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この一ヶ月間、1年A組生徒達の中で、
入学初日、ろくに『個性』を使用しなかったことを責められ、いきなり除籍を言い渡された彼女は、悪い意味で「おとなしい」生徒に見えた。
ヒーロー科の最高峰にもああいう生徒はいるのだなという、安心感を覚えた生徒もいただろう。
だが、その翌日の戦闘訓練。
彼女は楽しそうに笑いながら
見た目によらない凶暴な戦闘センスと圧倒的な『個性』。
それを見せられた生徒たちは大きく認識を改めさせられる。
彼女もまたヒーロー科の最高峰に「選ばれた」生徒なのだと。
しかし、柊うてなという少女はやはりほとんどの授業では目立たず、そして度々おかしな素行で怒られていた。
その『個性』に由来するのかやたらと物持ちで、有り余る機材を駆使してぶっ飛んだ行動を起こそうとする彼女に、生徒達は困惑しつつも、一定の傾向を見出すことになる。
オールマイトをはじめとする、プロヒーローの教師と話すとき。
そうでなくともヒーロー科専門の授業を受けるとき。
クラスメイトとヒーローについて話るとき。
特にプロヒーローの弟である
彼女のテンションが上がるのは「ヒーロー」に関わるときだけだった。
柊うてなは「ヒーロー」という存在にのめりこんでいる。
彼女の強さの由来が、その想いの強さ──「ヒーロー」に対して手持ちのリソースをどれだけ注ぎ込んでいるか、その割合──すなわち努力の類によるものだと理解した。
そして、察しの良い何人かは、柊が自分たちクラスメイトについてはほとんど歯牙にもかけていないことにも気づいていた。
話しかければ、慌てたり、おどおどしたり、恥ずかしがったりしながらも普通に受け答えはしてくれる。
だが、それ以上の興味を持たれることは無かった。
唯一、爆豪勝己にだけはとげとげしいサディスティックな態度を見せる。
日頃からなにかと
抵抗すれば取っ組み合いも辞さず、嫌がらせをしてくればより過激な方向でやり返す。
そして実習や訓練でかちあえば徹底的に痛めつける。地面に這いつくばらせたあげくさらに屈辱を与えようとする。
それでいて彼女本人はどうやら爆豪の「面倒を見てやっている」というスタンスのようだ。
それに比べると、爆豪以外のクラスメイトへの態度は無風だった。
たまになぜか
その極端な扱いの差から、爆豪だけは特別扱いで、どこか「認められている」ようにも思われた。
そんな柊の態度は、学校生活が進むと共に、少しずつ変わっていった。
女子としては下ネタに寛容な部類だと気づいた
その変化が決定的になったのは、USJ事件が起きてからだ。
あの時の行動を「やりすぎた」と反省する生徒は多かったが、それによって、なぜかクラスメイト全員が彼女に「認められた」らしいとわかった。
もしかしたら本人がクラスに慣れただけなのかもしれないが。
それでどうなったかというと、彼女はその
ヒーローの話題になるとゼロ距離で捲し立てるようになった。
なにかにつけて自分の推しを押し付け──布教してくるようになった。
爆豪に向けられている感情の正体がわかったのもこの頃だった。
彼女は自ら認めた人間が「ヒーローらしからぬ」行動をすることに強烈な憤りを覚えるらしい。
それがわかっていながら、めげずにセクハラ的な突撃を繰り返した峰田のおかげで、彼女は男子に対してあまり異性的な感情を持っていないことがわかった。
だからといって性自認が男性寄りという事はなく、むしろ
たわわなお胸に興味津々の、どこかおっさんくさい性質を抱えた、ほんのり百合といったところだろうか。
また、事件の後あたりから学校生活にも意欲を見せるようになり、ヒーロー科の生徒は任意参加とされる──教師が不参加を推奨している──委員会の活動をするようになった。
当初は図書委員を希望していたが「ヒーロー科は課外実習が多いからちょっと……」と断られたようで、第二希望として小・中学校と続けていたらしい美化委員に収まった。
そんな課外活動を含めた先生方のたゆまぬ指導の結果、彼女はようやくその突飛な行動に許可を求めるようになり──それでも定期的に指導室送りとなっていたが──怒られることが少なくなってきた。
その奇行が一定の落ち着きを見せ、クラスメイトによる彼女の評価もまた「癖と『個性』は強いけどそれに思いっきり目を
そうして入学して最初の月が終わる頃には、1年A組の面々は理解していた。
あの日以降、自分たちは彼女に「ヒーローに準ずるもの」として認められたのだと。
また、柊うてなは自分の「好き」なものと自分の「好き」から外れようとするものに感情を揺さぶられ、その
つまりこのままいけば、現在は爆豪にだけ向けられているその牙が、いずれ確実に自分たちにも向けられるのだろうと。
それが今日この日この時からだと気づいたのは、雄英体育祭の会場スタジアムの中央で、彼らがミッドナイト先生から第一種目のルールを聞かされた瞬間だった。
いつの間にか柊うてなはクラスの中心に、近い位置に立っていた。
──天気は快晴。太陽が角度をつけて南の空へと昇っていき、強く照らされた遠くの地面からわずかに陽炎が立ち登っている。
その様子を、彼女は遠くからじっと眺めていた。
『コースさえ守れば、何をしたって構わないわ!』
限定された空間。限られた参加者。そして許可承認。
「何をしてもいい……ということは……」
そのルールを聞いた瞬間、柊うてなの脳裏を電流が駆け巡り、ひらめきを得た彼女はこれまで学校では使用を控えていた個性『
そこはアリーナ型をした会場スタジアムの競技場から外へと直接通り抜けられる通路の手前。これから行われる『障害物競争』のスタート地点である。
その広場は11クラス分の生徒たちでひしめいており、ゲートの向こう、通路の先に何か障害物のありそうなコースが陽炎に揺られながら見えていた。
良いスタートを切ろうと、生徒達が目の色を変えて前へ前へと向かっている。
柊うてなはその集団から少し離れた後ろの集団に混ざり、通路の先にちらりと見えるコースを眺めながらぶつぶつとつぶやいていた。
「ということは……わたしのものにしてもいいということ……」
その集団は、競技に参加するだけで勝負をするつもりはない、主に普通科、経営科の面々だった。
そこにヒーロー科らしき生徒が混ざってきたことでぎょっとしている。
彼女の個性『
そのひとつは、成立条件が使用者本人の認識に依存するということ。
『そう。このコースは、いま、ひととき、わたしに【献上】されました』
誤認識であってもよい。事実かどうかは関係ない。
彼女自身がそれを「わたしのもの」と確信することで、『
逆に言えば、本人がそうと思える要素が少しでも欠ける限り、成立しない。
また成立したとしても、その後で支配者としての自意識が綻びれば、それは崩れ落ちてしまう。
そして彼女はその両方のとっかかりとなる「コミュニケーション」が比較的苦手なのであった。
『わたしは、これを受け取りましょう』
柊うてなには、ひとつの
それが『個性』に由来するものなのか、それともむしろその才能によりこのような『個性』を発現してしまったのか。どちらが先かはわからない。
柊は突然、両手を広げ、顔を上げて、天をあおぎ見た。
『天よご照覧あれ。地よご
周囲の生徒たちが、大げさなポーズで何かを唱え始めた柊にドン引きしている。
柊はそれに構わず、己のテンションを上げるための口上を述べていく。
『このコースは、わたしのものである』
──脳内変換。
それは柊うてな個人に備わった異能であった。
彼女は自己認識を空想のものに改変し、それが正しいと思い込むことができる。
自己の妄想を「ほぼ」現実のものとして認識する。
この「ほぼ」という不完全さこそが肝であった。
本当に信じ込んでしまったら元に戻れないからだ。
確信を突き抜けた認識改変の中で、それが自己
それを維持するために、柊うてなの脳は急激に消耗していく。
「さあ、はじめましょうか……ふふふ」
個性『
柊うてな本人はその『個性』がどこまで発動し、どこまで効果を発揮したかという事を、その結果を以ってでしか観測できない。
本人が知らないところで『支配』されている人がいる。
本人が『支配』したと思っていたがそれはその人本来の人格であって、いざという時に裏切られる。
「わたしの権能はどこまで届くのでしょうか? この場所? この空間? この領域? それとも……ふふふ」
彼女は過去の
『魔力』の発現によって観測可能な範囲は広げられたが、完全ではない。
柊うてなは己の『個性』を完成させるためにそれを計り知る必要があった。
個性『
そのため、突然
──そのスタート直前、校内を無線通信が密かに飛び交った。
『測定班、配置につきました。ターゲットは後方集団にいます。何かやろうとしていますね』
『ちょっとフライングの疑いがあるけど……まあ今日はおまつりだから大目に見ちゃうのさ。じゃあ、私は三年の審判があるからこれで。あとはよろしく、ミッドナイト先生』
『ふふっ……』
ミッドナイトの含みのある笑い声を最後に、その無線通信は打ち切られた。
USJ事件以降、重要な容疑者に連なる、正体不明の存在として急浮上した、柊うてな。
彼女を泳がせ、いったん抱え込むと決めた雄英高校もまた、彼女の『個性』を封じ込めるためにそれを計り知る必要があった。
個性『
この第一種目は、両者の思惑が半ば一致したことにより、かろうじて成立したとも言えるし、そのせいで散々なことになったとも言える。
──ゲートに取り付けられたランプが、注目を集めようと点滅し始めた。
それを見た生徒達に緊張が走る。
そして通路のスピーカーからはミッドナイト先生の美声による競技開始の宣言が響き渡り、ゲートの入り口からブザーが鳴った。
『一年生第一種目! 障害物競走! スタート!!』
閉じられていた仕切り扉が開き、生徒達が一斉に駆け出していく。
それと同時に柊うてなは両手を前に伸ばし、手のひらと親指で四角い枠を作り、そこからのぞき込むように背中を猫背にして、通路に詰まった生徒達の向こうにあるコースをその枠内に収めた。
『
こうして、雄英高校ヒーロー科1年A組、柊うてなの体育祭は始まった。
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──スタートの合図と共に、百人を超える生徒が通路に殺到し、当然すし詰めの状態となった。
「……って、スタートゲート狭すぎだろ!」
「地面に足がつかねぇ……満員電車かよぉぉ!」
峰田がギチギチの人混みにまみれてどこかに流されていく。
それを見送った
「おあつらえ向きの一網打尽ポイントやね」
「もごもご、もごもご……(つまり、このスタート地点が……)」
「
「最初のふるい」
先頭を走る
地面に
それに巻き込まれた生徒達の手足は氷漬けにされ、地面から動かせなくなってしまった。
「ってぇー!」
「何だ凍った!? 動けん!!」
「寒みぃー!」
氷に足を取られた生徒たちが苦痛の声をあげる。
走っている途中で地面に縫い止められてしまったので足を痛める生徒も多く、通路内は瞬く間に阿鼻叫喚の騒ぎとなった。
「なんの!」
「二度目はないぞ!」
「あっぶな!」
一方、1年A組の生徒はほぼ全員が轟の先制攻撃を想定し、その攻撃を回避していた。
ほとんどはタイミングを合わせて跳躍し、またあるものは氷を溶かして脱出する。
爆豪は『爆破』を起こして氷を砕きながら飛翔し、その勢いでいちはやく通路を飛び出した。
「そう上手くいかせね……!? チイッ!」
「あん、何だ……っべぇ!!」
爆豪はちらりと後方を確認すると、轟を追うのをやめてその場で宙返りをし、舌打ちしながら上昇していった。
それを追っていた
後方から迫るその『攻撃』を回避できたのは、先行した轟と、氷の張った領域を垂直方向に脱出したふたりだけだった。
──最後尾の集団はまだ通路に入ってもいなかったが、通路から吹き出してきた冷気に巻き込まれるところだった。
そこに一人の生徒がふらりと前に出て、両手を広げてその冷気を受け止める。
その女生徒の全身に氷がまとわりついたことで、彼らは
「お、おい! 大丈夫か君……」
「くふふふふ……」
一人の経営科の生徒が駆け寄り、心配そうに声をかけたが、その女生徒──柊うてなは肩を震わせて笑った。
『轟くん、これ、わたしに
「えっ? わ、わぁっ!?」
そのただならぬ雰囲気に押されて、その生徒は思わず後退りし、尻餅をついた。
音を立て氷が割れてゆき、まず頭部から黄色い角のようなものがせり出した。
続いて背中が膨らみ、体操服の背中をつき破って紫色の羽のようなものが現れた。
最後に全身の氷が崩れ落ち、中から紫色の髪を背中まで伸ばした女の顔が現れた。
『いただきました! わたしの氷! 人肌の熱に群がれ! 【冷えゾワ
彼女がそう宣言した瞬間、生徒たちの足元を覆っていた氷が一斉に砕け散り、無数の足を持った節足動物の形に変わって通路全体に飛び散り、彼らの身体にとりついて這い回りはじめた。
「「「うぎゃああああっ!?」」」
通路はたちまち絶叫ゾーンと化した。
まだゲートのあたりを進んでいた生徒たちは、そのあまりの光景に立ち
背後の生徒を無視して、柊は背中の翼を軽くはためかせると、ふわりと浮き上がった。
宙に浮いた柊は楽しくて仕方ないといった様子でゆっくりと前進しながら両手で耳を澄ますポーズをする。
「さぁぁ〜、一番可愛い声で泣いちゃう子は誰かなぁ〜?」
「キァアアアアアアアア!!」
ひときわ甲高い絶叫を聞いた柊は目をぱちくりさせた。
「一番は
──耳郎は体操服の下を這い回るムカデと格闘していた。
「う、うひゃぁぁ〜」
その悪寒に思わず声が出てしまう。
彼女の周りでも生徒たちが奇声や悲鳴をあげながら這い回るムカデと格闘していた。
虫というよりは、氷の塊を服の中に放り込まれたような感触だった。
袖口から入りこみ、脇の下や胸元を素早く這い回る冷たい感触にぞわぞわしながらも、それをなんとか
放り投げた先の地面には、口田が白目を
「口田……虫苦手なんだね」
「響香ちゃんヘルプ! 背中のやつ取ってぇーっ!」
「あーハイハイ」
耳郎は隣で背中を丸めてぷるぷる震える麗日の襟首に無造作に手を突っ込んだ。
「うひぃーっ!? なんでそこからいくのぉ!?」
「下からの方がよかった?」
「ひょわぁぁ!」
乙女としてちょっとどうかというようなしかみ顔をしながら背中のムカデを取ってもらった麗日は、脱力して膝をついた。
そこに
「くっそお、うてなちゃんめ、覚えてろよぉー」
「通路の中でよかったわ……」
「わぁ大胆」
ふたりは豪快に体操服の前を開けてムカデをばっさばっさとはたき落としていた。
芦戸の白いインナーシャツは溶けた氷に濡れ、下着の色が透けてしまっている。
蛙吹の方は顔面真っ青の見るからに寒そうな様子で、表情こそ気丈を保っているが、身体はぶるぶると震えていた。
「せや! こんなお色気シーン全国に流されたらたまらんわ!」
「自分で言うな」
「
「あっち」
芦戸が指さした先では、
「はわわー! なぜ私だけこんな大きなムカデに!?」
「お色気とは、あれだよ麗日」
「せやろね……」
「ヒョエェェ……ちべたぃぃ……」
八百万の隣で、透明人間の
その身体こそ見えないが、大量の百足が服の中に入り込んでいる様子で、こちらもなかなか豊満らしい体操服の下が、わさわさと気持ち悪い動きをしていた。
が、葉隠は突然スンとなって立ち上がった。
「……と思ったけど私、わりと大丈夫だわこれ」
「「マジかよ!」」
氷の冷たさに
「
「わたし風の子ノーコメント! というワケでお先ぃ!」
「「そのまま行きやがったぁー!」」
葉隠は全身にわさわさとムカデを這わせたまま人混みをかきわけ、通路の出口へと進んでいった。
さらに、彼女達の上、通路の天井スレスレを何かが通過していく。
「あははっ♪ お先失礼しまぁーす」
「「ウッソォーッ!?」」
それは背中に翼を生やして飛ぶ柊だった。
芦戸と耳郎はあんぐりと口をあけてそれを見送った。
「うてなちゃん、飛べたのかよ!」
「あの子も異形型かしら?」
「ツノ生えて髪も伸びとったね……入試で見たわ、あれが本気モードなんやなぁ」
「いままで本気出してなかったってこと?」
「それはわからんよ」
蛙吹が言い合いになりかけた芦戸と麗日の腕を
「落ち着いて。とりあえず周りもバタバタしてるし、百ちゃんを救けましょうか」
「
「そう考えてたけど、うてなちゃんに先を越されてしまったわ」
芦戸が少し嫌味混じりに尋ねたが、蛙吹は無表情のまま口元に人差し指を当てて小首を傾げた。
「まだこれから四キロも走らないといけないし、こうなるとちょっと助け合いもしてかないと完走も危ういと思うの」
「それは同感……」
「とりあえず柊に追いついてイわすぞぉ!」
「イわすて」
「「おーっ」」
耳郎のやけくそ気味な掛け声に合わせて、蛙吹と芦戸が腕を振り上げた。
──その放送席では、スタジアムを望む出窓の周りと音声を操作するコンソールの上、さらに天井からつり下げる形で多数のモニターが取り付けられ、そのコースの全体を見ることができていた。
その部屋には実況を担当するヒーロー教師、プレゼント・マイクと、その補佐役のイレイザーヘッドが座っている。
会場の外にいる観測チームを除けば、このふたりだけがスタート直後に起きたコースの変化、その
その『変化』が終わったことを確認したプレゼント・マイクが口笛を吹く。
「ヒューッ! すっげぇな! 元のコースが跡形もねぇぜ!」
「なるほど、あの子め、こうきたか……」
イレイザーヘッドは腕を組みながら椅子に体をもたれ掛けさせ、ため息をついた。
「セメントスとパワーローダーが泣いちゃうぞ!」
「マイク、打ち合わせ通りだ。最初からこうでした、という
「わかってるって!」
プレゼント・マイクは満面の軽そうな笑顔で指を鳴らした。
「柊にゃ悪いが、あの子の独壇場でした、じゃあエンタメとしてはイマイチだ!」
そして手慣れた手つきでコンソールのスイッチを切り替えていく。
『YEEEAH! 盛り上がってるかいオーディエンス!? さあ始まったぞ障害物競走! エヴァバディセイヘイ!!』
『『HEEEEY!』』
プレゼント・マイクの大きな声が、スタジアムに響き渡り、お馴染みの口上に乗せられて会場が湧き上がった。
『今年もヒーローを志す生徒達に相応しいコースを用意させてもらった! テーマは
『乳酸地獄ってなんだよ』
『さーて実況していくぜ! 隣に座るのはツッコミとウンチク担当のイレイザーヘッドだ! ヨロシクゥ!』
『ヨロシク』
会場の反応を楽しみながらスイッチを操作し、マイクをミュートに切り替えたプレゼント・マイクはイレイザーヘッドの方を見た。
「でもよ、俺は思うんだが」
「急になんだよ」
「こいつはきっと、柊の『がんばり』だ。あの子、お前に言われてその気になったんだよ」
「……」
「ま、社会を守るプロヒーローとしちゃあ、色々思うところはあるけどナ!」
そこまで言って、プレゼント・マイクはペットボトルに入った水で喉を潤した。
「……教師としてはこいつを評価してやらないといけないと思うぜ? イレイザー先生?」
「今、直接被害に遭ってる生徒たちのケアが優先だと思わないか?」
「それはそう」
イレイザーヘッドもペットボトルのキャップを開けた。
「……わかってるよ。ちゃんと勝ち上がってこれたら、その時は多めに褒めてやるさ」
「HAHAHA! そーしてやんな!」
ひと笑いした後、プレゼント・マイクは実況を再開した。
『さあ、スタート地点で少々小競り合いがあったようだが、こっからが本番だ! そろそろ先頭を走る生徒が見えてきたぜ! まずは第一関門……えーと……これは……』
スタジアムの大型モニターにもその映像が映し出され、会場がざわついた。
当初『ロボ・インフェルノ』というタイトルがつけられ、多数のロボットが配置されていたその広場は、燃え盛るフィールドの中を無数の触手型巨大生物が這いずり、それに向けてロボットが銃火器を発砲する戦場と化していた。
『地獄の一丁目SF風味! ロボ・アンド・テンタクル・インフェルノ!!』
『バカかよ』
『ちゃんと放送できるか心配になってキター! 実況ツイはお手柔らかに頼むぜぇ!』
その地獄の戦場にひとり、先頭を走る轟焦凍が飛び込もうとしていた。
「止まってられねぇ……クソ親父が見てるんだから」
そして、スタジアムの観客席では炎を纏った大柄なヒーローが、仁王立ちをして、暑苦しい笑顔で大型モニターを熱心に見つめていた。
「見ているぞ、焦凍ォ……お前が頂点を超える……今日が始まりの日だ!」