと強く自分を戒めながら口を開く。
「……別に。ただ、僕は不快だったね。あんなものを楽しめるやつの神経が知れない」
「僕は必要だからやった。それだけだ」
ハリーはうっすらとスリザリン生らしい笑みを浮かべていた。表面上だけ取り繕って、中身はない。ドラコは、ハリーとそんなやり取りがしたいわけではなかった。
しかし度しがたいことに、ドラコはハリーの闇の部分を受け入れられなかった。
ハリーがこのまま闇の方向に成長すれば、ハリーは強くなりすぎてしまう。そうなれば、ルシウスや、クラブの父や、ゴイルの父や、セオドールの父が死亡するかもしれない。
ハリーを闇の帝王の部下として忠誠を誓わせるなんてことは不可能だと、ドラコはハリーと二年間接して嫌というほど理解した。そうである以上、ドラコはハリーにこれ以上強くなってもらいたくはなかった。ドラコの大切な人たちが死なないためにも。
ハリーとドラコは平行線のまま、丸一分ほどは沈黙していたかもしれない。ドラコはハリーに怯えながらも、席を立つという選択をしない自分に驚いていた。
やがてハリーは、沈黙に耐えかねたのかうっすらとした笑みを崩した。ハリーの目には怒りしかなかった。
「……じゃあ僕にどうしろって言うんだよ!」
「確かに僕は、スネイプ教授が言うように目立ちたがりやだよ!いろんな魔法に手を出したし、かっこつけて色々やったよ!コリンに先輩ぶったのは今でもちょっと後悔してるよ!十二科目は無茶だったと思うよ!」
ドラコは思わずぎょっとしてハリーを見た。
(……自覚があったのか……?)
「だけどさぁ!心の中まで綺麗でいろなんて無理なんだよ!何で友達なのにそこを突っ込むんだよ!……誰だって心の中では色々とあるのは分かるだろ!」
「ポッター!口を慎めよ、僕だって他人の心をあんな形で見せられた被害者だぞ!」
「だからお互いなあなあにしてうまくやっていこうってことでいいじゃないか!?何でそこに拘るんだよ!」
「君に言う気はない!」
「このわからず屋め!」
ハリーの剣幕に、ドラコは気圧されそうになったが堪えた。冷静なドラコに対して、一方的にキレただけのハリーは恥ずかしさを覚えたのか、気まずそうに押し黙った。ドラコはハリーに対して湯水のように湧き出る皮肉をぶつけて、ハリーの反応を見てみるのも面白いかもしれないと思った。
(……い、いや駄目だ。絆されるな……!)
すんでのところで、ドラコはそれを堪えた。純血主義を掲げるスリザリン生にとって、己れの内心を吐露することは恥ずべきことだ。ハリーは自爆し、ドラコは己の領域を守りきった。ドラコにとってはそれでいいはずだった。
落ち着いたハリーの、継ぎの言葉を聞くまでは。
「ドラコ。君が僕に色々と言ったように、僕も君の言葉の意味を考えていたんだ」
「僕が?君に何を言ったというんだい?」
「『友達は選ぶべきだ』っていうのと、『僕が強いからみんなついてきているだけ』って言葉」
ドラコは最近言った後者の言葉はともかく、前者の言葉については完全に忘れていた。
「ふぅん?」
「あのときは正直、ドラコの言葉に共感できないところも多かったけど、今なら君が言いたかったことは分かる。みんな僕の名声とか功績とかしか見てなくて、僕本人を見てないって言いたかったんだろ」
「……それで?理解できた上での感想はどうだ?ポッター。君の名声や功績に群がる蟻たちに嫌気がさしたのかい?」
「コリンを見てちょっと後悔した。……でも」
ハリーは真っ直ぐにドラコの目を見て言った。
「秘密の部屋の事件があって、僕が学校中で嫌われても、みんなは……ファルカスたちは態度を変えなかった。だから僕は、みんなを蟻とは思わない。対等な友達だ」
ドラコの心に、サダルファスたちに対する嫉妬心が沸き上がった。
(……部屋が一緒だっただけだろう……!)
それでもハリーを罵倒できなかったのは、実際にボガートに勝負を挑もうとしたサダルファスたちの姿を目にしていたからだ。ハリーの言葉を否定できないほどに、ファルカスたちの存在も眩く映る。
ドラコ自身はまだ気が付いていない。
ドラコ自身が心を開けば、セオドール·ノットやビンセント·クラブはドラコに心を開くだろうということに。
「……でも、ドラコは、僕が一番始めに会った魔法使いだ。僕が何も知らなかった頃の僕を、君だけが知ってるんだ。そうだろ?」
「だから君は、僕にとって特別な友達で-」
最初の出会いを蒸し返され、ドラコはまずいと思った。このままでは、ハリーに絆されてしまう。
(聞くな)
ドラコは何も言わずに立ち上がると、ハリーの制止も聞かず空き教室を飛び出した。空き教室には、呆然とドラコの背中を見送るハリーだけが残された。
***
一週間後、ハリーは医務室のベッドの上にいた。
その日はクィディッチの開幕戦で、視界が雨で覆われるほどの豪雨のなか、スリザリン対グリフィンドールの伝統の一戦だった。豪雨を防水魔法で防いだハリーは、三本のシュートと二本のアシストを決め、一本のシュートを外したものの、試合は60対20でスリザリンのペースで進んでいた。
ハリーはドラコと和解できていないながらも、試合に勝つことでまた元のように戻れると信じ諦めていなかった。グリフィンドール·チームのキーパーであるオリバー·ウッドから得点した瞬間、ハリーは全身に悪寒を感じて意識を失った。クィディッチ競技場に乱入したディメンターの影響だった。
泣き叫ぶ母の悪夢から解放されたハリーは、スリザリンが敗北したとファルカスから告げられた。
「……マルフォイは君を助けるために勝負を放棄したんだ、ハリー」
ファルカスによると、箒から落ちたハリーを助けようとドラコが急降下した瞬間、スニッチが雲の隙間から出てきたらしい。スニッチに気が付かないドラコをよそに、コーマック·マクラーゲンはスニッチを掴み、グリフィンドールに逆転勝利をもたらしたのだという。
「試合中によそ見をしてたってフリントにめちゃくちゃ叱られてたけどな。……だけど俺は、ちょっとだけあいつのこと見直したぜ」
ハリーの胸に、暖かなものが広がった気がした。ハリーはすぐに後悔した。
(負けたことを喜んでどうする……僕のせいで、ドラコに恥をかかせたんだぞ……?)
チームが敗北してそれどころではないというのに、自分は一体何をやっているのかとハリーは思った。すぐにでも退院してフリントやドラコに謝りたい、そう思っていたハリーだったが、ポンフリー校医はハリーを解放しなかった。
「ルーピン先生の差し入れです。今日はこのホットココアを飲みなさい、ポッター。歯を磨くのですよ」
「ありがとうございます。チョコやココアがディメンター対策になるんですか?」
「カカオ豆は霊的な効能があったからこそここまで普及したのですよ、ポッター。さぁさ、一息に」
ポンフリー校医によると、身体的にも魔力的にも、疲労した魔法使いにとってチョコレートの成分は効果的なのだそうだ。
「ディメンターによって奪われたエネルギーを取り戻そうと、体はカロリーを求めています。さぁ、しっかりと飲むこと」
ハリーは、夢を見ることなく眠りにつくことができた。しかし、悪夢のような現実に襲われることになった。
次の日、退院したハリーは放課後にクィディッチ競技場に行き、キャプテン·フリントに謝罪した。ハリーの箒は壊れてしまい、ハリーの手には貸し出された『流れ星』が握られていた。ピュシーやドラコはハリーと目を合わせようとせず、ハリーが挨拶をしても返事をしなかった。ハリーは背中に冷や汗が滲むのを感じた。
「チームに迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ありませんでした」
ハリーの謝罪に対し、応じたフリントはハリーの姿をくまなく眺め回し、腕を組んでハリーにこう言った。
「後に残るような怪我にならずにすんだのは何よりだ。だがポッター、お前に言っておかねばならないことがある」
競技場にいたリカルド·マーセナスが、哀れむような目をハリーに向けていた。
「……ポッター。お前はクビだ。チェイサーの任を解く。今まで、ご苦労だったな」
ドラコは急用を思い出したと言ってその場を離れた。沈黙するチームメイトたちは、フリント以外は誰もハリーと目を合わせようとはしない。
ハリーは頭の中でフリントの言葉を反芻した。フリントが信じられなかった。
(……ち、ちょっと待てよ……)
キャプテンの言葉は絶対だ。それでもハリーは、混乱する中でフリントに説明を求めた。
「……すみません、理由を伺っても宜しいですか?」
「『クィディッチに交代制はない』。これが理由だ。分かるか、ポッター」
「……!」
ハリーは絶句した。かつてハリーが選抜試験で宣言した言葉が、今になって最悪の形で帰ってきていた。
「俺たちプレイヤーは、スニッチがシーカーの手に捕まるまでは何があろうとコートを飛び続けなきゃならねえ。ブラッジャーで腕を折られようが、箒の端っこが曲がって飛び方が滅茶苦茶になろうが、クィディッチは続く。『クィディッチに交代制はない』んだ、ポッター」
フリントは、ハリーに言い聞かせるように言った。
「……だってのに、アクシデントが起きたら確実に離脱するような駒を使う気にはなれねえ。俺はお前をレギュラーとして使いたいとは思わん」
「キャプテン、無礼を承知でお願いします。も、もう一度チャンスを頂けませんか!?」
ハリーは納得できずに、フリントのマントの端を掴むような勢いで食い下がった。見苦しくても構わなかった。チェイサーとして、ハリーはチームに少なくない貢献してきたつもりだった。少なくない得点を重ね、作戦を覚え、フリントやピュシーが点を取れるよう立ち回った。その結果として、スリザリンは去年ほとんどの試合で大量得点を重ねて勝ってきたのだ。
「チャンスはない。試合で飛び続けられなかったやつに用はねえ」
フリントの無慈悲な宣告は、ハリーの脳をかきむしった。
「多少得点力が落ちようが、ブラッジャーに被弾しやすかろうが……カシウスは、何があろうと最後まで飛びきることができる。プレイヤーとして、お前はカシウス以下なんだ。要らねえんだよ、このチームにはな」
カシウス·ワリントンは勝ち誇ったような目でハリーを見ていた。このチャンスを逃してなるものかと野望に燃え、ハリーの失墜を喜んでいた。その手には、ルシウス·マルフォイによってチームへと寄贈されたニンバス2001の予備が握られていた。
フリントたちが箒に乗ってグラウンドを飛び去っていくのを、ハリーは黙って眺めていた。ハリーにとってのクィディッチが、遠く遠く離れていった。そんなハリーを見て、周囲のスリザリン生たちはひそひそと囁きあっていた。
『落ちたポッター』だ。
……落ちぶれたポッターだ、と。
***
それから先二週間の間、ハリーはリーマス·ルーピン先生に負けず劣らずの憂鬱な気分で過ごした。ダフネの依頼に答えたり、12科目の対策をしたり、決闘クラブで過ごしていれば気は紛れた。それでも、チームから追い出されたことはハリーにとって少なくない衝撃を与えた。
ハリーはチームメイトに批判がいかないよう、カシウス·ワリントンを立てて道化を演じなければならなかった。仮にもスリザリン生として、チームの足を引っ張るようなことがあってはならないからだ。とはいえ、試合でカシウスがハリーなら入れられるシュートを外したときはハリーも落胆を禁じ得なかった。
そんなハリーに手を差しのべたのは、ロンだった。決闘クラブで会ったロンは、ザビニを誘ってからハリーにも声をかけた。
「落ちたらまた上がればいいだろ、ハリー」
「ロン、どうしたの……?」
「ハリー、ステューピファイはもう使えるだろ?」
「そりゃ使えるよ。練習する時間はたっぷりあったし……」
クィディッチの練習ができなかったハリーは、一年生の頃のように一人で箒に乗ってみたりもした。自主トレーニングによるクィディッチの練習がシュート練習や切り込み、あるいは疑似ブラッジャーからの回避練習だけになったハリーは時間に余裕があり、その分だけ魔法の習得に時間を充てることができた。
「じゃあ、行こう」
「行くって何処へさ?」
「ルーピン先生だよ!パトロナスを教えて貰おうぜ!パトロナスが使えたら、ディメンターが来ても大丈夫だろ!」
こうしてハリーは、ロンやザビニと共にリーマス·ルーピン先生のもとを訪れた。ルーピン先生は苦笑しながらもハリーたちを迎え入れてくれた。その笑みの意味を、ハリーはこれから知ることになる。
原作でスリザリンチームのチェイサーのレギュラーに落ちてるエイドリアン·ピュシーは続投です。
その代わりハリーはレギュラー落ち。部活で死人を出すわけにはいかないからね。ハリーはシーカーならまだしもチェイサーだし。
フリントは恐怖政治を敷くことで自分にヘイトを集めつつ部が割れないように頑張っています。キャプテンやるのも楽じゃねえんだ。