ようこそ利己主義者のいる教室へ 作:眠り鼠
櫛田桔梗は主人公に脅されどう変わっていくのか?
ではお楽しみ下さい。
ようこそ表裏一体ガールの教室へ
放課後になると私は図書室に向かった。
この学校の図書室は、普通の高校と比べものにならないほど大きいため、探せば必ず何かしらの本はある。
そこで私は参考書と問題集をいくつか選び出し貸出処理をして貰った。
そのまま寮に戻るのも良いが、せっかく外に出てきたのだ。
どこかに寄って帰ろうと歩き始めた。
ショッピングモールでショッピングでもしようかと思ったが、今は夏服が欲しいという気持ちがあまり無かったため、またの機会にすることにする。
少し遠回りして学校の近くまで戻ってくると、女子生徒が柵を蹴りつけながら暴言を吐いていた。
何かに取り憑かれたかのように一心不乱に蹴り付け続ける姿はまるで鬼女だ。
忌々しい雰囲気を漂わせながら深い憎悪を撒き散らしていた。
確か彼女はDクラスの人気者、櫛田桔梗さんだ。
ウチのクラスにも仲良くなりたいからと言って挨拶に来た女子生徒である。
皆の人気者がこんな事をする生徒だと知ったら、どんな反応をするだろう。
落胆、失望、蔑み、嫌悪、恐怖。
どの反応をしても面白そうだなあ。
特にDクラスの生徒は良い反応をしそうだから楽しみなんだよね。
弱みを握ってポイントを脅し取るのもいいなぁ。
きっと櫛田さんは歯軋りしながら私に従うしかなくなるの。
私は茂みに隠れてこっそり映像を録音する事にした。
「あぁ、うざったい。ホント、ウザい。お高くとまりやがって、ムカつく。死ね、死んでしまえ!」
彼女は何度も同じ言葉を繰り返しながら足を振り上げ柵に叩き付ける。
ストレス解消のためだろうな。
「堀北しねぇ!!」
しばらくすると彼女は満足したのかその場から離れていった。
それにしても堀北って生徒会長と同じ苗字だなあ。
堀北会長の兄弟だったりするのかなぁ?
この映像を見て慌てる堀北会長の姿を観察するのも楽しそうではあるけど、生徒会の役員になっちゃったからそんなゲスなことも出来ない。
甘いものには裏がある、裏が見えていて了承したのは私なのに今更凄く後悔してるよ。
この映像は帰ったらPCに保存しておこう。
私は彼女を見送るとゆっくりと立ち上がった。
さっきまでイラついていた彼女だったが、今の表情はとても穏やかだ。
あんなに怖い顔をしていたのに、何があったら天使のような顔に戻れるのだろう。
私は不思議に思いつつも、その場を離れて寮へと戻った。
翌日の放課後、生徒会の審議が終わったと連絡が届いたので生徒会室へ向かった。
中には会長しかおらず、私の顔を見るとすぐに話しかけてくる。
「やあ、よく来てくれた。早速だが審議の結果、君は我が校の生徒会役員へと選ばれた。」
あーあ、本当に生徒会役員になっちゃったんだ。
問題児が随分昇進したなあ。
「ありがとうございます。精一杯励んで参ります。」
そう言って頭を下げる。
「通常業務の説明とメンバー紹介は明日行う。放課後は予定を入れないようにな。」
「分かりました。」
どのような事を行うのか尋ねると、校内の見回りや書類作成、生徒会室の管理、学校の公式SNSの更新らしい。
その後書類にサインと捺印を押し、正式な手続きを終えて生徒会の一員となった。
生徒会室を出て帰路に着くと坂柳に出会した。
「有栖ちゃんも帰る所?」
「はい。…美星さん今からお時間あります?私の部屋で少しお話しませんか?」
断る理由もないので承諾すると、彼女は嬉しそうな顔を浮かべた。
そして2人で彼女の部屋へと向かった。
「飲み物は紅茶でよろしいですか?」
「うん、紅茶でお願い。ありがとね。」
私は彼女に礼を言う。
ティーカップに注がれた琥珀色の液体を口に含む。
相変わらず紅茶は美味しい。
そんな風に味わっていると彼女が口を開いた。
話の内容は他愛もない世間話から始まって、先日説明されたSシステムや赤点退学の話に変わっていく。
「赤点を取ると一発退学だなんて珍しい学校だよね。」
「そうですね。少し厳しいような気もしますが、このテストには赤点を免れる方法があるそうですよ。」
やはり彼女もその方法を思い付いているようだ。
やっぱり彼女は期待を超える天才だ。
「ふぅん。有栖ちゃんはその方法が何か分かった?」
試させて貰うよ。
あなたが本当に天才かどうかを。
私はあえて知らないふりをして尋ねる。
もし知っていたとしても彼女は簡単にはボロを出さないと思うけど。
だってこれはクラス闘争に関わる内容だからね。
「いえ、まだ。ですが大体の予想はついています。」
「へぇ、聞かせてもらってもいいかな?」
「そうですね。まず前提として先生の発言が事実だとします。赤点を免れる方法が確実にあった場合、点数を買うか地道に勉強をするか、類似問題……過去問を解くかといった3択に絞る事が出来ます。カンニングを行う権利は存在しないそうなのでこの3択になります。」
点数を買う、か。
赤点を取った後の対処法として考えられるが、それは赤点を免れる方法ではなく赤点を取り消す方法になってしまう。
だが発想としては面白いなぁ。
やっぱり彼女は天才だ。
彼女は冷静に分析を進めていく。
そしてその分析から導かれる結論は…
「ですので、赤点を免れる方法とは過去問を用いた学習という事になります。先生の言葉が事実なら、過去問と全く同じ問題も出るかもしれませんね。」
彼女は一呼吸おいてから私に改めて向き直った。
「私は貴方のお眼鏡にかないましたか?」
完敗だ。
彼女は紛れもない天才で、私の考えの遥か先を行く人間なのだ。
私が彼女を試していた事を知りながら私の望むような回答をしてくれた。
掌の上で転がされていたのは私だったのだ。
「うん、文句なしの満点だよ。」
私はそう言って彼女に手を差し出した。
すると、彼女はにっこりと微笑みながら、しっかりと握り返してくれる。
ああ、これだから私は彼女の事が好きなんだろうなぁ。
彼女は他の人とは全く違う。
私の心の底を見透かすように、真実を見抜く目を持っている彼女が大好きだ。
「有栖ちゃんはやっぱり天才だなあ。」
「うふふ、ええ。私は天才ですよ。」
私は天才と呼ばれる多くの人間を見て来た。
その中でも彼女、坂柳有栖は飛び抜けている。
だけど私は彼女より強い人間は沢山いると思っている。
でも彼女以上に強い存在がいるとするならそれは誰なのか。
高円寺六助か、堀北学か、それとも噂の副会長か、Cクラスの暴君か、はたまたホワイトルームの作られた天才…
────綾小路清隆か。
私はまだ彼女の実力の一端しか見ていない。
だから判断する事が出来ないが、彼らとの戦いにおいてBクラスはなす術もなくやられる事だけは間違いない。
一之瀬帆波も優秀だが、彼女が引っ張るクラスは仲良しこよしの鎖国的な王国だ。
革命が起きる前の江戸時代みたいなもの。
坂柳有栖は身体的なハンデを背負って尚、それすらカバーし優秀な頭脳を用いて戦える完璧な人だ。
天才とは、ただ優れた能力を持つだけの人間ではない。
生まれ持った天性、血の滲むような努力。それらを乗り越えた者だけが、天才と呼ぶに相応しい。
そう考えると私はどうなのだろう。
天才と呼べるような才能はないが、凡人という訳でもない。
では秀才なのか?
秀才の定義が分からないけれど、少なくとも天才と肩を並べられるような器量を持っていないことは確かだ。
天才と秀才の違いとは何か。
天才と非凡人の違いは何か。
天才同士は分かり合えても、非凡人は理解されない。
そんな事はよくある話だがどちらも凡人からしたら異常であり、畏怖すら感じる対象だという事くらいしか分からない。
「ねぇ、有栖ちゃん。お礼と言っては何だけど、いいものを見せてあげる。」
鞄から堀北会長に貰った過去問を取り出し彼女に手渡す。
彼女は過去問を手に取ってページを捲り、中身を確認していく。
「どうかな?この問題は中間テストの過去問だよ。」
そして少しの間無言で読み続ける。
きっと彼女の頭の中では凄まじい速さで計算が行われているはずだ。
そして暫くして、彼女は口を開いた。
「……この問題の一部、最後の3ページだけテスト範囲からズレているようですが。今後テスト範囲が増える、という事でしょうか。」
やはりそこに気づいたか。
流石天才と呼ぶに相応しい人だ。
「うん。実はそうなんだよ。もしかしたらテスト範囲はこれから増えるかもね。」
「なるほど。これは確かに良い情報ですね。」
その後私は他愛無い話をして過ごした。
「そういえば有栖ちゃんはAクラスでリーダーをめぐって派閥争いをしているんだよね?」
「そうですね。Aクラスでは私の他に葛城康平君という生徒がリーダーに立候補しているのです。」
「その葛城って生徒はどんな人?」
「一言で言うなら真面目な人ですね。攻撃よりも守護に重きを置いている保守的な思考の持ち主です。」
葛城康平、名前はたまに全国模試で見た事がある。
恐らくAクラスの中で彼女に次いで優秀な学力を持っている生徒だろう。
「ふうん、有栖ちゃん的に彼はライバルとして認めてるの?」
少し踏み込んだ質問をしてみる。
すると彼女は即答する。
「そうですね。彼はとても優秀だと思いますよ。しかし、天才である私に勝つ事は出来ません。彼はただの秀才に過ぎませんから。」
なるほど、彼はメインディッシュの前のスープやサラダ以下らしい。
でも彼女が口にするものなんだから、きっと激選された高級なミネラルウォーターなんだろうなぁ。
「そうなんだあ。」
彼女は現在派閥争いで暇を潰しているようだ。
つまるところ退屈らしい。
そういえば、堀北会長が1年の一之瀬と葛城が生徒会役員に立候補したが断ったと仰っていた気がする。
葛城君を生徒会に入れて、あーしてこーして、ほんの少し砂糖を加えて、ゼラチンを入れて、冷蔵庫で冷やし固めたら苺を乗せて…
うんうん、美味しそうな苺ゼリーの完成だね。
決めた、Aクラスには興味がないけど有栖ちゃんの実力には興味がある。
て事でまずは葛城君を生徒会に入れないとね。
育成ゲームってCMで見た事しかないんだけど、私にもできるかなぁ。
「有栖ちゃんは退屈なんだよね。」
「有栖ちゃんは退屈なんだよね。」
「そうですね。この学校は刺激に欠けます。」
うんうん、天才様がたった1人で遊んでもつまらないよね。
天才には天才が対処しなくちゃいけないけど、ここには天才がいない。
まあでも、凡人よりは秀才の方がマシかなぁ。
ならやっぱり葛城康平君をえ
非天才の私がつまらないんだから、有栖ちゃんの日常なんて息を吸うことすらつまらないんだろう。
可哀想に。私が息をさせてあげないと。
彼女と別れ自室に戻ると、捨てアドで櫛田桔梗を脅す事にした。
あの映像を添付したメールを送信する。
強引に交換させられた連絡先がこんなところで役に立つなんて皮肉だなぁ。
葛城康平君が今のままだと有栖ちゃんが楽しくないんだから、やっぱり変わってもらわないと。
どうやってコンタクトを取ろうかなあ。
私は今後の計画に想いを馳せる。
私の大好きな有栖ちゃんの為に。
私の楽しい学校生活の為に。
目を開けると朝日が昇っていた。
どうやら寝落ちてしまっていたみたいだ。
制服に着替えて身支度を整える。
今日は放課後に生徒会室で顔合わせと業務の説明を聞かなければならない。
気合いを入れ直して、頑張ろう。
主人公のどんなとこが好き
-
性格
-
賢さ
-
行動