キンジ・ア・ライブ   作:赤須

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半年以上、待たせてしまい申し訳ありませんでしたァ!! <(_ _)>

と、それはさておき(オイ
今さらですが明けましておめでとうございます。
1ヵ月に1度は更新するという予定でしたが、学業を卒業して就職が決まり、いざ仕事をしてみれば暇が取れず、あまりにも忙しさにこうして半年以上かかってしまいました。
……誠に申し訳ないです。というよりも社会人を舐めてました。
こんなヘタれな作者ですが、今年も、これからもよろしくお願いします。


Ⅳ弾 レイニーガール(2)

 

 

 

「琴里。空間震が起きたみたいだが、まさか精霊が現れたというのか?」

 

急いで<フラクシナス>の艦橋に駆け付けた俺と令音は、辿り着くなり司令官こと琴里に現状を知りたいため尋ねてみる。

折紙から聞いた話だが、精霊っていうのは十香だけとは限らないらしい。

そのため、念に押して聞いてみたわけだが……

 

「―――2人とも来たわね。もうすぐで精霊が出現するから、令音は用意を頼むわ」

 

「……わかった」

 

そう言って頷く令音は艦橋前にある下段のコンソールへと向かい、画面と視線を交える。

琴里はそんな令音の姿を見届けた後、くるりと艦長席を体ごと回して俺の方に視線を向けた。

 

「士道、さっきの質問についてだけど……見ての通りよ。時間が無いからあまり説明はできないのだけれど、現状はそうね。まだ出現前と言ったところかしら」

 

「…………」

 

などと肯定するしかないと判断した俺は頬に伝う冷や汗を袖で拭いながら、画面の方へ目線を向ける。その直後、サイレンのように鳴り響く信号が艦橋内を轟かせた。

精霊が出現したという合図のようなモノだろう。その証拠に艦橋内のクルーたちは敏感に反応して即座に対応しようとしているのが見て分かる。

 

「霊波反応に異常あり! 非常に強力ですっ、ご確認を!」

 

下の階から聞こえてくるクルーの声に、俺と琴里が反応する。

そしてそれを聞いた琴里は即座に指先を鳴らした後、クルーに指示を出して、メインモニタに天宮市の街並みを描いた映像へと切り替えさせた。

そこには誰1人としていない、がらん、とした殺風景そのもの。

以前にも同じような事があったので頭の記憶の中でそれを思い描いて見せると……

 

「……」

 

確か、そこに変哲もない空の中心で……突然淀んだ空気が流れ始め、ズシンッと重い音を立てた直後に覆われる領域が、街全体を来襲し、崩壊させていったんだ。

それと同じ事が、今起こりだすのか。初めて十香と出会ったあの時のように……

 

「空間震か……初めて見たわけじゃないが、改めて見ると規模が凄いな」

 

「これが空間震よ、士道。精霊がこの地へ足を踏み入れる時に起きる空間の歪み。それが引き起こす突発性災害。だけどこれはまだ小さい方ね」

 

「……<ハーミット>ですからね。特段、気性が激しい精霊というわけでもありませんし、寧ろ精霊の中でも大人しい方なのでこれが普通でしょう」

 

神無月と呼ばれる男が、琴里の傍で賛同するようにして語りだす。

……あれで小規模か、確かに十香の時と比べれば明らかに被害が少なく見えなくもない。

それに、前にも似たような事例が起きたはずだ。

霊波反応に察知(キャッチ)されず、現界してきたという十香の件でな。

琴里から聞いたんだが、その現象を『静粛現界』と呼ぶらしい。

2人の会話にしばらく黙っていた俺は、ふと少し気になった点があったので聞いてみる事にした。

 

「琴里、<ハーミット>っていうのは一体何なんだ? 聞けば精霊の事を指しているように聞こえるんだが」

 

「今現れた精霊のコードネームよ。精霊にはそれぞれ名称というものがあって、私たちはそれを準じて呼んでいるわ。少し待ってて……」

 

俺から目線を離し、琴里は下段にいるクルーの1人に向かって「<ハーミット>の拡大映像を流せるかしら?」と命じた直後、外の映像画面は世界が大きく凝縮されたかのようにズームされ、そこから得た映像から見た光景とは、前見たのと同じそこ(・・)だけが喰われたかのようにゴッソリと消滅しきっている……

そして先ほどまで明るかった青空も、異様に黒い雲が生成され、ぽつり、と音を立て始めながら雨が降り注ぎだす。

 

「……!」

 

そこから1人の精霊が姿を現すのと同時に、霊波反応に察知して駆け付けてきたのだろうASTが、即座に弾幕を張り巡らせる。

両者とも速く、ASTはミサイルやガトリングの弾丸を躊躇なく撃ち続けているのに対し、精霊の少女は重火器の放たれる嵐を掻い潜りながら躱し続けていた。

だが、俺が注目していたのはそこじゃない。

少女の正体についてだ。

兎を模した緑色のフード、その中から写し出される彼女の素顔は幼げな所もあるが、澄んだ青い髪にサファイアのような瞳、何より印象的なあの兎のパペットには俺の見覚えある少女だった事に気付く。

 

「―――どうしたの、士道」

 

「……あいつ、どこかで見覚えがあるぞ」

 

「ちょっと、それいつの話よ?」

 

「昨日だ。学校の帰り、途中急な雨が降ってきた時に出会ったんだよ」

 

と言うと、途端に琴里はクルーに指示を送り、手元から現れた画面に見落とすと、無言のまま片眉を動かす琴里は苛立ちが募ったのか頭を抱えだした。

 

「あまり数値として見込めないわね……十香の時と同じケースか。士道、なんで昨日の内に言わなかったのよ」

 

いや、そう言われても無茶があるだろ。

あの時は突然雨が降ってきてそれどころかじゃなかったし、指で数えられるぐらいしか確認されていない精霊は今も世界のどこかに出現し、消失する神出鬼没な存在だ。

そんな精霊が十香に続き、また違う精霊が俺の目の前に現れるなど、普通は思わないだろう。

などと俺は考えていると、<フラクシナス>に備えられていた集音器から激しい轟音が鳴り響く。

 

(……ASTの攻撃が本格的に動きが活発化してきているな)

 

だが、あの女の子……なぜ反撃しないんだ?

見ていれば分かるんだが、ASTの攻撃をただひたすら避けていくだけ。

神無月が言うには気性の荒い精霊ではないとのことだが、自分が襲われているのにも拘らず、ASTへの反撃の意図が感じられないのは、どういう事なのだろうか。

別に何かを隠しているという訳でもなさそうだし、逃げるのが目的ならば精霊ほどの力でASTなんぞ軽くあしらうぐらい造作もないはずだ。

 

「琴里、なぜあいつは反撃しないんだ?」

 

などと、疑問に感じた俺は琴里に尋ねてみると、琴里は唐突な質問に呆れて溜息を吐きながら、組んでいた細い脚を組み直した。

 

「……よくわからないわ。けど、いつものことよ。<ハーミット>は精霊の中でも極めて大人しいタイプだし」

 

ということは、毎回ASTからの攻撃を受けておきながら自分は反撃しないってことなのかよ……ASTは精霊を殲滅・撃退しなくてはならない義務があり、世界を破滅に追い込む災害のような精霊を迎撃しなければならない。

それは仕方ないにせよ、ああも反撃してこない相手を無抵抗なまま理不尽に甚振られる姿は見ていて心苦しい。

だが、戦いを止めて精霊を野放しにしていると、また違う場所で天災を齎し、人々や街に被害が及びかねないのだ。

それにASTは精霊を倒したという経歴は未だ無いものの、倒せる好機(チャンス)を逃すほど連中の頭は腐ってはいないだろう。

 

「……そうか」

 

俺は、この<フラクシナス>の艦橋内を見渡した。

ここは精霊を純粋に救おうと思っている酔狂な者たちの集まり。

その中に俺がいて、この<ラタトスク機関>に契約している……俺は、

 

(武偵憲章2条。依頼人との契約は絶対守れ、か……)

 

昨日シャーロックにあんだけ啖呵切ってしまった以上、それは行動に表さないとな。

それに俺は、この世界においてただ1人しかいない武偵だ。

たとえ死んでも、……もう死んではいるが、再び生を受けた俺はせめて武偵であることを忘れず、契約に果たさなくてはならない。

そして<ラタトスク機関>の目的はただ1つ。

精霊を救い、平和な日常を送らせる事。

ここはその契約に則って、

 

「琴里、1つ訊かせてもらうぞ。精霊は……霊力を失えばASTから狙われることも、空間震が起きなくなる……違うか?」

 

「……違わないわ」

 

という事は、十香の一件と同じやり方(・・・)で霊力を封じれれば、この難事件は解決するってか。

ただ、条件がある。AST……俺たち<ラタトスク機関>の存在は、AST(ヤツら)に気取られてはならないというのが必須条件だ。

バレてしまえば、こちらの立場が危うい。

それに、ASTには一度忠告を受けたからな。見つかってしまえば次に何されるかすら想像が衝かない。

 

「なら、すぐにでもあいつを救助(セーブ)する。琴里、そのためにもお前たちの力が必要だ」

 

だが、それを何とかしようとするのが<ラタトスク機関>の仕事だ。

確かこの組織は俺のために用意されたそうだからな。利用しない手はない。

そして琴里はその話を聞いて、まるでその言葉を待っていたかのように、チュッパチャプスを立てながら微笑みだした。

 

「流石、私のおにーちゃんね!」

 

小悪魔な笑みを浮かべる琴里、そして下段にいるクルーへ指示を仰ぐ。

……琴里。いったい何を期待しているのか知らんが、それはきっとお前の勘違いだぞ。

俺はただ武偵としての役割を全うしようとしてるだけに過ぎない。

べっ別に、精霊のくせして反撃しないあいつの……無抵抗のまま死ぬ姿を見たくないとか、怖がっているあいつを助けてやりたいとか、決して違うからな。

 

 

 

―――ただ、

 

 

 

「さあ―――私たちの戦争(デート)を始めましょう」

 

 

 

―――俺はただ、後悔しているからなんだろうな。

 

覇美の胃袋に眠っている殻金をアリアの元へ取り返すことができず、俺は死んだ。

この一件を解決するべくあれこれしてきたんだが、結局のところ何1つ解決に至るまでには往かず、世界中で俺はこの一件に振り回されてただけに過ぎない。

だからこそ、今度こそ……

 

 

 

(―――任務は、遂行するっ!!)

 

 

 

 

 

 

「ここに精霊がいるんだな」

 

琴里の指示通り、<フラクシナス>の下部に設置されている転送装置で、この商店街に聳え立つデパートの建物内まで侵入できた俺は右耳に付けているインカムを通して琴里に話しかける。

 

『―――ASTに追い詰められて建物内で立て籠もっているわ。今が好機(チャンス)よ、士道。話しかけるのなら十分に言葉を間違えないようにね』

 

「……ああ、わかった」

 

などとインカムに添えていた手を離し、周囲に気を配りながら先を急ぐ。

ASTの着装するCR-ユニットは屋内における戦闘を極端に嫌っている。

重装備に加え、あの機動力……とてもこんな狭い空間の中で戦えるようなものとは思えないしな。

とはいえ、ASTもそう長く待っていられるほど生易しくはないはずだ。

 

『―――士道、<ハーミット>の反応がフロア内に入ったわ』

 

「ASTの様子はどうだ?」

 

いずれ、十香の時と同じように建物を集中砲火して精霊を燻りだそうというやり方をしないとは限らない。

動きを見せたら俺もこの場から避難しなくてはならないのだからな。

昔アリアと理子でやった紅鳴館の潜入よりも難解だぜ、これは。

 

『―――今のところ動きは見えないわ……ん、ちょっと待って。ASTの内1人が建物に侵入したわ。……ッ、しかも消えたっ?』

 

琴里の驚愕と動揺の声に、クルーたちの口々の叫びが聞こえる。

 

「消えた……? どういうことだ」

 

『―――分からないわね……。侵入したのはおそらく男性。コートみたいなのを羽織った途端に姿を眩ましたわ。<フラクシナス>の探知機(センサー)にも受け付けないみたい』

 

と、呟く琴里からそう伝えられるが……

透明になれる羽織り……まさか、光屈折迷彩(メタマテリアル・ギリー)か何かか?

だとしたら一刻も早くあの女の子の元へ行かなければ、彼女が危ない。

広い範囲を想定したASTが1人、強大な力を持つ精霊へと向かっているのだ。

おそらく、余程自分の力に自信があると見えるのか、その透明になれる兵器があるからなのか、屋内を想定した装備をしているのか、その辺の事は琴里から聞いてみたが、それほど重装備というほどの武装はしておらず、プロテクターらしき軽装をした少年らしい。

ASTにはない装備で最新型だとか言っているが……

 

「……わかった、それで十分だ」

 

『―――ええ、こちらも周囲の警戒に施しておくわ』

 

「助かる、琴里」

 

連中の1人が建物内に侵入してきた……集団戦に秀でたヤツらが単独で突入する事は無いだろうと思っていたんだが、暗殺による奇襲を狙っているのか。

確かに、いくら強大な戦闘能力の持ち主でも、不意を突かれては対処ができないからな。

……どこの時代でもそうだったように。

 

そしてようやく精霊のいるフロア内に辿り着いたものの、肝心の<ハーミット>が見当たらない。

まさか……すでに例のASTから奇襲を受けたのか?

 

 

 

『―――君も、よしのんを苛めにきたのかなぁ?』

 

「! その声は……!」

 

直後、唐突な声にバッと見上げると、そこには1人の少女が片手にパペットを付けながら空中で逆さに浮遊している姿が、視界に捉えられる。

淡い澄んだ青い髪に、蒼石(サファイア)のような色を持つ瞳、幼げな表情をしている目の前の人物は……先ほどモニターに映っていた精霊と同一人物そのもの。

精霊の名は<ハーミット>。だが、少女……いや人形の名は……

 

「……よしのん」

 

『ん、おやおやー? 誰かと思いきや、ラッキースケベェなネクラおにーさんじゃなぁい!』

 

俺の事を覚えていてくれたのかポンと手を叩くよしのん。

逆位置に浮かんでいた少女と共に、床の上に降り立つ。

同時にパクパクと口を動かしながら俺を見て、けらけらと笑うかのように仕草を取ると、そこに耳元から『―――待ちなさい』と琴里からの指示が下された。

 

①『久しぶりだな、元気か?』と普通に挨拶する。

 

②『誰がラッキースケベでネクラだ!』と豪快にツッコミを入れる。

 

③『ふっ、君に問われるまでもないよ。俺はただの通りすがりの正義の味方だ』とキザに決める。

 

よしのんの言葉の直後に現れた、3つの選択肢。

これらは艦橋内でモニタ画面に映し出される恋愛に関する各種のパラメーター、テキストウインドウなどの機種が揃っており、まるで恋愛シミュレーションゲーム―――通称ギャルゲーをやっているかのようだ。

遠山キンジこと五河士道の見えない所で琴里はニヤりと笑うと、

 

『―――総員、選択開始!』

 

その一言が艦橋内に響き渡らせると、クルーたちが一斉に手元のボタンを押しだした。

投票率としては①と②……そして意外にも③までもが同数の割合で決まる。

 

『え、えぇ!? ここは②でしょう! ギャルゲー主人公なら安定の対応ですよ!?』

 

結果に疑わしいと思ったのか、<次元を超える者(ディメンションブレイカー)>こと中津川が訴え出た。

 

『無策で追うな! <次元を超える者>!!』

 

だが、それに反応したのは<ガンデレ上級大尉(ミスターブシドー)倉公(くらきみ)

鬼のような仮面を付けた彼は、その奥底から見える鋭い視線を画面に向けると、次のように述べた。

 

『多少強引でなければ精霊は口説けません。故に私は②を断固拒否する!』

 

凄まじい気迫を背負った言葉に、周囲のクルーたちが焦燥な表情を浮かべ始める。

それに対抗してきたのは、<創造と想像の芸術家(イマジンアート)>橘だった。

 

『ボクも中津川くんの意見に賛成なんだけれど、では君は何を選んだんだね?』

 

『無論、③に決まっている! ギャルゲーのシステムが、彼女の好感度を分かつ絶対条件ではないからな。それに、相手は精霊……それ相応な言葉でなければ彼奴とて響かぬであろう?』

 

倉公と橘による争論に、琴里は『……ふむ』と唸り上げる。

 

『―――士道、③よ』

 

 

 

 

 

「……おい、まさかそれを言えってことなのか?」

 

指示が来るのを待っていたその直後、琴里から俺の耳元に行動指示が届く。

ただ、その内容があまりにも死にたくなるような言動で、キザったらしいジゴロ表現をこの少女に言わなければならない、とのこと。

こ……琴里……

よりにもよって、ヒステリアモードじゃない俺にそれを言わせる気か。

 

『―――当然に決まっているじゃない。それとも何? 今更怖気づいてしまったのかしら?』

 

などと琴里は挑発的な言葉を織り交ぜながら口にしているが、その前によしのんが俺の事をじぃー、と見てくる。

……マズイな。

琴里からの挑発はどうでもいいが、このまま躊躇い続けているとよしのんに疑われかねない。

そうなったら、一巻の終わりだ。

 

「……やるしかないのか」

 

『うーん? どったの?』 

 

器用に首を傾げるよしのんが俺の方へ不思議そうに見つめてくる。

……こうなったら、自棄になるしかない。

仕方ない、そうだ。仕方ない事なんだ。世界の破滅と俺のプライドを天秤に掛ければ俺のプライドの方が軽い。

それにここには俺と少女だけ、インカムを通じて琴里たちが訊いているとはいえ知った事か。

俺は一息付き、<ハーミット>と思われる少女とよしのんに目を向ける。

 

「……君に問われるまでも、ない。俺はただの通りすがりの……せ、正義の味方だ……」

 

『――――――!』

 

一見、セリフにすればこそ良い響きに聞こえるが、現実はそうはいかない。

琴里からの指示通り言葉にした俺の口調はぎこちなく、ヒステリアモードがどれだけ〝これ〟に優れていたかが分かる。

……し、死にてえ。

それが俺の感想だった。

耳元から『―――うわぁ……』という琴里の悲観的な声が聞こえ、俺はそれに顔を赤くする。

 

『…………』

 

同時によしのんまでもが茫然と口を空けており、ピクリとも動かない。

やっちまったか、という半面……羞恥心に溢れる感情がさらに俺の頬の色で表されていく。だが、

 

 

 

「―――……正義の、味方……?」

 

 

 

一瞬、物静かではあるが透き通ったかのような小声が俺の耳元に入る。

誰だ? 琴里でもないし、よしのんでもない。

しかし、この声は。どこかで聞いた事のあるような気が。

 

「……ヒー、ロー?」

「!」

 

少女の声がした。

ちょうど俺が恥じらっている時に、そんな声が聞こえたはずなんだが。

今の声は、この女の子が言ったのか?

 

「お前、なのか……―――」

 

俺は、そう呟くと。

よしのんを操る少女はびくりッと身を震わせる。

どうやら声の主はこの娘らしい。

 

「あ、いや……悪い、今のは―――」

 

「……ッ、―――『ぷっ……、あっははははっ!!』」

 

焦燥に煽るこの雰囲気に、俺は咄嗟に謝ろうと声を掛けると、少女は強張った表情を浮かべて瞬時によしのんと入れ替わる。

まるで何かから怯えているかのように……

 

『いやぁー面白いねぇ、おにーさん。キザに決めているかもしれないけど、決まってないよ? それに謝るなんて。……くふふ、赤くなってるおにーさん、可愛いよー?』

 

「くっ、うるせぇ……」

 

だが今は恥じらいの方が大きく、それを気に留める事が出来なかった俺は顔を真っ赤にし、カラカラと笑うよしのんからソッぽ向ける。

耳元からきっと腹を抱えて笑っているのだろう琴里の声が聞こえるんだが……あいつ、誰のおかげでこんな目にあっているのか分かってねえな?

というか、こんな非常事態だっていうのに随分と余裕だな琴里。

 

『……しかしラッキースケベェなおにーさん、ここで会うだなんて奇遇だねぇ? もしかして、よしのんに会いに来たのかしらぁん』

 

「あー……あながち間違ってはない」

 

『わお、それは驚きだね。よしのんもおにーさんみたいなのは歓迎よー? どーもみんな、よしのんの事が嫌いみたいでさぁ。こっちに引き込まれると、すぐにちくちくする攻撃が来るんだよねぇ。もーうんざり』

 

などとよしのんはやれやれ、と欧米風に首を横に振りながら掌を返して揺らす。

だが聞いていると十香のそれと共通しているな。

精霊は本来、特有の世界に依存しており、時にこちらの世界へ引っ張られる。

この時に生じる現象が空間震なのだが、十香曰く、暫くすると元の世界に引き吊り込まれるそうだ。

……やはりこの精霊も無意識に世界を行き来しているのか。

 

「なあ、よしのんっていうのは、お前の名前なのか?」

 

『おおっと、よしのんとしたことが自己紹介を忘れるなんてっ! よしのんはよしのんのナ・マ・エ。可愛いっしょ、可愛いっしょ?』

 

「あ、あぁ……」

 

思わず勢いに任せて頷いてしまったが、こいつテンション高いな。

 

『―――へぇ、この精霊……十香と違って自分の名前を持っているのね』

 

そこに琴里がインカムを通して、訝しい声音を吐きながら関心する。

言われてみれば、確かに十香は自分の名前を持っていなかった。

そもそも精霊が人間の名前を持っていること自体が意外なんだが。

すると、

 

『ところで、おにーさん。よしのんも名乗った事だしぃ、おにーさんの名前を教えてもらっても良いかなー?』

 

よしのんが俺の顔へ寄せ付けるかのように近づけ、尋ねてくる。

 

「……五河、士道だ」

 

『士道くんねぇ。くふふ、カッコイイ名前だけど、よしのんには敵わないかなぁ』

 

などと言っているよしのんはモデルのやりそうなポーズ決めていた。

とはいえ、このままでは話が進まないし、いつASTが襲ってくるのか分からない。

 

(場所を移した方が良策か……)

 

外に出る事は出来ないが、琴里たちが透明化したASTの1人を見つけるまでの時間稼ぎにもなる。

それに加えてここは大型デパートだ。

内部の構造は十分にあるし、1人で突入したASTを攪乱させるのにも丁度いい。

霊波反応もこの娘が使わなければすぐに感付かれる心配もないだろう。

なので話題を逸らそうと―――

 

「……おい、よしのん」

 

『おおー、士道くん。ちゃんとよしのんの事を名前で呼んでくれちゃってるねぇ。うんうん、感心感心! んでぇ、そんなよしのんに何かなー?』

 

不思議そうに、くねっと首を傾げるよしのん。

本来の目的である少女に至っては何ら変化がないため、いまいちピンと来ないものの、この際だから仕方ないか……。そっちの少女を誘ったつもりだが、よしのんと関わればもしかしたら彼女の方も動きが見れるかもしれん。

よしのんのテンションはともかく、ここはまあ、よしのんの事を知っておくべきだろうな。

なので俺は、

 

「いや、そんな大層な話じゃないんだがな……時間があるなら少し付き合ってもらう。いいか?」

 

『うっはー! それって、もしかしてデートォ? モチのロンでオッケーだよんっ。いやぁ、士道くん以外でまともに話せる人間がいないから嬉しいねぇー』

 

調子に乗ってうはうはと動くよしのんが、今以上に話を大きくしにきてる。

別にデートのつもりで誘ったわけじゃないんだがな……

だがまあ『うふん、大胆!』と、バタバタよく分からん事を口にしてるあたり……どうやら選択肢としては間違っては無かったようだ。

 

『―――やるじゃない、士道。女の子を誘うなんて一丁前に男らしくなったわね』

 

ふふん、と楽しそうで何よりな琴里が、鼻歌まじいて笑っていた。

それに対し、俺は口元をへの字にしながらインカムを二度小突き、よしのんや少女に聞こえないぐらいの声音を、ソッと口に出す。

 

「別に、俺はあくまで<ラタトスク機関>の目的に合わせただけだ。決して浮ついた目的で誘ったわけじゃない」

 

『―――ふふ、どうかしら』

 

小悪魔な微笑みを耳元で囁く琴里に、言葉で妹に勝てっこないだろうと俺は悟り始め、喉に唸りを上げながらポリポリと後頭部を掻く。

 

(全く、かなめ同様……琴里も大概だな)

 

兄である俺をこうもあっさり言い包めてくるあたり、妹っていうのは空恐ろしい。

 

「……とにかく、俺はこいつを案内してるから、お前は透明人間でも探してろ」

 

琴里の言葉を皮肉そうに返した俺は、このよしのんと少女と共にデパートの中を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キンジ君に続いて、ジーサード君までもがこの世界に導かれたか……実に興味深い」

 

デパートの周りを取り囲っているASTに対して、1人の男性がそう呟く。

―――シャーロック・ホームズ。

世界最強の探偵が、彼女らの様子を遠くから傍観していた。

 

「……この世界に呼ばれたという事は、この世界を救うという役割を……時代が、世界が、物語が、君たちを主人公として選んだのだろう」

 

片手に携えていたパイプを、シャーロックは口に咥えて腕を組みだす。

 

「おそらくキンジ君たちをこちらに呼び寄せたのも、世界は僕よりも彼らの方が相応しいと見たか。きっとそれは、時代というものがそうさせてくるのかもしれないね」

 

かつて自分が主人公として物語を歩んできたのだから分かる。

時代に合わせた物語には必ずしも、その空間に添った過程の中で人は動かされているのだと。

彼ら……遠山キンジやジーサード、他にも主人公に相応しいと思える人物たちが、時代を進歩させるのと同じように、時間の流れに添って追いかけているのだと、シャーロックはふっ、と悟る少年のような笑みを零した。

 

「だがそれは、あちらの世界にとって許されない事態だ。キンジ君、もし君がこの世界を救い、平穏な日常を迎えられるようになったら……いずれ―――」

 

そして、シャーロックは霧に紛れるかのように『厄水の魔女』と呼ばれたカツェの水の超能力(ステルス)を使って姿を消した。

 

 

 




お久しぶりです、やってくるのが遅すぎる赤須サンタです。

いかがだったでしょうか?
作者自身、久しぶりの投稿でしたのであまり自信がないのですが楽しめれば幸いです。
それと作者のリハビリを兼ねて1つか2つか作品を書いてみようかと思います。
近日に上げたいと思いますので、良ければ暇潰しに見に来てくださいねー!


デアラの映画を見逃した作者からの一言。
「緋弾のアリアAAは良かった。が、ジャンヌが出ないとはどういう事ですか赤松さん!!」

それでは感想・批評・誤字脱字などがありましたらよろしくお願いします。
次回はあの弟を出させる予定です。
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