デクvsマジアベーゼ   作:nell_grace

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※冒頭のシーンはうてなの一人称です(信頼できない語り手)


第四話 オールマイトvsヘドロヴィラン(3)

車に乗って海沿いをドライブ。

これから大仕事だとわかっていても楽しい気持ちにさせられる。

 

運転する火伊那(かいな)さんはあまり『転移』に頼らない人だ。

それを目当てに仲間入りしてくれたのに。

 

「遠慮している」とご本人は言う。

でもヴェナリータさんが言うには、貧乏暮らしが長いせいで手荷物を最低限にするのが怖くなっているらしい。

最近気がついたが、あの黒い異形のおじさんは意外とウソをつかない。

でも、性格が悪いので鵜呑(うの)みにせず検索(ファクトチェック)をしないといけない。

おそらくこれは火伊那さんのデリケートなお年頃をイジっているのだ。

受け売りで口にすると死ぬやつだ。

 

わたしの腕の中でロートスちゃんが眠っている。

初めて抱き上げたときはとても軽くてびっくりしたけど、最近はちょっとだけ重くなった。

(ヴィラン)になってから初めてのお友達。

本当はもっと仲良くなりたいけれど、この子のお友達を増やすほうが大事だと思うので控えめにしている(してない)

 

学校にもお友達……と言える人はいるけれど、確認するのが怖いくらいの親密さだ。

もう中学三年生になる。私はこのままでいいのだろうか?

「安心しろ、お前はサブカル界隈なら通用する女だ」なんて火伊那さんは言うけれど、わたしそこまで尖ってないと思うんですけど?

 

膝の温もりと外の景色を楽しんでいると、運転席から声を掛けられた。

 

「怖くはないのか?」

「緊張はしてますね」

「そうじゃなくて」

 

火伊那さんが片手をハンドルから離して手を降った。

 

「とっ捕まって『認識阻害』が破れれば、後ろ指刺される人生の始まりだぞ」

「ああ、そういう話ですか」

 

ああ、わたしに何を想って、そう言ってくれているのだろう。

声をかけられるとつい期待してしまう。

『支配』の力は決して万能ではないと言い聞かせて、(あふ)れそうな想いを抑え込む。

 

「でも、今の方が『やるべきことをやってる』感があるんですよね」

「肝が座ってるんだな」

「あはは、まさかそんな」

 

顔に火照りを覚えて視線を逸らした。

なんでも褒められるのは苦手だ。

それが本当かどうかに関わらず嬉しくなってしまうからだ。

照れているのを見られるのがとても恥ずかしい。

 

夢想する。

ユーモアも交えて、洗練された受け答えをするヒーロー達。

華々しい活躍ぶりは当然のこと、インタビューの記事や動画からその精神性を読み取るのが大好きだ。

彼らとの戦いの予感に心が躍る。

ヒーローのフィギュアを並べて何度もシミュレーションしたけれど、どこまで上手くいくだろうか。

あれはお人形遊びではありません。

 

「社会に傷をつけること、損害を与えることを悪いと思わねぇのか?」

 

厳しいご指摘だ。

このように毅然とした態度で言ってもらえると、インタビューを受けたようで嬉しくなる。

 

『必要なら、それはコストかなって』

「支払うのはお前じゃねぇだろ」

『ではなおさら、遠慮は要らない気がしますけど?』

 

バックミラー越しに険しくなった凛々しいお目元が見えた。

 

『なので、コストと考えます。痛ましいですが、必ず報いるという表明です』

「イカれてるぜ」

 

間違えてしまったようだ。申し訳ない気持ちになる。

あまり勉強の出来がよくないので、難しい質問の回答は『個性』の力に頼ってしまう。

もっと勉強を頑張れば、オールマイトのようなウィットな返事ができるようになるのだろうか?

 

この『個性』はわたしの気持ちを支配者っぽく装飾してくれる。

たまに意味のわからない言葉に変わるときもあるけれど。

本体がおバカなのを偽れるものではないのだ。

最初はメチャクチャだったけど、小学校に上がってからは『個性』とも良いお付き合いができていると思う。

 

だって、ちょっとは格好をつけたいじゃないか。

あこがれのヒーロー達とのおしゃべりでは、特に。

 

「……私は昔、そういうのに疲れちまってヒーローを辞めたんだ」

 

わたしの中で、この人は今でもヒーローだ。

その立場やご活躍ではなく、()()()()()()という心の有りようがわたしを奮わせてくれると、最近わかってきた。

 

だから最近は相手がプロヒーローではなくても推しを開拓できるのではないかと考えている。

もしかしたら、この腕の中で眠っているロートスちゃんもそうなってくれるかもしれない。

 

「辞めるときにもめた上司をぶっ殺しちまったんだ」

「ひえっ」

 

わたしの想像をぶっちぎって壮絶だった。

 

「そのまま捕まってもよかったんだが、ちょっと気掛かりがあって逃げちまったのさ」

 

ハードボイルド過ぎる。

罪悪感とかないのだろうか?

 

「苦しい時期もあったが、今はどうかな。薬もあまり飲まなくなった。うてなの言うとおり、快適ってやつなのかもな」

 

ウィンカーの音が鳴る。

ハンドルを切る、火伊那さんのよく鍛えられた腕が見える。

車は右折して海岸近くに建てられた大きな倉庫が並ぶ区画へ入った。

目的地までもうすぐだ。

 

「でもな、楽してばかりじゃダメだぜ。本当にやるべきことってのはいつだってしんどいもんさ」

 

ああ、それは本当にその通りだ。

わたしも深くうなずいて同意する。

 

この『個性』は少し夜更かしするだけで容赦なく身体の調子を悪くしてくる。

わたしの推し活は半分くらい『個性』と対立状態なのだ。しんどい。

 

「伝わってねぇな。遊んでねぇでちゃんと学校の勉強もしろって言ってんだぞ」

「ふぁい!」

 

火伊那さんも厳しい人だ。

 

「まあ、これから(ヴィラン)行為するやつの台詞じゃねぇか」

 

くすくす笑いながら、ハンドルを切ってカーブを左に曲がった。

その時にわたしの方を見て火伊那さんは言った。

 

「しくじったときは私も付き合ってやるよ。一緒にタルタロスで更生しようぜ」

 

ぼっ、と顔面が熱を帯びたのを感じた。

 

「あの、それって、えっと……告白ですよね? すいません、わたし、ぜんぜん心の準備ができてなくて……」

「お前は何を言ってんだ」

「違った!?」

 

どうも、わたしは男性より女性の方が好きらしい。

なぜだかわからないけれど、男性という概念にどうも非現実感(ファンタジー)を覚える。

でも、本当に向き合おうってなったら、恥ずかしすぎて今は無理なので、早とちり気味のアプローチでフイにしておくのだ。

 

我慢しろ、順番に、少しずつだ。

できれば推しを遠くから見守りつつ、適度な分量で摂取していたい。

本来こんな大きなことをできる器ではないという自覚はある。

 

でも、誰もが夢に生きられるチャンスがあるというのなら。

挑戦する権利があるというのなら。

 

「大丈夫ですよ」

 

わたしにとっては今、これからが最初で最後のチャンスなのだろう。

 

「今日はオールマイトにご挨拶するだけですから」

 

わたしは『個性』に目覚めたあの日、あの時に、自分自身を『支配』してしまった。

そんなわたしの心の有り様はどちらでしょうか?

 

ヒーローにあこがれて、(ヴィラン)を始めた。

わたしは悪の女幹部マジアベーゼ。

夢はヒーローの箱推しだ。

 

 

 

──ヘドロの男は夢を見ていた。

 

いつか途方に暮れていた、街の雑踏の片隅だった。

ここにいたくない。帰りたい。

最初にそう思ったのはいつだったか。

 

水に入ればいつもそこが平穏の場所だった。

そこに、自分を脅かせるものは何もなかった。

汚れていて、(よど)んでいて、臭いが強い程そこは安全だった。

 

目を覚ます。

ライトバンの後部座席、うてなの膝の上で微睡(まどろ)んでいたのに気がついた。

 

人の営みとは、安寧を得るための場所を作り、それを保ち、守ることだと知った。

少女の身体でそれを体験した結果、ヘドロの身体で感じてきたいくつもの不可解が解消された。

 

逆に、ヘドロとして一人で完結していたからこそわかることもある。

営みは快適だが、そのコストはあまりにも重いということだ。

助け合わなければやっていけない。

失敗すれば大きく後退する。

この状況を一人で快適に生きられると思うやつは、そういうつもりになってるだけだ。

そいつは路上で頭から汚水を被るだけで詰んでしまうのだから。

そうならないようにビクついて暮らすことをヘドロは自主独立とは思わなかった。

 

(ここは、オレにとっては、ぜんぜん足りねぇんだ)

 

負傷により失ってしまった、どうしても無くてはならないものがある。

「戻してくれる」という約束だったのに。

 

(乾いた場所でモタモタしていると、さらに吸い取られちまう)

 

「着いたぞ」

 

車が止まった。

後部座席のドアが電子操作でスライドする。

 

うてなの膝から飛び降りて外に出る。

続いてうてなも外に出た。

 

今朝、ボランティアの少年と接して気づいたことがある。

この少女の姿だと、人はやけにあっさり背中を晒してくれると言うことだ。

 

「おい、うてな、おんぶしてくれよ」

「あれ、えへへ、今日は甘えんぼですねぇ」

「高い場所から見たいだけだよ!」

 

少女は背中を見せたうてなに飛びついた。

そのままよじ登って首に抱きつく。

 

「どうです? よく見えますか?」

「なぁ」

「何ですか、ロートスちゃん」

「荒事に一番向いてる乗り物って何だと思う?」

「デス・スター?」

「強い『個性』の隠れ(みの)

「!?」

 

ヘドロ形態に変化し、自慢の流動的ボディをうてなの口の中に突っ込んだ。

 

(要は中枢神経を制圧できればいいんだ。漫画で見た!)

 

背中と口内から頸髄(けいずい)全周を抑え込んで『魔力』で侵入を支援する。

ヘドロはあっという間に『寄生』に成功した。

うてなの首周りに残ったヘドロが、うてなの髪に浸透していく。

やがて完全に同化し、うてなの紫色の髪がすべて砂色に変わった。

 

寄生したヘドロは()()()()()()話し始めた。

 

「んっんっ〜♪ 奇襲成功。これだよ、これ。この景色」

 

自分が「上」だとわかるこの万能感。

うてなの身体は気持ちよさそうな顔をして、両手を広げて伸びをする。

 

「ヒヒッ……結局さぁ……タダ乗りがコスパ最強だよなぁ」

 

うてなの体内から『魔力』を高め、マジアベーゼのコスチュームを身に纏った。

 

「最強の『個性』と『魔力』を持ったやつを、オレが操れば無敵じゃねえか!!」

 

身体を浮かせて上昇する。

 

『魔力』は万能の力だ。

正しい手順を踏めば空を飛び、肉体に超常の力が宿り、空間を渡れる。

手順を誤りその流れに飲まれてしまえば、全てを()()()()持っていかれるというリスクもあるが。

ヘドロとしては何より持てる者が限られているという特権感がいい。

 

「さーて、『お話』する前にいろいろ遊んでみるかな」

 

少女は前方に加速して飛び去った。

残された二人は、車から降りて準備を始めるところだった。

 

「あれ? ロートスに作戦説明したっけ?」

「したから『寄生』して飛んでったんだろ?」

「うーん? うてなに聞いたのかな?」

「行き違いは私が修正しといてやるよ」

「頼むよ。ボクもさっさと終わらせよう」

 

 

 

──レディ・ナガンと接触した翌日の朝、ホークスは雄英(ゆうえい)高校へ二度目のアポ無し突撃をした。

 

すると、受付の職員が慌てて先導し、前回と違う方向の廊下に導かれた。

 

(こりゃもう始まっとうな)

 

公安側からはまだ何も連絡が降りてきていない。

おそらくまだ事件の規模を測っている段階なのだろう。

 

(さすがはヒーロー科最高峰)

 

案内された会議室に入室すると、複数の人物が立ったまま打ち合わせをしていた。

その幾人かは見覚えのあるヒーローだった。

 

その中から13号がホークスの前に出てぺこ、と頭を下げた。

 

(だま)し討ちのような真似をお詫びします。ヒーロー『ホークス』に救援を要請します」

「もちろんお受けします。どうぞそのまま続けてください。こっちはこっちで話に追いつきますんで」

 

ホークスはつかつかと折り畳みデスクに向かい、そこに積み上げられた資料を勝手に拾おうとしたが、それを遮るようにプリントの挟まれたクリアファイルを渡す者がいた。

 

「ちょうど情報の整理が終わったところだ。オールマイトさんが来たら始めるよ。自己紹介は後ほど」

 

ボサボサ髪に胡乱な目つきが第一印象の、真っ黒なボディスーツに身を包んだ男だった。

その首周りには白い包帯のような布が何重にも巻かれている。

 

「えっ! オールマイトもいらっしゃるので?」

「迫真の演技をどうも」

 

男はそう言って部屋の中央に向かった。

 

(外部の人間は俺だけちゅうことやな)

 

打てば響く合理的な対応にホークスは好感を覚えた。

このような人材がいるなら、()()で進めても大丈夫だろう。

 

「失礼します! 私が来ました!」

 

ガラリと大きなスライドドアを開けて、掛け声と共にオールマイトが入室してきた。

テレビでお馴染みのコスチュームを着た、室内でもっとも巨大な筋骨隆々の姿。

 

「なかなか斬新なご登場ですね。はじめまして、ホークスです」

「よろしく! いや、在学時代、この部屋でよく指導を受けたのを思い出してね!」

 

ホークスが求めた握手にオールマイトは快く応えた。

 

「それでは皆揃ったので始めるのさ!」

 

その声に部屋の中央を振り返ると、先ほどクリアファイルをくれた男の肩の布から大きなネズミの頭がスポンと現れた。

 

「始めにホークス君、私は根津(ねず)。この雄英(ゆうえい)高校の校長なのさ」

「存じております。よろしくお願いします。早速ですが私から皆様にひとつよろしいでしょうか?」

「手短に頼むよ」

「もちろんです。この事件の犯人組織について」

 

室内の全員が息を飲んだ気がした。

 

「首謀は静岡県とその周辺で活動している(ヴィラン)組織、『エノルミータ』になります。構成員不明。トップも不明ですがよく前面に出て動いている(ヴィラン)は『マジアベーゼ』という名の、推定十四、五歳の少女です」

 

「ヒーロー公安委員会は事前に察知していたという事かな?」

 

根津が厳しい声でホークスに問いかけた。

ホークスは首を振る。

 

「正確には()()()()()という事になります。俺がこれを知っている理由は、昨日、内通者と接触したからです。これからその情報を共有します」

 

(本当は殺しに行ったんだけど、まあ似たようなもんやろ)

 

「動機は不明瞭ですが、この事件の目的は大規模破壊となります。公安の調べによりますと、このエノルミータは過去二年間で把握できている限りでも八十万トン近くの鉄材を購入しています。そのほとんどが海外船舶との裏取引。これは一都市の官公庁舎を建て替えられる程度の量です」

 

ヒーロー達がそれぞれの手にあるプリントを読み始めた。

こちらが提供した前提条件と照らし合わせて最善策を考え始めたのだろう。

ホークスもまた、喋りながらプリントを流し読みし、その内容を頭に入れていく。

 

「内通者からは『先駆けが(おとり)でかつ本命』という作戦情報を貰っています。そして大規模な物的損害の発生を懸念していました。おそらく最初に発生した事件が本命。そこへの対応を迷わせるような行動が二次目標に向けて動くと想定します」

 

ホークスは顔を上げて根津を見た。

根津も男の肩に腰掛けて、腕を組みこちらを見つめていた。

 

「以上の情報を前提に、対応をご検討願います」

「一昨日前に、オールマイト君に会おうとした理由は?」

 

すぐさま根津が質問してきた。

 

(ごめんなさい、ほんとはこれも昨日判明したことなんやけど)

 

ホークスはそれに虚実を織り交ぜて回答する。

 

「組織の情報提供と、警告を。エノルミータは組織としてオールマイトさんを標的にしている節があります」

「……」

 

ぺちっ、と男が額に手を当てた。

その男の肩が揺れ、その上に座る根津がちょっと姿勢を変えた。

 

「だから言ったじゃないですか。待たせといて話しもしないなんて非合理的だって」

「すまなかったね。初老組としては、正直ヒーロー公安委員会にあまり良いイメージを持っていないのさ」

「え、私も同じグループ? あ、いやすまなかったホークス君」

 

根津に遅れて、オールマイトも頭を下げた。

 

「いえ、公安については俺も同じ印象です。それより作戦を立てましょう」

「ありがとう、ちょうど二択を迫られていたところだったのさ」

 

 

 

「──なしてこうなった」

 

数分後、ホークスはスペースヒーロー・13号を抱えて飛んでいた。

行き先は海辺の方角。(ヴィラン)『マジアベーゼ』がいると思われる現場だ。

 

太陽は天頂近くにあるがそれを雲が覆い隠そうとしている。

人を抱えて長距離を飛ぶにはあまり良くないコンディションだった。

 

「あのメンバーでは校長を除けば僕が一番質量小さいですから!」

 

ホークスは自分が抱えている重厚な耐久型スーツを見下ろした。

スーツの大きさから考えて、中の人の身長も百八十センチくらいあるのではないだろうか。

 

「……確かブラックホールの質量って太陽の何倍もアレですよね?」

「ふふ、スペースユーモアですね。ご心配なく。僕の個性『ブラックホール』はあくまでそれに近い現象を起こす超常的な空間になります。とはいえ流体に及ぼす影響は計り知れないので飛行しながらの発動はお勧めしません」

「了解です。それはそれとして重い」

「ハッキリ言われた! と、さておき時間がありません。実質、僕らが(ヴィラン)『マジアベーゼ』に対する先鋒チームかつ第二次救助隊です。到着まで(ヴィラン)の情報を教えてください」

 

最初の事件が発生してから一時間が経過していた。

 

多古場(たこば)地区から数キロ西にある沿岸工業地帯で大規模火災発生の通報。

現地のヒーロー、消防隊が駆けつけたものの「マジアベーゼ出現」の報告を最後に全隊の通信が途絶。

指揮本部はその五分後に現着した全員を要救助対象に切り替えて救援要請を発信した。

 

それを受けた近隣のヒーロー、マウントレディが移動中に刀を持った(ヴィラン)の襲撃を受けたのが第二の事件。

マウントレディは軽傷ながら数分間行動不能となり、(ヴィラン)に毒物を使用された疑いで救急搬送された。

彼女に追従していたヒーロー達が(ヴィラン)を追跡中。

 

三つ目の事件は最初の事件から十五分後に発生した。

突如、県内を横断する高速道路の一部、上下線10キロ近くに渡り、十数箇所で持ち主不明の鉄材がバラ撒かれたのである。

これにより広範囲で自動車の渋滞、事故、立ち往生が発生しパニックに陥った。

 

『最終的に戦力が海岸に集まるように動くのさ』

 

根津校長はホークスが提供したエノルミータの情報を基に、三つのチームに分かれてそれぞれの現場に向い、最終的に全チームが本命の現場に集まるよう指示した。

 

第3現場の高速道路にオールマイトとセメントス。

第2現場の(ヴィラン)追跡にプレゼント・マイクとイレイザーヘッド。

第1現場の工業地帯にホークスと13号。

残る教師は授業を継続しつつ、さらなる事態の展開に備えて待機することになった。

 

「……『認識阻害』ですか、それなら問題ありませんね」

 

ホークスがもうひとりの(ヴィラン)について説明すると、13号はそのように反応した。

 

「僕は救助活動での視覚運用は限定的です。炎を確認するときだけですが、これも特殊なバイザーをつけています」

 

13号が被っているヘルメットの中は殆ど真っ暗になっていて見えない。

確かに視界は悪そうだ、とホークスは思った。

 

「僕は自分の『ブラックホール』を知覚している、質量感覚のようなものを救助活動に応用しています。おっと……」

 

海からの強風に(あお)られ、翼が大きく揺れた。

13号がだいぶ慌てている。

 

「これは『個性』による超常の感覚。『認識阻害』が五感を惑わす程度の能力であれば、僕の救助活動を阻害することはないでしょう」

「頼りにしていますよ! 見えてきました!」

 

向かい風になったため、風の音が強くなり、自然と声も大きくなる。

前方の地平線の一部が赤く染まり、そこから黒い煙が上がっているのが見えた。

 

「よかった、精製タンクや化学プラントはまだ無事です!」

「時間の問題ですけどね……ちょっと高度上げ下げしますけど大丈夫ですか?」

「うっ……事前に言ってもらえればなんとか!」

 

建物の輪郭が見えてくる距離になると、その被害と(ヴィラン)の全容が見えてきた。

 

「……何だあれは」

「だいぶ事前情報と違いますね」

 

コンクリートで整備された沿岸から、全長20メートル近い毒々しい緑色のトカゲのようなものが這い出し、泥を吐き出して建物を破壊していた。

 

 

 

──マジアベーゼに『寄生』したヘドロの男は、その破壊を眺めながら高笑いをしていた。

 

「はははははは! ゆけい『ヘドロドラゴン』! 俺の考えた最強の生物! やれい! 踏み荒らせ!」

 

その声に応えるかのように頭上の大蜥蜴(とかげ)がぬっと前進した。

 

その横たわった円柱のような巨体の表面はぬらぬらとした粘液にまみれ、その中ではヘドロが流動している。

それは四本の足で体を支えているものの、その腹は地面を擦り、周囲にヘドロを撒き散らしていた。

 

蜥蜴(トカゲ)が前足を一歩踏み出し、前方の二階建てのプレハブを軽々と押し潰した。

そのまま勢い余って直径数メートルはある巨大な頭部が前に進み、送電塔を傾けて周囲に火花を散らしていく。

 

「なるほど、『名付け』はコスパがわりぃんだなぁ……一体だけにしとくか」

 

ヘドロは破壊を楽しみながら、寄生したマジアベーゼの力をいろいろと試していた。

触れたものを支配する能力。

消耗するが『魔力』を通す方法でも可。

生物の支配には手間が必要とわかったので後回し。

支配したものに自我が生まれ『魔力』をエネルギーに活動する。

『命令』や『名付け』に従って独自の融通を効かせるが『個性』のスタミナのようなものと『魔力』の両方を奪われること。

『個性』と『魔力』のブッ壊れたハイブリッドというのがヘドロの感想だった。

 

「だが、みなぎる、みなぎるぞぉ! この超パワー!」

 

膨大な『魔力』による身体機能の補助。

マジアベーゼは()()()()()()行為にしか活用していないが、ヘドロにとってはこちらの方が遥かに魅力的だった。

その力は事前の観測による予測を大幅に超えていた。

 

「期待以上だ! これならオールマイトだって……なのによぉ!」

 

ヘドロは足元にめりこんだ大きなライフル弾へ罵声を飛ばした。

その弾頭の後ろにはマイクのようなものがついており、赤と緑のLEDが明滅している。

 

「レディ・ナガン! なんでテメェが全部食っちまってんだよ! 俺の超絶パウァを試せねぇだろうが!」

『そういう作戦つってんだろ』

 

無線越しに女性の嘆息が聞こえた。

 

オールマイトは(ヴィラン)を見逃さない。

 

そんな平和の柱を確実に釣り出すために必要なのは(ヴィラン)事件の長期化。

エノルミータの作戦はとにかくこの危機的な状況を長引かせることにあった。

 

各地で陽動的な事件を起こし地域としての対応力を削る。

仕込みを面倒くさがったヴェナリータは高速道路に手持ちのアジト建築用資材をバラ撒くことでそれを完了させた。

本命の工業地帯では『マジアベーゼ』の存在を前面に出しつつ、レディ・ナガンが現地の人的資源と通信を徹底的に潰して待ち構える。

あとは時間経過と共に(ヴィラン)『マジアベーゼ』の脅威度がひたすら上昇していくというわけだ。

 

「くそう、やっぱアイツもクソヤバだ……」

 

ヘドロは覚えていた。

かつて、流れの強盗団に混ざっていた頃。

その日に調達した隠れ家でぐだっていたら瞬きする間に全員の頭が吹き飛ばされた。

それを高みから見下ろす、光よりも真っ直ぐな殺意の眼差しを。

 

『来たな。あいつらでリーチだ』

 

その女が無線越しにぼそりと言った。

乾いた銃声が轟き、ヘドロは思わずビクッとする。

 

「どこだよ?」

『じっとしてろ。そっちいくぞ』

「待ってましたァ!」

 

ヘドロはキョロキョロ見回すと、空から紅いものが降りてきているのが見えた。

 

「命綱外しますよー」

「待って、早い! もうちょっとギリギリでお願い!」

「もう外しちゃいました」

「ニ゛ャーッ!?」

 

それは紅い翼を生やした男と、宇宙服のようなコスチュームを着た人物だった。

宇宙服のヘルメットには見慣れたライフル弾が突き刺さり、左側反面がひび割れてへこんでいた。

 

ヘドロは降りてくるその二人を得意満面の笑顔で迎えた。

 

「ヒヒヒ……どぉーも……マジアベーゼちゃんでぇぇぇっす!!」

 

 

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