キンジ・ア・ライブ   作:赤須

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今さらながら明けましておめでとうございます、赤須です。

そして、毎度ながら更新が遅れてしまい申し訳ございません!
時間を作ることが難しく、またこの話を描くのに何度も手直しした結果、一年以上もかかってしまいました。
ですが、それだけに力を入れてきたつもりですので、楽しんでいただけると幸いです。


Ⅵ弾 悲観論で備え、楽観論で行動せよ

 

 

 

「総員に通達! 精霊に動きが出始めたわ。……どうやらジーサード君、しくじったようね」

 

対精霊部隊(アンチ・スピリット・チーム)魔術師(ウィザード)―――AST。世界における人類の敵、精霊を殲滅、もしくは撃退を主軸とした超人たちの集団で、今は宙に浮遊しつつデパートの様子を伺っていた。

そしてASTの内1人の女性が、この異変を一番に感じ取り、すぐさま部隊の全員に知らせる。

出方次第、攻撃を再開せよ。という……指示と共に。

 

「……よォ、悪かったな。しくじってしまってよ」

 

「!?」

 

風が靡く。

ジ……ジジッ、ジ……と音を立てたギリースーツ姿の少年が、無のところから女性―――日下部燎子の隣に現れた。それも気配も感じさせずにだから驚愕を通り越して不気味さえも覚える。

心臓に悪いことこの上ない。

 

「じ、ジーサード君、聞いてたのね……」

 

それに先ほどの言葉を聞かれたのか、彼―――ジーサードのぶっきらぼうな口調に燎子は思わず気を落とされ、呆然とする。

 

「ケッ、だから謝ったじゃねェか。可笑しな人だな、アンタ」

 

「わ、悪かったわね。ていうか可笑しな人って、貴方に言われたくはないわよ!」

 

対精霊ガトリング<オールディスト>を片手に構えた燎子は、ジト目をしながらジーサードに睨み付ける。だが、ジーサードはそんな燎子に構わず、何かの音源を聞き取ったのか瞬間的に燎子の持つ<オールディスト>同様、対精霊用に開発された自動拳銃(オートマチック)を右大腿部のレッグホルスターから取り出す。

 

「……出てきたぜ」

 

「ッ、来たわね。……―――AST各員に告げるッ、<ハーミット>が出現した。各自武装の安全装置(セーフティ)を解除し、総攻撃にて精霊を撃滅せよ!!」

 

『―――了解』

 

そこに1人の少女らしき声がジーサードの聴覚に響く。そして同時に白髪の少女が動き出した。

両腕に燎子の使用しているのと同じ<オールディスト>を二丁も扱う少女は、<ハーミット>の出現した直後に、複数の銃口を持つガトリングから弾幕と言う火蓋が開けられる。

―――精霊の反応、それを誰よりも速く反応した少女は己が信念を貫くため、大量の弾を撃ち放った。

 

「きゃ……!」

 

小さな悲鳴が、銃口に向けられた方向から伝わってくる。精霊―――少女の出現により降り注ぐ銃撃の嵐が、白髪の少女の後に続いてASTの戦闘員たちがその手に構えるガトリングやミサイルポッドからヤツを殲滅せんがために打って出た。

 

「……」

 

ポツポツと、あの少女の霊力による影響なのか雨が突然降ってきて、随意領域(テリトリー)の外面から写し出される視界が揺らぐように蠢く中で、銃声の音が、弾ける火花が、ジーサードの周囲で繰り広げられていた。そしてその様子を伺っていたジーサードは―――

 

「…………チッ」

 

と、まるで厄介事に巻き込まれたかのような面相をするジーサードは、思わず舌打ちをする。

 

「……精霊を逃がせ(・・・)だァ? 兄貴(・・)も無茶な注文を簡単に押し付けてきやがって、全くよォ」

 

燎子や他の隊員たちに聞こえない程度で呟くジーサード。自動拳銃をまるで遊戯のように扱う彼は、『跳弾射撃(エル)』という曲芸を以てして自分の放った銃弾を弾幕に広げ、宙に舞う弾丸が精霊の少女に当たりそうなのを、ジーサードの放った銃弾による跳弾で弾丸に当て、逸らし、あるいは防ぐ。

それを自然的な形で、誰にも悟られず、気付かれないように『不可視の銃撃(インヴィジビレ)』による早業を駆使して同時に行っていた。勿論、当たらない銃弾は無視しているが……それでも至難の業である事には間違いない。

 

『―――金三、あの精霊の女の子には手出ししないでやってくれ。あの娘は……優しい(・・・)からね』

 

故にジーサードは笑う。

 

「だがまァ、兄貴の手前だしな。……それに藤花(イイもん)を見せてくれた礼だ。俺も、一肌ぐらいは脱いでやるさ」

 

『……出来る事なら、彼女を逃がしてやってほしい。……頼めるか』

 

閃く銃口からの光は絶えず、精霊の少女に注がれる弾丸は少女も高い機動力を以てして躱していくが、限度があるためジーサードはそれをギリギリ躱せるように『銃弾弾き(クラッカー)』で修正していく。

 

「だがよォ……」

 

あまりにも銃弾の数が多すぎるせいか、ASTの隊員たちは自分たちの弾がジーサードによる弾で逸らされている事に全く気付いていない様子。

それも当たり前だ。まさか精霊を相手に出来るほどの心強い味方(ジーサード)に邪魔されているなんて、いったい誰が思うだろうか。ましてや世界の害悪たる精霊を前にしているのだから尚更である。

 

「―――出来る事なら、だァ? ……ハッ、寝言は寝て言えよ、おい」

 

だがそこは米国の誇り高き人工天才(ジニオン)の1人。

SDAランキング総合8位をマークした『静かな鬼(オルゴ)』―――遠山金叉の遺伝子を受け継いだ、義の一族の1人なのだから……そしてヒーローである事を胸に張るジーサードは鼻で高らかに笑った。

 

「……それはな、サラの研究への冒涜ってもんだぜ、兄貴。それは兄貴といえども、ちと許せねえなァ」

 

 

 

慢心? 違う。油断? それも違う。

 

 

 

人工天才(ジニオン)に出来ねえ事はねェ、それを証明してやる」

 

ジーサードこと金三はエネルギー切れを起こした拳銃を消し、今度は左大腿部のレッグホルスターから次なる拳銃を抜き出した。

ASTの部隊には自分を助けてくれた恩義がある。故に、それを裏切るつもりはジーサードにはない。

 

だが兄貴―――今はシドーなんて偽名を使っているらしいが、

 

キンジ(あにき)を裏切るつもりは、金三(おとうと)には微塵足りとも……ない。

 

 

 

「だからサラの夢は散らせねえェ。それを散らそうものなら―――

 

 

 

 

 

―――散らせてみやがれエエエェェ!!」

 

 

 

精霊の少女―――<ハーミット>に対する殺気を充満に放ち、ババババッと『不可視の銃撃』で<ハーミット>の眼前ギリギリ(・・・・)を狙い、撃ち抜いた。

 

「……ッッッ!?」

 

びくっ、と驚愕に目を見開いた<ハーミット>なる少女は高速移動で飛び回っていたところ、空中で急停止する。せざるを得なかった。……あのまま空中で踊りまわっていたら、今頃撃たれて別の意味で宙を踊っていただろうから。

 

「ハッ、それじゃあ逃げられねえぜェ?」

 

そして続けざまにジーサードはヒップホルスターから大型ミサイルをブチかませる大砲(バズーカ)を展開し、四連射による砲撃を<ハーミット>の周囲へ四面楚歌の如く爆音を生じさせた。

 

「きゃ―――!?」

 

発破する爆風に煽られ、靡く激しい風は<ハーミット>の霊装のおかげで精霊の少女は傷一つなく防ぐ事が出来た。そして足止めも、させれた。

 

「<ハーミット>の動きが止まったッ!? ―――よし! 撃て! 撃って撃ち続けなさい! 攻撃の手を休めるんじゃないわよ!!」

 

それを好機と見た燎子は、通信機を利用してAST隊員たちに対して命令を行使する。

 

『―――了解』

 

同時に白髪の少女が、脚部に装着していた小型のミサイルポッドからホーミング弾を逸早く撃ち放った。

何とも言い難い反応速度である。

他のASTもワイヤリングスーツを着て超人化しているとはいえ、その超人と化した者たちの中でも彼女は逸脱し過ぎていた。

 

「……鳶一折紙。確か、兄貴と同じ学校の生徒ってヤツか。兄貴の周りは濃いメンツが多いな」

 

などと関心な一言を呟くものの、ジーサードにとっては少しマズい状態へと陥りつつある。今は『不可視の銃撃』で自分が撃った事を誤魔化し、放たれた弾は跳弾によりどこから撃ったのか方向性を誤魔化す手法でやっているが、それでも鳶一折紙(・・・・)から誤魔化すのは限界がある。

 

「ん、ていうか、オリガミの話してた噂の恋人(シドー)って兄貴の事だったのかよ。しかも兄貴の近くにもう1人、他の女もいやがったな。……流石だぜ、兄貴」

 

とはいえ、それでもジーサードには余裕があった。

精霊を追い詰めつつも、ギリギリというラインでASTを足止めする。<ハーミット>の霊装の防御力を考慮に入れつつ、高い移動力を持った精霊に対し、ASTとしてのジーサードがやれる事はただ1つ、それは逃げてもらう事である。

兄貴……遠山キンジに頼まれた依頼だ。それを出来る事なら、と言われて出来ないようでは人工天才(にんげん)、失格だ。

 

(そろそろ、逃げてくれるとありがてェんだが…………あァ?)

 

そこに、妙な気配と視線をジーサードは感じ取る。

 

何だ、この感覚。2人……いや、3人か。そして反対側には強烈に酷く、明らかに常識を逸脱したかのような気が1つ感じられる。それは恐ろしく、肌にビリビリと痺れを与えてくる、そんな雰囲気だ。

複数からの視線、2、3人程度のヤツらはともかく、あちら側にいる1人の気配が強すぎる。

 

(……精霊といい、兄貴といい……そして複数の気配。いったい、どうなってやがる)

 

この世界にやってきて、精霊がいるという常識的な事はすでに承知済みであった。しかし、まさか兄貴まで来ていたのは正直意外過ぎていた。……何故なら、ジーサードは死んでここに来たのだから。

では何故兄貴……遠山キンジが、この世界に、しかも前世とは違う外見でいるのか。それが謎に包まれてて、不明瞭な点が多すぎる。

 

「まァ、明日兄貴から聞きだせば分かる事だ。……今は、これだな」

 

敵意を感じる気配が3つ、だがそれは後回しだ。

先に精霊を逃がす事が優先。戦況はASTが優勢に戦えている。だが、見る限り精霊は本来の力というヤツを発揮していない様子で、これを解放されたら優勢に戦っているASTはおそらく圧倒され、優劣が逆転されるだろう。

となると、これをどうバランス取るのかが重要なのだ。

 

「……ッ、……っ!」

 

銃声と爆音が幾多に撒かれており、四方八方から狙われている淡い純水のような青色の髪をした精霊の少女は、この集中砲火を必死で、懸命な想いをしながら逃げていた。

これをジーサードは拳銃で応戦する。逃がさないように、それでいて逃がすようにと……

 

「……い、……や……!」

 

微かな悲鳴が、ジーサードの鋭い聴覚に冴え渡る。だが止められなかった。

もしも兄貴がここいたらと思うと、さっきの事もあるせいか、ゾッとしないでもない。

 

「―――……『流星(メテオ)』」

 

随意領域(テリトリー)を足元に発生させ、それを足場にした。右足を差しだし、腰を低くしたジーサードは、右手を引き絞るように構えて狙いを定める。

 

「……っ!」

 

大きなエネルギーを拳に纏うジーサードは、その構える姿から『流星』を察知した精霊の少女が、怯えた瞳でこちらを見つめてきた。無論、ジーサードには彼女を当てるつもりは毛頭ない。

 

「……! 総員、射程範囲を抑えて! ジーサード君が仕掛けるわよ!」

 

そしてジーサードの構え方に気付いた燎子は、ASTの各員に退くよう命じる。

近接戦闘、音速の拳を武器とするジーサードの格闘センスは、この場に居る燎子や折紙……誰もが認めるほどの実力があるという事を十分に承知しているため、それを邪魔しないようリーダーである燎子が配慮したのだろう。

しかし、これはジーサードの好機である。今もなお精霊を逃がすまいと攻撃を続けているが、ジーサードが接近戦に持ち込めば、味方に当たりかねないのでそれを避けようと燎子たちは攻撃をある程度は控えてくれるはずだ。

 

だからその隙を狙う。

 

収束する体内の緻密な関節や筋肉の部位に、『流星』を以てして反射的に動かし、全身にそれらを束ね、動きを高速化とする。

爪先から踵、踝、脛骨、大腿部、腰、といった下半身の回転を一度に連動させ、右肩を中心に胸骨、右上腕二頭筋、腕橈骨筋、浅指屈筋などと言った腕のあらゆる部位を限りなく引き出しながら、ジーサードの拳の振動はマッハの領域へと達成させた。

そして重力、随意領域を足場にした脚力の反動、加えて背部に装着された高機動スラスターを展開したその速度は、並のAST隊員ではまず出せない。

 

(―――『流星』……ッッッ!!)

 

それは、先ほど屋内で放っていた『流星』とは桁違いの速度と威力があった。

 

デパート内で戦闘を行った時は兄貴たちが居たこともあって、威力も速度も落としながら戦っていたものの、ここは屋外。やはりこの装備である以上、動きが引き出せるこの場でこそ、ワイヤリングスーツは真価を発揮できる。

それに加え、このワイヤリングスーツや装着された武装は、ジーサードの『流星』とは相性が良かった。

 

仕留める勢いを殺さず、一気に振り絞る拳の衝撃波を、精霊に憚る。

そしてその拳は……―――

 

 

 

「……<氷結傀儡(ザドキエル)>……!」

 

 

 

―――届かない。

 

「……ッ……!?」

 

臨界状態を突破し、超音速へと辿り着いたマッハの領域が、ジーサード渾身の一撃が……止められた。減り込まれる凹凸の亀裂を生んだ障壁が、拳を受け、防ぎ切ったのだ。

その正体は、凍て尽くされる氷の盾。

『銀氷の魔女』と呼ばれた聖剣の担い手であるジャンヌ・ダルク30世など、比ではない。超能力(ステルス)は専門外とはいえ、分かってしまう、この非常に強力な歪の力は、ジーサードを戦慄させた。

 

 

 

―――グゥオオオオオオオオォォォォ……!!

 

 

 

紅い眼光を持った白い怪物が、氷の障壁が崩されるのと同時に姿を現す。

 

「あれは、天使(・・)……!? マズいわ! ジーサード君ッ、離れ―――」

 

遅い。

 

「ぐッ、おォォ……!?」

 

白い怪物は、咢から吐き出される白い煙のようなものを漏らす中、その口内で収束される霊力が掻き集められて、溜められたエネルギーが、零距離で撃ち放たれる。

 

―――天使。

 

それは、精霊が身に纏う『霊装』―――これを最強の盾と称するのなら、『天使』とは……霊装と対を成す、最強の矛を冠する『形を持った奇跡』だ。

 

「ジーサード君!?」

 

燎子は思わず叫ぶ。至近距離……しかも、精霊にとって最強の矛である天使をまともに、零距離に値してしまうのではないかという間合いからの反撃が、ジーサードを襲う。いくら手練れの猛者といえども、これだけの要素に詰まった反撃(カウンター)を喰らえば、対応しようがない。

白き息吹を被ったジーサードは、姿が見えず、多大な威力を持つ<ハーミット>の天使はとてつもない破壊力を見せた。

 

「う、うおおおおおお……ッッ!!」

 

『……!?』

 

だが、ジーサードは未だに健在だった。

燎子を含め、折紙たちは驚愕に目を見開かせる。何と、随意領域をあの一瞬で展開していたのだ。それも、天使の一撃を封殺出来るほどに。

 

「チィ……これでェ、終わりだとは言わせねえぞォ!!」

 

白い息吹が途切れる瞬間をジーサードは狙い定め、『流星』並の速度でローキックによる下段回し蹴りを白い怪物へぶつける。

―――ズゥウウウンッ―――ダァンッッ!!

と、螺旋を描くように自分の身を中心とした回転蹴りが、勢いよく天使に衝撃波が当たった。

 

「……ぁう……!?」

 

震動により、精霊の少女が悲鳴を上げる。

だがその瞬間をジーサードは逃さなかった。

 

(兄貴、手ェ出してねえからな……)

 

我ながら屁理屈ならぬ、かなめ風に言えば非合理的な言い訳だが、ああでもしない限りやられていたのはこちらだったので是非もない。

そして、続けざま攻撃を連打に持ち込むため、高機動スラスターを起動させながら両足を胸中に引き絞って、ドロップキックを……叩き込む。

 

「……ッ、ぁ……よし、のん……!?」

 

巨体だったおかげで物理がよく当てやすい。ジーサードはそのまま『流星』に切り替えて止めを、と思考を促す。その直後だった。

 

「……っ?」

 

ジーサードはピクり、と身体を硬直させる。

何故なら、精霊……<ハーミット>の姿が忽然と消えていたからだ。

この世界における精霊は隣界と呼ばれる別世界が存在し、そこに帰る事を消失(ロスト)と呼ぶらしい。

そして今、<ハーミット>は帰った。

つまるところASTの戦闘態勢は解除されたのである。

 

「……総員、帰投するわよ」

 

「……」

 

「ああ」

 

武力を以てして、精霊を討伐するのがASTの本分なのだが、それでも排除するためには非常に困難なため、彼女たちは倒すと言うよりも、撃退を主となっていた。そして先ほど強い雨が降っていたのにも拘らず、<ハーミット>が消失した直後に晴天の兆しが差し込んでくる。

 

「……?」

 

ジーサードや燎子と共に本部へと帰還しようとしていた折紙が、随意領域で超人と化していた視力から何かを見つけたらしい。

 

「ん、どうしたんだよ、オリガミ」

 

それに気付いたジーサードも、折紙の様子に異変を感じて問いかける。

 

「ぬいぐるみ」

 

「……!」

 

高度を下げていく折紙が、地面を着いて落ちていたウサギのパペットを拾い上げる。

ジーサードはそれに見覚えがあった。これは、あの<ハーミット>が持っていた人形だ。

 

「……」

 

「どうするんだ、オリガミ。そのパペットをよォ」

 

「…………」

 

折紙は拾ったはいいものの、これをどうしようか考えている様子だった。

そして、

 

「……持って帰る」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球の万物に天災を起こす精霊、その内1体として確認された<ハーミット>こと四糸乃とよしのんを撃滅するべくASTとしてジーサードが出張って来ていた事は、あまりにも予想外だったものの、それでも上手く事が運べたのは行幸だったと見て間違いないだろう。

俺や十香、ジーサード、そして四糸乃によしのん、その誰もが傷一つ付く事無く、何も起きなかったのだから。

 

「よしのん……四糸乃は、行ったのか」

 

そして周辺に警戒を張り巡らせた俺は、目先を全体に見渡らせる。

先ほどジーサードが銃撃でやたら撃ちまくってくれたおかげでジャングルジムや遊具のほとんどが駄目にされており、壁や天井には抉られたかのように弾痕がはっきりと喰い付いていた。

が、どれも俺からしたら慣れた、というより懐かしい情景だ。前世の武偵高にある強襲科(アサルト)の棟にはこれぐらいの痕跡はしょっちゅう付けられていた傷だからな。珍しくも無い。

それに、

 

(……ジーサードもいない、四糸乃を追いかけたのか?)

 

ジーサードが吹き飛ばされた箇所には誰も居ない、足跡の無いところから静かに飛んで自分が空けた床の穴から抜けて行ったんだな。

外が騒がしく、銃声や爆音が響いてくる―――おそらく四糸乃、よしのんとジーサードを含めたASTの戦闘はまだ続いているようだ。先ほどのマバタキ信号(ウインキング)でやりとりをして、ジーサードには彼女を殺させないように頼んだんだが、上手くやっているだろうか。

まぁ、そんな事をジーサードに言ったら怒るだろうし、何よりもアイツは遠山家の男だ。半ばアメリカ人の血が流れた腹違いとはいえども、列記とした俺の弟だからな、猴……もとい孫の如意棒に突かれてドジ踏んだ事もあるが、それでもアイツは優秀だ。

などと俺はそう判断していると、インカムから琴里の声が流れ込んできた。

 

『―――……どうやら、あのASTはいなくなったようね。単騎であれほどの戦闘能力を持った戦闘員なんて……正直どうなるかと思ったわよ』

 

『―――ええ、私もASTに関する情報はそれなりに得ているのですが……彼程の腕前を持った戦闘員は今までにいなかったですね。おそらく、私が脱退した後に新たなメンバーとして配属された者でしょう。しかし、いくら<ハーミット>が相手でも、あそこまで追い詰めるとは……』

 

そう琴里に続けて副指令の神無月恭平が関心と驚愕を織り交ぜたかのような口調で語る。

その中にいくつか気になる単語が出てきたのだが、神無月……お前、元ASTだったんだな。それも、かなりの実力を持った方の……

……どうりで隙がないわけだ。あの琴里へのマゾっ気な嗜好を持つ変態だが、他のヤツらと比べて体幹の付け方や、足並み、戦時における対応の速さは他の者とは違った反応を示していた。たぶん、折紙以上の強さは持っていると見ていいだろう。

なぜ、精霊を殲滅するのが目的のASTから、その対を成すかのような、精霊を保護するという目的の<ラタトスク機関>に入った経緯は知らないが……どちらにせよ、神無月は要注意人物だ。あの桜花を派生させた中距離版、藤花のカラクリを見破られる可能性がある。

 

『―――まぁ、そのASTはさっき、どこかに行ってしまったみたいなのだけれど、運が良いのか、悪いのか。……とりあえず、一度<フラクシナス>で回収するわね、士道』

 

「ああ、助かる。琴里」

 

ヒステリアモードがまだ続いていたらしい血流は、悉く熱の鼓動が遅く……やがて穏やかになっていく。

だが解ける前にヒス性を振り絞った俺は、残り少ない時間を全て思考に促した。

……気になっていた四糸乃と、あの時キスをして何も起こらなかったのは、おそらくアレはよしのん(・・・・)であって、四糸乃(・・・)ではないからなのだろう。彼女はパペットを介して人格を替える一種の二重人格、ブラドと小夜鳴のように互いの人格同士でやりとりが出来るタイプの。

しかも、片方の人格になった場合、もう片方の人格は眠ったままで、入れ替わると起きていた人格が眠り、眠っていた人格は起きる、スイッチのオンオフのように切り替えが可能な質の人格者なんだ。

きっと、ジーサードに襲われた時の様子を見て()ったのは、その時の四糸乃は彼女自身の人格だったからなのだろう。

キスをしたという事実が、よしのんと四糸乃の入れ替わりに生じて本能が疼いてしまったのだと、俺は考える。

 

「し、シドーぉ……」

 

弱々しい声、十香の声が聞こえてきた。

何やら顔を真っ赤にしてゴニョゴニョと呟いているようだが……

きゅぅ、と体を縮まるようにしながら小刻みに震えている。

 

「……は、早く……降ろして、くれないか?」

 

俺の腕に抱かれていただけに、まるでお姫様のような少女の上目遣い……そしてその瞳はとても愛らしく、その豊かで、ふにゅんとした胸前で、ぎゅー、と両手が自分自身を抑えるかのように強く握られており、心臓の鼓動も服越しとはいえ、バクバク、と高鳴りが聞こえる。

 

(……!)

 

そして同時に俺の心臓も鼓舞が打たれた感触が伝わった。

―――か、かわいい。

レキやワトソンのような、いつも見せない可愛い姿というギャップの破壊力が、俺を襲う。

だが、今の俺はすでにヒスって解けた後だ。おかげで変らずには済みそうだが……

 

「……ッ、す、すまん」

 

「う、うむ」

 

俺までもが、たぶん赤くなっているのだろう顔を俯かせながら十香を降ろす。

もし、四糸乃でヒスってなかったら間違いなく今のでアウトだったんだろうな。そしてヒスった俺は十香に何をするのかも計り知れない……危なかった。

 

「十香?」

 

「……ッ」

 

そして俺と十香で目を合わせると十香が、ブンブンとポニーテールを振り回すかのようにして、頬を赤く染めながら俺から目線を外す。だがチラ、チラとこちらに向けて瞳をこちらに直視してくるあたり、何かあるのだろうとは思うのだが……

 

「し、シドー」

 

すると十香が恥ずかしそうに、それでいて何かを決心したような顔付きで、俺に話しかけてくる。その表情には、その紫原石(アメジスト)の瞳にはどこかアイツ(・・・)と似た力の強い意思の目をしていた。

 

「……何だよ」

 

と、俺は十香の呼び掛けに答えた。思わずアイツ(・・・)と重なってしまったせいか、返事する合間を空けてしまったのだが、それに十香は気にすることなく、そのまま次の言葉を続けようと桃色の唇を動かす。

 

「さっきの事は、すまなかった。私の先走りで……シドーの、その、邪魔(・・)をしてしまったのだな……」

 

「……!」

 

十香は申し訳なさそうに、しゅん、とした顔になって謝ってきた。

……邪魔、とはおそらく四糸乃との接触の事を話しているのだろう。

というのも、四糸乃と十香は孤独という意味では、二人とも同じ境遇に逢ってしまった精霊の女の子―――その内、十香はすでに俺の封印能力というヤツで、霊力は封印され、今では友人も多く、普通の学校に行き、普通に勉強を学び、普通に食事を摂る。そんな裕福な日常を今の十香は送れているのだが……四糸乃はまだ(・・)、未だに孤独と戦っているのだ。

そして、今し方救われようとしていたのを、十香の勘違いで、封印が施せなかった。

それを十香自身、悔んでいる―――そう思っているんだろうな。

 

「いや、謝る必要はない。あれは不可抗力ってヤツだからな。それこそ、俺の不注意が招いた事故みたいなもんだし……別に、お前が気負う事なんか何もないぞ」

 

「だ、だが、シドー。私はお前の邪魔を……!」

 

責任感の強い十香は、それでも、と食い下がれないという罪深さの意識に募らせている。

これは、あまり刺激になる、ならないような事を言っても、より一層、不安にさせてしまうだけかもな……

きっと心配するな、などと声を掛けても、逆効果になりかねないだろう。

そしてそれは、精霊である以上どうしても避けなければならない。

先ほど解析官である村雨令音から聞いた話だが、霊力を封印された精霊に精神の異常が見られると、忽ち封印されていた霊力が、俺の体内から力を逆流、すなわち、精霊としての力を取り戻しかねないだそうだ。

そうなったら十香は、今度こそASTに狙い撃ちにされて、また、一人に戻ってしまう。

そんな十香の姿、俺は……

 

「―――悲観論で備え、楽観論で行動せよ、か……」

 

「……シドー?」

 

唐突に発せられた言葉に、十香は目を見張った。

正直、俺自身も驚いている。

ただ自然と頭に浮かんで、口にした武偵憲章7条『悲観論で備え、楽観論で行動せよ』―――準備を周到に、しかして行動には一切の躊躇いを入れず、前だけに向けて一歩ずつ進んでいこう。

つまり、失敗してもいい。だが、その経験をどのようにして捉え、如何なる時でも前向きな思考を以て、どんな風にして次へと歩むのかが重要なんだ―――という言葉を、言ってしまった……

おそらく、前世から染みついてきた武偵としての信念が、今もなお健在なんだという一種の表れを本能で示したんだ、きっと。

まぁ、だからかもしれないが……そんな姿の十香を、放っておけないんだと思ったんだろうな。

などと、そうして思い出していく中で、俺は続けて口を動かした。

 

「十香、失敗なんてのは誰にだってある。現に、あの状況下では仕方ないと取るべきだろ」

 

「し、しかし、私のせいで……あの娘の封印をし損なったのだろう! その救えたはずの娘を、だぞ。それを仕方ないで済ませられるモノなのか!?」

 

「ああ、そうだ。そんなもん、次にまたもう一度(・・・・)挑めばいいだけの話だ。四糸乃を救える機会がある限り、何度でも挑戦すればいい。諦めるな、―――決して諦めるな、だ」

 

「……ッ」

 

その言葉に、十香は絶句する。

悪いが、こちとら前世で武偵をやっていたんでな。……そして武偵ってのは、諦めが悪いもの。たとえ、どんな事態になろうとも、武偵はその諦めのなさが故に、多くの事件を俺たちは解決してきたんだ。

だから、ここは一つ言わせてもらうぞ、十香。

だが、そのためには切り返し、もとい十香には開きなってもらうしか方法が無いのだが、

 

「十香。もし、俺に許してほしいと思っているのなら……明日の土曜、どうせ暇なんだろ? なら、俺と付き合え」

 

「なっ!? それはシドーと、デ、デート……なのか?」

 

「……? ああ、世間一般で言うならそれに近いのかもしれんが……まぁ、そうだ。待ち合わせは朝八時、俺の家にある玄関で、だ。お前には会わせたいヤツがいるからな……今回の件はそれでチャラにしてやるから、忘れんなよ」

 

「……ッ、う、うむ。それでシドーが許してくれるのなら……その、なんだ……わかったぞ」

 

と、こくこく、十香は訝し気ながらも頷いてくれた。

よし、半ば強引にだが『話題逸らし(スラッシュⅢ)』が効いたようだ。十香も何か言いたげな表情だったが、こういう時の不安はとにかく時間を空けて、なるべくそこから遠ざけるように距離を置いた方が、心に落ち着かせる余裕を生みやすいからな。

 

「それじゃあ、十香。家に……帰るぞ?」

 

「ぬ……ああ、そうだな。シドー」

 

そして、琴里からの連絡で転送準備が整ったことを聞き、俺と十香はそのまま<フラクシナス>へと戻るのであった。

 

 

 

 




どうも、赤須です!

今回の話は如何だったでしょうか?
ジーサードの戦闘シーンに関しては、人工天才ということもあり、どこまでが可能なのかと考慮した上で悩み、そして描写を書いてきました。
楽しんでもらえたのなら、作者としても嬉しい限りです。

それに、ここ一年間、キンジ君を主人公にした二次創作が増えてきたのが、何よりも嬉しいですね!

それでは感想・批評・誤字脱字などがありましたら、よろしくお願いします。


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