(2024.01.19 追記) ※まほあこアニメ化の衝撃につられて書きはじめた作品になります。アニメ版とキャラクターに差異が出てますがすいません!
※本作のマジアベーゼ様は原作のご本人ではなく、似たような性格と『個性』を持ってヒロアカ世界に生まれた別人になります。ヴェナリータは本作世界に転移してきた本人です。
プロローグ
『願わくば、キミ自身の心に、憎悪が宿らんことを』
そこは闇の中に沈んだ最下層だったが、見上げれば月が顔を出していた。
ねじ切られたコンクリートに、砕かれた鉄塊。
暴徒の通り過ぎたストリートのそれより丁寧に破壊された、ガラスと機械の成れの果て。
破裂した果物の皮のように捲れ上がり、その裂け目から月の夜空を見せる鉄筋コンクリートの下。
ブチ撒けられた残骸のサラダボウルを、男が
その男の身体は四肢から胴体、そして顔面まで、周囲の残骸と同じくらい使い物にならなくされていた。
生きているのも信じ難いその姿で、ゆっくりと
ひたすらに強欲な男だった。
全てを求め、全てを奪い、そうやって全ての未来を阻もうとした。
何を成しても飽き足らず、拙速に、絶え間ない悪意を振り撒いてきた。
そして今、その全てにおいて敗北しようとしていた。
だが彼はその強欲ゆえに諦めるということを知らず、残された一手で全ての未来を閉ざしてしまおうともがいていた。
一発逆転などという、彼自身嘲笑してきたはずの都合のいい願望にすがりつき、最後の希望に向かい。
彼の前進を、不意に女の声が遮った。
「人生は迷路ですね」
成熟してはいるが枯れた気配のない、どこかとぼけていて、存分に芝居のかかった、甘い声だった。
「行き止まりのひとつが、これ」
彼を憐れむその声は近く。
しかし、それに伴うはずの足音は無かった。
それは虚空に漂う黒い霧の中から、開け放たれた窓をくぐり抜けるかのように、ぬるりと姿を現した。
初めて足音が響き、女の全身が月明かりに晒される。
それは異装だった。
あるべきもの全てを間違えたかのように正しくなかった。
フリルとレースで飾り立てられた黒と紫のドレスは、全身を幼げに包みながらも人として守るべき箇所を一切覆っていなかった。
鎖骨、背中、胸、腰から尻まで青白い肌が晒されていた。
晒された胸の豊かな双丘、その先端には星形のニップレスが適当に貼り付けられていた。
腰まで届く豊かな髪の中から、彼女が異形型個性であることを表す一対の角が天へ伸びている。
その右手には低年齢層向けのファンシーな装飾がされた鞭を握っていた。
それは明確に、子どもでもわかるような、そこからさらに恥と外聞も捨ててしまえばそうなるのかもしれないような。
どこか道化じみた、それでいてまぎれもない悪の装束であった。
「マジアベーゼ……」
「ごきげんよう。よい夜ですね。
AFOと呼ばれた男は思考を巡らせていた。
かろうじて無事に残っている顎に思わず笑みが漏れる。
全ての敗着が決まりつつあるが、詰みまではまだ数手残されている。
彼女──マジアベーゼは彼が弄んできたいくつもの駒のうち、もっとも強力だがもっとも想定外の駒だった。
(なぜ
彼の類希なる頭脳は最高潮の回転を始める。
その悪辣な人生を支えてきたのはいつだってこんな
「らしくないじゃないか。こんな危険な場所に来るなんて。僕にトドメを刺しに来たのかい?」
彼はマジアベーゼの「性癖」を理解しているつもりだった。
この女はどんな状況においても人を
そして彼自身と同じく、欲望を満たすためには裏でコソコソとした準備と根回しを惜しまない生粋の
そう思えばこの女がここにいるのは当然だ。だからこそ。
(こいつを、奴にぶつける……この僕を敗北せしめた、あの
しかし、女の意識は彼の方を向かず、どうにも散漫だった。
何か、自分とは別の何かを気にしているようだった。
「いいえ。ちょっとした忠告と、伝言を」
「ほう?」
マジアベーゼが親指を立てて後方を指す。
「あなたが
「は?」
思考が止まる。
その言葉は思わせぶりながら確実に、彼の隠された意図を、希望のありかを暴いていた。
「馬鹿な……使っただと? 何に?」
「ご自身が
何かを口に投げ込むようなジェスチャー。
「自分に、使ったというのか……? 一体なんのために……」
「さあ? でもお役には立ったようですよ?」
そこではじめてマジアベーゼが笑顔を見せた。
「そんなヴェナリータさんから伝言です。『
「!?」
あの取るに足らない異形型個性の連絡役が。
自分におもねる振りをして梯子を外してきたか。
だが、
彼はここでようやく、マジアベーゼの気宇壮大な言動が
「そうか。『認識阻害』のオリジナルはあいつか……」
「あの人の勝ち逃げでしたねぇ……後始末を押し付けられちゃいました、というわけで」
マジアベーゼがようやくAFOを見下ろす。
「ここは通しませんよ。……
「後始末か……もうそんな義理を果たす必要もないんじゃないか?」
AFOがうめく。
おどけていた女の表情がさらに崩れ、にっこりと、
「いけませんねぇ。ああ、いけません」
両腕を広げ、その口上がさらに芝居掛かっていく。
「こんな
ブツブツと喋り始めたこの女が何を言っているのか意味がわからなかった。
やがて、この女が真実を語っている保証がないことに気づき、彼は計画を続行することにした。
(そのために与えるべき『個性』は……)
それも間を置かず、もうひとつの足音に遮られてしまったのだが。
薄暗い月明かりが生み出すほのかな陰影、それよりも
きてしまった。追いつかれた。
本当に逃れたい相手が。そこに。
マジアベーゼもその気配を察し、残念そうな顔をした。
「あなたですか。オールマイトではなく」
「そうさ。
それは淡々とした、軽い足音で現れた。
背は高くもなく、低くもなく、痩せぎすの体格をしていた。
無地のTシャツ、その下は野暮ったいジャージ。
しかしその腰にはガンベルトが巻かれ、明らかに安全基準を無視した
そしてあまりにも禍々しい黒と緑の電光を全身に這わせながら、彼は歩み寄ってきた。
地面に臥せる体から首をいびつに曲げて、AFOは振り向いた。
「……
はるか昔、弟に与えた『個性』の残骸が。
個性特異点のその先から現れたかの者が。
戦略、戦術の一切をねじ伏せ、じわじわとにじりよる悪鬼が。
AFOをここまで破壊した、『最低のヒーロー』がそこにいた。
だがデクは彼を見ていなかった。
(泣いている……?)
その向こうにいるマジアベーゼをじっとにらみつけていた。
マスクの奥に見える血走った両目から壊れた水栓のように涙があふれ、マスクの外にこぼれ落ちていく。
「意外です。
「黙れ」
デクが鼻声混じりの怒声を返す。
マジアベーゼは意にも介さずおどけた調子で続けた。
「いかがでしたか? ──との戦いは」
「ほざけ!
「まあ、あなたの感想はどうでもいいんですよ」
マジアベーゼが眉間に
その画面には『通信が切断されました。電波状況の良いところに移動してお試しください』というダイアログが表示されていた。
「ちゃんと録画とストリーミングができてたかどうかが心配なんです」
「それについては完璧だったよ! ありがとうちくしょう!」
デクがぐしぐしと腕で涙を拭う。
「それはよかった」とマジアベーゼも笑顔を取り戻す。
そして、デクとマジアベーゼは示し合わせていたかのように同時に半身の姿勢で向かい合った。
互いの背は闘志に逆巻き、互いの表情は戦意に満ち溢れていた。
「さて、デク、どうするおつもりで?」
「お前の流儀でやってやるさ……
「あなたは違うと?」
「そうさ、だから僕が来た」
デクが表情を変えた。
「僕が…… ────で来た」
余裕に満ち溢れていたマジアベーゼの表情が変わった。
「なるほど、────────。あなたでしたか」
デクが個性を発動する。
彼の周囲を電光が駆け回り、弾けるような音を立てて騒ぎ出す。
「あの時、僕は、お前のことが理解できなかった」
個性『
「お前が何者で、何のために、だれのために、何がしたかったのか」
──それは運動の第2法則までもねじ伏せる超パワー。
「でも、
オールマイトから受け継ぐことができたのは、
「だからこそ、止めてやる」
世界を救うにはそれで十分だった。
「だから、今日で終わりだ。マジアベーゼ、いや、
「まだ終わりませんよ」
最初にはねたのはマジアベーゼだった。
それを受けてデクも飛び出す。
二人の超人的な瞬発力がその場に残像を残し、その交錯が空間に電光混じりの打撃痕を残す。
瞬きする間もなく、さらに離れた場所に手四つで組み合いながら着地し、その余波で周囲の残骸を弾き飛ばした。
「何も始まっていませんから」
マジアベーゼの両腕から黒い
それを察したデクが手を離し、後ずさってホルスターに手を掛けた。
マジアベーゼの個性、『
万物に服従を働きかけ、屈服したものを主人の
意志を持たぬものであれば空間ですら触れられるだけで屈服し、意志を持つものはその姿を見、その声を聞くだけで影響を受ける。
その理不尽な影響力、改変力が特徴だが、
そんな強力な『個性』ではあるが、その対処方は至ってシンプルであった。
それは決して屈しないこと。
もしくは屈服させられる前にマジアベーゼをブッ飛ばすことである。
「さんざんメチャクチャにしておいて何を言う!」
デクが加速する。
「はっや」
マジアベーゼがそうつぶやく間もなく、彼女が地面から生み出そうとした使い魔たちは、
デクはさらに黒い扉の向こうから召喚されようしていたものたちに
自業自得ながら弱みを握られ、『無個性』を理由に資格もなく、手当も頂けないまま、
その労苦の日々は臆病で引っ込み思案な
デクは
マジアベーゼは詰まらなさそうに鞭を手放す。
「善意にも見返りが必要なのです」
低賃金労働がデクを鍛え上げた一方で、
「ぐぅっ!!」
マジアベーゼが仕掛た当て身のコンビネーションにデクはたまらずバランスを崩し、さらにその死角に転がった鞭から黒い衝撃波が放たれ、デクの背中に浴びせられた。
激痛により意思の力を削り、肉体に直接屈服を促す支配の一撃。
だが、それはデクがその本領を発揮するために待ち望んだ『トリガー』でもあった。
『
それは
死柄木弔により崩壊させられ、マジアベーゼにより改変させられ、オールマイトが取り戻した6つの個性のフルコンボ。
『
『
『
『
『
『
たったひとつの『
個性の事象地平線を這いずる可能性の獣。
またの名を────。
「──────────!!!!」
くぐもった声でデクが絶叫する。
高らかに振り上げられた右腕が、ゆっくりとマジアベーゼを指差していく。
「何が善意だ! お前の
「平行線ですねぇ。ですがいいでしょう。──ここまで来たあなたに、ご褒美を差し上げましょう」
デクの変化に呼応するように、彼女もまた『何か』を発動した。
「
マジアベーゼが姿を変えていく。
その身を包んでいた少ない装束が解かれ、生まれたままの姿の上に黒い糸が巻かれていく。
素肌に柔らかく食い込んだ糸はそれ自身が生きて、そう望んでいるかのような速さで編み上げられ、やがて『武装』の形を成した。
ただ『悪』を表現していたかつての異装はなりをひそめ、その姿には明確な恣意が表れていた。
それは捕食者の、侵略者の、偏執者の、そして対手を迎えた拷問者の象徴。
なおそのコスチュームの
デクを見下ろし、酔いしれるような仕草で、芝居掛かった口上を述べる。
『私はマジアベーゼ。
彼女の『力』に囚われた世界が、彼女が愉しむための拷問部屋へと姿を変えていく。
『糸に囚われた蝶の夢。希望に取り残された箱庭の主』
人を人ならざる者へ堕としていく理外の暴力。
混沌に溶けた成れの果てを原典へ引き戻す
『そして
個性の枠を外れ、もはや『魔力』としか言い表しようのないその力を統べる、唯一の真なる魔王。
マジアベーゼの変身により、世界は再び暴力の嵐に引き戻された。
互いの世界を改変しようとする力が相殺され、拳の行く末が社会的合意を形成する
「オールマイトからの伝言だ!」
拳を突き出してデクが叫ぶ。
──私はもう君を傍観者にはさせない!
二度と安全地帯から好き放題できると思うなよ!
ヒーローのこれからについてじっくり膝を突き合わせて語り合おうじゃないか!
──その拳を、腕を十字に組んで受け止めて、マジアベーゼが答える。
「同担拒否で!」
「どの口がぁっ!!」
力と力が再び激突した。
「
男は、AFOは気づいた。
もはや自分は眼中にないのだと。
彼が阻んだはずの未来を、閉ざしたはずの可能性を。
ただの『逆境』と称して平気で受け入れ、そして
彼の望みをどこまでも
(この先にあるはずなんだ……友の残した……最後の希望が……)
彼は最後まで己の強欲のままに、己の都合のいい幻想に向かって、闇の向こうへと突き進んでいった。
(2024.01.19 追記)
2025年末くらいにこのプロローグのシーンを回収できたらいいなくらいのペースで進めております。
よろしくお願いします!