※予定のノルマ未達で短いです。筋肉祭り第二ラウンドは次回になります。
※予定では次回で六話終了でしたが、あと1〜2回増えます。
【もくじ】
01.USJ:
02.USJ:A組集合!
※上鳴、耳郎の個性に関する独自設定が入ります。
────────
「うぅわ!!」
「!?」
自分の倍以上の体格の相手から本気で殴り掛かられるなど、当然生まれて初めての経験だった。
「コエーッ! マジ! 今見えた! 三途見えたマジ!」
「三途って略すと意味変わっちゃうよ?」
「伝わってるからいいじゃん!」
──上鳴電気の個性『帯電』。
身体を通すことによる、電力の蓄積と放出に特化した個性である。
そのポピュラーながら有用な『個性』に目覚めた彼は、その力を計測された後、大きな称賛を浴びた。
そして、一般家庭に生まれた彼の両親をはじめとする大人達はそれ以降、彼について計測の必要を認めなかった。
彼が極めて優秀な『個性』であることを確認するのにそれ以上の記録は必要なかったからだ。
いわばカンストであった。
これならば何もしなくてもいずれその『個性』を活かす職に就くだろう。
そんな期待と楽観に包まれながら彼は育った。
こうして大人達からは神童と持て
中学を卒業する頃には、いい感じでアホになった、と本人は思い込んでいる。
これは、彼に『期待』した大人達が誰も、彼が持つ『個性』のどこが優れているのか、具体的に説明していなかったことに起因する。
そのため、上鳴電気は期待を背負いながらも自分の『個性』に対しては自らの
──黒霧の『ワープゲート』に飲み込まれ、USJ山岳ゾーンに飛ばされた上鳴、
八百万はそこに何か「防衛対象」があるのだと察した。
そして、転移する直前まで通じていた無線が一切通じなくなっていたことから、この集団が何を守っているのか予想がついていた。
そのため、彼女は囲まれた直後からその攻略に向けて準備を始めていた。
雄英高校の生徒達はまだ入学したばかりで、
特に生徒の『個性』に関する情報はほぼゼロに近く、一部生徒の断片的な情報しか手に入っていなかった。
その結果、黒霧はそれと知らずにその山岳ゾーンを攻略可能な人員を送り込んでしまっていた。
その黒霧から伝えられた事前情報のうち、もっとも危険な『個性』の持ち主がそこに居て、まだ『個性』を見せていないからだった。
「ねえ
「今ごろ何言ってんのよ!」
「今はこの数をどう切り抜けるかですわ」
「二人とも言い方きつい……」
この状況でまだ軽口を返す上鳴に若干イラっとしながら、耳郎は言い返した。
「つーかあんた電気男じゃん、バリバリとやっちゃってよ」
「あのな戦闘訓練の時見たろ! 電気を
「もう、コイツぐだぐだと……おぉっ!?」
刃物を持った
ガチャガチャと音を立てて、
「くっ……!」
まだ護身の心得など身についていない耳郎に、こけ脅しだけでも出来るようにと、後で怒られるのを承知で、八百万が
だが、刃物を向けられ、刃物を向け返したことで、かえって刃物を引き寄せる状況になってしまった。
三人の中では自分がウィークポイントだと思い、耳郎は焦っていた。
「耳郎!」
「!?」
上鳴が耳郎に駆け寄ろうとすると、刃物を持った
(あいつら……上鳴を警戒してるな……やってみるか)
「いいか、二人を巻き込んじまうから、今俺は頼りになんねー! 頼りにしてるぜ!」
「じゃあさ、人間スタンガン」
ちょうど駆け寄った、上鳴の背中を足で軽く突き飛ばした。
「マジかバカ!」
上鳴は勢い余って
──上鳴電気には「人を助けるヒーローになりたい」という人並みの夢がある。
その夢を叶えるためのツールとして、自分の『個性』を照らし合わせたとき、「物足りない」というのが彼の率直な感想だった。
自分は電気を溜め込み、それを放電できるだけ。
電気に指向性を持たせるのは、容易なことではない。
さらに言えば、自然界では空気中に放電するのがもっとも難しい。
その条件において、その身に纏う
彼は知識としてそれを理解はしていた。
だが、それでも彼がヒーローとして考える「実用性」には叶わないという、それだけの事だった。
彼は強い電気を流せるようになりたいのではなく、ヒーローになって、『個性』を使って人を助けられるようになりたいのだ──
──
『バヂッ!!』
それを迎撃しようと飛びかかった男が、聞くほうの背筋が凍りそうな空気のビビり音と共に弾き飛ばされた。
それを見たもう一人の
上鳴は結局自力では止まることができず、
「ぐわあああああっ!」
その身を地面と接続する電線の抵抗にしてしまった
それを見た上鳴がさも意外です、という表情をして女子二人を見た。
「あ、通用するわコレ! 俺強え!? 二人とも! 俺を頼れ!」
「軽いなオイ……」
耳郎がその切り替わりっぷりに
──上鳴電気に対して、異常な熱意を以って付き
それだけ輝かしい才能と『個性』があったから。
だが彼は人間関係の機微においては優れたセンスがあり、幼いうちからちゃんと理解できていることがあった。
人の感情には重みがあり、その持ち主は、時にはそれに気づかず押し付けてくるものなのだと。
他人の重い感情は、普通の人が受け止め切れるものではないし、ただの親切心で、何の覚悟もなくそうするべきではないのだと。
だから彼はそれを軽やかに受け流す術を身につけた。
それは彼の生来の性格にも合っており、それ以降の彼の処世術となった。
それを見てがっかりする大人を見送るたびに、彼は自分が前よりアホになってしまったと、自らを少しだけ責めた。
実際、確かにその処世術は彼の言動を少しだけ軽薄なものに変えたが、影響といえばその程度だった──
──そんな上鳴の軽さを、
「ふざけてんなよガキィ!」
二人の
耳郎は慎重にその二人と、その先にいる
(落ち着け、タイミング……よく狙え、これハズしたらさすがに上鳴に責任を……ってんなこと考えるな!)
コスチュームの両足首に搭載されたLRAD(長距離音響発生装置)に耳たぶを伸ばし、その差し込み口に先端のプラグを接続した。
耳たぶの先端についたステレオミニプラグ状の突起部を通して、音声信号の制御ができる能力である。
プラグは音の振動をそのまま伝えることができ、その振幅を体内である程度増幅することも出来る。
彼女はこの増幅機能を利用してプラグを地面に接触させて感振棒のように使い、遠方の音や小さな音を拾ったり、音を伝えたい対象にプラグ接触させ、自らの心音を増幅して送り込むショック装置のように使ったりもできる。
だが、この個性の真骨頂は『音声』に関わるものであれば電気信号をはじめとする、別種の信号に変換された音に対しても同様の制御ができることにあった。
──後に判明するが、『個性』や『魔力』による独自の音声信号ですら制御可能である──
この能力により、電気信号としての音を入出力する外部デバイスと接続できる。
ジャックのついたスマートフォンから音楽を聴けるし、LRADに接続して強烈な音響攻撃を放つことも可能だ。
(要はアンプで聴かせてやるだけだ!)
そう思い切った耳郎はLRADのスイッチを入れた。
彼女の心音が増幅されてプラグに伝わり、さらにLRADがそれに指向性を加えて
「ぐああっ!?」
「耳がぁっ!」
音波は
「出来た!」
八百万が叫んだ。
上鳴と耳郎が稼いだ時間で、彼女は詰め手を完成させた。
勝利を確信した彼女は不敵に微笑んだ。
彼女の背中が盛り上がり、上半身のコスチュームを引き裂きながら何か大きな物を生み出していく。
「時間がかかってしまいますの。大きな物を
彼女がその個性『創造』で生み出したのは舞台の
それを耳郎と二人で被りながら、上鳴にその意図を伝えた。
「厚さ百ミリメートルの絶縁体シートです。上鳴さん、後は頼みますわ」
「なるほど……」
その意図を理解した上鳴は
「これなら俺は……クソ強ぇ!!」
──上鳴電気の個性『帯電』。
身体を通すことによる、電力の蓄積と放出に特化した個性である。
彼は最大で13キロワット/時間──ひとつの家庭が1日に消費する分──の電力を体内に滞留させることができる。
そして限界まで充電した場合、その電力を最大電圧百三十万ボルト、最大電流10アンペアで86秒間持続して放電できる。
この数字は彼が
──シートから外に出た八百万はその光景に戦慄していた。
その制圧は、上鳴に頑張って暴れてもらう、もう少し時間のかかるものだと思っていたからだ。
なお、破れたコスチュームは耳郎の手ブラ補助を受けながら十秒で修復済みである。
「発育の暴力……ウチ、ビロウ、ザ、ヘヴィーオブジェクト……」
耳郎はそうつぶやきながら、わなわなと自らの手を見下ろし、その手に加わった大質量を
上鳴は放電を開始したその場から動いていなかった。
運良く感電を避けられた数名の
──空中放電に必要な電圧は1メートルにつき50万ボルトである──
「百三十万ボルトって……いつ、どうやって測ったんですの……?」
「ウェイ?」
彼女のつぶやきは、許容限界まで放電したために脳神経が
今はその方が良かっただろう。
──つまるところ上鳴電気という男は、その才能の暴力で周囲を焼き尽くしながら、それ以上の向上心で自らの『個性』をそれなりの程度と評価し、それでも平凡な人格を保ち、特に大きな悩みも抱えることなく、人並みの夢に向かって、それを叶えようと健全に、軽やかにその道を進んでいるという、ある種の化け物であり、ヒーロー科最高峰の生徒としてもっとも相応しい人物の一人であった。
────────
上鳴電気の大放電により、山岳ゾーンの
その
(やはりこうなったか……潮時だな)
彼は電気系の『個性』を持っており、それを利用した電子戦を得意とする、やり手の
だが『個性』がそれほど強い部類ではなく、この戦いもいくつかの小細工を仕込んでようやく凌げる程度。
この土潜りの術もそんな小細工のひとつである。
彼は報酬の前払いを受けてこの襲撃に加わったが、雇い主の計画に最初から危うさを理解していた。
(生徒の『個性』を甘く見過ぎだ……強個性視点の雑な発想……しょせん弱個性の俺にはこれ以上付き合えん)
闘争心だけは一丁前の
荒事の経験があると言ってもしょせんは弱い個性同士の小競り合い程度。
強個性に
そんな程度の連中が一念発起し、束になったところで、ヒーロー科最高峰に選ばれた生徒達の『個性』を、こんな野戦で倒せるのか。
経験豊富な彼は、傷つけることすら難しいのでは、と見ていた。
まだ街中で襲いかかるなり、人質を取るなりするほうが成せる可能性はあるだろうと。
(そろそろ生徒の増援が来てしまう。同じ電気系個性を手にかけるのは気が引けるが、しょうがないよな。ノルマも果たせるし。あれを人質に取ってバックれよう……)
社会的需要が無限に近く、「生まれながらの勝ち組」と言われる電気系『個性』だが、家庭に供給される電力というものは、実はその過程においてはいくつもの壮大なプロセスを通過している。
それは人間が支えるには非常に危険の伴う、大規模なエネルギーだ。
彼はそんな電気工事中の事故をきっかけに人生を転落させた中の一人だった。
彼は、自分がそうであることから、同じ系統の個性を使うその生徒が大技を放った後に最大の隙が生まれると読んでいた。
そして、意を決したその
『動いたな?』
待ってましたとばかりの喜色で、その
『今
その
その信号は簡素で、周波数の特定も容易だったが、上空を飛び交う電波を妨害することに集中しており、低空で行われる通信までは手が回らなかった。
『油断したな。自分がノイズ源だと忘れとったな?』
「ジャマー、見ィつけた!!」
叫び声と共に、その人影が、もう片方の腕で何かを引っ張る動作をした。
その後は凄まじい音と光に包まれたという記憶だけを残して、その
──爆豪が空から地面に向けて放った爆破は
「んもーっ爆豪! アンタホントにうるさい! 鼓膜めっちゃ痛いんですけど!」
「ケッ」
耳郎の個性『イヤホンジャック』により、彼女の耳たぶは最長6メートルまで伸ばすことができる。
とはいえ目一杯ではパワー不足になるため、耳郎は少し駆け寄って4メートルくらいの距離から上鳴を引き寄せた後、そのまま抱き寄せて倒れ込むことで退避に成功していた。
「ウェ……ウェーイ……」
上鳴はぼんやりした目にほんのり笑顔で、両手のサムズアップをしながら爆豪を迎えている。
それを見て気を取り直したのか、耳郎は爆豪に言い直した。
「ま、それはそれとして、ホント助かったよ。爆豪、救けに来てくれてありがとう」
「チッ」
「舌打ちで返事するな!」
一方、八百万は出力高めのトランシーバー型無線機を『創造』し、施設内の生徒達に向けて連絡を始めていた。
『こちら八百万! ジャマー撃破! 通信回復! 繰り返す、通信回復! どなたか応答願います!』
『こちら飯田。三人とも無事か?』
『はい、爆豪さんに助けていただきました』
『ウチらは擦り傷程度だよ。あと上鳴がやりすぎてアホになってる』
『良かった……爆豪くん、よくやった!』
『……』
『何か返事をしたまえ!』
聞こえているはずなのにそっぽを向いて黙っている爆豪を見て、耳郎は小さくため息をついた。
『それよりも13号先生に連絡を! ジャマーを倒しましたので、外と連絡が取れるようになったはずですわ。ですが上鳴さんの放電の影響か、こちらはまだスマートフォンのアンテナも立っておらず……機材をお持ちの13号先生にお願いしたほうが手早いかと』
『わかった、俺が一番近い。ちょうど
『んじゃ、ウチらは避難を……何よ上鳴』
上鳴が耳郎の背中をつついて、何かを訴えかけてきた。
『ウェイウェイ言われても分からん……え、無線? ああ〜っ!』
『耳郎くんどうした?』
『上鳴このバカ! こいつ自前の無線に13号先生のチャンネル登録してた! この軟派ヤロー!』
『なんで早く言わないんだ!』
『どうして早く言わないんですの!』
「ウェイ……」
上鳴は無線で自分を責める声を聞いて、しょんぼりとした顔をしていた。
言葉を聞き取れる程度には回復してきたらしい。
この状態は独特の可愛げがあるな、と耳郎は笑いながら、上鳴の耳にかけられた彼専用の電子変換無線機を操作した。
『ぷぷぷ、上鳴、ものすごく申し訳なさそうなアホ顔してる。ヤオモモにこの周波数を教えて、13号先生と
『それでお願いしたい。その間に俺たちはもう一度点呼を取っておこう。番号順で、怪我してたらついでに報告!』
飯田の号令の下、生徒達が順番に報告を始めた。
『二番
『三番
『四番飯田、
『五番
『六番
『ウェウェイ……』
『今のは上鳴君か? 切島君は無線機を落としていたな、次は口田君で』
『九番
『十番
『十一番
『十二番耳郎、刃物で切られた……あ、消毒と絆創膏で処置できる程度だから、問題ナシね』
『十三番
『十四番
『十五番
『十六番
『十七番、怪我なし』
『……』
『峰田くん、聞こえるか……? 確か彼は蛙吹くんと一緒だったな……』
『二十番、八百万、打撲が少々ありますが問題ナシですわ!』
点呼が終わると飯田の声が硬くなった。
『よし、それで? 蛙吹くんのフリをしているのはどこのどいつだ?』
『アハッ☆』
その声は、蛙吹とは似ても似つかない、劇団員の演技のような芝居のかかった、低い女の声だった。
『まあバレるよね。無線、借りてるよ。こうやって奪われる事も気をつけたほうがイイね☆』
『
『そうだ。僕はマジアハイデ。悪の組織【エノルミータ】に所属する
『蛙吹くんをどうした!』
マジアハイデを名乗る女は、その質問にすこしずれた回答をした。
『蛙吹さんというカエルの子と、峰田くんという小さい男の子を預かってる』
『要求は何だ!』
『知らなぁい☆』
『貴様はどこにいるんだ!』
『秘密さ!』
『ふざけるなよ!』
『フフ、今の僕は連絡役なんだ。実際に身柄を預かっているのは僕とは別の子でね。あの子が何考えてるのかなんて、僕にもわからないよ……でも、そうだね、せっかくだから僕の要求もみんなに聞いて貰っちゃおうかな?』
女の声は、さらに低い、ドスの効いた声に変わった。
『その程度で僕達と戦えるつもりか? クズの
それだけ言った女の声の調子がまた元に戻る。
『……ご清聴ありがとう。聞いてくれたお礼にチュートリアルだ。これはゲーム。この施設のどこかに居る、カエルの子の息が切れる前に助け出して見せろ。と言っても、場所はもう想像ついちゃうかな?
『愉快犯め!』
『それね☆ それじゃあ、頑張って』
無線からバキバキと大きなノイズが聞こえた後、静かになった。
おそらく相手の
それから十秒くらい、全員が沈黙した。
あまりの状況に、心の整理を必要としていた。
それを救うかのように、落ち着いた独特の電子音が流れた後、13号の声が聞こえた。
『こちらは13号です。感度良好。状況は把握しています。みなさん、よく頑張りましたね』
飯田が鎮痛な声でそれに答えた。
『先生……申し訳ありません。二人、
『……まずは連絡します。僕が職員室および警察への連絡を済ませました。まずは車を回せるヒーロー教師が十分もしないうちに来てくれるでしょう』
『13号先生……俺達は……』
何かを言いたげにしている飯田を遮って、13号は連絡を続けた。
『相澤先生が負傷しました。命に別状はありませんが重傷です。まだ意識を失っています』
『ええっ!?』
『オールマイトは現在も交戦中……
それを聞いた芦戸達が即座に志願した。
彼女の周りにいた瀬呂、常闇、口田もそれぞれうなずき合っている。
『13号先生、私たちで蛙吹さんと峰田君を助けに行きます!』
『我ら四名、蛙吹のいた水難ゾーンに至近故』
『人命救助、優先です』
『俺ら先鋒で突っ込んで、後からみんなに畳み掛けてもらえば大丈夫じゃねぇかな?』
生徒達の志願に、13号は冷徹な声で返した。
『なりません。見ていましたよ。
『うっ……』
芦戸が苦しそうなうめき声を返した。
他の生徒達も無線越しに絶句する。
すでに一度、避難を優先しようとする相澤に対して、
その後ろめたさが全員の心に蘇る。
そんな中で、麗日がおそるおそる、言い返した。
『だって、相澤先生、言うとったよ、【仲間を救けろ】って……』
『だから自分達は悪くないと? そのように
『でも、でも……助け待っとったら、梅雨ちゃんが……う、うぅ……ぐすっ』
大きな舌打ちが割り込み、爆豪が悪態をついた。
『重センよぉ、今、誰も死んでねぇのはどなた様のおかげだぁ? テメェらの不甲斐なさを矛先ズラしとんなよゴラァ!!』
轟も普段からは想像できない、ずいぶんと苛ついた調子の声をあげた。
『俺達なりに頑張ってんだ。これで責任問われるってんなら、さすがにケンカとして受けて立つぜ』
障子の声は落ち着いていたが、だからこそ、その決意は真に迫ったものだった。
『俺もこのまま黙っていられない。退学というのなら、俺は別にそれでもいい。俺を救けに来てくれた人がいるから、俺も二人を救けに行く』
13号の大きなため息が無線に漏れた。
『……泣いたり、怒ったり、脅したり。今年の1年A組は最悪ですね。入学から二週間でクラス崩壊とは、相澤先生、また
『『えぇ……』』
それを聞いた生徒達はクラス崩壊扱いされたことより相澤先生の過去実績が気になってしまった。
『生徒も問題児ばかりなら、教師も至らないところばかり。こんな状況ではまともな授業など成立しませんね』
『ウチは先生達がこんなんで責められるのもやだな。
『そうですね、僕ら教師は、君達を卒業まで見届けたいです。僕らの社会的保身の理由なんて、せいぜいそんな所でして』
13号の声色が少し変わった。
『これから起きる情勢を考えれば、君たちの受け止め方は正しい。
『先生……?』
グズグズした声で心配そうに尋ねる麗日。
13号は生徒達の動揺を受け流しながら、淡々と語り始めた。
『平和は、すでに綻び始めているのです……きっかけは一年前。多古場で起きた火災事件に差し込まれていました。あの組織は、
『今はまだ、僕らヒーローが勝っています。ですが、ヒーローを無差別に襲う
『……』
『この情勢で、仮に現役の頭数が足りなくなれば、まずは半引退の予備役組が。その後は君達も否応なくその最前線に立たされます。僕らと同じステージに立つおつもりなら、その覚悟はしておいてください』
生徒達はその
『ですが、今はちゃんと僕らがついているわけです。僕らを差し置いていくと言うのなら、これは貸しにさせてもらいますからね? 未来のヒーロー達よ』
『先生!』
『お小言はここまでです。僕の責任を以て指示します。後追いですが、施設責任者として個性の自由使用を許可します。大至急、遭難した生徒達を救助してください。くれぐれも二次遭難にならないように』
『『『はい!!』』』
『1年A組、全員、水難ゾーンに集合だ! 蛙吹くん、峰田君を救出する!』
『『『了解!!』』』
その無線を聞いた生徒達は返事をし、それぞれ一斉に駆け出した──
──息を切らせながら、
しなやかに鍛えられた体を跳ねさせて、両側に植木が立ち並ぶ、USJの各ゾーンを
「待って芦戸、早すぎ! 常闇めっちゃ遅れてる!」
「いーから、一歩でも早く着いてきてよ!」
「だってよ常闇!」
「ぎょいぃ……」
遠くからちょっと悲痛な常闇の声が聞こえた。
芦戸に続く瀬呂、口田、常闇の三人は中学までは文化部タイプで、素質もあるし鍛え始めてはいるが、長距離をダッシュさせれば、発展途上の心肺能力が馬脚を露わすことになる。
男子三人はそれぞれすでに息切れし、ヒィヒィと呼吸を荒らしながら離れた縦列になって芦戸を追いかけていた。
彼女の焦燥を理解していたからこそ、足手まといと思われたくなくて必死だった。
「今度こそ、救ける!」
彼女は責任を感じていた。
これは自分が最初に柊と青山の救出を主張した結果だと。
実際の行動が成立したのはクラス過半数の合意による。
それでも言い出しっぺの自分が悪いと思っていた。
相澤先生を拘束しての強引な行動においては、彼女も巻き込まれた側ではあった。
そして救出に向かってみれば、柊と青山は自力で避難した様子。
交流の浅い青山は未知数だが、柊が健在ならそっちは心配無いだろうという確信はあった。
柊うてなの圧倒的な『個性』を見せられて、悔しさに歯
だが、結果論で言えば、自分のわがままに付き合ってくれたクラスメイト達を、その分だけ危険に晒したことになる。
そして案の定、その報いはやってきた。
脱出寸前の非常口手前で『ワープゲート』の
芦戸自身も暴風・大雨ゾーンに飛ばされ、そこで待ち受けていた多数の
とにかく無線にかじりついて、全員の無事な声が聞けることをひたすら祈り続けていた。
気がつけば、自分は無傷で、
その後、無線を通じて仮にも全員の反応を聞けたときはまた泣きそうになった。
だが、点呼を取ってみれば、峰田と蛙吹が
『こちら切島。八百万と合流してインカム作ってもらった。皆すまねぇ、俺だけいいとこ無しだ』
ようやく聞けた、消息不明だった最後の一人の声。それに背中を押されるように、芦戸は足を早めた。
『切島より芦戸達へ。今、八百万がすげーもん作ってる。すぐ行くから先始めちまってくれや』
『あいよ!』
今度こそ、私の番だ。私が救けて見せる。たとえこの身に代えてでも。
そのように危険域まで覚悟を募らせながら、さらに十数秒、全力疾走を続けると、ようやく開けた場所が見えてきた。
景観を楽しませるためにゆるやかにカーブした道をショートカットし、ツツジの低木をハードルのように飛び越えて、芦戸は水難ゾーン前の広場に飛び出した。
「何アレ!」
芦戸はその光景に思わず声をあげた。
水難ゾーンは大きなプールになっており、それは湖とも呼べてしまうような広さだった。
中央には何
そしてプールの向こう岸には巨大なウォータースライダーがそびえ立ち、プールに大量の水を流し込んでいた。
そのウォータースライダーの出口のひとつ、その下に流れ込む水を浴びるような位置で、巨大な球体に近い生き物が姿を現していた。
その大きさはよくわからない。
その体の大半を水の中に沈め、丸い体の一部と大量の触手だけを水面から出していたからだ。
その触手をサイズに含めて適当に測るならば、それは広大なプールを四分の一程度まで覆い尽くすようなサイズだった。
そして、芦戸はそのシルエットをよく知っていた。
「めっちゃデカい
タコとオクラの