デクvsマジアベーゼ   作:nell_grace

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※ヒロアカ原作1話の8ヶ月くらい前、中学二年夏のエピソードになります。出久くんがメインです。
※三話タイトル変更(2023.05.17)


第三話 ジェントルvsマスキュラー(1)

それが、はじめて()()()()()()は、何もかもが白い部屋だった。

 

調度がある。扉もある。カーテンの掛けられた窓もついている。

天井には照明もあり、柔らかい灯りが部屋中を満たしているのもわかった。

壁紙も、フローリングも、模様があるように見えたが、それの感覚では全てが『白』だった。

 

それはまだ自覚していないが、()()()()()()()()()()による、膨大な彩度の情報に圧倒されていた。

 

それは自身がシーツに(くる)まれていることに気が付くと、それを振り払おうとした。

乾いた布は、それにとってもっとも()()()もののひとつだったから。

 

だが、振り払おうとした身体(からだ)は動かなかった。

 

それは、その異変に危機感を覚える。

自分が直前に受けた衝撃を思い出した。

何かに入り込まれ、かき混ぜられ、消えていく感覚。

自身をそうたらしめていた、何らかの圧が失われ、それと共に飛ばされた意識。

 

どうにか体を動かせないだろうかと、それは視線を這わせた。

とにかく布には触れていたくない。

あの『吸われる感触』がたまらなく気持ち悪いのだ。

 

それは、そこまで考えてから、現状がそう不快でないことに気がついた。

もしかしたら防水シートが入っているのかもしれない。

こんな特徴的な身体をベッドに寝かせるような酔狂な奴なら、それくらいの配慮はするのかもしれない。

全身が、さらさらとした感触を訴えている。

 

(あれ、()()()()って何だ?)

 

その時、ドアを開ける音がして、反射的にその方向を向くと、二人、部屋に入ってくるのが見えた。

 

自分の本来の体積(トゥルーフォーム)より若干大きい程度の、小柄で黒い異形と、中肉中背の若い女だった。

どちらも真っ白なジャケットを羽織っている。

 

 

「ああ、目を覚ましたね」

 

異形の方が、ベッドにいるこちらを見て言葉を発した。

その異形はそういう『個性』なのか、宙に浮いている。

少し硬い口調が男を思わせるが、それには性別を判別できなかった。

 

「な、何だ、テメェら……何モンだ……?」

 

それはか細い声を発した。

何かものすごい違和感があったが、ほとんど動かない身体で、なんとか言葉を紡げたことに安堵する。

 

横から、女がぬっと近づいてきた。

思わず体を強張らせる。

 

「ああ、落ち着いて。焦ることはありません」

 

そう言って、女はゆっくり顔を近づけてきた。

部屋に入ったときにはなかった、眼鏡をかけている。

 

女はこちらをじっと見つめた後、何かに感じ入るかのような表情を見せてから、話しかけてきた。

 

「あなたにお話があります。いいですか? どうか落ち着いて聞いてください」

「バイタル安定」

 

横から声をかけてきた異形を横目に見て、女はうなずいた。

 

「山の中にいたときのことを覚えていますか?」

「あ、あぁ……」

 

そう聞かれて、それは己が重症だったことを察した。

徐々に覚え始めた違和感の正体を探り始める。

 

「あなたはあれから、眠っていたんですよ……十六ヶ月も」

「うへぇ……」

 

それはさすがに驚いた。

少しの間、うたた寝をしていたくらいの気分だったからだ。

言われてみれば、ずっとなにか(もが)いていたような気もする。

 

「体が……動かねぇんだ……」

 

それは自分の体の不調を訴えた。

言われた二人はベッドの左右に近づいてきて、何かを探るような仕草を始めた。

 

「おかしいですね。『魔力』の流れに異常はなさそうですが……」

「そうだね……副交感系のパルス正常、不随意運動なし……ああ、わかったよ」

 

左側にいた異形がこちらをのぞき込んできた。

 

「キミ、自分の身体を神経で動かしたことがないな?」

 

(何を言っているんだこいつは)

 

それは不審に感じた。

そんなもん、流動的な身体をした自分にあるわけが……

 

そう思って、それは、気がついてしまう。

身体が流動していないことに。

 

「お……お前ら……何をした……?」

 

正確に言えば、流動している。

だがそれは何か分厚いモノの奥底で、細々しく循環しているだけだ。

 

「そういうことですか、まずは()()()()()()からですかね!」

「キミも何か『個性』があるんだろう? まずそっちから試してみなよ」

 

言われて反射的に『寄生』したときの事を思い出すと、反応があった。

それが何かに『寄生』したとき、その対象を動かすための操作。

それに反応して、自分の腕が動いた感触。

 

(まさか……まさか……)

 

それは身体を覆っているシーツを乱暴に跳ね飛ばした。

 

自分の手を確認する。

白く、細い、小さな手。

青い糸のような血管が見える。

両方とも、自分の操作に反応して、指が曲がる。

 

「あ……あぁ……そんな……そんな……」

 

「脈拍、血圧、これはまずいね」

「まずい!? ナース! ナース!」

「いないよ」

「大丈夫、大丈夫、落ち着いて……」

 

それは、慌てる二人を無視して、おそるおそる自分の上半身を起こしていく。

 

(だめだ……それだけはだめなんだ……)

 

呼吸が荒くなる。

視界が赤くなる。

 

あの身体が、泥と水分と腐臭に満ちた、あの流動的な身体が……

 

(あれだけが、あれだけが……)

 

母親から与えられたもの。

その愛を証明するものなのだから。

 

「イヤァァァーッ!!」

 

それは自分の身体を確認すると、細く甲高い叫び声を上げながら卒倒した。

 

 

「──落ちたね。ショックが大き過ぎたみたいだよ」

「教えてもらったとおりにやったのに……」

 

「……誰に?」

「『ちえぶくろ』で聞いてみたんですよ。こう言うとき、お医者様としてどういう声の掛け方すればいいか……」

「それ大喜利のネタ振っただけじゃないか」

「ええっ!? そんなはずないです。一番『Good』がついた回答を選んだんですよ?」

 

「……キミ、ネットに依存しすぎだよ。学校でぼっちなのは知ってるけど」

「ぼっ!? ……んなっ! 私にプライベートはないんですか!」

「学校はパブリックスペースだよ」

「のぞかないでください!」

 

 

 

──飛田弾柔郎(とびた だんじゅうろう)は嫉妬に震えながらその動画を視聴していた。

 

「なぜだ? 何が違うというのだ? エノルミータ、いやヴェナリータ!」

 

視聴しているのはエノルミータ公式チャンネルの最新投稿動画、そのタイトルは『ベーゼ様、また星にされてしまう(2ヶ月ぶり5回目)』である。

 

『あの……お尻、出してもらえますか……?』

『えっ? いっ……いったーい!! 何すんのよ! この……!! うあっ!』

 

振り下ろされる鞭。

綱で縛られたまま、鞭打たれる女性ヒーロー。

その暴力に晒されて、ぷるりと震える豊かな臀部(でんぶ)

 

『ほら……はやく抜け出さないと大変なことに……あっ、すいません鼻血が』

『こんのォ……いいかげんに……いったぁッ!! ちょっ! やめっ!』

 

鞭が空を切る音、衝撃音。

苦痛に(もだ)える顔がアップで写り、悲鳴じみた声が続く。

 

映像の下に「マジアベーゼ様がお楽しみ中のため、しばらくお待ちください」のテロップが流れる。

 

「くっ……見ていられんっ!」

 

彼は思わず目を逸らしてしまった。

彼は暴力が嫌いだった。

暴力を振るうのも、振るわれるのも全く以って御免だった。

 

当時は社会の理不尽に憤ったものだが、今は自分のそういう紳士性がプロヒーローに全く向いていなかったことを正しく理解している。

 

『ふふふ……次はあなたの番ですよ……?』

 

その声に、場面が変わったことに気づいた彼は、意を決して動画に目を戻した。

縛られた男性ヒーローが抵抗している。

 

『ま、待つんだ! 俺の尻なぞ打っても大して絵にはならんぞ!? 俺はいいからあっちにしときなさい!』

『何言っているのよあなた!!』

『……え?』

『なぜそこで首をかしげる!? ハッ……まさか、君、そっちの趣味もあるというのか!?』

『……えへへ……はい、チクっとしますよー』

『ちょっ……! 何だその凶暴な形をした棒は! やめろ、やめてくれっ! アッー!!』

 

映像の下に「マジアベーゼ様が(以下略)──スキップはこちら」のテロップが流れている。

 

「ええい! 何の意味があるのだこの映像に!」

 

彼はたまらず動画を止めてしまった。

呼吸を整え、紅茶を口に含む。

 

毎回この内容だ。

何のメッセージ性もない、変化もない。

彼にとっては、とても最後まで視聴するに堪えない内容。

 

毎回ヒーローを適当に襲撃し、捕まえては折檻(せっかん)をするだけの内容である。

気になるのは女性ヒーローを対象にする割合が多いことくらいだろうか。

 

動画内で実行役を務めるこの『マジアベーゼ』という名の(ヴィラン)はそれほど強くないようで、一度はこうしてヒーローを追い詰めるが、ほとんど全ての動画で最後はヒーローに反撃されてボロボロになって逃げ出してしまう。

毎回、どんなヒーローに囲まれても逃げ(おお)せてしまう、搦手(からめて)の数々だけはとても参考になったが。

 

許せないのはこの内容で毎回、数十万再生を記録していることだった。

彼自身が社会に正義を問うために投稿している、数々の動画の百倍を超える数字。

全体のトレンドになるほどではないが、確実に固定ファンはついているという数字だった。

 

ヴェナリータを名乗る人物が彼にDMを送ってきたのは一年前の春。

彼のフォロワーとして動画を作りたいという相談に応え、彼と彼のパートナーは快く自身の動画編集技術の一部を供与したのである。

 

彼のパートナーの努力の結晶である、演出技術の数々はこのような内容でも人の目を十分に楽しませられる。

そのエビデンスの存在は彼にとって救いではあったのだが。

 

その後追いのフォロワーに差をつけられてしまったという現状には焦らずにいられない。

彼は紅茶の香りで荒ぶる心を抑えながら、分析を続ける。

 

「ううむ……メッセージ性のためとは言え……私の伝える内容が過激すぎるのだろうか……?」

「あら、ジェントル、今日も研究熱心ね!」

 

そう声をかけながら、彼のパートナー、ラブラバが部屋に入ってきた。

エアコンの前に立ち、バスタオルで汗を拭いている。

 

「ごめんなさいね、汗かいちゃった! 今日は気温がとても高いから、ジェントルは涼しい部屋にいたほうがいいわ!」

 

彼は、彼女の前では常に怪盗紳士、ジェントル・クリミナルである。

彼女の背に周り、タオルドライを手伝いながら彼女を(いた)わる。

 

「いやいや、ラブラバ、私は君が熱中症にならないか心配だよ。次の買い出しは私が行こう」

「ありがとうジェントル。でもいいのよ。私はやりたくてやっているのだから……アラ、あの子達の新作ね」

「そうなのだ。今回も大きく差をつけられてしまったよ……君は、一体何が違うと思う? もちろんコンテンツの内容ではなく技術面の話だよ」

「そうねぇ……やっぱり『天丼』かしらね!」

 

ラブラバは少し動画をスクロールした後、その質問に応えた。

彼も自分の(ひげ)をいじりながらその回答を検討する。

 

「天丼……予定調和……お約束。なるほど、こうして最後にマジアベーゼ(ヴィラン)がヒーローに負けるというオチを視聴者は期待しているのか」

 

ラブラバはコクリとうなずいた。

 

「人はなるべく自分が見たいモノしか目に入れないようにできているのよ。そのためなら退屈な展開にもちょっとだけ耐えられるの」

「ふぅむ……さすがだよラブラバ、ありがとう、少し納得できた」

「あとはお色気かしらね。マジアベーゼはいつも過激な衣装だし、ヒーローも肌を出す季節だからそういう貴重な映像も期待されているのよ」

「そうか……夏だものな。次の動画は私もシャツのボタンをひとつ外してワイルドに攻めてみるか」

「キャー!! それはあまりにも過激だわジェントル!」

「ふふふ……次回作の構想がまとまってきたね。早速構成を書き出してみよう」

 

そう言って彼はティーカップを皿に置き、皿を手に取った。

 

「おっと、ラブラバ、ちゃんと水分を補給するのだよ。ちょうどこれから紅茶のおかわりを()れるところだ、君も付き合ってくれたまえ……」

 

二人は寄り添ってキッチンへと移動していった。

その後ろ姿は恋人たちの平凡な同棲生活のように見えた。

 

 

──緑谷出久(みどりやいずく)は校庭の整備に勤しんでいた。

 

彼は中学に入学後、陸上部に所属していた。

本人は趣味に合わせて写真部を考えていたのだが、母親からのアドバイスで考え直したのだった。

 

『文化部はいいけど、意識の低い人が必ずいるからねぇ……』

 

小学校で、爆豪勝己(ばくごうかつき)の素行を見逃せなかった自分を、母は心配しているのだと感じた。

出久はそういう人がいることくらいは納得できると思っていたが、確かに自分の好きなことを(おとし)められるようなレベルだと我慢できないかもしれない。

 

そんな思いをするくらいなら、今の個性時代、本当にそれが好きな者しかやろうとしない、運動部の方がマシだと気づいた。

それは無個性の自分が、進学のための内申を飾るという意味でも合理的だった。

 

選んだのは、他の部員の足を引っ張りにくい個人競技。

毎月のスニーカー代くらいなら問題ない、という母親の言葉に甘え、彼は陸上競技に打ち込む日々を送ることにした。

 

今は夏の大会が終わり、新しい体制でスタートしたばかり。

夏休みも中盤に入り、久しぶりに校庭が全面使えるということで、部員総出で四百メートルのトラックを引こうとしていたところだった。

 

「緑谷、ちょっと来てくれるか?」

「はい」

 

顧問の教師に呼ばれた。

 

「ジャブどれくらい投げられるようになった?」

「昨日45メートルいけました。追い風でしたけど……」

「来年は選考会出られるかもな」

 

ジャブとはジャベリックスローという槍投げに似た競技で使う、羽根のついた短い槍(ターボジャブ)のことである。

 

現状、あらゆるスポーツのトップ層はそれに適した異形型『個性』の独壇場であり、それに対して身体能力を増強するタイプの『個性』を持つ非異形(ノーマル)が上位に食い込む、といった様相だった。

 

そんな中、無個性でも比較的通用する陸上競技として、投擲(とうてき)競技が挙げられる。

さらにその中でもパワー一辺倒ではない競技として、出久は槍投げを選んだ。

あわよくば競技会の出場資格に引っかかって、出場記録という成果を残しておきたかったのだ。

 

出久は部活動を通して基礎的な身体能力の向上を目指しており、大会に出る意欲はあまりなかったが、かといって練習で手を抜くつもりもなかったため、比較的マイナーなこの競技を専門にしていた。

 

「頼みたいことがあってなぁ」

「何でしょうか」

「来週の日曜日なんだが、補欠で残っとった丹羽(にわ)が地区選抜出られるようになったんだ」

「おお! 先輩やったじゃないですか!」

 

出久は真っ赤な鶏冠(とさか)がトレードマークの先輩を祝福した。

 

「ただその日、俺が予定入ってしまってなぁ。木本先生に頼んで代わりに引率してもらうんだが、あの人勝手が分からないだろうから、お前も同行してもらいたいんだよ」

「いいですよ。場所どこです?」

 

趣味が目的とは明かしていないものの、出久は土日をときどき休むと宣言しており、代わりにこういった雑用を請け負うという形で立ち回っていた。

 

 

──そうして、次の日曜日、出久はその街に来ていた。

 

「ふふ……持ってきちゃった!」

 

地区大会に出場した丹羽先輩はその日の午前中にあっさり敗退し、すでに帰りの電車に乗っている。

出久は現地で先輩と昼食を共にしてから別れを告げ、制服のまま、趣味のカメラを取り出して街を歩いていた。

 

出久は、中学に入ってから、プロヒーローの姿を写真に収めることを趣味としていた。

機会と予算が許す限りで、このような遠征をしてはプロヒーローの写真を撮影していた。

 

撮影した写真は現像して、自分が書き込んでいる「ヒーロー分析ノート」に貼り付けるのだ。

 

「前は……欲をかきすぎてピンボケしちゃったんだよな……」

 

あの春に、初めて手に入れた一枚目。

あれから一年以上が過ぎた今、それなりの知識と技術を身につけたつもりだった。

 

しかし、あの時以上の出来をした写真を、出久はまだ撮れていなかった。

 

(今日は、制服だからあまり()()()()()はやれないな)

 

せっかく来た見知らぬ土地である。

土地が変われば、活動するヒーロー達の顔ぶれも変わる。

普段なら、こんな遠出をしたなら、ヒーローに会えるまでひたすら街を駆け回るのだが。

ジョギングを装うにも、じっと張り込むにも、少々危険な場所に忍び込むにも向いていない今の服装を少しだけ嘆いた。

 

出久はスマートフォンを使い、近隣で活躍するヒーローを調べた。

 

「このあたりだと……やっぱり! ここは『ウォーターホース』の地元なんだ!」

「おっ、なんだボウズ、ヒーローの追っかけかい?」

 

突然通りすがりの男に声をかけられる。

買い物袋を手に提げている。地元の住民のようだ。

 

「あっ……はいそうです」

「運が悪いな。ウォーターホース、ちょっと調子悪くしていてな。今日はもうパトロール終わったと思うぞ」

「ええっ! 何かあったんです?」

 

「先週、ド変態の(ヴィラン)に襲われてな、夫婦そろってしこたまケツを(たた)かれたんだよ。もちろん最後は二人で倒してたけど」

 

「うわぁ……」

「まだその時のケツが治ってないらしくてな……なんか別のヒーローがサポートに来てるらしいけど姿も見たことねぇよ」

 

「ありがとうございます。助かりました」

「おう! あんまこの道でふらふらすんなよ!」

「はい……すいません」

 

(やっぱりそのスジの人だった……)

出久は肩をすぼめながら歩く道を変えた。

 

駅前の繁華街を少し外れた裏通り。

便利な店がたくさんあり、夜のお店もあり、華やかだけど、少し陰もあるようなブロック。

 

ヒーローの映像を求めて、これまでいくつかの街を歩き回ってきた出久は、なんとなくプロヒーローと出会える可能性の高いポイントを把握しつつあった。

端的に言えば(ヴィラン)の現れやすい地域である。

 

そういった界隈に出久のような子が足を運べば、当然ならず者に絡まれる事もあるが、その時は陸上部で鍛えた足を使ってガン逃げである。

一方で、今のような思ってもみなかった情報が手に入ることもある。

 

出久はそのスリルを怖がるというよりは、すっかり楽しむようになってしまっていた。

 

 

検索した近隣のヒーローの名前をブツブツと復唱しながら歩いていると、遠くから声をかけられた。

 

「少年、ちょっと……そこの少年!」

 

その日、出久がそこで出会ったその人は、ならず者のようには見えず、ヒーローでもなかった。

いや、後日よく思い返してみれば、だいぶならず者寄りの人だったのだが。

 

英国紳士をモチーフにしたのであろう。

白いシャツにネクタイ。

ストライプの入ったハイウェストのスラックス。

その上にとても暑苦しいウエストコートとストールを巻いている。

さらにその上に羽織るのは襟と後裾が極端に強調されたフロックコート。

 

整えられた銀髪と(ひげ)は、その服装によく似合っていた。

その男はそんな、かなり個性的というか、メチャクチャ暑そうな格好をして、ゴミ袋の山に背を預けて座り込んでいた。

 

その男は出久のリアクションを認めると、手を差し出した。

 

「急に声をかけてすまないね、恥ずかしながら、肩を貸して欲しいんだ……」

 

出久は言われたとおり、彼の手を取り、肩で担ごうとする。

 

「大丈夫ですか? 怪我をされたんですか?」

「なに、大丈夫さ。ちょ、ちょっとしたトラブルでね」

 

よく見れば、その人は唇から顔全体にかけて真っ青にしてカタカタと震えていた。

 

「二百メートル上空まで飛ばされてしまってね。なんとか着地はしたのだが、腰が抜けて立てないのだよ」

「それ本当に大丈夫なんですか!?」

 

出久は思わず聞き返した。

 

「あっ……無理ィ……無理だこれ。……すまない少年よ、やっぱりおぶってくれるかな」

 

その人は足をぷるぷるさせながら出久の体に(すが)りついてきた。

 

出久は慌てた。

こんなに困り果てた顔をした大人を、その時初めて見たのだった。

 




※ヘドロさん改造中。お待たせしてすみませんがデビュー戦は第四話からになります。
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