キンジ・ア・ライブ   作:赤須

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『精霊』
隣界に存在する特殊災害指定生命体。発生原因、存在理由ともに不明。
こちらの世界に現れる際、空間震を発生させ、周囲に甚大な被害を及ぼす。
また、その戦闘能力は強大。

『対処法1』
武力を以てこれを殲滅する。
ただし前述の通り、非常に高い戦闘能力を持つため、達成は困難。

『対処法2』
―――デートして、デレさせる。

『対処法3』
キンちゃんに任せる。


十香デットエンド
Ⅱ弾 目の前に少女


視界が真っ黒の中、俺は自身に覆う温もりにただ身を預け、

意識を手放していた。

 

 

 

いわゆる睡眠というヤツだ。

 

 

 

今こうして俺を覆う布団に包まれながら眠ることで、

体がゆったりと感じ、安らかになれるのだ。

 

 

 

……だというのに。

 

 

 

「~♪」

 

このリズム感のある小刻みな足のステップ。

キシキシと俺の眠るベッドが鳴り響く。

 

しかも、その足の踏みつける場所は一点に絞られており、

この時に生じる俺の感覚に痛いと思わせる。

それは何故だと思う? 

 

ああ、俺が寝ているからアリアが叩き起こそうとしているんだな。

 

だが、幾らなんでもアリアがこんなふざけた起こし方なんて想像できない。

ならば理子か? だが、起こすというより、乗っかって潜り込んでくるはずだ。

白雪やレキは全く持って論外だな。うん。

 

と、考えていたが、この世界にあいつらがいないことを思い出した。

そうだったな。俺、転生してきたんだっけ。

 

ということは……あいつかっ!

 

「~♪」

 

目を開けば1人の少女がコミカルに踊ってやがる。

少女―――五河琴里はトドメに一段と高く跳躍し(俺を台にして)……

 

「なっ!?」

 

飛翔した琴里はそのまま空中で構え―――ドスンッ

 

「がとぉ!?」

 

眠気によって動けずにいた俺は琴里によって痛恨の一撃を喰らってしまう。

し、しかも思わずパンチラ見ちまったじゃねえか……! 縞々って……

HSS持ちの俺にとっちゃあ、この痛恨よりも耐え難いぞ。

 

「あははは、がとーだって! 2号機だー!」

 

琴里は無邪気な微笑みに呆れた俺は再び布団にもぐりこむ。

さきほどパンツを見ちまったせいでHSSを抑えなくてはならないのだ。

 

「あー! こらぁ! なんでまた寝るんだー!」

 

そりゃ、お前のためだからだよっ!

HSSを発動させて襲われるのはお前なんだぞっ。

襲われても知らんからな!

 

「だーめ! ちゃんと起きるのー!」

 

布団腰の俺を揺さぶってくる。

 

「……こ、琴里」

 

俺は薄れたような低い声で琴里に話しかけた。

 

「ん、どうしたのだ、おにーちゃんよ!」

 

ヒステリアモードとなった場合、完全な制御はまだ俺には出来ていない以上、

義理の妹に、取り返しがつかないことになりかねない……!

 

仕方がない……こうなったら、やけくそだな。

 

「あ、あんまり、近づいてくると……お、俺はお前に襲わなくてはならない……のだ」

 

「え……それって、どういうことなの、おにーちゃん……」

 

「お前は知らないと思うが、俺にはある条件によって発症する病があってな。その発作によって俺は……女子を襲ってしまうんだ……それも幼児体型で、紅色の髪……ツインテールの女子によく反応する……恐ろしい病なん、だぁ」

 

「な、なんだってー!?」

 

別に間違ってはいない。HSSは性的興奮によって発動する遺伝性症候群だからな。

ま、琴里はHSSについて知らない分、これくらい言っても大丈夫だろう。

 

よくよく考えたら、何故俺は……アリアみたいなヤツに限ってヒステリアモードを発動させやすいのだろうか。ココとかなりかけたことがあるし……

 

俺はのらりくらりとベッドの上に立ち上がり、琴里を見下ろす。

 

「はや、く……逃げろ……こ、琴里……や、ヤツが……ヤツが来るぞ」

 

苦しむように装い、琴里に告げる。

 

「で、でもおにーちゃんはどうなるのだっ?」

 

「俺のことはいい! お前だけでも……!」

 

「そんなっ、おにーちゃん!?」

 

上体を前に、腕をぶら下げながら俺は下に向かって俯かせる。

ぐぐぐっ、ぐぐぐっ、と体を疼かせながら、一気に琴里の方に振り向いた。

その瞬間――――――

 

 

 

「――――――さぁ かれが きたぞ ……!」

 

「ギャ――――――――――――!!」

 

小夜鳴がブラドに変身する際に口にした言葉だ。

あの時はかなりきつかったな。ブラドの『ワラキアの魔笛』でヒステリアモードが解除されたり、296mのビルから落ちて死ぬかと思ったし、潜入時も大変だったぜ。ま、それも昔の話なんだがな。

 

俺の言葉に仰天した琴里はバッ―――と布団から飛び出て俺の部屋から悲鳴をあげつつ逃げていく。

 

「……はぁ、疲れた」

 

演技にしては上的だとは思うが、つ、疲れるな。

げんなりとした表情に帰る俺は再び溜息をついてチラ、と時計の方を見る。

あー……まだ6時前じゃねえか。

琴里め、なんつー時間に起こしやがる。

 

と思っていた俺は、ふとあることを思い出す。

 

(そういや……両親は外国に出張しちまったから料理は俺担当になったんだっけ……それで琴里に頼んだの忘れてたな)

 

琴里には済まない事をしたなと悪気を感じ、

俺は後頭部を掻きながら『はぁ』と再び溜息をつく。

 

2階の部屋から俺は階段を下ってリビングの方へと向かった。

 

「……」

 

あー……やっぱりか。

俺はリビングの光景を見てそう判断する。

いつも置いてある木製テーブルがバリケードみたいに造られており、

その物陰に隠れている琴里は、はみ出ているツインテールごと震えていた。

俺は探偵科で習う忍び足で歩きながら琴里の傍に向かう。

 

「……」

 

無言でテーブルから首を出して覗いてみると、

予想通り琴里がそこで体育座りで覚えているのを目にした。

あまりイジメても可哀想だったので、俺は琴里に話しかけようと口を開く。

 

「―――おい」

 

「ギャ―――! ギャ――――――!!」

 

「……!」

 

あまりにも高い音程の叫びに、俺は忽ち耳を塞ぐが、

至近距離からの絶叫だったため、響いてしょうがない。

 

「おいっ、落ち着けって! 俺だ。五河士道だ!」

 

ぎゃーぎゃーとアリアのように叫ぶ琴里は、

次第に鎮まってくる。

 

「ぎゃー……あ? お、おにーちゃん?」

 

「そうだ。お前の言うおにーちゃんだ」

 

それだけ言うと、琴里はホッと安堵し、

無警戒な笑顔へと変えていく。

 

単純だな……琴里、将来が心配だぞ。

 

と考えている内に、先程の悪戯を俺は思いだし、

琴里の方に視線を向けた。

 

「その、だな……さっきの事……悪かったな」

 

「おにーちゃん……!」

 

後頭部に手を置きながら謝ると、琴里はそれをどう受け取ったのか知らないが、

感動直面に帰したような表情をしている。

 

一段落終えた俺はテーブルを元の位置に戻し、キッチンの方へと向かう。

両親がいない今、俺が料理をすることになっているのだ。

おかげで前世とは比べ物にならないくらい上手くなったものだぜ。

 

白雪や萌には劣るかもしれないが、少なくともアリアや理子には勝てると自負している。

 

琴里はそんな考えをしている俺とは違い、

テレビの電源を付けてチャンネルをニュースに変えた。

 

『―――今日未明、天宮市近郊の―――』

 

「またか……」

 

俺は今のアナウンサーの声に眉を顰める。

理由としては、天宮市というのは俺たちが住む街に近いからだ。

そして何よりもこの場合―――『空間震』が起きたと考えていいだろう。

原因・発祥・時期・規模全てが不明につながる現象にして災害。

それらを纏めて広域震動現象と呼ばれている。

 

中でもユーラシア・中国・モンゴルなどの一帯がその被害に晒され、

死傷数も1億を超えており、5年前にも天宮市を一角に多々起きていたのだ。

特に日本が多いのは分からないが、どの国よりも多く、発生しているらしい。

これは俺が転生する前からずっと続いているそうだ。それも今から30年も前から……

 

ま、人間様もただ黙って見ているわけじゃなかった。

復興に加えて新たに地下シェルターの普及率が格段と上がっている。

俺から考えれば小さな規模なら防げるかもしれないが、

ユーラシアに大穴を空けた空間震が来たら、溜まったもんじゃねえな。

 

「しばらくは安定していたのにな。最近増えてねーか? しかもここ周辺にさ」

 

家族との会話にと俺は思い、話しかけるが、

琴里はそれを無関心のように呟いた。

 

「んー……そうだね。……―――ちょっと予定より早いかなー」

 

「……?」

 

小さく言葉にした琴里だが、俺は見逃さなかった。

探偵科(インケスタ)の読唇術とかじゃなく、武偵として些細なことを見逃さない。

そして、耳にしたそれは……『予定より早い』だ。

だが、そんな気になる単語に俺は途中で即断念する。

 

理由は琴里が朝飯前にチュッパチャプスという飴を加えていることに俺は気になった。

 

「……はぁ」

 

溜息をしながらカウンターを回り、ソファに腰を預けていた琴里に迫った。

琴里も俺が近づいていることに気付き、俺の接近ごとに琴里は背後に逃げる。

……やっぱりな。

 

「おい、琴里。その加えているモノは何だ」

 

「なっ、なんでバレたのだ!?」

 

「んなもん、そこの窓の反射でお前の頬に片方だけ膨らんでて口元から棒が出ているのが見えるんだ。そこから推理すりゃあチュッパチャプスを食べてるってすぐに分かるだろ」

 

琴里の座るソファの近くに窓があり、俺は指を指しながらキッチンの所から窓へ、窓から琴里へ、となぞりながら教えると、琴里は目を広げながら驚いた。

 

「お、おにーちゃんはいつ探偵になったのだっ?」

 

前世からです。と言っても信じてくれないだろうな。

ま、探偵じゃなくて武装探偵……通称『武偵(DA)』と言った方が正しい。

犯罪が増えていく中で、それに対抗する武装を許可された何でも屋みたいな奴らの事を言う。俺もその1人だった。

……今更そんなことを考えてもしょうがないか。

 

「そんなことよりも朝から飴玉なんか食べるなよ。行儀が悪いぞ」

 

チュッパチャプスを咥えている琴里に俺はその口から出ている棒を掴み、

引っ張り上げるが、逆に抵抗してくる。

その表情が、何とも言えぬ可愛らしさがあり、俺はドクンッと体の芯が熱くなる。

うっ、琴里め……卑怯だぜ。その愛くるしさにはよ……

 

俺は琴里の咥えている棒を放し、後頭部を掻きながらキッチンに戻る。

 

「はぁ……ちゃんと朝ご飯を食えよ」

 

「おおー、愛しているぞ♪ おにーちゃん!」

 

「あ、あぁ」

 

か、可愛い……と思うのは何回目なのだろうか。

アリアに似ているから、と言いたいが、彼女にはまた違う魅力がある。

だが、ここは耐えなくてはならない。

妹に手を出したら風穴モノだからな……。

 

「そういや、琴里が行く学校も始業式なんだっけか?」

 

「そうだよー」

 

「てことは……昼前には帰れるのか。琴里、昼は何がいいんだ?」

 

「デラックスキッズプレート~♪」

 

「いや、俺のレパートリーには入ってないんだが……」

 

そもそも中学校でそれってのも考えもんだよな。

琴里にはそろそろお子様ランチを卒業させてあげたいものだぜ。

兄としてそう思う元遠山キンジであった。

 

 

 

 

 

俺と琴里は学校近くのファミレス前に到着すると、

別れに俺は尋ねてみた。

 

「ホントにお子様ランチでいいのかよ」

 

結局お子様ランチにせざるを得なかった俺は、

自分では作れないのでファミレスで食べることになった。

 

「デラックスキッズプレート~♪」

 

どうやら俺の質問は琴里の耳には届いておらず、

その様子から溜息しか残らなかった。

妹に甘いと言うべきなのだろうか、俺の場合ジーサードやかなめと似ていて兄弟には甘かったり、尊敬したりするかもしれない。

実際に兄さんを崇拝していたからな。

 

「それじゃあ、学校を終わったらここに集合だ。いいな?」

 

「おー! おにーちゃんも絶対だぞ! 絶対約束だぞ! 地震が起きても火事が起きても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!」

 

「いやいやっ、占拠されてちゃ食えねえだろっ」

 

まあ、武偵としてテロリストぐらいなら何とかなると思うが、

流石に地震とか火事、空間震は無理だろ……

 

頑なに考えてもしょうがないので、俺は苦笑いしながら了承する。

琴里も嬉しそうに手を上げた。

 

やっぱり兄弟には甘いな、俺……

 

 

 

 

 

琴里と別れ、俺が通う学校は来禅高校と呼ばれる30年前の空間震が起こった後、東京都南部から神奈川県、ようは空間震で消滅させられた街を復興と共に最新技術を取り入れたテスト都市として開発が進行したらしい。

その来禅高校もその1つで、都立の高校にしては設備が凄まじく、数年前から創立したばっかりのため建物が新しく感じられる。

 

俺は廊下に張り出されている掲示板を見て、自分がどこのクラスか確認する。

 

「……二年……四組か」

 

ここの学校は旧被災地なだけに地下シェルターも真新しいモノだと……

それが理由で入試倍率が高いわけでも低くわけでもなく、前世にいた武偵高の偏差値45の俺でも普通に入れるぐらいだ。

入試時には数学と英語は普通にできたな。これは池袋高校やオランダで覚えた英語などの影響だな。

おかげで成績順としては高い方だぞ。

 

まあ、それは入試時の話だったがな。今も成績を保っているわけだし、

運動に関しても普段の鍛錬のおかげで単位が取れてる。

 

「……とは思ってみたものの」

 

新しいクラスの教室に入り、番号順に座るなり辺りを見渡すが、

すでにクラスメートが多く登校してきている。

打ち解けあっている者もいれば、1年の時から同じクラスの者同士で話しているのが見えた。

 

だがまあ、非社交的な俺だ。この何年か過ごしていて特に親しいという者がいない。

1人を除けばな……

 

「―――五河士道」

 

「……ん?」

 

唐突に話しかけられ、俺はその声に方向へ視線を向けると……

雪のような銀髪のショートに、蒼く、無垢な瞳の少女が俺の隣から話しかけてきたのだ。

雰囲気からして、昔のレキのような無表情、無感情っぽく感じられる。

 

「俺に何か用か……? というか、なぜ俺の名前を知っている」

 

「……覚えていないの?」

 

人形のような表情の少女は首を傾げながら尋ねてくる。

 

「いや、覚えてるも何もお前とは初対面なんだが……」

 

「そう」

 

少女はそれだけ言うと、席に座って机の中から辞書らしきモノを取り出して読書を始めた。

俺は先の言葉に疑問を持ちながら眉を顰める。

 

その瞬間―――俺に背後から近づく何かの危機を感じた。

 

「とうっ!」

 

ひょいっ、とそれを躱すと、人影らしき人物がすってんてんと転びだした。

そう、こいつこそが1人を除いての1人だ。どうやら俺に平手打ちをしたかったらしい。

 

俺は呆れながら嘆息し、椅子の足元で倒れている人物に話しかける。

 

「おーい、大丈夫か? 殿町」

 

そう聞いてみると、殿町と呼ばれる男はむくっと起き上がった。

ある意味では丈夫な身体だよな、こいつは……

 

この男は殿町宏人。前世で言う武藤みたいなヤツだ。

女好きで出会いがしらナンパをしそうな男なんだが……

どうやらこの世界でも武藤みたいなヤツが存在するらしい。

 

「流石はセクシャルビースト五河。背後からの気配を察知し、俺の裁きの鉄槌(平手打ち)を躱すとは……! ふっ、元気そうだな」

 

「どこのゴルゴだよ……。で、セク……何だって?」

 

げんなりとしながら呟く俺に、殿町はニヤニヤとしながら口を開く。

 

「セクシャルビーストだ、この淫獣め。ちょっと見ないうちに色気づきやがって。いつから鳶一と仲良くなったんだ? ええ」

 

「はっ? 何言ってんだよ。ていうか、鳶一って誰だよ」

 

「とぼけんなって、さっき鳶一と仲良くおしゃべりしてたじゃねえか」

 

そう言いながら殿町は指を顎にあてながら、

さきほど俺に話しかけてきた少女の方へ指した。

 

俺が視線をそちらに移すと、さっきの少女はそれに気づいて本を閉じて俺の方へと向く。

 

「……!」

 

特に見つめていても少女はレキみたいにデレたりしないから余計に気まずくなっちまったじゃねえか!

 

一方、殿町は爽やかな笑みをしながら手を振っているし……

 

「……」

 

だが、少女は興味に感じなかったのか、

再び本へと視線を向けた。

 

「ほら見ろ、あの調子だ。うちの女子の中でも最高難度、永久凍土とか米ソ冷戦とかマヒャデドスとまで呼ばれてんだぞ。お前は一体どんな手段を使って取入ったんだ~?」

 

「知るかっ、ホントに誰なんだよ」

 

俺がそう応えると、殿町は心底驚いたような表情をする。

 

「いや、おまえホントに知らないのかよ」

 

基本的に俺は女子に近づきたくないんだよな。

ヒステリアモードにならないためにも……

 

それを知らない殿町は欧米風でヤレヤレと動作をした。

 

「鳶一、鳶一折紙。ウチの高校が誇る超天才。聞いたことないのか?」

 

「初めて聞くぞ。それ……」

 

「まあ、親友のお前に特別に教えてやろう。成績は常に学年主席、この前の模試に至っちゃ全国トップとかいう頭のおかしい数字だ。クラス順位は確実に一個下がることを覚悟しな」

 

「それほど頭良いなら、何もこの学校じゃなくても他の高校とかあるだろ」

 

「さぁ、俺もそこまでは知らないが家の都合とかじゃねえの?」

 

そこまで言われると、改めて隣にいる鳶一折紙がどれだけ凄いのか、

いまさらながらも驚く。

 

いるんだな、アリアや白雪、ジーサードみたいな頭のいい奴が……。

 

「しかも驚くのはまだ早いぜ。体育の成績なんかダントツの1位だし、次いでに美人ときやがる。去年の『恋人にしたい女子ランキング・ベスト13』なんかベスト3だぜ? 見ていなかったのか?」

 

「……やっていたことすら知らなかったんだがな。つーか、何でベスト13なんだよ。微妙な数字じゃねえか」

 

「主催者の女子が13位だったんだよ」

 

それだけ聞くと、俺は納得する。

どうやら女子が自らやったんだな。

てっきり男子が決めたかと思ったぜ。

 

「ちなみに『恋人にしたい男子ランキング』はベスト358まで発表されたぞ」

 

「はぁ!? なんつー人数だよっ。それも主催者決定なのか?」

 

「ああ。まったく往生際が悪いよな」

 

そこまで聞くと、逆に気になるな。

取りあえず殿町の順位を聞いてみるか……

 

「殿町は何位だったんだ?」

 

「358位だが」

 

「主催はお前かよっ!?」

 

「選ばれた理由は、『愛が重そう』『毛深そう』『足の親指の爪の間が臭そう』でした」

 

「明らかにワーストランキングだよな。おい」

 

「まあぶっちゃけ、下位ランクには1票も入らない奴らばっかりだからな。マイナスポイントの少なさで勝負だ」

 

どんな勝負だよ……そんなことを知って良い事ねえだろ。

 

「あ、それとおまえは匿名希望さんから1票入ったから52位だ」

 

「それをどうツッコめばいいんだ」

 

ということは、53位以降は0票なのか?

ある意味では虚しいな、それ……

 

まあ、人間やめましたランキングよりはマシか……

 

「他の理由は『女の子どころか人に興味なさそう』『昼行燈』『女嫌い』だったかな」

 

うわー、この世界まで来て昼行燈とか女嫌いとか言われるのか。

俺に1票入れた奴は相当変わった奴なんだろうな。

 

「……」

 

「ま、まあそんな悲観するなよ。他にも『腐女子が選んだ校内ベストカップル』では、俺とおまえのセットでベスト2にランクインしているぞ」

 

「何だよそれっ! ちっとも嬉しくねえよ!!」

 

果たして1位のカップルはどんな奴らなんだ。

と、気になった俺だが、殿町の様子からして何か大人の階段を上り切ったような顔をしているぞ。

 

呆れ果てた俺は溜息を吐きながら席に座り込むと、聞き慣れた予鈴が鳴り響いた。

ガラガラと教室の扉が開かれ、1人の女性が教卓へと歩く姿が見られる。

 

「タマちゃんだ……」

 

「ああ、タマちゃんだ」

 

「マジで、やったー」

 

この教師は岡峰珠恵。通称タマちゃんとみんなに親しまれており、前世で言う高天原先生のような人物だ。

メガネを掛けなおし、珠恵はのほほんとした表情で笑顔を送る。

 

だが、その時に何者かの視線が俺の方に向いているような気がする……

その本能に従って俺は振り向くと、学年主席こと鳶一折紙さんではありませんか。

 

「……」

 

じーっ、と俺の方を見つめてくる。

ホント何なんだよ。と、心の中でそう思うのであった。

 

 

 

 

 

あれから三時間後……

 

「五河ー、どうせ暇なんだろ、飯いかねー?」

 

長い始業式に加え、お決まりの校長先生の長話が終え、

帰りの支度をしていた俺に殿町が昼飯の誘いに話しかけてきた。

 

「いや、俺はこれから妹とファミレスに行くことになっているんだ」

 

「なんだよ、妹か」

 

殿町は肩を竦めて一息つく。

 

「お前は何を想像していたんだよ」

 

「まあ、そんなことより俺も一緒に行っていいか?」

 

おい、俺の質問をそんなことで置いとくなよ。

 

「ん、別にいいぜ」

 

俺がそう答えると、殿町は俺の肩に肘を載せ、耳元で囁いてきた。

 

「なあなあ、琴里ちゃんって中二だよな。もう彼氏とかいんの?」

 

「は?」

 

「いや、別に他意はねえんだが、琴里ちゃん、三つくらい年上の男ってどうなのかなと」

 

「他意も何も下心が見え見えじゃねえかっ、やっぱお前来るな!」

 

「そんな、お義兄様(にいさま)!」

 

「お義兄様とか呼ぶな! 気色悪いぞ!」

 

武偵で鍛え上げられた眼力で睨み付けると、

殿町はおー怖い怖いと肩をすくめる。

 

「はは、冗談だって」

 

「お前の言葉からは冗談に聞こえないぞ」

 

そう言うと、殿町は俺の肩から離れてどぅどぅと馬の躾をするような手つきで宥めようとする。

 

「まあまあ、落ち着けって。俺も兄弟団欒につっつくほど野暮じゃねえよ。都条例に引っかかんねえ程度に仲良くしてきな」

 

「たくっ、一言余計だ。俺はそんなことしねえよ」

 

呆れ顔で嘆息し、横目で殿町を見ると何か驚いたような顔をしているな。

 

「いやいや、琴里ちゃん超可愛いじゃねえか。あんな子と一つ屋根の下とか最高だろ」

 

いったい……殿町は何を言っているんだ。

その最高というのも、どこまでが最高なのか今一分からん。

 

それに妹となるとかなめを思い出すな。

あれは……うん、可愛いが恐ろしい娘だ。ある意味で……

 

「実際に妹を持つようになればお前のその可愛いというのが間違いなく変わるぞ」

 

「あー……それはよくいるな。妹持ちに妹萌えはいないとか。やっぱホントなのか?」

 

「ホントと言うか、恋愛対象にならん。法律的にな」

 

俺は鞄を背に回し、帰ろうとすると――――――

 

 

 

ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――――!!

 

 

 

『……ッ!?』

 

教室から高鳴るサイレンにクラスのみんながピリピリしていく。

『な……なんだ?』と殿町が窓を開けて顔を覗かせているが……

 

『―――これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予想されます。近隣住民の皆さんは、速やかに、最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します―――』

 

……空間震警報か。

静かに聞いていた生徒たちは、全員が驚いていた。

 

「おいおい……マジかよ」

 

「そのようだな」

 

殿町の言葉に俺は同意する。

この状況で誰もが慌てたり、気が動転するような生徒がいないところからホッとする。

落ち着いている理由はおそらく30年前から受けている空間震の避難訓練は俺たちが幼稚園のころからずっと訓練してきたのだからな。

それに、市民が入り切れるほどの規模をもった地下シェルターがあるんだから、慌てる必要が無いのだ。

 

「シェルターに避難しよう。落ち着いていけば問題ないだろ」

 

「お、おう、そうだな」

 

俺がそう言うと、殿町は汗を滲ませながら頷いた。

走らず歩かずの速度で教室から出て、シェルターに目指して列を作って移動する。

 

だが、1人だけ列の逆方向に移動する人物がいた。

それも女子……

 

「おいっ、どこへ行くんだ!」

 

と叫ぶが、走る人物と言うより少女は振り向かず、駆け抜けていた。

しかもその少女と言うのは俺の隣の……鳶一折紙?

 

「と、鳶一! そっちにシェルターはないぞっ」

 

「大丈夫」

 

何が大丈夫だよ。空間震が起きてから遅いんだぞ……!

折紙はそれだけ言って走っていくが、俺は黙っていなかった。

 

空間震は発令してからでもすぐに発生するわけじゃない。

だが、あの娘は女子だ。見過ごすわけにはいかない。

 

俺は舌打ちをしながら人ごみに紛れながら追いかけようとするが、

 

(い、いない……?)

 

廊下の曲がり角のところで折紙の姿が見えなくなった。

しかも俺が追いかけた先には足跡が無い。

き、消えたのか……!? いったいどうやって……!

 

「おい、五河! 何してんだ!」

 

「あ、ああ……悪い」

 

殿町に呼ばれ、俺は仕方がないと断念する。

まあ、すぐに戻ってくるか……

 

「お、落ち着いてくださぁーい! だ、大丈夫ですから、ゆっくりぃー! おかしですよ、おーかーしー! おさない・かけない・しゃれこうべーっ!」

 

そこに生徒を先導する珠恵の声がした。

生徒たちはそんな先生の姿を見て笑っている。

 

「……自分より焦ってる人見るとなぜか落ち着くよな」

 

「んー、まあ、分からんでもないが……」

 

これが前世だったらたぶん―――

 

蘭豹『おらおら! 黙って移動しろや! どたまぶち抜くぞぉ!』

とか、

綴『あー、速く移動してくれないかなぁ』

とか、

高天原『み、皆さん、お、落ち着いて移動しましょうね……』

と言うだろうな。

いやー武偵高ってホント荒くれ変人が多いもんだ。

 

そう思っていた俺はあることを思い出し、懐のケータイを取り出した。

 

「ん、どうしたよ五河」

 

「ああ、気にするな」

 

殿町の言葉を流しながら、俺は琴里の電話番号を引っ張り出した。

だが繋がらないようだ。でもまあ、大丈夫だろう。

 

しかし、中学も早い時間帯で終わることを思い直し、

もしかしたらと携帯電話のGPSを使って位置を確認した。

 

アイコンは表示画面からはファミレスの位置を指していた。

 

(なっ!? あいつ……)

 

俺は急いで列から飛び出し、逆方向へと向かった。

 

「お、おいッ、どこいくんだ五河!」

 

「すまん、忘れ物だ! すぐに戻ってくる!」

 

殿町を後にして俺は昇降口に到着し、

靴を履いて校門から外へ、ファミレスを目指す。

 

(たくっ、琴里め……何で避難しねえんだよ)

 

急いで琴里の元へ向かおうと鍛え上げられた足で最速で動かした。

空間震警報が鳴ったおかげで人がいない。

ゴーストタウンみたいな雰囲気に俺は不気味に思うが、

今はそれどころじゃない。

 

「くそっ」

 

俺は舌打ちしながら地を蹴り、アスファルトの道を走る。

もう一度携帯電話を確かめるが、ファミレスの位置から一向に変わってない。

琴里にはお尻ぺんぺんの刑に処すことに決め、俺は駆け抜けた。

 

「……? なんだ、あれは……」

 

走りながら俺は上空に視線を向けた。

視界には何かが蠢いているのがいるな。

 

しかもそれが人影なのだから可笑しいと思うのは致し方が無いだろう。

俺は目を細めながらその人影に凝視した。

 

(あ、あれは先端科学兵器(ノイエ・エンジェ)なのか……!)

 

いや、考えてみればあれは違う。磁気推進繊盾(P・ファイバー)のように感じるが、

あれ以上に飛行が優れているように見える。

 

そこに―――

 

「んなっ!?」

 

突如視界を覆う光が俺を包み込んだのだ。

さらに耳に衝動的な轟音と、突風が襲って来た。

 

「うっ……ああ!?」

 

両腕を盾に顔を覆わせ、足腰に力を入れるが意味が無かった。

かつて見たことの無いような破壊力の風圧に俺は抗えず、後ろに倒れ込む。

 

「ぐっ、何なんだ」

 

閃光弾(フラッシュ)を喰らったかのような感覚に俺は上体を起こして辺りを見渡す。

 

「……これ、は―――!?」

 

俺は絶句した。目の前がまるで無かったかのような光景。

まるで抉られたかのように抜き取られた地面。

一瞬、隕石でも降ってきたのかと思ったが、それだったら俺は死んでいるはずだ。

 

「……?」

 

クレーターのように広がった地面の中心に黄金のように光る玉座らしきものが見えた。

アンベリール号でパトラが座っていた玉座とも比べ物にならないほど。

 

「お、女の子……?」

 

遠くからだから見えづらいが、玉座に少女が立っていた。

コスプレかと思いたいが、この状況からしてそれはないだろう。

 

ジャンヌのように鎧のドレスを装い、

夜に覆われる星空のように輝かしき姿が俺の方に顔を向けた。

 

「……!」

 

すると、少女は玉座の背凭れの頭に伸びた柄らしきものがあり、

それを握って引き抜く。ゆっくりと……

 

……!

 

広大で、巨大な―――煌めく刀身をした剣を顕現させた。

遠くからでもわかる。そして本能からあれは危険だと……!

 

そして―――

 

少女は剣を振るった。横に雑草を狩るが如く薙いだ……ッ

 

建物と言う建物が同じ高さに斬り削がれ、崩壊の音が次々と起こってくる。

あ、危なかったッ、本能的に頭を下げてて良かったぜ……!

 

でなければ―――死んでいたからな。

 

崩壊の音が鎮まり、シーンとなった今、逃げる時だ。

だが―――

 

「……なっ!?」

 

俺が一回瞼を閉じ、開くと少女は俺の目の前にいた。

そのどでかい剣を持ってだ。

 

み、見えなかった。移動するという動作すら見えなかった。

人間の動きじゃない……!

 

俺の手と足、それが硬直して動けない。

マバタキすらも忘れてしまう。

 

「はっ!」

 

この刹那に言葉を失いかけ、我を取り戻すと俺は少女の存在に呆気を取られる。

 

俺は黙っていると、少女の方から口を開いた。

その第一声が―――

 

 

 

「―――おまえも……か」

 

 

 

 

 

 




何週間も更新遅れてしまい申し訳ありません<(_ _)>
現実の方で忙しく生活を送っていまして……えへへ。

それから初めてです……1万文字超えたの……!
次いでにお気に入り数も27と前回より格段と増えたことに自分は驚きました。
とてもありがたいです! 感謝です!

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