戦闘訓練の後、常闇君視点で生徒たちの自己紹介みたいなものです。ダラダラしてます。
【もくじ】
01.雄英高校:決めろ四天王(前)
02.雄英高校:決めろ四天王(後)
※作中時系列としては、この裏でマジアベーゼとMt.レディが戦っているあたりになります。
※反省会・裏は前回投稿のラストシーンが該当します。
────────
雄英高校の一学期が始まって二日目。
オールマイトによるヒーロー基礎学の授業が終了し、放課後になった。
結局、最初の一戦目が終わった後、さらに医務室のお世話になったのは凍傷を起こした
それ以外の生徒達は緒戦の熱量に当てられながらも、つつがなく全ての訓練を終了した。
オールマイトと組まされた若干一名を除いて。
「
思わず苛立たしげな口調になってしまった。
踏陰は自分の体が普通の人より虚弱であることを自覚している。
さらに自分が周囲の一般的な感覚に比べて、大きな声や気圧に湿度の変化、そしてなにより光に対して良く言っても過敏、悪く言えば神経質だということも。
そして、人が実感できない弱さというものは、強く主張しなければ認識してもらえないということを経験で学んでおり、そのために彼は少し強い言葉を扱う傾向があった。
「なあ常闇、反省会やろーぜ! A組四天王決めるぞ!」
赤いツンツン頭の生徒、切島が大声で話しかけてきた。
その怒号に近い大声で踏陰の羽毛が逆立つが、それよりも気になることがあった。
「ほう……四天王? 詳しく聞こう」
彼は「四天王」というフレーズにソワっとした。
そういった血湧き肉躍る、伝統的でテンプレで、イマージブなフレーズが大好きなのだった。
そして、それを多用することで、なるべく人が傷つかないように強い言葉を運用するという処世術もあった。
平行してただの厨二病も患っていたのだが、踏陰本人がそれを自覚するにはもう少し年数を経る必要があった。
「うちの学校さ、三年生の中で一番すごい三人を『ビッグスリー』って呼ぶ伝統あるだろ? あれの一年A組版をやろうぜって話!」
「一年A組版」
「でも三人は満場一致で決まって、話終わっちまいそうだったから、あと一人増やして四天王にするんだぜ」
「三人……
踏陰に経緯を説明してくれた、
「今日の戦闘訓練だけ見れば、やっぱあいつらだけレベル違うよな」
「認めるが、俺ぁ悔しいぜ! でもあいつらも先月まで中学生だったんだぜ? 俺も絶対あいつらに並び立つ!」
「というわけで、四天王決定戦ルール!」
ピンク色の肌をした女子が片手を上げて宣言した。
「出席番号順で、まずは自己紹介と簡単に『個性』の説明! その後、轟、爆豪、柊のうちどれか一人選んで『私ならこうすれば勝てる』って自己アピールだ!」
「「「おおー」」」
「最後に誰が一番いい感じだったかみんなで投票して、一番票を得たやつがA組四天王最後の一人に決定だ!」
「「「イエーィ!」」」
踏陰には追従しづらいノリだったが、嫌いでは無かった。
片手を上げて質問する。
「票が同数だった場合は?」
「それはやっぱり、直接対決だろ! 腕相撲!」
「なんでだよ」
「直接対決したらどっちが勝ちそうかアピール合戦だな」
踏陰は集まっているメンバーを見回した。
この場にいないクラスメイトは、結局輸血のために病院送りとなった爆豪、すでに帰った柊と轟。
そしてもう二人足りなかった。
「
「なんか二人とも参加辞退して帰っちまったよ」
「轟と同じでなんか用事あったんじゃね?」
「そうか」
踏陰は何事も無いかのようにうなずいた。
察している者も、そうでない者もいるだろうが、深くは聞かないようにするということでは共通していた。
おそらく、あの二人は気を使ってしまったのだ。
踏陰もいわゆる『異形』の
そこに居るだけで怖がられるかもしれない。という遠慮。
彼らも決して自ら孤立しようとしているわけではないだろう。
だが、差別とは理解しがたい人に対する善意と悪意が重なり合った、合成の
こう言った場では身を引くことが是であると、考えなくとも体に染み付いてしまったのだ。
それでも、ヒーロー科の最高峰まで来て、結局それでは悲しすぎるではないか、と踏陰は思った。
彼らも当然努力するだろうが、自分が架け橋になる方法はないだろうかとも考えた。
「常闇はどうする?」
「ふむ……俺も参加しよう。実際戦えば確実に俺だと思うが、そういう話ではないのだろう?」
「おっ、スッゲー自信だな!」
踏陰が不敵な笑顔を見せてやると、切島が張り合いを感じたのか、さらに
絆創膏だらけの生徒、
「そうだな! 実戦では話は変わるのかもしれない。だが皆、この場はあくまでアピールの良し悪し、説得力で評価することとしよう。ヒーローの仕事にもそういう平和的な話し合いはあるぞ!」
「「「はーい」」」
指先に肉球のついた女子が名簿を手に取ってひらひらさせた。
「それでは、名前の読み上げはワタクシ、
「欠席! ぐぎぎ、こいつのせいで私は!」
「どうどうおちつけー」
「かわいそうね。青山ちゃん、見るからにこういうの好きそうなのに」
「わかる! ナルシストってやつだ!」
「青山、食あたり大丈夫かな……俺も他人事じゃねーからよぉ」
「明日来るかなぁ?」
「なあ、欠席中のヤツにもいろいろ共有できるように、メッセンジャーにA組専用ルーム作ろーぜ」
「賛成ー!」
どうやら顔と名前が一致してないので、欠席者、不参加者もイジる方向らしい。
長くなりそうだと踏陰はこっそり嘆息した。
「ほな次いきまーす、出席番号2、
その紹介を受けて先ほどから活発なピンク肌の女生徒が仁王立ちになり腕を組んで見せた。
踏陰にとって、中学校までで一度も見たことのないタイプの女子だった。
「よっ、言い出しっぺの芦戸さん!」
「戦闘訓練、唯一評価なしの三奈ちゃん!」
「オールマイト先生に何もさせてもらえず勝った芦戸さんですわ!」
「ムキー!!」
彼女がこの会を提案した理由は察して余りある。
「私の個性は『酸』! お肌から溢れるドロドロベタベタの強酸液だよ!」
「ねえ、ぺっちんぐするときってどうなんの?」
「こうなるんだよぉ!」
「ギャアアアッ!」
開口一番でセクハラ発言をした、踏陰より小柄な生徒、
「だ、大丈夫なの?」
「あ、驚かせてごめんね!」
芦戸は手の中でどろりとした液体を器用にこねくり回して見せた。
「量と濃度とタッチの仕方で、威力は結構コントロールできるの! ああやって薄皮一枚だけ溶かすとかね。ただし神経が腐る、その痛みには個人差があります……具合はいかがかな峰田くん?」
「めちゃくちゃ痛いよぉぉー!」
そう言ってまだ仰向けに倒れている峰田を
その眼球全体が黒い瞳は、普段は愛らしさに満ちているが、それを取り払うとずいぶん様になるというか、怖かった。
踏陰はそれを正面から見てしまい、ちょっと股間がヒュンとした。
「コワイ」
「つよい」
「そしてかわいい、無敵かこの子」
尾白、砂藤、瀬呂の三段活用みたいな反応に踏陰もうなずいて同意した。
芦戸は再びダンサーがやるような謎のポーズをして見せた。
「バトルは私vsうてなちゃんだ! 使い魔相手なら手加減なしで酸で溶かしまくるよ! ただ、一度に出せる酸は限度があるから、今は短期決戦しか狙えないけどね! 持久戦もできるようになりたい!」
「飯田ジャッジー」
葉隠がおそらく挙手をした。
彼女は顔と体が見えない透明人間なので、制服だけが動いてるように見えてインパクトが強い。
それがわかっているからかオーバーアクション気味だが、それでも細かい仕草はわかりにくいときがある。
「自分の個性が成長したら、みたいなの入れていいの?」
「有りだ! 将来性というのは重要な説得材料だからな!」
「そりゃそうだ!」
「出席番号3、
「ケロケロ。みんな梅雨ちゃんと呼んでね」
呼ばれた女生徒が立ち上がった。
葉隠の身長がよくわからないが、おそらく彼女が一年A組の女子の中ではもっとも身長が低い。
踏陰は戦闘訓練で彼女と同じチームになっており、彼女の人となりについてはおおよそ把握していた。
「個性は『
「二枚抜きキター!」
「轟ちゃんの氷は無理なのよね。飛んだりはねたり物に張り付いたり、使い魔を
蛙吹はそう言うと長い舌をべろりと伸ばして見せてから口の中に仕舞った。
そのとき、ぬらぬらと粘液が輝く彼女の赤い口内が見えてしまい、踏陰はちょっとドキドキした。
「梅雨ちゃん! オイラ実はとあるプレイに興味があって……そのヌルヌルの舌で」
「
『アイヨー』
「エ゛ンッ!?」
そのセクハラ野郎が手近なところにいたので踏陰は『個性』を使用した。
踏陰の影から彼にそっくりの怪人が現れ、その両拳で峰田の両側のこめかみをゴリっと挟み上げた。
「ア゛、ア゛、ア゛……」
「懲りないわね峰田ちゃん」
峰田は側頭部に走る激痛で涙をこぼしながら奥歯をガタガタ言わせていた。
「舌をどれくらい伸ばせるかと、不意打ちの内容を教えてもらってもいいかな?」
飯田がメモを取りながら質問した。
「舌は頑張れば20メートルくらいかしら。でも、力を入れる都合でその半分くらいがベストなの。不意打ちは遠くからひとっ飛びで襲いかかる感じになるわね。個性把握テストではアピールできなかったけど、私、一度ジャンプして反動つけてからの二段跳び、三段跳びなら水平は40メートル、垂直で20メートルは跳べるのよ。その後ちょっと休憩が要るからここ一番の大技ね」
「すごいな! それなら確かにいけるかもしれない!」
踏陰も全くの同感だった。
戦闘訓練でも、彼女の立ち振る舞いから感じられたのは全てにおいてそつがなさそうな総合力の高さ。
他人の努力を評価できるのは、自分がそれ以上にあらゆる努力をしているからだろう。
「ひゅっ……」
「瀬呂ドンマイ!」
「まだ何もしてねぇ!」
対抗意識があったのか、彼女の高いスペックに息を
「出席番号4、
呼ばれた瞬間飯田は立ち上がり、両手を広げて片方の足を上げた。
制服の上からでもわかる、がっしりと鍛え抜かれた太い手足が目に入る。
その恵まれた体格に踏陰は羨ましいと思ったが、仕草がいちいち硬過ぎではなかろうかとも思った。
「何だそれ!」
「謎のポーズ! そびえ立ってやがる!」
「神に祈りを!」
「今言ったヤツ誰!?」
上げた片方の足のふくらはぎは、彼の体格以上にゴツく張り出していた。
その部位こそ彼の『個性』の象徴だった。
「俺の個性はこの足の『エンジン』だ! 能力は突き詰めると深いのだが、ざっくり言うと脚力強化!」
個性のアピールが終わった飯田は姿勢を戻した。
「俺はvs轟くんだ。狙いは先制攻撃! 相手が氷を展開する前に制圧する!」
「レシプロバースト! あれは滅茶苦茶速かったな!」
「私あれ怖くて目つむっちゃったよ」
「あれは体育祭あたりまで隠しておく予定だった……だが今はむしろ公表して警戒させる方向でいく!」
「で、柊とはどういう関係なん?」
「それは昨日説明したとおりだ! ハイ次どうぞ!」
にやつきながら質問する芦戸に、飯田は厳然と手のひらの指をまっすぐに伸ばして次に譲る姿勢を見せた。
あのような態度を取ってはかえって怪しまれるのではないかと、踏陰は
「はーい、出席番号5
そう言って彼女は両手の人差し指で自分の顔を指差し、にっと笑顔を見せた。
その笑顔も、スカートの下からのびる黒いタイツも
踏陰的に黒というものはそれだけでもうどストライク、オールOKなのである。
「かわいい!」
「グッドスマイル!」
「ヘヘヘ、ドーモドーモ、個性は『
そう言って手に持っていたペンを浮かせて見せた。
踏陰も
不意に浮かされるというのは非常に不自由で、ときには不愉快なのだ。
「チート個性来た!」
「ほっとくとどこまでも浮いていっちゃうの? 成層圏とか?」
「試した事ないけど、たぶんそう!」
「こえー!」
「無重力セッ……」
峰田が何かを言おうとしたが、砂藤が無言でその頭と顎を上下から押さえ込んだ。
この男は女子全員にそういうことを言うつもりなのだろうか。
何がこの男をそこまで駆り立てるのか。
麗日は両手を広げたまま前に突き出し、何かを放つようなポーズをしながらアピールを開始した。
「私はvs爆豪くんかなぁ。こう、石とか物をいっぱい浮かせておいてね、逃げ場をなくしてから全部一気に落とすんよ!」
「意外とエグい!」
「浮かせられる量に限界はあるのか? 質量次第では柊くん相手の方がいいかもしれないぞ? 爆豪君は『爆破』で迎撃できるからな」
「あーっ、そっかー、今のところ1トンくらいが限界なの。これだと使い魔に守られるうてなちゃん相手は厳しいかなって」
「うむ、状況次第だな!」
「これから練習して、ダンプカーいっぱい分はいけるようにするわ!」
麗日が両手の拳を握り込んで意気込みを見せた。
そしてうなずいて見せ、代行して芦戸が次の生徒を呼んだ。
「出席番号6、
すっと立ち上がったのは大きく太い尻尾が特徴的な男子生徒だった。
尻尾以外の体格はほっそりしているが、踏陰のような弱々しさはない。
その原因はその節くれだった、鍛錬の積み重ねを感じる手にあると気がついた。
「よろしく! 個性はこの『尻尾』! まあ見ての通りなんだけど、力はなかなか強いはずだよ」
そう言って尾白は武術的な構えを保ったまま、太い尻尾で体を浮かせて見せた。
「「おおー」」
あのポーズをするには、尾の力だけでなく、自身の体幹も鍛えないと無理だろう。
自らも筋トレを行う踏陰は、その力強い鍛えぶりに感嘆した。
「俺vs轟くんだ。他の二人でもいいけどリベンジがしたい……」
「わたしたち、何もやらせてもらえなかったもんねー」
自信のなさそうな尾白に葉隠が追従した。
二人は先の戦闘訓練で轟に氷漬けをくらったコンビだ。
「尻尾が自由なうちは機動力を生かして肉薄! いざとなれば氷も尻尾のパワーで割れる自信ある! そうやって近づいて、得意な格闘戦に持ち込んで制圧するのが勝ち筋かな」
「「なんかフツー」」
「普通!?」
尾白はその評価に鼻白んだ。
砂藤がそれを補足する。
「いや説得力はあるんだけどよ、今までの人が派手過ぎてなー」
「そうそれ」
「うう、ここは地味と言われないだけ良しとしよう……」
尾白の尻尾がへにゃりと垂れた。
アピール合戦である以上、まず他の生徒より目立たないといけないのだ。
踏陰としては彼の肩に手をかけてやることしかできなかった。
「出席番号7、
「イエー!」と飛び上がるように立ち上がり、両手でピースをして見せる男は、髪にもメッシュが入っていて見るからにチャラそうだった。
「俺の個性は『帯電』! 電気を溜め込んで大量放電だ! 最大で百三十万ボルト!」
「おおー」
「強固性!」
「典型的な個性バカ!」
「今バカって言ったの誰!? 俺はvs誰でも三枚抜き! だって、俺の電撃を防げるやついないっしょ!」
「「軽い!!」」
「えーっ!?」
思わず揃った反応。
上鳴は心外そうな顔をするが、踏陰も説得力に欠けると思った。
黙っていたほうがマシなレベルだった。
「氷は不純物が固まる分、電気を通しにくくなりますわよ?」
「ゴムとか、絶縁体で使い魔を作られたらどうするのかしら?」
「爆豪に空飛ばれたらお前詰みじゃね?」
「シヴィー!!」
案の定、
実際強い『個性』だと思うし、踏陰も自分の『個性』の事情できっと彼とはやりづらいだろう。
本人の言うとおり、やり方次第で三人の誰に対しても勝ち目は十分あるはずだ。
が、本人のアピールに全く具体性が無かった。
「出席番号8、
「いよっ鋭児郎!」
「切島屋!」
「何だよそのノリ? 知らざぁ言って聞かせやしょう! 俺の個性は『硬化』だ! ガチガチに固まるぜぇ!」
「ノリがいい!」
暑苦しい雰囲気の男、切島は歌舞伎の見栄を真似しながら腕をを硬化して見せた。
「俺vs爆豪! あいつの爆発なら、俺は耐え切る自信がある! 耐えまくって殴り合いに持っていけばチャンスありだぜ! ただ、いまんとこ持久走とか、あいつにスタミナで負けてるんだよな! これから鍛えまくるぜ!」
「爆豪ー? 戦闘訓練の最後さー、あのめっちゃすごい爆破攻撃も耐えられんのー?」
芦戸がにやにやしながら片手で支えながらもう片方の腕を突き出す、爆豪の真似をして「どかーん」と言った。
切島は少し慌てて答えた。
「こ、根性で耐える!」
「根性だとー? 説得力はどうしたー?」
「精神論か! 俺は嫌いじゃ無いけど、無理はするなよ!」
「あーっ、アピール弱まった感! 芦戸め!」
「ヒッヒッヒ……」
踏陰はこの二人が同じ中学出身だと聞いていた。
同じ中学から年に複数、雄英高校ヒーロー科の合格者を出すというのはなかなかの快挙である。
きっとこうやって
率直に羨ましい関係性だと思った。
「出席番号9
「あいつも地味に『個性』見せてなくない? だれか聞いてる?」
上鳴が誰にともなく聞くと、砂藤がそれに答えた。
「聞いたぜ。『生き物ボイス』だってよ。能力は知らん」
「いやそこを聞いとけよ!」
「名前のみが伝わる未知の能力……実に四天王っぽいな」
「「確かに……」」
踏陰はぼそりとフォローすると、それに
「うん……ウチの中でもいまんとこ上鳴より上位だわ」
「俺参加してない人に負けるの!?」
その場の全員が失笑した。
「出席番号10、
「おう!」
ぐん、と伸び上がるように、雄々しく男が立ち上がった。
百八十センチを超える長身に、ツンツンに立てた黒髪、釣り上がった眉に分厚い唇。
全体的にいかつい造作ながら、どこか親みが持ててしまう、ヒーロー向きの顔だと踏陰は思った。
「よろしくな! 個性は『シュガードープ』だ! 糖分を摂取するだけで三分間は筋力五倍の超パワー!」
そう言って砂藤は大柄な肉体をアピールした。
そこでまた飯田がぴっと真っ直ぐに挙手をした。
「糖分を摂取してからどれくらいでパワーを発揮できるんだい?」
「おう、舌で甘みを感じた瞬間だ! 出会って五秒でバトルできるぜ!」
「スゲー! ちょっと前借り気味じゃん!」
「いいねー、シンプルな増強型!」
「マッチョや!」
踏陰にとってもそれは理想の肉体で、率直に羨ましかった。
「俺vs轟! あいつの氷、透き通ってなかっただろ? あれ空気が入って隙間ができてるからなんだぜ? 俺はあの氷ならバキバキに割れる自信がある! 三分以内に氷破りながらゴリゴリ近づいて一撃で決めてやるぜ!」
「意外と理論派!」
「戦術は脳筋!」
「マッチョブレインや!」
そこで、何か気になるところがあるのか、砂藤はポーズを解いた後腕を組んで首をかしげた。
「だけどよぉ、オレ思ったんだけど、轟、あいつ氷溶かしてたじゃん? 個性わかんねーけど、熱をコントロールできるんじゃねーかなぁ。もしかして右手からは氷を、左手から火を出せるとか?」
それを聞いた耳郎と八百万が青ざめた。
「待ってよその轟アップデート、説得力あるじゃない! ひどくない!?」
「自己アピールを印象づけてからの前提崩壊で後続の足を引っ張るとは……賢しいですわね!」
「いやごめん! そんなつもりはなかったって!」
「マッチョ策士や!」
「麗日、そのマッチョ推し何なん?」
実際、踏陰も轟を相手にしようとしていたのだが、それを聞いて作戦を変えることを強いられてしまった。
────────
クラスの四天王を決めるアピール合戦。
出席番号が10までいったところで芦戸と透明人間の女子、葉隠が寸劇を始めた。
「さて折り返しですが、主催の芦戸さん、ここまで聞いていかがですか?」
「えー皆さん素晴らしい個性ですねー。特に口田くんの謎の能力『生き物ボイス』、これはきてますよぉー、私のツノがビンビン来てます!」
芦戸が自分の頭部から伸びている角をいじりながら答えた。
暫定最下位の上鳴がそれにツッコミを入れる。
「お世辞でも参加者を推してくれよ!」
「つか女子勢が手強いぜ!」
「わかる!」
「男子勢がアピール淡白なだけだよぉ……まあ女子は後半オチ担当の私がいるけどね……」
「大丈夫ですわ葉隠さん! 大トリはわたくしですから!」
「フォローになってないようヤオモモー!」
「出席番号11、
「見た目が一番四天王っぽい!」
「ワカル」
寸評する葉隠と麗日を差し置いて、何やら神妙な調子で上鳴が踏陰に尋ねてきた。
「……なあ常闇、軽蔑してくれてもいいんだけどさー」
「何だ急に」
「アイツみたいなの、容姿イジりってどこまで許容範囲だと思う?」
「タコ……いいよな……」
よくもそこまでストレートに聞けるものだと、踏陰はむしろ感心してしまった。
峰田については突っ込む気力も失せていたが。
耳郎の耳たぶが動き、その先端が上鳴をつついた。
「痛ってぇ! つかそれメッチャ痛いね!?」
「あんたね! そもそも容姿イジりをしないという方向でいきなさいよ!」
「そうだ、漢らしくねぇぜ!」
「俺はそれより人ごとに付き合い方を切り替えるとか、遠慮するとかしたくないの! これから三年は一緒にやっていくんだぜ? いつまでも気まずい感じは嫌だよ!」
(やれやれ、もっと他にやりようはあるだろうに。だが気に入った)
踏陰はその心意気を買うことにした。
上鳴をにらみ返してやると、彼はびくんと動揺した。
「それで、上鳴。お前は今、俺に『異形』の代表としての見解を求めたということでいいな?」
「うっ! いや……うん、そう?」
「ほらー怒ってんじゃんこのバカ!」
踏陰は上鳴に人差し指を突きつけながら言った。
「ならばその問い答えよう。ちゃんと本人にそうやって聞いてみろ」
「えー?」
「益者三友と言うが、選ぶのは障子の方も同じだ。そんなもん本人がどう感じるかだろうが。当然の事だ」
期待した回答とずれていたのだろう。上鳴が迷子のような表情を見せた。
踏陰はその間抜けな表情にちょっと吹き出しつつ、腕を組み直した。
「……だが俺の個人的な見解としては、障子がマスクで口元を隠しているのは、おそらくみんなに意識させたくないからだ。別に恥ずかしがっているわけじゃない」
「そっかぁー、コンプレックスとかじゃなさげ?」
「ああ。まだ付き合いは浅いが、きっと優しい奴だよ。気にせず突っかかってみろよ」
「わかった、サンキュー常闇!」
「フン」
表情に明るさを取り戻した上鳴に、踏陰も笑って見せた。
「骨は拾ってやる」
「それ殴られるの前提ってコト?」
一同に笑いが
「あー私そういうバチバチ好きやわー。気を取り直して出席番号12、
「全く、仲良くやって欲しいよ、ウチは……」
頭をかきながら耳郎が立ち上がった。
声はハスキーで男勝りな印象を受けるが、先ほどのやりとりからしても穏健派らしい。
短く切り揃えたボブカットから長い耳たぶが伸びており、その先端はプラグのような形になっている。
女子は皆その身だしなみに気を配っているが、彼女は特に洗練されていると感じた。
どこかメディアに登場するアーティストを連想させられるのだ。
おそらく不特定多数の人物に見られる事を意識して整えているのだろう、と踏陰は想像した。
「ウチの個性は『イヤホンジャック』だよ。射程は片耳6メートル。先端のプラグを当てた場所の振動音を聞き取ったり、逆に音をぶつけたりできるんだ」
耳郎はそう言って自分の両方の耳たぶを動かして見せた。
耳たぶは振り回すというよりは、指を動かして差しているような精密な動きをしていた。
「6メートルということは、この教室内はほぼ射程距離内か……」
「そゆこと。まあプラグから先は3メートルも届かないからそんなにまるっとカバーできるわけじゃないよ」
耳たぶを戻した耳郎はちょっと考えこむ様子を見せながら続けた。
「んー、柊でもいいけど、vs轟かなぁ。さっきの戦闘訓練みたいなシチュエーションなら、最悪凍らされても音で反撃できるからね。あとは室内とか、狭い場所で不意打ちができると有利になると思う」
「爆豪はどう?」
「無理! 爆発をうっかりプラグで聴いちゃったら鼓膜まで爆発しそう!」
「痛そうですわ!」
耳郎は自分で言って想像してしまったのか青ざめてしまった。
つられて八百万まで自分の耳を押さえた。
「……で、峰田、あんた何よその目は。なんか言いたいことあるの?」
峰田はなぜか、今までの態度がなりを潜め、スンとした表情で耳郎を見ていた。
「ううん、大丈夫」
「なんか逆にむかつくんだけど……」
「出席番号13、
「いったれ瀬呂!」
「お前がナンバーワンだ!」
「てめーらわかってるのに持ち上げてんな!」
どこか生暖かい声援を受けながら瀬呂が立ち上がった。
「個性は『テープ』!」
彼はそう言ってから肘を曲げて見せ、テープを射出した。
テープが
「あ、思ってたより早い!」
始めて目の前で見た、踏陰も同じ感想だった。
また、養生テープのようなものを想像していたが、実物は弾力と厚みを感じた。
「近くだとこれ避けらんないかも」
「ウチも」
「へへっ、意外と好評だった。ご覧の通り、テープを飛ばして貼り付ける個性だぜ」
次に彼は肘の開口部でテープを切って見せる。
手際よく短い五つの切片を作って五本の指につけて見せた。
「立体起動もできるけどさ、俺がいいトコだと思ってんのはこうやって切って貼ってできるところね」
「確かにテープといえば工作だな。ワナを作ったり、物を補強したりだな」
「あっ! お前蛙吹に機動力で勝ち目がないから切り口変えてきやがったな!」
峰田のヤジに瀬呂は歯を見せながら苦笑した。
「うるせー、その通りだよ! 悔しいけど俺は攻撃力に乏しい! だから消去法でvs爆豪だ!」
「おお、厳しいとこいった!」
「轟は凍らされたら終わりだし、柊相手は多分テープがもたない。だが爆豪なら同じレンジでのやり合いになるからチャンスはある! 粘着トラップを張り巡らせて徐々に相手の機動力を削ぎながら立ち回って、捕獲狙いだ! 倒すとしたら、まあ、コレしかねーわな」
そう言って、切り取ったテープを口元に近づけて見せた。
「なるほど、窒息か」
「口と鼻塞いで
「とほほ……まーこれが俺の目一杯。よろしく評価してくれ」
「いや、大変興味深かったぞ!」
「飯田ありがと」
「出席番号14
「紹介しよう。俺の個性にして分かたれし半身、『
腕を組んだ、最初の芦戸と同じポーズで立った踏陰の足元の影から、黒い怪人が飛び出した。
『ジャジャーン!! ヨロシクナ!』
「「カワイー!!」」
そのコミカルで愛くるしい仕草に麗日と葉隠が飛びついた。
ぎゅうぎゅうと抱きつかれて
それを見た峰田が、なぜか目を目を血走らせてハンカチを
「常闇テメェ、まさかの可愛さアピールかよぉ……もしや感覚共有してんじゃねーだろうなぁ?」
「顔面が爆豪みたいになってんぞお前」
「いや、感覚は共有していない……してたら俺、きっと立っていられない」
「「初心だ!」」
「この
「心の闇って何!?」
「エゴを見失ったイドの怪物……」
「厨二病キター!」
「いや……」
「ふっ、わかりやすく言うと『遣り場の無い感情』というものだ。日の光が強ければ、影も濃く差し、人は心に闇を抱え込む。こいつが日光の下でも元気なのはそういう事だと思ってくれ」
「ほえー」
飲み込めた者と、そうでない者が半々くらい。
意外と伝わったな、と踏陰は思いながら、次のアピールに移った。
『オレ、誰ヨリモ強イゾ!』
「同感だが、vs柊としよう。基本は闇所で闇を補給しながらの戦いになる。芦戸と同じで、使い魔を遠慮なく
『弱点マダアルゾ! フミカゲガ貧弱、貧弱ゥー!』
「おい」
場を理解しているようでしていないのか、
「ぷぷ……半身に弱点バラされとる!」
「くっ……その通りだ。俺自信は大して強くない。こいつに守られっぱなしで
「水中の梅雨ちゃんもそうだけど、特定条件で無敵とかいいよな、四天王っぽいぜ!」
「アピールポイントが少ない俺らからするとなー、いいよなー」
「うん、闇属性ってだけで目立つよね。羨ましい……そうだ俺の尻尾も
「血迷うな尾白!」
「ついでだ、これも言っておこうか」
「おお何だ!?」
「この
「「暴走」」
『暴走? ヨクワカンネー! ガオー』
それは背面の黒板のある壁を半ば多い尽くす程の大きさになる。
「俺は闇を恐れていない。こいつが側にいるからな。だが、俺は自分の心の闇が怖い。それは
「もっと四天王っぽくなったね!」
「常闇、お前、マジで狙ってやがるな……弱点まで開示してキャラクター強化しまくりやがった!」
「ふっ……俺からは以上だ」
「ちょっと抽象的なところもあるけど、凄みは十分に伝わった」
「暫定首位」
「出席番号15
「昨日も帰り早かったなアイツ」
「四天王どうするー?」
「いったんスキップでいいかな? アップデートされても困るし」
「おけ」
「出席番号16
「スキルは忍道! 苗字は武士道! 恥と
「恥は捨てないであげて」
葉隠はビシバシとポーズを切り替えながら口上を述べたが、その体が透明なため伝わりにくかった。
「個性はご覧の通り、『透明化』! ……うん、ご覧の通り、説明不要!」
「ふむ……見えておりませんが、処理はされておいでで?」
「当たり前だエロバカァ!」
「ありがとうございますぅ!!」
サッカーボールキックされた峰田はなぜかお礼を言いながら廊下まで飛ばされていった。
「もー! 私vs柊かなぁ。隠れて近づいて、本体を捕まえる! 問題は瀬呂君と同じで捕まえるしかできねー、みたいな。捕まったら終わり! なんか必殺技欲しいー!」
尾白が挙手して質問したが、その内容は彼女へのフォローに近かった。
「口の中とかに暗器を仕込むのはどう?」
「含み針か……」
「いや常闇、それマニアック過ぎ」
「超小型のスタンガンとかデリンジャーなどでよろしいかと。でも銃火器は公安の許可と免許が要りますわね」
「いいねヤオモモ! 今度なんか作って!」
「電池も、火薬も口の中に入れとくのはかなり怖いね」
「ええ、少々ギミックが必要ですわね」
「あっ……私、やっぱり遠慮したいかも!」
「お、オイラに名案がある、口は口でもしふぎゃ!!」
「まだいうか」
よろよろと入室してきた峰田は何かを言おうとしたが芦戸に踏み潰された。
「出席番号17、
「戦闘訓練のアレ、ヤバかった」
「うん、ガチでヒーローと
「どっちがヒーローだよ」
「ケロケロ、あれは
「ラスト二名だ! 出席番号19、
峰田が片手をあげて歯を輝かせて見せた。
意外にもその歯はホワイトニングまでされていて、手入れが行き届いていた。
だが割とどうでもいい、と踏陰は思った。
「やはっ☆ ボクは峰田、めっちゃ緊張するわ〜、皆よろしくね!」
「いまさら取り繕うなよ」
「サイテー」
「性欲の権化」
無理やり保っていた峰田のさわやかフェイスが崩れる。
「うるせぇ! キャラデザのせいでオイラにはこの路線しかねぇんだよお! 個性はこの『もぎもぎ』だ!」
やけくそ気味に峰田が頭部の球体状になった部位をふたつもいで見せた。
「とにかく超くっつく! 調子の良いときには一日中くっついたまま! ただしオイラだけにはくっつかない。むしろ跳ね返る!」
「「……」」
「静まり返るな! むしろ罵ってくれこのヤロー!」
「違うのよ、みんな個性はすごいのに残念だわ、って思ってるの」
「えっ!?」
「まさかの強個性きたな」
「便利すぎる。使い所しかねぇじゃねぇか」
「触りたくありませんが、組成には興味ありますわ」
峰田は動揺して後に下がり、黒板に頭をぶつけた。
「あ、あれれ……オイラ、そんなポジティブに『個性』評価されたことないんだけど……」
「初手セクハラが原因だろそれ」
「そうなの!?」
「ほら峰田君、誰と戦うのー? もうわかってるけど……」
「もちろんオイラvs柊だ! こいつを投げてコスチュームにくっつけて、どこかに引っ付けたらもう
「想像通りすぎて引いた」
「サイテーや!」
「女の敵!」
踏陰は、女子の前でそれを堂々と宣言できるメンタルだけは評価した。
少なくとも雄英ヒーロー科合格は伊達じゃない、と思った。
「出席番号20、
「ハイ!」
返事をして立ち上がったのは長身ポニーテールの女性だった。
煌びやかな女性陣の中でも彼女は特に目立っている。
あと踏陰としては身長差による威圧感も覚えるが、女子と戯れているところを見る限り、むしろクラスの女子ではもっとも柔らかい人格のようだ。
上品な立ち振る舞いに反する、あの危険なコスチュームのギャップは同系統の柊を超えている。
相対するときは一体どう応対したらいいのか。踏陰には難しかった。
「個性は『創造』ですわ!」
そう言った八百万は腕を捲って見せると、そこかからぽこぽこと木材が軽くぶつかり合うような音を立てながら、木製の、軽くくびれのついた卵形をした人形を作り出して見せた。
それは最終的に十三個作り出された。
「お近づきの印に、ひとつずつどうぞ!」
受け取った踏陰がその人形を触ってみると、木の手触りがした。
人形の胴体のあたりが外せるようになっており、外してみると中からもう一個同じ見た目の人形が現れた。
「すごーい、マトリョーシカだ! 疑ってないけど、手品じゃないよね?」
「ええ、材料は私の体脂肪ですが、仕上がりはちゃんと木材ですわ! 私の『個性』は分子レベルでイメージ通りの物を生成できます。構造や組成のレシピを把握すれば、機械のような複雑な構造も作れますわ!」
「すげー」
「言葉も出ない」
「体脂肪! ジュルリ……」
「やはりあなたからは没収ですわ!」
「そんなー!」
それ見つめてよだれを垂らす勢いだった峰田はマトリョーシカを取り上げられた。
「わたくしvs柊さんで参ります! 同系統の個性として負けられませんわ! 彼女が物量ならこちらは鉄量! 大砲を並べて一斉射撃で面制圧いたします!」
そう言って腕からずらりとミニチュアの大砲を作り出して並べて見せた。
「すごい! もう戦争やん!」
「轟や爆豪もそう簡単にいかねーだろコレ」
「問題は、作れるものの上限が体脂肪の総量で決まってしまうことです。脂肪の重さ以上のものを作れはするのですが、それでも資源は有限。材料となる体脂肪は食べないと補給できませんので、食事の速さと量に依存してしまいますわね」
そこまで聞いたところで芦戸が突然取り乱し始めた。
「ちょっと待って! もしかしてどんだけ食べても『個性』使うだけで痩せちゃうの!?」
「え? ええ、その通りですが……」
「最強じゃねぇか! スイーツ食い放題かよ!」
「ほあーっ!」
「オラ今すぐ私のお腹でクリエイトするんだよぉ! 私の体脂肪をターミネイトだ!」
「やめてくださいましーっ!」
「おいみんな押さえろ、芦戸が発狂した!」
突然八百万に襲いかかった芦戸を総出で取り押さえて、アピール合戦は終了となった。
「──というわけで、A組四天王最後の一人はヤオモモに決定!」
「「イェーイ!」」
「やりましたわ!」
「無念……」
八百万が両手を振り上げてガッツポーズをした。
四天王決定戦は常闇と八百万が同票で候補に上がり、お互いに戦ったらどうなるか論じ合った。
最終的に、その場で弱点となる照明装置を作ってみせた八百万に軍配が上がった。
「やっぱり狙ってたのね 常闇ちゃん ドンマイね」
「うむ……」
「この間接照明、綺麗! 持ち帰っていい?」
「いけませんわ葉隠さん。贈呈品を除いて、自分で作ったものは自分で持ち帰って処分するようにしておりますの。特に電化製品や機械は市販のもののように安全基準をクリアしているわけではありませんからね」
「そっか、じゃあ今度、スイーツ
「うふふ、それならば喜んで」
「やったーっ!」
「面白かった! またやろうぜ! 今度は腕相撲にしよう!」
「なんでだよ」
「俺、もうちょっとグダグダになると思ってた」
「上鳴、あんただけはぐだぐだだったわ」
「マジで!」
「みんなお疲れ様だ! なかなか有意義な会だった!」
「飯田ジャッジおつー」
「お前もう先生やれよ!」
「負ける気はないが、正直なところを言えば、俺も彼らとの実力差を痛感している……」
この会が盛り上がった理由はそこにあった。
それはあの飛び抜けたパフォーマンスを見せた三人についていけるかという不安。
踏陰も同様のものを感じていた。
「だがそれはもしこのままプロヒーローになったら、という仮定の話で、実際の俺達はまだ入学したばかりだ」
「ウンウン!」
「これで二日目、濃密……」
「このアピール会、俺はみんなそれぞれ抱えている課題をクリアすれば、あの三人に勝っても不思議ではないという印象を受けた。それは逆を言えば、彼らはそれをやった分だけ先を行ってるということだ」
「そうですわね、焦ることはありませんわ」
「スタート出遅れただけだ! まだこれからだぜ」
そう追従した八百万と切島を、飯田は斬って捨てるように言い返した。
「いや、俺たちは焦るべきさ。君たちの言うとおり、時間はある。だが、人の速度は同じじゃない」
「ええ……」
「そこで、俺の兄、ヒーロー『インゲニウム』からの言葉を送ろう」
飯田は片手を自分の胸にあて、もう片方の手のひらを上に向けて差し出した。
『加速させるべきは今の自分自身ではなく、未来への展望だ』
『一日に走れる量はそう簡単に変わらない』
『未来はすぐに闇に包まれる。未来に囚われれば闇にも囚われる』
『だから自らの希望とその未来に光を当てやるんだ。そうして繰り返しアップデートするんだ。習慣は、努力は、新しい展望に引かれて加速するだろう』
それを聞いた一同、少々の沈黙の後で、飯田をもみくちゃにした。
「お前家族がプロヒーローかよ!」
「しかもインゲニウムって、超有名人じゃねーか! 言えよ!」
「それ、雑誌で読んだことあるよ!」
「妙に貫禄あると思ったぜ!」
「んがっ! 待て、君たち、会を締めるからもうちょっと待って! 話を聞いて!」
「あらら、最後にぐだぐだになっちゃったわね」
「騒がしい……」
そのまま飯田をどつき回しながら反省会はお開きとなった。
──心の闇とはなにか。
暗闇の中で、エゴを疑い、見失ってしまったイドの成れの果て。
行き場も、遣り場もない感情そのものである。
踏陰は学校からの帰り道、
「可愛いものだ」
『ナニ? オレノコト?』
人はそれを日常の中で育み続けている。
だけど、エゴに光を当ててやればそれは雲散霧消する。
人は皆、自分の心の遣り場を求めて、己を高め、他者からの承認を求めては、また闇を育むのだろう。
「まあ、そうだな」
それは自分が幼少期に
『学校ノフミカゲ、ヘン!』
「変で結構」
『ソウイウトコガヘンダゾ! 高校デビューダ!』
「むっ、そこまで言う……やり過ぎただろうか? 俺としては程良き感じに闇の使徒を……」
『プークスクス』
「おい何とか言えダークシャドウ!」
『知ラネーナ!』
「これは解き明かさねばならぬ試練だぞ!」
これからも、そうありたいと願う自分らしく演じていくのだ。