────────
彼が自室で叫んだのは、東京でヒーロー狙撃事件が起きてから数日後のことである。
「あらすじ……ウチに帰ったら女の人が僕のベッドで寝てた! ふたりも!」
要するに、極端に女性慣れしていないこの少年は密室に女性と居るだけで精神に失調をきたすようである。
それが男女比1対2なので精神的ダメージも2倍ということらしい。
──
ここは彼の自室である。
彼のベッドにはひとりの女性がもうひとりの少女を抱き抱えたまま眠り込んでいた。
「バカ言ってないで助けてくれよぉー」
涙目の少女は、か細い声で訴えている。
後ろからガッチリ抱え込まれて動けない様子だ。
だが、そういう声色をしているときはだいたいウソ泣きであると出久は知っていた。
数ヶ月ぶりに会った小学校中学年くらいの少女、その名は
中学生の頃に行ったボランティア活動で知り合った。
濃い緑色をした長い髪には脱色されたように明るい金髪が混ざり、軽くうねりながら入り混じっている。
後ろから彼女を抱き込んだまま寝ている女性と、色は違うが二色の混ざり具合はよく似ていた。
ぐりんと大きな目を中心に輪郭のはっきりした造作は人形のようで、ずいぶんと日本人離れしている。
だが本人によると「生まれに特殊なことは何もない」らしく、その容姿と髪色には『個性』の影響が強いのだそうだ。
会ったのは数ヶ月ぶりだが、成長期がはじまったのか、体格は少し大きくなったように見える。
出久はロートスと連絡先は交換しているが、この少女は年頃の女の子らしからぬ電話不精のネット不精であった。
出久から連絡を入れてもめったに返事を返すことはなく、少女の方は気まぐれに出久を呼びつけては使い走りにしていたのである。
「このままじゃマンガも読めねーよぉー」
出久からするとこの少女は女の子の友達というよりは、ずけずけと家に上がりこんでくる近所のお子さん的なアレであった。
「いや、普通に抜け出せばいいのでは?」
出久は徐々に正気を取り戻しつつあった。
至極まっとうな意見を申し立てたが、ロートスは冗談じゃないとばかりに嫌そうな顔をした。
「バッカお前こいつの寝起きの悪さを知らねーから……」
「ええ、そんなに?」
「そうだぞ。こいつの警戒線にうっかり触れちまったら、たちまちズドンでウギャーだぜ……」
「ズドン!?」
「しっ!」
ロートスに注意されて出久は慌てて両手で口を押さえた。
ロートスを抱き枕にして寝ている女性、
その安らかな寝顔に出久は思わず唾を飲み込んだ。
よそ行きの顔をしていない、妙齢の女性の抜けきった顔など、母親以外には拝んだことすらなかったのだ。
出久の心中に謎の罪悪感がよぎり、目を逸らしたい気分になった。
彼女の個性は『ライフル』である。
その右腕には一キロ先の標的も打ち抜けるような大口径のスナイパーライフルが収納されている。
出久もそれを実際に見たことは数える程しかないが、その恐るべき威力だけは、目を閉じれば克明に思い出せる程度にわからされていた。
その銃身が出現する肘の部位が黒ずんでいた。
過去にも増して使い込まれている様子であった。
あれでズドンはまずいと思い、出久は口を押さえたままこそこそとベッドに近づき、小声でロートスに尋ねた。
(じゃあ、どうすればいいのさ?)
(オレの代わりにお前がこいつを起こすんだよ! オレが巻き添え喰らわないようにしろ!)
(ただの身代わりじゃないか!)
(オレを助けると思ってやって!)
(やだよ!)
ふたりがごにょごにょと話し合っていると、火伊那が身じろぎをした。
「うん……」
「「ヒイッ!?」」
「うるせーよガキども、とっくに起きてるよ……」
火伊那がくぐもった、うめくような声をあげながら上半身を起こした。
ロートスは抱き抱えたまま、腰回りと背中の筋力のみである。
「ぬぎゅ」
腕の中の少女は無理やり体を起こされて、ものすごく不本意そうな顔をした。
火伊那はその少女の頭の上にあごを乗せ、出久に向けて微笑んで見せる。
「さすがにこんな住宅街で
「お前昨日こういう所でブッぱな……むぐぐ」
何か言おうとしたロートスの口を押さえながら、火伊那は大きなあくびをした。
無防備なしぐさを見せられた出久は再び見てはいけないものを見てしまった気分になった。
「久しぶりだな。よく寝た」
出久と火伊那の出会いもまたボランティア活動であった。
というかその活動団体の代表がこの人だった。
まだ髪が長く、ポニーテールにしていた頃の彼女と共に、多古場海浜公園のスクラップを片付けた九ヶ月間。
その間に、出久は火伊那からそうと気づかぬうちに謎の習慣を仕込まれていた。
それは、彼がヒーローへの道をあきらめるきっかけになった、自分の弱さとの向き合い方だった。
それからずっと、出久は彼女に課せられた訓練を継続している。
彼女が大きな被害をもたらした
「どうしてここに?」
「ちぃとやらかしてな。しばらく
出久は表情を凍らせて即答した。
「え、嫌です」
「冷てぇヤツだ」
「いや、明らかにひと仕事してきたような
火伊那の短く切り揃えられた髪は乱れ、その顔も『ライフル』によるものであろう煤で少し汚れていた。
その肘の不穏なコゲ付き具合に、とどめは硝煙の匂い。
どう見てもさきほど一戦やらかしてきましたといった様子だった。
「
「『個性』の不法使用。その
「よく勉強してるな。つまりいっぺん『個性』を使って
それを聞いた出久は思い切り顔をしかめた。
むしろその鉄砲で軽犯罪なんてどうやったらできるんだ。
「報道ではぼかされてますけど、インゲニウムを撃ったのあなたですよね?」
「ノーコメントだ」
「はぁ……」
出久は心が痛んだ。
彼女がまだ指名手配もされていない理由は、出久にはよくわからなかった。
だが、彼女が何らかの信念のもとに罪を重ね、その罪が彼女の精神に負荷をかけている。短くも長くもない付き合いの中で、出久にはそれがよくわかっていた。
出久はそれをどうにかして止めたいと思っている。
そんな少年の気持ちも知らず、火伊那は探るような上目遣いでベッドのそばに立つ出久を見上げた。
「なんでもすると言ってもか?」
「えっ? じゃあ、自首してくれませんか?」
火伊那はつまらなさそうに下唇を突き出した。
「アホめ。いずれはそうしてやってもいいが、今の私は当面逃げ切るつもりなんだよ。もうちょっと現実的で面白い提案をしろよ」
「だってなんでもするって……」
「男子高校生が思いつくようなレベルでもいいんだぞ?」
「ええっ!? じゃ、じゃあ……えっと……」
まんまと誘導された出久が真剣に悩み始め、火伊那はそれをニヤニヤとみつめている。
一方、頭をあご置き場にされて我慢の限界に達したロートスが口を挟んだ。
「おい緑谷、こいつからかってるだけだぞ」
「おい」
「ひひひ、もうおまえの母親からオッケーもらってるんだよ」
「えぇー……」
「てめぇ」
火伊那が拳を振り上げたが、ロートスはその手が離れた隙に細い身体を柔軟にねじり、拘束を抜け出すとそのままビャッと部屋の外へ逃げてしまった。
抱き枕を逃した火伊那はベッドの上に座り直した。
その身体にはりつけたような黒いノースリーブのワンピースはびっくりするぐらい生地が薄かった。
膝丈までしかない裾は乱れ、その向こうの豊満極まりない太ももが見え隠れしている。
くつろいでいるときの母親と同じような、そこそこ年齢を感じさせるものであるはずなのだが、出久の鍛え抜かれた視覚にそれはあまりにもまぶしすぎた。
出久は目の焦点をそこから外すことでそれに対応し、開き切った瞳孔の冷たい表情で答えた。
「
「そうだな。
火伊那は足を動かし、ベッドの縁から床に足を下ろした。
「……たとえその相手を救いたいのだとしてもな、『
「ふあっ!?」
バレとる。
出久は派手に両膝をつき、完璧を超えたリアクションでそれを顔面に表現してしまった。
「ちょっと見ない間に、ずいぶん面白いことやってるなぁ、んんー?」
出久はどこか妖しさの加わったその声に、ガタガタと震え始める。
出久は接客業のアルバイトと称してヒーロー事務所で
その時のヒーローネームが『デク』である。
当然公表などしていないし、どこにも許可をもらっていない。
「そういえば、私を捕まえたいとか言っていたな? お見それしました。確かに最短距離だな。世間にバレなければだが」
「うう……」
出久を見下ろす火伊那はとても楽しそうな笑顔だった。
実際の彼女はエノルミータの使い魔、『
出久は目の前の女の自信満々な笑顔から、彼女が自分の弱みを把握し、勝率百パーセントにしてから居座りに来たのだと悟って、敗戦処理に切り替えてしまった。
出久が懇願の姿勢を見せると、火伊那は笑いを含みながら言った。
「少なくとも置いてもらっている間は、バラさないようにしてやろう。もちろんおまえの母親にもな」
「ふぁい……」
だが、火伊那は表情を固め直すと、その激しくうねった緑の髪の毛をむしるように
「だが、母親には自分が何をしているか、ちゃんと言えよ」
「えっ……?」
「どんだけ喧嘩してでも説得しろ」
火伊那が手を開いて髪を離すと、重力に負けて出久は再びうなだれる。
「いや、それは……」
「どうやっても心労をかける稼業だ。そこに余計な心配まで加えてやるな」
「……」
「
まったくだと出久は思った。
先日トガヒミコにナイフで肌を切られた際は「通り魔的な
当然だが、母親に泣かれてしまった。
出久の母親は出久をとても心配しているし、何かあれば自分以上によく泣く人だ。
次に大きな怪我でもしてしまえば、自分は今度こそ居た堪れなくなるし、隠しきれないだろう。
「ヒーローを
どこか遠くを見るような目で語る、火伊那の言葉では曖昧にされたその主語を、出久はすでに目の当たりにしていた。
「だが、家族の魂までそこに捧げるつもりじゃないんだろう?」
「はい……」
「ならば、ちゃんと言って、わかってもらうことだ」
火伊那は再びそのもじゃもじゃ頭に手を伸ばし、乱暴に撫でた。
「少なくとも私の世代では、親に無理言って、地面に頭をこすりつけてヒーロー科入学の同意書にサインしてもらっていたのさ」
「そうか……」
現在、出久の世代にそこまで覚悟を決めてヒーロー科に入学する者は少ない。
人口の八割を『個性』持ちが占め、その頂点に『
私立ではヒーロー科が乱立し、抱え込まれる生徒の数は年々増えて、ヒーロー免許の本試験に合格する人数の何倍も多くなっている。
ヒーロー科とは学歴。ヒーローになれなくとも就職で優位となる程度のもの。
その同意書の慣習は、現在では一部の名門校と専門学校のみ。
ごく一部を除けば、そういう風潮になりつつあった。
そう思えば、火伊那の言う親の説得は必要なものであり、より困難なものであることを実感した。
「……善処します」
「急かしているわけじゃないし、当たって砕けろというわけでもない。よく考えておけ。説得は手伝わないが、相談には乗ってやる」
「はい……」
しおしおと枯れた植物のような表情で、出久は返事をした。
──親から先に風呂を済ませるように言われ、すこし遅れて参加した夕食の食卓では、なぜか別の戦いが始まっていた。
「この子から聞きましたけど、働かせているというのは本当ですか?」
「……」
出久の母親、
出久は困惑したまま向かい合う二人の様子をうかがう。
よくわからないが、どうやら引子の隣に座っている少女が争点らしい。
だが、当のロートスはといえば知らぬ存ぜぬといった表情でお茶漬けに向かってふうふうと息を吹きかけた後、スプーンでかきこみはじめていた。
「あなたの個人的な事情にまで踏み込むつもりはありません……ですが子どもには子どもの権利があると思います」
母親がそんな厳しい表情をしたところを、出久は初めて見た。
──いや、見たのは幼稚園の頃、『個性』のことで、自分に泣いて謝ったとき以来だった。
火伊那はぼそりと反論した。
「子どもを養うには、相応のお金が必要です。私にはもう一人養わなければいけない子がいる」
「そうですか」
「ロートス本人はそれに納得しているし、腹は満たしてやってるし、必要なものは買ってやっています」
「子どもには、それだけでは足りないと言ってるんです。学校には行かせているんですか?」
「……」
ボランティア活動をしていた頃から、出久もそこは心配していた。
どんな事情があるかは知らないが、あの少女が学校に通っているような雰囲気はまったくなかったのだ。
一方、ロートスは締めのつもりでかきこんだお茶漬けが物足りなかったのか、味噌汁のお椀を持って飛び降りるように席を立ち、台所の方に行ってしまった。
それを目で見送りながら、引子は強い口調で言った。
「本人は納得しているとおっしゃいましたけども。わたしの家の中で、そのような親子関係を見て見ぬフリして過ごせるほど、私の肝は据わっておりません」
その瞳には涙が浮かんでいたが、その表情は出久が初めて見るほど強い意志が籠っていた。
「では……」
ロートスを連れて出ていく、と火伊那は言いたかったのだろう。
それを遮って、引子は覚悟の決まった表情で言った。
「ですが、出久が
「……と言いますと?」
「あの子を学校に通わせてください。そしてあなたはあの子なしで仕事を回せるようにやり方を変えてください」
「ロートスの代わりはそういないんですよ」
「難しいなら時間がかかっても構いません。限度はありますが、しばらくはウチで食べさせてあげます」
「……それでは私の納得できる仕事からは程遠いんだ」
「でしたら、本当はあなた、仕事ができないんじゃないですか?」
「何を?」
言われてさすがに火伊那もにらみ返したが、引子はさらに挑発するように言った。
「本当に、あんな小さな子に依存しないといけないようなお仕事なら、やらないほうがいいんじゃないですか?」
「……」
「この家まで駆け込まないといけなくなった事情はお察ししますし、出久のためにも、できる限りの協力はしましょう。ですが、それに甘えないでください。共同生活をするからにはあなたも私を納得させてください。せめて、努力はすると約束してください」
にらみ合う両者を、出久は箸を動かすことすらままならず、見守っていた。
なんで自分がこんなに居た堪れない気持ちになるんだろうと思いながら。
「……わかりました。ロートスは学校に通わせます」
最終的には火伊那の方が折れた。
引子は目元にどこか申し訳なさそうなものを残しながらも、笑顔を見せた。
「手続き関係は私に任せておいて」
「よろしくお願いします」
──食卓に残った火伊那は疲れを覚えながら、
「よく食ったな。お前、どっちかっつーと少食じゃなかったか?」
「はー、なんかダシが独特。ちょっとクセになるわ」
ロートスはそう言いながら満足そうに椅子にもたれ、お行儀悪く両足をテーブルの上に乗せ、爪楊枝を
無邪気にぶらぶらとさせる細く小さな手足は、火伊那から見ても、どうしようもなく未成熟だ。
『
ロートスをこのように改造したヴェナリータは、そう言ってこいつを紹介していたが、実際の所はどうなのだろうか?
(あの人に言われるまで、そこに思い至らなかった……)
自分が『仕事』にのめり込みすぎていたことを自覚する。
もちろん、これ以外に何もするべきことなど無い。
今自覚したのは、この『火』に
「……なあ、おまえって、実際
「それな」
ロートスは爪楊枝を
そして人差し指を立てて見せる。
「俺もよくわかんねーんだわ。
「おまえが小学校へ通うことになった」
「なんでだよ!?」
ロートスは椅子から転げ落ちた。
──あの時、自分は言って欲しい言葉を言ってもらえなくて、しょげ返っていたけれども。
『ごめんねえ、出久、ごめんね……!』
思えば、あのときから、母も自分に遠慮しはじめたのではないか?
僕が少なくともグイッと上見て、つき進めるように、気を遣ってくれていたのではないだろうか?
──そんな事を考えながら、出久は母親の運転する車に同乗していた。
ロートスが味噌汁の鍋を全て平らげてしまい、翌朝の分がなくなってしまったのだ。
どうせだからひとっ走り四人分の食材を買ってしまおうと、夜も空いているスーパーに向けて車をま回したところである。
まだよく知らない同居人をふたり残す形になったが、別に盗られるようなものもないし30分くらいなら大丈夫よ、と母親は気楽に言ってのけていた。
この雰囲気、このタイミングなら言えるかも、と思った出久は少しだけ秘密を開示した。
実は彼のやっているアルバイトが、ただの接客業ではなく、ちょっと危険もある感じの仕事なのだと。
その分手当も出るし給料もいいとフォローをいれながら。
「あの人のために?」と尋ねられたのでうなずいたら、母親はしぶしぶながらも納得の表情を見せた。
「黙っててごめん、母さん」
「……出久は、あの人に付いていくの?」
「?」
ハンドルを握り、前を向いて視線を動かしながら、母親は言った。
出久は首を傾げた。
「『個性』が出なくて、ヒーローになれないから、そうしたくなっちゃったの?」
(ああ、そう思われていたのか)
その要素は否定しきれないが、でも決定的なものじゃない。
全てに納得したわけじゃないけれど、絶対に恨んでいたわけじゃない。
出久はそれだけでも伝えたくて、少しだけ本音を話そうと思った。
「違うよ。僕がやりたいのは、きっと、さっき母さんがやったみたいなことなんだよ」
「え、私……?」
「うん。さっき、母さん『個性』使わずにあの人を説き伏せちゃったじゃないか。すごいよ。いずれ僕がしたいのもああいうことなんだよ」
「ええー? だってさすがに、あの子まで働かせるのはひどいじゃない?」
母親は照れたように笑いながら、言い訳めいたことを言った。
それはそうだけどもと、助手席に座る出久は母親と同じように前を向きながら語る。
「ヒーローになれるかどうかは、もうどうでもいいんだ。でも、それでも、だれかを救けたいんだ。救け続けたいんだ。走って、動いて、そうしていつか……」
結局のところ、それが今の出久の動機だった。
「いつか、あの人に追いついて、あの人を止めてやりたいんだ」
「そっかぁ……」
何か感慨深げなものを込めながら、母親はため息をついた。
軽くハンドルを切り右折する。
もうすぐ目的のスーパーに到着するだろう。
「私、出久はヒーローにあこがれて、ヒーローの活躍を嬉しそうに眺めるだけで幸せになれる子だと思ってたんだけど」
「うん……それは合ってるんじゃないかな?」
軽自動車の少し硬めのサスペンションに揺らされながら、出久はうなずいた。
「結局、どうなっても『誰かのオールマイト』みたいになっちゃうのかもね。オールマイトにあこがれてるものね?」
「それはさすがに盛りすぎだよ!」
「あははっ!」
信号待ちの間に、親子は互いに笑顔で笑い合ったが、母親の方はジトっとした目線に切り変わった。
「でもそのアルバイト、危なすぎるようならやめさせるわよ?」
「うっ! 確かにトラブルはあるけど、け、契約上は拒否できる立場だから!」
「とりあえず信じるけども……そのうち見学させてもらうからね?」
「は、はいぃ……」
こうして出久はもうひとつ、なにかを胃に抱え込んでしまった。
「火伊那さんには、お父さんの部屋使ってもらうわ」
「いいのかなぁ……」
「大丈夫よ。あの人、むしろなんか嬉々として譲りそうな気がするから黙っててやるけどね!」
「いや、ちゃんと話しておこうよ……」
本気で心配していたが、今の出久はあまり強く言えない立場だった。
「ロートスちゃんはどうしようかしら? 私と一緒に寝てくれるかな? あの親子、血のつながりはないらしいけど、婚姻成立したら私の義理の孫になっちゃうのよね?」
「はい?」
出久は何やらよくわからない言葉を聞いた気がした。
そして少しの間その言葉を
ぎぎぎ、と首から上を強張らせたまま、出久は母親の方を向いた。
「お、お母さん……?」
「んー?」
「そもそもあの人、お母さんに何て言って飛び込んできたの?」
「ああ、ちゃんと事情は聞いてるわよ? ヒモな旦那さんのDVに耐えかねて、着の身着のまま連れ子と一緒に
「違うからねお母さん!!!!」
出久はかつてない大声で否定した。
「そんな大声出さなくてもわかってるわよ。まだ離婚調停はこれからが正念場よね? 財産分与なんて譲歩したらダメよ。でも債務がある場合はその限りじゃないから気をつけるのよぉー」
「ってかなんでそんな話信じるんだよぉぉ!」
出久は必死で自分を指差しながら言った。
「ほら現実を見てよ! 僕なんかどう見てもバキバキの素人でしょうが! こんな僕に何ができると言うのか!?」
「だって、机の中に隠してた額入れの写真……あの人なんでしょう?」
「うぐっ!?」
その指摘は出久の一番柔らかい部分を貫通していた。
「違うんだ! あれは芸術なんだよ!」
「その頃から付き合いがあったんでしょう?」
「いや、えっと、正確には二年前かな……?」
「ほらぁ、あんたが夜な夜な門限破り的な非行始めた時期とピッタリじゃない!」
「そんな認識だったのかよ!」
「それにあの人も言ってたわよ……その頃から毎朝のように密会しては組んず解れつしたと」
「あの女捨て身にも程があるだろ! どういうメンタルしてるんだ!」
出久は頭を抱えながら叫び散らした。
一方、言いながら何やら感極まってしまったのか、出久と同様に涙腺のゆるい母親は、わんわん泣き始めてしまった。
「うわーん、複雑だわ! こんなおねショタ的とは言え、この子に恋愛を成就させる程度の甲斐性があったなんてぇー」
「なんでちょっと嬉しそうなんだよぉぉ!」
出久が母親のその誤解を解くには、結構な日数を要することになる。
────────
その年の雄英高校体育祭は、早くも夏を
メディアを通じて全国に配信されるこのイベントは、毎年全国にお祭り騒ぎをもたらしている。
このイベントを通じて全国のヒーロー達は有望な新世代のヒーロー達を見定め、各業界は関連事業のトレンドを未来予測する。
そして市民もそのエンターテイメントを通じて、若い才能に多様で複雑な思惑を寄せながらも、これからもヒーローの時代が続くという安心を得るのだった。
だが、その日程はメディアに
つまり、開催は五月の始め。大型連休初日の一日きり。
競技は学年別に行われるが、三学年同時に実施されるのである。
そのため会場も学年別で分かれている。
例年はまだ中学から上がったばかりで未熟な一年生よりも、二年生、三年生の会場を中心にカメラが集まって盛り上がるのだが、今年に限っては直前に大きな事件があった影響で、一年生にも注目が集まっていた。
学年別に何万人も収容できるようなスタジアムが用意されているのだが、今年は全学年の会場が満席である。
生徒達はこの日、普通に登校した後で体操服に着替えて競技会場となるスタジアムに入る。
そこでクラス別に個別の控え室が用意され、そこで開会式を待っていた。
「はぁ〜あ……」
クラスでもひときわ目立つ巨漢の生徒、
ぐったりと、半ば白目をむいた無気力の表情であった。
それを見ていた
「砂藤君はどうしたの?」
「ああ、申請してた『角砂糖』、ダメだったんだってさ」
「あちゃー」
ぺたりと、葉隠の方から額を手打つような音がしたが、透明なので見えなかった。
「仕方あるまい」
「砂藤くん、元気出して……」
「わかってる……認められない理由はわかるけどよぉ〜」
砂藤の個性は『シュガードープ』。
糖分の摂取をトリガーとして通常の五倍の筋力を発揮する増強型『個性』である。
だが、この雄英体育祭、ヒーロー科は外部からの持ち込みを禁止されていた。
それでも
つまり、彼は早くも初戦で『個性』を使えず苦戦を強いられることが確定していたのだった。
「みんな……俺の分も頑張ってくれよな……」
「おいおいあきらめんなよ」
「諦めてねぇよ! まだチャンスはある!
砂藤はちらりと八百万の方を見たが、彼女は気遣わしげにしながらも、曖昧に微笑んだだけだった。
砂藤はがっくりとうなだれ、目をショボショボとさせながらぼやく。
「競技中にフェアに作ってもらえるような、交渉材料がねぇんだよなぁ……」
「難しい所ですわね。毎年、一年生の競技はレギュレーションが厳しいのです。二年、三年になるともっと好き放題できるようになるんですが……」
「まーそんなもんだよな」
「だから絵的にも地味なんだよね」
「確かに俺もテレビで一年は観たことなかったわ」
「砂藤君、ドンマイ!」
「同情するなら何か糖分をくれ……」
「遅れて済まない! 長電話してしまった!」
控え室の扉を開けて、
彼がクラスで最後、ギリギリに登校してきたのであった。
扉のそばにいた
「待ってたぜ委員長!」
「おはよう飯田ちゃん、あと十五分よ」
「いかん! 急がねば!」
きびきびとカクついた動きで荷物置き場を片付ける飯田の背中に、
「い、飯田くん……どうでしたか? ご無事でしたか?」
半泣きで、そしてなぜか申し訳なさすぎて土下座しそうな勢いの低姿勢を見せる柊に、飯田は笑って親指を立てながらうなずいた。
「ああ、大丈夫! チーム
「「おおーっ」」
それを聞いたクラスメイトの何人かがどよめいた。
「あ、あああぁ〜!!」
そして柊は泣きだしてしまった。
「よかったー、って言ったらダメか……お兄さんは重傷だもんね……」
気遣わしげな表情を見せる
「いや、実は今朝、兄とも話せたんだよ。すごく元気だった。夏には復帰するつもりらしい」
「マジで? 良かったじゃん!」
「ああ、それでちょっとな……兄の激励が重いというか……話が長かったんだ……」
「あはは……それはしょうがないよ」
飯田は天に祈りを捧げるようなポーズをしている柊の方を見て微笑んだ。
「……柊くんも、気を遣ってくれてありがとうな。命に別状はないと聞いていたが、僕は心のどこかでまだ兄が心配だったらしい。柊くんがせっついてくれたおかげで兄の声がきけて、なんだかすっきりしたよ」
だが、柊はそんな飯田の感謝の言葉を聞いてなかった。
「良かった……チームIDATEN……この世にいてくれるだけでいい……」
「そんなに」
「おい飯田、こいつホントにヒーローを心配してただけだぞ」
「うむ……そのようだ」
そんな飯田の背中に向けて、テーブルに座っていた
「ハッ! 良かったじゃねぇかクソメガネ。これで心おきなく全員ブッ殺せるわ!」
「爆豪お前、励ますにしても過激すぎるよ。なんで殺す必要あんだよ」
「ツンデレもいいかげんにしとけよ」
同じテーブルを囲んでいた
「アホか! 純然たる本音だ!」
「なお悪いよ……」
「殺意の化身め」
「まったくです……なんでこの人処分されないんでしょうかねぇ……?」
ぼそりと言った柊の小言を爆豪は聞き逃さなかった。
「ああ? なんか言ったかクソサド女ァ!?」
同じテーブルに座った柊は
「この人、体育祭で何か無様を晒さないかなって……そしたら10万フォロワーついてるわたしの知り合いに頼んで毎分拡散してもらおうかなって」
「それはやり過ぎだろォが!」
「柊、爆豪」
テーブルを挟んで毒を吐き合う柊と爆豪に、
その髪の左半分は赤く、右半分は白くなっている。
綺麗なオッドアイを極星にして非常に端正な顔立ちをしているが、赤い髪の下、目元を中心に大きな深い火傷の痕が残っていた。
体格も良く、見るものが見れば、その肉体は恐ろしく鍛えられていると察することだろう。
知性、体力、そして何より優れた『個性』の使い手であり、これまでの訓練でもその実力をおおいに見せつけていた。
現時点で「クラス最強は誰か?」と尋ねられれば、クラスメイトの大半は轟を指名する。
一方で、クラスメイトの中では、もっとも交流が薄い生徒でもあった。
話す相手は主に
たまに尾白、葉隠がそれに混ざり、昼食を共にする程度だった。
そんな一匹狼めいた男が、自分から話しかけてきたのを珍しがって、控え室にいた全員の注目が轟に集まっていた。
それを気にも留めず、轟は爆豪と柊の間に立った。
「んだよ半分野郎」
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
「はぁ?」
「ねーわ」
柊と爆豪はよく似た反応を返した。
「お前らもすげぇと思うけど、そうやって
「はぁぁぁぁ!?」
「テメェ今なんつったァァ!!」
「おお……?」
轟が自覚なしに地雷を踏み抜き、ふたりのボルテージが急上昇した。
それに気押された様子で轟は後退りしかけたが、踏みとどまってぎろりとにらみ返した。
「「……!?」」
轟の据わった目つきが、周りで見ていた生徒達には、少し
「お前らには勝つぞ」
そう言い捨てて立ち去ろうとした轟だったが、少なくとも爆豪は言われて引き下がるような男ではなかった。
「おい半分」
「……なんだ」
「テメェ救助訓練でオールマイトに言われとっただろ。『それじゃあ四分の一だ』ってな?」
「……」
轟が忌々しそうに爆豪をにらみ返した。
爆豪はそれに不敵な表情で歯を見せ舌を見せ、中指まで立てて盛大に威嚇と挑発を返した。
「言葉の意味はわかんねーが、
「ふん……」
轟は何も答えず、そのまま苛立たしげに控え室を出ていった。
それを追ってか、障子も教室を出ていく。
そこまで見届けた爆豪は小さくガッツポーズした。
「よし……勝った……」
「「「みみっちぃ〜」」」
「今言った奴誰だゴラァ!!」
「ほぼ全員だったぞ」
「──んもー、あいつらまーたピリピリしてるよぉー」
テーブルの天板に腰掛けていた芦戸がため息をついた。
「うちのクラスってバラバラだよね☆」
その向かいの席に座り、両手で頬杖をついていた
それに葉隠と
「ああやってトップスリーがバチバチやってるからだよねぇ」
「飯田君おらんかったらとっくに空中分解やわ」
「おい切島ァ! 飯田ァ!」
芦戸が突然立ち上がり、控え室の扉のそばで立ったまま
「いってぇ!」
「どうした芦戸くん!?」
「こう言うとき、間に立ってまぁまぁって
「「そうなの!?」」
「そうだよ!」
八つ当たり気味に怒られたふたりはそれでも素直に謝罪した。
「わりぃ。ちょっと緊張してたんだよ……」
「すまん、もうじき入場だからその時声をかけようと……」
そのふたつの尻に芦戸は再び、綺麗なフォームでミドルキックを入れた。
ケツバットのような小気味良い音が響き、ふたりの男が
「もーいい、私が仕切る! みなのもの集まれぃ!」
芦戸が控え室の中央で両手を広げて全員の注目を集めた。
「おい、集まれってよ?」
「なんだなんだ」
「なんでおまえが仕切るんだよ?」
芦戸はクラスメイトたちの注目を集めた後、はきはきと大きな声で話し始めた。
「いいかなみんな! もしかして、もうクラスの
「「……」」
「確かに柊も、ヤオモモもすっごい『個性』だけどさぁ! 私はまだ自分が一番になるつもりでいるんだけど!」
「「おお……!?」」
名指しされた柊と八百万が顔を見合わせた。
困惑しながらも、クラスメイト達は芦戸の勢いに飲まれていく。
「みんなもそのつもりでここに来たんじゃないのか? それとも見に来てくれてるヒーローや親御さん方に小さくまとまった自分を見せたいのか?」
「「Boooo!!」」
そして、ノリがわかってしまえば乗っかれる生徒たちが揃っていた。
「まだ最初なんだぞぉ! まずはここでどれだけ注目されるかだろ!」
「「Yeeeah!!」」
「ケッ……! ダッセェわ、付き合えるか」
爆豪は顔をしかめて控え室を出ていった。
「おいおい……」
「ほっとけ! 私らだってあいつらに負けないぞ! 今日は誰が一番目立つか競争だぞー!」
「「おう!!」」
「みんな目立つぞ!」
「「おーっ!!」」
残された一同は、拳を振り上げて芦戸に同調した。
「ははっ、やっぱり芦戸はすげぇや……」
「くっ、すまん芦戸くん……クラス委員長の俺が率先し士気をあげねばならなかった……!」
切島と飯田はそれぞれ違う意味で悔しそうな顔をする。
こうして最高潮の勢いで1年A組の生徒たちは開会式を迎えた──のだが。
「──せんせー、俺が勝つ」
「「「ガッツリ悪目立ちしやがったァ!!」」」
壇上で、両手をポケットに突っ込んでダルそうに立ったまま。
開会式の選手宣誓にて、会場の注目を
「なめてんのかー!」
「調子のんなよA組オラァ!!」
「なぜ品位を
その傍若無人を目の前で見せられた一年生達が一斉にブーイングする。
「爆豪てめぇぇ!!」
「砕け散れ!」
「散華すべし」
「自爆しちまえバカ豪!」
そして特にA組の罵声が汚かった。
そのブーイングを涼しい顔で受け止めながら爆豪は親指で首を切るポーズをして見せた。
「せいぜい跳ねのよい踏み台になってくれ」
「「Boooo!!」」
「よろしい!」
空気を割るような、激しい打撃音が轟く。
そして拡声マイクを通した音量で女性の声がした。
爆豪に注目していた生徒達はびくりと驚き、音のしたほうを向く。
「それじゃあ早速第一種目いきましょう!」
そこに立っていたのは今年の一年生の審判を務める、ヒーロー教師・ミッドナイトだった。
艶かしい輪郭が見事に露わな全身タイツにボンデージ。
いつものセクシー極まりないコスチュームに身を包み、片手に短い鞭を握り込んでいる。
先ほどの衝撃音はその鞭を空打ちしただけらしい。
実際あれで肌を打たれたらどうなってしまうのか、想像もしたくないほどの轟音だった。
「いわゆる予選よ! 毎年多くの生徒がここで
電子音のドラムロールで存分に勿体ぶった後、会場の一片にある巨大なディスプレイに『障害物競争』の文字が表示された。
それを目の当たりにした会場全体にどよめきが漏れる。
それに続いてコースの説明が表示された。
図によれば、この会場の外周を走るコースになるようだ。
「一年生全科! 計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周、約4キロメートル!」
それは普通に走っても30分はかかるような、長大なコースだった。
そこにさらに障害物があるらしい。
どこからか振動が起こり、重たい機械音と共に入場口の一角が展開しはじめた。
そのスタートレーンに気づいた生徒の一部は早くもそこに向かって駆け出している。
ざわめきの中で、ミッドナイト先生の説明は続いた。
「我が校は自由さが売り文句……ウフフフ……」
ミッドナイトはそこで小さく言葉を切り、どこかに向けて流し目を送った。
その先にいたのは──
「コースさえ守れば、
「えっ、何してもいいんですか?」
「「「うぉぉぉぉおい!!」」」
それまでおとなしかった柊がてーん、と効果音がしそうなくらいに表情を輝かせた。
それに気づいた1年A組の面々が阿鼻叫喚となる。
「先生! ルールの見直しを提案する!」
常闇が大声を張り上げて叫んだ。
他のA組生徒達が彼に追従する。
「なんつーか、柊のためにあるようなアレじゃないっすか!」
「なんでもありだとなんでもできるやつが有利すぎる!」
「あの子の好きにさせたら収拾つけへんで!」
一方、他のクラスの生徒達は取り乱した1年A組の様子にきょとんとしていた。
その混沌を満足そうに見渡しながら、ミッドナイトは不敵に微笑み返した。
「あら、それがどうかしたのぉ?」
「うぇぇ……」
「あなたたち、これから、自分が有利な場所でしか戦わないつもり?」
そしてその右手を生徒の方に伸ばし、指先を
「野望があるんでしょう? 大志を抱いてここまで来たのでしょう? 誰に、何を見せたいのか思い出して?」
それは奇しくも、控え室で芦戸が叫んだ主張と同じようなものだった。
「先生、今日はみんながルールの不利なんかねじ伏せて頑張ってくれるところが見たいわ! あなたたちが何者になれそうなのか、その原石の輝きを私たちに見せまくりなさい!!」
そして鞭の音が鳴り響き、生徒達の背筋が伸びた。
「おおー、話すとこ初めて見たけど、ミッドナイト先生も熱血なんやなぁ!」
麗日が両腕を握りながら戦意を昂らせ、口田が同じポーズでコクコクとうなずく。
審判として公平を期するため、この体育祭が始まるまでの一ヶ月、ミッドナイト先生はほとんど一年生の前に姿を現さなかった。
初めて見るミッドナイトの勇姿に、生徒達はすっかりあてられてしまったようだ。
だが、1年A組の生徒だけは、その口上に「ごまかされた」と感じていた。
「警告はした……俺はもう知らん」
「エフッ」
「とりあえず、なるべく柊を自由にさせないよう牽制するべきじゃねぇかな?」
「上鳴ィ! オメェの出番だぜ!」
「ヤダよ! 峰田のほうが適任だろ!」
「エフッ」
「やれなくはねぇけど、オイラあいつにタゲられたらリタイヤ必至なんだよぉ!」
「俺だってそうだよ!」
「エフッ」
「ケロケロ。みんなごめんね……私、逃げ切らせてもらうわ」
「同じく……」
「エフッ」
「ちょっと柊ぃ!? ウチその笑い声ゾワゾワくるんだけど!」
「エフッ……エフッ……」
背中に鬼が見えそうな感じの奇声を漏らしながら、柊がふらふらと集団から離れていった。
「あははー、尾白くん、これどうなっちゃうんだろぉー?」
「葉隠さん、まだ諦めちゃダメだよ……」
──こうして、翌日のニュースに「