ようこそ利己主義者のいる教室へ 作:眠り鼠
この作品を選んで下さりありがとうございます。
普段は別の作品を投稿しているのですが、魔が刺して新たな作品を作ってしまいました。
今回のお話は自分勝手な主人公がBクラスに居たらどうなるのか?といったものです。
では本編スタート!!!
人は平等か否か。
平等ではない、と私は思う。
しかし不平等であるとも思わない。
この世には生まれながらに格差があることを、私は知っている。
それは例えば金銭的なものだったり、あるいは学力や容姿だったりするのかもしれないけれど、何かしらの理由で「自分は他人より劣っている」と感じている人間は確かに存在するし、その劣等感が消えることはない。
私は自分が劣っているとは思っていないけれど、だからといってそれを払拭できるほどの自信も持ち合わせていない。
そんな人間にとって、「他人は皆平等だ」なんて言葉ほど白々しく響くものはないと思うのだ。自分よりも優れた人間が大勢いる中で、どうして自分のことを特別だと思えるのか。
もし本当にそう思えてしまうなら、それはきっと傲慢な考え方でしかないはずだから――。
「……そろそろ行こうか」
私がぼんやりと考え事をしているうちに、いつの間にかバスがやって来ていた。慌ててバスに乗ると運良く一番後ろの席に座る事が出来た。
これならば誰かと一緒になることもなく、落ち着いて窓の外の風景を楽しむことが出来るだろう……もっとも、狭いバス内で揉め事が起きなければの話だが。
ことの発端は金髪ヘアの青年が優先席に座った事だった。
近くにいたOLが立っている老婆を見兼ねて青年に席を譲る様に迫った。
青年は優先席は法的義務を持たないとして譲る事はしなかった。
そこに同じ制服を着た可愛らしい女子生徒が社会貢献になると言って青年に対して老婆に席を譲るよう迫ったのだ。お年寄りに席を譲る事は本当に社会貢献になるのだろうか。私には疑問だったが、他の乗客達にとってはどうでも良かったらしく、二人の口論は次第にヒートアップしていった。
そして気づいたらこ高度育成高等学校前のバス停に到着する寸前だった。
荷物を持ってバスを降りると同じ制服を着た生徒で溢れ返っていた。
下駄箱前でクラス分けを確認すると私のクラスはBクラスだった。
教室へ向かうとすでに多くの生徒が室内に居た。
誰とも目を合わせる事なく自分の名前が書かれた席に座る。
持参した小説を読みながら時間が過ぎるのを待つ事にした。
暫くすると若く美しい女性が教室内へやって来た。
"高度育成高等学校"
東京の埋立地にある日本政府が作り上げた、未来を支える人材を育成する全国屈指の名門校。希望する進学、就職先にほぼ100%応える学校。 3年間外部との連絡は断たれる上、学校の敷地内から出るのは禁止された寮生活になるが、60万平米を超える敷地内は小さな街になっており、何1つ不自由なく過ごす事のできる楽園のような学校。
その謳い文句は一部事実であり、一部偽りである。
世の中そんな上手い話は無いのだ。
「新入生のみんな!入学おめでとう。Bクラスの担任の星之宮知恵です。この学校では保険医をしているよ。ウチの学校は三年間クラス替えが無いので皆とは卒業までの時間を過ごす事になります。」
保険医が担任をするなんて珍しい学校だな。
それにしても若い美人女教師とはこれまたテンプレのような展開である。
「さっそくだけどウチの学校とPPについて説明するからよく聞いてね。」
「まず初めに支給された学生証カードを見てね。それで買い物が出来たり、学校の敷地内にある施設を利用する時の支払いもこれで行うんだよ。ちなみに1ポイント=1円の価値があるから覚えておくようにね。それから今月支給されるポイントは10万ポイント。これは毎月一日に自動的に振り込まれる仕組みになっています。」
その言葉に教室内は騒然とする。
いきなり大金を与えられた事に動揺する者が大半であった。
そこで一度言葉を区切った星之宮先生は教卓に手を置く。そして、待っていたとばかりに質問をしたのはストローブロンドのよく似合う美しい女子生徒だった。
「先生、ポイントを使い切ってしまった場合救済措置はありますか?また、来月振り込まれるポイントは10万ポイントなのでしょうか?」
「救済措置を学校側が取る事はありません。だから計画的にポイントを使って行く事をオススメするよ。来月振り込まれるポイントの額は今は答えられません。他に何かあるかな?」
星之宮はクラス内を一瞥し口を開いた。
「10万ポイントは皆に対する正当な評価の表れだよ。これからも学校の期待に応えられるよう頑張っていこうね。この後1時間後に入学式が行われるから、それまでは自由に過ごしていいよ。1時間後に体育館へ集合ね。」
そう言って星之宮は教室を去って行った。
クラス内はポイントで何を買うか、何処へ行くかと楽しそうに話す声で溢れている。
そんな声を掻き消すように一際存在感を持つ生徒が教卓の前に立った。
「皆!折角時間もある事だし自己紹介をしない?これから3年間過ごす事になるんだし!仲良くなるための第一歩だと思ってさ!」
「いいね!」
「賛成!!賛成!!」
絵に描いたような美少女の発言に多くの生徒が賛成していた。
嫌そうに顔を歪めていた女子生徒も渋々教室に残る事にした様だが、これは美少女の笑顔に負けたからとか、クラスメイトと仲良くなりたいからといった明るい理由ではない。
同調圧力に負けたからに他ならない。
それはこのクラスがBクラスになった事から明らかだろう。
私の通っていた中学は成績の優秀な生徒から順に振り分けられており、最も優秀な特進クラスがAクラスだった。
ちなみに私のクラスは授業の欠席が多いためDクラスだった。
有名な私立大の付属校だが、内部進学できるのは一定以上の成績と出席日数を満たした生徒のみである。
大半の生徒は問題なく内部進学して行ったが、私は内部進学の最低ラインである出席日数を満たしていないため急遽外部受験を行う事になったのだ。
これらの事情により、DクラスとCクラスの横を通った時のクラス内の雰囲気や生徒の態度から鑑みるにクラス分けには明確な優劣が付けられている事が分かる。
私は仕方なく本を読むのを止めて静かに自己紹介を聞くことにした。
「じゃあ私からだね。私は一之瀬帆波!気軽に下の名前で呼んで欲しいな!みんなと仲良くなって、いろんな事を経験して沢山思い出を作っていきたいと思います!宜しくね!」
「俺は柴田颯だ。中学ではサッカー部に入ってだぜ!高校でも───」
こうして次々と自己紹介が行われて行き、遂に私の番となった。
「次の人。お願い出来るかな?」
「…分かった。如月美星です。中学では帰宅部でした。皆宜しくね。」
「ありがとう。これで全員終わったかな?まだ話したい事がある人はいるかな?……いないみたいだね。それじゃあそろそろ時間だから行こうか。」
一之瀬の言葉に従い、私たちは体育館へ向かった。
和を乱す者にはヘイトが向いてしまう。私の有用性を示す事が出来れば多少異端であっても吊し上げられる事は無い筈だ。それまでは目立たずに生活していこう。
体育館には全校生徒が集っており、ステージには生徒会役員と思われる生徒が立っていた。
「新入生の皆さん。ご来場頂き有難うございます。これより、高度育成高等学校の入学式を始めます。まず始めに、本校校長の───」
長い退屈な挨拶が続き、私を含め多くの生徒は眠気と戦っていた。
だが、私にとってこれは好都合だった。
入学式が終わったので、最低限の日用品と食料を買う事にした。
それにしてもこの学校は監視カメラの数が異常に多い。恐らく不正や犯罪を抑制する為なんだろうけど…。
母校もかなり裕福な家の出身者が多かった事もあり厳重な防犯対策が為されていたが、監視カメラの量はこの学校より数段劣る。
学校の敷地を出る前に配布されたばかりの端末を操作する。すると、所持しているポイント残高が表示される。
現在の残金9万7028ポイント。
これが私の持っているポイントらしい。
しかし、私にとってはこれだけあれば十分である。
何故なら私の目標はただ1つ。
"この学校を卒業する事"だ。
その為に必要な事だけを行えば良い。
私は足早にその場を去った。
買い物を終えて寮に戻る途中大きな袋を抱えて杖をつきながら歩く女子生徒が見えた。
この先にある寮は一年生のものだ。
荷物を持つと申し出るか迷う所だが、彼女は入学式でAクラスの列に居た。
恩を売っておけば後々役立つかもしれない。
「ねえお嬢さん。大丈夫ですか?宜しければその荷物を運びましょうか?」
「えっ!?いえ、結構です。これくらい1人で持てるので」
「遠慮しなくていいよ。その荷物、重そうだし。部屋まで運ぶよ」
「本当に平気なので」
「いいからいいから。ほら貸してみて。……うん、やっぱりこれ重いね。無理は良くないよ。さぁ行こうか」
「あっ、ちょっと待って下さい!自分で持ちますから!」
「気にしないで。これも何かの縁だし。それに、君はAクラスでしょ?君みたいな可愛い子がこんな力仕事をするべきじゃないよ。」
「はぅ……」
Aクラスと言った瞬間、少女の顔が赤くなる。
分かりやすい子だな。
少し揶揄いたくなってきた。
このまま強引に押し切ろう。
そして部屋に着き、彼女に荷解きを手伝おうと言う。
最初は断っていた彼女だったが、私が何度も言うので折れてくれたようだ。
整理が終わりようやく一息つける。
「手伝ってくれてありがとうございました。私は坂柳有栖と言います。貴方のお名前を伺っても?」
坂柳有栖…全国模試のランキングによく載っている名前じゃないか。
まさか同一人物なのだろうか…。
「私は如月美星。美星って呼んでくれると嬉しいかな。」
「そうですか。では美星さんと呼ばせて貰いますね。ところで、どうしてあんなに親切にしてくれたんですか?正直に言いますと、初対面の相手にここまで親切な方は珍しいと思います。」
まあ普通はそう思うよね。
別に隠すことでもないので素直に答えよう。
尤も、本当の目的は別だけど。
私の目的を話す訳にはいかないが、彼女の能力だけは知っておきたい。
「んー、なんて言えばいいんだろうね。困った顔の女の子を放って置けない性格だからかな。特に、坂柳さんのような綺麗な子はね。」
「そ、そうですか…。」
彼女の頬はほんのりと赤く染まっていた。
彼女をなぜ助けたのかと言えば、Aクラスの生徒に貸しを作っておきたいからとしか言えない。
だが僅かに残った良心が困っている人を助けようと訴えかけて来たのも事実だが、困っている人を助ける私に酔っているだけなのかもしれない。
私は困っている人によっては打算的な考えを持って助ける人間だから。
「坂柳さんはこの学校のクラス分けについてどう思う?」
「いきなりですね。……ですが私もそのことについて考えていた所でした。学力による振り分けではないとしたら何を基準に決めているのでしょうか。」
「私は身体能力とか頭の回転率とかだと思うんだ。Dクラスは休み時間にぎゃあぎゃあうるさかったし、Cクラスは殴り合いをする生徒がいた。Bクラスは平和主義、Aクラスは優等生が多そう。」
これは私の勝手な憶測に過ぎないのだが、間違ってはいないはずだ。
「だからAクラスから順に身体能力と頭脳面と人格を考慮した上で成績の優秀な順に振り分けられていると思うの。」
坂柳さんの表情には驚きの色が見える。
確かに突拍子もない話だ。
だがこれはあくまで私の予想だ。
証拠がある訳ではないので話半分で聞いて欲しい。
そんな事を考えていると、彼女は別の視点から答えを導き出そうとした。
もしかしたら彼女は私と同じ側の人間かもしれない。
「なるほど、面白い意見ですね。そういえば美星さんは本日振り込まれた10万ポイントについてどう思われます?」
「先生が10万ポイントは私達に対する正当な評価の表れだって話していたのが気になるね。評価が悪くなれば毎月振り込まれる額が変わるかもね。先生は来月振り込まれるポイントの額は答えられないって言ってたんだ。」
すると坂柳さんは口元に手を当てて微笑む。
やはり彼女は只者ではないらしい。
彼女がAクラスの生徒である理由が分かった気がする。
「私も美星さんの言う通りだと思いますよ。監視カメラの多さ、スーパーやコンビニの無料商品、学食の無料の山菜定食。これらの証拠が答えを物語っています。」
そして私は確信した。
坂柳さんは天才なのだと。
私は無料商品についてポイント枯渇者のための物だとスルーしていた。
しかし彼女はその点を踏まえてこの学校の仕組みに気づいているのだ。
私の持っていない視点を彼女は持っていた。
坂柳さんは更に続ける。
「外部と連絡の断たれたこの学校における勝者はシステムを考慮するとAクラスの卒業者のみと言う事になるはずです。」
この学校を出る方法は2つだけ。
1つは卒業すること。
もう1つは
──退学処分になること。
恐らくこの学校には転校制度無いだろう。仮に転校するにしても、外部に連絡を取る手段はないだろうから不可能だ。
つまりこの学校は一種の牢獄である。
坂柳さんは聡明な女性だ。
だから、もし私が彼女を利用しようとしたら、逆に利用されてしまうかもしれない。
気をつけなければ。
坂柳さんがAクラスにいる理由はこれだったか。
坂柳さんは私が思っているよりも遥かに頭の良い人間のようだ。
「坂柳さんって凄いんだね。私なんかよりずっと頭がいいみたい。」
「いえいえ、それほどでもないですよ。ところで、坂柳さんではなく有栖と呼んでください。私も美星さんと呼んでいますし。」
「うん。じゃあこれからよろしくね有栖ちゃん。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします美星さん。」
こうして私は友人を得た。
如月美星
所属 1年Bクラス
学籍番号 S01T009086
誕生日 12月24日
【学力】 A
【知力】 B
【判断能力】 A
【身体能力】 D+
【協調性】 C-
【面接官からのコメント】
有名な私立大の付属中学に通っていた事もあり、学力は全国トップクラスの生徒である。
本校の筆記試験においても全科目で非常に優秀な成績を残しており、中でも社会科の試験では満点を叩き出している。
中学時代も全国マーク模試で一位という成績を残した事もありAクラス配属が妥当であるが、中学時代の出席日数が少ない事からBクラス配属とする。
【担任からの一言】
学力が非常に高い生徒です。
更なる学力の向上を目指して欲しいと思います。
授業や学校行事への参加については様子を見て対処しますが、本人の意識の改善を望みます。