ようこそ利己主義者のいる教室へ 作:眠り鼠
主人公は嫌がりながら平和主義の教室で奮闘する。
先生、毎回問題当てないで!
ではお楽しみに。
堀北会長が生徒会室に戻ってきたようだ。
「会長!お客様がお見えです。」
橘の言葉に堀北は私を見て驚いたようだ。
「こんにちは。突然お邪魔してしまいすみません。お尋ねしたい事があるのですが、今お時間大丈夫でしょうか?」
彼は少し考えるる素振りを見せたが、私の向かい側の席に腰掛けた。
「さて、何の要件だ?」
「今日私達一年生はこの学校のシステムと赤点に関する説明を受けました。最後に先生が"赤点を回避する方法があると確信している"と仰られていたので、もし過去問をお持ちでしたら譲っていただきたいと思いまして。」
堀北会長の眉がピクリと動いた。
そして私の顔を見つめる目つきが変わる。
「どうして過去問が赤点を避ける方法だと思ったんだ?」
私は自分が思ったことを全て口にした。
「まず先生の発言です。中間試験の範囲を教える前に『生活態度や授業態度を正して、テストの勉強をしっかり行う。当たり前の事が当たり前に出来るようになろうね』と言われていました。この発言から、赤点を回避する方法は勉強だと判断したからです。次に私の母校では定期テストの度に過去問を活用するという文化があったので、この方法を思いつきました。」
「ふむ。確かにその考え方は間違っていない。だが、何故過去問が赤点を回避できる方法だと思った?それは根拠にはならないと思うが。」
会長は私に鋭い視線を送る。
私が堀北会長の立場であれば同じ質問をしていただろう。
私は彼が納得するように発言しなくてはならないが、これ以上考えられる根拠は無い。
つまり今から行う事は妄想だとか夢物語のような想像上の話だ。
リアリティがなくとも、彼を納得させられたら勝ちのゲームである。
「先生の発言ですよ。先生は赤点を取らない方法があると確信していた。これは先生が確信するほどの何かがあるということです。例えば、中間試験の問題が過去問と全く一緒だったら?」
堀北会長は驚いたように一瞬顔を歪ませた。
どうやら本当に中間テストと過去問の内容は同じみたいだな。
その場の思いつきを言ってみたらビンゴだ。
今日の私は運が良いのか、今ので運を使い果たしたのか、一体どちらだろうな。
彼は表情を和らげて口を開いた。
「試すような言い方をして悪かったな。君の発想には驚かされた。正解だよ。赤点を回避する方法は過去問だ。定期テストと過去問は同じ問題が出題されている。まさか今日尋ねて来るとはな、流石の俺でも出来なかった事だ。」
会長は鞄からファイルを取り出し、11冊の冊子をテーブルに並べた。
冊子にはそれぞれ教科の名前が書かれており、右から国語、数I A、コミュ英I、英語表現I、日本史B、生物、化学、美術、保健体育、情報、家庭科の順で並べられている。
今回は10教科11科目と試験の数はかなり多い。
水木金の三日間を使って行われるそうだ。
「さて、お前の選択科目は何だ?」
「日本史、生物、化学、音楽です。」
「俺は美術を専攻していたから音楽の試験については知らない。橘は音楽を専攻していたな?」
彼の言葉に橘は慌てた様子で鞄から一枚の紙を取り出した。
「音楽は実技試験になりますから、今回の中間試験とは別日です。今週の授業で詳しい試験内容が説明さるる筈なので安心してください!」
「なるほど。ありがとうございます!」
「…お前のテストに必要なものは美術以外の冊子だな?」
「はい。譲っていただければ幸いですが、誠意を見せるという意味でポイントを使って買わせて頂きたいのです。」
「いくらで買えると思っているんだ?」
「そうですね、一冊いくらの価値があるかは分りませんが、10冊で10万円でいかがでしょうか?」
堀北会長は不敵な笑みを浮かべて「30万」と口にした。
一枚3万円の価値なら売ってもいいらしいが、流石に高すぎる。
多くのプライベートポイントを持っているとしても、ここで30万を支払うのは少し怖い。
どうするか思案していると彼が交渉を持ちかけてきた。
「如月、生徒会に入れ。そうしたらこの過去問は無料で渡そう。」
「…どうしてそこまで私を生徒会へ誘って下さるのですか?」
疑問を口にすると彼は真剣な眼差しで私を見つめて口を開く。
「お前の洞察力、観察眼、思考力は見事なものだ。そしてすぐ行動に移す事の出来る実行力は今後の生徒会に必ず役立つ。」
さて、どうするか。
私としては過去の問題を手に入れることが出来れば良いわけだから彼に従う必要はない。
だがもし仮にこの場を断ったとして、今後過去問が手に入るとは限らない。
「もし生徒会に入ってくれるなら、ポイントを支払っても構わない。」
よし、生徒会に入ろう。
私は首を縦に振る。
「ひとまず生徒会の方でも審議を行う。だが入ると返事を貰ったのだから、報酬は渡そう。まずこの冊子だ。」
テッテレー!過去問を手に入れた!
「ポイントは50万ポイントを振り込んでおこう。」
「ありがとうございます。」
「生徒会の承認がされ次第連絡を入れよう。」
ポイントを支払ってくれるならメリットの方が大きい。
ひとまず退学を回避出来る分だけのポイントを貯めたいな。
だが自由時間が減るのは困るなあ。
ほんの少しの不満を胸に抱きながら生徒会室を後にした。
この過去問をコンビニでコピーし、原本は私のもとに残しておくことにする。
これで誰かに頼まれても貸すことが出来るな。
そういえばこの学校ってポイントで買える物が多いんだよなあ。
授業の出席も買えたりするのかな?
この疑問を解消するべく、私は職員室に向かった。
「失礼します。星の宮先生はいらっしゃいますか?」
「はーい。ちょっと待ってね〜!」
職員室の奥から書類仕事を行なっていた星之宮がやって来た。
「如月さんどうしたの?」
「実は先生にお尋ねしたい事がありまして。」
「じゃあそこの生徒指導室を使おっか!」
「分かりました。」
私は彼女の言葉に従い、二人で生徒指導室に向かうことにした。
「それでは聞かせてくれる?」
彼女は椅子に座って足を組む。
スーツのスカートが捲れ上がり太腿がちらりと見えるが、本人は特に気にしていないようだ。
「私が知りたいのはこの学校のシステムです。ポイントを消費すればどんなものでも買う事が出来るんですか?」
「ん~、まぁそうねぇ。何でも買えるっちゃ買えるけど。」
「では授業の出席を買う事は出来ますか?」
「もちろん買えるわよ。授業を休んでしまった時は購入して出席したことにできるの。ただ、欠席が重なると成績にも響くから気をつけてね。」
なるほど、やはり思った通りだ。
「出席を買って授業に出なかった場合、授業態度の成績を挽回できる方法はありますか?」
星之宮は私の言葉が予想外だったようで、驚いたように目を丸くする。
「えっと、その質問は私に対する何かの挑戦状?」
「いえ、そんなつもりはありません。」
「そっかぁ。じゃあいいんだけど、出席態度が悪いとその科目の単位は貰えないの。」
「なっ……」
「あとは単純にサボりまくると留年しちゃうかな。」
これは驚きの情報だ。まさか単位を落としてしまうなんてな。
それにしても何故教えてくれなかったんだろう。
いや、そもそも私の考えがおかしいんだろうな。
授業に一月出てみて、やっぱり精神的にきつい。
不登校という訳では無いが、保健室登校をしていたため疲労が大きい。
どうにかして授業の最低評価だけでも貰えたらいいのに。
「他に聞きたいことはあるかしら?」
「いいえ、もう大丈夫です。ありがとうございました。」
「いつでも相談しに来てね♪」
私は彼女に頭を下げて部屋を出た。
どうにかして成績を下げずに授業を休めたらいいんだけどなあ。
だが、それは無理そうだ。
ひとまず今のところは授業に出るしか無さそうだ
「よし、とりあえず過去問を解いてみよう。」
寮に戻って問題を解き始める。
日本史の過去問を解いてみたがこの程度なら簡単だ。
過去問を35分程で終わらせ、試験範囲の書かれたプリントを取り出す。
どのくらいの範囲が出るのか知っておきたいからだ。
しかし10分後私は絶望した。
この過去問と試験範囲がズレているのだ。
過去問と同じ問題が出題されると堀北会長は言っていたが、試験範囲と比べると過去問の方が範囲が広い。
狭まる事はあっても増える事はない筈だ。
まあひとまず試験範囲の変更に注意しつつ、学習範囲を全て押さえておこう。
その後、数学と理科も同じように問題を解くと勉強疲れが出てきたため今日は寝ることにした。
5時間ほどの睡眠を取り、翌朝を迎える。
今日も昨日と同じように学校に早めに到着し教室に向かった。
だがそこには既に先客がいた。
一之瀬帆波だ。
私が来るまで暇を潰していたのだろう。
私の姿を見ると笑顔を向けてきた。
「おはよう! 如月さん」
「……お、おはよ」
いきなり声をかけられ少し驚いてしまった。
私は彼女の挨拶に応えるように会釈をする。
彼女とは相性が悪いためこの時間が気まずい。
ひとまず私は席に着くと、机の中に入れていた単語帳を取り出し教科書と一緒に鞄に入れる。
数学の問題集を開いて昨日の復習を始めた。
すると彼女が話しかけてくる。
「ねえねえ、今って英語やってる?」
唐突に聞かれるが私は首を振る。
「そっか、残念…。」
心底落胆しているような声で彼女は言った。
一体何があったのだろうか。
私が疑問に思っていると、彼女はすぐに理由を話してくれた。
「実は私英語が一番の苦手科目なんだよね。如月さんは?」
「理系科目よりは得意かな。」
そう即答すると、彼女から笑顔が消えていく。
「へぇ、凄いね。もし良かったらこの問題教えてもらえないかな?私今日当てられる日なんだよね。」
英語の先生は席順に指名し問題を解かせるタイプの先生だ。
私は断ることが出来ず、彼女の問いに答えを導いていった。
彼女は満足した様子で何度も礼を言ってきた。
チャイムが鳴り先生が現れると授業が始まった。
彼女は緊張した面持ちで前を見据えている。
その顔には不安の色が隠せていない。
しかし授業が始まってしまえばそんなものは消し飛んだように堂々と問題を読み上げていく。
その姿にクラスのみんなが拍手を送る。
私も彼女に称賛を送った。
そのせいなのかわからないが、私の方に視線を向けられ小さく微笑まれてしまった。
「じゃあ最後に過去のセンターで出題された問題を解いて貰おう。如月頼めるか?日本語訳と解答を頼む。」
この先生、授業の最後に入試やセンターレベルの問題を出してくるのだが、毎回私を当ててくるのだ。
新手の嫌がらせなのかなぁ。
"次の文の( )内に適する語を選べ。
Sarah is always able to answer the teacher's questions. She is such a ( ) girl.
1.dependent 2.lazy 3.shy 4.smart
「日本語訳が『サラはいつも先生の質問に答えられる。彼女はとても利口な少女だ。』で、答えが4番です。」
「正解だ。この問題は全文を訳すと()内の形容詞がどれか分かるようになっている。単語帳を確認しておくように。」
先生は授業を終える教室を去って行った。
私がノートを閉じようとした時だった。
誰かが後ろから背中をつついてきたのだ。
振り返ると一之瀬が私の後ろに立っていた。
彼女は小悪魔的な笑みを浮かべて言う。
「如月さん!本当にありがとう!助かったよ。これのお礼はちゃんとするからね。」
そう言って彼女は自分の席に戻っていった。
努力家で前向きで太陽みたいな彼女を見ていると、自分の陰鬱さがより際立つような気がした。
自分の事だけを考えて生きている私とは真逆の存在だ。
誰かのために考え行動する彼女の事が理解できない。
打算や下心があるなら人間らしいと思って理解出来るかもしれないが、彼女にはそんな素振りが一切ないのだ。
だから、嫌いなタイプだと思っていたのだけど…。
──どうして、私は彼女と話すのが嫌ではないんだろう。
ちなみにこの日の放課後、勉強会に誘われたが丁重にお断りした。
やっぱり効率が悪い事を大々的に行うのは生理的に無理だ。
強弱の勉強効率が悪くてもいいから生徒に教えるだなんて、自己満足の自己犠牲でしかないのだから。
やっぱり彼女のような人間は理解不能だ。
人が良いという時点でだいぶ胡散臭いし、入学初日のOLや櫛田桔梗と同レベルだ。
いや、OLより2人の方が理知的だな。
この学校には私を楽しませてくれるシステムや人間が多い中、彼女や櫛田のような人間だけは受け入れられない。
新興宗教を見ているようで面白くはあるが、自分が信者になる事はあり得ないので気持ち悪くて仕方ない。
この日私は帰宅途中の有栖とのんびり喋りながら寮に戻った。
やっぱり有栖は天才だから一緒にいて楽しいなあ。