デクvsマジアベーゼ   作:nell_grace

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爆豪のかっちゃん登場!


第二話 ワイプシvs怪人サド女(3)

 

(たた)くんじゃねぇよ! ブッ飛ばすぞコラァ!」

「アンタね、ちゃんと出久(いずく)くんに謝りなさいよ!」

 

爆豪勝己(ばくごうかつき)は自宅のリビングで母親に(はた)かれていた。

春休みが始まってからは毎日のようにこれである。

 

小学校の卒業式の日、彼は緑谷出久(みどりやいずく)と些細なことでケンカをし、怪我をさせた。

母親が学校と関係者に謝罪し、自分はその母親に公衆の面前でボコボコにされた。

それで決着はついたと思い込んでいる。

 

「うるせぇ、俺の前に立った出久(アイツ)が悪いんだ!」

「アンタは世紀末覇者か!」

 

スパァン、と自分の頭からいい音がする。

こうも繰り返し張られては痛いに決まっている。

頭皮もヒリヒリを通り越してズキズキと限界を訴えている。

傷ついた頭皮から髪が抜けたらどうしようかと心配になる。

 

こうなったら、意地でもゲームを楽しんでから悠々と部屋に戻ってやる。

安息の地であるはずの自宅で、日々母親の暴力に晒されてきた勝己の心には、そんなみみっちい反骨精神(ロックンロール)が宿っていた。

 

テレビの前に座り込んでゲームを起動すると、後ろのソファーに母親が座り、勝己の背中に躊躇(ちゅうちょ)なく両足のかかとを落とした。

 

「痛ェよ!」

「まだ話は終わってないよ!」

 

無視してロードの終わったゲームのプレイを開始する。

が、あっさり中ボスに殺されてしまった。

 

「ぷぷぷ、へったくそー」

「うるせェッ!! そういう死にゲーなんだよ! このクソディレイがァッ!!」

「甘ったれてんじゃないよ! お父さんはそんなヤツ楽勝で倒してたよ!」

「あんな重装ガン盾は同じゲームじゃねぇ!」

 

勝己はゲームに集中しようとするが、母親は容赦なく蹴りを入れてくる。

 

「いい加減にしろババァ! ドゴドゴドゴドゴと蹴りやがって! テメェの足はツインペダルか!」

 

母親は苛立たしそうにソファーに背を預けた。

声が少し神妙になった。

 

「私は最悪、出るとこ出られてもいいって思ってんのよ。それでアンタの将来が無くなっても別に構わないわ」

「ハァッ!?」

「けど緑谷さんは何も言ってこないわ。本人同士で決着付けて欲しいのよ」

「知らねぇよ! どう決着つけろって言うんだよ!」

「だからアンタが謝れっつってんでしょうが!」

「痛ェッ!! カカト落としはやめろクソババァ!!」

 

「アンタね、相手が()()()()()()()()()そこまでキレた?」

「あぁ?」

「アンタもしかして出久君にビビってんじゃないの?」

 

全身の血が冷たくなるような気分だった。

絶対に触れられたくない部位を撫でられた気がした。

相手が母親だろうとこれは許せないと思った。

 

襲い掛かるために立ち上がろうとした勝己の背中を、母親は足に体重をかけて押さえ込んだ。

勝己の腹から強制的に息が漏れ、圧迫された反射で体が熱を帯びていく。

 

そのまま十秒近く、互いに動かず、沈黙した。

勝己は今、自分がなぜここまで逆上したのかわからなかった。

 

母親が小さな声で言った。

 

「そこんとこ、ちゃんと考えてみなさい」

 

母親は勝己の背中から足を離し、ソファーから立ち上がった。

 

「あっ、アンタ出久君にちゃんと謝るまでテーブルのタバスコと一味唐辛子、使用禁止だからね!」

「もう二度と使わねェよ!!」

 

その後勝己はゲームを切り上げて自室に戻った。

 

 

──勝己はそれから二年、緑谷出久と話すことなく中学生活を送る。

 

それは出久が新しい趣味と部活動に夢中なのが主な理由だが、出久に付き纏われることなく過ごした期間が、彼に考える時間を与えた。

 

 

 

「──ごめんにゃさい! しくじりましたぁーっ!」

 

林道の交差点。

マンダレイが『テレパシー』で指示した集合地点に、ピクシーボブが「ごめん寝」のポーズをしたまま滑り込んできた。

 

マンダレイはピクシーボブの肩を(つか)んで立たせる。

 

「ん」

「んー?」

 

マンダレイが横を見ろと顎で指した。

 

そこにはラグドールが木の(みき)に座り込んでいた。

頭を抱えながらブツブツと『サーチ』の情報を追っている。

 

「ああっ、虎の動きが止まった……捕まっちゃったんだ……どうしよう……」

 

ラグドールはその『個性』により、他人のデリケートな情報に容赦なくアクセスできる。

かつてはそれが原因で人的トラブルが絶えない時期もあった。

それを乗り越えてヒーローになった彼女のメンタルは強靭(きょうじん)と言って差し支えないものである。

 

しかし、彼女はある条件でモチベーションを大きく乱す傾向があった。

世界で一番大好きな3人の仲間が、ラグドールの最大の弱点なのだ。

 

マンダレイとピクシーボブは顔を見合わせた。

 

「いろいろやることあるけどさ、まずはこっちのケアからね」

「うむ、ねこかわいがりの刑だわ」

 

二人はラグドールに歩み寄った。

 

 

──ワイプシメンバーの一人、虎は動きを封じられたものの、まだ抵抗を続けていた。

 

「ええい、いい加減しつこいぞ貴様ら! あっ、待って、この姿勢はマズい! コスチュームが、コスチュームが限界だ!」

 

彼の個性『軟体』は、ストレッチをするようにゆっくり解せば、まるで液体のように柔らかくなる。

さらにその状態からでも身長百九十センチの筋肉モリモリマッチョマン的なパワーと瞬発力を発揮できるため、彼を拘束するのは通常、至難を極める。

 

一方、彼を拘束しようとしている二人の(ヴィラン)は、なぜか閉じ込めるのではなく、木の枝を操っての捕縛に(こだわ)った。

 

そうして互いに幾度も拘束と抵抗を重ねた結果、何の変哲もない森の中に何やら愉快なオブジェクトが出来上がってしまった。

 

それを眺めながら、黒く小柄な異形型の(ヴィラン)が少女を(ねぎら)った。

 

「お疲れ様。ようやく動きが止まったね」

「はぁ……疲れました……」

 

虎が慌てて(ヴィラン)の少女に要求した。

 

「お、おい小娘! ちょっと腰の辺りを緩めてくれぬか? このままではコスチュームが破れてしまう! そうなれば(ワレ)の増設済みのワレがボロロンしてしまうぞ! いいのか? いいのだな!? ボロンじゃないぞ、ボロロンだぞ!!」

 

「ロ」を巻き舌で発声することに固執する虎を見上げながら、少女は少し(ほお)を染めてニッコリ回答した。

 

「わ……わたしは気にしないので……よかったらどうぞ」

「どうぞではないわ! LGBTQフレンドリーか! 第五世代恐るべし!」

 

「もうちょっと大人しくなるまでおいとこうか」

「そうですね」

「ぬおおーっ! 耐えてくれ我's(ワレーズ)コスチュームッ!」

 

 

「──名前を考えたほうがいいと思うんだよね」

 

横に座っていたヴェナリータが話し始めた。

何やら叫び声をあげているオブジェクトから少し離れて、うてなは休憩していた。

 

「……え、何ですか急に」

「君の(ヴィラン)ネームのことさ。どうせ呼ばれるんだからかっこいいほうがいいよね」

「別に……何でもいいですけど……」

「名乗らないと先方から勝手に名前をつけられちゃうよ。たとえば『怪人サド女』とかね」

「……考えます」

 

ヴェナリータが自分の袖の中をごそごそと探り始めた。

 

「それに君も本名は隠したいだろう?」

「え、わたし、たぶんもう顔撮られちゃってますよ? 防犯カメラとかで……」

「あれ、『認識阻害』のこと説明してなかったっけ?」

 

ヴェナリータが『認識阻害』について説明を始めた。

 

うてなの「変身」コスチュームの主な効果はこれらしく、変身前の姿とは別人と認識されるようだ。

ただし、変身前後の姿を記憶されたうえで、同一人物として結びつけて意識される、つまり正体を看破(かんぱ)されると『認識阻害』は解除されてしまうそうだ。

 

先の交戦で、ヴェナリータが気づかれなかったのもこれの応用である。

そこに在るものを「いない」と認識させていたが、実際には彼女達の視界に入っており、ラグドールの『個性』により「マーク」がついたため、存在を見破られたのだった。

 

「じゃあ、柊うてな(わたし)が昨日の(ヴィラン)だって、まだ特定されてないんですね……」

「そういう事だよ。()()()()()()()()()かもしれないけどさ、普通は隠すもんなんだよ。というワケで名前を考えてね」

 

ドイツ語かラテン語縛りでよろしく、と言ってヴェナリータはうてなに二冊の本を手渡した。

表紙には『よいこのドイツ語じてん』、『かっこいいラテン語』とタイトルがつけられている。

うてなは不満顔をした。

 

「えぇー、わたし、和名っぽいのがいいんですけど……」

「それは凝り過ぎるとウケが悪くなるからダメだね。ドイツ語ラテン語は適当につけただけでもウケがいいんだよ」

 

厨二病的な意味で、とヴェナリータは付け加えた。

うてなはドイツ語辞書を適当にぺらぺらと流しながら、つぶやいた。

 

「でも、知らないんですか、ヴェナリータさん」

「何をかな?」

「日本の(ヴィラン)は組織を作って活動できないんですよ。なにせオールマイトがいますからね」

「ふーん、競合が少なくていいことじゃないか」

「私たちも組織で動いたら、すぐにやっつけられちゃいますよ?」

「ボクはそんなことないと思うなぁ」

 

ヴェナリータは首を傾げた。

 

「オールマイトって、昨日最後に出てきたアメコミ調のアイツだよね。アイツ、体が……」

「オールマイトが来てたんですか!?」

 

うてなが辞書を閉じてヴェナリータに迫る。

その剣幕にヴェナリータはちょっと後退した。

 

「……あ、うてなはもうウワバミに締め落とされてたね。ほら、今朝のニュース見せてあげるよ」

 

ヴェナリータがスマートフォンを取り出して見せた。

うてながそれに(かじ)り付く。

 

「ああーっ、本当だ! 私のバカバカ! もうちょっと頑張れば生で見られたのに!」

「オールマイトのこと好きなの?」

「当たり前じゃないですか! ヒーローの中のヒーローですよ!」

「そうなんだ。ボクも動画録っとけばよかったなぁ」

「そうですよ!」

 

ヴェナリータはスマートフォンを操作してとある動画サイトのアプリを起動して見せた。

 

「昨日ね、現場にいたヒーローの映像をいくつか録って投稿したんだけど、期待してたより登録が増えなくてさ」

 

そこには見覚えのあるショッピングモールを背景に、知っているヒーロー達のサムネイルが並んでいた。

 

「『エノルミータ公式チャンネル』……?」

「『エノルミータ』っていうのはボクらの悪の組織の名前ね」

(ヴィラン)がまっとうなネット活動してる……」

 

「ジェントル・クリミナルっていう底辺配信者にちょっと擦り寄ったらいろいろ教えてくれたんだよ」

「性格が悪すぎる……」

 

うてなは彼の広報活動ぶりに若干引きながらも、再生リストをチェックしはじめた。

 

「なるほど、伸びないわけだ。世間ではオールマイトが大正義ってことなんだね」

 

「そんなことありませんよ! オールマイト以外にも素敵なヒーローは沢山いるんですから!」

「残念だな。これでもSNSとかフル活用して導線引きまくったんだけど」

 

「みんな数字取れるからって、オールマイトだけに(かたよ)り過ぎだと思うんですよ!」

「悪の組織と波長の合いそうな人がやってるサイトのコメント欄にもリンク貼りまくったんだよね」

 

「そう、あれは冬休みで、夜更かしをしてオールマイトのトレンドをクロールしてたときでした! ヒーローの問題を語る『赤黒血染(あかぐろちぞめ)の英雄回帰論』っていうサイトの主張が本当にアレでアレでして、わたしムっときちゃいまして! オールマイトだって普通の人間なんですよ、すごくヒーロー頑張ったんだから、ちゃんと幸せになってもらうべきだって、いろいろ意見してやったんです!」

 

「そういえばそんなサイトもあったね。コメ蘭荒れてたから便乗して広告荒らしてやったけど」

「そこの管理人とはいまだに掲示版でレスバトルが続いています!」

 

「え?」

「え?」

 

 

「──『支配』と『認識を狂わせる』個性?」

 

ラグドールが二人に説明を続けている。

彼女は地面にいろいろ書き込み、話しながら考えをまとめている様子だった。

 

「うん。ざっくり言語化するとそんな感じ。あ、異形の方の個性は完全に推測ね。『サーチ』では個性も、弱点も『なし』と出たの」

 

「なるほど、あの異形(すがた)で『なし』はありえないわよね」

 

「きっと、誰かに見破られると隠蔽が解けるんだろうな。あちきは何も無いところに突然『マーク』が点いたから、そいつが姿を隠していることに気付いたわけ」

 

「その異形は不意打ちが怖いけど、チームでカバーし合えば大したことはなさそうねぇ」

「力も弱そうだったものね。見つけたら速攻で土石流ぶっぱなしちゃうわ。それで、『支配』の方は?」

 

ラグドールが額に手を当て、両目を(つむ)りながら答えた。

 

「ホントはね、すっごく()()()()()()()が入るんだけど、二人にはざっくり効果だけ教えちゃうね。『本人が心を交わした、と思い込んだものを支配する』」

 

「「んんー?」」

 

マンダレイとピクシーボブが首を傾げると、二人の猫型ヘッドギアがぶつかった。

 

「そういう反応になるよね!」

 

ラグドールは木の枝で、地面に絵を描いた。

片方には女の子の絵、もう片方には四角形。

さらに女の子の頭に吹き出しをつけ、その中にハートの模様が入った四角形を描いた。

 

「発動のトリガーは『対象の心を認識する』こと、『心理的な接触』のふたつよ。ピクシーボブの『土石流』は支配できなかったけど『土魔獣』は支配できた。この違い、わかる?」

 

「『擬人化』ってこと?」

「そうそれが近い! あの子の中で『心がある』様子をイメージできる範囲でしか効果が発動しないの!」

 

ラグドールが笑顔で手を(たた)いた後、腕を広げてぶんぶんと振り回した。

 

「これ以上はあちきみたくドツボにハマるから考えないほうがいいよ! まとめると、その辺のオブジェクトは全部敵に回る可能性がある。ただし本人が接触した範囲に限る! あんまりガバっとした支配はできない! そして()()()()()()()無効化できる!」

 

「ごめんね、ラグドール。あなたが教えたくないとはわかるのだけど」

 

マンダレイがその手を優しく取って、質問した。

ラグドールの肩がびくんとはねる。

 

「確認させて。あの子の『個性』、()()()()()()()()のね?」

 

ラグドールは少し迷った後、ゆっくりとうなずいた。

 

「そうだよ。『支配』ね、本当はそっちがメインなの……それを私たちが()()()()()()()()()()()()()のよ!」

「ラグドール……」

 

「お願い、絶対に譲らないで。屈しないで。支配を受け入れようとしないで。支配された人間がどうなってしまうかわからないの。だけど、きっとあの子自身は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「んでー、『弱点』は?」

 

ピクシーボブが質問でラグドールを遮った。

 

「あんたねぇ……」

「えー、もうだいたいわかったし、大丈夫よー」

 

ピクシーボブが右手を手招きするようにして、全身で猫っぽいポーズをしながら笑って見せた。

 

「ねこねこねこ……個性『支配(ドミネイト)』、ネタが割れてしまえばこの私の敵じゃあないわ!」

「戦犯のくせに……」

「その節はまことにご迷惑を……」

 

マンダレイのツッコミを受けて「ごめん寝」のポーズを始めたピクシーボブを見て、ラグドールがクスクス笑う。

 

「にゃめんなよう! 私の『サーチ』にかかれば、どんなドラ猫の弱点だって丸わかり!」

 

ラグドールが自身満々の顔で両手を振り上げた。

そしてビシッ、と二人の胸を指差した。

 

「あの子の弱点……それは、おっぱいよ!」

 

「「おっぱい……」」

 

((おっぱい……あんだけ説明しておいて、おっぱい……!?))

 

二人は唐突に宇宙空間へ放り出されたような気持ちになった。

 




(2023.04.09)すいません、次話の記述が遅れているため、次回投稿は四月十五日(土)になります。投稿ペースを模索中です。

(2024.01.19 追記) 本作では原作終盤の影響を受けて、若干さわやかっちゃんな路線になります……
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